説明

シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの製造方法。

【課題】反応液への金属の溶出を良好に抑制し、シクロアルカンからシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを良好な選択率を維持して製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】固体触媒の存在下に、シクロアルカンを酸素で酸化して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法であって、前記固体触媒が、塩基性水溶液中でメソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させることにより得られる金属担持メソポーラスシリカであることを特徴とするシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロアルカンを酸素で酸化して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体触媒の存在下、シクロアルカンを酸素で酸化して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法として、例えば、特開2008−260746号公報(特許文献1)には、周期表5族〜10族から選ばれる少なくとも1種の金属、水及びケイ素化合物を混合した後、水熱合成反応を行うことにより得られる金属含有メソポーラスシリカを固体触媒として使用する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−260746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、前記酸化反応を継続すると固体触媒中の金属が反応液に溶出し、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの選択率が低下してしまうがあった。そこで、本発明の目的は、前記反応液への金属の溶出を良好に抑制し、シクロアルカンからシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを、良好な選択率を維持して製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、前記酸化反応を行うにあたり、予め調製したメソポーラスシリカに塩基性水溶液中で少なくとも1種の遷移金属を担持させて得られる金属担持メソポーラスシリカを固体触媒として使用することにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、固体触媒の存在下に、シクロアルカンを酸素で酸化して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法であって、前記固体触媒が、塩基性水溶液中でメソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させることにより得られる金属担持メソポーラスシリカであることを特徴とするシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シクロアルカンを酸素で酸化して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造するにあたり、反応液への前記遷移金属の溶出を良好に抑制し、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを、良好な選択率を維持して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明ではシクロアルカンを原料に用い、これを所定のメソポーラスシリカの存在下に酸素(分子状酸素)で酸化して、対応するシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する。
【0009】
原料のシクロアルカンとしては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロオクタデカンのような、単環式で環上に置換基を有しないシクロアルカンの他、デカリンやアダマンタンのような多環式のシクロアルカン、メチルシクロペンタンやメチルシクロヘキサンのような環上に置換基を有するシクロアルカン等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0010】
酸素源には通常、酸素含有ガスが用いられる。この酸素含有ガスは、例えば、空気であってもよいし、純酸素であってもよいし、空気又は純酸素を、窒素、アルゴン、ヘリウムのような不活性ガスで希釈したものであってもよい。また、空気に純酸素を添加した酸素富化空気を使用することもできる。
【0011】
本発明では、塩基性水溶液中、メソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させることにより得られる金属担持メソポーラスシリカを固体触媒として使用し、該触媒の存在下、前記酸化反応を行う。このように、予め調製したメソポーラスシリカに、塩基性水溶液中で前記遷移金属を担持させることにより、前記遷移金属が良好にメソポーラスシリカに担持され、得られる金属担持メソポーラスシリカを前記酸化反応に使用しても、該反応液への金属の溶出は良好に抑制される。
【0012】
メソポーラスシリカとしては、通常2〜50nmのほぼ均一な大きさの細孔を有する、所謂メソポーラス構造を有するものであることができ、その表面積は通常600〜1500m/g程度である。かかるメソポーラスシリカの種類として、例えば、MCM−41型、MCM−48型、FSM−16型、SBA−3型、HMS型、MSU−X型、SBS−12型、SBA−15型、SBA−16型等が挙げられる。これらの中でも、シクロアルカンの転化率やシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの選択率の点、並びに反応液への前記遷移金属の溶出を抑制する点から、SBA−15型が好ましい。尚、メソポーラス構造の有無は、透過型電子顕微鏡による観察や、窒素吸着測定における細孔分布、またはXRD(X線回折)測定における2θ=0.2〜4.0°のピークの有無等の分析で確認することができる。
【0013】
前記メソポーラスシリカは、従来公知の方法、例えば、ケイ素化合物、所定の構造規定剤及び水を含む混合物を水熱合成反応に付して生じた結晶(メソポーラス構造を有するシリカ)から構造規定剤を除去する方法により得ることができる。メソポーラスシリカの細孔構造は、前記水熱合成反応に使用するケイ素源や構造規定剤の種類及び量等により制御することができる。例えば、MCM−41型やMCM−48型のメソポーラスシリカを調製する際には、ネイチャー(Nature)、(米国)、1992年、第359巻、p.710−712や、ミクロポーラス・アンド・メソポーラス・マテリアルズ(Microporous and Mesoporous Materials)、(オランダ)、2007年、第104巻、p.10−17等に記載されているように、構造規定剤としてヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの如き四級アンモニウム塩が所定濃度で使用され、FSM−16型のメソポーラスシリカを調製するには、ビュレティン・オブ・ザ・ケミカル・ソサイエティー・オブ・ジャパン(Bulletin of the Chemical Society of Japan)、(日本)、1996年、第69巻、p.1449−1457に記載されているように、原料として層状ケイ素化合物が、構造規定剤としてヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドの如き四級アンモニウム塩が、それぞれ使用され、SBA−3型のメソポーラスシリカを調製する際には、キャタリシス・コミュニケーションズ(Catalysis Communications)、(オランダ)、2008年、第9巻、第13号、p.2287−2290に記載されているように、構造規定剤としてジェミニ界面活性剤〔C2n+1(CH(CH(CH2m+1 。式中、n、S、mは整数を表す。〕が使用され、HMS型のメソポーラスシリカを調製する際には、アプライド・キャタリシス・A:ジェネラル(Applied Catalysis A: General)、(オランダ)、2008年、第347巻、p.133−141に記載されているように、構造規定剤として長鎖アルキルアミン〔C2n+1NH 。式中、nは整数を表す。〕が使用され、MSU−X型のメソポーラスシリカを調製する際には、ミクロポーラス・アンド・メソポーラス・マテリアルズ(Microporous and Mesoporous Materials)、(オランダ)、2008年、第109巻、p.199−209に記載されているように、構造規定剤としてオレイル デカオキシエチレン(Oleyl decaoxyethylene)が使用され、SBA−12型のメソポーラスシリカを調製する際には、ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー・B(Journal of Physical Chemistry B)、(米国)アメリカ、2002年、第106巻、p.3118−3123に記載されているように、構造規定剤としてポリエチレンオキシドが使用され、SBA−15型のメソポーラスシリカを調製する際には、サイエンス(Science)、(米国)、第279巻、p.548−552や、ミクロポーラス・アンド・メソポーラス・マテリアルズ(Microporous and Mesoporous Materials)、(オランダ)、2006年、第91巻、p.156に記載されているように、構造規定剤としてトリブロックコポリマー(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド共重合体)が使用され、SBA−16型のメソポーラスシリカを調製する際には、ミクロポーラス・アンド・メソポーラス・マテリアルズ(Microporous and Mesoporous Materials)、(オランダ)、2007年、第105巻、p.15−23に記載されているように、構造規定剤としてトリブロックコポリマー(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド共重合体)が使用される。
【0014】
上述した構造規定剤において、中でも、ポリエチレンオキシドやトリブロックコポリマー(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシド共重合体)のようなポリアルキレンオキシドが好ましい。ここでいうポリアルキレンオキシドの分子量は通常500〜15000程度である。また、上述したトリブロックコポリマーの重合体単位は、重量比でポリエチレンオキシド:ポリプロピレンオキシド:ポリエチレンオキシド=5:70:5〜110:70:110程度である。
【0015】
構造規定剤の使用量は、ケイ素化合物1重量部に対し、通常0.1〜1.0重量部、好ましくは0.2〜0.5重量部である。水の使用量は、テトラアルコキシシラン1重量部に対し、通常5〜30重量部、好ましくは10〜15重量部である。また、必要に応じて、塩酸(塩化水素の水溶液)や硫酸などの酸類や、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基類を前記混合物に加えて水熱合成反応を行ってもよい。
【0016】
ケイ素化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランのようなテトラアルコキシシラン等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、テトラエトキシシランが好ましい。
【0017】
水熱合成反応の反応温度は、通常20〜200℃、好ましくは20〜150℃である。また、反応時間は、通常0.1〜400時間、好ましくは1〜200時間である。
【0018】
前記水熱合成により得られた反応混合物をろ過し、得られた結晶から構造規定剤を除去することによりメソポーラスシリカを調製することができる。構造規定剤を除去する方法としては、例えば、前記結晶を500〜600℃で焼成する方法や、酸性又はアルカリ性の水溶液及び/又は有機溶媒中で抽出する方法が挙げられる。中でも、焼成する方法が好ましい。
【0019】
尚、本発明では、塩基性水溶液中、メソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させることを必須とするが、水熱合成の際に後述する遷移金属を含む原料化合物を添加してもよい。
【0020】
本発明では、塩基性水溶液中、メソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させる。このように、構造規定剤を除去し、細孔を有するメソポーラスシリカを予め調製しておき、次いで、塩基性水溶液中で、該メソポーラスシリカに前記遷移金属を担持させることにより、良好に遷移金属を担持させることが可能となる。ここでいう塩基性水溶液とは、塩基性化合物が水に溶解してなる水溶液であることができる。塩基性化合物としては、例えば、アンモニアに加え、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムのようなアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムのようなアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムのようなアルカリ金属重炭酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムのようなアルカリ金属酢酸塩、リン酸ナトリウムのようなアルカリ金属リン酸塩等の無機塩基、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシドのようなアルカリ金属アルコキシド、ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基を挙げることができる。また、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、アンモニアや有機塩基が好ましく。アンモニアがより好ましい。
【0021】
上記塩基性水溶液中の塩基性物質の濃度は、モル濃度で表して、通常0.001〜30mol/L、好ましくは0.01〜20mol/L、さらに好ましくは0.1〜10mol/Lである。
【0022】
上記塩基性水溶液中には、必要に応じて、アンモニウム塩を含有させてもよい。このアンモニウム塩としては、例えば、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等が挙げられ、中でも硝酸アンモニウムが好ましい。上記塩基性水溶液中にアンモニウム塩を含有させる場合、その含有量は、上記塩基性化合物1モルに対して、通常0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.1モルである。
【0023】
メソポーラスシリカに担持される金属は遷移金属であり、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ルテニウム、パラジウムが好ましい。中でもコバルトがより好ましい。これら金属は、必要に応じて2種類以上を使用してもよい。金属の含有率は、メソポーラスシリカに対する重量比で表して、通常0.01〜20%であり、好ましくは0.05〜10%であり、さらに好ましくは0.1〜5%である。
【0024】
上記遷移金属の原料としては、例えば、臭化バナジウム、塩化バナジウム、フッ化バナジウム、ナフテン酸バナジウムのようなバナジウム化合物、塩化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、ナフテン酸クロムのようなクロム化合物、臭化マンガン、塩化マンガン、フッ化マンガン、硝酸マンガン、硫酸アンモニウムマンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン、ナフテン酸マンガンのようなマンガン化合物、臭化鉄、塩化鉄、フッ化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄、酢酸鉄、ナフテン酸鉄のような鉄化合物、臭化コバルト、塩化コバルト、フッ化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、水酸化コバルトのようなコバルト化合物、臭化ルテニウム、塩化ルテニウムのようなルテニウム化合物、臭化パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、水酸化パラジウムのようなパラジウム化合物を用いることができ、中でも、コバルト化合物が好ましい。
【0025】
塩基性水溶液中でメソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させる方法としては、例えば、遷移金属の原料を含む塩基性水溶液にメソポーラスシリカを浸漬する方法や、遷移金属の原料を含む塩基性水溶液をメソポーラスシリカに含浸させる方法等が挙げられる。また、担持させる際の温度は、通常0〜200℃、好ましくは30〜150℃であり、より好ましくは40〜100℃である。担持させる際の圧力については、特に制限はないが、加圧下で行うのが好ましい。担持の時間は、通常0.1〜2000時間、好ましくは1〜200時間である。
【0026】
本発明では、固体触媒として、塩基性水溶液中でメソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させた後、さらに有機ケイ素化合物で接触処理して得られる金属担持メソポーラスシリカを使用するのがより効果的である。かかる有機ケイ素化合物は、メソポーラスシリカと反応してその表面に結合可能なものであるのが好ましく、典型的には次の式(I)で示すことができる。
【0027】
Si(R1)x(R2)4-x (I)
【0028】
(式中、R1はアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はトリアルキルシリルアミノ基を表し、R2はアルコキシ基、アルキル基、アリル基、アリール基又はアラルキル基を表し、xは1〜3の数を表す。)
【0029】
ここで、R1及びR2で表されるアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、R2で表されるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。また、R2で表されるアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基等が挙げられ、R2で表されるアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0030】
式(1)で示される有機ケイ素化合物としては、中でもヘキサアルキルジシラザンや、トリアルコキシアルキルシランがより好ましく用いられる。
【0031】
有機ケイ素化合物による接触処理方法としては、例えば、メソポーラスシリカに前記遷移金属を担持させた後、これを有機ケイ素化合物を含む液体に浸漬する方法や、メソポーラスシリカに前記遷移金属を担持させた後、これに有機ケイ素化合物を含む気体を接触させる方法等が挙げられる。
【0032】
有機ケイ素化合物の使用量は、メソポーラスシリカ100重量部に対し、通常1〜10000重量部、好ましくは5〜2000重量部、さらに好ましくは10〜1500重量部である。
【0033】
有機ケイ素化合物による接触処理の温度は、通常0〜300℃、好ましくは30〜250℃である。また、該接触処理の時間は、通常0.1〜50時間、好ましくは1〜20時間である。
【0034】
かくして、所望の金属担持メソポーラスシリカを得ることができる。そして、このメソポーラスシリカを固体触媒として使用し、該触媒の存在下に、シクロアルカンを酸素で酸化する。該酸化反応におけるメソポーラスシリカの使用量は、シクロアルカン100重量部に対し、通常0.0001〜50重量部、好ましくは0.001〜10重量部である。
【0035】
酸化反応の温度は通常0〜200℃、好ましくは50〜170℃であり、該反応の圧力は通常0.01〜10MPa、好ましくは0.1〜2MPaである。該反応の溶媒は必要に応じて用いることができ、例えば、アセトニトリルやベンゾニトリルのようなニトリル溶媒、酢酸やプロピオン酸のようなカルボン酸溶媒等を用いることができる。
【0036】
酸化反応後の後処理操作については、特に限定されないが、例えば、反応混合物を濾過して触媒を分離した後、水洗し、次いで蒸留する方法等が挙げられる。反応混合物中に原料のシクロアルカンに対応するシクロアルキルヒドロペルオキシドが含まれる場合、アルカリ処理や還元処理等により、目的とするシクロアルカノールやシクロアルカノンに変換することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。尚、反応液中のシクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドの分析はガスクロマトグラフィーにより行い、この分析結果から、シクロヘキサンの転化率、並びにシクロヘキサノン、シクロヘキサノール及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドの各選択率を算出した。
【0038】
また、本実施例中、メソポーラスシリカの細孔半径は、液体窒素温度(77K)での容量法吸着等温線のBJH解析より求めた。その測定方法は以下のとおりである。
【0039】
ガラス製試料管(容積4ml、管内径6mm)を日本ベル社製BELPREP−vacIIにセットして真空排気した後、風袋計量し、続いて粉体試料約0.05gを試料管に充填し、再度BELPREP−vacIIにて試料管を150℃、3時間真空前処理した後、再度試料管を計量し、風袋重量を差し引くことで真の粉体試料量を求めた。次に真空前処理後の試料管を日本ベル社製BELPREP−miniにセットし、各試料管に固有の容積(死容積)を測定し、続いて窒素の飽和蒸気圧を測定した後、吸着平衡圧の測定を行った。これらの操作を吸着平衡圧力と初圧の比である相対圧が0.99まで繰り返し、吸着等温線を得た。平均細孔半径rは、シリンダー状細孔を仮定した上で窒素ガスの毛管凝縮を利用するBarrett−Joyner−Halenda(BJH)の理論から、全細孔容積Vp及び比表面積細孔径Asから次式によって導出した。
【0040】
r=2Vp/As
【0041】
製造例1
〔SBA−15型メソポーラスシリカの製造〕
サイエンス(Science)、(米国)、第279巻、p.548−552に記載された方法に基づいて、構造規定剤としてトリブロックコポリマー(プルロニックP123)を用い、次のとおりSBA−15型のメソポーラスシリカを合成した。プルロニックP123(アルドリッチ社製)4.02g、水30.09g、37重量%の塩酸(塩化水素の水溶液)120.20gを混合し、均一になるまで攪拌した。硝酸コバルト(II)六水和物(和光純薬株式会社製)0.3008g、クエン酸(和光純薬株式会社製)0.4003gを添加後、テトラエトキシシラン(オルトケイ酸エチル、和光純薬株式会社製)8.55gを添加し、60℃で3時間攪拌した後、100℃で8時間水熱合成した。得られた混合物をろ過し、ろ残を水で洗浄した後、室温で12時間乾燥した。得られた乾燥物を、空気流通下、500℃で7時間焼成した。焼成して得られた粉体について、上述した方法により平均細孔半径を求めたところ、3.4nmであった。
【0042】
製造例2
〔SBA−15型メソポーラスシリカへのコバルト担持〕
製造例1で得られた粉体1.6018g、水44.45g、7.5重量%の硝酸アンモニウム水溶液17.64g、25重量%のアンモニア水(和光純薬株式会社製)26.81g、酢酸コバルト四水和物(和光純薬株式会社製)0.3402gをオートクレーブに入れ、密閉下、87℃で2時間攪拌した。得られた混合物をろ過し、ろ残を水で洗浄した後、110℃で12時間乾燥して、コバルトを含有するSBA−15型メソポーラスシリカを得た。
【0043】
製造例3
〔コバルトを含有するSBA−15型メソポーラスシリカのヘキサメチルジシラザン接触処理〕
製造例2で得られたコバルトを含有するSBA−15型メソポーラスシリカ1.0038g及びヘキサメチルジシラザン(和光純薬株式会社製)10.09gをナスフラスコに入れ、窒素雰囲気下、90℃で5時間攪拌した。得られた混合物を室温まで冷却した後、シクロヘキサンを加えて攪拌し、次いでろ過した。ろ残をシクロヘキサンで洗浄した後、室温で一晩乾燥して、コバルトを含有するSBA−15型メソポーラスシリカのヘキサメチルジシラザン接触処理品(以下、メソポーラスシリカAということがある。)を得た。このメソポーラスシリカA中のコバルト濃度をICP(誘導結合高周波プラズマ)分析したところ、5.5重量%であった。
【0044】
製造例4
〔コバルトを含有するMCM−41型メソポーラスシリカの製造〕
アプライド・キャタリシス・A:ジェネラル(Applied Catalysis A: General)、(オランダ)、2004年、第272巻、p.257−266に記載の方法を参考にして、構造規定剤としてヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを用い、次のとおりコバルトを含有するMCM−41型メソポーラスシリカを合成した。ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(和光純薬株式会社製)11.49g、水209.86g、エタノール(和光純薬株式会社製)279.18g、15重量%の酢酸コバルト(II)四水和物の水溶液0.1746g、25重量%のアンモニア水(和光純薬株式会社製)78.02g、及び、テトラエトキシシラン(オルトケイ酸エチル、和光純薬株式会社製)21.88gを1Lビーカーに入れ、室温で2時間攪拌した後、ろ過し、ろ残を水で洗浄した後、110℃で12時間乾燥した。その後、空気流通下、550℃で7時間焼成した。焼成して得られた粉体について、上述した方法により平均細孔半径を求めたところ、1.5nmであった。
【0045】
製造例5
〔コバルトを含有するMCM−41型メソポーラスシリカのヘキサメチルジシラザン接触処理〕
製造例4で得られたコバルトを含有するMCM−41型メソポーラスシリカ3.02g及びヘキサメチルジシラザン(和光純薬株式会社製)30.09gをフラスコに入れ、窒素雰囲気下、90℃で5時間攪拌した。得られた混合物を室温まで冷却した後、シクロヘキサンを加えて攪拌し、次いでろ過した。ろ残をシクロヘキサンで洗浄した後、室温で一晩乾燥して、コバルトを含有するMCM−41型メソポーラスシリカのヘキサメチルジシラザン接触処理品(以下、メソポーラスシリカBということがある。)を得た。このメソポーラスシリカB中のコバルト濃度をICP分析したところ、0.06重量%であった。
【0046】
実施例1
1Lオートクレーブに、シクロヘキサン350g(4.2モル)及び製造例3で得られたメソポーラスシリカA0.8gを入れ、室温にて系内を窒素で0.70MPaまで昇圧した後、窒素を流通させながら140℃に昇温した。次いで、排出ガス中の酸素濃度が1〜5容量%になるように空気及び窒素の供給量を調節しながらこれらガスを合計300ml/minの流速で系内に供給しつつ、シクロヘキサンを5.5g/minの流速で系内に供給して、反応温度140℃、滞留時間64分の条件で連続反応を12時間行った。
【0047】
反応開始から4時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は3.19%であり、シクロヘキサノンの選択率は35.0%、シクロヘキサノールの選択率は48.3%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は6.0%であった(合計選択率89.3%)。また、反応開始から8時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は3.27%であり、シクロヘキサノンの選択率は34.7%、シクロヘキサノールの選択率は49.7%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は4.0%であった(合計選択率88.4%)。また、反応開始から12時間の時点(終了時)で、シクロヘキサンの転化率は3.37%であり、シクロヘキサノンの選択率は35.0%、シクロヘキサノールの選択率は48.5%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は5.4%であった(合計選択率88.9%)。
【0048】
反応開始から4時間の間に抜出した反応液中のコバルト含有量を元素分析により求めたところ、11μgであった。尚、これは、使用したメソポーラスシリカA中のコバルト総量に対して0.03重量%に相当した。
反応4時間から8時間の間に抜出した反応液中のコバルト含有量を元素分析により求めたところ、18μgであった。尚、これは、使用したメソポーラスシリカA中のコバルト総量に対して0.04重量%に相当した。
反応8時間から12時間の間に抜出した反応液中のコバルト含有量を元素分析により求めたところ、20μgであった。尚、これは、使用したメソポーラスシリカA中のコバルト総量に対して0.05重量%に相当した。
【0049】
比較例1
製造例3で得られたメソポーラスシリカA0.8gに代えて、製造例5で得られたメソポーラスシリカB1.9gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0050】
反応開始から4時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は3.27%であり、シクロヘキサノンの選択率は30.3%、シクロヘキサノールの選択率は37.3%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は21.2%であった(合計選択率88.8%)。また、反応開始から8時間の時点で、シクロヘキサンの転化率は3.31%であり、シクロヘキサノンの選択率は33.3%、シクロヘキサノールの選択率は41.2%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は12.3%であった(合計選択率86.8%)。また、反応開始から12時間の時点(終了時)で、シクロヘキサンの転化率は3.39%であり、シクロヘキサノンの選択率は34.6%、シクロヘキサノールの選択率は38.1%、シクロヘキシルヒドロペルオキシド選択率は13.3%であった(合計選択率86.0%)。
【0051】
反応開始から4時間の間に抜出した反応液中のコバルト含有量を元素分析により求めたところ、8.8μgであった。尚、これは、使用したメソポーラスシリカB中のコバルト総量に対して0.8重量%に相当した。
反応4時間から8時間の間に抜出した反応液中のコバルト含有量を元素分析により求めたところ、940μgであった。尚、これは、使用したメソポーラスシリカB中のコバルト総量に対して82.9重量%に相当した。
反応8時間から12時間の間に抜出した反応液中のコバルト含有量を元素分析により求めたところ、78μgであった。尚、これは、使用したメソポーラスシリカB中のコバルト総量に対して6.9重量%に相当した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体触媒の存在下に、シクロアルカンを酸素で酸化して、シクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンを製造する方法であって、前記固体触媒が、塩基性水溶液中でメソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させることにより得られる金属担持メソポーラスシリカであることを特徴とするシクロアルカノール及び/又はシクロアルカノンの製造方法。
【請求項2】
前記固体触媒が、塩基性水溶液中でメソポーラスシリカに少なくとも1種の遷移金属を担持させた後、式(I)
Si(R1)x(R2)4-x (I)
(式中、R1はアルコキシ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子を表し、R2はアルコキシ基、アルキル基、アリル基、アリール基又はアラルキル基を表し、xは1〜3の数を表す。)
で示される有機ケイ素化合物で接触処理して得られる金属担持メソポーラスシリカである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記遷移金属を担持させる際の温度が、40〜100℃である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塩基性水溶液が、アンモニア及び/又は有機塩基が水に溶解してなる水溶液である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記メソポーラスシリカがSBA−15型である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属が、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ルテニウム及びパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属がコバルトである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
シクロアルカンがシクロヘキサンである請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−208962(P2010−208962A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54594(P2009−54594)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】