説明

シリカコート・グレーティング・ファイバ

【課題】グレーティング部(1g)の安定性を向上させる。
【解決手段】コア(1a)およびクラッド(1d)から成る石英またはガラス製の光ファイバ(1)の外周面に、シリコンアルコキシドと加水分解反応を促進する活性アルコールとアルコールと水の混合液からゾル−ゲル法により合成したシリカミクロ多孔体溶液を塗布し、焼付けして、珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)を形成する。次いで、シリカミクロ多孔体膜(2)を形成したシリカコート・ファイバ(10)の側方から紫外線を照射してコア(1r)の一部にグレーティング部(1g)を形成する。
【効果】シリカミクロ多孔体膜(2)は、優れた耐熱性を有し、グレーティング部(1g)の作成工程で強い光を照射しても燃えず、燃焼ごみを生じない。このため、屈折率制御が不安定になることがなくなり、グレーティング部(1g)の安定性に優れたシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカコート・グレーティング・ファイバに関し、さらに詳しくは、グレーティング部の安定性に優れたシリカコート・グレーティング・ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感光性のコアを有する光ファイバの外周面に紫外線硬化樹脂、シリコン樹脂あるいはカーボンのいずれかの被覆を設け、その被覆ファイバの側方から光を照射してコアの一部にグレーティング部を形成したグレーティング・ファイバが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−82919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のグレーティング・ファイバでは、被覆ファイバの側方から強い光を照射したとき、紫外線硬化樹脂、シリコン樹脂あるいはカーボンのいずれかの被覆が燃え、燃焼ごみが光ファイバの表面に付着することがあった。
しかし、燃焼ごみが光ファイバの表面に付着すると、屈折率制御が不安定になり、グレーティング部の安定性が損なわれる問題点があった。
これに対して、被覆を除去してから光を照射すれば、燃焼ごみによりグレーティング部の安定性が損なわれることはなくなるが、工程の増加となる問題点がある。
そこで、本発明の目的は、工程の増加を招くことなく製造でき且つグレーティング部の安定性に優れたシリカコート・グレーティング・ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、コア(1r)およびクラッド(1d)から成る光ファイバ(1)と、前記光ファイバ(1)の外周面に形成した珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)と、前記コア(1r)の一部に形成したグレーティング部(1g)とを具備したことを特徴とするシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)を提供する。
上記第1の観点によるシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)では、シリカミクロ多孔体膜(2)のミクロ孔が緩衝作用を有し、クラッド(1d)に多数存在するマイクロクラックが光ファイバ(1)を曲げたときに成長して折れやすくなるのを緩衝・抑制する。このため、曲げ強度を向上できる。そして、シリカミクロ多孔体膜(2)は、珪素を主成分とするため、光ファイバ(1)自身と同様の高い耐熱性を有する。このため、グレーティング部(1g)を作成する工程で強い光を照射しても被覆つまりシリカミクロ多孔体膜(2)が燃えず、燃焼ごみを生じない。従って、屈折率制御が不安定になることがなくなり、グレーティング部(1g)の安定性に優れたシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)となる。
【0006】
第2の観点では、本発明は、上記第1の観点によるシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)において、前記シリカミクロ多孔体膜(2)の厚さが1μm以下であることを特徴とするシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)を提供する。
シリカミクロ多孔体膜(2)を厚くすると、曲げたときにシリカミクロ多孔体膜(2)にクラックが発生することがあった。
そこで、上記第2の観点によるシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)では、シリカミクロ多孔体膜(2)の厚さを1μm以下とした。これにより、曲げたときにシリカミクロ多孔体膜(2)にクラックが発生することを防止できた。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)によれば、シリカミクロ多孔体膜(2)のミクロ孔が緩衝作用を有するため、必要な曲げ強度が得られる。また、シリカミクロ多孔体膜(2)は、珪素を主成分とするため、極めて優れた耐熱性が得られ、グレーティング部(1g)を作成する工程で強い光を照射しても被覆つまりシリカミクロ多孔体膜(2)が燃えず、燃焼ごみを生じない。このため、屈折率制御が不安定になることがなくなり、グレーティング部(1g)の安定性に優れたシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0009】
図1は、実施例1に係るシリカコート・グレーティング・ファイバ100を示す断面図である。
このシリカコート・グレーティング・ファイバ100は、コア1rおよびクラッド1dから成る石英またはガラス製の光ファイバ1の外周面に、二酸化珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜2を形成し、そのシリカミクロ多孔体膜2を形成したシリカコート・ファイバ10の側方から光を照射してコア1rの一部にグレーティング部1gを形成した構成である。
【0010】
数値例を示すと、コア1rの直径は10μm、クラッド1dの直径は125μmである。
【0011】
シリカミクロ多孔体膜2は、厚さ約500nm(=0.5μm)であり、外周面に孔径2nm以下のミクロ孔を多数有している。
【0012】
なお、シリカミクロ多孔体膜2を厚くすると、曲げたときにシリカミクロ多孔体膜2にクラックが発生することがあるので、シリカミクロ多孔体膜2の厚さを1μm以下とし、曲げたときにシリカミクロ多孔体膜2にクラックが発生することを防止するのが好ましい。
【0013】
図2は、シリカコート・ファイバ10の製造過程を示す説明図である。
加熱炉RのプリフォームPから引き出した光ファイバ1に、シリカミクロ多孔体溶液塗布部SCでシリカミクロ多孔体溶液を塗布し、焼付け部SRで焼き付けて、シリカミクロ多孔体膜2を形成する。
【0014】
図3は、ゾル−ゲル法によるシリカミクロ多孔体溶液の合成処理を示すフロー図である。
ステップS1では、シリコンアルコキシドと加水分解反応を促進する活性アルコールとアルコールと水の混合液を調製する。
なお、シリコンアルコキシドは、例えばTMOS(テトラメトキシシラン)やTEOS(テトラエチルオルソシリケート)等である。
また、加水分解反応を促進する活性アルコールは、例えばヒドロキシアセトン、1−ペンテン−3−オール、アセトンシアノヒドリン等である。
また、アルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等である。
【0015】
ステップS2では、混合液を攪拌する。
ステップS3では、混合液に塩触媒を添加する。
ステップS4では、混合液を攪拌する。
以上により、シリカミクロ多孔体溶液を合成できる。
なお、上記シリカミクロ多孔体溶液の合成方法は、「化学工学会 第34回秋季大会、2001」で発表されている。また、特開2004−292190号公報に記載されている。
【0016】
図4は、フェーズマスク法によるグレーティング部1gの作成処理を示す概念図である。
シリカコート・ファイバ10の側方からフェーズマスクLを介して紫外線を照射して、コア1rの一部にグレーティング部1gを形成する。
なお、二光束干渉法などによってグレーティング部1gの作成を行ってもよい。
【0017】
実施例1のシリカコート・グレーティング・ファイバ100によれば、光ファイバ1の強度劣化の原因であるクラッド1dに多数存在するマイクロクラックの成長をシリカミクロ多孔体膜2が抑制するので、強度劣化を防止できる。また、シリカミクロ多孔体膜2のミクロ孔が緩衝作用を有するので、光ファイバ1の曲げ強度を向上できる。そして、シリカミクロ多孔体膜2は、珪素を主成分とするため、高い耐熱性を有する。このため、グレーティング部1gを作成する工程で強い光を照射しても被覆つまりシリカミクロ多孔体膜2が燃えず、燃焼ごみを生じない。従って、屈折率制御が不安定になることがなくなり、グレーティング部1gの安定性に優れたシリカコート・グレーティング・ファイバ100となる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のシリカコート・グレーティング・ファイバは、WDMシステムの通信ファイバとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1にかかるシリカコート・グレーティング・ファイバを示す側面図である。
【図2】実施例1にかかるシリカコート・ファイバの製造過程を示す説明図である。
【図3】ゾル−ゲル法によるシリカミクロ多孔体溶液の合成処理を示すフロー図である。
【図4】フェーズマスク法によるグレーティング部の作成処理を示す概念図である。
【符号の説明】
【0020】
1 光ファイバ
1r コア
1d クラッド
1g グレーティング部
2 シリカミクロ多孔体膜
100 シリカコート・グレーティング・ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア(1r)およびクラッド(1d)から成る光ファイバ(1)と、前記光ファイバ(1)の外周面に形成した珪素を主成分とするシリカミクロ多孔体膜(2)と、前記コア(1r)の一部に形成したグレーティング部(1g)とを具備したことを特徴とするシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)。
【請求項2】
請求項1に記載のシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)において、前記シリカミクロ多孔体膜(2)の厚さが1μm以下であることを特徴とするシリカコート・グレーティング・ファイバ(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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