説明

シス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法

【課題】シベトン等の大環状ムスク系香料の合成において特に有用な、シス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を選択的に合成する方法を提供する。
【解決手段】 1.下記式(1)で表される化合物のアルデヒド基を連結することを特徴とする、下記式(2)で表されるヒドロキシケトンの製造方法。




2.前記式(2)で表されるヒドロキシケトンのケトン基を、金属イオンの存在下に還元することを特徴とするエリスロ型ジオールの製造方法。 3.エリスロ型ジオールの水酸基を脱離させることを特徴とするシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料合成等において有用なシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法に関し、更に詳しくは、高級調合香料の成分等として需要の大きいシベトンの合成原料として特に有用なシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸誘導体は、大環状ムスク系香料の合成原料等として有用である。大環状ムスク系香料の中でも、下記式(5)で表されるシベトンは、ジャコウネコとも呼ばれる霊猫(シベット)の生殖腺分泌物から極微量得られる成分であり、高級調合香料等の重要な成分である。
【化1】

【0003】
シベトンの合成法は、例えば非特許文献1に開示されている如く、数多く報告されているが、ジカルボン酸エステルの分子内環化反応を利用する、下記式(6)で表される方法が簡便である。
【化2】

【0004】
当該方法でシベトンを合成する場合、前記式(6)に示すとおり、シス二重結合含有ジカルボン酸誘導体Aが必要である。Aを合成する方法として、オレイン酸エステルのメタセシスによる方法が非特許文献2で知られているが、当該方法により得られるAの二重結合の異性体比は、シス:トランス=1:1.3であり、望むシス体の選択的合成には至っていない。
アルデヒド同士を連結すればヒドロキシケトンが生成することは既に知られている。例えば、非特許文献3には、チアゾリウム塩を用いる方法が開示されている。しかし、当該文献には、分子中にアルデヒド以外の官能基を有しない単純な脂肪族アルデヒドを連結する例しか開示されておらず、分子内にカルボン酸基やエステル基を有するアルデヒドの連結が可能であることは記載されていない。
【0005】
ヒドロキシケトンをエリスロ型ジオールに変換する方法は既に知られている。例えば、非特許文献4には、Zn(BH42を用いる方法が開示されている。しかし、当該文献には、分子中にヒドロキシケトン以外の官能基を有しない単純な脂肪族ヒドロキシケトンの例しか開示されておらず、分子内にカルボン酸基やエステル基を有するヒドロキシケトンにも適用可能であることは記載されていない。
エリスロ型ジオールを脱離させてシス二重結合に変換する方法は既に知られている。例えば、非特許文献5には、様々な構造のエリスロ型ジオールの水酸基を脱離させてシス二重結合に変換する方法が開示されている。しかし、分子内に2つのエステル基を有し、且つ、ジオールの脱離により非共役型の二重結合が生成する前記式(3)で表される化合物に適用した例は記載されていない。本発明者らの実験によれば、ジオールの脱離反応における選択性及び収率は、分子構造に大きく依存するので、他の分子種での実験結果をもって本発明を類推することは困難である。
【0006】
【非特許文献1】Synthesis,No.10,1707(1999)
【非特許文献2】J.Organometal.Chem.218,69(1981 )
【非特許文献3】Organic Synthesis,Vol.62,170(1 984)
【非特許文献4】Tetrahedron Letters,Vol.24(26) ,2653(1983)
【非特許文献5】Chemistry Letters,879(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シベトン等の大環状ムスク系香料の合成において特に有用なシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を選択的に合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高選択的にシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を製造する方法を見出し、本発明を完成した。
本発明は以下のとおりである。
1.下記式(1)で表される化合物のアルデヒド基を連結することを特徴とする下記式(2)で表されるヒドロキシケトンの製造方法。
【化3】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表し、nは、1〜20の整数を表す。)
【化4】

(式中、R及びnは、それぞれ独立に前記式(1)と同様の意味を表す。)
【0009】
2.前記式(2)で表されるヒドロキシケトンのケトン基を、金属イオンの存在下に還元することを特徴とする下記式(3)で表されるエリスロ型ジオールの製造方法。
【化5】

(式中、R及びnは、それぞれ独立に前記式(1)と同様の意味を表す。)
3.前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールの水酸基を脱離させることを特徴とする下記式(4)で表されるシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【化6】

(式中、R及びnは、それぞれ独立に前記式(1)と同様の意味を表す。)
【0010】
4.前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールを、下記式(5)で表されるジオキソラン誘導体に変換した後、脱離させることを特徴とする上記3.に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【化7】

(式中、Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表し、nは、それぞれ独立に1〜20の整数を表し、Zは、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくはアミノ基を表す。)
【0011】
5.以下の3工程を含むことを特徴とするシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
(第一工程)
前記式(1)で表される化合物のアルデヒド基を連結し、前記式(2)で表されるヒドロキシケトンを製造する工程。
(第二工程)
前記式(2)で表されるヒドロキシケトンのケトン基を、金属イオンの存在下に還元し、前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールを製造する工程。
(第三工程)
前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールの水酸基を脱離させ、前記式(4)で表されるシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を製造する工程。
上記式(1)〜(5)において、nが7であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、シベトン等の大環状ムスク系香料の合成において特に有用な、シス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を選択的に合成する方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第一は、前記式(1)で表される化合物のアルデヒド基を連結させ、前記式(2)で表されるヒドロキシケトンを製造する方法である。
アルデヒド基を連結しヒドロキシケトンを製造する方法に制限はないが、アシロイン縮合を利用するのが簡便である。アシロイン縮合の方法に制限はく、公知の方法を利用すればよいが、チアゾリウム塩を用いる方法が好ましく、例えば、下記式(7)で表されるチアゾリウム塩〔3−ベンジル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−1,3−チアゾリウムクロライド〕を、トリエチルアミン等の塩基存在下に作用させる方法(Org.Synth.,62,170(1984))が挙げられる。
【化7】

【0014】
前記式(7)で表されるチアゾリウム塩〔3−ベンジル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−1,3−チアゾリウムクロライド〕の代わりに、ビタミンB1(下記式(8))を用いてもよい。
【化8】

【0015】
チアゾリウム塩の使用量は、前記式(1)で表されるアルデヒド1molに対し、好ましくは0.01〜100molであり、より好ましくは0.1〜80molである。トリエチルアミンの使用量は、チアゾリウム塩1molに対し、好ましくは、1〜100molであり、より好ましくは、2〜80molである。
前記式(1)において、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基がより好ましく、更に好ましくは水素原子又は炭素数1〜2の炭化水素基である。
前記式(1)において、nは、1〜20の整数を表す。nは、3〜18が好ましく、更に好ましくは5〜16であり、最も好ましくは7である。
前記式(1)で表される化合物の製法に制限はないが、例えば、オレイン酸などの二重結合含有脂肪酸の二重結合を酸化的に開裂することにより、容易に製造することができる。
【0016】
本発明の第二は、前記式(2)で表されるヒドロキシケトンのケトン基を、金属イオンの存在下に還元し、前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールを製造する方法である。
金属イオンの存在下で還元すれば、還元の方法に制限はなく、公知の方法を用いればよい。例えば、接触水素添加の他、NaBH4、Zn(BH42、BH3等のホウ素化合物による還元などが挙げられるが、ホウ素化合物による還元がより好ましく、NaBH4及び/又はZn(BH42による還元が最も好ましい。ホウ素化合物の使用量は、前記式(2)で表されるヒドロキシケトン1molに対し、水素当量で、好ましくは1〜100molであり、より好ましくは2〜80molである。金属イオンの種類も制限はないが、例えば、Na+、K+等のアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+等のアルカリ土類金属イオン、Ti4+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+等の遷移金属イオン等が挙げられる。金属イオンとしては、アルカリ土類金属イオン又は遷移金属イオンが好ましく、遷移金属イオンがより好ましく、Zn2+イオンが最も好ましい。金属イオンの存在量に制限はないが、前記式(2)で表されるヒドロキシケトン1molに対し、好ましくは、1〜100molであり、より好ましくは、1〜80molである。
【0017】
本発明の第三は、前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールの水酸基を脱離させ、前記式(4)で表されるシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を製造する方法である。ジオールの水酸基を脱離させる方法に制限はなく、公知の方法を利用すればよい。例えば、チオカーボネート化して脱離させる方法(J.Am.Chem.Soc.,85,2677(1963))、ジアルキルアミノジオキソラン化して脱離させる方法(Tetrahedron Lett.,60,5223(1970))、アルコキシジオキソラン化して脱離脱させる方法(Chemistry Letters,879(1986)、Austral.J.Chem.,17,1392(1964))などが挙げられるが、ジオキソラン化して脱離させる方法が好ましく、アルコキシジオキソラン化して脱離させる方法がより好ましい。
【0018】
アルコキシジオキソラン化の方法としては、オルトギ酸メチルなどのオルトエステルを溶媒とし、p−トルエンスルホン酸等を触媒として加熱する方法が好ましい。オルトギ酸メチルの使用量は、前記式(3)で表されるエリトロ型ジオール1重量部に対し、好ましくは、1〜100重量部であり、より好ましくは、2〜80重量部である。ジオキソラン化して脱離させる場合には、予め50〜250℃に加熱した無水酢酸中へジオキソラン誘導体を加える方法が好ましい。
本発明の第四は、前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールを、上記式(5)で表されるジオキソラン誘導体に変換した後、脱離させることを特徴とする上記3.に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法である。
式中、Zがアルコキシ基であることが好ましく、前記式(5)で表される誘導体を、予め50〜250℃に加熱した無水酢酸中に加えることが好ましい。
【0019】
本発明の第五は、以下の3工程を含むことを特徴とするシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
(第一工程)
前記式(1)で表される化合物のアルデヒド基を連結し、前記式(2)で表されるヒドロキシケトンを製造する工程。
(第二工程)
前記式(2)で表されるヒドロキシケトンのケトン基を、金属イオンの存在下に還元し、前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールを製造する工程。
(第三工程)
前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールの水酸基を脱離させ、前記式(4)で表されるシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を製造する工程。
【0020】
上記式(1)〜(5)において、nが7であることが好ましい。
第一工程において、チアゾリウム塩を用いてアルデヒド基を連結すること、チアゾリウム塩が、3−ベンジル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−1,3−チアゾリウムクロライド及び/又はビタミンB1であることが好ましい。
第二工程において、ホウ素化合物を用いてケトン基を還元すること、ホウ素化合物が、NaBH4及び/又はZn(BH42であること、金属イオンが、アルカリ土類金属イオン及び/又は遷移金属イオンであること、金属イオンが、Zn2+であることが好ましい。
第三工程において、前記式(3)表されるエリスロ型ジオールを、前記式(5)で表されるジオキソラン誘導体に変換した後、脱離させること、Zがアルコキシ基であること、前記式(5)で表されるジオキソラン誘導体を、予め50〜250℃に加熱した無水酢酸中に加えることが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に実施例などに基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
[実施例1]
アゼライン酸セミアルデヒド〔前記式(1)で、Rが水素原子、nが7に相当する化合物〕5.44g(31.6mmol)をエタノール30mlに溶解し、3−ベンジル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−1,3−チアゾリウムクロライド〔前記式(7)で表される化合物〕1.0g(3.7mmol)及びトリエチルアミン14ml(100mmol)を加え、窒素雰囲気下、80℃で2時間加熱、攪拌した。当該反応混合物を室温に冷却した後、1NのHCl(110ml)中に投入し、トルエン300mlを加え、50℃で10分間加熱、攪拌した後、トルエン相を分取した。当該トルエン相を5℃に冷却し、ヒドロキシケトン〔前記式(2)で、Rが水素原子、nが7に相当する化合物〕2.8g(8.1mmol)を白色固体として得た。
【0022】
当該ヒドロキシケトン0.85g(2.47mmol)を、1wt%HCl含有無水メタノール10mlに溶解し、窒素雰囲気下、1時間加熱還流した。当該反応混合物を室温に冷却した後、NaHCO30.26gを加え、室温で10分間攪拌した後、酢酸エチル50mlと水10mlを加え、室温で10分間攪拌した後、酢酸エチル相を分取した。当該酢酸エチル相の酢酸エチルを減圧下に留去し、ヒドロキシケトンジメチルエステル〔前記式(2)で、Rがメチル基、nが7に相当する化合物〕0.88g(2.35mmol)を得た。
当該ヒドロキシケトンジメチルエステル0.611g(1.64mmol)をジエチルエーテル11mlに溶解し、Zn(BH42のジエチルエーテル溶液(0.15mol/l)11mlを0℃で加え、0℃で10分攪拌した。当該反応混合物に0℃で1NHCl15mlとジエチルエーテル50mlを加え、室温で10分間攪拌した後、ジエチルエーテル相を分取した。当該ジエチルエーテル相のジエチルエーテルを減圧下に留去し、ジオールジメチルエステル〔前記式(3)で、Rがメチル基、nが7に相当する化合物〕0.610g(1.63mmol)を得た。
【0023】
当該ジオールジメチルエステル0.52g(1.39mmol)、オルトギ酸メチル(CH(OMe)3)7ml及び触媒量のp−トルエンスルホン酸を混合し、窒素雰囲気下、100℃で1時間加熱、攪拌した。当該反応物を室温に冷却した後、飽和NaHCO3水溶液5mlとトルエン50mlを加え、室温で5分間混合した後、トルエン相を分取した。当該トルエン相のトルエンを留去し、ジオキソラン化合物〔前記式(5)で、Rがメチル基、nが7、Zがメトキシ基に相当する化合物〕を得た。当該ジオキソラン化合物を無水酢酸10mlに溶解した溶液を、予め加熱還流状態(139℃)にしておいた無水酢酸10ml中へ、30分かけて滴下した後、1時間加熱還流した。当該反応物の無水酢酸を減圧下に留去した後、飽和NaHCO3水溶液5mlとトルエン50mlを加え、室温で5分間混合した後、トルエン相を分取した。当該トルエン相のトルエンを減圧下に留去し、アルケンジメチルエステル〔前記式(4)で、Rがメチル基、nが7に相当する化合物〕0.443g(1.30mmol)を得た。 1H−NMR(400MHz、CDCl3)分析の結果、当該アルケンジメチルエステルの二重結合の異性体比は、シス:トランス=87:13であった。
【0024】
[実施例2]
アゼライン酸セミアルデヒド(前記式(1)で、Rが水素原子、nが7に相当する化合物)1.0g(5.8mmol)をエタノール10mlに溶解し、ビタミンB1の塩酸塩(前記式(8)で表される化合物の塩酸塩)0.2g(0.6mmol)及びトリエチルアミン5ml(36mmol)を加え、窒素雰囲気下、80℃で2時間加熱、攪拌した。当該反応混合物を室温に冷却した後1NのHCl(40ml)中に投入し、トルエン100mlを加え、50℃で10分間加熱、攪拌した後、トルエン相を分取した。当該トルエン相を5℃に冷却し、ヒドロキシケトン(前記式(2)で、Rが水素原子、nが7に相当する化合物)0.5g(1.45mmol)を白色固体として得た。
【0025】
[比較例1]
窒素置換したフラスコにWCl6(0.20g、0.51mmol)を秤りとり、無水ベンゼン10mlを加えた。SnMe4(0.10g、0.55mmol)を徐々に加え、25℃で10分間攪拌した。オレイン酸メチル(2.28g、7.7mmol)を無水ベンゼン4mlに溶解した溶液を一気に加え、25℃で10分間攪拌した後、70℃で20時間攪拌した。10%NaOHを5ml加えた後、エーテル(ジエチルエーテル/石油エーテル=1/4容量比)30mlで2回抽出した。得られたエーテル層を、5NのHCl、飽和NaHCO3水溶液、飽和NaCl水溶液で洗浄した後、MgSO4で乾燥した。MgSO4をろ過で除いた後エーテルを減圧下に留去し、粗生成物を得た。粗生成物中に含まれる2種のアルケンをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離し、アルケンジエチルエステル〔前記式(4)で、Rがメチル基、nが7に相当する化合物〕0.84g(2.47mmol)を得た。 1H−NMR(400MHz、CDCl3)分析の結果、当該アルケンジメチルエステルの二重結合の異性体比は、シス:トランス=43:57であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により、シベトン等の大環状ムスク系香料の合成において特に有用な、シス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を選択的に合成する方法を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物のアルデヒド基を連結することを特徴とする下記式(2)で表されるヒドロキシケトンの製造方法。
【化1】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表し、nは、1〜20の整数を表す。)
【化2】

(式中、R及びnは、それぞれ独立に前記式(1)と同様の意味を表す。)
【請求項2】
nが7であることを特徴とする請求項1に記載のヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項3】
チアゾリウム塩を用いてアルデヒド基を連結することを特徴とする請求項1又は2に記載のヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項4】
チアゾリウム塩が、3−置換−5−(2−ヒドロキシアルキル)−4−アルキル−1,3−チアゾリウムクロライドであることを特徴とする請求項3記載のヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項5】
チアゾリウム塩が、3−ベンジル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−1,3−チアゾリウムクロライド及び/又はビタミンB1であることを特徴とする請求項4記載のヒドロキシケトンの製造方法。
【請求項6】
前記式(2)で表されるヒドロキシケトンのケトン基を、金属イオンの存在下に還元することを特徴とする下記式(3)で表されるエリスロ型ジオールの製造方法。
【化3】

(式中、R及びnは、それぞれ独立に前記式(1)と同様の意味を表す。)
【請求項7】
nが7である請求項6に記載のエリスロ型ジオールの製造方法。
【請求項8】
ホウ素化合物を用いてケトン基を還元することを特徴とする請求項6又は7に記載のエリスロ型ジオールの製造方法。
【請求項9】
ホウ素化合物が、NaBH4及び/又はZn(BH42であることを特徴とする請求項8に記載のエリスロ型ジオールの製造方法。
【請求項10】
金属イオンが、アルカリ土類金属イオン及び/又は遷移金属イオンであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のエリスロ型ジオールの製造方法。
【請求項11】
金属イオンが、Zn2+である請求項6〜10のいずれか1項に記載のエリスロ型ジオールの製造方法。
【請求項12】
前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールの水酸基を脱離させることを特徴とする下記式(4)で表されるシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【化4】

(式中、R及びnは、それぞれ独立に前記式(1)と同様の意味を表す。)
【請求項13】
nが7であることを特徴とする請求項12に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項14】
前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールを、下記式(5)で表されるジオキソラン誘導体に変換した後、脱離させることを特徴とする請求項12又は13に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【化5】

(式中、Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表し、nは、それぞれ独立に1〜20の整数を表し、Zは、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくはアミノ基を表す。)
【請求項15】
nが7であることを特徴とする請求項14に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項16】
Zがアルコキシ基であることを特徴とする請求項14または15に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項17】
前記式(5)で表されるジオキソラン誘導体を、予め50〜250℃に加熱した無水酢酸中に加えることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項18】
以下の3工程を含むことを特徴とするシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
(第一工程)
前記式(1)で表される化合物のアルデヒド基を連結し、前記式(2)で表されるヒドロキシケトンを製造する工程。
(第二工程)
前記式(2)で表されるヒドロキシケトンのケトン基を、金属イオンの存在下に還元し、前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールを製造する工程。
(第三工程)
前記式(3)で表されるエリスロ型ジオールの水酸基を脱離させ、前記式(4)で表されるシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体を製造する工程。
【請求項19】
nが7であることを特徴とする請求項18に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項20】
第一工程において、チアゾリウム塩を用いてアルデヒド基を連結することを特徴とする請求項18又は19に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項21】
チアゾリウム塩が、3−ベンジル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−1,3−チアゾリウムクロライド及び/又はビタミンB1であることを特徴とする請求項20に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項22】
第二工程において、ホウ素化合物を用いてケトン基を還元することを特徴とする請求項18〜21のいずれか1項に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項23】
ホウ素化合物が、NaBH4及び/又はZn(BH42であることを特徴とする請求項22に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項24】
第二工程において、金属イオンが、アルカリ土類金属イオン及び/又は遷移金属イオンであることを特徴とする請求項18〜23のいずれか1項に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項25】
金属イオンが、Zn2+であることを特徴とする請求項24記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項26】
第三工程において、前記式(3)表されるエリスロ型ジオールを、前記式(5)で表されるジオキソラン誘導体に変換した後、脱離させることを特徴とする請求項18〜25のいずれか1項に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項27】
Zがアルコキシ基であることを特徴とする請求項26に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項28】
前記式(5)で表されるジオキソラン誘導体を、予め50〜250℃に加熱した無水酢酸中に加えることを特徴とする請求項26又は27に記載のシス二重結合含有ジカルボン酸誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2008−222596(P2008−222596A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60389(P2007−60389)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】