説明

シマリカラクトン(Simalikalactone)Eおよびその薬物としての使用

植物クアッシア・アマラ(Quassia amara)から抽出することができ、薬物として、特に、マラリアの予防および治療において使用することができるシマリカラクトンE。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、植物クアッシア・アマラ(Quassia amara)から抽出することができる新規分子シマリカラクトン(Simalikalactone)Eであり、また、その薬物としての、特に、マラリアの予防および治療における使用である。
【背景技術】
【0002】
マラリアは、HIV/AIDSおよび結核と併せて、WHOが世界で最も重要な疾患のうちの1つであると指定する3つの疾患のうちの1つである。毎年、100万〜200万人がマラリアにより死亡し、およそ5億人がマラリアに罹患し、マラリアの大きな影響を受けた国では、GDPの成長率が最大1.3%まで減少する恐れがある。アノフェレス属(Anopheles genus)の雌の蚊から咬傷を介してヒトに伝染するプラスモジウム属(Plasmodium genus)の寄生虫が、この疾患に関与する。ヒトマラリアに関与する4つの種、すなわち、三日熱マラリア原虫(P.vivax)、四日熱マラリア原虫(P.malariae)、卵形マラリア原虫(P.ovale)、および熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)がある。三日熱マラリア原虫と熱帯熱マラリア原虫とが最も一般的である。熱帯熱マラリア原虫への感染が最も重症であり、熱性昏睡の間に患者の死を引き起こす恐れがある。熱帯熱マラリア原虫マラリアは、サハラ以南のアフリカにおいて非常に広範に及び、そうした地域では、極めて高い死亡率が大方の場合、熱帯熱マラリア原虫マラリアに帰し得る。心配な徴候により、熱帯熱マラリア原虫マラリアの新しい領域への蔓延、および熱帯熱マラリア原虫マラリアが排除または制御されていた地域におけるその復活が裏付けられている。
【0003】
薬物として製剤化され、この疾患に対して活性を示す分子がほんの数個しかなく、耐性の出現により、治療がさらにより緊急の課題となっている。したがって、抗マラリア活性を示す新規分子の同定が不可欠である。
【0004】
マラリアに対する有効性が現時点で公知の分子のうち、キニーネ、その誘導体、さらに、その他の化合物、すなわち、クロロキン、アモジアキン、メフロキン、ハロファントリン、ルメファントリン、ならびにまた、アルテミシニンおよびその誘導体、例として、アーテスネートおよびアルテテルまたはアーテメターについて言及することができる。最も周知の分子は、原産地で伝統的に使用されている薬用植物に由来する。キニーネは、キナ種(Cinchona sp.)に由来し、アルテミシニンは、クソニンジン(Artemisia annua)に由来する。
【0005】
これらの分子のうちのいくつかは、予防(流行国への旅行の際の予防)または(感染の診断後の)治療のいずれかとして使用することができる。
【0006】
マラリア原虫のサイクルは、非常に複雑である。簡単に述べると、この寄生虫は、肝臓を通過した後、罹患した個体の赤血球に迅速に進入し、再生した寄生虫が、赤血球の破裂を引き起こすまでその中で再生し、近隣の赤血球に侵入する。次いで、疾患自体が、発熱として出現し、発熱は、初めは程度の差はあるが無秩序であり、次いで、いくつかの増殖サイクルの後に定期的となる。次いで、いくつかの寄生虫が、生殖母細胞に発達する。これらの生殖母細胞により、第1に、このサイクルがアノフェレス属(Anopheles)の蚊中で継続すること(生殖母細胞は蚊により消化されない)、および第2に、生殖母細胞が、受精のために必要である配偶子を決定付けるので、遺伝子混合が発生することが可能となる。
【0007】
キニーネおよびアルテミシニン等の分子は、赤血球中の増殖相の間に作用し、この赤血球相が、症候性の相である。抗殺生殖母細胞活性を示す分子に関しては、それらの利点は、これらの分子が集団治療戦略において引き起こすことができるであろう疾患の伝染率(感染性)の潜在的な減少にあり、また、循環している生殖母細胞のレベルに一部関連して、耐性が迅速に出現する現象が低下する可能性にもある(スルファドキシン−ピリメタミン(SP)およびクロロキンについて実証されている(感受性株対耐性株))。殺生殖母細胞治療を使用する利点にもかかわらず、このタイプの産物を検出し、そうした産物の使用を理論的に説明することを目的とする研究がほとんどない。現時点では、ほんの数個の分子が、この特性を有することが公知であるに過ぎず、これらは、アルテミシニンおよびその誘導体、ならびにプリマキンである。しかし、プリマキンは、その活性レベルに近い急性毒性を示すことから、このように使用するための最も適切な分子ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vigneron M.ら、Journal of ethnopharmacology、2005、98(3)、351〜360頁
【非特許文献2】Bertani S.ら、Journal of ethnopharmacology、2005、98(1−2)、45〜54頁
【非特許文献3】Bertani S.ら、Journal of Ethnopharmacology、2005、98(1−2)、45〜54頁
【非特許文献4】Bertani S.ら、Journal of Ethnopharmacology、2006、108(1)、155〜157頁
【非特許文献5】Z.Guoら、Current Medicinal Chemistry、2005、2、173〜190頁
【非特許文献6】Guido Fら、International Journal for Parasitology、1998、28、635〜640頁
【非特許文献7】Curcino Vieira I.およびBraz−Filho R.、Studies in Natural Products、Elsevier、2006、33、433〜492頁
【非特許文献8】W.TragerおよびJ.B.Jensen、Science、1976、193(4254):673〜675頁
【非特許文献9】Lambros,C.およびJ.P.Vanderberg、The Journal of Parasitology、1979、65(3):418〜420頁
【非特許文献10】Ribaut,C.ら、Malaria Journal、2008、7(1):45頁
【非特許文献11】Desjardins R.E.ら、Antimicrob.Agents Chemother、1979、16:710〜718頁
【非特許文献12】F.Benoitら、Trans.Roy.Soc.Trop.Med.Hyg.89:217〜218頁
【非特許文献13】Ifediba,T.およびJ.P.Vanderberg、Nature、1981、294(5839):364〜366頁
【非特許文献14】Sall,C.ら、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters、2008 18(16):4666〜4669頁
【非特許文献15】Mosmannら、1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
抗マラリア性薬物には、副作用がないわけではなく、特に、ハロファントリンは、心臓の問題と関連付けられており、メフロキンは、神経学的毒性を示す恐れがある。
【0010】
抗マラリア性薬物のうちのほとんどが、限定的な耐用年限を有し、それらの有効性が、耐性現象の出現のために喪失する。例えば、クロロキンも、また、ジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤(スルファドキシン/ピリメタミン:Fansidar(登録商標))も、最早ほとんどのプラスモジウム属株に対して活性を示さず、最早単独療法としては使用されない。また、耐性は、売りに出されている最新の薬物であるアルテミシニン誘導体についても出現している。WHO directiveによれば、無効になってしまったかまたは有効性を迅速に喪失する過程にある抗マラリア薬が、アルテミシニン誘導体と別の活性な分子とを組み合わせるACT(アルテミシニンに基づいた組合せ療法)により置き換えられている。しかし、2つの分子を組み合わせるにもかかわらず、この治療戦略の有効性が、アルテミシニン耐性現象により脅かされている。
【0011】
さらに、これらのACTを問題になっている集団にとって手頃な価格にするために、相当な努力がなされているにもかかわらず、それらのコストは依然として高いままである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、発熱およびマラリアに対してアマゾン北西部およびはるか遠く中央アメリカを通して伝統医学において使用されているニガキ科(Simaroubaceae)の種、クアッシア・アマラ(L.)に由来する新しい分子シマリカラクトンE(SkE)を同定するに至った。この分子が、マラリアに対する活性を示すことを示すに至った。
【0013】
民族薬理学的調査および生物学的試験により、クアッシア・アマラの成熟葉に基づいた調製物が、マラリアを治療するのに好都合であることを同定することが可能となった(Vigneron M.ら、Journal of ethnopharmacology、2005、98(3)、351〜360頁;Bertani S.ら、Journal of ethnopharmacology、2005、98(1−2)、45〜54頁)。in vitroおよびin vivoにおけるマウスに対する抗寄生虫試験により、この調製物のマラリアに対する活性が確認された(Bertani S.ら、Journal of Ethnopharmacology、2005、98(1−2)、45〜54頁)。マラリアに対して予防的および治癒的に使用される療法におけるこの種の使用頻度、ならびに検出された抗寄生虫活性を考慮して、観察される活性に関与する構成成分を同定するために、綿密な植物化学的研究が着手された。
【0014】
相当な抗マラリア活性を示すクアシノイドファミリーの分子、すなわち、シマリカラクトンDが、この種の若葉から単離された(Bertani S.ら、Journal of Ethnopharmacology、2006、108(1)、155〜157頁)。しかし、クアッシア・アマラの成熟葉から調製された伝統的な療法中に存在する少量のシマリカラクトンDによっては、この療法についてin vitroおよびin vivoにおいて観察される活性を正当化することができなかった。したがって、マラリアに対するクアッシア・アマラの活性に関与する、その他の活性薬剤の同定が探求された。幾人かの著者が、マラリアまたはその他の病理学的状態を治療するための活性成分として、クアシノイドに焦点を合わせた:Z.Guoら、Current Medicinal Chemistry、2005、2、173〜190頁;Guido Fら、International Journal for Parasitology、1998、28、635〜640頁;Curcino Vieira I.およびBraz−Filho R.、Studies in Natural Products、Elsevier、2006、33、433〜492頁。しかし、薬物の開発にまで至る分子は残らなかった。
【0015】
しかし、本発明者らは、クアッシア・アマラの成熟葉を使用して、クアシノイドファミリーの別の分子、すなわち、シマリカラクトンEを首尾よく同定するに至った。本発明者らは、この分子が、シマリカラクトンDよりも低い毒性を示すことに気付くことができた。
【0016】
シマリカラクトンEは、以下の式1に対応する。
【0017】
【化1】

【0018】
シマリカラクトンEは、本発明の第1の対象を構成する。
【0019】
この分子は、in vitroにおいて、マラリアに関与する株に対して活性を示し、in vivoにおけるマウス/プラスモジウム・ビンケイペテリ(Plasmodium vinckei petteri)のモデルにおいて、経口により活性を示す。したがって、この分子をマラリアの治療において使用することができる。
【0020】
新しいクアシノイド、すなわち、シマリカラクトンE(SkE)をマラリアを治療するためにアマゾンにおいて広く使用されている薬用植物であるクアッシア・アマラ(ニガキ科)から単離するに至った。この新しい分子は、試験株のクロロキン感受性とは独立に、24nM〜68nMの間の用量で、培養物中の熱帯熱マラリア原虫の増殖を50%阻害する。この新しい分子は、6574nMの用量で、ベロ哺乳動物細胞の増殖を50%阻害し、このことから、この分子の選択指数は、100超となる。また本発明者らは、この分子は、生殖母細胞のレベルをこの活性についての参照分子であるプリマキンを用いて得られた場合よりも7倍低い濃度で50%低下させることも示すに至った。in vivoにおいて、マラリアのマウスモデルに対して、SkEは、腹腔内0.5mg/kg/日および経口1mg/kg/日の用量でそれぞれ、P.ビンケイペテリの増殖を50%阻害する(参照分子であるクロロキンは、腹腔内3mg/kg/日の用量で、P.ビンケイペテリの増殖を50%阻害する)。
【0021】
したがって、本発明の第2の対象は、SkEおよび薬学的に許容される担体を含む薬物である。
【0022】
マラリアの治療および/または予防を意図する薬物中では、シマリカラクトンEを単独で使用しても、または別の抗マラリア薬と組み合わせて使用してもよい。
【0023】
そのような薬物をマラリアに罹患しておらず、リスクがある地域に一時的または恒久的に居住する個体に予防的に投与することができる。そのような薬物をマラリアに罹患している個体に、発作の間にも、また、疾患の潜伏期の間にも、治癒的に投与することができる。
【0024】
したがって、本発明の対象は、マラリアの予防または治療に適応である、SkEを含む薬物である。また、本発明の対象は、マラリアの伝染の低下に適応である、SkEを含む薬物でもある。
【0025】
適切な投与剤形として、経口投与剤形、例として、錠剤、軟質もしくは硬質のジェルカプセル剤、散剤、顆粒剤、および経口の液剤もしくは懸濁剤、舌下、頬側、気管内、眼内および鼻腔内への投与剤形、吸入による投与剤形、外用、経皮、皮下、筋肉内または静脈内の投与剤形、直腸投与剤形、ならびにインプラントが挙げられる。外用への適用のために、本発明による化合物をクリーム剤、ジェル剤、軟膏剤またはローション剤中で使用することができる。
【0026】
好ましい投与経路は、経口経路、直腸経路および注射による経路である。
【0027】
錠剤の剤形をとる固体組成物を、活性成分のSkEを、例えば、ゼラチン、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ、アラビアゴム、マンニトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたは類似の構成成分等の1つまたは複数の薬学的賦形剤と混合することによって調製することができる。錠剤をスクロース、セルロース由来の誘導体またはコーティングに適しているその他の材料を用いてコーティングすることができる。錠剤は、当業者に周知の種々の技法、例として、直接圧縮、乾式造粒、湿式造粒または熱融解のプロセスにより調製することができる。
【0028】
また、ジェルカプセル剤の剤形をとる組成物を、活性成分を希釈剤と混合し、得られた混合物を軟質または硬質のジェルカプセル中に注ぐことによって調製することも可能である。
【0029】
非経口投与のために、水性懸濁剤、等張生理食塩水または無菌注射用液剤を使用し、これらは、薬理学的に適合性の分散化剤および/または湿潤剤、例えば、プロピレングリコールまたはブチレングリコールを含有する。
【0030】
好都合には、SkEの1日量は、以下に示す量、すなわち、0.01mg/kg/d〜500mg/kg/dのSkEである。特に、これらの用量は、経口投与に適している。
【0031】
より高いまたはより低い投与量が適切である特定の場合があり得、そのような投与量は、本発明の文脈から逸脱しない。通常のやり方に従って、各患者に適している投与量が、医師により、投与方法、ならびに体重および前記患者の治療に対する応答に従って決定される。
【0032】
本発明の薬物は、1日1回または複数回の服用、好ましくは、1日単回の服用として、優先的には連続5〜10日間投与することを意図する。
【0033】
SkEは、寄生虫株が、クロロキン感受性であれ、クロロキン耐性であれ、in vitroにおいて同等の活性を示し、このことは、SkEの、クロロキン耐性マラリア地域(アジア、アフリカ、ギアナを含めた南アメリカの特定地域)における使用を想定することを可能にする。
【0034】
SkEは、現時点で市場に存在する、マラリアを治療するための薬物全てと比較して、異なる化学的クラスに属する。したがって、SkEは、現存する薬物に対して耐性を示す株に対して有効であり得る。
【0035】
SkEの殺生殖母細胞活性は、参照分子のプリマキンの殺生殖母細胞活性よりも7倍高く、また、プリマキンは、毒性問題も示す。この活性を生かして、SkEが使用されるであろう地域の伝染率および耐性現象を低下させることが可能である。
【0036】
SkEと同じ化学的クラスの分子であるいくつかのクアシノイドの抗マラリア活性が、すでに実証されている。in vivoにおいて、マラリアを有するマウスに対して活性を示すクアシノイドは、セルゴリド、グラウカルビノン、セドロニン、ブルセオリドおよびその誘導体であり、また、シマリカラクトンD(SkD)でもある。
【0037】
SkEについて本発明者らが測定するに至った毒性は、SkDの哺乳動物細胞株(ベロ細胞)に対する毒性よりも低い。SkEの、熱帯熱マラリア原虫に関する選択指数は、SkDの選択指数の2倍である。したがって、SkEは、毒性がより低いことから、SkDを上回る利点を示す。
【0038】
また、この分子は、生殖母細胞に対しても作用する。生殖母細胞は、寄生虫の有性型であり、アノフェレス属のベクターが、汚染されている個体から血液を引き出す際に、この寄生虫に感染する。したがって、この分子は、寄生虫の、ヒトからアノフェレス属への伝染に対して作用を示し(血中の生殖母細胞の量を低下させ、感染性の減少をもたらす)、また、(循環している生殖母細胞のレベルと相関する)耐性の汎発の可能性に対しても作用を示す。後者の点は、より具体的には、これらの耐性現象の予防または遅延を目的とするいくつかの分子を組み合わせる治療において生かすことができるであろう。
【0039】
また、本発明の対象は、クアッシア・アマラ葉からSkEを単離するための方法でもある。
【0040】
SkEをクアッシア・アマラの乾燥した成熟葉から、以下のステップを含むプロトコールを使用して単離することができる。Q.アマラの乾燥した成熟葉を粉砕し、メタノールを用いて抽出する。この抽出物をn−ヘプタン、酢酸エチル、メタノールおよび水に基づいた二相系中に溶解させる。下相を回収し、下相の体積を減圧下で蒸発により半分に低下させる。酢酸エチルを用いてこの溶液を抽出する。酢酸エチルを蒸発させて除く。得られた残渣をクロロホルム中に溶解させ、弱塩基性の水溶液を用いて洗浄する。有機相を回収し、乾燥させ、減圧下で濃縮する。この抽出物を酢酸エチル中に溶解させ、水を用いて洗浄する。有機相を減圧下で蒸発させ、得られた残渣をシリカカラムから、酢酸エチルを用いて溶出する。
【0041】
得られた抽出物を以下のプロトコールに従って精製する。抽出物を遠心分配クロマトグラフィーにより、n−ヘプタン、酢酸エチル、メタノールおよび水から構成されるArizona H系を使用して、上昇モードで分画する。25mlの試料を回収する。SkEを含む試料を組み合わせ、クロマトグラフィーにより、シリカカラム上で、シクロヘキサン/酢酸エチルの混合物を極性を増加させて用いて溶出して精製する。SkEは、50/50のシクロヘキサン/酢酸エチルの混合物により溶出する。
【0042】
また、本発明の対象は、マラリアを治療および/または予防するための方法でもあり、この方法は、治療有効用量のSkEを患者に投与するステップを含む。また、本発明の対象は、マラリアの伝染を低下させるための方法でもあり、この方法は、治療有効用量のSkEを集団に投与するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】SkEの抗マラリア原虫活性および細胞傷害性を報告する表である。
【図2】寄生虫血の阻害を報告する表である。
【図3】マウスの生存時間(日単位で示す)を治療(用量)および投与経路(IP/PO)の関数として示すグラフである。治療および投与経路を示す:CQ:クロロキン(1、5または10mg/kg/日、4日間);SkE:シマリカラクトンE(0.5、1、5、10または20mg/kg/日、4日間);PO:経口経路、IP:腹腔内経路。
【図4】種々の治療について観察および計算(内挿)されるマウスの平均生存時間を報告する表である。
【図5】ネズミマラリア原虫によるマラリアおよび熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの肝臓段階に対する、SkEの活性および細胞傷害性を報告する表である。
【図6】げっ歯類またはヒトの初代肝細胞上における、ネズミマラリア原虫感染(A)および熱帯熱マラリア原虫感染(B)の肝臓段階に対する、SkEの用量−応答作用を示すグラフである。
【実施例】
【0044】
I.実験のセクション
A − シマリカラクトンEを得るためのプロトコール
クアッシア・アマラ葉を仏領ギアナのRemire−Montjolyにおいて収集した。標本(GB3012)を収集し、その植物学的同一性をギアナのCayenne Herbariumにおいて確認した。
【0045】
SkEをクアッシア・アマラから、以下のプロトコールを使用することによって単離した。1kgのQ.アマラの乾燥した成熟葉を粉砕し、6lのメタノールを用いて24時間抽出する。この抽出を2回実施して、200gの抽出物を得る。50gのこの抽出物を2lの比率3/2/3/2のn−ヘプタン、酢酸エチル、メタノールおよび水から構成される二相系中に溶解させる。最も重い相を濃縮して500mlとし、そこに500mlの水を添加する。この溶液を1lの酢酸エチルを用いて抽出する。酢酸エチルを減圧下で蒸発させて除く。得られた残渣を1.5lのクロロホルム中に溶解させ、0.001M水酸化ナトリウム溶液を用いて4回洗浄する。有機相を回収し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥し、減圧下で濃縮して、3.3gの抽出物を得る。この抽出物を500mlの酢酸エチル中に溶解させ、500mlの水を用いて洗浄する。有機相を減圧下で蒸発させ、得られた残渣を短いシリカカラムから、酢酸エチルを用いて迅速に溶出する。酢酸エチルを蒸発させて除くと、1.0gの抽出物を得る。この抽出物を遠心分配クロマトグラフィー(1Lの回転子が装備されているKromaton装置)により、比率1/3/1/3のn−ヘプタン、酢酸エチル、メタノールおよび水から構成されるArizona H系を使用して、上昇モード、16℃の温度で分画する。溶媒を25ml/分で流し、回転子のスピードは、1000rpmとし、溶出の間には、40バールの圧力を維持するように変化させる。抽出物(1.0g)を40mlのArizona H系中に溶解させ、ろ過し、注入する。25mlの試料を収集する。試料14−15−16を組み合わせて、画分F1(120mg)を得る。この画分をクロマトグラフィーにより、シリカカラム上で、シクロヘキサン/酢酸エチルの混合物を、極性を増加させて用いて溶出して精製する。SkE(10mg)を50/50のシクロヘキサン/酢酸エチルの混合物を用いて溶出する。植物からの収率は0.004%である。
【0046】
SkEを質量分析、NMRおよび赤外分光法、ならびにSkEの旋光度により特徴付けた。また、結晶が、重水素化メタノールから得られたので、分子のX線画像も得られた。SkEの物理化学的特徴を以下に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
B − 生物学的活性
B1 − 材料および方法
− 熱帯熱マラリア原虫の培養
熱帯熱マラリア原虫の以下の3つの株を使用した。
− クロロキン感受性のF32 Tanzania、
− クロロキン耐性FcB1 Colombia、
− W2 Indochina。
【0049】
日常的に維持される唯一のin vitroにおける培養物が、(疾患の臨床所見に対応する)赤血球内段階の培養物である。全てのステップを、培養物が任意の細菌または真菌により汚染される危険を冒さないように、層流フード(PS2、Jouan)下で、無菌性の基本則を適用することによって実施する。培養は、いずれの抗菌性または抗真菌性の分子も存在しない状態下で実施する(これらの分子には、抗マラリア原虫活性の評価を妨げる可能性がある)。
【0050】
熱帯熱マラリア原虫の培養は、25または75cmの無菌の培養皿(供給元:TPP、スイス)中で実施する。毎日、培地を交換しなければならず、寄生虫の生存に適したpH(pH≒7.2〜7.4)を維持しなければならない。使用する技法は、W.TragerおよびJ.B.Jensen、Science、1976、193(4254):673〜675頁により最初に記載された技法から得られる。
【0051】
使用する培地は、RPMI1640(供給元:Lonza、Emerainville)である。この出発培地に、
− 25mmol/lのヘペス(供給元:Lonza、Emerainville)、
− 200mMのL−グルタミン(供給元:Lonza、Emerainville)、
− 7%v/vのABヒト血清(供給元:SHAB、Etablissement Francais du Sang[フランス血液銀行]、Toulouse Rangueil)
を補充する。
【0052】
次いで、およそ4%のヘマトクリットを維持し、寄生虫血をおよそ2%に維持するように、寄生されている健常な赤血球(HRBC)をまた、寄生されている赤血球(PRBC)を添加する(RBC O、Etablissement Francais du Sang[フランス血液銀行]、Toulouse Rangueil)。この点を検証するために、毎日、血液塗抹標本を培養皿から調製し、Diff Quick(供給元:Dade Behring、Paris La Defense)を用いて染色する。次いで、寄生虫血を光学顕微鏡(倍率、×100)下で読み取ることによって視覚的に評価する。
【0053】
例えば、塗抹標本の読取り後の寄生虫血が8%である場合、前記寄生虫血を2%に戻すために、培養物ペレットを4つに分割することが必要である。ヘマトクリットをおよそ4%、すなわち、およそ10mlの培地(25cm皿)中では400μlの赤血球ペレット、またはおよそ30mlの培地(75cm皿)中では1.2mlの赤血球ペレットに継続的に維持する。
− 塗抹標本の染色
Diff Quick(登録商標)迅速染色セットは、ギムザ染色を用いて得られる結果に近い結果を出し、非常に素早く使用される。したがって、Diff Quick(登録商標)を日常的に使用して、寄生虫の増殖を毎日評価する。ギムザ技法は、より面倒であり、正確な寄生虫血の評価(同調アッセイ、in vivoにおける評価)のために後で使う。
Diff Quick(登録商標)
あらかじめ乾燥した血液塗抹標本をDiff Quick(登録商標)溶液中に数回浸し、したがって、わずか30秒後に固定および染色することができる。
【0054】
このセットは、3つの試薬、すなわち、
− 固定液:メタノール中に溶解させたFast Green(0.002g/l)、
− 第1の色素:pH=6.6のリン酸緩衝液中に溶解させたエオシン(1.22g/l)、および保存剤としての0.1%(w/v)のアジ化ナトリウム中に溶解させたエオシン、
− 第2の色素:pH=6.6のリン酸緩衝液中に溶解させたチアジン色素(1.1g/l)
を含む。
使用するための技法
最初に、種々の反応物を、蓋を有する染色皿または任意のその他の適切な容器中に置く。
【0055】
次いで、塗抹標本を固定液に5回連続して出し入れして1秒間、次いで、第1の色素に7回連続して出し入れして1秒間、最後に第2の色素に20回連続して出し入れして1秒間浸す。
【0056】
5、7または20秒間の単回の浸漬では、染色が芳しくない。
【0057】
過剰な溶液は、各試薬の間に、迅速に流して除かなければならない。
【0058】
乾燥後、スライドを光学顕微鏡下で読み取ることができる。
ギムザ
ギムザは、酸性色素のエオシン酸アズールと、塩基性色素のメチルバイオレット、メチルブルーおよびメチルアズールとから構成される中性の染色であり、水中で沈殿する。得られた沈殿物は、水中では不溶性であるが、メチルアルコール中では溶解性である。
【0059】
酸性の細胞構成成分が、塩基性色素により選択的に染色される。これらの構成成分は、好塩基性と記載され(寄生虫のDNA)、ブルー〜バイオレットに染色される。
【0060】
塩基性の細胞構成成分が、酸性色素により選択的に染色される。これらの構成成分は、好酸性(acidophilic)または好酸性(eosinophilic)と記載され(赤血球の細胞質)、オレンジ様〜ピンクに染色される。
【0061】
好中性の構成成分は、酸性色素および塩基性色素の両方により染色される。
ギムザ保存液の調製
アルミ箔を用いて覆われている(遮光)三角フラスコ中の100mlのグリセロール(供給元:Sigma Ultra、G6279−1L)中に、1.52gのギムザ(供給元:Sigma、G5637−25G)を添加し、60℃の水浴中で数分間加熱する。
【0062】
次いで、混合物を周囲温度でおよそ4時間磁気撹拌する。メタノール(100ml)を添加し、容器を一晩磁気撹拌し続ける。
【0063】
翌日、撹拌を停止する。調製物を1週間静置状態に保ち、次いで、ひだろ紙No.3を使用して、遮光したフラスコ中にろ過する。
− pH=7.2の緩衝液の保存液の調製
2gのリン酸カリウム(KHPO)および5gのリン酸ナトリウム(NaHPO・HO)を1Lの蒸留水に添加する。
− 塗抹標本染色溶液の用時調製
この溶液は、ギムザ保存液を緩衝溶液中で10%に希釈することによって得られる。次いで、塗抹標本を溶液中に、スライドホルダーを使用して浸し、接触のおよそ20分後に、水を用いて濯ぐ。乾燥後、スライドを光学顕微鏡下で読み取ることができる。
in vitroにおける、培養物の、古い形態の溶解による同調
この技法(Lambros,C.およびJ.P.Vanderberg、The Journal of Parasitology、1979、65(3):418〜420頁)は一般に、in vivoにおいて観察される寄生虫の同調的な発達の状態を再構成するために、in vitroにおける抗マラリア原虫活性の評価試験を実施する前に培養物に対して実施される。この技法により、古い寄生虫の形態を排除し、単一の段階、すなわち、環状期の若い形態のみを保つことが可能となる。また、この技法により、古い形態の選択的濃縮と組み合わせて(Ribaut,C.ら、Malaria Journal、2008、7(1):45頁)、試験する分子が優先的に作用する寄生段階を評価することも可能となる。
【0064】
原理:寄生虫は、赤血球内増殖の間に、代謝のために大量の栄養素を必要とする。宿主細胞が、限定的な資源しかもたないので、寄生虫は、基質および異化産物の膜を越えた輸送を増加させるように、赤血球膜を透過性にする。赤血球の透過性が、寄生虫の加齢と共に増加する。したがって、熱帯熱マラリア原虫に感染している赤血球の高いヘキシトール透過性を使用して、古い寄生虫に感染している赤血球(シゾント段階)を選択的に溶解させる。若い寄生虫の形態、すなわち、環状期のみが生存する。
【0065】
技法:5gのD−ソルビトール(Sigma、フランス)を100mlの蒸留水中に可溶化する。次いで、無菌溶液を得るために、混合物全体を0.22μmのミリポアフィルター(Millex GV、Cork)を通過させることによってろ過する。同調させようとする培養物は、顕著な量の若い(環)形態を有さなければならない。前記培養物を450gで10分間遠心分離した後、上清を除去する。
【0066】
あらかじめ調製し、37℃に加熱したソルビトール溶液を培養物ペレットに、滴下して添加する。全体をホモジナイズした後、37℃の水浴中に10分間保つ。
【0067】
次いで、さらに遠心分離し、ソルビトールを含有する上清を除去し、赤血球ペレットを血清を含有しないRPMIを用いて2回洗浄する。次いで、赤血球ペレットをあらかじめ調製し、37℃に保った完全培地を含有する皿中の培養物中に戻す。
抗マラリア原虫活性の評価
種々の産物の抗マラリア活性をDesjardinsらが記載し、Benoitらが改変を導入した、トリチウム標識したヒポキサンチンを使用する放射活性による方法により評価する(Desjardins R.E.ら、Antimicrob.Agents Chemother、1979、16:710〜718頁;F.Benoitら、Trans.Roy.Soc.Trop.Med.Hyg.89:217〜218頁)。
【0068】
試験を96ウエル培養プレート(供給元:TPP、スイス)中で、主として環状期の培養物に対して実施する。寄生虫を産物と37℃および5%COで48時間接触させる。次いで、寄生虫の増殖を以下の寄生虫の核酸内へのトリチウム標識したヒポキサンチンの組込みにより推定する。IC50値を濃度の関数としての増殖のパーセント阻害曲線に関するグラフから決定する。したがって、SkEの抗マラリア活性を以下のプロトコールに従って評価した。
【0069】
各試験物質について、ウエルに、寄生されている赤血球を含有する溶液(1.5%寄生虫血、2%ヘマトクリットを有する溶液)100μlを播種し、次いで、ウエルに、希釈度を増加させたSkE100μl(保存液は、DMSO中に調製し、希釈は、完全培地中で行う)を添加する。
【0070】
プレートを調製したら、インキュベーター中に24時間置く(37℃、5%COおよび加湿雰囲気)。対照分子のクロロキンを、10%血清を補充した37℃のRPMI中に直接可溶化する。
【0071】
24時間のインキュベーションの後、RPMI中で0.37GBq/mlに希釈した、トリチウム標識したヒポキサンチン溶液20μlを各ウエルに添加する(トリチウム標識したヒポキサンチン1mCi/ml、Perkin Elmer)。次いで、プレートを24時間インキュベートし、次いで、赤血球の溶解を引き起こすために凍結する。
【0072】
プレートを周囲温度でおよそ1時間かけて解凍する。次いで、赤血球を細胞ハーベスター(Filtermate Harvester、Packard)により、フィルター(Printed Filtermat Aフィルター、1450−421、Wallac Perkin Elmer)上に収集する。次いで、フィルターを周囲温度で乾燥する。フィルターを乾燥したら、密封したバッグ(Sample Bag、1450−432、Perkin Elmer)中に置き、次いで、2mlのシンチレーション液(Perkin Elmer)を添加する。
【0073】
次いで、放射活性を測定するために、フィルターをβ−カウンター中に置かれているカセット中に置く。結果をいずれの活性成分も与えられていない対照(0%阻害)と比べた組込みの阻害を、試験した活性成分の濃度の関数として示す曲線上に表す。次いで、IC50(寄生虫の増殖の50%を阻害する濃度)をグラフから計算する。
細胞傷害性の評価
この評価は、2つの細胞型、すなわち、乳房腫瘍細胞株であるMCF−7系、およびベロ細胞(サル腎臓細胞)に対して実施する。
【0074】
10%ウシ胎仔血清(FCS)が強化されたDMEM培地中でMCF−7細胞を培養する。その他の培養または試験を実施するように、細胞がコンフルエントになった場合には、週2回、細胞を継代培養(継代)する、すなわち、細胞を再度利用するために、細胞を細胞の支持体から引き離すことが必要になる。継代は、3mlのトリプシン−EDTA(Sigma)を細胞の単層に添加し、次いで、37℃でインキュベートして3分間保つことによって実施する。トリプシン−EDTAは、細胞外マトリックスを消化することによって、付着細胞を引き離し、次いで、懸濁液中の細胞を回収することを可能にする。FCSを有するDMEMを添加することによって反応を停止する。次いで、細胞数をMalassez細胞上で評価する。死んだ細胞のパーセントを決定するために、トリパンブルーを用いて生体染色を実施する(死んだ細胞は、30%を上回るべきではない)。
【0075】
75cm皿当たり300万個で、DMEM+10%FCSの30ml中に細胞を再播種し、インキュベーター(37℃、加湿空気、5%CO)中に置く。
【0076】
ベロ細胞は、サル腎臓上皮細胞である。MCF−7と同じ方法でベロ細胞を培養するが、10%FCS、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、ヘペスおよびグルタミンを補充したEMEM培地中で培養する。
【0077】
細胞傷害性の評価は、抗マラリア活性試験と同じ方法に従うが、熱帯熱マラリア原虫をMCF−7またはベロ細胞で置き換える。
【0078】
しかし、培養の異なる様式に起因する小さな改変がいくつかある。これは、細胞傷害性試験のために使用する細胞が付着細胞であり、それらの増殖がより緩慢であることによる。したがって、試験産物と接触させる24時間前に、96ウエルプレート中に細胞を播種する。24時間後、細胞をウエルの底部に付着させ、培地を交換し、次いで、試験分子を添加し、それらの希釈を完全培地中で実施する。使用する培地は、使用する細胞によって異なる(DMEMまたはEMEM)。
【0079】
抗マラリア活性試験と同じように、産物と接触させた24時間後にトリチウム標識したヒポキサンチンを添加し、48時間後にプレートをフリーザー中に置く。最後に、抗マラリア活性試験について放射活性を測定する。熱帯熱マラリア原虫のIC50値の評価について、IC50値の評価をグラフから実施する。
殺生殖母細胞活性の評価
W2株の培養物に対してのみ殺生殖母細胞活性を評価する。使用する技法は、IfedibaおよびVanderbergが記載し(Ifediba,T.およびJ.P.Vanderberg、Nature、1981、294(5839):364〜366頁)、Sallらが記載した改変(Sall,C.ら、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters、2008 18(16):4666〜4669頁)を伴う技法から得られる。D−ソルビトールを用いて培養物を溶解した後に、2%の寄生虫血(ヘマトクリット4%)に調節する。完全培地を有し、さらに、200mMのヒポキサンチンも含有する培養皿(75cm)を垂直に保つ。11日間毎日この培地を交換する。この時期に、N−アセチルグルコサミンを培地に添加する。2日後に、24ウエルのプレート中に生殖母細胞を分配し、濃度を増加させて活性成分を添加する(三つ組)。48時間後に、塗抹標本を各ウエルに対して実施する。gametocytemiaを視覚的に評価し、対照(活性成分を有さないウエル)と比べたパーセント阻害を濃度の関数として示す曲線をプロットする。次いで、IC50g(生殖母細胞)をグラフから決定する。使用する対照は、プリマキン、すなわち、参照の殺生殖母細胞性の抗マラリア薬である。
in vivoにおける抗マラリア活性の評価
P.ビンケイペテリに感染させた雌Swissマウス(22g±2)上でSkEの抗マラリア活性を評価した。試験のために使用するマウスに感染させる前に、寄生虫を解凍し、2バッチのマウス中に注射し、継代することにより維持した。寄生されている血液を後眼窩鼻腔から採取し、研究の各マウスに、2×10個の寄生虫を腹腔内感染させた。感染動物を1ケージ当たり5匹のバッチに分け、4日間毎日腹腔内から治療した。各マウスに200μlの調製物を与えるように、90%DMSO(腹腔内経路)またはカルボキシメチルセルロース(経口経路)中に調製した4つの濃度でSkEを試験した。実験は、200μlの90%DMSOまたはCMCを単独で経口により与えた、対照の寄生されているマウス、および3バッチの5匹のマウスを含み、これらのバッチのそれぞれは、PBS中に希釈した1、5および10mg/kgのクロロキン溶液を用いて治療した(IP)。
【0080】
治療の終わり(感染の5日後)に、各マウスの尾から1滴の血液を得、メタノールを用いて固定し、ギムザを用いて染色して、血液塗抹標本を実施した。スライドを顕微鏡下で調べ、寄生虫血を10000個の赤血球について数えた。
【0081】
マウスの生存を21日間モニターした。
ネズミマラリア原虫(Plasmodium yoelii)および熱帯熱マラリア原虫の肝臓段階に対する、in vitroにおけるシマリカラクトンE(SkE)の活性の評価
前赤内期の段階に対するSkEのin vitroにおける活性を、異なるプラスモジウム属の種で試験した。熱帯熱マラリア原虫(R.Sauerwein、オランダによる収集物)の連続的な培養物を与えた蚊ステフェンスハマダラカ(Anopheles stephensi)の感染唾液腺、またはネズミマラリア原虫を寄生させたマウス(Insectarium of INSERM Unit 945)の感染唾液腺からスポロゾイトを得た。in vitroにおけるアッセイをヒト初代肝細胞(HH)またはマウス初代肝細胞(MH)の培養物それぞれを使用して実施した。一次細胞を(それぞれ、ヒトまたは雌のSwissマウスから得た)肝臓の小片のコラーゲナーゼの灌流により単離し、続いて、分離した細胞をパーコール勾配上で精製した。肝細胞を96ウエルマイクロプレート中に播種し(35000個のMH/ウエルおよび82500個のHH/ウエル)、10%FCS(Hyclone)、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、2mMのグルタミン、5μg/mlのインスリンおよび5×10−7Mのヘミコハク酸ヒドロコルチゾンを補充したWilliam培地中の培養物中に37℃および5%COで維持した。SkEの保存液をDMSO中に200mg/mlで調製し、次いで、所望の濃度を得るように、上記の完全培地中で希釈した。肝細胞に、ネズミマラリア原虫のスポロゾイト(30000個)、または熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト(40000個)を感染させた。SkE化合物を種々の濃度で、スポロゾイトと同時に添加した。次いで、培地をスポロゾイトの接種の3時間後に置き換え、次いで、毎日置き換えた。ネズミマラリア原虫については感染の48時間後に、および熱帯熱マラリア原虫については感染の5日後に培養物を固定した。PfHSP70に対して作られたマウス血清を用いて肝臓のシゾントを蛍光免疫標識した後、化合物の阻害作用を蛍光顕微鏡解析により定量化した。Excelソフトウエアを用いて活性を評価して、IC50、すなわち、未処理の対照と比べて感染の50%を阻害する濃度を計算した。
初代げっ歯類肝細胞または初代ヒト肝細胞に対する、in vitroにおけるSkEの細胞傷害性の評価
並行して、化合物の細胞傷害性も、試験化合物の活性についてのアッセイにおけるのと同じ条件下で処理したヒトおよびげっ歯類の肝細胞上で、MTT(テトラゾリウム)比色分析アッセイ(Mosmannら、1983)により評価した。初代のげっ歯類またはヒトの肝細胞をそれぞれ、種々の濃度の試験化合物と共に2日間または5日間インキュベートした後、100μlのMTT溶液(500μl/ml)を各ウエルに添加した。次いで、プレートを37℃で4時間インキュベートした。次いで、ホルマザンの結晶を100μlのDMSO−エタノールの混合物(V/V)中に溶解させた。光学密度を分光光度法により540nmにおいて測定した。結果を未処理の対照と比べたパーセント細胞生存率として表す。
B2 − 結果
SkEの抗マラリア原虫活性をin vitroおよびin vivoにおいて決定した。結果を図1の表に報告する。
【0082】
SkEは、in vitroにおいて、熱帯熱マラリア原虫の3つの異なる株に対して、24nM〜68nMの間のIC50値を示す。活性は、使用した株のクロロキン耐性のレベルに依存しない。
【0083】
Peters試験プロトコールによれば、SkEは、in vivoにおいて、P.ビンケイペテリに感染させたマウスに対して経口(PO)または腹腔内(IP)により活性を示す。対照がクロロキン、ip(ED50=3mg/kg/日)である場合、IP経路(対照の寄生虫血の平均して50%に等しい寄生虫血を付与する用量に対応する50%有効用量(effective dose 50)、ED50=0.5mg/kg/日)は、PO経路(ED50=1mg/kg/日)よりも有効である(図2の表)。
【0084】
マウスの生存を3週間モニターし、生存時間を1つの実験について求める(図3および表3)。SkE、ip、1mg/kg/日を用いて治療したマウスの平均生存時間は、18.6日超であり、クロロキン、ip、10mg/kg/日を用いて治療したマウス平均生存時間に類似する。
【0085】
生存曲線(図3)が示すように、IP経路については、1mg/kg/dの用量が、10mg/kg/dのCQについて得られるものと同等であることが明らかである。さらに、表1により確認されるように、IP経路を介すると、マウスの生存は常に、1の用量のCQを用いて治療したマウスの生存よりも良好であり、p<0.05を示す(統計学的に有意な差を示す可能性が95%であると仮定される)。SkE、IP、0.5群およびSkE、IP、1群を5mg/kg/dのCQと比較する場合、同じ有意な差が見出される(p<0.05)。
【0086】
また、以下の細胞傷害性活性も実証された。
【0087】
SkEの細胞傷害性は、細胞傷害性の評価のために使用する細胞によって異なり、6μM(ベロ細胞)〜33nM(THP1細胞)の範囲に及ぶ。
【0088】
また、SkEは、寄生虫の有性型(生殖母細胞)に対しても作用し、優れた殺生殖母細胞活性を示し、この活性は、参照分子であるプリマキンよりも7倍高い。
【0089】
SkEの、ネズミマラリア原虫に感染させたマウス肝細胞に対する活性。3つの実験に関して計算した平均から、186±16nMのIC50を得た(図5の表および図6Aを参照されたい)。SkEは、参照薬物のプリマキンと比較した場合、同じ条件下では、プリマキン(IC50=640nM)よりも少なくとも3倍活性である。並行して、細胞傷害性も評価した。毒性が、実施した3つの実験のうちの1つにおいて観察され(TC50=1.12μM)、一方、その他の2つの実験においては、最も高い試験濃度(5.54μM)でも、毒性は観察されなかった。
【0090】
また、SkEは、熱帯熱マラリア原虫の肝臓段階に対しても活性を示す(IC50=1.198±0.19μM、2つの実験に関して計算した平均)(図5の表および図6B)。観察される活性は、げっ歯類の変形体(plasmodia))上で観察される活性よりも低いが、同じ種に対してプリマキンを用いる場合に観察される活性(IC50=0.80μM)に近い。さらに、式TI=TC50/IC50により計算した治療指数(TI=75)は、プリマキンの治療指数(TI=81)に匹敵する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1に対応する分子。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の式1の分子および薬学的に許容される担体を含む薬物。
【請求項3】
マラリアを予防および/または治療するために使用するための、請求項2に記載の薬物。
【請求項4】
マラリアの伝染を低下させるために使用するための、請求項2または3に記載の薬物。
【請求項5】
経口投与、直腸投与、注射による投与または外用投与を意図する、請求項2から4の一項に記載の薬物。
【請求項6】
SkEの1日量が、0.01mg/kg/d〜500mg/kg/dのSkEである、請求項2から5のいずれか一項に記載の薬物。
【請求項7】
クアッシア・アマラ葉から、請求項1に記載のSkEを単離するための方法。
【請求項8】
以下のステップ:Q.アマラの乾燥した成熟葉を粉砕し、メタノールを用いて抽出するステップと、この抽出物をn−ヘプタン、酢酸エチル、メタノールおよび水に基づいた二相系中に溶解させるステップと、下相を回収し、下相の体積を減圧下で蒸発により半分に低下させるステップと、酢酸エチルを用いてこの溶液を抽出するステップと、酢酸エチルを蒸発させて除くステップと、得られた残渣をクロロホルム中に溶解させ、弱塩基性の水溶液を用いて洗浄するステップと、有機相を回収し、乾燥させ、減圧下で濃縮するステップと、この抽出物を酢酸エチル中に溶解させ、水を用いて洗浄するステップと、有機相を減圧下で蒸発させるステップと、得られた残渣をシリカカラムから、酢酸エチルを用いて溶出するステップとを含む、クアッシア・アマラの乾燥した成熟葉からSkEを単離するための、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−530117(P2012−530117A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515536(P2012−515536)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000447
【国際公開番号】WO2010/146257
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511306088)
【Fターム(参考)】