説明

シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜付きガラス板の製造方法、およびシリカ系被膜付きガラス板

【課題】高温焼成時の耐クラック性を著しく高めた厚膜状のシリカ系被膜を形成するための組成物の提供。
【解決手段】炭化水素基が結合したケイ素原子と水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子とを有する(ただし、両ケイ素原子は同一のケイ素原子であってもよい)硬化性ケイ素化合物を含む1種以上の硬化性ケイ素化合物からなる硬化性ケイ素成分と、有機溶媒と、該有機溶媒に溶解しうるアルカリ金属化合物とを含み、かつ、SiO換算による硬化性ケイ素成分の総量に対してアルカリ金属化合物を0.01〜10質量%含むことを特徴とするシリカ系被膜形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系被膜形成用組成物、該組成物を用いて作製されるシリカ系被膜付きガラス板の製造方法およびシリカ系被膜付きガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリカ系被膜を形成するための材料としてポリシラザンが知られている。ポリシラザンとは、Si−NR−Si(Rは水素もしくは炭化水素基)で表されるシラザン結合を有する化合物の総称であり、加熱あるいは水分との反応によってSi−N結合が分解してSi−O−Siネットワークを形成する材料である。ポリシラザンを含むペースト状の組成物を基体上に塗布し、乾燥、焼成して得られるシリカ系被膜は、一般的に知られるゾルゲル法などから得られるシリカ系被膜と比較して、高い機械的耐久性やガスバリヤ性を有することが知られている。
【0003】
ポリシラザンは、その高い反応性から、低温焼成によって硬質なシリカ系被膜を形成可能な材料として用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。しかし、最近では、さらに高いガスバリヤ性や機械的耐久性を付与させるため、高温での焼成や、被膜を厚膜状(膜厚1μm以上)にすることが要求される場合がある。ポリシラザンは、550℃以上で焼成すると脱溶媒や架橋による収縮を生じるため、100〜200nm程度の薄膜状の被膜を形成する場合であっても膜中にクラックが発生しやすいという問題があり、高温で焼成して厚膜状の被膜を得る際には適用できなかった。また、基体としてガラス板を用いた場合、ガラス板に反りが発生する可能性もあった。
【0004】
さらに、ポリシラザンはゾルゲル法などに用いられる材料と比較して高価であるため、自動車窓のような大量生産品の製造には適用しづらいという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−299118号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の欠点である高温焼成時の耐クラック性を著しく高めた厚膜状のシリカ系被膜を形成するために適した組成物、該組成物を用いて作製されるシリカ系被膜付きガラス板の製造方法およびシリカ系被膜付きガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
【0008】
〔1〕下記硬化性ケイ素成分と、有機溶媒と、該有機溶媒に溶解しうるアルカリ金属化合物とを含み、かつ、SiO換算による硬化性ケイ素成分の総量に対してアルカリ金属化合物を0.01〜10質量%含むことを特徴とするシリカ系被膜形成用組成物。
硬化性ケイ素成分:炭化水素基が結合したケイ素原子と水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子とを有する(ただし、両ケイ素原子は同一のケイ素原子であってもよい。)硬化性ケイ素化合物を含む1種以上の硬化性ケイ素化合物からなる成分。
【0009】
〔2〕アルカリ金属がナトリウムおよび/またはカリウムである〔1〕に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0010】
〔3〕さらに有機ジルコニウム化合物を含む〔1〕または〔2〕に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0011】
〔4〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物をガラス板上に塗布した後、乾燥、焼成することを特徴とするシリカ系被膜付きガラス板の製造方法。
【0012】
〔5〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物が乾燥、焼成されて形成されたシリカ系被膜を有するシリカ系被膜付きガラス板。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物を用いて得られるシリカ系被膜は、膜厚を1μm以上の厚膜状としても、膜中にクラックが発生せず、ガラス板の反りも発生しない。よって、ガラス板に高いガスバリヤ性や機械的耐久性を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における硬化性ケイ素成分(以下、本硬化性ケイ素成分という。)は、炭化水素基が結合したケイ素原子と水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子とを有する(ただし、両ケイ素原子は同一のケイ素原子であってもよい。)硬化性ケイ素化合物(以下、硬化性ケイ素化合物(1)という。)を含む1種以上の硬化性ケイ素化合物からなる成分である。本硬化性ケイ素成分は、実質的に硬化性ケイ素化合物のみからなる成分である。
【0015】
硬化性ケイ素化合物(1)における炭化水素基はケイ素原子と炭素−ケイ素結合で結合している炭化水素基である。炭化水素基としては、炭素数6以下の炭化水素基が好ましい。炭素数6以下の炭化水素基としては、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルケニル基、および炭素数6以下のアリール基が好ましい。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、およびヘキシル基等が挙げられ、メチル基およびエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。前記アルケニル基としては、ビニル基が好ましい。前記アリール基としてはフェニル基が好ましい。硬化性ケイ素化合物(1)に含まれる炭化水素基が2個以上ある場合、これらの炭化水素基は同一であってもよく異なっていてもよい。
【0016】
硬化性ケイ素化合物(1)における加水分解性基とは、加水分解反応を受けて、シラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)を生成する基であり、アルコキシ基、アシロキシ基、ハロゲン原子、およびイソシアネート基等が挙げられる。これらのうち、アルコキシ基およびハロゲン原子が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基等が挙げられ、メトキシ基またはエトキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。また、加水分解性基が複数ある場合、同一の基であっても異なる基であってもよいが、加水分解反応が進行する速度が均一であり、加水分解反応の制御が容易であることから、同一の基であることが好ましい。
【0017】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物を用いてシリカ系被膜付きガラス板を製造する際は、シリカ系被膜形成用組成物をガラス板面に塗布、乾燥して該組成物中の固形分からなる層を形成した後、焼成することが好ましい。この際、本硬化性ケイ素成分に由来するシラノール基同士が脱水縮合することによって本硬化性ケイ素成分が硬化してシリカ系被膜となる。ここで、本硬化性ケイ素成分に由来するシラノール基とは、本硬化性ケイ素成分にもともと含まれるシラノール基、および、本硬化性ケイ素成分中に含まれる加水分解性基を有するケイ素原子が加水分解されることによって生成するシラノール基を指す。
【0018】
本硬化性ケイ素成分が、炭化水素基が結合していないケイ素原子のみを含む硬化性ケイ素化合物(例えば、後述の硬化性ケイ素化合物(2))のみからなる場合、焼成により生成するSiOは柔軟性がなく、それがバインダーとなっているシリカ系被膜は脆いために焼成の際にクラックを生じやすく、またガラス板に反りが生じやすい。硬化性ケイ素成分として硬化性ケイ素化合物(1)を使用することにより、その硬化物中には炭化水素基が結合したケイ素原子を有する酸化ケイ素が生じ、この酸化ケイ素はSiOに比較して柔軟であり、それがバインダーとなっているシリカ系被膜は上記のようなクラックや反りを生じにくい。なお、ケイ素原子に結合した炭化水素基は焼成の際にその一部分が熱分解して消失することが予想されるが、焼成温度下では炭化水素基の少なくとも一部は残存する可能性があると考えられる。
【0019】
硬化性ケイ素化合物(1)は、ケイ素原子を1個有する化合物(以下、モノマーともいう)であるか、ケイ素原子を2個以上有する化合物(以下、オリゴマーともいう。)である。オリゴマーの縮合度(1分子中のケイ素原子の数)は2〜20が好ましい。いずれも硬化性である必要上、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を2個以上有する。ケイ素原子を2個以上有する化合物ではケイ素原子同士が直接結合していてもよいが、ケイ素原子同士を連結する連結基が存在することが好ましく、その連結基は通常酸素原子である。酸素原子である連結基は通常シラノール基同士の脱水縮合により形成される。このようなケイ素原子を2個以上有する化合物は通常加水分解性基を2〜4個有するモノマーの部分加水分解縮合反応で製造される。
【0020】
硬化性ケイ素化合物(1)がモノマー(すなわち、ケイ素原子を1個有する化合物)である場合、ケイ素原子には1〜2個の炭化水素基と2〜3個(炭化水素基との合計は4個)の水酸基または加水分解性基を有する。この場合、化合物が安定である必要上、反応性の基は水酸基ではなく通常は加水分解性基である。したがって、硬化性ケイ素化合物(1)がモノマーである場合、該ケイ素化合物(1)としては、2官能加水分解性シランまたは3官能加水分解性シランが好ましく、3官能加水分解性シランであることが特に好ましい。なお、以下、3官能加水分解性シランとは1個の炭化水素基と3個の加水分解性基が結合したモノマー、2官能加水分解性シランとは2個の炭化水素基と2個の加水分解性基が結合したモノマー、4官能加水分解性シランとは4個の加水分解性基が結合したモノマー、1官能加水分解性シランとは3個の炭化水素基と1個の加水分解性基が結合したモノマー、をいう。
【0021】
硬化性ケイ素化合物(1)がモノマーである場合は3官能加水分解性シランが好ましい。モノマーを2種以上使用する場合、3官能加水分解性シランと2官能加水分解性シランを併用することが好ましく、両者の合計に対する3官能加水分解性シランの割合は50モル%以上が好ましく、特に80モル%以上が好ましい。2官能加水分解性シランのみの硬化物は柔軟性が高すぎ、また耐熱性が低いため、その割合が高くなると最終的に形成されたシリカ系被膜の耐熱性や硬さが不十分となるおそれが生じる。
【0022】
3官能加水分解性シランとしては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、およびフェニルトリクロロシラン等が挙げられる。2官能加水分解性シランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、およびジフェニルジクロロシラン等が挙げられる。
【0023】
硬化性ケイ素化合物(1)がオリゴマー(すなわち、ケイ素原子を2個以上有する化合物)である場合、その中に1〜2個の炭化水素基が結合したケイ素原子が存在することは必須であるが、炭化水素基が結合していないケイ素原子が含まれていてもよい。オリゴマー鎖末端のケイ素原子を除き、個々のケイ素原子は2〜3個の連結基(通常酸素原子)と1〜2個(連結基との合計は4個)の炭化水素基または水酸基もしくは加水分解性基を有する(一部のケイ素原子は4個の連結基を有していてもよい。)。オリゴマー鎖末端のケイ素原子は0〜3個の炭化水素基と0〜3個(炭化水素基との合計は3個)の水酸基または加水分解性基と1個の連結基を有する。
【0024】
硬化性ケイ素化合物(1)がオリゴマーである場合、その中の全ケイ素原子に対する炭化水素基が結合したケイ素原子の割合は80〜100モル%が好ましい。また、1個の炭化水素基が結合したケイ素原子と2個の炭化水素基が結合したケイ素原子の合計に対する、1個の炭化水素基が結合したケイ素原子の割合は、50〜100モル%が好ましく、特に80〜100モル%が好ましい。2個の炭化水素基が結合したケイ素原子の割合が高いオリゴマーは柔軟性が高すぎまた耐熱性が低いため、最終的に形成されたシリカ系被膜の耐熱性や硬さが不十分となるおそれが生じる。
【0025】
オリゴマーは3官能加水分解性シランの部分加水分解縮合、3官能加水分解性シランと
2官能加水分解性シランとの部分加水分解共縮合で製造されるものが好ましい。これらは少量の4官能加水分解性シランや1官能加水分解性シランをさらに使用して部分加水分解共縮合して製造されることもある。場合によっては4官能加水分解性シランと1官能加水分解性シランとの部分加水分解共縮合で製造されたものも使用できる。オリゴマーとしては、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物、メチルトリメトキシシランとジメチルジメトキシシランとの部分加水分解共縮合物、メチルトリメトキシシランとフェニルトリメトキシシランとの部分加水分解共縮合物、ビニルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物等が挙げられる。
【0026】
上記オリゴマーは液体であるか溶媒可溶性であることが好ましい。オリゴマーの縮合度が高くなると溶媒不溶性の固体になりやすく、そのため組成物として使用が困難になりやすい。
【0027】
さらにオリゴマーとして、硬化性シリコーンレジンと称されて市販されているオリゴマーも使用できる。通常市販の硬化性シリコーンレジンは、加水分解性基が塩素原子である3官能加水分解性シランや2官能加水分解性シランを使用して上記のようにして製造されたオリゴマーや加水分解性基を有する環状シリコーンを開環重合して得られるオリゴマーなどであり、そのオリゴマーは塩素原子などの加水分解性基が加水分解して生成した多数のシラノール基を有する。具体的には硬化性メチルシリコーンレジンや硬化性メチルフェニルシリコーンレジンが溶剤に溶解されて市販されている。
【0028】
本硬化性ケイ素成分は、硬化性ケイ素化合物(1)とともに、炭化水素基が結合したケイ素原子を有さずかつ水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子を有する硬化性ケイ素化合物(2)を含むことも好ましい。硬化性ケイ素化合物(2)における加水分解性基としては、前記と同様の基であり、好ましい態様も同様である。なお、硬化性ケイ素化合物(2)中のケイ素原子に結合する基としては、全てが水酸基または加水分解性基であってもよく、水酸基および加水分解性基の両方であってもよい。
【0029】
硬化性ケイ素化合物(2)は本硬化性ケイ素成分の硬化物の耐熱性や硬さを向上させる成分として有用である。硬化性ケイ素化合物(1)のみの硬化物が充分な耐熱性を有しない場合や柔軟性が高すぎる場合に硬化性ケイ素化合物(2)を併用することが好ましい。しかし、本硬化性ケイ素成分中の硬化性ケイ素化合物(2)の割合が高すぎる場合は前記のようにシリカ系被膜のクラック発生やガラス板の反りが生じるおそれがある。
【0030】
硬化性ケイ素化合物(2)は、ケイ素原子を1個有する化合物(以下、モノマーともいう。)であるか、ケイ素原子を2個以上有する化合物(以下、オリゴマーともいう。)である。いずれも硬化性である必要上、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を2個以上有する。ケイ素原子を2個以上有する化合物ではケイ素原子同士が直接結合していてもよいが、酸素原子を連結基として結合していることが好ましい。
【0031】
硬化性ケイ素化合物(2)がモノマーである場合、ケイ素原子には4個の水酸基または加水分解性基を有する。この場合、化合物が安定である必要上反応性の基は水酸基ではなく通常は加水分解性基である。したがって、硬化性ケイ素化合物(2)がモノマーである場合、該ケイ素化合物(2)としては、4官能加水分解性シランであることが好ましい。その加水分解性基としては前記の加水分解性基が挙げられ、特にアルコキシ基や塩素原子が好ましい。4官能加水分解性シランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラクロロシラン等が好ましく使用できる。このほかにテトライソシアネートシラン等も使用することができる。
【0032】
硬化性ケイ素化合物(2)がオリゴマーである場合、上記4官能加水分解性シランの部分加水分解縮合物が好ましい。また市販のオリゴマーを使用できる。このオリゴマーは液体であるか溶媒可溶性であることが好ましい。オリゴマーの縮合度が高くなると溶媒不溶性の固体になりやすく、そのため組成物としての使用が困難になりやすい。
【0033】
本硬化性ケイ素成分は硬化性ケイ素化合物(1)、硬化性ケイ素化合物(2)以外の、その他の硬化性ケイ素化合物を含んでいてもよい。その他の硬化性ケイ素化合物としては、例えばシランカップリング剤やそのオリゴマー等が挙げられる。シランカップリング剤は前記2官能加水分解性シランや3官能加水分解性シランにおける炭化水素基の1つが官能基含有有機基(該有機基はケイ素原子と炭素−ケイ素結合で結合)に置換した構造を有するケイ素化合物である。そのオリゴマーは前記と同様にシランカップリング剤を部分加水分解縮合させて得られるものである。また、互いに反応性の官能基を有する2種のシランカップリング剤の反応物も使用できる。
【0034】
シランカップリング剤における官能基としては、アミノ基、エポキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基、塩素原子等が挙げられる。具体的なシランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
本硬化性ケイ素成分が、硬化性ケイ素化合物(1)とともに硬化性ケイ素化合物(2)を含む場合、硬化性ケイ素化合物(2)の配合割合の上限は、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)とSiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)との総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)が70質量%であることが好ましい。
【0036】
その配合割合の下限は併用の効果が発揮される限り特に限定されないが、通常は5質量%が好ましい。より好ましくは、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)およびSiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)が30〜90質量%、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)が10〜70質量%である。特に、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)およびSiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の割合が20〜40質量%であることが好ましい。SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の含有量が前記の範囲であると、シリカ系被膜の強度を大きくでき、かつシリカ系被膜に可とう性を持たせることができる。
【0037】
本硬化性ケイ素成分がシランカップリング剤などの他の硬化性ケイ素化合物を含む場合、その量(SiO換算として)は、SiO換算による本硬化性ケイ素成分の全量に対して40質量%以下が好ましく、特に20質量%以下が好ましい。
【0038】
次に、本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、本硬化性ケイ素成分に加えて有機溶媒を含有する。この有機溶媒としては、後述するアルカリ金属化合物を溶解可能なものを使用する必要があるが、アルカリ金属化合物を溶解可能な範囲であれば、アルカリ金属化合物を溶解可能な溶媒と、アルカリ金属化合物の溶解性が低い溶媒とを混合して用いてもよい。有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブタノール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、エチレングリコールなどのアルコール類が、アルカリ金属化合物の溶解性に優れ、さらに硬化性ケイ素化合物の溶解性にも優れる点で好ましく用いられる。また、上記の有機溶媒のうち2種類以上を混合して用いてもよいことはもちろんである。
【0039】
さらに、本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、上記の有機溶媒に溶解しうるアルカリ金属化合物を含有する。アルカリ金属化合物の添加により膜中のクラックの発生、および反りの発生を抑えられる理由は必ずしも明確ではないが、本硬化性ケイ素成分にアルカリ金属化合物(例えばカリウム化合物を使用)を添加することで、Si−O−Siネットワークの一部が切断されてSi−O−K構造が形成される結果、Si−O−Siネットワークが密になることを防止し、膜中に発生する応力を緩和できるためであると考えられる。ここで、アルカリ金属がナトリウムおよび/またはカリウムであると、ガラス板の反りの低減に対し効果が高いため好ましく、特にアルカリ金属がカリウムであることが好ましい。この理由は、アルカリ金属のなかでも原子半径の大きいものほど立体障害が大きくなり、上記したような膜中の応力を緩和する効果が向上するためであると考えられる。アルカリ金属化合物としては、例えば、アルカリ金属アルコキシド、有機酸アルカリ金属塩、無機酸アルカリ金属塩、有機アルカリ金属化合物などがある。具体的には、例えば、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0040】
ここで、本発明の組成物においてはSiO換算による硬化性ケイ素成分の総量に対してアルカリ金属化合物を0.01〜10質量%含むものとする。アルカリ金属化合物の含有量が0.01質量%未満であると、上記したようなアルカリ金属化合物の添加による効果が得られず、一方、10質量%を超えると本硬化性ケイ素成分が粒子化するなどによりガラス板に反りが発生したり、被膜中に白濁が発生して視認性が低下するおそれがある。さらに好ましくは、SiO換算による硬化性ケイ素成分の総量に対してアルカリ金属化合物を0.1〜5質量%含む。
【0041】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物中には本硬化性ケイ素成分、有機溶媒、アルカリ金属化合物以外に、他の成分を有していてもよい。他の成分としては組成物中に溶解しうる化合物であることが好ましいが、固体微粒子などの非溶解性の成分であって組成物中に安定的に分散しうるものであってもよい。具体的には、例えば、ケイ素、アルカリ金属以外の金属の化合物(例えば、金属アルコキシド、有機酸金属塩、金属キレート化合物など)、ケイ素、アルカリ金属以外の金属の酸化物、窒化物などの無機物微粒子などがある。これら他の成分としては、得られるシリカ系被膜に機能性を与える成分であることが好ましい。また、レべリング剤などの組成物の取扱い性を向上させる成分を使用することもできる。
【0042】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物中には、有機ジルコニウム化合物を含むことが好ましい。有機ジルコニウム化合物を含有させることで、シリカ系被膜中のクラックの発生が抑えられ、さらに、ガラス板の反りの発生を低減可能となる。さらに、有機ジルコニウム化合物の添加により、層厚を5μm程度まで厚くした場合であってもクラックの発生を抑えられることが判明した。この理由は必ずしも明確ではないが、ジルコニウムがシリカガラスの中間体として機能し、被膜の架橋構造を緩和していることが考えられる。このとき、SiO換算による硬化性ケイ素成分の総量に対して有機ジルコニウム化合物を0.1〜10質量%含むことが好ましい。有機ジルコニウム化合物の含有量を0.1質量%以上とすることで、上記のようにシリカ系被膜中のクラックの発生およびガラス板の反りの発生を抑える効果が得られやすくなる。一方、含有量を10質量%以下とすることで、本硬化性ケイ素化合物が粒子化するなどによりガラス板に反りが発生したり、被膜中に白濁が発生して視認性が低下することを防止できる。
【0043】
有機ジルコニウム化合物としては、組成物中に溶解しうるものであれば種類は特に限定されないが、具体的にはテトラアルコキシジルコニウム化合物、テトラキスアミノジルコニウム化合物、ジルコニウムキレート化合物、有機酸ジルコニウム塩などを用いることが好ましい。テトラアルコキシジルコニウム化合物としては一般式Zr(OR’)(R’は炭素数1〜8の炭化水素基)が好ましく、具体的にはテトラエトキシジルコニウム、テトラ−i−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−t−ブトキシジルコニウム、テトラ(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ジルコニウムなどがある。また、テトラキスアミノジルコニウム化合物としては、テトラキスジエチルアミノジルコニウムなどがある。さらに、ジルコニウムキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物が好ましく、具体的にはアセチルアセトントリブトキシジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトネート、テトラメチルヘプタンジオンジルコニウム、ヘキサフルオロアセチルアセトンジルコニウムなどが挙げられる。有機酸ジルコニウム塩としては、ナフテン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウムなどが挙げられる。取扱い性の観点から、本発明における有機ジルコニウム化合物としてはジルコニウムアセチルアセトネートが特に好ましい。
【0044】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物中の固形分濃度は1〜35質量%が好ましい。ここで固形分とはシリカ系被膜形成用組成物中の揮発性成分(有機溶媒などの塗膜乾燥時に除去される成分)を除いた成分をいう。固形分濃度が1質量%未満では充分な厚さのシリカ系被膜を効率よく形成することが困難になるおそれがある。一方、合計含有量が35質量%を超えると本硬化性ケイ素成分および/またはアルカリ金属化合物が組成物中に溶解しきれなくなり、組成物の安定性が低下するおそれがある。また、比較的厚いシリカ系被膜(膜厚1μm以上)を効率よく形成するためには固形分濃度は10質量%以上が好ましく、特に15質量%以上が好ましい。この固形分濃度では、特に、塗布、乾燥、焼成からなる1回のプロセスにより厚膜状のシリカ系被膜を得ることができる。
【0045】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物中の全固形分に対する硬化性ケイ素成分およびアルカリ金属化合物の合計量は50〜100質量%が好ましく、特に80〜100質量%が好ましい。硬化性ケイ素成分の量が少ない場合には充分な耐久性のある緻密な被膜の形成が困難となるおそれがあり、また被膜にクラックが生じやすくなる。
【0046】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物を基材に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥して有機溶媒を除去し、その後加熱して硬化性ケイ素成分を硬化させることによりシリカ系被膜が形成される。
【0047】
次に、本発明のシリカ系被膜形成用組成物により形成されるシリカ系被膜は基板表面を保護する保護膜を設ける用途ばかりでなく、ガラス板面に反射防止膜、赤外線遮蔽膜、着色膜および誘電体膜などの機能性被膜を被覆する用途に特に好適である。また、本発明の組成物に前記他の成分を配合して、これら以外の機能を有する機能膜とすることもできる。
【0048】
次に、本発明のシリカ系被膜付きガラス板の製造方法について具体的に示す。
ガラス板としては、ソーダライムシリカガラス、石英ガラス等が使用でき、ソーダライムシリカガラスが好ましい。ソーダライムシリカガラスは、無色透明ガラスであっても有色透明ガラスであってもよい。また、紫外線吸収剤や熱線吸収剤が添加してあってもよく、その表面に熱線反射膜や低反射膜等の機能表面コーティングがあらかじめほどこされていてもよい。
【0049】
本発明のシリカ系被膜付きガラス板は、本発明のシリカ系被膜形成用組成物をガラス板の表面に塗布し、乾燥して該組成物の層を形成し、次いで焼成することによって得ることができる。
【0050】
本発明のシリカ系被膜の製造方法において、シリカ系被膜形成用組成物をガラス板の表面に塗布して該組成物の層を形成する方法としては、スクリーン印刷法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、転写印刷法、カーテンフローコート法およびミスト法などが挙げられ、特にスクリーン印刷法またはスピンコート法を用いることが好ましい。塗布後の乾燥条件は、有機溶媒の種類にもよるが、通常は60〜200℃が適当であり、80〜140℃が好ましい。乾燥時間は加熱温度によるが、乾燥温度が高い場合は1分程度でも充分であり、通常は5分以上である。好ましくは、10〜30分間乾燥させる。加熱温度は、特に限定されるものではないが、200℃以上が好ましい。また前記のように、本発明の組成物は特に高温で加熱してシリカ被膜を形成する場合に適した(高温で加熱硬化させてもクラックが生じにくい)組成物であり、加熱温度が500℃以上の場合にその特徴が発揮されやすい。この高温加熱を本発明では焼成という。焼成温度は500〜800℃が好ましく、特に600〜750℃が好ましい。焼成によりより緻密なシリカ系被膜とすることができる。
【0051】
得られるシリカ系被膜の厚さは特に限定されるものではないが、300nm以上が好ましい。さらに本発明は厚膜の形成に適した組成物であり、1〜50μmのシリカ系被膜の形成に適している。特に本発明の組成物は、5〜20μmのシリカ系被膜の形成に適している。
【0052】
本発明のシリカ膜形成用組成物より形成されるシリカ系被膜はガラス板上に形成されることが好ましい。しかし、基体はガラス板に限定されるものではなく、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属ホウ化物、その他の無機質材料からなる基板が好ましい。シリカ系被膜の形成に高温を使用しない場合はプラスチック基板も使用できる。基体は単一材料からなる基板に限られず、多層基板や薄膜含有基板なども使用できる。例えば、基板の機能性薄膜上に本発明によるシリカ系被膜を形成することができる。なお、本発明によるシリカ系被膜上にさらに薄膜等を形成することもできる。
【0053】
本発明はまた、前記シリカ系被膜形成用組成物をガラス板上に塗布した後、乾燥、焼成することを特徴とするシリカ系被膜付きガラス板の製造方法、および、その製造方法で得られたシリカ系被膜付きガラス板である。ガラス板上のシリカ系被膜は、保護膜、反射防止膜、赤外線遮蔽膜、着色膜、誘電体膜などの機能性被膜として機能させることができる。本発明のシリカ系被膜付きガラス板は特に5〜20μmの厚さのシリカ系被膜を有していることが好ましく、10〜15μmのシリカ系被膜を有していることがより好ましい。
【0054】
ガラス板としては、ソーダライムシリカガラス、石英ガラス等が使用でき、ソーダライムシリカガラスが好ましい。ソーダライムシリカガラスは、無色透明ガラスであっても有色透明ガラスであってもよい。また、紫外線吸収剤や熱線吸収剤が添加してあってもよく、その表面に熱線反射膜や低反射膜等の機能表面コーティングがあらかじめほどこされていてもよい。
【0055】
本発明のシリカ系被膜付きガラス板は、本発明のシリカ系被膜形成用組成物をガラス板の表面に塗布し、乾燥して固形分の層を形成し、次いで焼成することによって得ることができる。塗布後の乾燥条件は、有機溶媒の種類にもよるが、通常は80〜140℃で10〜30分間乾燥させることが好ましい。乾燥後の固形分層の膜厚は10〜15μmのシリカ系被膜を形成する場合通常20〜30μmである。
【0056】
次に、シリカ系被膜形成用組成物層が形成されたガラス板を焼成することによってシリカ系被膜付きガラス板を製造する。乾燥後のガラス板を焼成することによって、本硬化性ケイ素成分の部分加水分解縮合反応を進行させ、シリカ系被膜を形成する。焼成は、600〜750℃で3〜5分間加熱することによって行われることが好ましい。なお、得られたシリカ系被膜付きガラス板は、炉から取り出した後に徐冷してもよく、強化処理するために急冷してもよい。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
[1]シリカ系被膜形成用組成物の調製
[例1]
本硬化性ケイ素成分として、メチル基が1個結合したケイ素原子の割合が高い、市販の硬化性メチルシリコーンレジンの溶液を用いた。この硬化性メチルシリコーンレジン中の3官能ケイ素原子(メチル基が結合したケイ素原子)の割合は約80モル%であり、他は4官能ケイ素原子であると推定される。溶液の溶媒はイソプロパノールとエタノールの混合溶媒、硬化性メチルシリコーンレジン濃度は25質量%であった。
【0059】
該レジンの溶液を室温で撹拌しながら、カリウムメトキシドを30質量%含むメタノール溶液をゆっくり添加し、10分間撹拌してシリカ系被膜形成用組成物を得た。得られた組成物において、SiO換算によるレジンの総量に対するカリウムメトキシドの含有割合は1.7質量%であった。また、組成物中におけるSiO換算によるレジンの総量と、カリウムメトキシドとの合計含有量は26.7質量%であった。
【0060】
[例2]
カリウムメトキシドを30質量%含むメタノール溶液に代えて、酢酸カリウムを15質量%含むエタノール溶液を用いた以外は例1と同様にして、シリカ系被膜形成用組成物を得た。得られた組成物において、SiO換算によるレジンの総量に対する酢酸カリウムの含有割合は1.6質量%であった。また、組成物中におけるSiO換算によるレジンの総量と、酢酸カリウムとの合計含有量は26.6質量%であった。
【0061】
[例3(比較例)]
例1で使用した硬化性メチルシリコーンレジンをシリカ系被膜形成用組成物とした。このとき、組成物中におけるSiO換算によるレジンの総量は25.0質量%であった。
【0062】
[例4(比較例)]
SiO換算によるレジンの総量に対するカリウムメトキシドの含有割合を17質量%に変更した以外は例1と同様にして、シリカ系被膜形成用組成物を得た。このとき、組成物中におけるSiO換算によるレジンの総量と、カリウムメトキシドとの合計含有量は41.0質量%であった。
【0063】
[例5(比較例)]
SiO換算によるレジンの総量に対する酢酸カリウムの含有割合を17質量%に変更した以外は例2と同様にして、シリカ系被膜形成用組成物を得た。このとき、組成物中におけるSiO換算によるレジンの総量と、酢酸カリウムとの合計含有量は40.0質量%であった。
【0064】
[2]シリカ系被膜付きガラス板の調製
上記で得られた組成物を、表面を清浄にしたソーダライムガラス板(縦10cm、横10cm、厚さ3.5mm)の片方の面のほぼ全面に、スピンコート法により塗布し、120℃で10分間乾燥させた後、670℃に保った大気雰囲気の電気炉中で5分間、焼成を行い、室温まで冷却してシリカ系被膜付きガラス板を得た。
【0065】
[3]シリカ系被膜付きガラス板の評価
[3−1]シリカ系被膜の膜厚
[2]において、焼成を行う前の塗布膜の一部をカッターナイフで削り、ガラス板面が露出するようにした。焼成後、触針式表面粗さ計(Sloan社製、DEKTAK3)によって膜厚を得た。結果を表1に示す。
【0066】
[3−2]シリカ系被膜中のクラックおよびガラス板の反り
[2]の方法で得られたシリカ系被膜付きガラス板を炉から取り出した際のガラス板の反りおよびシリカ系被膜におけるクラックの有無を目視により確認した。ガラス板の反りは、凸部を下にして平坦な場所に置き、ガラス板の端部が平坦部からどれだけ離れているかを測定した。結果を表1に示す。
【0067】
[3−3]ガラス板の視認性
[2]の方法で得られたシリカ系被膜付きガラス板を炉から取り出した際のガラス板の視認性を目視により観察した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、本発明の実施例である例1および例2においては、アルカリ金属化合物を添加しない比較例である例3と比較してクラックの発生がみられず、反りの発生も顕著に抑制できている。このことから、本発明において、クラックおよび反りを低減させるにあたり、シリカ系被膜形成用組成物中へのアルカリ金属化合物の添加が必須であることがわかる。
【0070】
さらに、例1および例2をそれぞれ例4および例5と比較すると、ガラス板の反りが抑えられ、さらに視認性も向上している。このことから、本発明のシリカ系被膜形成用組成物中のアルカリ金属化合物の含有割合を一定量以下とすることで、クラックの発生を防止でき、さらに、本硬化性ケイ素成分の粒子化などによるガラス板の反りの発生や、被膜中の白濁の発生をも抑えられることがわかる。
【0071】
[4]有機ジルコニウム化合物の添加効果
[例6]
例1で用いた硬化性シリコーンレジンに対し、ジルコニウムアセチルアセトネート(以下、Zr(acac)という)の粉末を添加し、均一に溶解するまで10分間撹拌した後、例1で用いたカリウムメトキシドを30質量%含む溶液をゆっくり添加し、10分間撹拌してシリカ系被膜形成用組成物を得た。得られた組成物において、SiO換算によるレジンの総量に対するカリウムメトキシドの含有割合は1.7質量%であり、SiO換算によるレジンの総量に対するZr(acac)の含有割合は5質量%であった。また、得られた組成物におけるSiO換算によるレジンの総量と、カリウムメトキシドと、Zr(acac)との合計含有量は31.7質量%であった。
【0072】
上記で得られた組成物を用いた以外は例1と同様にして、表2に示す膜厚を有するシリカ系被膜付きガラス板を得た。評価結果を表2に示す。
【0073】
[例7]
焼成後のシリカ系被膜の膜厚を表2に示すように変更した以外は例6と同様にして、シリカ系被膜付きガラス板を得た。評価結果を表2に示す。
【0074】
[例8]
焼成後のシリカ系被膜の膜厚を表2に示すように変更した以外は例1と同様にして、シリカ系被膜付きガラス板を得た。評価結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2の結果より、本発明の実施例である例6〜8のいずれにおいても、例1、2で得られたガラス板と同程度の視認性を有し、かつ、クラックの発生が抑えられていることがわかる。特に、組成物中にZr(acac)を含有させた例6では、ガラス板の反りを例1よりさらに低減できている。同様に、組成物中にZr(acac)を含有させた例7では、膜厚を5μm以上にまで厚膜化してもクラックの発生がみられず、かつ、Zr(acac)を添加しない実施例(例8)と比較してガラス板の反りの発生が抑えられていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のシリカ系被膜形成用組成物を用いれば、膜厚を1μm以上の厚膜状としても膜中にクラックが発生せず、ガラス板に反りも発生しない。よって、安価な材料を用いて基体上に高いガスバリヤ性や機械的耐久性を付与できるので、ガラス板表面に保護膜や反射防止膜、赤外線遮蔽膜、着色膜および誘電体膜などの機能性被膜を被覆する際に好適に使用できる。
【0078】
また、機能性被膜を被覆しつつ、視認性に優れた透明なガラス板が得られるため、自動車窓用ガラス板や電子用ガラス基板上に透明な機能性被膜を形成する用途にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記硬化性ケイ素成分と、有機溶媒と、該有機溶媒に溶解しうるアルカリ金属化合物とを含み、かつ、SiO換算による硬化性ケイ素成分の総量に対してアルカリ金属化合物を0.01〜10質量%含むことを特徴とするシリカ系被膜形成用組成物。
硬化性ケイ素成分:炭化水素基が結合したケイ素原子と水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子とを有する(ただし、両ケイ素原子は同一のケイ素原子であってもよい。)硬化性ケイ素化合物を含む1種以上の硬化性ケイ素化合物からなる成分。
【請求項2】
アルカリ金属がナトリウムおよび/またはカリウムである請求項1に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項3】
さらに有機ジルコニウム化合物を含む請求項1または2に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物をガラス板上に塗布した後、乾燥、焼成することを特徴とするシリカ系被膜付きガラス板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物が乾燥、焼成されて形成されたシリカ系被膜を有するシリカ系被膜付きガラス板。

【公開番号】特開2007−246872(P2007−246872A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163459(P2006−163459)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】