説明

シリカナノ粒子の製造方法、シリカナノ粒子および標識試薬

【課題】本発明の目的は、安定した測定性能を長期間保持した、測定システム更には定量測定システムを可能とする、シリカナノ粒子の製造方法、該シリカ粒子の製造方法により得られた制御型のシリカナノ粒子、及びそれを用いた標識試薬を提供することである。
【解決手段】下記の工程(a)及び(b)を含んでいることを特徴とするシリカナノ粒子の製造方法。
(a).含ケイ素アルコキシド類と標識機能分子とを結合した化合物を、テトラアルコキシシラン化合物とともに加水分解し、シリカナノ粒子を調製する工程
(b).前記工程(a)により調製したシリカナノ粒子の加水分解反応を反応停止剤により停止する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識試薬として用いるシリカナノ粒子の製造方法に関する。より詳しくは反応停止剤を用いるシリカナノ粒子の製造方法、該シリカナノ粒子の製造方法により得られた制御型シリカナノ粒子、及びそれを用いた標識試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子は光吸収特性や磁性などの標識特性がないためそれ自体では標識として使用できない。一方でシリカ粒子は高い化学的安定性、表面修飾の容易性、生体無毒性など標識試薬として好ましい特性を備えている。これに対し、シリカ粒子に有機色素などの標識機能分子を取り込むことで標識試薬を得ることができる。例えば、アミノ基と共有結合することができるN−ヒドロキシスクシンイミドエステルを有する蛍光色素分子とアミノプロピルトリエトキシシランとを結合させ、さらにアミノプロピルトリエトキシシランのエトキシ基を加水分解し、シリカと重合させることで標識機能分子である蛍光色素分子を内包したシリカ粒子を合成している技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年より超早期での疾病の診断を行うため、すなわち極微量のバイオマーカーの定量検出を行うため、より高い蛍光強度を有し、発光輝度のそろった標識試薬が求められている。複数の蛍光物質を一つのシリカナノ粒子に内包させる技術は高輝度の点で上記のニーズにかなっている(特許文献3参照)。この一方で粒子径に発光強度が依存しているためその粒子径の制御が課題である。すなわち、粒子径がそろっていないと測定される蛍光強度と測定対象であるバイオマーカーの量が比例関係から逸脱していまい、定量検出が不可能となってしまう。
【0004】
また近年の診断はより患者の近くで行うPOCT(Point Of Care Test;患者の身辺での検査)のニーズが高まっている。イムノクロマト法(特許文献2参照)は代表的なPOCT検査システムでありインフルエンザ検査薬、妊娠検査薬などに用いられている。イムノクロマト法で使用される標識試薬は診療所などでの使いやすさの観点から保存安定性が求められ、金コロイド粒子が主に標識試薬として用いられている。この一方で、定量的な測定を必要とする診断項目ではイムノクロマト法は普及していない。このことは現在主にイムノクロマト用粒子として使用されている標識試薬である金コロイド粒子が高感度定量を可能とする標識試薬として十分な性能を保持していないことを示している。すなわち高感度定量をPOCT検査で行うためには、高感度、粒子径制御、保存安定性の点での標識試薬の改善が産業上の課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1036763号明細書
【特許文献2】特開2006−67979号公報
【特許文献3】国際公開第07−074722号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、安定した測定性能を長期間保持した、測定システム更には定量測定システムを可能とする、シリカナノ粒子の製造方法、該シリカ粒子の製造方法により得られた制御型のシリカナノ粒子、及びそれを用いた標識試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決し、本発明の目的を達成すべく鋭意検討の結果、従来法で得られるシリカナノ粒子は、安定した定量性能、保存性において産業上の課題を有していることを見出した。これに対し、標識体粒子製造過程で反応停止剤を用いることより製造した、制御型シリカナノ粒子を用いることで安定した測定性能を長期間保持した測定システム更には定量測定システムを可能とする標識試薬を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0009】
1.下記の工程(a)及び(b)を含んでいることを特徴とするシリカナノ粒子の製造方法。
(a).含ケイ素アルコキシド類と標識機能分子とを結合した化合物を、テトラアルコキシシラン化合物とともに加水分解し、シリカナノ粒子を調製する工程
(b).前記工程(a)により調製したシリカナノ粒子の加水分解反応を反応停止剤により停止する工程
2.前記反応停止剤が下記一般式(1)で表されることを特徴とする前記1に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
一般式(1)
SiR
(式中、RはX−C2nを表し、nは0を含む整数であり、XはN、O、S、Pを含む官能基を表し、R、Rは不活性官能基であって水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基またはアルキルアリール基を表し、Rは加水分解性の基を表す。)
3.前記反応停止剤がアミノプロピルジメチルエトキシシランまたはアミノプロピルジメチルメトキシシランであることを特徴とする前記2に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
【0010】
4.前記テトラアルコキシシラン化合物と前記反応停止剤の混合モル比が1:1から100:1の範囲であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
【0011】
5.前記標識機能分子が蛍光、吸光、X線吸収または磁性の機能を持つことを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
【0012】
6.前記1〜5のいずれか1項に記載のシリカナノ粒子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とするシリカナノ粒子。
【0013】
7.前記1〜5のいずれか1項に記載のシリカナノ粒子の製造方法を用いて製造されたシリカナノ粒子を用いて調製されることを特徴とする標識試薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定した測定性能を長期間保持した、測定システム更には定量測定システムを可能とする、シリカナノ粒子の製造方法、該シリカナノ粒子の製造方法により得られた制御型のシリカナノ粒子、及びそれを用いた標識試薬を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0016】
本発明のシリカナノ粒子の製造方法は、下記工程(a)及び(b)を含んでいることを特徴とする。
(a).含ケイ素アルコキシド類と標識機能分子とを結合した化合物を、テトラアルコキシシラン化合物とともに加水分解し、シリカナノ粒子を調製する工程
(b).前記工程(a)により調製したシリカナノ粒子の加水分解反応を反応停止剤により停止する工程
本発明においては、特に「(b).前記工程(a)により調製したシリカナノ粒子の加水分解反応を反応停止剤により停止する工程」を有することで、安定した測定性能を長期間保持した、測定システム更には定量測定システムを可能とするシリカ粒子が得られる。
【0017】
本発明のシリカナノ粒子は、制御型シリカナノ粒子(粒子径が制御されたシリカナノ粒子)であり、シリカナノ粒子中に複数の標識機能分子を内包したシリカナノ粒子であって、反応停止剤による粒子合成制御工程を有して粒子径が制御され製造されたことを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項7に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0018】
本発明のシリカナノ粒子は、量子ドット内包シリカナノ粒子であり、当該シリカナノ粒子と本発明の標識機能分子とが有機分子(本発明の含ケイ素アルコキシド類)を介して結合されており標識試薬として好適に用いることができる。
【0019】
以下、本発明とその構成要素、及び発明を実施するための最良の形態について詳細な説明をする。
【0020】
〔シリカナノ粒子、シリカナノ粒子の製造方法〕
本発明のシリカナノ粒子は、先ず、(a).含ケイ素アルコキシド類と標識機能分子とを結合した化合物を、テトラアルコキシシラン化合物とともに加水分解し、シリカナノ粒子を調製し、その後、(b).前記工程(a)により調製したシリカナノ粒子の加水分解反応を反応停止剤により停止すること、により製造する。
【0021】
本発明において、含ケイ素アルコキシド類と標識機能分子とを結合した化合物とは、本発明の含ケイ素アルコキシド類と本発明の標識機能分子とが結合した化合物のことを意味する。
【0022】
上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0023】
本発明の含ケイ素アルコキシド類としては、例えば無機物と有機物を結合させるために広く用いられている化合物であるシランカップリング剤を用いることができる。このシランカップリング剤は、分子の一端に加水分解でシラノール基を与えるアルコキシシリル基を有し、他端に標識機能分子の官能基と結合することが可能となるメルカプト基(チオール基)、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルデヒド基などの官能基を有する化合物であり、上記シラノール基の酸素原子を介してシリカナノ粒子と結合することができる。具体的には、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0024】
本発明の標識機能分子としては、標識機能部分を有し、かつ本発明の含ケイ素アルコキシド類の官能基と結合することが可能となる官能基を有する分子である。
【0025】
上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0026】
本発明の標識機能分子としては、蛍光、吸光、X線吸収、磁性機能を持つことが好ましい。
【0027】
例えば、ローダミン、フルオロセイン、シアニン、量子ドット、ガドリニウム、ヨウ素、酸化鉄、等が挙げられる。
【0028】
本発明のシリカナノ粒子の製造方法は反応停止剤を用いることが特徴であり、本発明の反応停止剤としては、下記一般式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
一般式(1)
SiR
(式中、RはX−C2nを表し、nは0を含む整数であり、XはN、O、S、Pを含む官能基を表し、R、Rは不活性官能基であって水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基または基アルキルアリール基を表し、Rは加水分解性の基を表す。)
Xで表されるN、O、S、Pを含む官能基としては、例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、ヒドロキシル基、メルカプト基、燐酸基、等が挙げられる。
【0029】
で表される加水分解性の基としては、加水分解性の基であれば特に限定されないが、好ましくは、アルコキシ基等が挙げられ、該アルコキシ基は置換されていてもよい。例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基、ブトキシ基、ベンジルオキシ基、等が挙げられる。
【0030】
一般式(1)で表される化合物(反応停止剤)としては、例えば、がアミノプロピルジメチルエトキシシランまたはアミノプロピルジメチルメトキシシラン、等が好ましく用いられる。
【0031】
本発明の反応停止剤は、テトラアルコキシシランと本発明の反応停止剤の混合モル比が1:1から100:1の範囲で用いられることが好ましい。
【0032】
本発明のシリカナノ粒子は、例えば、非特許文献(ジャーナルオブコロイドサイエンス、26巻、62ページ(1968年))に記載されているアンモニア水などを用いたアルカリ性条件下でテトラエトキシシランなどの含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解を行う「ストーバー法」と呼ばれる方法により製造することが好ましい。粒径は、添加する水、エタノール、アルカリ量などについて公知の反応条件を適用することで自在に調整でき、平均粒径30〜800nm程度にすることができる。また粒径のばらつきを示す変動係数は10〜20%程度とすることができる。
【0033】
特に、本発明においては、シリカナノ粒子の調製後、シリカナノ粒子の加水分解反応を反応停止剤により停止すること、により、平均粒径、変動係数が制御されたシリカナノ粒子、即ち、制御型シリカナノ粒子を作製することができる。
【0034】
本発明の制御型シリカナノ粒子は、平均粒径30〜800nmであることが好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。また粒径のばらつきを示す変動係数は3〜20%であることが好ましく、4〜8%であることがより好ましい。
【0035】
本発明において、平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めた。本発明においては、1000個の粒子の粒径の算術平均を平均粒径とした。変動係数も、1000個の粒子の粒径分布から算出した値とした。
【0036】
〔標識試薬〕
本発明の標識試薬は、本発明のシリカナノ粒子の製造方法を用いて製造された本発明のシリカナノ粒子を用いて調製される。
【0037】
本発明の標識試薬は、本発明のシリカナノ粒子の製造方法を用いて製造された本発明のシリカナノ粒子でも良いし、または、本発明のシリカナノ粒子に、更に、標識物質(標的とする物質と特異的に結合する物質)を結合、修飾して調製されることもできる。
【0038】
本発明の標識試薬は、本発明のシリカナノ粒子に、更に結合、修飾した標識物質が標的とする物質と特異的に結合することにより、物質の標識が可能となることが好ましい。
【0039】
上記結合、修飾、の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0040】
当該標識物質としては例えば、ヌクレオチド鎖、タンパク質、抗体等が挙げられる。
【0041】
例えば、本発明のシリカナノ粒子に、抗体Aを修飾し、後、更に、抗体Aの抗原Bを修飾して得られる本発明の標識試薬を用いて、抗体Aを検出することができる。
【0042】
また、標識試薬として用いる場合、生体物質との非特異的吸着を抑制するためのポリエチレングリコール鎖をもつシランカップリング剤(例えば、Gelest社製PEG−silane no.SIM6492.7)を用いて修飾することにより生体物質との非特異的吸着を抑制することができる。シランカップリング剤を用いる場合、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断りない限り、実施例中の「部」あるいは「%」の表示は、「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0044】
(実施例1:テトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子の合成)
下記工程(1)〜(3)を含む方法により、テトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子を作製した。
工程(1)
テトラメチルローダミン(インビトロジェン社製TAMRA−SE)6.6mgと3−aminopropyltrimetoxysilane(信越シリコーン社製 KBM903)3μLをDMF中で混合、オルガノアルコキシシラン化合物を得た。得られたオルガノアルコキシシラン化合物0.6mlを48mlのエタノール、0.6mlのTEOS(テトラエトキシシラン)、2mlの水、2mlの28%アンモニア水と1時間混合した。
工程(2)
工程(1)で作製した混合液に、3−Aminopropyldimethylethoxysilane(信越シリコーン社製)を1.2ml反応停止剤として加え、2時間混合した。
工程(3)
工程(2)で作製した混合液を10000Gで20分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を2回ずつ行った。
【0045】
得られたテトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子のSEM観察を行ったところ、平均粒径120nm、変動係数は4%であった。また赤外スペクトルの測定を行ったところ(日本分光社製)、Si−O−Si由来のスペクトルに対するSi−OHのスペクトルの比は0.03であった。
【0046】
(比較例1:テトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子の合成)
特許文献3にならい、下記工程(1)〜(2)含む方法により、テトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子を作製した。
工程(1)
テトラメチルローダミン(インビトロジェン社製TAMRA−SE)6.6mgと3−アミノプロピルトリメトキシシラン(3−aminopropyltrimetoxysilane、信越シリコーン社製、KBM903)3μLをDMF中で混合、オルガノアルコキシシラン化合物を得た。得られたオルガノアルコキシシラン化合物0.6mlを48mlのエタノール、0.6mlのTEOS(テトラエトキシシラン)、2mlの水、2mlの28%アンモニア水と3時間混合した。
工程(2)
工程(1)で作製した混合液を10000Gで20分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を2回ずつ行った。
【0047】
得られたテトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子のSEM観察を行ったところ、平均粒径124nm、変動係数は12%であった。また赤外スペクトルの測定を行ったところ(日本分光社製)、Si−O−Si由来のスペクトルに対するSi−OHのスペクトルの比は0.13であった。
【0048】
(実施例2:テトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子への抗体の結合)
実施例1で得られた、テトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子をEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を2mM含有したPBS(リン酸緩衝液生理的食塩水)を用いて3nMに調整、この溶液に最終濃度10mMとなるようSM(PEG)12(サーモサイエンティフィック社製、succinimidyl−[(N−maleomidopropionamid)−dodecaethyleneglycol]ester)を混合し1時間反応した。この混合液を10000Gで20分遠心分離を行い、上澄みを除去した後EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行うことで抗体結合用シリカナノ粒子を得た。
【0049】
一方、抗hCG抗体を1Mジチオスレイトール(DTT)で還元処理を行い、ゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去することによりシリカ粒子に結合可能な還元化抗体溶液を得た。
【0050】
上記で得られた抗体結合用シリカナノ粒子と還元化抗体とを、EDTAを2mM含有したPBS中で混合し、1時間反応させた。10mMメルカプトエタノールを添加し、反応を停止させた。得られた溶液を10000Gで20分遠心分離を行い、上澄みを除去した後EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行うことで抗hCG抗体結合・テトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子を得た。
【0051】
抗hCG抗体結合・テトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子0.1mgを純水0.5mlに分散させ、蛍光測定を行ったところ、反応前の蛍光強度を維持していた。また、SEM観察を行ったところ、平均粒径122nm、変動係数は5%であった。
【0052】
(比較例2:テトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子への抗体の結合)
比較例1で得られたテトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子1mgを純水5mlに分散させた。アミノプロピルトリエトキシシラン水分散液(100%溶液)100μLを添加し、室温で12時間攪拌した。
【0053】
反応混合物を10000Gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を2回行った。
【0054】
得られたアミノ基修飾した・テトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子をEDTAを2mM含有したPBSを用いて3nMに調整、その後実施例2と同様の方法で抗hCG抗体結合・テトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子を得た。得られた粒子のSEM観察を行ったところ、平均粒径128nm、変動係数は14%であった。
【0055】
(検出実験1:抗hCG抗体結合・テトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子、または、抗hCG抗体結合・テトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子、を用いたhCGの検出)
hCG検出用イムノクロマトメンブレンを作製するために以下の工程を行った。イムノクロマト用メンブレン(ミリポア社製)の下端から140mmの位置に、5%ショ糖含有、50mM KHPO、pH7.0で希釈した抗hCGαサブユニット抗体(メディクスバイオケミカ社製)を0.2μg/cmで塗布し、40℃で20分間減圧乾燥した。乾燥したメンブレンは0.5%カゼイン含有50mMホウ酸 pH8.5によるブロッキング処理と0.5%ショ糖、0.05%コール酸Na含有50mMトリス pH7.5による安定化処理を施した。安定化処理後のイムノクロマトメンブレンは乾燥後、バッキングシート(Adhesives Research社製)に貼り付け下端に10mm幅のイムノクロマト用吸収パッドを貼り付けた。完成したhCG検出用イムノクロマトメンブレンは乾燥剤とともに密封し4℃で検出に使用する日まで保存した。
【0056】
検出実験は以下の方法で行った。実施例2、比較例2で作製したシリカナノ粒子のPBS溶液に、0.6IU/LとなるようにhCG(シグマ社製、抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を希釈、1分間混和した。それぞれの混和溶液をhCG検出用イムノクロマトメンブレン上の吸収パッドに100μl滴下し、後、展開させて(展開液:PBS)、抗hCGαサブユニット抗体を塗布したラインの蛍光を2分毎に滴下後30分まで測定した。測定はイメージアナライザー FLA−9000(富士フイルム社製)を用い、1μMに希釈したテトラメチルローダミンをイムノクロマト用メンブレンに20μl滴下したエリアの発光との発光比を求めることで行った。同様の検出実験を20回繰り返し、蛍光が最高値に達するまでの時間(平均値)と最高値(平均値)とそのバラツキを表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から、公知のシリカナノ粒子と比較して、本発明の制御型シリカナノ粒子では蛍光が最高値に達するまでの時間が短縮しかつ、蛍光最高値のバラツキが低減していることがわかる。
【0059】
(検出実験2:長期保存後の、テトラメチルローダミン内包・制御型シリカナノ粒子またはテトラメチルローダミン内包・シリカナノ粒子を用いたhCGの検出)
実施例2、比較例2で作製したシリカナノ粒子をPBS中で6ヶ月間4℃で保存した後、検出実験1と同様のhCG検出実験を行った。保存前後のシリカナノ粒子について行った20回の繰り返し実験から得られた蛍光が最高値に達するまでの時間(平均値)と最高値(平均値)とそのバラツキを表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2から、本発明の制御型シリカナノ粒子では保存前後で最高値に達する間での時間と最高値とそのバラツキに大きな変化がないのに対し、公知のシリカナノ粒子では蛍光が最高値に達する間での時間増大、最高値の低下、最高値のバラツキの増大があることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)及び(b)を含んでいることを特徴とするシリカナノ粒子の製造方法。
(a).含ケイ素アルコキシド類と標識機能分子とを結合した化合物を、テトラアルコキシシラン化合物とともに加水分解し、シリカナノ粒子を調製する工程
(b).前記工程(a)により調製したシリカナノ粒子の加水分解反応を反応停止剤により停止する工程
【請求項2】
前記反応停止剤が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
一般式(1)
SiR
(式中、RはX−C2nを表し、nは0を含む整数であり、XはN、O、S、Pを含む官能基を表し、R、Rは不活性官能基であって水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、アリールアルキル基またはアルキルアリール基を表し、Rは加水分解性の基を表す。)
【請求項3】
前記反応停止剤がアミノプロピルジメチルエトキシシランまたはアミノプロピルジメチルメトキシシランであることを特徴とする請求項2に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記テトラアルコキシシラン化合物と前記反応停止剤の混合モル比が1:1から100:1の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記標識機能分子が蛍光、吸光、X線吸収または磁性の機能を持つことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリカナノ粒子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とするシリカナノ粒子。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリカナノ粒子の製造方法を用いて製造されたシリカナノ粒子を用いて調製されることを特徴とする標識試薬。

【公開番号】特開2011−158422(P2011−158422A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22012(P2010−22012)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】