説明

シス−4−ヒドロキシプロリンの製造法

【課題】 医薬や農薬の原料として有用であるシス−4−ヒドロキシプロリンを工業的に適した方法で製造する。
【解決手段】 一般式(1)
【化1】


(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基を示す。)で表されるヒドロキシプロリン誘導体を、塩酸触媒下で加水分解し、さらに有機塩基で中和した後、アルコールで希釈することによりシス−4−ヒドロキシプロリンを製造するシス−4−ヒドロキシプロリンの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬や農薬原料として有用なシス−4−ヒドロキシプロリンの工業的に有利な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
シス−4−ヒドロキシプロリンの製造法としては微生物を用いる方法や化学的に合成する方法が知られている。
【0003】
微生物を用いる方法としては、4(S)−ヒドロキシ−2−ケトグルタル酸アルドラーゼ遺伝子をコードするDNA断片を含む組み換えDNAを保有する組み換え微生物を用いた方法(例えば特許文献1)、4−ヒドロキシ−2−ケトグルタル酸を4−ヒドロキシ−L−プロリンに転換する活性を有する微生物を4−ヒドロキシ−2−ケトグルタル酸に作用させる方法(例えば特許文献2)などが挙げられる。しかし、前者の製法は収量が低い点で、後者の製法は4(S)体と4(R)体が同時に生成されるため、分離精製に煩雑な工程を要する点で工業的な方法として用いることは適さない。
【0004】
化学的合成方法としては、(i)ニトロンを出発原料とする合成方法(例えば特許文献3)、
【0005】
【化1】

【0006】
(ii)トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを出発原料とする合成方法(例えば特許文献4)、
【0007】
【化2】

【0008】
などが知られている。
【0009】
前記(i)のニトロンを出発原料とする方法は工程数が多く、また使用する原料も汎用性が低く工業的に安価に製造することは難しい。(ii)のトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンのヒドロキシル基を立体反転する方法についてはアゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)やアジ化ナトリウム(NaN)を使用しており、原料の価格や安全性を考慮すると工業的に製造することは難しい。
【0010】
また、(iii)シス−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体を効率良く得る方法として、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体を塩基性化合物水溶液で加水分解することにより得る方法(例えば特許文献5)
【0011】
【化3】

【0012】
が知られている。
【0013】
(iii)には効率的なシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン誘導体の製造法が記載されているが、脱保護したシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを単離する方法については記載されていない。(iii)で示される化合物のベンジルオキシカルボニル基の脱保護反応は一般的に白金やパラジウムといった金属触媒下で接触水素化反応が用いられる。しかし、使用する触媒が高価であること、専用設備を必要とすることから手間とコストがかかる。それ以外のベンジルオキシカルボニル基を脱保護する方法としては塩酸等の強酸を用いた脱保護の方法が知られているが、その場合、副生するベンジルクロライド等の不純物により不純物の増加が懸念される。一方でヒドロキシプロリンは医薬中間体用途であることから要求品質は99.0%以上の純度が求められるため、所望の品質のヒドロキシプロリンを得るためには不純物や無機酸などを除去するための高度な精製が必要となる。例えば、ヒドロキシプロリン塩酸塩からヒドロキシプロリンを単離する方法としてはカラムクロマトグラフィーやイオン交換膜を用いて電気的に分離する方法が挙げられるが、カラムクロマトグラフィーは大きなスケールでの実施は困難であり、またイオン交換膜は専用の設備が必要となるため容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−56379号公報
【特許文献2】特開平3−266995号公報
【特許文献3】特開2002−88059号公報
【特許文献4】WO07/107008
【特許文献5】特開2005−112761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、工業的に簡便な方法で高純度なヒドロキシプロリンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは前記課題を解決する方法について鋭意検討した結果、上記目標を達成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基を示す。)で表されるヒドロキシプロリン誘導体を、塩酸触媒下で加水分解し、さらに有機塩基で中和した後、アルコールで希釈することによりシス−4−ヒドロキシプロリンを製造するシス−4−ヒドロキシプロリンの製造法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、シス−4−ヒドロキシプロリン誘導体を出発原料とし、簡便かつ収率良く工業的に適した方法でシス−4−ヒドロキシプロリン、及び光学活性な3−ヒドロキシピロリジンが得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を具体的に述べる。本発明は、一般式(1)で示される
【0022】
【化5】

【0023】
ヒドロキシプロリン誘導体を使用する。一般式(1)において、Rは、炭素数1〜6のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基のいずれかである。炭素数1〜6のアルキルカルボニル基は、好ましくは、アセチル基、エチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基であり、より好ましくは、アセチル基である。アリールカルボニル基は、好ましくは、ベンゾイル基、ベンジルカルボニル基であり、より好ましくは、ベンゾイル基である。アルコキシカルボニル基は、好ましくは、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル基であり、より好ましくは、tert−ブトキシカルボニル基である。アラルキルオキシカルボニル基は、好ましくは、ベンジルオキシカルボニル基、フェニルエトキシ基、フェニルプロポキシ基であり、より好ましくは、ベンジルオキシカルボニル基である。Rは、好ましくは、アラルキルオキシカルボニル基、または、アルコキシカルボニル基である。Rは、より好ましくは、アセチル基、tert−ブトキシカルボニル基、または、ベンジルオキシカルボニル基であり、特に好ましくは、ベンジルオキシカルボニル基である。
【0024】
また、一般式(1)で示されるシス−4−ヒドロキシプロリン誘導体は塩基との塩の状態であっても用いることができる。シス−4−ヒドロキシプロリン誘導体の塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、炭酸ナトリウム塩、炭酸カリウム塩などのアルカリ金属炭酸塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、ピリジン、トリエチルアミン等の含窒素有機塩基との塩が挙げられる。
【0025】
本発明では、ヒドロキシプロリン誘導体を、塩酸触媒下で加水分解する。シス−4−ヒドロキシプロリン誘導体に対して、好ましくは、等モル以上、より好ましくは1〜30モル倍の水を共存させてシス−4−ヒドロキシプロリン誘導体を塩酸触媒で加水分解反応を行う。触媒として使用する塩酸には水や有機溶媒が含まれていてもよい。触媒として、工業スケールで入手が容易な濃塩酸(35〜37%水溶液)をそのまま用いても良く、また希釈して用いても良い。その他、濃塩酸や塩化水素ガスを有機溶媒などで希釈して用いてもよい。
【0026】
ヒドロキシプロリン誘導体を、塩酸触媒下で加水分解する時、シス−4−ヒドロキシプロリン誘導体は、有機溶媒に溶解し、溶液として取り扱うことが操作上好ましい。このとき用いる有機溶媒としては溶解性の高いテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテルが好ましく、経済性を考慮するとテトラヒドロフランがより好ましい。
【0027】
ヒドロキシプロリン誘導体を、塩酸触媒下で加水分解する時、有機溶媒にシス−4−ヒドロキシプロリン誘導体を溶解した液に水を加えた後、塩酸を加えることが好ましい。塩酸の使用量は、シス−4−ヒドロキシプロリン誘導体に対して等モル以上を加えることが好ましく、1〜20モル倍がより好ましく、生産性を考慮すると3〜10モル倍がさらにより好ましい。塩酸触媒下で加水分解する時の温度は、好ましくは、0〜100℃であり、より好ましくは50〜95℃、さらにより好ましくは70〜90℃である。
【0028】
加水分解反応の終了は高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCと略す)等の分析により、原料であるシス−4−ヒドロキシプロリン誘導体の消失を確認することが好ましい。
【0029】
加水分解反応終了後は、通常、静置することで容易に二層に分かれるため、好ましくは、分液操作により分離する。分離した水層は、シス−4−ヒドロキシプロリンの濃度が、好ましくは、20〜60%、より好ましくは25〜50%、さらにより好ましくは30〜40%になるまで減圧下で濃縮する。
【0030】
本発明では、ヒドロキシプロリン誘導体を、塩酸触媒下で加水分解し、さらに有機塩基で中和する。濃縮後、シス−4−ヒドロキシプロリンは、通常、塩酸塩のスラリーとして析出してくるため、高純度のシス−4−ヒドロキシプロリンを得るには塩酸を除去することが好ましい。
【0031】
使用する有機塩基は、含窒素有機塩基が好ましい。含窒素有機塩基としては、ピリジン、キノリン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、および、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられるが、好ましくは、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、特に好ましくは、トリエチルアミンを用いる。ここで、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような無機塩基を用いると、副生する無機塩が除去できない。
【0032】
中和の終点は、pH4.7〜pH7.7が好ましく、より好ましくはpH5.2〜pH6.5である。このときpHがpH4.7〜pH7.7を外れると収率の低下につながる場合がある。
【0033】
塩酸触媒下で加水分解したヒドロキシプロリン誘導体を、単離する方法としては、有機塩基で中和したのち、晶析による分離が好ましい。
【0034】
本発明では、ヒドロキシプロリン誘導体を、塩酸触媒下で加水分解し、さらに有機塩基で中和した後、アルコールで希釈することによりシス−4−ヒドロキシプロリンを製造する。ここで用いるアルコールとしては、炭素数1〜5のアルコール類等から選ばれる少なくとも1種類以上のアルコールを用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどが挙げることができ、より好ましくはメタノール、エタノールであり、特に好ましくはメタノールである。また、この時アルコール内に他の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などの有機溶媒が混在していてもよい。
【0035】
アルコールの使用量は。ヒドロキシプロリン誘導体に対し、好ましくは、0.5〜10倍、より好ましくは1〜5倍、特に好ましくは2〜3倍である。
【0036】
アルコールで希釈後の温度は、−10〜50℃が好ましく、より好ましくは0〜30℃、さらに好ましくは10〜20℃である。アルコールで希釈後、続けて熟成を行うことが好ましい。熟成後、スラリーを固液分離し、さらに真空乾燥機で乾燥することで高純度のシス−4−ヒドロキシプロリンを単離することができる。
【0037】
以上の本発明に記載の方法により、専用設備を用いることなく汎用マルチプラントで脱保護反応を行い、さらに高純度のヒドロキシプロリンを単離することができる。
【0038】
シス−4−ヒドロキシプロリン誘導体は、光学活性なシス−4−ヒドロキシプロリン誘導体であるL体(2S,4R)、D体(2R,4S)のいずれであっても同様に使用することができる。また高純度なシス−4−ヒドロキシプロリンを得るためには高純度のシス−4−ヒドロキシプロリン誘導体を原料として用いることが好ましい。シス−4−ヒドロキシプロリン誘導体は、位置異性体であるトランス−4−ヒドロキシプロリン誘導体は5%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下である。さらに、原料として光学活性シス−4−ヒドロキシプロリン誘導体を使用すると、光学活性ヒドロキシプロリンを得ることができる。
【0039】
また、上記工程で得られた光学活性なシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンは、脱炭酸反応を行うことで光学活性な(S)−3−ヒドロキシピロリジンを得ることができる。以下に詳細を記載する。
【0040】
本反応では原料の立体が保持されるため、より光学純度の高い製品を得るためにはシス/トランス比が99.0/1.0以上、好ましくは99.5/0.5以上の高純度なシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを用いることが好ましい。
【0041】
光学活性シス−4−ヒドロキシ−L−プロリンをケトン溶媒下で加熱することでイミンが形成されて脱炭酸できるが、用いるケトン溶媒としては高沸点が好ましく用いることができ、特に好ましくはジイソブチルケトンが例示できる。また溶媒の使用量は1〜20モル倍が好ましく、より好ましくは2〜10モル倍、特に好ましくは3〜5モル倍である。
【0042】
反応温度は、好ましくは150〜200℃であり、特に好ましくは150〜170℃である。反応時間は反応温度によって異なるが、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。
【0043】
反応終了後は0〜60℃、好ましくは20〜40℃に冷却した後、水を加えて加水分解する。水の添加量としては、光学活性シス−4−ヒドロキシ−L−プロリンに対して等モル以上、好ましくは1〜5モル倍が好ましい。
【0044】
さらに分液、濃縮、減圧蒸留で精製することにより光学活性な(S)−3−ヒドロキシピロリジンを得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下実施例により本発明を説明する。なお実施例において、反応液の組成分析はHPLCで分析した。分析条件は対象物によって異なるため一律には記載できないが、代表例としてシス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンの分析条件、(S)−3−ヒドロキシピロリジンの化学純度、光学純度分析条件を記載する。
【0046】
<シス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリン分析条件(HPLC)>
カラム:CAPCELL PAK C18(SG120),5μm 150mm*4.6mmφ(株式会社資生堂製)
移動層A:5mMドデシル硫酸ナトリウム+20mMリン酸緩衝液(pH2.8調整)
移動層B:アセトニトリル
A/B=80/20(10分)−10分→45/55(25分)
流量:1.0ml/min
温度:40℃
検出器波長:210nm
保持時間:
1.8分:シス−4−ヒドロキシ−L−プロリン
3.4分:トランス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリン
4.8分:シス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリン 。
【0047】
<(S)−3−ヒドロキピロリジンの化学純度分析(ガスクロマトグラフィー)>
カラム:InertCap1 60m×0.25mm,0.4μm(ジーエルサイエンス株式会社製)
検出器:FID
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:70℃(10分)→+20℃/分→270℃(20分)
カラム流量:2.8ml/min
保持時間:(S)−3−ヒドロキピロリジン:9.0分 。
【0048】
<(S)−3−ヒドロキピロリジンの光学純度分析(HPLC)>
光学純度は(S)−3−ヒドロキピロリジンをジパラトルオイル−L−酒石酸無水物で誘導体化し、その誘導体をHPLCで分析する。
【0049】
カラム:CAPCELL PAK C18(SG120),5μm 150mm*4.6mmφ(株式会社資生堂製)
溶離液:0.03%アンモニア水(pH5.5酢酸調整)/アセトニトリル=64/36
流量:1.0ml/min
温度:40℃
検出波長:244nm
保持時間:
(S)−3−ヒドロキピロリジン誘導体:34.0分
(R)−3−ヒドロキピロリジン誘導体:37.0分
光学純度(%e.e.)=(A−B)/(A+B)×100(A及びBは対応する鏡像異性体量を表し、A>Bである)。
【0050】
また、実施例で使用した試薬は特に注記のない限り市販の試薬1級グレード品を使用した。
【0051】
参考例1
温度計、滴下ロート、攪拌機を備えた3000mlの4つ口フラスコにメタノール1771g、トランス−L−ヒドロキシプロリン354g(2.70モル)を加えた。15℃に冷却し、攪拌しながら滴下ロートを用いて塩化チオニル193gを1時間かけて滴下した。滴下終了後60℃に昇温して5時間熟成した。次いで温度を保ちながら13kPaで減圧濃縮を行いメタノールを留出させて、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンメチルエステルを含む827gのスラリーを得た(トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンメチルエステル2.65モル(収率95.7%)含有)。
【0052】
参考例2
参考例1のスラリー827gに水354gと炭酸ナトリウム358gを添加した。温度を10℃に冷却しながら滴下ロートにて約3時間かけてベンジルオキシカルボニルクロライド484gを滴下添加した。滴下終了後は20℃で2時間反応熟成した後、トルエン531gを加え分液してトランス−ベンジルオキシカルボニル−ヒドロキシ−L−プロリンメチルエステルを抽出した。分液した水層側からはさらにトルエン177gを加えてトランス−ベンジルオキシカルボニル−ヒドロキシ−L−プロリンメチルエステルを抽出した。分液した2種類のトルエン層は混合した後、60℃で8kPaの減圧下で濃縮し、トランス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンメチルエステルの粗体799gを得た(トランス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンメチルエステル2.41モル(収率91.6%)含有)。
【0053】
参考例3
参考例2で得た粗体にトルエン799g、トリエチルアミン373gを混合した後、温度を5℃以下に冷却した。温度を保ちながら滴下ロートを用いてメタンスルホニルクロライドを2時間かけて滴下混合し、さらに20℃で2時間熟成した。反応の熟成終了後、10%食塩水460gを加えて洗浄し、分液した。分液した水層側にはトルエン283gを加えて抽出した。抽出したトルエン層側は混合し、50℃で5kPaの減圧下で濃縮し、トランス−ベンジルオキシカルボニル−4−メタンスルホニルオキシ−L−プロリンメチルエステルの粗体928gを得た(トランス−ベンジルオキシカルボニル−4−メタンスルホニルオキシ−L−プロリンメチルエステル2.35モル(収率97.5%)含有)。
【0054】
参考例4
参考例3で得た粗体928gに水708g、48%苛性ソーダ337gを加えた後、80℃に昇温して3時間反応熟成した。熟成終了後、同温度条件で13kPaに減圧して146gを留出させた。濃縮後、温度を20℃に冷却して48%苛性ソーダ180gを添加し、25℃で12時間熟成した。反応液中のシス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンの含量は2.19モル(トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンからの収率は81.0%)であった。
【0055】
加水分解反応液にトルエン35gを加えて、40℃で7kPa減圧下で濃縮し、332gを留出させた。濃縮した液に濃硫酸161gを滴下してpH1.3に調製した。酸性に調製した後、テトラヒドロフラン710g、水354gを加えて分液した。分離した水層側にさらにテトラヒドロフラン356gを加えて分液した。分液したテトラヒドロフラン層側は混合した後、40℃で26kPa減圧下で濃縮し、濃縮液896gを得た(シス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリン2.12モル(収率90.2%)含有,シス/トランス=98.3/1.7)。
【0056】
実施例1
参考例4で得た濃縮液896g(シス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリン2.12モル含有,シス/トランス=98.3/1.7)に水569g、濃塩酸876g(4.0モル倍)を添加した。温度を80℃に昇温し、3時間熟成した。シス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンの転化率は98.6%であった。
【0057】
反応終了後、トルエン335gを加えて分液した。分離した水層側を50℃で5kPaの減圧下で濃縮して743gのスラリーを得た。スラリー中にトリエチルアミン415gを滴下してpH6.0に調製した。pHを調製した後、メタノール1389gを加えて希釈し、10℃で12時間熟成した。熟成したスラリーを遠心脱水機にて固液分離を行い、水分を含有したケーク262gが得られた。さらに40℃で2kPa以下の条件で5時間真空乾燥することにより、シス−4−ヒドロキシ−L−プロリン229g(1.74モル)を取得した。シス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンからの収率は82.9%であった。
【0058】
シス−4−ヒドロキシ−L−プロリンの乾燥品を分析したところ純度99.6%、異性体のトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリン含量0.05%、塩素含量は0.08%であった。
【0059】
比較例1
参考例4と同じ方法で得たシス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリン50.0g(0.19モル)、水166.1g、濃塩酸196.4g(10モル倍)を混合し、80℃に昇温して1時間反応させたところ、シス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンの転化率は99.1%だった。
【0060】
反応液にトルエン30.4gを加えて分液した。分離した水層382.8gを50℃、5kPa条件下で濃縮して216.8gの濃縮液を得た。スラリーに48%水酸化ナトリウム水溶液38.7gを滴下してpH6.8に中和し、さらに5kPaの減圧下にて濃縮を行い112.8gのスラリーを取得した。得られたスラリー中にメタノール245.3gを加えて10℃で14時間熟成を行いシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを析出させた。熟成したスラリーを円心脱水機にて固液分離を行い、水分を含有したケーク31.9gを取得し、さらに40℃で2kPa以下の条件で5時間真空乾燥し、乾燥したケーク26.4gを取得した。乾燥したケーク26.4中のシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンは15.0g、塩化ナトリウムが11.4g含まれていた。
【0061】
さらに固液分離時の母液からシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを回収するために母液全量を26.7gに濃縮し、さらにメタノール33.0gを加えて10℃で12時間熟成してスラリーをろ過し、水分を含有したケーク20.0gを得た。さらに40℃で2kPa以下の条件で5時間真空乾燥し17.1gの乾燥したケークを得た。乾燥したケーク17.1中のシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンは6.6g、塩化ナトリウムが10.5g含まれていた。
【0062】
母液から回収したシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを含めたシス−4−ヒドロキシ−L−プロリンの収率は87.0%であったが、無機塩の塩化ナトリウムが多量に含まれていた。
【0063】
比較例2
参考例と同じ方法で得たシス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリン1.0g、水7.1g、硫酸1.9g(5モル倍)を混合し、80℃に昇温して1時間反応させたところ、シス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンの転化率は37.3%だった。その後、温度を95℃に昇温してさらに2時間反応させることでシス−ベンジルオキシカルボニル−4−ヒドロキシ−L−プロリンの転化率は99.1%に達した。
【0064】
硫酸を除くため水酸化カルシウムで中和し、中和塩を硫酸カルシウム(石膏)として除く方法を試みた。反応液の油層側を分液で除き、水酸化カルシウムを添加しpH6.9に中和した。中和時に生成した石膏でスラリー性状は極めて悪く、また固液分離もろ過性が極めて悪いことから工業的製法としては適さなかった。
【0065】
実施例2
温度計、滴下ロート、攪拌機を備えた100mlの4つ口フラスコに実施例1で得られたシス−4−ヒドロキシ−L−プロリン13.1g(0.1モル)、ジイソブチルケトン56.9g(0.4モル)を加えた。温度を160℃に昇温し、5時間還流下で反応させた。反応終了後20℃まで冷却し、水13.3gを添加して分液することで水層21.6gを得た。水層を分析したところ(S)−3−ヒドロキシピロリジン7.5g含有、収率86.4%であった。
【0066】
さらに濃縮した後、0.5kPa、115℃の条件でマイクロ蒸留装置にて蒸留し、収率64.8%で(S)−3−ヒドロキシピロリジン4.9gを取得した。得られた(S)−3−ヒドロキシピロリジンは化学純度99.6%、光学純度99.9%e.e.であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基を示す。)で表されるヒドロキシプロリン誘導体を、塩酸触媒下で加水分解し、さらに有機塩基で中和した後、アルコールで希釈することによりシス−4−ヒドロキシプロリンを製造するシス−4−ヒドロキシプロリンの製造法。
【請求項2】
一般式(1)のRが、アラルキルオキシカルボニル基である請求項1に記載のシス−4−ヒドロキシプロリンの製造法。
【請求項3】
一般式(1)のRが、ベンジルオキシカルボニル基である請求項1に記載のシス−4−ヒドロキシプロリンの製造法。
【請求項4】
有機塩基による中和終点がpH4.7〜pH7.7の範囲である請求項1〜3いずれか1項に記載のシス−4−ヒドロキシプロリンの製造法。
【請求項5】
有機塩基が、ピリジン、キノリン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、および、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種の塩基である請求項1〜4いずれか1項に記載のシス−4−ヒドロキシプロリンの製造法。
【請求項6】
ヒドロキシプロリン誘導体が、光学活性ヒドロキシプロリン誘導体であり、シス−4−ヒドロキシプロリンが、光学活性シス−4−ヒドロキシプロリンである請求項1〜5記載のシス−4−ヒドロキシプロリンの製造法。
【請求項7】
請求項6記載の方法で得られた光学活性シス−4−ヒドロキシプロリンを脱炭酸する光学活性3−ヒドロキシピロリジンの製造法。

【公開番号】特開2012−67029(P2012−67029A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212117(P2010−212117)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】