説明

シクロペンタジエン類の製造方法

【課題】 副生するビス(トリアルキルシリル)シクロペンタジエンの量が従来方法に比べて少ない、トリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物を製造することができる方法、及びかかる製造方法で得られたトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物からトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 シクロペンタジエニル金属化合物を、反応溶媒の存在下で、トリアルキルシリルハライドと反応させてトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物を製造するにあたり、反応溶媒として炭化水素を用いることを特徴とするトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物の製造方法、及びその製造方法で得られたトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物をハロゲン化金属化合物と反応させることを特徴とするトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンタジエン類の製造方法に関し、詳しくはトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物の製造方法及びその方法によって得られたトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物からのトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物は重合用有機金属触媒の合成中間体として有用な化合物である(例えば、特許文献1参照)。またトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物はオレフィン重合用触媒の一成分として用いられる。
トリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物の製造法としては、シクロペンタジエニル金属化合物を溶解した溶液(例えばテトラヒドロフラン溶液)に、トリアルキルシリルクロリドを加えながらシクロペンタジエニル金属化合物をトリアルキルシリルクロリドと反応させて製造する方法(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)が知られている。
本発明者らはこの従来方法を実施したところ、副生成物として、かなりの量のビス(トリアルキルシリル)シクロペンタジエンが生成しているとの知見を得た。(後述の比較例参照)。トリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物とハロゲン化金属化合物とを反応させてトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物を製造する際に、ビス(トリアルキルシリル)シクロペンタジエンを含有すると、この化合物もトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物と同様にトリアルキルシリル基を有しているので、ハロゲン化金属化合物と反応するために所望するトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物の収率を低下させる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−246791公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Organometallics,19(10),1811−1813,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、副生するビス(トリアルキルシリル)シクロペンタジエンの量が従来方法に比べて少ない、トリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物を製造することができる方法、及びかかる製造方法で得られたトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物からトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、意外にも、反応溶媒としてシクロペンタジエニル金属化合物に対して難溶解性である炭化水素を使用すれば、副生するビス(トリアルキルシリル)シクロペンタジエンをほとんど生成せずに、トリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物を製造することができ、またこのようにして得られたトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物を含有する反応液をろ過して必然的に副生する無機塩をろ別除去したのち、ろ液として得られる当該反応液をハロゲン化金属化合物と反応させるだけで、トリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物を高い収率で製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、式(1):
【0008】
【化1】

(式中、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Mはアルカリ金属又はMgX(式中、Xはハロゲン原子を示す。))で表されるシクロペンタジエニル金属化合物(以下、シクロペンタジエニル金属化合物(1)という。)を、反応溶媒の存在下で、式(2):
【0009】
【化2】

(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、炭素数1〜4のアルキル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。)で表されるトリアルキルシリルハライド(以下、トリアルキルシリルハライド(2)という。)と反応させて式(3):
【0010】
【化3】

(式中、R、R、R、R、R、R、R及びRは、前記に同じ。)で表されるトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物(以下、トリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)という。)を製造するにあたり、反応溶媒として炭化水素を用いることを特徴とするトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物の製造方法、及びその製造方法で得られたトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物を式(4):
M (4)
(式中、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムであり、Xは前記に同じ。)で表されるハロゲン化金属化合物(以下、ハロゲン化金属化合物(4)という)と反応させることを特徴とする式(5):
【0011】
【化4】

(式中、M、X、R、R、R、R及びRは前記に同じ。)で表されるトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物(以下、トリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物(5)という。)の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来方法に比べて、副生するビス(トリアルキルシクロペンタジエン)の生成量が格段に少なくて、高い収率でトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物(3)を製造することができ、また得られた反応液からトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物(3)を分離すること無く、反応液をろ過して無機塩をろ別したのち反応液をそのままハロゲン化金属化合物(4)と反応させるだけでトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物(5)を高い収率で製造できるので、本発明方法は工業的優れた製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0014】
まず、トリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物(3)を製造する方法について説明する。
【0015】
式(1)中、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0016】
式(1)中、Mはアルカリ金属又はMgX(式中、Xはハロゲン原子を示す。)を示す。アルカリ金属としてはNa、Li、Kなどが挙げられる。MgXとしてはMgCl、MgBr、MgIなどが挙げられる。Mの好ましい例としてはNaである。
【0017】
シクロペンタジエニル金属化合物(1)の具体例としては、シクロペンタジエニルナトリウム、シクロペンタジエニルカリウム、シクロペンタジエニルリチウム、シクロペンタジエニルマグネシウムクロリド、シクロペンタジエニルマグネシウムブロミド、シクロペンタジエニルマグネシウムヨージド、メチルシクロペンタジエニルナトリウム、メチルシクロペンタジエニルカリウム、メチルシクロペンタジエニルリチウム、メチルシクロペンタジエニルマグネシウムクロリド、メチルシクロペンタジエニルマグネシウムブロミド、メチルシクロペンタジエニルマグネシウムヨージド、エチルシクロペンタジエニルナトリウム、プロピルシクロペンタジエニルナトリウム、イソプロピルシクロペンタジエニルナトリウム、ブチルシクロペンタジエニルナトリウム、イソブチルシクロペンタジエニルナトリウム、sec−ブチルシクロペンタジエニルナトリウム、tert−ブチルシクロペンタジエニルナトリウム、シクロペンタジエニルカリウム、シクロペンタジエニルリチウム、シクロペンタジエニルマグネシウムクロリド、シクロペンタジエニルマグネシウムブロミド、シクロペンタジエニルマグネシウムヨージド、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニルナトリウム、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニルカリウム、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニルリチウム、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニルマグネシウムクロリド、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニルマグネシウムブロミド、1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニルマグネシウムヨージド、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルリチウム、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルマグネシウムクロリド、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルマグネシウムブロミド、1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニルマグネシウムヨージド等が挙げられる。
【0018】
式(2)中、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。Xで示されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0019】
トリアルキルシリルハライド(2)の具体例としては、トリメチルシリルクロリド、トリメチルシリルブロミド、トリメチルシリルヨージド、トリエチルシリルクロリド、トリエチルシリルブロミド、トリエチルシリルヨージド、トリプロピルシリルクロリド、トリプロピルシリルブロミド、トリプロピルシリルヨージド、トリイソプロピルシリルクロリド、トリイソプロピルシリルブロミド、トリイソプロピルシリルヨージド、トリブチルシリルクロリド、トリブチルシリルブロミド、トリブチルシリルヨージドが挙げられ、好ましくは、トリメチルシリルクロリド、トリメチルシリルブロミド、トリメチルシリルヨージド、特に好ましくは、トリメチルシリルクロリドである。
【0020】
トリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)の具体例としては,5−トリメチルシリルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−1−メチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−2−メチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−1−エチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−2−エチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−1−プロピルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−2−プロピルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−1−イソプロピルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−2−イソプロピルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−1−ブチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−2−ブチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−1−sec−ブチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−2−sec−ブチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−1−tert−ブチルシクロペンタジエン、5−トリメチルシリル−2−tert−ブチルシクロペンタジエン、1,2,3,4−テトラメチル−5−トリメチルシリルシクロペンタジエン、1,2,3,4,5−ペンタメチル−5−トリメチルシリルシクロペンタジエン、5−トリエチルシリルシクロペンタジエン、5−トリプロピルシリルシクロペンタジエン、5−トリイソプロピルシリルシクロペンタジエン、5−トリブチルシリルシクロペンタジエン、5−トリイソブチルシリルシクロペンタジエン、5−トリ−sec−ブチルシリルシクロペンタジエン、5−トリ−tert−ブチルシリルシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0021】
反応溶媒として炭化水素を用いることが重要である。炭化水素がシクロペンタジエニル金属化合物(1)の難溶な溶媒であるので、本発明方法は不均一反応となる。炭化水素としては、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの脂肪族飽和炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式飽和炭化水素等が挙げられ、好ましくは芳香族炭化水素,特に好ましくはトルエンである。本発明の反応溶媒には、本発明の目的を損なわない範囲内で炭化水素以外の有機溶媒を併用してもよい。かかる反応溶媒の使用量は、シクロペンタジエニル金属化合物(1)1重量部に対して、通常0.5重量部以上、好ましくは1〜50重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。
【0022】
トリアルキルシリルハライド(2)の使用量としては、シクロペンタジエニル金属化合物(1)1モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは0.9〜2モル、特に好ましくは1〜1.5モルである。
【0023】
反応温度は、使用する原料、反応溶媒等によって最適の温度が異なるが、通常、−80〜100℃、好ましくは−40〜60℃、特に好ましくは0〜30℃である。
【0024】
トリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)の製造方法は,シクロペンタジエニル金属化合物(1)を反応溶媒である炭化水素に分散させた系に、トリアルキルシリルハライド(2)を供給しながら反応を行うのが収率の点で好ましい。供給するトリアルキルシリルハライド(2)は、反応溶媒である炭化水素、又は本発明の目的に適合する限りは炭化水素以外の溶媒との混合物で用いてもよい。
【0025】
反応終了後、まず反応で必然的に副生する無機塩を反応液からろ過で除去し、次いで反応液を濃縮等の所望の分離操作に付して、反応液からトリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)を単離することができる。また、必要に応じてこのようにして得られたトリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)を蒸留して、さらに精製してもよい。
【0026】
次に、トリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物を製造する方法について説明する。
【0027】
ハロゲン化金属化合物(4)において、Mはチタン原子、ジルコニウム原子又はハフニウム原子を表し、X、R、R、R、R及びRは前記に同じである。
【0028】
ハロゲン化金属化合物(4)の具体例としては、四塩化チタン、四塩化ジルコニウム、四塩化ハフニウム、四臭化チタン、四臭化ジルコニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化チタン、四ヨウ化ジルコニウム、四ヨウ化ハフニウム等が挙げられる。
【0029】
トリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物(5)の具体例としては、トリクロロ(シクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(シクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(シクロペンタジエニル)ハフニウム、トリブロモ(シクロペンタジエニル)チタン、トリブロモ(シクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリブロモ(シクロペンタジエニル)ハフニウム、トリヨード(シクロペンタジエニル)チタン、トリヨード(シクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリヨード(シクロペンタジエニル)ハフニウム、トリヨード(シクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(メチルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(メチルシクロペンタジエニル)ハフニウム、トリクロロ(エチルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(エチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(エチルシクロペンタジエニル)ハフニウム、トリクロロ(プロピルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(プロピルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(プロピルシクロペンタジエニル)ハフニウム、トリクロロ(イソプロピルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(イソプロピルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(イソプロピルシクロペンタジエニル)ハフニウム、トリクロロ(ブチルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(ブチルシクロペンタジエニル)ハフニウム、トリクロロ(sec−ブチルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(sec−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(sec−ブチルシクロペンタジエニル)ハフニウム、トリクロロ(tert−ブチルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(tert−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(tert−ブチルシクロペンタジエニル)ハフニウム、トリクロロ(1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(1,2,3,4−テトラメチルシクロペンタジエニル)ハフニウム、トリクロロ(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)チタン、トリクロロ(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、トリクロロ(1,2,3,4,5−ペンタメチルシクロペンタジエニル)ハフニウム等が挙げられる。
【0030】
ハロゲン化金属化合物(4)の使用量としては、トリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)1モルに対して、通常0.5〜1.1モル以上、好ましくは0.8〜1.05モル、特に好ましくは0.9〜1モルである。
【0031】
反応溶媒として炭化水素が挙げられる。具体的にはベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの脂肪族飽和炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式飽和炭化水素等が挙げられ、好ましくは芳香族炭化水素,特に好ましくはトルエンである。かかる反応溶媒の使用量は、トリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)1重量部に対して、通常1重量部以上、好ましくは1〜100重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。
【0032】
反応温度は、使用する原料、反応溶媒等によって最適の温度が異なるが、通常、−80〜100℃、好ましくは−40〜60℃、特に好ましくは−20〜30℃である。
【0033】
トリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物(5)の製造方法は,ハロゲン化金属化合物(4)と反応溶媒である炭化水素との混合物に、トリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)を供給しながら反応を行うのが収率の点で好ましい。供給するトリアルキルシリルシクロペンタジエン(3)は反応溶媒である炭化水素との混合物、例えば本発明の一つであるトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物(3)を製造する方法によって得られる、無機塩を除去したのちのトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物(3)を含有する反応液でもよい。
【0034】
反応終了後、反応液混合物から、濃縮、結晶化等の所望の分離操作にて、トリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物(5)を得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンの収率はガスクロマトグラフィー分析(GC分析)により内部標準物質としてメシチレンを用いて算出した。
【0036】
実施例1
シクロペンタジエニルナトリウム3.44gを、トルエン70mlに分散させ、0℃まで冷却した。この混合物に、攪拌下、トリメチルシリルクロリド4.26gをトルエン15mlに溶解した溶液を、0℃で2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応を室温まで昇温し、室温で1.5時間反応させた後、反応液をろ過して副生した塩化ナトリウムをろ別し、次いで得られたろ液をGC分析したところ、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンの収率(シクロペンタジエニルナトリウム基準、以下同じ)は85%であった。このときに副生したビス(トリメチルシリル)シクロペンタジエンは、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンに対して2.4%であった。
【0037】
実施例2
四塩化チタン1.8gをトルエン2mlに溶解して、0℃まで冷却した。この溶液に実施例1で得られたろ液24.4g(5−トリメチルシリルシクロペンタジエンを1.43g含有)を1時間で加えた。室温で1時間攪拌して反応させた後、減圧下で溶媒を除去して、得られた固体をヘキサン30mlで洗浄し、トリクロロ(シクロペンタジエニル)チタンを1.7g(収率82%:四塩化チタン基準)を得た。

【0038】
比較例1
溶媒をテトラヒドロフランに代えた以外は実施例1と同様にして滴下及び反応させた後、反応液をろ過し、ろ液をGC分析したところ、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンの収率は57%であった。このときに副生したビス(トリメチルシリル)シクロペンタジエンは、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンに対して27.6%であった。
【0039】
比較例2
溶媒をテトラヒドロフランに代えた以外は実施例1と同様にして滴下を実施し、28時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液をGC分析したところ、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンの収率は41%であった。このときに副生したビス(トリメチルシリル)シクロペンタジエンは、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンに対して38.7%であった。
【0040】
比較例3
溶媒をテトラヒドロフランに及び滴下温度を−30℃に代えた以外は実施例1と同様にして滴下を実施し、21時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液をGC分析したところ、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンの収率は73%であった。このときに副生したビス(トリメチルシリル)シクロペンタジエンは、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンに対して21.3%であった。
【0041】
比較例4
溶媒をテトラヒドロフランに及び滴下温度を−30℃に代えた以外は実施例1と同様にして滴下を実施し、1.5時間反応させた後、反応液をろ過し、ろ液をGC分析したところ、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンの収率は69%であった。このときに副生したビス(トリメチルシリル)シクロペンタジエンは、5−トリメチルシリルシクロペンタジエンに対して18.6%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Mはアルカリ金属又はMgX(式中、Xはハロゲン原子を示す。)を示す。)で表されるシクロペンタジエニル金属化合物を、反応溶媒の存在下で、式(2):
【化2】

(式中、R、R及びRは、それぞれ同一又は相異なって、炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるトリアルキルシリルハライドと反応させて式(3):
【化3】

(式中、R、R、R、R、R、R、R及びRは、前記に同じ。)で表されるトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物を製造するにあたり、反応溶媒として炭化水素を用いることを特徴とするトリアルキルシリルシクロペンタジエン化合物の製造方法。
【請求項2】
式(1)で表されるシクロペンタジエニル金属化合物と反応溶媒との混合物に式(2)で表されるトリアルキルシリルハライドを供給しながら反応することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
炭化水素が芳香族炭化水素である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
式(1)において、R、R、R、R及びRが、それぞれ水素原子である請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
トリアルキルシリルハライドがトリメチルシリルクロライドである請求項1、2、3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の製造方法で得られた式(3)で表されるトリアルキシシリルシクロペンタジエン化合物を式(4):
MX (4)
(式中、Mはチタン、ジルコニウム又はハフニウムであり、Xは前記に同じ。)で表されるハロゲン化金属化合物と反応させることを特徴とする式(5):
【化4】

(式中、M、X、R、R、R、R及びRは前記に同じ。)で表されるトリハロゲノシクロペンタジエニル遷移金属化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−189385(P2010−189385A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13390(P2010−13390)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】