説明

シリカガラスルツボ製造方法およびシリカガラスルツボ製造装置

【課題】シリカガラスルツボの製造において製造中に正確な温度測定を可能とすること。
【解決手段】シリカ粉末をルツボ成形用のモールド内に供給してシリカ紛層を形成し、そのシリカ紛層をアーク放電によって加熱熔融してシリカガラスルツボを製造する装置であって、
シリカ粉を供給してシリカ紛層を形成するためのモールドと、複数本の炭素電極および電力供給部とを具備するアーク放電部と、少なくとも前記モールド内の熔融部分の温度測定を行う温度測定部とを有し、
前記温度測定部が、波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを検出して温度を測定する放射温度計とされてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラスルツボ製造装置およびシリカガラスルツボ製造方法に係り、特に、シリコン単結晶の引上げに用いられるシリカガラス製のルツボ製造における内表面特性の制御に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造にはシリカガラスルツボを用いたチョクラルスキー法(CZ法)が採用されている。シリカガラスルツボは、一般的に、その内部にシリコン多結晶原料を熔融したシリコン融液が貯留され、回転させながらシリコン単結晶の種結晶を浸漬して徐々に引上げ、シリコン単結晶を種結晶を核として成長させる引き上げる際に使用される。
このシリカガラスルツボは多数の気泡を含む外層と透明な内層とからなる二層構造とされ、この内層の表面つまり、単結晶引き上げ時にシリコン融液と接している内表面の特性によって引き上げられるシリコン単結晶の特性が左右され、最終的なシリコンウェーハの収率にも影響を及ぼすことが知られている。
このため、内層を非晶質である合成粉からなる合成シリカガラスとし、外層を天然シリカガラスからなる構成が知られている。
【0003】
例えば、シリカガラスルツボを用いシリコンを熔融し単結晶を引き上げる際に、熔融シリコンの液面に波が発生し、種結晶の適確な浸漬による種付けが困難であり、シリコン単結晶の引上げができず、あるいは、単結晶化が阻害されるという湯面振動の問題がしばしば発生していた。この湯面振動(液面振動)現象はシリコン結晶が大口径化するに伴い、さらに発生し易くなってきている。このため、益々、シリカガラスルツボの内表面の内表面特性を改善することが必要になってきた。これに対応するために特許文献1に記載されるような対応をすることが知られている。
【0004】
さらに、φ300mm以上、φ450mm程度のウェーハに対応してシリコン単結晶大口径化が要求されるに伴い、単結晶の引上げ作業が長時間化し1400°C以上のシリコン融液にルツボ内表面が長時間接触するようになったため、次のような問題が顕在化している。
引き上げ長時間化に起因するルツボ内表面のシリコン融液接触時間長時間化により、ルツボ内表面がシリコン融液と反応して、ルツボ内表面の表面位置あるいは表面から浅い層に結晶化が起こり、褐色のクリストバライトがリング状(以下ブラウンリングという)に現れることがある。このブラウンリング内はクリストバライト層がないかまたはあっても大変薄い層であるが、操業時間の経過とともにブラウンリングはその面積を拡大し、互いに融合しながら成長を続け、遂にはその中心部が浸食され、不規則なガラス溶出面となる。このガラス溶出面から微少ガラス片が脱落すると、シリコン単結晶に転位が起こり易くなり、単結晶引上げの歩留まり(収率)に支障をきたすことになる。特に、φ300mm以上の大口径のウェーハを製造するシリコン単結晶を成長させるにはCZ法の操業を100時間を超えて行う必要があり、上記ガラス溶出面の出現が顕著となる。
【0005】
上記ブラウンリングは、ガラス表面の微細な傷や原料粉の溶け残りである結晶質残留部分、ガラス構造の欠陥などを核として発生すると考えられており、その数を減らすには、ガラスの表面状態を良好に保ったり、結晶質残留成分をなくするためにシリカガラスルツボ製造工程における熔融時間を高温、長時間化したり、或いは特許文献2、3に示すように内表面を形成する原料粉として非晶質である合成粉を使用することが考えられる。
上記非晶質である合成粉からなる合成シリカガラスは、不純物の含有量が極めて少なく、ブラウンリングの発生を少なくできる利点がある。しかしながら、透明な内層が合成シリカガラスからなるルツボは、天然シリカガラスからなるルツボと比較してポリシリコンを熔融した際、その融液表面が振動し易い欠点もあった。この振動は特に種付けからショルダー形成時、単結晶ボディ部前半の初期の引上げ工程に多く見られ、種付け作業に時間を要したり、結晶が乱れ、溶かし直し、いわゆるメルトバックを引き起こしたりして生産性を低下させる場合があった。
【0006】
また特許文献4の実施形態には、アーク熔融によっておこなわれる回転モールド法によるシリカガラスルツボの製造装置が記載されている。また、この製造装置によれば、カーボン混入防止手段を有するために、シリカガラスルツボの内表面の不純物が低減されたシリカガラスルツボを製造できると記載されている。特許文献5の実施形態には、シリカガラスルツボ製造装置であって、アーク電極の上方に配置される放射温度計を備えるアーク熔融装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−154894号公報
【特許文献2】特許第2811290号公報
【特許文献3】特許第2933404号公報
【特許文献4】特開2001−89171号公報
【特許文献5】特許3926167号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ルツボ内表面の特性を所定の状態に制御してシリカガラスルツボを製造するためには、ルツボ製造中に原料となるシリカ粉末が熔融した状態を所定の範囲に制御するために、その内表面の温度を制御すればよいと考えられる。
【0009】
しかし、特許文献4に記載のシリカガラスルツボの製造方法の実施形態においては、その温度条件が2000°Cを超える程度となる場合もあり、このように鉄鋼業などにおいて操業時に測定するべき温度範囲である1500°C程度に比べて高い状態に対しても、操業中に正確に測定する技術は現在確立されていない。
また、このような温度が高いだけでなく、アーク火炎の放射された直近で加熱熔融された被熔融物の表面温度を測定するという過酷な条件における温度測定技術はなく、その結果、シリカガラスルツボ製造における制御性の向上が難しいという問題があった。
【0010】
また、従来の制御方法では電圧値を制御して発熱量を制御しているが、アーク発生中の電圧値は安定せず小刻みに変動する。また、電圧値はアーク発生時に生じる微小な外乱により大きく変動する。そのため、電圧値を基にした制御では、電圧値の変化に対する電極の操作を追従させることが困難であり、そのため熱的に安定なアークの発生を継続することが困難であった。
【0011】
また、特許文献5に記載のアーク熔融装置の実施形態は、被熔融物の温度を測定したデータは記載されておらず、実際にアーク火炎の放射された過酷な条件下で被熔融物の温度が測定可能かどうかは不明であった。仮に測定できたとしても、精密な温度測定は容易ではない。そのため、シリカガラスルツボ製造における制御性には改善の余地を有していた。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.シリカガラスルツボの製造において製造中に正確な温度測定を可能とすること。
2.シリカガラスルツボの製造における原料熔融状態の制御を可能とすること。
3.製造されるルツボ品質管理を可能とすること。
4.製品特性のバラツキ発生を低減すること。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、シリカ粉末をルツボ成形用のモールド内に供給してシリカ紛層を形成し、そのシリカ紛層をアーク放電によって加熱熔融してシリカガラスルツボを製造する装置であって、
シリカ粉を供給してシリカ紛層を形成するためのモールドと、複数本の炭素電極および電力供給部とを具備するアーク放電部と、少なくとも上記モールド内の熔融部分の温度測定を行う温度測定部とを有し、
上記温度測定部が、波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを検出して温度を測定する放射温度計とされてなる、シリカガラスルツボ製造装置が提供される。このシリカガラスルツボ製造装置によれば、2000°Cを超えるような激烈な環境で熔融されるシリカ表面付近における温度状態をリアルタイムで正確に測定可能となるため、シリカガラスルツボ製造に必要な熔融状態の正確な把握が容易になる。これにより、ルツボ特性を向上するための製造条件へのフィードバックを正確に行い、より精密な条件制御を可能とすることができる。
【0014】
ここで、向上することのできるルツボ特性とは、ルツボ内表面におけるガラス化状態、厚さ方向における気泡分布及び気泡の大きさ、OH基の含有量、不純物分布、表面の凹凸および、これらのルツボ高さ方向における不均一などの分布状態など、シリカガラスルツボで引き上げた半導体単結晶の特性に影響を与える要因のいずれか1つ以上を意味するものである。
【0015】
シリカルツボはシリコン融液と接触する唯一の部材としてシリコン単結晶の歩留まりや品質を決定する重要な部材である。ルツボ厚さ方向における気泡分布及び気泡の大きさによって、シリコン単結晶引き上げ時に気泡が破裂してシリコン融液中にガラス片が混入し、シリコン単結晶インゴットに付着したときに多結晶化する可能性がある。OH基の含有量によっては、結晶化しやすくなり、剥離したクリストバライトがシリコン単結晶端に付着してポリ化する可能性がある。また、シリカが低粘度化して変形する可能性もある。不純物が存在すると、この不純物が、シリカルツボの結晶引き上げの過程でシリカガラスルツボ内表面におけるクリストバライトの形成を促進してしまい、斑点状のクリストバライトを形成することになる。このように形成されたクリストバライトは、ルツボから離脱してシリコン融液内に落ち込み、引き上げられる単結晶の成長において単結晶化率を低下してしまう。
【0016】
また上記温度測定部は、BaFまたはCaFからなるフィルタを具備していてもよい。この場合、被測定対象であるルツボ内表面部分などから放射された特定の波長範囲の光だけを透過させることができ、大きな出力としてより正確な対象位置の温度測定を行うことができる。
さらに、このようなフィルタを経てアーク熔融炉の外側に位置する放射温度計によって温度測定が可能なように、放射温度計そのものは炉外に位置させ、アーク熔融炉の密閉炉壁部分にBaF またはCaF からなるフィルタからなる窓部を設けることが可能となる。
【0017】
また上記温度測定部は、測定対象温度を400〜2800°Cに設定されていてもよい。この場合、シリカガラスルツボ製造におけるシリカ粉およびこのシリカ粉の熔融した状態を400〜2800°Cという高い温度範囲において連続して観測することができる。これにより、熔融処理開始前から熔融終了および冷却完了状態まで温度状態を測定することで、シリカガラスルツボの特性に影響の大きい製造工程をより正確に制御することができる。
【0018】
また上記温度測定部による放射エネルギー検出位置は、シリカガラスルツボの湾曲部であってもよい。この場合、シリカガラスルツボ製造における内表面温度測定における正確性を向上することができる。
【0019】
本発明者らは、シリカガラスルツボ内表面の底部(ボトム部)中心から開口部(リム部)上端位置までのうち、図4に示すように、底部中央位置B、底部半径半外位置B−R、湾曲部内側位置R、湾曲部上側位置R−W、壁部中間位置W1、壁部上側位置W2での6個所で温度測定をおこなった。その結果、最も温度の標準偏差が大きくなった、すなわち、測定された温度のバラツキが大きかったのは、図5に示すように、湾曲部上側位置R−Wおよび湾曲部内側位置Rであった。このため、この湾曲部における温度、特に、湾曲部上側位置R−Wにおける温度を測定することによって、ルツボ製造における熔融温度のバラツキを最も正確に測定することが可能となる。従って、他の部位での測定結果では検出できない程度の温度変化を検出して、製造条件にフィードバックして、より一層ルツボ内表面特性の精密な制御を行うことが可能となる。
【0020】
さらに、湾曲部特に湾曲部上側位置R−Wを温度測定位置として設定することにより、アーク熔融時に、壁部から重力で熔融ガラスがたれた場合、底部からの遠心力で熔融ガラスが寄ってきた場合、つまり、湾曲部の厚み寸法が設定値よりも大きくなりすぎた場合などに対応して、その温度変化を検出することができる。これは他の部分を測定位置として設定した場合には、検出できないものである。この結果、湾曲部の温度変化を測定することで、モールド回転数、あるいは、供給電力、電極位置状態、電極相対位置状態等を制御して、シリカガラスルツボの厚さ寸法が設定値の分布状態およびその許容範囲から外れてしまうことを防止して、より寸法精度の正確なシリカガラスルツボを製造することが可能となる。
【0021】
また上記シリカガラスルツボ製造装置は、上記温度測定部からの測定結果により、上記炭素電極に供給する電力、炭素電極位置状態、モールドと炭素電極との相対位置状態、モールド位置状態のいずれかを変動させて、シリカガラス熔融状態を制御する制御部を具備していてもよい。この場合、ルツボ内表面特性をより精密に設定したシリカガラスルツボ製造を可能とすることができる。
ここで、炭素電極位置状態とは、複数の電極が互いになす角度である電極開度や電極先端の水平方向離間状態あるいは電極先端の高さ方向離間状態、または、複数の電極で形成されるアーク火炎の噴出方向として規定される電極中心方向の向きなどを意味する。また、モールドと炭素電極との相対位置状態とは、モールドの回転軸方向と電極中心方向との相対位置関係、モールドとアーク発生位置と見なせる電極先端との相対高さ位置関係(高さ)、または、モールドとアーク発生位置と見なせる電極先端との相対水平方向位置関係(偏心等)を含むものとされる。また、モールド位置状態とは、モールド回転中心軸線の方向などを含むものとされる。
【0022】
また本発明によれば、シリカ粉末をルツボ成形用のモールド内に供給してシリカ紛層を形成し、そのシリカ紛層をアーク放電によって加熱熔融してシリカガラスルツボを製造する方法であって、
シリカ粉を上記モールド内部に供給してシリカ紛層を形成するシリカ粉供給工程と、
複数本の炭素電極によるアーク放電でシリカ紛層を熔融するアーク熔融工程と、
少なくとも上記アーク熔融工程において上記モールド内の熔融部分の温度測定を行う温度測定工程とを有し、
上記温度測定工程において、放射温度計とされてなる温度測定部により波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを検出して温度を測定するシリカガラスルツボ製造方法が提供される。このシリカガラスルツボ製造方法によれば、アーク熔融工程の開始直前から冷却工程の開始あるいは終了まで熔融したシリカの温度測定を行うため、2000°Cを超えるような激烈な環境で熔融されるシリカ表面付近における温度状態がリアルタイムで正確に測定可能となり、シリカガラスルツボ製造に必要な熔融状態の正確な把握が容易になる。これにより、製造条件へのフィードバックを正確におこない、より精密な製造条件制御を可能とすることができる。従来、22インチ(55.88cm)程度までの小口径のルツボ製造においては認識されていなかったが、23インチ(58.4cm)〜40インチ(116cm)以上の大口径ルツボにおいては、表面温度にムラが発生し、その結果ルツボ内表面特性に面内分布を有する状態となる場合があったが、本発明によれば、温度をリアルタイムで測定することができるので、このような温度ムラの発生を防止し、周方向に均一な内表面特性を有するシリカガラスルツボを製造することが可能となる。
【0023】
また上記温度測定工程において、上記温度測定部としてBaF またはCaF からなるフィルタを透過して温度測定を行っても良い。この場合、被測定対象であるルツボ内表面部分などからの放射を集光することで、大きな出力としてより正確な対象位置の温度測定を行うことができる。
【0024】
また上記温度測定工程において、上記温度測定部の測定対象温度を400〜2800°Cに設定してもよい。この場合、シリカガラスルツボ製造におけるシリカ粉およびこのシリカ粉の熔融した状態を400〜2800°Cという高い温度範囲において連続して観測することが可能となる。
【0025】
また上記温度測定工程において、上記温度測定部による放射エネルギー検出位置を、シリカガラスルツボの湾曲部としてもよい。この場合、温度測定の正確性が向上し、他の部位の測定では検出できない、熔融状態の変化を測定することができる。
【0026】
また上記温度測定工程において、上記温度測定部からの測定結果により、上記炭素電極に供給する電力、炭素電極位置状態、モールドと炭素電極との相対位置状態、モールド位置状態のいずれかを変動させて、シリカガラス熔融状態を制御しても良い。この場合、ルツボ内表面特性をより精密に設定したシリカガラスルツボを製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、熔融中のシリカガラス温度をリアルタイムで正確に測定ができることにより、温度状態が高すぎた場合に湾曲部の厚みが設定範囲を超えてしまうことや、温度変動に起因してシリコン単結晶引き上げに悪影響を及ぼすルツボ内表面特性のパラメータが変動してしまうことを防止して好ましいルツボ特性を有するシリカガラスルツボを製造できるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るシリカガラスルツボ製造装置の一実施形態を示す模式正面図である。
【図2】図1における炭素電極位置を示す模式平面図(a)、模式側面図(b)である。
【図3】分光透過率と波長との関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係るシリカガラスルツボ製造装置の一実施形態におけるモールドと温度測定位置との関係を示す断面図である。
【図5】本発明に係るシリカガラスルツボ製造装置の一実施形態における温度測定位置による温度のバラツキを示すグラフである。
【図6】ルツボ温度のフィードバック制御方法を示す概念図である。
【図7】本発明に係るシリカガラスルツボ製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る石英シリカガラスルツボ製造方法の一実施形態の、アーク熔融を行う工程を示すフローチャートである。
【図9】本発明に係る石英シリカガラスルツボ製造方法の一実施形態の、温度制御を行う工程を示すフローチャートである。
【図10】本発明に係るシリカガラスルツボ製造方法の一実施形態における高さ位置設定の時間変化を示すグラフである。
【図11】本発明に係るシリカガラスルツボ製造方法の一実施形態における測定温度状態の時間変化を示すグラフである。
【図12】図11におけるt3付近を拡大したグラフである。
【図13】本発明に係るシリカガラスルツボ製造方法の一実施形態において、放射温度計を遮蔽体SS1内部に収納した場合の模式正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係るシリカガラスルツボ製造方法およびシリカガラスルツボ製造装置の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるシリカガラスルツボ製造装置の一部を示す模式正面図であり、図において、符号1は、シリカガラスルツボ製造装置である。
【0030】
本実施形態のシリカガラスルツボ製造装置1は、図1に示すように、図示しない回転手段によって回転可能とされシリカガラスルツボの外形を規定するモールド10を有し、モールド10の内部に原料粉(シリカ粉)が所定厚さに供給されてシリカ紛層11とされる。このモールド10内部には、その内表面に貫通するとともに図示しない減圧部に接続された通気口12が複数設けられ、シリカ紛層11内部を減圧可能となっている。モールド上側位置にはアーク放電手段として図示しない電力供給部に接続された炭素電極13が設けられ、シリカ紛層11を加熱可能とされている。なお上記電力供給部は特に限定されないが、例えば特開2007-317651に記載のアーク炉電力供給デバイスを参照できる。
【0031】
シリカガラスルツボ製造装置1は、少なくとも上記モールド内の熔融部分となるシリカ紛層11の温度測定を行う温度測定部と、温度測定部からの測定結果により、炭素電極13に供給する電力、炭素電極13位置状態、モールド10と炭素電極13との相対位置状態、モールド10位置状態のいずれかを変動させて、シリカガラス熔融状態を制御する制御部を具備するものとされる。
【0032】
炭素電極13は、上記制御部に接続された電極位置設定部20により、図中矢印Tで示すように上下動可能とされ、高さ方向位置Hの設定が可能とされている。同時に、炭素電極13は、電極位置設定部20により電極開度可変とされ、図中矢印Dで示すように電極間距離Dなどを設定可能とされるとともに、この電極位置設定部20により、モールド10との高さ以外の相対位置も設定可能となっている。
【0033】
シリカガラスルツボ製造装置1は、300kVA〜12,000kVAの出力範囲で、複数の炭素電極13によりアーク放電によって非導電性対象物(シリカ粉)を加熱熔融する高出力の装置とされ、モールド10内の熔融部分の温度測定を行う温度測定部としての放射温度計Camを具備するものとされる。
【0034】
図2は、本実施形態におけるシリカガラスルツボ製造装置の炭素電極位置を示す模式平面図2(a)、模式側面図2(b)である。
炭素電極13は、例えば、交流3相(R相、S相、T相)のアーク放電を行うよう同形状の電極棒とされ、図1、図2に示すように、下方に頂点を有するような逆三角錐状となるように、それぞれの軸線13Lが角度θ1をなすようにそれぞれが設けられている。電極の本数、配置状態、供給電力方式は上記の構成に限ることはなく、他の構成も採用することが可能である。
【0035】
炭素電極13は、粒子径0.3mm以下、好ましくは0.1mm以下、さらに好ましくは粒子径0.05mm以下の高純度炭素粒子によって形成されて、その密度が1.30g/cm 〜1.80g/cm、あるいは1.30g/cm 〜1.70g/cmのとき、電極各相に配置した炭素電極相互の密度差が0.2g/cm以下とされることができ、このように高い均質性を有している。
【0036】
電極位置設定部20は、図1に示すように、炭素電極13を、その電極間距離Dを設定可能として支持する支持部21と、この支持部21を水平方向に移動可能とする水平移動手段と、複数の支持部21およびその水平移動手段を一体として上下方向に移動可能とする上下移動手段とを有し、支持部21においては、炭素電極13が角度設定軸22周りに回動可能に支持され、角度設定軸22の回転角度を制御する回転手段を有している。炭素電極13の電極間距離Dを調節するには、図1に矢印で示すように回転手段により炭素電極13の角度を制御するとともに、水平移動手段により支持部21の水平位置を制御する。また、上下移動手段によって支持部21の高さ位置を制御して電極先端部13aのシリカ紛層11上端位置(モールド開口上端位置)に対する高さ位置Hを制御することが可能となる。
なお、図には左端の炭素電極13のみに支持部21等を示しているが、他の電極も同様の構成によって支持されており、個々の炭素電極13の高さも個別に制御可能とすることができる。
【0037】
シリカガラスルツボ製造装置1は、少なくとも上記モールド10内のシリカ紛層11において熔融部分の温度測定を行う温度測定部を具備するものとされ、この温度測定部としての放射温度計Camは、アーク放電を行う炉内と炉外とを分離する隔壁SSの外側に位置され、この隔壁SSに設けられた窓部を覆うフィルタF1を通して、熔融部分等の測定対象からの放射エネルギーを集光する光学系と、この光学系で集光した光を分光する分光手段と、この分光手段で分光された測定対象についての光を検出する検出素子とを有し、この検出素子のアナログ出力又は設定手段の設定信号等の必要な他の信号が入力され所定の演算を行い温度を測定するための制御部に接続されている。
【0038】
放射温度計Camは、測定対象である固体または熔融状態であるシリカ紛層11表面からの放射エネルギー光を検出し、その検出結果に基づき温度を測定することができる。例えば、上記放射エネルギー光をレンズ等の光学系を介して集光し、分光手段によって複数波長に対応した光に分光し、この光の信号を検出素子で検出する。次に、検出素子のアナログ出力信号が、例えば、同期検出器で波長毎に分離され増幅器で増幅され、多チャンネル低分解能の小ビットのAD変換器を介して制御部(CPU)に入力されて所定の演算処理がなされ、所望の温度信号を得ることができる。この温度信号はLCD表示器等の表示手段に出力可能であるとともに、シリカガラスルツボ製造装置の制御部に出力され、この情報をフィードバックして製造条件の制御を行うことが可能となる。
【0039】
この温度測定部としての放射温度計Camが、測定対象温度を400〜2800°Cに設定されるとともに、波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを検出して温度を測定することができる。この波長は、4.8、4.9、5.0、5.1、または5.2μmであってもよく、それらのいずれか2つの値の範囲内であってもよい。放射温度計Camを用いる場合の測定径は特に限定しないが、例えば100、50、40、または30mm以下であってもよい。この測定径が小さいと、熔融部分の正確な温度を測定しやすくなるため、測定径はある程度小さいことが好ましく、上記範囲内では特に30mm以下が好ましい。また、上記測定対象温度は、400、700、1000、1500、2000、2500、または2800°Cのいずれか2つの値の範囲内であっても良い。
【0040】
図3は、分光透過率と波長との関係を示すグラフである。
本実施形態の放射温度計Camは、測定対象温度を400〜2800°Cに設定できる。これは、本実施形態におけるシリカガラスルツボ製造装置におけるシリカガラスルツボ製造におけるルツボ特性に影響を与える温度範囲がこの範囲によって網羅可能であることを示したもので、上記の範囲より低い範囲ではルツボ特性に与える影響が少ないため温度測定を行う意味があまりなく、また、上記の範囲よりも高い範囲を測定範囲として設定した場合には、特殊な装置が必要となるため、コストがかかる上、実際の製造における温度範囲を超えるため好ましくない。
【0041】
また、本実施形態の放射温度計Camの測定波長を上記の範囲に設定すれば、図3に示すような、アーク放電中の炭素電極13から発生していると思われるCOの吸収帯である波長4.2〜4.6μmを避け、COによる吸収からの温度測定への影響を排除することができる。また、4.8μ以上を設定しているため、石英ガラスの透過率が0となり、石英ガラスの表面を容易に測定できる。さらには、シリカガラスルツボ製造雰囲気となる大気中に含まれるHOの吸収帯である波長5.2〜7.8μmを避け、HOによる吸収からの温度測定への影響を排除することができる。
【0042】
本実施形態の温度測定部は、BaFまたはCaFからなるフィルタF1を具備していてもよい。実施形態の温度測定部は、BaFまたはCaFの透過率が低下する8.0μm〜14μmの波長範囲を用いないことで、透過率の低下を防ぎ、温度測定の正確性を向上することができる。なお、一般的に製造されているケイ酸塩ガラスは2.5μm前後の赤外線までであれば高い透明性を示すが、それ以上の波長になると、Si−O結合の振動による光吸収のために透過率が急激に減少し、ほとんど透過しなくなる。Si−O結合をもたないガラスはケイ酸塩ガラス比べるとよく赤外線を透過するが、安定性、化学的耐久性に劣り、実用的でない。より長波長の赤外線に対して高い透明性を示すガラスで、実用的・高い透過率を持つガラスとしては、フッ化物ガラスが挙げられる。フッ化物ガラスは安定性、化学的耐久性に優れ、紫外から赤外における広い波長域で高い透明性をもっている。そのため、上記BaF またはCaFからなるフィルタF1を用いれば、精度の高い測定が可能である。
【0043】
本実施形態の温度測定部による放射エネルギー検出位置が、シリカガラスルツボの湾曲部であってもよい。湾曲部は、シリカガラスルツボ製造時にガラスが寄せられ、一番形状が変化しやすい部分である。そのため、温度のバラツキが大きくなりやすい。従って、湾曲部の温度を制御することで、ルツボ内表面の特性をより一層精密に制御でき、より好ましいルツボ特性を有するシリカガラスルツボを製造できる。なお、湾曲部の形状の変化の原因としては、ガラス粘度変化により壁部ガラスの垂れ(重力)や、底部ガラスの寄せ(遠心力)を挙げることができる。
【0044】
図4は、本実施形態におけるモールドと温度測定位置との関係を示す模式図である。
回転モールド10において、シリカガラスルツボに対応するシリカ紛層11内表面の底部(ボトム部)中心から開口部(リム部)上端位置までのうち、図4に示すように、底部中央位置B、底部半径半外位置B−R、湾曲部内側位置R、湾曲部上側位置R−W、壁部中間位置W1、壁部上側位置W2での6個所で温度測定をおこなった結果、最も温度の標準偏差が大きくなったのは、図5に示すように、湾曲部上側位置R−Wその次に大きかったのが湾曲部内側位置Rであった。そのため、湾曲部上側位置R−W、湾曲部内側位置Rの付近、つまり、湾曲部の測定を行うことにより、他の部位での測定結果では検出できない程度の温度変化を検出して、製造条件にフィードバックして、より一層ルツボ内表面特性の精密な制御を行うことが可能となる。
【0045】
なお、湾曲部とは、均一な温度状態でのルツボ製造時に対して、加熱温度が上昇した際に、壁部から熔融部分が垂れ下がってくるかあるいはモールド10の遠心力により底部から熔融部分が移動してくることによりルツボ肉厚が増大する部分である。
【0046】
本明細書において湾曲部とは、例えば円筒状とされる壁部と、一定曲率半径を有する底部とに対し、これらをなめらかに接続する部分を意味し、ルツボ内表面に沿って底部中央位置(中心)からリム部上端位置に向かって、底部において設定された曲率半径が変化し始めた部分から壁部における曲率半径(円筒状の場合は無限大)になるまでの間の部分を意味する。また上述した測定位置のうち、底部半径半外位置B−Rは底部中央位置Bと底部の縁部との半径方向中間位置を意味し、湾曲部内側位置Rは湾曲部のうち底部中央側位置Bつまり上記の曲率半径が変化し始める部分を意味し、湾曲部上側位置R−Wとは湾曲部と壁部との境界位置つまり上記の曲率半径が変化し終わる部分を意味し、壁部中間位置W1は、湾曲部から壁部上端(リム部上端)位置W2までの中間位置を意味している。なおルツボ半径が22インチ〜32インチ(0.5588m〜0.8128m)の場合、上記の底部において設定された曲率半径は、550、650、750、850、または900mmであってもよく、これらいずれかの値の範囲内であってもよい。
【0047】
本実施形態においては、放射温度計と被測定位置とを結ぶ観測線が、炭素電極から100mm以上離間した状態として温度測定を行うことができる。これにより、炭素電極付近で発生するアーク火炎からの影響と、電極輻射の影響とを低減して温度測定の正確性を向上することができる。
上記の範囲よりも電極に近づくと、温度測定の正確性が低減するため好ましくなく、また、上記の範囲を超えると、ルツボ口径に対して設定距離が大きくなりしょていの被測定位置の温度が測定できなくなる、または、被測定位置が観測線に対して傾き、被測定部分からの放射量が低減して放射温度計の出力が不足し正確な温度測定がおこなえなくなるため好ましくない。
【0048】
なお、原料粉(シリカ粉)として、内面層に対応して主として合成シリカ粉を使用し、外面層に対応して天然シリカ粉を使用することもできる。
ここで、合成シリカ粉とは合成シリカからなるものを意味しており、合成シリカは、化学的に合成・製造した原料であり、合成シリカガラス粉は非晶質である。合成シリカの原料は気体又は液体であるため、容易に精製することが可能であり、合成シリカ粉は天然シリカ粉よりも高純度とすることができる。合成シリカガラス原料としては四塩化炭素などの気体の原料由来とケイ素アルコキシドのような液体の原料由来がある。合成シリカ粉ガラスでは、すべての不純物を0.1ppm以下とすることが可能である。
【0049】
合成シリカガラス粉のうち、ゾル−ゲル法によるものではアルコキシドの加水分解により生成したシラノールが通常50〜100ppm残留する。四塩化炭素を原料とする合成シリカガラスでは、シラノールを0〜1000ppmの広い範囲で制御可能であるが、通常塩素が100ppm程度以上含まれている。アルコキシドを原料とした場合には、塩素を含有しない合成シリカガラスを容易に得ることができる。
ゾル−ゲル法による合成シリカガラス粉は上述のように熔融前には50〜100ppm程度のシラノールを含有している。これを真空熔融すると、シラノールの脱離が起こり、得られるシリカガラスのシラノールは5〜30ppm程度にまで減少する。なお、シラノール量は熔融温度、昇温温度等の熔融条件によって異なる。同じ条件で天然シリカ粉を熔融して得られるガラスのシラノール量は5ppm未満である。
【0050】
一般に合成シリカガラスは天然シリカ粉を熔融して得られるシリカガラスよりも高温における粘度が低いと言われている。この原因の一つとしてシラノールやハロゲンがSiO4 四面体の網目構造を切断していることが挙げられる。
合成シリカガラス粉を熔融して得られたガラスでは、光透過率を測定すると、波長200nm程度までの紫外線を良く透過し、紫外線光学用途に用いられている四塩化炭素を原料とした合成シリカガラスに近い特性であると考えられる。
合成シリカガラス粉を熔融して得られたガラスでは、波長245nmの紫外線で励起して得られる蛍光スペクトルを測定すると、天然シリカ粉の熔融品のような蛍光ピークは見られない。
【0051】
また、天然シリカ粉とは天然シリカからなるものを意味しており、天然シリカとは、自然界に存在する石英原石を掘り出し、破砕・精製などの工程を経て得られる原料であり、天然シリカ粉はα−石英の結晶からなる。天然シリカ粉ではAl、Tiが1ppm以上含まれている。またその他に金属不純物についても合成シリカ粉よりも高いレベルにある。天然シリカ粉はシラノールをほとんど含まない。天然シリカ粉を熔融して得られるガラスのシラノール量は<50ppmである。
天然シリカ粉から得られたガラスでは、光透過率を測定すると、主に不純物として約1ppm含まれるTiのために波長250nm以下になると急激に透過率が低下し、波長200nmではほとんど透過しない。また245nm付近に酸素欠乏欠陥に起因する吸収ピークが見られる。
【0052】
また、天然シリカ粉の熔融品では、波長245nmの紫外線で励起して得られる蛍光スペクトルを測定すると、280nmと390nmに蛍光ピークが観測される。これらの蛍光ピークは、ガラス中の酸素欠乏欠陥に起因するものである。
含有する不純物濃度を測定するか、シラノール量の違い、あるいは、光透過率を測定するか、波長245nmの紫外線で励起して得られる蛍光スペクトルを測定することにより、ガラス材料が天然シリカであったか合成シリカであったかを判別することができる。
【0053】
本発明においては、原料粉としてシリカ粉を使用しているが、ここでいう「シリカ粉」には、上記の条件を満たしていれば、シリカに限らず、二酸化ケイ素(シリカ)を含む、水晶、珪砂等、シリカガラスルツボの原材料として周知の材料の粉体をも含むことができる。
【0054】
次に本実施形態におけるシリカガラスルツボの製造方法について図面に基づいて説明する。
【0055】
図6は、本実施形態のシリカガラスルツボ製造方法における、ルツボ温度のフィードバック制御方法を示す概念図である。このフィードバック制御方法は、炭素電極と、放射温度計と、赤外線透過フィルタと、温度調節系と、制御系と、電極位置設定部とを有する装置を用いて実行される。
【0056】
このフィードバック制御方法は、上記炭素電極によりアーク放電を生じさせモールド内の非導電性対象物(シリカ粉)を加熱熔融し、加熱熔融部分(測定点)における波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを、赤外線透過フィルタ越しに放射温度計によって検出する。放射温度計において、上記放射エネルギーを光学レンズ等で集光し、放射エネルギー量に比例した温度測定値へと変換し、温度調節系へ電流または電圧を出力する。温度調節計は、上記温度測定値と最適熔融温度とを比較し、適切な操作出力値に変換し、制御系へ電流または電圧を出力する。制御系は、上記操作出力値に基づいて電流値制御、電極開度制御、またはモールド高さ制御を行う。これにより、炭素電極に供給する電力、炭素電極位置状態、モールドと炭素電極との相対位置状態、モールド位置状態のいずれかを変動させることができる。
【0057】
本明細書において最適熔融温度とは、経験的に、または、シミュレーションなどの計算的手法により求められるものである。例えば、多数のルツボに対して、ルツボを製造する際の加熱熔融時に、シリカ紛層の内表面が経時的にそれぞれどのような温度挙動を示すかを、放射温度計により温度データを取得する。一方、こうして製造された多数のルツボをそれぞれ用いて、CZ法によりシリコン単結晶を1400°C以上の高温で引き上げる。そして、CZ法により品質の良好なシリコン単結晶を生産性よく安定に製造できたルツボについての上記各温度データから、シリカ紛層の加熱熔融時におけるシリカ紛層の内表面の経時的な最適温度を経験的に、または、計算的手法により決定する。
【0058】
図7、8、および9は、本実施形態におけるシリカガラスルツボ製造方法の一例を示すフローチャートである。
このシリカガラスルツボの製造方法は、図1に示すシリカガラスルツボ製造装置1を用いた回転モールド法による製造であえる。即ち、図7に示すように、シリカ粉供給(S701)、電極初期位置設定(S702)、アーク熔融(S703)、冷却(S704)、取り出し(S705)、および仕上げ処理(S706)を行う工程を具備する。
【0059】
シリカ粉供給(S701)において、モールド10の内表面にシリカ原料粉末を堆積することによりシリカ紛層11を所望の状態に成形する。このシリカ粉層11は、モールド10の回転による遠心力により内壁面に保持される。
【0060】
電極初期位置設定(S702)においては、図1、図2に示すように、電極位置設定部20により、炭素電極13が下方に頂点を有するような逆三角錐状を維持し、かつ、それぞれの軸線13Lが角度θ1を維持しつつ、図2に示すように、先端13aで互いに接触するように電極初期位置を設定する。同時に、モールド10の縁からの電極先端までの高さ寸法である電極高さ位置Hあるいは、炭素電極13で形成される逆三角錐の中心軸とされる電極位置中心軸とモールド10の回転軸線との位置および角度からなるモールド−電極相対位置状態の初期状態を設定する。
【0061】
アーク熔融(S703)においては、電極13の位置設定を行って、保持されたシリカ粉層11をアーク放電部で加熱しつつ、減圧通路12を通じて減圧することにより、シリカ粉層11が溶けてシリカガラス層を形成する。またアーク熔融(S703)では、炭素電極13の高さ位置を例えば図10に示すように変化させる。即ち、電極初期位置設定(S702)での炭素電極13の高さ位置をH1で示す位置とし、電力供給開始(S801)にて時刻t0で電流供給を開始し、電極位置調整(S802)にて時刻t1で高さ位置をH2で示す位置とし、電流供給終了(S807)にて時刻t3で電流供給を停止する。アーク熔融(S703)は、電力供給開始(S801)、電極位置調整(S802)、モールド内部の温度測定(S803)、モールド内部の温度が最適熔融温度からプラスマイナス15°C以内かどうかの判断(S804)、アーク熔融部分の温度制御(S805)、アーク熔融終了時刻かどうかの判断(S806)、および電力供給終了(S807)を行う工程を有する。電力供給開始(S801)においては、図示しない電力供給部から、上述したように設定される電力量として炭素電極13に電力供給を開始する。この状態では、アーク放電は発生しない。
【0062】
電極位置調整(S802)においては、電極位置設定部20により、炭素電極13が下方に頂点を有するような逆三角錐状を維持するか、その角度を変更して電極間距離Dを拡大する。電極位置調整(S802)に伴って、2つの炭素電極13間で放電を発生させることができる。この際、各炭素電極13における電力密度が40kVA/cm 〜1,700kVA/cmとなるように電力供給部により供給電力を制御する。さらに、電極位置設定部20により、角度θ1を維持した状態で、シリカ紛層11熔融に必要な熱源としての条件を満たすように、電極高さ位置Hなどモールド−電極相対位置状態を設定する。
【0063】
モールド内部の温度測定(S803)においては、放射温度計Camによって熔融状態であるシリカ紛層11表面からの放射エネルギー光を検出し、その検出結果に基づき温度を測定する。次に、その温度が最適熔融温度からプラスマイナス15°C以内かどうかの判断(S804)を行う。このとき、プラスマイナス15°C以内でなければ、アーク熔融部分の温度制御(S805)を行う。一方で、プラスマイナス15°C以内であれば、アーク熔融終了時刻かどうかの判断(S806)を行う。アーク熔融終了時刻でなければアーク熔融を続け、上記電極位置調整(S802)以降の工程をアーク熔融終了時刻と判断されるまで繰り返す。アーク熔融終了時刻と判断されれば、各炭素電極13への電力供給を終了(S807)し、冷却(S704)を行う。
【0064】
アーク熔融部分の温度制御(S805)においては、アーク熔融部分の温度が最適熔融温度より高いかどうか(S901)を判断し、さらに、電力を調整するかどうか(S902またはS907)またはモールドと電極との相対位置を調節するかどうか(S903またはS908)を判断する。アーク熔融部分の温度が最適熔融温度より高い場合には、a)電力をダウンさせさらにモールドと電極との相対位置を離間させる(S904)か、b)モールドと電極との相対位置は調節せずに電力をダウンさせる(S905)か、またはc)電力は調節せずにモールドと電極との相対位置を離間させる(S906)。アーク熔融部分の温度が最適熔融温度より低い場合には、d)電力をアップさせさらにモールドと電極との相対位置を接近させる(S909)か、e)モールドと電極との相対位置は調節せずに電力をアップさせる(S910)か、またはf)電力は調節せずにモールドと電極との相対位置を接近させる(S911)。ここで、上記電力を調整するかどうか判断する工程と、上記相対位置を調整するかどうか判断する工程とは、いずれかの判断を先に行っても良く、同時に判断を行っても良い。
【0065】
上記電力は、各炭素電極13における電力密度が40、100、500、1000、1500、または1,700kVA/cmとなるか、それらいずれか2つの値の範囲内になるように電力供給部により供給電力を制御しても良い。
【0066】
モールドと電極との相対位置を離間させる際には、電極位置設定部20によって電極の位置をモールドから遠ざけても良く、制御系によってモールドの位置を電極から遠ざけても良い。モールドと電極との相対位置を接近させる際には、電極位置設定部20によって電極の位置をモールドに近づけても良く、制御系によってモールドの位置を電極に近づけても良い。
【0067】
電力供給終了(S807)においては、シリカ紛層11が所定の状態になった後に、電力供給部による電力供給を停止する。このアーク熔融によって、シリカ粉を熔融してシリカガラスルツボを製造する。このアーク熔融(S703)においては、モールド10の回転状態を図示しない制御部により制御する。
【0068】
冷却(S704)は、電力供給を停止した後にシリカガラス層を冷却するとともに、後に、取り出し(S705)としてシリカガラスルツボをモールド10から取り出す。その後、仕上げ処理(S706)として、高圧水を外周面噴射するホーニング処理、ルツボ高さ寸法を所定の状体にするリムカット処理、ルツボ内表面をHF処理するなどの洗浄処理と行うことによりシリカガラスルツボが製造される。
【0069】
本実施形態においては、上記のアーク熔融(S703)および冷却(S704)において、モールド内部を温度測定部により温度測定することができる。この際、電力供給開始(S701)から、取り出し(S705)前までを温度測定工程とすることができる。なお、これらの工程の一部分だけ温度測定を行うことも可能である。
【0070】
図10は、本実施形態のシリカガラスルツボ製造方法における高さ位置設定の時間変化の一例を示すグラフである。
具体的には、図10に示すように、電極初期位置設定(S802)において高さ位置をH1で示す状態とし、電力供給開始(S801)において時刻t0で電力供給を開始し、電極位置調整(S801)において時刻t1で高さ位置をH2で示す状態とし、電力供給終了(S807)において時刻t3で電力供給を停止する。
【0071】
この際の温度測定部により測定した場合の温度状態を図11に示す。
図11は、本実施形態のシリカガラスルツボ製造方法における測定温度状態の時間変化の一例を示すグラフである。本実施形態における温度測定シリカは、正確な熔融状態が測定できていることがわかる。即ち、このグラフは温度のブレが少なく比較的滑らかな形状をしていることから、本実施形態のシリカガラスルツボ製造方法は、熔融工程の温度制御がより精密にできていることがわかる。そのため、この製造方法によれば、複数ロット間で構造に差が少ない高品質なシリカガラスルツボを製造することができる。
【0072】
さらに詳細に検証するために、図11に示すt3における温度状態を拡大したグラフが図12である。図12に示すように、本実施形態の温度測定は、上記のように行ったので、アーク放電が停止したt3の前後で、モールド内部の熔融状態であるシリカ温度が連続しており、これを正確に測定していることがわかる。
【0073】
なお、本実施形態においては、温度測定部である放射温度計をアーク炉の隔壁SSの外側に位置したが、図13に示すように、隔壁SSの内側に設けた遮蔽体SS1内部に収納することも可能である。この場合遮蔽体SS1には、フィルタF1が設けられる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
本発明の実施例として、口径610mm(24インチ)のシリカガラスルツボを、表1の実施例1〜9に示す条件で9個、表1の比較例1〜2に示す条件で2個製造した。この際、図1に示す電極位置設定部20により、電極先端部13aの高さ位置Hを図10に示すように基準位置が経時変化するように設定した。時刻t0からt1までは高さ位置H1、時刻t1からt2までは高さ位置H2とするとともに、それぞれの高さ位置が、H1>H2となるように設定した。
【0077】
同時に、放射温度計を用いて、図3に示す位置R−Wのアーク熔融中の温度を測定し、図5で示されるように予め設定した最適熔融温度に対し、測定温度が、±15°Cとされる許容範囲となるように、高さ位置Hの微調整、および供給電力の微調整をおこなった。なおアーク熔融工程では、電極位置またはモールド高さを制御することにより、アークをかける箇所と温度測定箇所を追随させて行った。
【0078】
また、以上の製造条件のうち、高さ位置設定のみを行い、温度測定、高さ位置Hの微調整、および供給電力の微調整を行わない条件でシリカガラスルツボを1個製造し、比較例3とした。
【0079】
このように製造したシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、引き上げられたインゴットの単結晶収率を調べ、以下に示す基準で判定し、結果を下記表1に示した。なお単結晶収率については、シリコン単結晶インゴットの表面の晶癖(crystal habit)線のずれで結晶転位(dislocation)の有無を目視で確認した。
◎(優良)・・・単結晶収率が70%超であり、優れた結晶特性を示した。
○(良)・・・単結晶収率が50〜70%と、許容範囲内であった。
△(問題あり)・・・単結晶収率が50〜40%であり、結晶欠陥が多かった。
×(特に問題あり)・・・単結晶収率が40%未満であり、結晶欠陥が特に多かった。
【0080】
【表1】

【0081】
この結果から、波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを検出して温度を測定し、フィードバック制御をかけることによって、シリコン単結晶の引き上げ効率が顕著に向上することがわかる。また本実施例では、放射温度計を用いて、波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを検出することによって、アーク熔融中の超高温下でも、高い精度で温度を測定することに成功している。このことにより、アーク熔融工程における温度のフィードバック制御が高い精度で可能になり、所望のシリカガラスルツボを製造することができるようになった。一方で、従来の製造方法では、高い精度で温度を測定できず、あらかじめプログラムにそった所定の電流密度でアーク熔融工程を行っていたため、所望のシリカガラスルツボを製造することは容易ではなかった。
【0082】
なお、温度を測定する際にルツボは回転しているので、一点の温度を測定することでその一点を含む円周上の温度測定することが可能である。即ち、本実施例の方法は複数点を測定できるために、高い精度でルツボの製造条件を制御することができた。また、本実施例ではアークをかける箇所と温度測定箇所を追随させて行っているため、熔融条件を調製したときの温度変化を高い精度で検出できた。
【0083】
以上のように、本実施例ではルツボ内面状態が所望の状態となるルツボを製造するにあたり、アーク熔融中の過酷な状況下での温度を高い精度で測定することに成功している。このことは、赤外線透過ガラスに波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを透過させ、放射温度計を用いることによって初めて見いだしたものであり、画期的な結果である。
【0084】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0085】
1…シリカガラスルツボ製造装置
10…モールド
11…シリカ紛層
12…減圧通路
13…炭素電極
13a…電極先端部
13L…軸線
20…電極位置設定部
21…支持部
22…角度設定軸
Cam…放射温度計
SS…隔壁
F1…フィルタ
SS1…遮蔽体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粉末をルツボ成形用のモールド内に供給してシリカ紛層を形成し、そのシリカ紛層をアーク放電によって加熱熔融してシリカガラスルツボを製造する装置であって、
シリカ粉を供給してシリカ紛層を形成するためのモールドと、複数本の炭素電極および電力供給部とを具備するアーク放電部と、少なくとも前記モールド内の熔融部分の温度測定を行う温度測定部とを有し、
前記温度測定部が、波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを検出して温度を測定する放射温度計である、シリカガラスルツボ製造装置。
【請求項2】
前記温度測定部が、BaFまたはCaFからなるフィルタを具備する、請求項1記載のシリカガラスルツボ製造装置。
【請求項3】
前記温度測定部が、測定対象温度を400〜2800°Cに設定されてなることを特徴とする、請求項1または2記載のシリカガラスルツボ製造装置。
【請求項4】
前記温度測定部による放射エネルギー検出位置が、シリカガラスルツボの湾曲部である、請求項1から3のいずれか記載のシリカガラスルツボ製造装置。
【請求項5】
前記温度測定部からの測定結果により、前記炭素電極に供給する電力、炭素電極位置状態、モールドと炭素電極との相対位置状態、モールド位置状態のいずれかを変動させて、シリカガラス熔融状態を制御する制御部をさらに具備する、請求項1から4のいずれか記載のシリカガラスルツボ製造装置。
【請求項6】
シリカ粉末をルツボ成形用のモールド内に供給してシリカ紛層を形成し、そのシリカ紛層をアーク放電によって加熱熔融してシリカガラスルツボを製造する方法であって、
シリカ粉を前記モールド内部に供給してシリカ紛層を形成するシリカ粉供給工程と、
複数本の炭素電極によるアーク放電でシリカ紛層を熔融するアーク熔融工程と、
少なくとも前記アーク熔融工程において前記モールド内の熔融部分の温度測定を行う温度測定工程とを有し、
前記温度測定工程において、放射温度計とされてなる温度測定部により波長4.8〜5.2μmの放射エネルギーを検出して温度を測定することを特徴とするシリカガラスルツボ製造方法。
【請求項7】
前記温度測定工程において、前記温度測定部としてBaF またはCaF からなるフィルタに前記放射エネルギーを透過させて温度測定を行うことを特徴とする、請求項6記載のシリカガラスルツボ製造方法。
【請求項8】
前記温度測定工程において、前記温度測定部の測定対象温度を400〜2800°Cに設定することを特徴とする、請求項6または7記載のシリカガラスルツボ製造方法。
【請求項9】
前記温度測定工程において、前記温度測定部における放射エネルギー検出位置を、シリカガラスルツボの湾曲部とすることを特徴とする、請求項6から8のいずれか記載のシリカガラスルツボ製造方法。
【請求項10】
前記温度測定工程において、前記温度測定部からの測定結果により、前記炭素電極に供給する電力、炭素電極位置状態、モールドと炭素電極との相対位置状態、モールド位置状態のいずれかを変動させて、シリカガラス熔融状態を制御することを特徴とする、請求項6から9のいずれか記載のシリカガラスルツボ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−140300(P2012−140300A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294630(P2010−294630)
【出願日】平成22年12月31日(2010.12.31)
【出願人】(592176044)ジャパンスーパークォーツ株式会社 (90)
【Fターム(参考)】