説明

シリカ系メソ多孔体材料−ヘテロ蛋白質複合体及びその製造方法

【課題】シリカ系メソ多孔体材料−へテロ蛋白質内包複合体、その製造方法及び用途を提供する。
【解決手段】シリカ系メソ多孔体(FSM)の細孔内部に性質の異なる少なくとも二種類のヘテロ蛋白質を備える蛋白質内包複合体であって、蛋白質が前記FSMの細孔内に吸着され、分散した状態で安定に固定されており、上記二種類のヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にあり、高密度に集積した蛋白質として、前記FSMの細孔内に吸着されていることからなるヘテロ蛋白質複合体、その製造方法、及び該複合体からなり、機能性を有するヘテロ蛋白質をFSMの細孔内に安定に、且つ分散した状態で吸着させ、その活性を安定に保持させた機能性部材。
【効果】蛍光性又は発光性等の機能性を有するヘテロ蛋白質の活性を安定に保持した新規FSM−ヘテロ蛋白質複合体、その製造方法及び機能性部材としての用途を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ蛋白質複合体に関するものであり、更に詳しくは、表面を未処理あるいはアルコール処理したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に蛍光性又は発光性蛋白質等の機能性ヘテロ蛋白質を備える蛋白質内包複合体、その製造方法及びその用途に関するものである。本発明は、表面を未処理あるいはアルコール処理したシリカ系メソ多孔体の細孔内部にヘテロ蛋白質を導入し、該ヘテロ蛋白質を分散した状態で安定に固定して、その機能を発揮させることを可能とする新規シリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体、その製造方法、及び、その機能性部材としての用途に関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
サブユニット蛋白質を代表とするヘテロ蛋白質は、生体内での様々な化学反応における反応経路を提供しており、この精細緻密な反応を人工的な蛋白質複合体を用いて再現する手法の開発が、例えば、バイオ技術分野における触媒反応等の化学反応プロセスへの応用に向けて期待されている。
【0003】
一般に、酵素等の機能性蛋白質は、常温、常圧、中性付近のpHにおいて活性を発現するために、試験管内の実験系において、二種類以上の精製蛋白質を用いた複雑な反応経路を再構築する場合、活性酸素種や熱等の外部環境要因により蛋白質が失活し、反応が阻害されることが多い。
【0004】
この問題を解決するための方法の一つとして、従来技術では、例えば、SBA、MCM、FSMタイプ等のシリカ系メソ多孔体材料の細孔内部に、一種類の蛋白質、すなわち、ホモ蛋白質を吸着させ、活性を安定に保持させること等の特徴を有する人工的な蛋白質複合体の開発が進められている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、既往の研究では、シリカ系メソ多孔体材料−ホモ蛋白質複合体に関する報告が多数なされているが(特許文献1、非特許文献2、3)、シリカ系メソ多孔体材料の細孔内部に二種類以上の性質の異なるヘテロ蛋白質を集積するという、シリカ系メソ多孔体材料−ヘテロ蛋白質複合体に関する研究成果については未だ報告がない。そのため、当技術分野においては、シリカ系メソ多孔体の細孔内部において、ヘテロ蛋白質を集積させると同時に、それが達成されたことの実験的証明と証明手法の提案・開発が強く要請されていた。
【0006】
【特許文献1】特開2006−158359号公報
【非特許文献1】I.Oda et al.,J.Phys.Chem.B,vol.110,1114−1120(2006)
【非特許文献2】A.Katiyar et al.,J.Chromatogr.A,vol.1069,119−126(2005)
【非特許文献3】S.Hudson et al.,J.Phys.Chem.B,vol.109,19496−19506(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、前記従来技術に鑑みて、更に、ヘテロ蛋白質を安定に担持することが可能なシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、未処理あるは特定のアルコールによって表面を処理したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に、少なくとも二種類のへテロ蛋白質を吸着させ、細孔内部にヘテロ蛋白質を内包させたシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体を形成させることにより所期の目的を達成できることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、前記従来技術を基礎としてなされたものであり、未処理又はアルコール処理したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に蛍光性又は発光性等の機能性を有するヘテロ蛋白質を、安定に、活性を保持して、且つ大きな吸着量で吸着担持させた新規シリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体、その製造方法、及び、その用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)シリカ系メソ多孔体の細孔内部に性質の異なる少なくとも二種類のヘテロ蛋白質を備える蛋白質内包複合体であって、蛋白質が前記シリカ系メソ多孔体の細孔内に吸着され、分散した状態で細孔内に安定に固定されており、上記二種類のヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にある、ことを特徴とするシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(2)前記シリカ系メソ多孔体(FSM)が、1)ケイ素原子と酸素原子を必須成分として含む化合物の多孔体であり、2)細孔のサイズが直径で2〜50nmであり、3)全細孔容積が0.1〜1.5mL/gであり、4)比表面積が200〜1500mである、前記(1)に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(3)前記シリカ系メソ多孔体が、アルコールで熱処理されたアルコール処理FSMで、アルコキシ基を有している、前記(1)又は(2)に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(4)アルコール処理FSMの中心細孔直径が、2.6〜7.1nmである、前記(3)に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(5)前記へテロ蛋白質が、蛍光性又は発光性蛋白質である、前記(1)から(4)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(6)前記へテロ蛋白質の相互作用が、ヘテロ蛋白質間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、又は、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)である、前記(1)から(5)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(7)機能性を有するヘテロ蛋白質の活性を安定に保持する、前記(1)から(6)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(8)前記蛍光性へテロ蛋白質が、ドナーとしてのオワンクラゲ由来GFP、アクセプターとしてのイソギンチャク由来DsRedの組み合わせからなる、前記(6)に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(9)前記発光性へテロ蛋白質が、ドナーとしてのウミシイタケ由来ルシフェラーゼ、アクセプターとしての前記GFP、又は、ドナーとしてのホタル由来ルシフェラーゼ、アクセプターとしての前記DsRedの組み合わせからなる、前記(6)に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
(10)前記(6)に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体の前記エネルギー移動によるFRET又はBRETのシグナル強度を利用することによって、蛍光性又は発光性蛋白質を検出することを特徴とする当該蛋白質の検出方法。
(11)アルコール処理又は未処理のシリカ系メソ多孔体の細孔内部に性質の異なる少なくとも二種類のへテロ蛋白質を吸着させ、分散した状態で細孔内に安定に固定させることにより上記二種類のヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にあるヘテロ蛋白質内包複合体を作製することを特徴とするシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体の製造方法。
(12)シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径を変えることにより、ヘテロ蛋白質の向きを制御する、前記(11)記載の製造方法。
(13)前記(1)から(9)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体からなり、機能性を有するヘテロ蛋白質をシリカ系メソ多孔体の細孔内に安定に、且つ分散した状態で吸着、保持させたことを特徴とするヘテロ蛋白質内包機能性部材。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、未処理又はアルコール処理したシリカ系メソ多孔体の細孔内部に少なくとも二種類のヘテロ蛋白質を備える蛋白質内包複合体であって、蛋白質が前記未処理又はアルコール処理したシリカ系メソ多孔体の細孔内に吸着され、分散した状態で細孔内に安定に固定されていること、更には、上記二種類のヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にあること、を特徴とするものである。
【0011】
本発明において、ヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にあるとは、蛍光性又は発光性等の機能性を有する二種類以上のヘテロ蛋白質がシリカ系メソ多孔体の細孔内において互いに近接して存在し、且つその機能の発現に相互に作用を及ぼす状態にあることを意味するものとして定義される。これは、例えば、蛍光性又は発光性ヘテロ蛋白質の場合、具体的には、(1)二種類のヘテロ蛋白質間の距離が10nm以内に近接し、(2)ドナーの蛍光又は発光スペクトルとアクセプターの励起スペクトルの重なりが大きく、(3)近接した二つの蛋白質の向きが平行に近づくほど、FRET又はBRETの効率が高くなり、その機能の発現に相互に作用を及ぼす状態にあることを意味する。
【0012】
本発明で、シリカ系メソ多孔体とは、SBA、MCM、FSMタイプ等のシリカ系メソ多孔体のことを意味する。上記シリカ系メソ多孔体として、好適には、例えば、ケイ素原子と酸素原子を必須成分として含む化合物の多孔体であり、細孔のサイズがメソ孔であり、その中心細孔直径が2〜50nmであり、細孔容積が0.1〜1.5mL/gであり、比表面積が200〜1500mである、ことで特徴付けられる特定のシリカ系メソ多孔体が用いられるが、その他にも、ヘキサゴナル、又はキュービックの規則的細孔配列構造を有するシリカ系メソ多孔体が好適なものとして例示される。
【0013】
また、本発明では、前記へテロ蛋白質が、例えば、蛍光性又は発光性蛋白質であり、前記へテロ蛋白質の相互作用が、ヘテロ蛋白質間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET:Fluorescence Resonance Energy Transfer)、又は、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET:Bioluminescence Resonance Energy Transfer)であること、が好ましい実施の態様として例示される。
【0014】
本発明では、上記シリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合の構成として、例えば、前記蛍光性へテロ蛋白質が、ドナーとしてのオワンクラゲ由来GFP、アクセプターとしてのイソギンチャク由来DsRedの組み合わせからなること、前記発光性へテロ蛋白質が、ドナーとしてのウミシイタケ由来ルシフェラーゼ、アクセプターとしての前記GFP、また、ドナーとしてのホタル由来ルシフェラーゼ、アクセプターとしての前記DsRedの組み合わせからなること、が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、任意の機能性を持つヘテロ蛋白質を組み合わせることができる。
【0015】
また、本発明は、未知の蛍光性又は発光性蛋白質の検出方法であって、上記シリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体の前記エネルギー移動によるFRET又はBRETのシグナル強度を利用することによって、蛍光性又は発光性蛋白質を検出すること、を特徴とするものである。また、本発明は、シリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体の製造方法であって、アルコール処理又は未処理のシリカ系メソ多孔体の細孔内部に性質の異なる少なくとも二種類のへテロ蛋白質を吸着させ、分散した状態で細孔内に安定に固定させることにより、上記二種類のヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にあるヘテロ蛋白質内包複合体を作製すること、を特徴とするものである。更に、本発明は、上記シリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体からなり、機能性を有するヘテロ蛋白質をシリカ系メソ多孔体の細孔内に安定に、且つ分散した状態で吸着、保持させたことを特徴とするヘテロ蛋白質内包機能性部材、を提供するものである。
【0016】
次に、本発明に係るシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体を、シリカ系メソ多孔体−蛍光性へテロ蛋白質複合体を代表例として説明する。しかし、本発明で用いられるヘテロ蛋白質は、蛍光性へテロ蛋白質に限定されるものではなく、本発明では、シリカ系メソ多孔体−蛍光性へテロ蛋白質複合体に準じて、他の機能性を有する適宜のヘテロ蛋白質についても同様に作製及び利用することが可能である。
【0017】
本発明では、シリカ系メソ多孔体の細孔内部に、例えば、二種類の蛍光性へテロ蛋白質である“GFP及びDsRed”を備えるシリカ系メソ多孔体−蛍光性ヘテロ蛋白質複合体であって、前記細孔内部に前記へテロ蛋白質が分散した状態で安定に固定されていることを特徴とするヘテロ蛋白質内包複合体が例示される。
【0018】
本発明のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体は、好適には、例えば、多孔質で表面積の非常に大きいアルコール処理シリカ系メソ多孔体を使用し、該アルコール処理シリカ系メソ多孔体の細孔内部に蛍光性へテロ蛋白質を吸着させたヘテロ蛋白質内包複合体が例示され、特に、アルコール処理シリカ系メソ多孔体を使用することにより、未処理のシリカ系メソ多孔体を使用した場合と比較して、ヘテロ蛋白質をより安定に集積させることが可能になる。
【0019】
本発明では、未処理又はアルコール処理シリカ系メソ多孔体における細孔の中心細孔直径は、2〜15nmであることが望ましい。細孔の中心細孔直径を2〜15nmとすることにより、個々の蛋白質を容易にシリカ系メソ多孔体に内包することが可能となる。また、本発明のシリカ系メソ多孔体−蛍光性ヘテロ蛋白質複合体では、前記へテロ蛋白質の相互作用を、前記蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のシグナルとして検出することができる。一般に、FRETでは、(1)二種類の蛍光性ヘテロ蛋白質の間の距離が10nm以内に近接し、(2)ドナーの蛍光スペクトルとアクセプターの励起スペクトルの重なりが大きく、(3)近接した二つの蛋白質の向きが平行に近づくほど、エネルギー移動の効率が高くなる、ことが知られている。
【0020】
本発明のシリカ系メソ多孔体−蛍光性ヘテロ蛋白質複合体において、ドナーとアクセプターの関係は、GFPとDsRedの関係に相当し、FRETシグナルの強度によって、シリカ系メソ多孔体の細孔内における前記へテロ蛋白質の集積の程度をモニタリングすることができる。また、細孔の中心細孔直径が、例えば、2、4、6nmと異なるシリカ系メソ多孔体を使用した場合、各々の細孔径の違いにより、近接した二つのヘテロ蛋白質の向きを制御することができ、これによって、FRET効率を制御することができる。このことは、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)についても同様である。
【0021】
本発明において、シリカ系メソ多孔体としては、例えば、前記特定のシリカ系メソ多孔体であることが好ましく、有機基を有するシリカ系メソ多孔体、有機基を有しないシリカ系メソ多孔体が例示される。そして、いずれのシリカ系メソ多孔体の場合においても、ケイ素以外の金属元素、例えば、Al、Zr、Ti等を更に含むことができる。なお、いずれのシリカ系メソ多孔体であっても、蛋白質の包摂に適合するように、細孔壁の性質をアルコール処理で変える場合があり、このように処理したものをアルコール処理シリカ系メソ多孔体と称する。
【0022】
有機基を有するシリカ系メソ多孔体とは、シリカ系メソ多孔体を構成するケイ素原子の少なくとも一部に、有機基が、炭素−ケイ素結合を介して結合しているものを意味する。有機基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、ベンゼン、シクロアルカン等の炭化水素から1以上の水素がとれて生じる炭化水素基や、アミド基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフォン基、カルボキシル基、エーテル基、アシル基、ビニル基等が挙げられる。
【0023】
本発明の前記アルコール処理又は未処理のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体の製造方法では、前記アルコール処理シリカ系メソ多孔体の場合、例えば、該シリカ系メソ多孔体の粉末と、蛍光性等を有するヘテロ蛋白質の水溶液(トリス緩衝溶液、pH 4.0〜8.0)とを混合し、4℃で数時間から一晩震盪させ、その後、遠心分離を行うことで、沈殿物として、シリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体を製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)アルコール処理又は未処理のシリカ系メソ多孔体の細孔内部に、二種類以上のヘテロ蛋白質を安定に、且つ多量に吸着させた、上記二種類のヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にあるシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体を提供することができる。
(2)シリカ系メソ多孔体の細孔内部に担持させるヘテロ蛋白質として、蛍光性蛋白質を用いた場合には、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のシグナル強度によって、蛍光性又は発光性蛋白質の組み合わせを用いた場合には、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)のシグナル強度によって、シリカ系メソ多孔体の細孔内におけるヘテロ蛋白質の集積の程度をモニタリングすることができる。
(3)前記エネルギー移動によるFRET又はBRETのシグナル強度を利用した新規の蛍光・発光機能性部材を提供することができる。
(4)シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径の違いによって、ヘテロ蛋白質の向きを制御できるため、エネルギー移動効率、すなわち、得られる蛍光の大きさを自在に制御することができる。
(5)前記エネルギー移動により、未知の蛍光性及び発光性蛋白質を検出可能な、新規の蛍光発光機能性部材を提供することができる。
(6)蛍光性及び発光性ヘテロ蛋白質と同様に、他の適宜のヘテロ蛋白質を同様の手法で複合化し、例えば、複数の蛋白質及び酵素を用いた多段階化学反応場を提供することができる。
(7)高濃度蛋白質の凝集による失活を抑制し、高密度集積させて比活性を高くしたシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体を提供することができる。
(8)遠心分離操作により、容易に任意の緩衝溶液、又は反応溶液に交換可能なシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
(シリカ系メソ多孔体の合成)
水ガラス1号271.59gを水828.41gと混合した後、80℃に加熱した。別途、ドコシルトリメチルアンモニウムクロライド80gを70℃の水1リットルに添加し、溶解後、トリイソピルベンゼン70ml(60g)を更に添加し、ホモミキサーで30分撹拌した。この乳化液を水ガラス溶液に瞬時に添加して、更に、5分撹拌した。これに2規定塩酸を約1時間かけて添加し、pH8.5の状態で約3時間撹拌した。これを吸引濾過した後、70℃の熱水に再分散・濾過を繰り返し、濾液の伝導度が100μS/cm以下であることを確認した。これを45℃で3日間乾燥した後、550℃で6時間焼成することにより、中心細孔直径6.2nmのシリカ系メソ多孔体(FSM:folded−sheet mesoporous material)を得た。
【0027】
上記FSMについて、粉末X線回折及び窒素吸着等温線の測定を行った。粉末X線回折は、理学RAD−B装置を用いて測定し、窒素吸着等温線は、液体窒素温度において、定容積法により求めた。X線回折パターンにより、上記FSMは、2次元ヘキサゴナルの細孔配列構造を有していることが分かった。また、窒素吸着等温線からCranston−Inklay法で計算した細孔分布曲線によると、全細孔容積に占める、中心細孔直径の±40%の範囲内の直径を有する細孔の全容積の割合は、60%以上であることが分かった。
【0028】
(FSMのエタノール処理)
エタノール溶媒中(100ml)に、乾燥させたシリカ多孔体(1g)を加えて撹拌し、分散させた後に、100℃で24時間還流を行った。その後、回収した試料は、45℃で乾燥させた。孔径が均一なシリカ多孔体は、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを鋳型として用いて合成しており、二次元六方構造を有するシリカ多孔体である。これを未処理試料として取り扱うが、未処理体の窒素吸着測定から算出した比表面積は1211m−1、孔径は6.2nmであった。粉末X線回折(XRD)による分析から、得られた表面処理体は、二次元六方構造を保持していることが確認された。
【0029】
また、IR測定により、アルコキシ基が表面に結合していることが確認された。更に、窒素吸着測定から、有機修飾に伴い得られた表面処理体の比表面積(1050m−1)、孔径(6nm)は、いずれも減少していることが示された。ここで、細孔容積は、メソ孔表面への処理を評価するため、相対圧90%での窒素吸着量から算出した。以上から、アルコール処理することで孔表面を初め、シリカ多孔体の表面全てがアルコキシ基で覆われた表面処理体が生成したことが明らかとなった。
【0030】
(エタノール処理シリカ系メソ多孔体−蛍光性ヘテロ蛋白質複合体の製造)
シリカ系メソ多孔体には、エタノール処理した中心細孔直径6.2nmを有するシリカ系メソ多孔体(FSM6.2(特願2006−216198)。以下、単に「FSM−6.2(FSM:folded−sheet mesoporous material)」と記載する。)を、また、蛍光性ヘテロ蛋白質には、緑色蛍光蛋白質sGFPと赤色蛍光蛋白質DsRedを用いた。
【0031】
まず、エタノール処理FSM−6.2の粉末10mgと、2mg/mLのsGFPとDsRedを含んだ20mMトリス緩衝溶液(pH8.0)500μLとを混合し、4℃で20時間震盪させた。その後、10,000rpmで2分間遠心分離を行い、上清を除き、得られた沈殿物を同じ緩衝溶液1,000μLに再懸濁した。更に、これを遠心分離し、緩衝溶液への沈殿物の再懸濁の操作を3〜4回繰り返し、最終的にエタノール処理FSM−6.2とヘテロ蛋白質(sGFP及びDsRed)の複合体(以下、「sGFP−DsRed/FSM−6.2」と記載する。)を得た。
【0032】
前記手法と同様にして、エタノール処理FSM−6.2とsGFPの複合体(以下、「sGFP/FSM−6.2」と記載する。)、また、エタノール処理FSM−6.2とDsRedの複合体(以下、「DsRed/FSM−6.2」と記載する。)を得た。図1に、sGFP/FSM−6.2、DsRed/FSM−6.2、及び、sGFP−DsRed/FSM−6.2を撮影した写真を示す。図中、aはエタノール処理FSM−6.2、bはsGFP/FSM−6.2、cはDsRed/FSM−6.2、dはsGFP−DsRed/FSM−6.2、を示す。
【実施例2】
【0033】
(1)窒素吸着の測定
エタノール処理FSM−6.2 50mgに対し、sGFPとDsRedを各々1mg吸着させた複合体を用いて、窒素吸着特性について調べた。図2の左図に、sGFP−DsRed/FSM−6.2の窒素吸脱着等温線を示す。縦軸は、窒素の吸着量を示し、横軸は、その時の相対圧力を示す。図中、aはエタノール処理FSM−6.2のみの場合、bはエタノール処理FSM−6.2の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、を示す。エタノール処理FSM−6.2のみの場合と比較して、エタノール処理FSM−6.2にsGFPとDsRedを吸着させた場合に、窒素吸着量が減少しており、このことは、細孔の中にsGFPとDsRedが導入されていることを示している。
【0034】
(2)細孔分布の測定
前記窒素吸脱着等温線から細孔分布曲線を求めた。図2の右図に、エタノール処理FSM−6.2、及び、sGFP− DsRed/FSM−6.2の細孔分布曲線を示す。縦軸は、細孔容積を示し、横軸は、FSM−6.2の中心細孔直径を示す。エタノール処理FSM−6.2のみの場合(図中、a)と比較して、エタノール処理FSM−6.2にsGFPとDsRedを吸着させた場合(図中、b)に、細孔容積が減少しており、このことは、細孔の中にsGFPとDsRedが導入されていることを示している。また、どちらの場合も、6nm付近にシャープなピークが見られ、これは6nm程度の細孔があり、細孔が壊れずに保持されていることを示している。
【0035】
(3)微分干渉像及び蛍光像の観察
次に、メソシリカ系多孔体及び複合体について、微分干渉像及び蛍光像を観察した。図3に、シリカ系メソ多孔体として、中心細孔直径7.5nmを有するシリカ系メソ多孔体SBA−15を用いて、該シリカ系メソ多孔体SBA−15にsGFPを吸着させ、100倍対物レンズの顕微鏡によって観察した微分干渉像(左図:シリカ系メソ多孔体SBA−15のみの場合)及び蛍光像(右図:シリカ系メソ多孔体SBA−15の細孔内部にsGFPを吸着させた場合)を示す。スケールバーは、20μmを示す。図3の微分干渉像にみられるひだ状の像は、シリカ系メソ多孔体の細孔の向きを示しており、蛍光像にみられる直線的な蛍光は、細孔内に吸着したsGFPを直接的に示している。
【実施例3】
【0036】
実施例1及び実施例2と同様にして、得られたsGFP−DsRed/FSM−6.2 200μL分を低散乱セルに移し入れ、蛍光光度計(日立製、F−4500)によりFRET観測を行った。図4に、中心細孔直径6.2nmを有するエタノール処理FSM−6.2の細孔内部において、光(hν)によって、蛍光性ヘテロ蛋白質としてsGFPとDsRedが相互作用して、FRETを起こす様子を模式的に示した説明図を示す。
【0037】
(1)sGFP−DsRed/FSM−6.2のFRET観測
sGFPの蛍光スペクトルを調べた。図5に、FSM−6.2の細孔内に吸着させていないsGFP及びsGFP−DsRed(上図)と、細孔内に吸着させたsGFP及びsGFP−DsRed(下図)のsGFPの蛍光スペクトルを示す。縦軸は、sGFPの蛍光強度を示し、横軸は、波長を示す。
【0038】
490nmで励起した場合、FSM−6.2の細孔内に吸着させていないsGFPとsGFP−DsRedとのピーク強度比(FRET効率に換算すると、0.19)と比較して、細孔内に吸着させたsGFP−DsRedのsGFP強度は、sGFP/FSM−6.2のそれよりも著しく減少している(FRET効率に換算すると、0.51)。
【0039】
このことは、細孔内において導入されたsGFPとDsRedがお互いに相互作用し、FRETを起こしたことを示唆している。FRET効率は、次式によって算出した。
FRET効率; E=1−(Fd’/Fd)
Fd:DsRedが存在しない時のsGFPの蛍光ピーク強度、Fd’:DsRedが存在する時のsGFPの蛍光ピーク強度。
【0040】
(2)sGFP−DsRed/FSM−6.2のFRET観測におけるDsRed量の影響
次に、sGFPの蛍光ピーク強度及びFRET効率について調べた。図6に、FSM−6.2の細孔内に予め50μgのsGFP吸着させ、DsRed量(横軸)を指標とした場合のsGFPの蛍光ピーク強度(左縦軸)及びFRET効率(右縦軸)をプロットした結果を示す。FRET効率は、次式によって算出した。
FRET効率; E= 1−(Fd’/Fd)
Fd:DsRedが存在しない時のsGFPの蛍光ピーク強度、 Fd’:DsRedが存在する時のsGFPの蛍光ピーク強度。
【0041】
490nmで励起した場合、FSM−6.2の細孔内に吸着されたsGFPのピーク強度は、細孔内にDsRedが導入されるにつれて減少した。これに対応して、FRET効率は、増大する傾向を示した。これらの結果は、細孔内に吸着されたsGFPに対して、導入されたDsRedが近接し、ヘテロ蛋白質の間でFRETが生じたことを示唆している。
【実施例4】
【0042】
本実施例では、FSM−6.2の有無における、sGFPの蛍光ピーク強度及びピーク波長に与えるsGFP濃度の影響を調べた。その結果を図7に示す。図7より、FSM−6.2に吸着させていないsGFPの場合、蛍光ピーク強度は、sGFP濃度とともに増大し、1mg/mLをピークに、更に高い濃度領域において蛍光消光を示し、また、ピーク波長は、sGFP濃度の増大にともなって長波長側にシフト(レッドシフト)した(上図)。
【0043】
sGFPの高濃度領域における蛍光消光とレッドシフトは、蛋白質が凝集体を形成していることに起因する。一方、FSM−6.2に吸着させたsGFPの場合、蛍光ピーク強度は、sGFP濃度とともに直線的に増大し、また、ピーク波長は、sGFP濃度の増大によってもほとんど変化せず、sGFP本来の蛍光波長を保持した(下図)。
【0044】
以上の結果は、FSM−6.2は、高濃度のsGFPの凝集を抑制し、分散した状態で細孔内に安定に固定できることを示唆している。同様の現象は、実施例3の場合にも当てはまる。図8に、凝集体を形成した高濃度の蛍光性ヘテロ蛋白質(sGFP、及びsGFPとDsRed)が、エタノール処理FSM−6.2の細孔内部に単分散して導入される様子を模式的に示した説明図を示す。
【実施例5】
【0045】
(1)窒素吸着の測定
エタノール処理FSM−5.4(中心細孔直径5.4nm)、エタノール処理FSM−16(中心細孔直径2.6nm)、エタノール処理FSM−22(中心細孔直径3.7nm)、また、エタノール処理FSM−7.1(中心細孔直径7.1nm)50mgに対し、sGFPとDsRedを基本的には各々5mg吸着させた複合体を用いて、窒素吸着特性について調べた。
【0046】
図9に、sGFP−DsRed/各種FSMの窒素吸脱着等温線を示す。縦軸は、窒素の吸着量を示し、横軸は、その時の相対圧力を示す。図中、左上図において、aはエタノール処理FSM−5.4のみの場合、bはエタノール処理FSM−5.4の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、cはエタノール処理FSM−5.4の細孔内部にsGFPとDsRedを各々7.5mg吸着させた場合、を示す。
【0047】
また、図中、右上図において、dはエタノール処理FSM−16のみの場合、eはエタノール処理FSM−16の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、左下図において、fはエタノール処理FSM−22のみの場合、gはエタノール処理FSM−22の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、右下図において、hはエタノール処理FSM−7.1のみの場合、iはエタノール処理FSM−7.1の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、を示す。どの中心細孔直径を有するFSMの場合でも、エタノール処理FSMのみの場合と比較して、エタノール処理FSMにsGFPとDsRedを吸着させた場合に、窒素吸着量が減少しており、このことは、細孔の中にsGFPとDsRedが導入されていることを示している。
【0048】
(2)細孔分布の測定
次に、前記窒素吸脱着等温線から、細孔分布曲線を求めた。図10に、エタノール処理FSM−5.4、sGFP−DsRed/FSM−5.4、エタノール処理FSM−16、sGFP−DsRed/FSM−16、エタノール処理FSM−22、sGFP−DsRed/FSM−22、エタノール処理FSM−7.1、sGFP−DsRed/FSM−7.1の細孔分布曲線を示す。縦軸は、細孔容積を示し、横軸は、各種FSMの中心細孔直径を示す。
【0049】
どの中心細孔直径を有するFSMの場合でも、エタノール処理FSMのみの場合(図中、a、c、e、g)と比較して、エタノール処理FSMにsGFPとDsRedを吸着させた場合(図中、b、d、f、h)に、細孔容積が減少しており、このことは、細孔の中にsGFPとDsRedが導入されていることを示している。また、どちらの場合も、2.6nm、3.7nm、5.4nm、7.1nm付近にシャープなピークが見られ、これは、各種FSMに2.6nm、3.7nm、5.4nm、7.1nmの細孔があり、細孔が壊れずに保持されていることを示している。
【0050】
(3)FRET効率に与えるFSMの中心細孔直径サイズの影響
次に、シリカ系メソ多孔体FSMの中心細孔直径の違いが与えるFRET効率への影響を調べた。図11に、中心細孔直径の異なる各種エタノール処理FSM(FSM−16、FSM−22、FSM−5.4、FSM−7.1)10mgに対し、sGFPとDsRedを各々0.5mg(図中、a)、また、0.25mg(図中、b)を吸着させ、これらの複合体のFRET効率を求めた結果を示す。
【0051】
縦軸は、FRET効率を示し、横軸は、FSMの中心細孔直径サイズを示す。FRET効率は、次式によって算出した。
FRET効率; E= 1−(Fd’/Fd)
Fd:DsRedが存在しない時のsGFPの蛍光ピーク強度、 Fd’:DsRedが存在する時のsGFPの蛍光ピーク強度。
【0052】
490nmで励起した場合、どの中心細孔直径を有するFSMの場合でも、sGFPとDsRedの量が増大すると、FRET効率も増大し、これは、タンパク質濃度の増加によってタンパク質間の距離がより近接することでエネルギー移動効率が高くなることに起因する。また、FSM−16(中心細孔直径2.6nm)よりも、FSM−22(中心細孔直径3.7nm)の場合に、更にFRET効率が高くなり、細孔径が、FSM−5.4(中心細孔直径5.4nm)、FSM−7.1(中心細孔直径7.1nm)と大きくなるにつれて、FRET効率が低下した。このことは、シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径の違いによって、ヘテロ蛋白質の向きを制御でき、エネルギー移動効率、すなわち、得られる蛍光の大きさを自在に制御することができる可能性があることを示唆している。
【0053】
(4)微分干渉像及び蛍光像の観察
次に、メソシリカ系多孔体及び複合体について、微分干渉像及び蛍光像を観察した。図12に、シリカ系メソ多孔体として、中心細孔直径5.4nmを有するエタノール処理FSM−5.4を用いて、該シリカ系メソ多孔体FSM−5.4にsGFP及びDsRedを同時に吸着させ、100倍対物レンズの顕微鏡によって観察した微分干渉像(図中、a:シリカ系メソ多孔体FSM−5.4のみの場合)を示す。
【0054】
また、図12に、蛍光像(図中、b:シリカ系メソ多孔体FSM−5.4の細孔内部に吸着させたsGFPの蛍光のみを検出した場合、c:シリカ系メソ多孔体FSM−5.4の細孔内部に吸着させたDsRedの蛍光のみを検出した場合)、また、a、b、cの像を重ね合わせた画像(図中、d)を示す。スケールバーは、10μmを示す。図12の蛍光像にみられる一様に広がる蛍光は、シリカ系メソ多孔体の細孔内に吸着したsGFP及びDsRedの局在を直接的に示している。
【実施例6】
【0055】
実施例1及び実施例2と同様にして、得られたレニラルシフェラーゼ−sGFP/FSM−8.0 200μL分を低散乱セルに移し入れ、蛍光光度計(日立製、F−4500)によりBRET観測を行った。図13に、中心細孔直径8.0nmを有するエタノール処理FSM−8.0の細孔内部において、基質の化学発光によって、発光性ヘテロ蛋白質としてレニラルシフェラーゼとsGFPが相互作用して、BRETを起こす様子を模式的に示した説明図を示す。
【0056】
レニラルシフェラーゼ−sGFP/FSM−8.0のBRETの有無を、発光スペクトルを観測することにより調べた。図14に、FSM−8.0の細孔内に吸着させた1mg/mL レニラルシフェラーゼ(図中、a)、1mg/mL レニラルシフェラーゼ−0.5mg/mL sGFP(図中、b)、また、1mg/mL レニラルシフェラーゼ−1mg/mL sGFP(図中、c)の発光スペクトルを示す。縦軸は、発光強度を示し、横軸は、波長を示す。
【0057】
基質を添加し、化学反応によってレニラルシフェラーゼを励起した時、発光ピーク波長は、1mg/mL レニラルシフェラーゼ/FSM−8.0の場合に493nmであり、1mg/mL レニラルシフェラーゼ−0.5mg/mLsGFP/FSM−8.0の場合に506nmを示し、13nm分長波長側へシフトした。このシフトした発光波長は、sGFPの蛍光が生じたことを示唆している。また、1mg/mL レニラルシフェラーゼ−1mg/mL sGFP/FSM−8.0の場合も、同様のシフトを示し、発光強度の著しい増大も示された。
【0058】
一方、FSM−8.0の細孔内に吸着していない、レニラルシフェラーゼ及びレニラルシフェラーゼ−sGFP混合溶液では、発光ピーク波長のシフトがみられなかった。以上のことは、細孔内において導入されたレニラルシフェラーゼとsGFPがお互いに相互作用し、BRETを起こしたことを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上詳述したように、本発明は、シリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体及びその製造方法に係るものであり、本発明によれば、シリカ系メソ多孔体の細孔内部に性質の異なる二種類以上の機能性ヘテロ蛋白質、例えば、蛍光性及び発光性蛋白質を安定的に十分な吸着量で吸着させ、前記FRET及びBRETを利用した蛋白質間相互作用によって、未知の蛍光性及び発光性蛋白質の検出を可能とするシリカ系メソ多孔体材料−ヘテロ蛋白質複合体を提供することが可能となる。また、本発明のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体の製造方法によれば、例えば、シリカ系メソ多孔体の細孔内部に安定に吸着させた機能性へテロ蛋白質を、効率的、且つ確実に製造することができる。本発明は、二種類以上のヘテロ蛋白質の活性を、安定、且つ有効に保持して、その多様な機能性を発揮させることが可能な新規機能性部材を提供することができることから、本発明は、例えば、前記アルコール処理シリカ系メソ多孔体と任意のヘテロ蛋白質を利用した新しい特殊反応場を実現するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】エタノール処理FSM−6.2、sGFP/FSM−6.2、DsRed/FSM−6.2、及び、sGFP−DsRed/FSM−6.2を撮影した写真である。図中、aはエタノール処理FSM−6.2、bはsGFP/FSM−6.2、cはDsRed/FSM−6.2、dはsGFP−DsRed/FSM−6.2、である。
【図2】蛍光性ヘテロ蛋白質としてGFPとDsRedが導入されたエタノール処理シリカ系メソ多孔体の、窒素吸脱着等温線(左)と、細孔分布曲線(右)の図である。図中、aはエタノール処理FSM−6.2のみの場合、bはエタノール処理FSM−6.2の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、である。
【図3】シリカ系メソ多孔体SBA−15にsGFPを吸着させた複合体の微分干渉観察像(左)及び蛍光観察像(右)である。図中、aはシリカ系メソ多孔体SBA−15のみの場合、bはシリカ系メソ多孔体SBA−15の細孔内部にsGFPを吸着させた場合、である。
【図4】エタノール処理FSM−6.2の細孔内部に蛍光性ヘテロ蛋白質としてsGFPとDsRedを備え、光(hν)によってsGFPからDsRedにFRETが生じる様子を模式的に示す説明図である。
【図5】FSM−6.2の細孔内に吸着させていないsGFP、及びsGFP−DsRed(上)と、細孔内に吸着させたsGFP、及びsGFP−DsRed(下)について蛍光観測を行った時のsGFPの蛍光スペクトルである。図中、aはsGFP(実線)及びsGFP−DsRed(破線)におけるsGFPの蛍光スペクトル、bはエタノール処理FSM−6.2の細孔内部に吸着させたsGFPとDsRedを吸着させた場合のsGFP(実線)及びsGFP−DsRed(破線)におけるsGFPの蛍光スペクトル、cはsGFP/FSM−6.2の模式図(D:sGFP)、dはsGFP−DsRed/FSM−6.2の模式図(D:sGFP、A:DsRed)、である。
【図6】sGFP/FSM−6.2に対するDsRed量の影響を、sGFPの蛍光ピーク強度及びFRET効率の変化によって評価した図である。図中、aはsGFPの蛍光ピーク強度(黒丸印)、bはFRET効率(白丸印)、である。
【図7】FSM−6.2の有無における、sGFPの蛍光ピーク強度及びピーク波長と、sGFP濃度との関係を示した図である。図中、aはsGFPのみの場合、bはエタノール処理FSM−6.2の細孔内部にsGFPを吸着させた場合、cはsGFPの蛍光ピーク強度(丸印)、dはsGFPのピーク波長(三角印)、eはsGFP/FSM−6.2の蛍光ピーク強度(丸印)、fはsGFP/FSM−6.2のピーク波長(三角印)、である。
【図8】蛍光性ヘテロ蛋白質(sGFP、及びsGFPとDsRed)の凝集体が、エタノール処理FSM−6.2の細孔内部に単分散して導入される様子を模式的に示す説明図である。図中、aはエタノール処理FSM−6.2、bはsGFPの凝集体(D:sGFP)、cはDsRedの凝集体(A:DsRed)、dはsGFP/FSM−6.2、eはsGFP−DsRed/FSM−6.2、である。
【図9】蛍光性ヘテロ蛋白質としてGFPとDsRedが導入されたエタノール処理シリカ系メソ多孔体の、窒素吸脱着等温線の図である。図中、aはエタノール処理FSM−5.4(中心細孔直径5.4nm)のみの場合、bはエタノール処理FSM−5.4の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、cはエタノール処理FSM−5.4の細孔内部にsGFPとDsRedを各々7.5mg吸着させた場合、dはエタノール処理FSM−16(中心細孔直径2.6nm)のみの場合、eはエタノール処理FSM−16の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、fはエタノール処理FSM−22(中心細孔直径3.7nm)のみの場合、gはエタノール処理FSM−22の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、hはエタノール処理FSM−7.1(中心細孔直径7.1nm)のみの場合、iはエタノール処理FSM−7.1の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、である。
【図10】蛍光性ヘテロ蛋白質としてGFPとDsRedが導入されたエタノール処理シリカ系メソ多孔体の、細孔分布曲線の図である。図中、aはエタノール処理FSM−5.4(中心細孔直径5.4nm)のみの場合、bはエタノール処理FSM−5.4の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、cはエタノール処理FSM−16(中心細孔直径2.6nm)のみの場合、dはエタノール処理FSM−16の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、eはエタノール処理FSM−22(中心細孔直径3.7nm)のみの場合、fはエタノール処理FSM−22の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、gはエタノール処理FSM−7.1(中心細孔直径7.1nm)のみの場合、hはエタノール処理FSM−7.1の細孔内部にsGFPとDsRedを吸着させた場合、である。
【図11】FRET効率に与えるFSMの中心細孔直径サイズの影響について示した図である。図中、aは中心細孔直径の異なる各種エタノール処理FSM(FSM−16、FSM−22、FSM−5.4、FSM−7.1)10mgに対し、sGFPとDsRedを各々0.5mg吸着させた場合、図中、bはsGFPとDsRedを各々0.25mg吸着させた場合、である。
【図12】シリカ系メソ多孔体であるエタノール処理FSM−5.4にsGFP及びDsRedを同時に吸着させた複合体の微分干渉観察像及び蛍光観察像である。図中、aはシリカ系メソ多孔体FSM−5.4のみの場合、bはシリカ系メソ多孔体FSM−5.4の細孔内部に吸着させたsGFPの蛍光のみを検出した場合、cはシリカ系メソ多孔体FSM−5.4の細孔内部に吸着させたDsRedの蛍光のみを検出した場合、dはa、b、cの像を重ね合わせた場合、である。
【図13】エタノール処理FSM−8.0の細孔内部に、発光性ヘテロ蛋白質としてレニラルシフェラーゼとsGFPを備え、基質の化学発光によってレニラルシフェラーゼからsGFPにBRETが生じる様子を模式的に示す説明図である。
【図14】エタノール処理FSM−8.0の細孔内に吸着させたレニラルシフェラーゼ、及びレニラルシフェラーゼ−sGFPについて発光観測を行った時の発光スペクトルである。図中、aは1mg/mL レニラルシフェラーゼ/FSM−8.0の発光スペクトル、bは1mg/mL レニラルシフェラーゼ−0.5mg/mL sGFP/FSM−8.0の発光スペクトル、cは1mg/mL レニラルシフェラーゼ−1mg/mL sGFP/FSM−8.0の発光スペクトル、である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ系メソ多孔体の細孔内部に性質の異なる少なくとも二種類のヘテロ蛋白質を備える蛋白質内包複合体であって、蛋白質が前記シリカ系メソ多孔体の細孔内に吸着され、分散した状態で細孔内に安定に固定されており、上記二種類のヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にある、ことを特徴とするシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項2】
前記シリカ系メソ多孔体(FSM)が、(1)ケイ素原子と酸素原子を必須成分として含む化合物の多孔体であり、(2)細孔のサイズが直径で2〜50nmであり、(3)全細孔容積が0.1〜1.5mL/gであり、(4)比表面積が200〜1500mである、請求項1に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項3】
前記シリカ系メソ多孔体が、アルコールで熱処理されたアルコール処理FSMで、アルコキシ基を有している、請求項1又は2に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項4】
アルコール処理FSMの中心細孔直径が、2.6〜7.1nmである、請求項3に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項5】
前記へテロ蛋白質が、蛍光性又は発光性蛋白質である、請求項1から4のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項6】
前記へテロ蛋白質の相互作用が、ヘテロ蛋白質間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、又は、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)である、請求項1から5のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項7】
機能性を有するヘテロ蛋白質の活性を安定に保持する、請求項1から6のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項8】
前記蛍光性へテロ蛋白質が、ドナーとしてのオワンクラゲ由来GFP、アクセプターとしてのイソギンチャク由来DsRedの組み合わせからなる、請求項6に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項9】
前記発光性へテロ蛋白質が、ドナーとしてのウミシイタケ由来ルシフェラーゼ、アクセプターとしての前記GFP、又は、ドナーとしてのホタル由来ルシフェラーゼ、アクセプターとしての前記DsRedの組み合わせからなる、請求項6に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体。
【請求項10】
請求項6に記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体の前記エネルギー移動によるFRET又はBRETのシグナル強度を利用することによって、蛍光性又は発光性蛋白質を検出することを特徴とする当該蛋白質の検出方法。
【請求項11】
アルコール処理又は未処理のシリカ系メソ多孔体の細孔内部に性質の異なる少なくとも二種類のへテロ蛋白質を吸着させ、分散した状態で細孔内に安定に固定させることにより上記二種類のヘテロ蛋白質がヘテロ蛋白質間で相互作用を示すように近接した状態にあるヘテロ蛋白質内包複合体を作製することを特徴とするシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体の製造方法。
【請求項12】
シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径を変えることにより、ヘテロ蛋白質の向きを制御する、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1から9のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−ヘテロ蛋白質複合体からなり、機能性を有するヘテロ蛋白質をシリカ系メソ多孔体の細孔内に安定に、且つ分散した状態で吸着、保持させたことを特徴とするヘテロ蛋白質内包機能性部材。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−143892(P2008−143892A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297308(P2007−297308)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】