説明

ショート故障検出装置及びノード装置

【課題】 2線式通信ラインのショート故障を検出することができるようにする。
【解決手段】 車載LANを構成する2線式通信ライン10に、その2本の線路CANH,CANLのそれぞれの電位を測定する電位測定手段13と、電位測定手段13で測定された電位に基づいて2線式通信ライン10がショート故障であるか否か判定するショート故障判定手段15とを備えたショート故障検出装置1を取り付けることにより、2線式通信ラインのショート故障を検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2線式通信ラインのショート故障を検出するショート故障検出装置及びノード装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載LAN(ローカルエリアネットワーク)等に従来から用いられる通信プロトコルとして、CAN(Controller Area Network)がある。このCANでは、2線式通信ラインを用いて通信が行なわれる。
図7に、CANの2線式通信ラインの一例を模式的に示す。図7に示すように、この2線式通信ライン100は、末端に終端抵抗106,107を有する2本の線路CANH,CANLを有している。また、2本の線路CANH,CANLの間には、それぞれ通信機能を有するノード装置101〜105が接続されている。
さらに、ノード装置101〜105がデータを送信するに際しては、反転信号を送信することにより、線路CANH,CANLそれぞれの電位を変動させるようになっている。一方、ノード装置101〜105が、データを受信するに際しては、線路CANH,CANLそれぞれの電位を測定するようになっている。
【0003】
かかる2線式通信ライン100を用いての通信を行なう場合には、データ送信元となるいずれかのノード装置(例えば、ノード装置105)から線路CANHと線路CANLとに反転信号を送出して、線路CANH,CANLそれぞれの電位を変動させ、線路CANH,CANL間の電位差を、論理値「1」に当たるレセシブレベルと論理値「0」に当たるドミナントレベルとに切り替える。
【0004】
一方、通信を受信するノード装置(例えば、ノード装置101〜104)は、線路CANH,CANLそれぞれの電位を測定することにより線路CANH,CANL間の電位差がレセシブレベルとドミナントレベルとにいずれであるかを判定し、送信されたデータを2値情報として受信する。
CANでは、以上のようにして2線式通信ラインを用いた通信が行なわれている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−304265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような2線式通信ラインでいずれかの線路にショート故障が生じた場合には通信異常が生じ、上記2線式通信ラインを用いた通信を行なうことができなくなる。このような場合、従来は、通信異常の原因がショート故障に起因するものであることを検出するための装置が無かったため、通信異常の原因を特定するためにはオシロスコープやテスターなどを用いて人手により調査を行なっていた。
【0007】
このため、通信異常の原因を特定することが困難であり、更には、例えば車載LAN等において、ショート故障による通信異常が起こった場合に通信異常の原因を特定できないために、異常が生じていない部材を誤って交換してしまう等の不適切な対応をすることがあった。
本発明は、上記の課題に鑑みて創案されたもので、2線式通信ラインのショート故障を検出することができるようにした、ショート故障検出装置及びノード装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のショート故障検出装置は、2本の線路を有しこれら2本の線路間に通信機能を有するノード装置が接続された2線式通信ラインのショート故障を検出するショート故障検出装置であって、上記2本の線路のそれぞれの電位を測定する電位測定手段と、該電位測定手段で測定された電位に基づいて上記2線式通信ラインがショート故障であるか否か判定するショート故障判定手段とを備えることを特徴とする(請求項1)。これにより、2線式通信ラインのショート故障を検出することが可能となる。また、2本の線路のどちらでショート故障が生じたかを判定することもできる。
【0009】
このとき、上記ノード装置に、該電位測定手段又は該ショート故障判定手段が設けられていることが好ましい(請求項2)。これにより、2線式通信ラインに新たな部材を追加することなくショート故障の検出ができるようになるため、2線式通信ラインの構成の簡素化を図ることができる。
【0010】
また、該ショート故障検出手段は、該電位測定手段による測定電位が第1所定時間以上グランドショート判定のための基準値以下である場合に上記2線式通信ラインがグランドショート故障であると判定するように構成することが好ましい(請求項3)。さらに、該ショート故障判定手段は、該電位測定手段による測定電位が第2所定時間以上バッテリショート判定のための基準値以上である場合に上記2線式通信ラインがバッテリショート故障であると判定するように構成することが好ましい(請求項4)。これにより、発生しているショート故障がグランドショート故障かバッテリショート故障かを判定することができる。
【0011】
また、該ショート故障検出装置は、該ショート故障判定手段で判定された故障状態を記憶する故障状態記憶手段を備えることが好ましい(請求項5)。さらに、該ショート故障検出装置は、該ショート故障判定手段で判定された故障状態を通知する故障状態通知手段とを備えることが好ましい(請求項6)。これにより、通信異常の発生時に故障状態を的確に把握することが可能となるため、通信異常の発生原因の特定に要する時間を短縮することができるようになる。
【0012】
さらに、該ショート故障検出装置は、通信異常を検出する通信異常検出手段と、該通信異常検出手段が上記通信異常を検出した場合には該ショート故障判定手段にショート故障の判定を行なわせ、該通信異常検出手段が上記通信異常を検出していない場合には該ショート故障判定手段にショート故障の判定を禁止するショート判定制御手段とを備えることが好ましい(請求項7)。これにより、現実に通信異常が発生し、ショート故障の発生が疑われるときにのみショート故障の検出を行なうようにすることができるため、ショート故障の誤検出を防止することが可能となる。
【0013】
また、本発明のノード装置は、2本の線路を有する2線式通信ラインの上記2本の線路間に接続されるノード装置であって、上記2本の線路のそれぞれの電位を測定する電位測定手段と、該電位測定手段で測定された電位に基づいて通信を行なう通信手段と、該電位測定手段で測定された電位に基づいて上記2線式通信ラインがショート故障であるか否か判定するショート故障判定手段とを備えることを特徴とする(請求項8)。これによっても、2線式通信ラインのショート故障を検出することが可能となり、また、2本の線路のどちらでショート故障が生じたかを判定することもできるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のショート故障検出装置及びノード装置によれば、2線式通信ラインのショート故障を検出できるようにすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
図1〜図6は本実施形態について説明するもので、図1は本実施形態の2線式ライン及びノード装置を模式的に示すブロック図、図2はショート判定制御手段で行なわれる制御要領を説明するためのフローチャート、図3はグランドショート判定手段で行なわれる判定要領を説明するためのフローチャート、図4はバッテリショート判定手段で行なわれる判定要領を説明するためのフローチャート、図5はグランドショート故障の検出を説明するためのタイミングチャート、図6はバッテリショート故障の検出を説明するためのタイミングチャートである。
【0016】
本実施形態の2線式通信ライン10は、車載LANを構成するためにCANによる通信を行なう通信ラインである。図1に示すように、2線式通信ライン10は、末端に終端抵抗6,7を有する2本の線路CANH,CANLを有している。また、2本の線路CANH,CANLの間には、それぞれ通信機能を有するノード装置1〜5が接続されていて、線路CANH,CANL間の電圧差をレセシブレベルとドミナントレベルとに切り替えて通信を行なうようになっている。なお、各ノード装置1〜5は、それぞれの目的に応じた車両制御を行なうための電子制御装置(ECU)として構成されている。
【0017】
ただし、上記2線式通信ライン10においてノード装置1はショート故障検出装置としても機能するものであり、通信手段としてのCANトランシーバ11と、通信制御手段としてのCANコントローラ12と、電位測定手段としての電位センサ13と、ショート検出部14とを備えている。一方、ノード装置1はハードウェア的にはCPU(Central Processing Unit)や、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のメモリ、更にはAD変換部等のインターフェース部からなるマイクロコンピュータ1Aを内蔵しており、CANコントローラ12、電位センサ13及びショート検出部14は、マイクロコンピュータ1Aがその機能を発揮するようになっている。
【0018】
CANトランシーバ11は、マイクロコンピュータ1Aに接続されて、マイクロコンピュータ1A内のCANコントローラ12の制御にしたがって通信を行なうべく、線路CANH及び線路CANLそれぞれに接続されており、データの送信を行なうデータ送信手段(図示省略)と、データの受信を行なうデータ受信手段(図示省略)とを備えている。
【0019】
データ送信手段は、データの送信時に反転信号を送信することにより、線路CANH,CANLそれぞれの電位を変動させて線路CANH,CANL間の電位差をレセシブレベルとドミナントレベルとに切り替えてデータを送信するものである。なお、線路CANHの電位は、レセシブレベルでは相対的に低い電位になり、ドミナントレベルでは相対的に高い電位になるようになっている。一方、線路CANLの電位は、レセシブレベルでは相対的に高い電位になり、ドミナントレベルでは相対的に低い電位になるようになっている。
また、データ受信手段は、線路CANH,CANLそれぞれの電位を測定することにより線路CANH,CANL間の電位差がレセシブレベルとドミナントレベルとのいずれであるかを検出し、それを信号として受信するものである。
【0020】
さらに、CANコントローラ12は、送信しようとするデータに応じてCANトランシーバ11を制御し、他のノード装置2〜5にデータを送ることができるようにすると共に、CANトランシーバ11のデータ受信手段で受信した信号を受け取って、他のノード装
置2〜5からのデータを受信できるようになっている。
また、CANコントローラ12は、その通信状態の情報をショート検出部14に送るようになっていて、ショート検出部14に送られた通信状態の情報は通信のエラー検出に用いられるようになっている。
【0021】
さらに、電位センサ13は、マイクロコンピュータ1AにおけるAD変換部のAD端子AD0,AD1が線路CANH,CANLに接続されることにより、線路CANH及び線路CANLそれぞれの電位をマイクロコンピュータ1AのAD端子AD0,AD1を通じて測定するセンサである。なお、この電位センサ13は、CANトランシーバ11内に設けられたデータ送受信用の電位センサ(図示省略)に兼用させても構わないが、本実施形態ではCANトランシーバ11とは別にマイクロコンピュータ1A内に設けられているものとして説明する。また、電位センサ13で測定された線路CANH,CANLそれぞれの電位は、ショート検出部14に送られるようになっている。
【0022】
ショート検出部14は、上記2線式通信ラインのショート故障を検出するもので、ショート故障判定手段15と、故障記憶手段16と、故障状態通知手段17と、通信異常判定手段18と、ショート判定制御手段19とを備えている。
【0023】
ショート故障判定手段15は、電位センサ13から送られた線路CANH,CANLの電位に基づいて、2線式通信ライン10がショート故障であるか否かを判定するものである。さらに、ショート故障判定手段15は、線路CANH,CANLそれぞれの電位に基づいて判定を行なうことにより、線路CANH,CANLのどちらでショート故障が生じているか否かを検出することもできるようになっている。また、ショート故障判定手段15は、線路CANH,CANLそれぞれでグランドショート(以下適宜、「GNDショート」という)故障が生じているか否かを判定するGNDショート判定手段20と、線路CANH,CANLそれぞれでバッテリショート(以下適宜、「+Bショート」という)故障が生じているか否かを判定する+Bショート判定手段21とを備えている。
【0024】
GNDショート判定手段20は、GNDショート判定のための基準値(以下適宜、「GNDショート基準値」という)及び判定のための所定の時間(以下適宜、「第1所定時間」という)を記憶している。そして、GNDショート判定手段20では、線路CANH,CANLにGNDショート故障が生じた場合にはGNDショート故障が生じた線路CANH,CANLの電位が正常時よりも低くなることを利用し、線路CANH,CANLの電位が第1所定時間以上の期間だけGNDショート基準値以下となった場合に、電位がGNDショート基準値以下となった側の線路でGNDショート故障が生じていると判定するようになっている。
【0025】
ここで、GNDショート基準値は、線路CANH,CANLにGNDショート故障が生じたと判定するための基準となる電圧値である。GNDショート故障が生じた場合には、線路CANH,CANLの電位が低下するため、通常は、上記線路CANLのドミナントレベル時の電位よりも低く設定される。なお、このGNDショート基準値は、例えば、実験的に求めたものをメモリに記憶させておけばよい。
【0026】
また、第1所定時間はGNDショート故障が生じたと判定するまでの検証を行なう時間である。即ち、GNDショート故障が生じていない場合であっても、例えば線路CANH,CANLの瞬断やノイズ、通常の通信時の電圧のゆらぎなどの要因によって、線路CANH,CANLの電位が一時的にGNDショート基準値以下となることはありえる。したがって、上記のように線路CANH,CANLの電位が一時的にGNDショート基準値以下となった場合にショート故障を誤検出することを防止するため、ある所定の時間(即ち、第1所定時間)だけ電圧値がGNDショート基準値以下となった場合に、GNDショー
ト判定手段20はGNDショート故障が発生していると判定するようになっている。
【0027】
一方、+Bショート判定手段21は、+Bショート判定のための基準値(以下適宜、「+Bショート基準値」という)及び判定のための所定の時間(以下適宜、「第2所定時間」という)を記憶している。そして、+Bショート判定手段21では、線路CANH,CANLに+Bショート故障が生じた場合には+Bショート故障が生じた線路CANH,CANLの電位が正常時よりも高くなることを利用し、線路CANH,CANLの電位が第2所定時間以上の期間だけ+Bショート基準値以上となった場合に、電位が+Bショート基準値以上となった側の線路で+Bショート故障が生じていると判定するようになっている。
【0028】
ここで、+Bショート基準値は、線路CANH,CANLに+Bショート故障が生じたと判定するための基準となる電圧値である。+Bショート故障が生じた場合には、線路CANH,CANLの電位が上昇するため、通常は、上記線路CANHのドミナントレベル時の電位よりも高く設定される。なお、この+Bショート基準値も、例えば、実験的に求めたものをメモリに記憶させておけばよい。
【0029】
また、第2所定時間は+Bショート故障が生じたと判定するまでの検証を行なう時間である。即ち、+Bショート故障が生じていない場合であっても、GNDショート故障の場合と同様に、例えば線路CANH,CANLの瞬断やノイズ、通常の通信時の電圧のゆらぎなどの要因によって、線路CANH,CANLの電位が一時的に+Bショート基準値以上となることはありえる。したがって、上記のように線路CANH,CANLの電位が一時的に+Bショート基準値以上となった場合にショート故障を誤検出することを防止するため、ある所定の時間(即ち、第2所定時間)だけ電圧値が+Bショート基準値以上となった場合に、+Bショート判定手段21は+Bショート故障が発生していると判定するようになっている。
【0030】
さらに、故障記憶手段16は、ショート故障判定手段15で判定された判定結果を記憶するものである。本実施形態では、ショート故障が生じた時刻、線路CANHと線路CANLとのどちらでショート故障が生じたか、生じたショート故障はGNDショート故障と+Bショート故障とのどちらであるかなどの情報をダイアグコードとして記憶するようになっている。
【0031】
また、故障情報通知手段17は、ショート故障判定手段15でショート故障が生じたと判定された場合に、ショート故障が生じていることをユーザなどに通知するものである。通知の方法は任意であるが、本実施形態では、ショート故障が生じたと判定された場合に車両内のインジケータ22を制御して、ショート故障が生じている旨をユーザに通知するようになっているものとする。
【0032】
さらに、通信異常判定手段18は、2線式通信ライン10で通信異常が発生しているか否かを判定するものである。具体的には、通信異常判定手段18は、CANコントローラ12から送られてくる通信状態の情報を用いて、CANプロトコルで規定されているビットエラー、スタッフエラー、巡回冗長検査エラー(CRCエラー)、フォームエラー、送信確認エラー(ACKエラー)などの通信異常が発生しているか否かを判定するようになっている。
【0033】
また、ショート判定制御手段19は、ショート故障判定手段15の制御を行なうものである。具体的には、車両のイグニッションがオン(IGON)となって2線式通信ライン10が通信可能となってから所定の時間(以下適宜、「開始所定時間」という)を経過し、且つ、通信異常判定手段18が通信異常が発生していると判定している場合にショート
故障検出手段15にショート故障が生じているか否かの判定を行なわせ、それ以外の場合にはショート故障検出手段15にショート故障が生じているか否かの判定を行なわせないように禁止する制御を行なうようになっている。
なお、他のノード装置2〜5もマイクロコンピュータとCANトランシーバ11とを有しているが、マイクロコンピュータはCANコントローラ12のみを有し、ショート故障検出機能は有していない。
【0034】
本実施形態のノード装置1は以上のように構成されているので、通信時には、CANコントローラ12の制御によりCANトランシーバ11が線路CANH及び線路CANL間の電位差をレセシブレベルとドミナントレベルとに変動させることでデータの送信を行ない、また、上記の電位差をCANトランシーバ11で読み取って信号化し、その信号をCANコントローラ12が受け取ることでデータの受信を行なう。
また、通信が行なわれる際、CANコントローラ12は通信情報をショート検出部14に送る。また、電位センサ13は、線路CANH,CANLそれぞれの電位を測定し、それをショート検出部14に送る。
【0035】
ショート検出部14では、CANコントローラ12から送られてきた通信情報に基づいて、通信異常判定手段18が2線式通信ライン10に通信異常が生じているか否かの判定を行なう。そして、この判定結果はショート判定制御手段19に送られる。
ショート判定制御手段19は、図2に示すように、まず、ステップS1で2線式通信ライン10が通信可能となってから開始所定時間が経過しているか否かの判定を行なう。開始所定時間が経過していればステップS2に進み次の判定を行ない、経過していなければステップS3に進んでショート故障判定手段15によるショート故障判定を禁止する制御を行なう。車両のイグニッションスイッチがONとなった直後など、2線式通信ライン10が通信可能となった直後においては線路CANH,CANLの電位が安定していないため、そのままショート故障の検出操作を行なうとショート故障を誤検出する虞があるためである。
【0036】
ステップS2では、通信異常判定手段18の判定結果に基づき、2線式通信ライン10に通信異常が生じていると判定された場合にはステップS4に進んでショート故障判定手段15にショート故障の判定を許可する制御を行ない、逆に2線式通信ライン10に通信異常が生じていないと判定された場合にはステップS3に進んでショート故障判定手段15のショート故障の判定を禁止する制御を行なう。ショート故障が発生している場合には2線式通信ライン10で何らかの通信異常が生じているはずであり、したがって、上記の通信異常が発生している場合にだけショート故障が生じているか否かの判定を行なうようにすれば、確実にショート故障の検出を行なうことができるようになる。即ち、ショート故障が発生していない状態においてショート故障の検出操作を行なうことによるショート故障の誤検出の可能性を防止しているのである。
【0037】
このようにステップS3によるショート故障の判定の禁止又はステップS4によるショート故障の判定の許可のいずれかを行ない、ショート判定制御手段19での一連の制御は終了する。なお、ショート判定制御手段19はこの一連の制御をショート故障の検出に適切な所定周期毎に繰り返し行なっているものとする。
【0038】
ショート判定制御手段19によりショート故障判定を実施することを許可された場合には、ショート故障判定手段15では、GNDショート判定手段20が線路CANH,CANLそれぞれについてGNDショート故障が発生しているか否かの判定を行ない、+Bショート判定手段21が線路CANH,CANLそれぞれについて+Bショート故障が発生しているか否かの判定を行なう。
【0039】
GNDショート判定手段20では、図3に示すように、まず、ステップSg1において電位センサ13から送られてきた線路CANH,CANLそれぞれの電位を読み取り、それがGNDショート基準値以下となっているか否かの判定を行なう。測定された電位がGNDショート基準値以下となっている場合にはステップSg2に進み、逆に、測定された電位がGNDショート基準値以下となっていない場合にはステップSg3に進んで判定対象となっている側の線路CANH,CANLではGNDショート故障が発生していないと判定する。
【0040】
ステップSg2では、測定された電位がGNDショート基準値以下となってから第1所定時間が経過したか否かの判定を行なう。第1所定時間が経過している場合にはステップSg4に進んで検出対象となっている側の線路CANH,CANLでGNDショート故障が発生していると判定する。逆に、第1所定時間が経過していない場合にはステップSg3に進んで検出対象となっている側の線路CANH,CANLではGNDショート故障が発生していないと判定する。
【0041】
このようにステップSg4によるGNDショート故障が発生しているとの判定又はステップSg3によるGNDショート故障が発生していないとの判定のいずれかを行ない、GNDショート判定手段20での一連の判定操作は終了する。なお、GNDショート判定手段20はこの一連の判定操作をショート故障の検出に適切な所定周期毎に繰り返し行なっているものとする。
【0042】
また、+Bショート判定手段21では、図4に示すように、まず、ステップSb1において電位センサ13から送られてきた線路CANH,CANLそれぞれの電位を読み取り、それが+Bショート基準値以上となっているか否かの判定を行なう。測定された電位が+Bショート基準値以上となっている場合にはステップSb2に進み、逆に、測定された電位が+Bショート基準値以上となっていない場合にはステップSb3に進んで検出対象となっている側の線路CANH,CANLでは+Bショート故障が発生していないと判定する。
【0043】
ステップSb2では、測定された電位が+Bショート基準値以上となってから第2所定時間が経過したか否かの判定を行なう。第2所定時間が経過している場合にはステップSb4に進んで検出対象となっている側の線路CANH,CANLで+Bショート故障が発生していると判定する。逆に、第2所定時間が経過していない場合にはステップSb3に進んで検出対象となっている側の線路CANH,CANLでは+Bショート故障が発生していないと判定する。
【0044】
このようにステップSb4による+Bショート故障が発生しているとの判定又はステップSb3による+Bショート故障が発生していないとの判定のいずれかを行ない、+Bショート判定手段21での一連の判定操作は終了する。なお、+Bショート判定手段21はこの一連の判定操作をショート故障の検出に適切な所定周期毎に繰り返し行なっているものとする。
【0045】
ショート故障判定手段14で行なわれた判定の結果は、故障記憶手段16に送られ、故障記憶手段16でダイアグコードとして記憶される。したがって、ユーザ(多くは整備を行なう者)は故障記憶手段16に記憶されたダイアグコードを読み取ることにより、何時、どこで、どのようなショート故障が発生しているかを知ることができるため、速やかにショート故障の有無を発見してその修理を行なうことができる。
【0046】
また、ショート故障判定手段14でショート故障が発生していると判定された場合には、故障情報通知手段17がインジケータ22を制御して、ショート故障の発生をユーザ(
多くは運転者)に通知する。例えば、インジケータ22にショート故障通知用のランプを設けておき、ショート故障が発生している間だけ当該ランプを点灯させるようにすればよい。
【0047】
以下、具体的な事例を示して、本実施形態について更に説明する。
図5に、上記のようにしてGNDショート故障の検出を行なった場合のタイミングチャートを示す。なお、図5において横軸はすべて共通の時間軸を表わすものとする。
図5の事例では、それまで正常であった電位が時刻t1にGNDショート基準値以下となっている。しかし、時刻t2以降は電位はGNDショート基準値よりも大きくなっており、時刻t1から時刻t2までの時間は第1所定時間に満たない。したがって、GNDショート判定手段20はGNDショート故障が発生していないと判定し、故障記憶手段16は故障情報を記憶せず、故障状態通知手段17もインジケータ22をONにしない。
【0048】
また、時刻t3には、再度電位がGNDショート基準値以下となっている。そして、時刻t4になったときに、電位がGNDショート基準値以下となってから第1所定時間が経過することになるので、この時点で、GNDショート判定手段20はGNDショート故障が発生していると判定する。また、この判定に伴い故障記憶手段16は故障情報をダイアグコードとして記憶し、故障状態通知手段17はインジケータ22をONにしてユーザにGNDショート故障が発生していることを通知する。
【0049】
さらに、時刻t5以降には電位はGNDショート基準値よりも大きくなっており、これにより、GNDショート判定手段20はGNDショート故障が発生していないと判定し、故障状態通知手段17もインジケータ22をOFFにする。ただし、後でダイアグコードを参照して修理を行なうようにするために、故障記憶手段16はダイアグコードを記憶し続ける。
なお、この事例は、永久GNDショート故障ではなく、2線式通信ライン10が一時的にGNDショート故障状態になったときのものである。
【0050】
さらに、図6に、上記のようにして+Bショート故障の検出を行なった場合のタイミングチャートを示す。なお、図6において横軸はすべて共通の時間軸を表わすものとする。
図6の事例では、それまで正常であった電位が時刻T1に+Bショート基準値以上となっている。しかし、時刻T2以降は電位は+Bショート基準値よりも小さくなっており、時刻T1から時刻T2までの時間は第2所定時間に満たない。したがって、+Bショート判定手段21は+Bショート故障が発生していないと判定し、故障記憶手段16は故障情報を記憶せず、故障状態通知手段17もインジケータ22をONにしない。
【0051】
また、時刻T3には、再度電位が+Bショート基準値以上となっている。そして、時刻T4になったときに、電位が+Bショート基準値以上となってから第2所定時間が経過することになるので、この時点で、+Bショート判定手段21は+Bショート故障が発生していると判定する。また、この判定に伴い故障記憶手段16は故障情報をダイアグコードとして記憶し、故障状態通知手段17はインジケータ22をONにしてユーザに+Bショート故障が発生していることを通知する。
【0052】
さらに、時刻T5以降には電位は+Bショート基準値よりも小さくなっており、これにより、+Bショート判定手段21は+Bショート故障が発生していないと判定し、故障状態通知手段17もインジケータ22をOFFにする。ただし、後でダイアグコードを参照して修理を行なうようにするために、故障記憶手段16はダイアグコードを記憶し続ける。
なお、この事例も、永久+Bショート故障ではなく、2線式通信ライン10が一時的に+Bショート故障状態になったときのものである。
【0053】
このように、本実施形態のノード装置1によれば、2線式通信ライン10のショート故障を検出することが可能となる。また、2本の線路CANH,CANLのどちらでショート故障が生じたかを判定することもできる。
また、本実施形態のノード装置1によれば、発生しているショート故障がGNDショート故障か+Bショート故障かを判定することができる。したがって、2線式通信ライン10で通信異常が生じている場合に、例えば線路CANH,CANLと車体部とのショートに起因するGNDショート故障が上記通信異常の原因である場合や、例えば線路CANH,CANLと電源系のハーネスとのショートに起因する+Bショート故障が上記通信異常の原因である場合に、その通信異常の原因を速やかに特定することが可能となる。さらに、これにより、従来生じていたようなノード装置の誤交換などの不適切な修理を防止することができる。
【0054】
また、検出したショート故障の故障状態を記憶するようにしたため、通信異常の発生時に故障状態を的確に把握することが可能となるため、通信異常の発生原因の特定に要する時間を短縮することができるようになる。特に、線路CANHと線路CANLとのどちらでショート故障が生じたか、生じたショート故障はGNDショート故障と+Bショート故障とのどちらであるかなどの情報を別々のコード情報を有するダイアグコードで記憶するようにすれば、車両を顧客先やディーラー等で修理・点検する際などにおいて通信異常の原因調査に要する時間を格段に短縮することが可能となる。
【0055】
さらに、ショート故障が生じていると判定された場合にその旨を通知するようにすれば、ショート故障の発生を確実にユーザ等へ伝えることができる。
また、2線式通信ライン10の電圧が安定している場合や、通信異常が生じている場合にだけショート故障の検出を行なうようにすれば、ショート故障の発生が疑われる条件時にのみショート故障の検出を行なうようにすることができるため、ショート故障の誤検出を防止することが可能となる。
【0056】
さらに、ノード装置に電位センサ13やショート故障判定手段15を設けてノード装置1自体をショート故障検出装置として構成したため、2線式通信ライン10に新たな部材を追加することなくショート故障の検出ができるようになり、2線式通信ライン10の構成を簡素化することができる。特に、車載LANに上記のショート故障検出装置を用いる場合は、インジケータ22、MIL、オフボードダイアグ装置などからアクセス可能なノード装置1をショート故障検出装置として機能するように構成すれば、安価なシステム構築が可能となる。
【0057】
なお、2線式通信ライン10上でショート故障が生じた場合には、線路CANH及び線路CANLのうちのショートした方の線路は同電位となるため、2線式通信ライン10のショート故障を検出するためにはその2線式通信ライン10に少なくとも1つのショート故障検出装置(上記実施形態ではノード装置1)を接続するようにすれば良い。
【0058】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
例えば、他のノード装置2〜5にもノード装置1と同様にショート故障検出機能を備えさせることもできる。
さらに、ショート故障の検出を行なう際、GNDショート故障又は+Bショート故障のいずれか一方のみを検出するように構成することもできる。
【0059】
また、上記実施形態では故障記憶手段16、故障状態通知手段17、通信異常判定手段18、及びショート判定制御手段19を全て有する例を示したが、これらを選択的に組み
合わせて用いることも可能である。
さらに、上記実施形態ではショート故障検出装置を通信可能なノード装置に組み込んで構成したが、ショート故障検出装置の構成要素の一部又は全部を上記ノード装置から独立させて構成しても良い。
【0060】
また、通信プロトコルとしてCAN以外のプロトコルを用いた2線式通信ラインにショート故障検出装置を設けるようにしてもよい。
さらに、上記実施形態では車載LANに用いられる2線式通信ラインを例示したが、船舶、電車、建造物、農業機器、医療機器など、他のものに設けられたネットワークに用いられる2線式通信ラインに上記ショート故障検出装置を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、2線式通信ラインを用いる任意の分野で用いることができ、特に、通信プロトコルとしてCANを用いるものに用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態を説明するもので、2線式ライン及びノード装置を模式的に示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態を説明するもので、ショート判定制御手段で行なわれる制御要領を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態を説明するもので、GNDショート判定手段で行なわれる判定要領を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態を説明するもので、+Bショート判定手段で行なわれる判定要領を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態を説明するもので、GNDショート故障の検出を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】本発明の一実施形態を説明するもので、+Bショート故障の検出を説明するためのタイミングチャートである。
【図7】従来のCANの2線式通信ラインの一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ノード装置(ショート故障検出装置)
1A マイクロコンピュータ
2〜5,101〜105 ノード装置
6,7,106,107 終端抵抗
10,100 2線式通信ライン
11 CANトランシーバ(通信手段)
12 CANコントローラ
13 電位センサ(電位測定手段)
14 ショート検出部
15 ショート故障判定手段
16 故障記憶手段
17 故障状態通知手段
18 通信異常判定手段
19 ショート判定制御手段
20 GNDショート判定手段
21 +Bショート判定手段
22 インジケータ
CANH,CANL 線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の線路を有しこれら2本の線路間に通信機能を有するノード装置が接続された2線式通信ラインのショート故障を検出するショート故障検出装置であって、
上記2本の線路のそれぞれの電位を測定する電位測定手段と、
該電位測定手段で測定された電位に基づいて上記2線式通信ラインがショート故障であるか否か判定するショート故障判定手段とを備える
ことを特徴とする、ショート故障検出装置。
【請求項2】
上記ノード装置に、該電位測定手段又は該ショート故障判定手段が設けられていることを特徴とする、請求項1記載のショート故障検出装置。
【請求項3】
該ショート故障判定手段が、該電位測定手段による測定電位が第1所定時間以上グランドショート判定のための基準値以下である場合に上記2線式通信ラインがグランドショート故障であると判定することを特徴とする、請求項1又は2に記載のショート故障検出装置。
【請求項4】
該ショート故障判定手段が、該電位測定手段による測定電位が第2所定時間以上バッテリショート判定のための基準値以上である場合に上記2線式通信ラインがバッテリショート故障であると判定することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のショート故障検出装置。
【請求項5】
該ショート故障判定手段で判定された故障状態を記憶する故障状態記憶手段を備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のショート故障検出装置。
【請求項6】
該ショート故障判定手段で判定された故障状態を通知する故障状態通知手段とを備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のショート故障検出装置。
【請求項7】
通信異常を検出する通信異常検出手段と、
該通信異常検出手段が上記通信異常を検出した場合には該ショート故障判定手段にショート故障の判定を行なわせ、該通信異常検出手段が上記通信異常を検出していない場合には該ショート故障判定手段にショート故障の判定を禁止するショート判定制御手段とを備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のショート故障検出装置。
【請求項8】
2本の線路を有する2線式通信ラインの上記2本の線路間に接続されるノード装置であって、
上記2本の線路のそれぞれの電位を測定する電位測定手段と、
該電位測定手段で測定された電位に基づいて通信を行なう通信手段と、
該電位測定手段で測定された電位に基づいて上記2線式通信ラインがショート故障であるか否か判定するショート故障判定手段とを備える
ことを特徴とする、ノード装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−191404(P2006−191404A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1980(P2005−1980)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】