説明

シリカ焼結体ルツボ

【課題】ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたシリカ焼結体ルツボにおいて、前記内層が外層から剥離し難いシリカ焼結体ルツボを提供する。
【解決手段】ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたシリカ焼結体ルツボであって、前記外層が、溶融シリカ粒子からなる層であり、前記内層が、球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末からなる層であり、前記内層と外層の界面近傍における球状のシリカ粒子の間の空間もしくは溶融シリカ粒子の間の空間が、前記シリカ微粉末によって閉塞されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ焼結体ルツボに関し、例えば、シリコンの溶融熱等によってシリカガラスルツボとすることができるシリカ焼結体ルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン等の半導体単結晶は、主にチョクラルスキー(CZ)法により製造されている。このCZ法によるシリコン単結晶の製造は、シリコン単結晶の種結晶を、多結晶シリコンを溶融したシリコン原料融液に着液させて、回転させながら徐々に引上げていき、シリコン単結晶インゴットを成長させることにより行われる。このようなシリコン単結晶の引上げにおいて、シリコン原料を加熱溶融する容器として、シリカガラスルツボが用いられている。
【0003】
シリカガラスルツボは、図7に示すように、一般的に内周面に原料粉末層G2を形成し、外周面に原料粉末層G1を形成し、一対の電極からなるアーク放電装置をその上部から挿入し、電極に発生するアーク放電熱により、原料粉末G1、G2がアーク溶融によってガラス化させる。そして、外層が多数の気孔を含む見かけ上、不透明な天然質シリカガラス層F1からなり、内層が透明な合成シリカガラス層F2からなるシリカガラスルツボ100が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−169164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、単結晶引上げにおいて、前記シリカガラスルツボ内に原料のポリシリコン塊を充填し、減圧下で、前記シリカガラスルツボの周囲に配置されたヒータによって、ポリシリコン塊を加熱、溶融し、シリコン原料融液を形成している。
このようにシリコン原料融液を形成する際には、前記したようにシリカガラスルツボの内部にポリシリコン塊が充填されるが、このポリシリコン塊の投入時の衝撃によって、シリカガラスルツボの内表面に欠け、割れ(クラック)等の損傷が生じる虞があった。
【0006】
これらシリカガラスルツボの内表面に欠け、割れ(クラック)等の損傷が生じると、シリコン原料融液中に、前記損傷によって生じたシリカガラスの破片が混入し、引き上げられる単結晶シリコンに取り込まれる虞があった。即ち、シリカガラスの破片の混入によって単結晶シリコンに結晶転位による有転位化(結晶欠陥)が生じ、単結晶化率を低下させるという技術的課題があった。
【0007】
また、シリカガラスルツボの内表面の割れ(クラック)中に大気が取り込まれるため、前記大気(気泡)がシリコン原料融液中に混入し、引上げられるシリコン単結晶中に気泡が取込まれる虞があった。即ち、シリコン単結晶中に取り込まれる気泡によって単結晶シリコンに結晶転位による有転位化(結晶欠陥)が生じ、単結晶化率を低下させるという技術的課題があった。
【0008】
本発明者らは、上記技術的課題を解決するために、ルツボの内表面に欠け、割れ(クラック)等の損傷が生じ難いルツボを鋭意研究した。その結果、ルツボがシリカ焼結体で形成されている場合には、従来のシリカガラスルツボに比べて柔らかく、ルツボに原料のポリシリコン塊を充填する際、ルツボの内表面が凹むという損傷を受ける可能性は有るものの、欠け、割れ(クラック)の損傷は生じ難いことを知見した。
しかも、前記シリカ焼結体からなるルツボを、シリコン等の溶融熱等の加熱によってシリカ焼結体からシリカガラスに変化させてシリカガラスルツボとなし、このシリカガラスルツボを用いることによって単結晶引上げができること知見した。
そして更に、前記シリカ焼結体ルツボが、ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えるものあることが好ましいことを知見した。
【0009】
このようにシリカ焼結体ルツボが、ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたものである場合、ポリシリコン塊が投入された際、あるいはシリコン等の溶融熱等の加熱によってシリカガラスに変化するまでに、前記内層が外層から剥離しないようになすことが重要であることを知見した。
【0010】
本発明は、上記事情に基づいてなされたものであり、ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたシリカ焼結体ルツボにおいて、前記内層が外層から剥離し難いシリカ焼結体ルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するためになされた本発明にかかるシリカ焼結体ルツボは、ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたシリカ焼結体ルツボであって、前記外層が、シリカ粒子からなる層であり、前記内層が、球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末からなる層であり、前記内層と外層の界面近傍における球状のシリカ粒子もしくはシリカ粒子の間の空間が、前記シリカ微粉末によって閉塞されることを特徴としている。
【0012】
また、本発明にかかるシリカ焼結体ルツボは、ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたシリカ焼結体ルツボであって、前記外層が、シリカ粒子を堆積させて成形し、焼成された層であり、前記内層が、前記外層の内周面に、球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末を含有する内層用コーティング液を塗布し、焼成して形成された層であり、前記内層と外層の界面近傍における球状のシリカ粒子もしくはシリカ粒子の間の空間が、前記シリカ微粉末によって閉塞されることを特徴としている。
【0013】
このように、本発明にかかるシリカ焼結体ルツボは、内層と外層の界面近傍における球状のシリカ粒子もしくはシリカ粒子の間の空間が前記シリカ微粉末によって閉塞されるように構成されている。即ち、内層と外層の界面近傍において、粒子径の大きなシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞されているため、前記空間に存在するシリカ微粉末の焼結体が、前記内層及び外層を強固に結合させ、内層を剥離し難い状態になしている。
その結果、本発明にかかるシリカ焼結体ルツボによれば、剥離した内層の破片混入よる、単結晶シリコンの結晶転位による有転位化(結晶欠陥)を抑制でき、単結晶化率を向上させることができる。
【0014】
ここで、前記内層の内表面近傍における球状のシリカ粒子の間の空間が、シリカ微粉末によって閉塞されず、空間が存在していることが望ましい。
前記空間が存在していることにより、内層が緻密化する際に生じる内部応力を緩和することができ、亀裂や剥離などの発生を抑制することができる。
【0015】
また、前記内層と、前記外層が多孔質シリカ焼結体からなることが望ましい。
【0016】
また、前記内層に含有される球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末が、所定の平均粒子径を有し、所定の粒度分布を有する球状シリカ粒子であることが望ましい。
このように内層に含有される球状シリカ粒子が、所定の粒度分布を有しているため、粒子径の大きな球状シリカ粒子が内層の骨格を形成すると共に、粒子径の小さな球状シリカ粒子が、粒子径の大きな球状シリカ粒子の間の空間を内層の内表面から外層との界面に向かって連続的に増加するように閉塞することができる。
また、内層に含有される球状シリカ粒子が、所定の粒度分布を有しているため、粒子径の小さな球状シリカ粒子は、内層と外層の界面近傍の外層の骨格を形成する、シリカ粒子の間の空間を埋めることができる。
【0017】
また、前記内層に含有される球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末は、平均粒子径が異なる2以上の球状シリカ粒子を混合したものであることが望ましい。
このように、平均粒子径が異なる2以上の球状シリカ粒子を混合したものを用いることにより、球状シリカ粒子の間の空間もしくは内層と外層の界面近傍の外層の骨格を形成するシリカ粒子の間の空間を埋める、十分なシリカ微粉末を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたシリカ焼結体ルツボにおいて、前記内層が外層から剥離し難いシリカ焼結体ルツボを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に係るシリカ焼結体ルツボを示す一部断面図である。
【図2】図2は、図1に示すXの電子顕微鏡写真であって、内層と外層の界面におけるシリカ粒子の間の空間の状態を示す図である。
【図3】図3は、図2に示された電子顕微鏡写真の拡大図であって、(a)は図2の2−1、(b)は図2の2−2,(c)は図2の2−3の拡大図である。
【図4】図4は、本発明に係るシリカ焼結体ルツボの一の製造工程を示すフローチャートシート図である。
【図5】図5は、本発明に係るシリカ焼結体ルツボの他の製造工程を示すフローチャートシート図である。
【図6】図6は、本発明に係るシリカ焼結体ルツボからシリカガラスルツボへの変化を示す模式図である。
【図7】図7は、従来のシリカガラスルツボを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかるシリカ焼結体ルツボの一実施形態について、図1に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明にかかるシリカ焼結体ルツボ1は、ルツボの基体となる外層1aと、前記外層1aの内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層1bとを備えている。
この外層1aは、シリカ粒子を成形し、焼成された層であり、前記内層1bは、前記外層1aの内周面に、球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末を含有する内層用コーティング液を塗布し、焼成して形成された層である。
【0021】
このように構成されたシリカ焼結体ルツボ1は、所定温度で所定時間加熱することにより、シリカ焼結体は結晶化し、シリカガラスに変化する。即ち、シリカガラスルツボを形成することができる。
【0022】
また、本発明にかかるシリカ焼結体ルツボ1は、前記内層1bと外層1aの界面において、球状のシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞される(満たされる)。このように球状のシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞される(満たされる)ため、電子顕微鏡で観察した際、球状のシリカ粒子の輪郭が判別しづらくなる。
【0023】
更に、電子顕微鏡写真である図2、図3に基づいて説明すると、内層1bの内表面には球状のシリカ粒子Pc間の空間Oが存在し、球状のシリカ粒子Pcの存在が認められる(図3(a)参照)。
また前記内層1bの内表面から外層1b側方向に行くに従って、球状のシリカ粒子の存在が認められる結晶構造CAから鱗片状の結晶構造CBに変化する(図2参照)。このように、結晶構造CAから鱗片状の結晶構造CBへ変化するのは、球状のシリカ粒子の間の空間Oに存在するシリカ微粉末が増加し、閉塞された(満たされた)ためと考えられる。
そして、前記内層1bと外層1aの界面においては、球状のシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によってほぼ閉塞され(満たされ)、球状のシリカ粒子の輪郭が判別しづらくなっている(図2、図3(c)参照)。このように内層1bと外層1aの界面におけるシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞されているため、前記空間に存在するシリカ微粉末の焼結体によって前記内層及び外層が強固に結合し、剥離し難い状態になされている。
【0024】
また、このシリカ焼結体ルツボ1における内層1bの内径は、引上げるシリコン単結晶径により適宜設定され、外層1aの厚さ寸法は5mm〜20mmに形成されている。また、内層1bの厚さ寸法は0.5mm〜5mmに形成されている。
前記外層の厚さ(肉厚)が5mm未満である場合には機械的強度が弱く、また、20mmを超える場合には、ルツボ自体が重量化し、好ましくない。また、前記内層の厚さ(肉厚)が0.5mm未満である場合には充填されるポリシリコン塊の衝撃を吸収できず、また、5mmを超える場合には、ポリシリコン等の溶融時の変形が起こりやすく好ましくない。
【0025】
このように構成されたシリカ焼結体ルツボ1は、ルツボの内表面に欠け、割れの損傷を抑制することができ、仮に、ルツボ内周面に凹みの損傷を受けたとしても、シリコン等の溶融熱等の加熱によってシリカガラスに変化する際に、前記損傷が緩和もしくは修復される。
また、内層1bと外層1aの界面におけるシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞されているため、内層が剥離し難く、このシリカ焼結体ルツボ1によれば、剥離した内層の破片混入による、単結晶シリコンの結晶転位による有転位化(結晶欠陥)を抑制でき、単結晶化率を向上させることができる。
【0026】
次に、本発明にかかるシリカ焼結体ルツボの製造方法について、図4乃至図6に基づいて説明する。
本発明に係るシリカ焼結体ルツボの製造方法は、CIP(冷間等方圧成形法)や、いわゆる鋳込み成形(加圧鋳込み法、ゲルキャスト法、スリップキャスト法など)が製造方法として適用可能である。
先ずシリカ焼結体ルツボの外層(基体)を製造する方法について説明する。
CIP(冷間等方圧成形法)とは、金属製の内型(マンドレル)と外型であるゴム型との間に粉体を充填して、静水圧を印加して成形する方法であり、粒度配合を調製した原料粉末をゴム型に充填し、乾式成形で当方加圧するため得られた成形体の密度が均一となる成形方法である。
また、スリップキャスト法とは、セラミックス製造における成形方法の一つとして知られている方法であり、原料粉末と分散媒、分散剤、バインダ等を混合・分散して調製したスリップ(泥漿又はスラリーともいう)を石膏等の多孔質体で作製された型に注型し、該型の毛細管現象によってスリップ中の液体を吸収させて、前記型表面に固体粒子を堆積させて着肉成形する方法である。
【0027】
[外層製造方法1]
まず、シリカ焼結体ルツボの外層(基体)をCIP(冷間等方圧成形法)によって製造する方法を説明する。
図4に示すように、粒径0.1μm以上5.0mm以下のシリカ粉にバインダーとしてグリコール系可塑剤を混合し、スプレードライで造粒し、顆粒原料粉末を調製する(図4のS1)。
この顆粒原料粉末中のシリカ粉の粒径が0.1μm未満のものを含む場合、粉末粒子が微細すぎて、ルツボ成形体の強度を保持するための骨材として役割を十分に果たすことが困難となる。一方、前記粒径が5.0mmを超えるものを含む場合、粉末粒子が粗すぎて、粒子間に空隙が生じ、これに起因して、ルツボが破損しやすくなる。
【0028】
この原料粉末をルツボ形状となる金属製内型とゴム型との間に充填し(図4のS2)、バイブレーターで充填する(図4のS3)。その後、このゴム型を冷間静水圧加圧装置にて150MPa以下の圧力で成形する(図4のS4)。この成形体を型から取り外し(図4のS5)、前記成形体を、電気炉にて1200℃以下、大気中で焼成する(図4のS6)。
このルツボの外層(基体)は、かさ比重1.6〜2.2、気孔率7〜15%の多孔質焼結体として形成される。このルツボの外層(基体)の厚さ(肉厚)は、5mm〜20mmに形成される。
【0029】
[外層製造方法2]
次に、シリカ焼結体ルツボの外層(基体)をスリップキャスト法によって製造する方法を説明する。
図5に示すように、粒径0.1μm以上5.0mm以下のシリカ粉を分散させたスラリーを調整する(図5のS21)。
このスラリー中に添加される溶融シリカ粉の粒径が0.1μm未満のものを含む場合、粉末粒子が微細すぎて、ルツボ成形体の強度を保持するための骨材として役割を十分に果たすことが困難となる。一方、前記平均粒径が5.0mmを超えるものを含む場合、粉末粒子が粗すぎて、粒子間に空隙が生じ、これに起因して、ルツボ強度が低下し、破損しやすくなる。
【0030】
なお、前記シリカ粉は、天然シリカ粉、合成シリカ粉、溶融シリカ粉などを用いることができる。
また、前記シリカ粉は高純度シリカ粉を用いることが好ましい。このように高純度のシリカを用いることにより、アルカリ金属等による不純物汚染を抑制することができる。
しかし、ルツボの外層(基体)を構成するシリカ粉は低純度のシリカであっても良い。後述する内層の球状のシリカ粉を高純度のものを用いることによって、不純物汚染を抑制するようになしても良い。
【0031】
なお、前記バインダや分散剤等のルツボの構成材料以外の添加剤には、焼成時に焼失し、溶融シリカ純度に影響を及ぼさないものを用いる。
【0032】
前記スラリーを、鋳込み型(石膏型)へ供給し(図5のS22)、型の毛細管現象によってスラリー中の水分を吸収させ(図5のS23)、前記型表面にシリカ粒子を堆積させて着肉成形させる。
その後、成形体を型から取り外し(図5のS24)、前記成形体を100℃以上で、乾燥させた後(図5のS25)、 温度1200℃以下、大気中で焼成する(図5のS26)。
【0033】
[内層製造方法]
次に、前記焼結体に内層を形成する。この焼結体(外層)の内層は、いわゆるコーティング法(排泥法)、スプレーコーティング法、スピンコート法などによって製造される。
コーティング法(排泥法)は、前記焼結体を内層用コーティング液内に浸漬し、焼結体の内周面に内層を形成するものである。
スプレーコーティング法は、前記焼結体の内周面に内層用コーティング液を吹付け、焼結体の内周面に内層用コーティング液によって成形層を形成するものである。
スピンコート法は、前記焼結体の内周面に内層用コーティング液を投入し、焼結体を回転させることにより、焼結体の内周面に内層用コーティング液を塗り広げ、成形層を形成するものである。
内層用コーティング液は、内層原料粉末(図4のS7、図5のS27)とバインダ(図4のS8、図5のS28)、分散媒、分散剤を混合・分散して調製した内層用コーティング液を形成する(図4のS9、図5のS29)。
ここで、内層原料粉としては、球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末が用いられる。一例を挙げれば、平均粒径が10μm以下であって半値全幅が10μm以上の球状シリカ粒子が用いられる。平均粒径が10μm以下であって半値全幅が10μm以上となるように平均粒径の異なる2以上の球状シリカ粒子を混合したものを用いても良い。
【0034】
前記球状シリカ粒子の中で、粒子径の大きな球状シリカ粒子が内層1bの骨格を形成し、粒子径の小さな球状シリカ粒子(シリカ微粉末)が、粒子径の大きな球状シリカ粒子の間の空間を閉塞する役割を果たす。
また、平均粒径の異なる2以上の球状シリカ粒子を用いることにより、より微細なシリカ微粉末を得ることができる。
【0035】
また、内層原料粉として用いられる球状シリカ粒子は、高純度のものを用いることが好ましい。このように高純度のものを用いることにより、引き上げられる単結晶の不純物汚染を抑制することができる。
また、前記バインダとしては、アクリル系バインダーが好適に用いられる。
【0036】
このように調整された内層用コーティング液を撹拌し、均一に分散した状態になす(図4のS10、図5のS30)。そして、この内層用コーティング液を、前記製造した焼結体の内面に塗布ことにより、焼結体(外層)の内周面に内層を形成する(図4のS11、図5のS31)。
【0037】
塗布された内層用コーティング液は、毛細管現象により外層に吸収されるため、シリカ微粉末である球状シリカ粒子は内層側から外層側に移動する。
このシリカ微粉末が移動することにより、内層と外層の界面近傍における球状のシリカ粒子(粒子径の大きな球状シリカ粒子)の間の空間が、前記シリカ微粉末によって閉塞される(満たされる)。また、内層と外層の界面近傍における外層の溶融シリカ粒子の間の空間も、前記シリカ微粉末によって閉塞される(満たされる)。
尚、内層の内表面側における、球状のシリカ粒子(粒子径の大きな球状シリカ粒子)の間の空間は、シリカ微粉末が移動したことにより、シリカ微粉末によって閉塞されず(満たされず)、輪郭が球状のシリカ粒子の存在が認められる。
【0038】
更に、内周面がコーティングされたこの焼結体を100℃以上で、所定時間乾燥させた後(図4のS12、図5のS32)、 温度1200℃以下、大気中で焼成する(図4のS13、図5のS33)。これにより、コーティングされた内周面も焼結体として形成される。
【0039】
このようにして、図1乃至図3に示すような外層(基体)1aと内層1bがシリカ焼結体で形成されたルツボ1が製造される。
このシリカ焼結体ルツボ1は、シリカ焼結体ルツボの外層(基体)1aをCIP(冷間等方圧成形法)、またはスリップキャスト法によって製造し、内層1bをコーティング法で形成するため、コスト的に安価であり、大量生産に好適である。尚、内層用コーティング液を、前記製造した焼結体の内面に塗布することにより、焼結体(外層)の内周面に内層を形成する場合について説明したが、塗布の方法については特に限定されず、例えば、刷毛塗り等の方法を用いることもでき、均一な厚さで内層を形成することができるものであれば良い。
尚、上記製造方法にあっては、所定粒径のシリカ粉を成形し、その成形体を焼成した後、前記焼結体の内周面に、所定粒径の球状シリカ粒子を含有する成形層を形成し、更に前記成形層を焼成することによって、前記焼結体の内周面に内層を形成した。
しかしながら、本発明に係る製造方法は、上記製造方法に限定されるものではなく、所定粒径のシリカ粉を成形し、その成形体の内周面に、所定粒径の球状シリカ粒子を含有する成形層を形成し、前記成形層を形成した成形体を焼成し、前記焼結体の内周面に内層を形成しても良い。この場合、焼成工程が1度で済み効率的にシリカ焼結体ルツボを製造することができる。
【0040】
次に、前記シリカ焼結体ルツボを用いて、単結晶引上げる場合について説明する。尚、単結晶引き上げ装置は一般的な引上げ装置を用いることができる。
シリカ焼結体ルツボ1を単結晶引上げ装置内に載置する。図6(a)に示すように、シリカ焼結体ルツボ1に原料のポリシリコン塊Pを充填する。この際、前記内層1bと外層1aの界面において、シリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞され(満たされ)、前記空間に存在するシリカ微粉末の焼結体によって、前記内層及び外層が強固に結合しているため、内層の剥離が抑制される。
その結果、この後に行われる単結晶引上げにおいて、剥離した内層の破片混入による、単結晶シリコンの結晶転位による有転位化(結晶欠陥)を抑制でき、単結晶化率を向上させることができる。
【0041】
そして、焼結体ルツボの周囲に配置された、ヒータ(単結晶引き上げ装置)より加熱する。このとき、単結晶引き上げ装置内部は減圧状態になされており、ヒータによる加熱は減圧下でなされる。なお、前記減圧状態は、単結晶引上げ時の圧力より低くすることが好ましい。
この加熱によりシリカ焼結体ルツボ1が昇温すると、シリカ焼結体ルツボ1の内層1bは緻密化し始める(図中の符号1b1は緻密化部分を示す)。また、シリカ焼結体ルツボ1の外層1aは結晶化し始める(図中の符号1a1は一部結晶化した部分を示す)。
尚、減圧下でシリカ焼結体ルツボ1が昇温されているため、シリカ焼結体ルツボ1内部(シリカ粒子の間の空間)に気泡Aが存在しているとしても、前記気泡Aは膨張することなく、緻密化がなされる(図6(b)乃至(e)参照)。
【0042】
そして、図6(b)に示すようにシリカ焼結体ルツボ1が1400℃に昇温する(ポリシリコン塊が溶融を開始する前)までに内層1bは緻密化を終了し、シリカ焼結体ルツボ1は、シリカガラスルツボとして形成される。
尚、シリカ焼結体ルツボ1に原料のポリシリコン塊Pを充填した際に、内周面に凹みが生じた場合にも、内層1bが緻密化する際に、前記凹みは修復される。
また、外層1aは原料粉に含まれている添加剤により一部結晶化する。即ち、前記ポリシリコン塊が溶融を開始する前に、シリカ焼結体の内層は少なくとも緻密化し、外層の一部は結晶化する。
【0043】
また、内層用コーティング液に結晶化剤が含まれている場合には、図6(c)に示すように、内層1bの結晶化(クリストバラスト化)が始まる。
更に、図6(c)に示すように、シリカ焼結体ルツボ1が1420℃を超えて昇温する(ポリシリコン塊が溶融を開始する)と、内層1b及び外層1aは結晶化(クリストバラスト化)が進行すると共に、原料のポリシリコンPの溶融が始まる。図中、PLは原料のポリシリコンPの融液を示している。また、図中の符号1a2,1b2は結晶化部分を示す。
そして、図6(d)に示すように、シリカ焼結体ルツボ1が1450℃で、原料のポリシリコンPの溶融が終了し、この1450℃の状態を2時間維持することにより、シリカ焼結体ルツボ1の内層1b及び外層1aの結晶化(クリストバラスト化)が終了する(図6(e)参照)。この結晶化(クリストバラスト化)により、シリカ焼結体ルツボ1は、シリカガラスルツボとして形成される。
この結晶化(クリストバラスト化)により、機械的強度が増し、坐折変形を抑制することができる。
【0044】
シリカ焼結体ルツボ1がシリカガラスルツボとして形成された後、一般的な引上げ方法により、単結晶が引き上げられる。具体的には、ルツボ回転昇降機構により前記ルツボを回転させ、引上げ機構のワイヤに設けられたチャックに取付けられた種結晶を降下させて、原料シリコンの融液に浸漬した後、引上げ機構によりワイヤを徐々に巻取り、シリコン単結晶の育成を行う。
【0045】
尚、上記実施形態にあっては、ルツボ内周面に凹みの損傷を受けたとしても、シリコン等の溶融熱によって前記損傷が修復されることを説明したが、この別の加熱手段により加熱し、シリカガラスルツボとした後に、シリコン単結晶の引き上げに用いても良い。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
図4に示すように、粒径0.1μm以上5.0mm以下の溶融シリカ粉にバインダーとしてグリコール系可塑剤を混合し、原料粉末を調製する。この原料粉末をルツボ形状となる金属製内型とゴム型との間に充填し、バイブレーターで充填した。その後、このゴム型を冷間静水圧加圧装置にて150MPa以下の圧力で成形した。この成形体を型から取り外し、前記成形体を、電気炉にて1200℃以下、大気中で焼成した。
尚、この多孔質焼結体(外層)の厚さを、5mm〜20mmに形成した。
【0047】
この焼成によって得た焼結体(外層)の内周面に、いわゆるコーティング法(排泥法)によって成形層を形成した。この成形層を形成するための内層用コーティング液は、平均粒径が10μm(半値全幅:15μm)の球状シリカ粉と、アクリル系バインダーとを添加しスラリーを調製した。そして、この内層用コーティング液を、前記製造した焼結体(外層)の内周面に塗布することにより、焼結体(外層)の内周面に厚さ0.5mm〜5.0mmの成形層を形成した。
この内周面がコーティングされた焼結体を100℃以上で乾燥させた後、1200℃以下、大気中で焼成した。このようにして、外層(基体)と内層が多孔質シリカ焼結体で形成されたルツボを形成した。
【0048】
そして、このように製造されたシリカ焼結体ルツボの側壁断面を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、内層と外層の界面において、球状のシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞されていることが確認できた。尚、前記内層の内表面における球状のシリカ粒子の間の空間は、シリカ微粉末によって閉塞されず、輪郭が球状のシリカ粒子を確認することができた。
【0049】
このシリカ焼結体ルツボを単結晶引上げ装置内に載置した。その後、シリカ焼結体ルツボに原料のポリシリコン塊を充填し、減圧下で、シリカ焼結体ルツボの周囲に配置された、ヒータ(単結晶引き上げ装置)より加熱した。シリカ焼結体ルツボを1450℃の状態を2時間維持し、シリカ焼結体ルツボの内層の緻密化及び外層の結晶化(クリストバラスト化)を行った。
【0050】
引き続き、所定の条件下でシリコン単結晶の引上げを行った。このシリコン単結晶の引上げを同様に製造したルツボ10個それぞれを用いて行った。そして、それぞれのルツボについて、シリコン単結晶引上げ後の内層に含まれる泡の大きさを、光学顕微鏡により観察した。また、それぞれのルツボによりシリコン単結晶を引上げた際に、有転位化(結晶欠陥)の発生などにより結晶再溶融(メルトバック)した回数を記録した。それらの結果を表1に示す。
シリコン単結晶引上げ後の内層に含まれる泡の大きさは50μm以下であり、泡膨れしていないことが確認された。また、メルトバックが生じたのは10個中1個であり、良好であった。
【0051】
[実施例2]
図5に示すように、粒径0.1μm以上5.0mm以下の溶融シリカ粉を分散させたスラリーを調整する。このスラリーは、ルツボの構成材料である前記溶融シリカ粉を90重量%、イオン交換水を10重量%、添加し撹拌・混合することにより調整する。
このスラリーを、鋳込み型(石膏型)へ供給した後、前記型表面に溶融シリカ粒子を堆積させて成形した。この成形体を型から取り外し、前記成形体を100℃以上で乾燥させた後、 電気炉にて温度1200℃以下、大気中で焼成した。
尚、この焼結体(外層)の厚さを、5mm〜20mmに形成した。
【0052】
この焼成によって得た焼結体(外層)の内周面に、いわゆるコーティング法(排泥法)によって内層を形成した。この内層を形成するための内層用コーティング液は、平均粒径が10μm(半値全幅:15.5μm)の球状シリカ粒子にアクリル系バインダーを添加してスラリーを調製した。そして、この内層用コーティング液を、前記製造した焼結体(外層)の内周面に塗布することにより、焼結体(外層)の内周面に厚さ0.5mm〜5.0mmの内層を形成した。
また、内周面がコーティングされた焼結体を100℃以上で、乾燥させた後、電気炉にて温度1200℃以下、大気中で焼成した。このようにして、外層(基体)と内層がシリカ焼結体で形成されたルツボを形成した。
【0053】
そして、このように製造されたシリカ焼結体ルツボの側壁断面を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、内層と外層の界面において、球状のシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞されていることが確認できた。尚、前記内層の内表面における球状のシリカ粒子の間の空間は、シリカ微粉末によって閉塞されず、輪郭が球状のシリカ粒子を確認することができた。
【0054】
このシリカ焼結体ルツボを実施例1と同様に、単結晶引上げ装置内に載置し、シリカ焼結体ルツボの内層の緻密化及び外層の結晶化(クリストバラスト化)し、引き続き、シリコン単結晶の引上げを行った。このシリコン単結晶の引上げを同様に製造したルツボ10個それぞれを用いて行った。そして、それぞれのルツボについて、シリコン単結晶引上げ後の内層に含まれる泡の大きさを、光学顕微鏡により観察した。また、それぞれのルツボによりシリコン単結晶を引上げた際に、有転位化(結晶欠陥)の発生などにより結晶再溶融(メルトバック)した回数を記録した。それらの結果を表1に示す。
シリコン単結晶引上げ後の内層に含まれる泡の大きさは50μm以下であり、泡膨れしていないことが確認された。また、メルトバックが生じたのは10個中0個であり、良好であった。
【0055】
[実施例3]
実施例2と同様に形成した焼結体(外層)の内周面に、いわゆるスプレーコーティング法によって内層を形成した。この内層を形成するための内層用コーティング液は、平均粒径が10μm(半値全幅:15μm)の球状シリカ粉と、アクリル系バインダーとを添加しスラリーを調製した。またスラリー粘性は0.50ポイズ(poise)以下で調合した。そして、重力式エアスプレーガンにて、この内層用コーティング液を前記焼結体(外層)の内周面に塗布することにより、焼結体(外層)の内周面に厚さ0.5mm〜5.0mmの成形層を形成した。
成形層が形成された焼結体を100℃以上で乾燥させた後、1200℃以下、大気中で焼成した。このようにして、外層(基体)と内層が多孔質シリカ焼結体で形成されたルツボを形成した。
【0056】
そして、このように製造されたシリカ焼結体ルツボの側壁断面を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、内層と外層の界面において、球状のシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞されていることが確認できた。尚、前記内層の内表面における球状のシリカ粒子の間の空間は、シリカ微粉末によって閉塞されず、輪郭が球状のシリカ粒子を確認することができた。
【0057】
このシリカ焼結体ルツボを実施例1と同様に、単結晶引上げ装置内に載置し、シリカ焼結体ルツボの内層の緻密化及び外層の結晶化(クリストバラスト化)し、引き続き、シリコン単結晶の引上げを行った。このシリコン単結晶の引上げを同様に製造したルツボ10個それぞれを用いて行った。そして、それぞれのルツボについて、シリコン単結晶引上げ後の内層に含まれる泡の大きさを、光学顕微鏡により観察した。また、それぞれのルツボによりシリコン単結晶を引上げた際に、有転位化(結晶欠陥)の発生などにより結晶再溶融(メルトバック)した回数を記録した。それらの結果を表1に示す。
シリコン単結晶引上げ後の内層に含まれる泡の大きさは50μm以下であり、泡膨れしていないことが確認された。また、メルトバックが生じたのは10個中1個であり、良好であった。
【0058】
[実施例4]
実施例2と同様に形成した焼結体(外層)の内周面に、いわゆるスピンコーティング法によって内層を形成した。この内層を形成するための内層用コーティング液は、平均粒径が10μm(半値全幅:15.5μm)の球状シリカ粉と、アクリル系バインダーとを添加しスラリーを調製した。またスラリー粘性は0.75ポイズ(poise)以下となるように調製した。
そして、前記焼結体(外層)を偏心旋回駆動をもつ自動スピンコーティング装置に挿入し、内層用コーティング液スラリーを投入した後、回転数200rpm以下にて焼結体(外層)を回転させ焼結体(外層)の内周面に塗布することにより、焼結体(外層)の内周面に厚さ0.5mm〜5.0mmの成形層を形成した。
成形層が形成された焼結体を100℃以上で乾燥させた後、1200℃以下、大気中で焼成した。このようにして、外層(基体)と内層が多孔質シリカ焼結体で形成されたルツボを形成した。
【0059】
そして、このように製造されたシリカ焼結体ルツボの側壁断面を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、内層と外層の界面において、球状のシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞されていることが確認できた。尚、前記内層の内表面における球状のシリカ粒子の間の空間は、シリカ微粉末によって閉塞されず、輪郭が球状のシリカ粒子を確認することができた。
【0060】
このシリカ焼結体ルツボを実施例1と同様に、単結晶引上げ装置内に載置し、シリカ焼結体ルツボの内層の緻密化及び外層の結晶化(クリストバラスト化)し、引き続き、シリコン単結晶の引上げを行った。このシリコン単結晶の引上げを同様に製造したルツボ10個それぞれを用いて行った。そして、それぞれのルツボについて、シリコン単結晶引上げ後の内層に含まれる泡の大きさを、光学顕微鏡により観察した。また、それぞれのルツボによりシリコン単結晶を引上げた際に、有転位化(結晶欠陥)の発生などにより結晶再溶融(メルトバック)した回数を記録した。それらの結果を表1に示す。
シリコン単結晶引上げ後の内層に含まれる泡の大きさは50μm以下であり、泡膨れしていないことが確認された。また、メルトバックが生じたのは10個中1個であり、良好であった。
【0061】
[比較例1]
図5に示すように、粒径0.1μm以上5.0mm以下の溶融シリカ粉を分散させたスラリーを調整する。このスラリーは、ルツボの構成材料である前記シリカ粉を90重量%、イオン交換水を10重量%、添加し撹拌・混合することにより調整する。
このスラリーを、鋳込み型(石膏型)へ供給した後、前記型表面に溶融シリカ粒子を堆積させて成形した。この成形体を型から取り外し、前記成形体を100℃以上で乾燥させた後、電気炉にて温度1200℃以下、大気中で焼成した。
【0062】
この焼成によって得た焼結体(外層)の内周面に、いわゆるコーティング法(排泥法)によって内層を形成した。この内層を形成するための内層用コーティング液は、平均粒径が35μm(半値全幅:9μm)の球状シリカ粒子を100重量%、更にアクリル系バインダーとを添加し、スラリーを調製した。そして、この内層用コーティング液を、前記製造した焼結体(外層)の内周面に塗布することにより、焼結体(外層)の内周面に厚さ0.5〜5.0mmの内層を形成した。
また、内周面がコーティングされた焼結体を100℃以上で乾燥させた後、電気炉にて温度1200℃以下、大気中で焼成した。このようにして、外層(基体)と内層がシリカ焼結体で形成されたルツボを形成した。
【0063】
そして、このシリカ焼結体ルツボの側壁断面を電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、内層と外層の界面において、球状のシリカ粒子の間の空間がシリカ微粉末によって閉塞されず、輪郭が球状のシリカ粒子を確認された。尚、前記内層の内表面における球状のシリカ粒子の間の空間もシリカ微粉末によって満たされず、空間が残存していた。
【0064】
そして、上記条件で製造された10個のシリカ焼結体ルツボについて、実施例1と同様な条件下で、シリコン単結晶の引上げを行った。
シリコン単結晶引上げ後の内層はクラックや剥離が確認された。また、メルトバックが生じたのは10個中8個であり、良好でなかった。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
1 シリカ焼結体ルツボ
1a 外層
1a1 外層一部結晶化部分
1a2 外層結晶化部分
1b 内層
1b1 内層緻密化部分
1b2 内層結晶化部分
A 気泡
CA 球状シリカ粒子の存在が認められる組織構造領域
CB 鱗片状組織構造領域(球状シリカ粒子の存在を識別できない組織構造領域)
O 球状シリカ粒子の間の空間
P ポリシリコン塊
PL シリコン融液PL
Pc 球状シリカ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたシリカ焼結体ルツボであって、
前記外層が、シリカ粒子からなる層であり、
前記内層が、球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末からなる層であり、
前記内層と外層の界面近傍における球状のシリカ粒子の間の空間もしくはシリカ粒子の間の空間が、前記シリカ微粉末によって閉塞されることを特徴とするシリカ焼結体ルツボ。
【請求項2】
ルツボの基体となる外層と、前記外層の内周面に形成された、シリコン等の溶融液と接する内層とを備えたシリカ焼結体ルツボであって、
前記外層が、シリカ粒子を堆積させて成形し、焼成された層であり、
前記内層が、前記外層の内周面に、球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末を含有する内層用コーティング液を塗布し、焼成して形成された層であり、
前記内層と外層の界面近傍における球状のシリカ粒子もしくはシリカ粒子の間の空間が、前記シリカ微粉末によって閉塞されることを特徴とするシリカ焼結体ルツボ。
【請求項3】
前記内層の内表面における球状のシリカ粒子の間の空間が、シリカ微粉末によって閉塞されず、空間が存在していることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシリカ焼結体ルツボ。
【請求項4】
前記内層と、前記外層が多孔質シリカ焼結体からなることを特徴とする請求項1及至3のいずれかに記載のシリカ焼結体ルツボ。
【請求項5】
前記内層に含有される球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末が、所定の平均粒子径を有し、所定の粒度分布を有する球状シリカ粒子であることを特徴とする請求項1及至請求項4のいずれかに記載のシリカ焼結体ルツボ。
【請求項6】
前記内層に含有される球状のシリカ粒子及びシリカ微粉末は、平均粒子径が異なる2以上の球状シリカ粒子を混合したものであることを特徴とする請求項5記載のシリカ焼結体ルツボ。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−95652(P2013−95652A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242536(P2011−242536)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】