シリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法
【課題】太陽電池用のシリコン半導体膜を、空気中での塗布膜形成と、その前駆体膜の加熱あるいはレーザー照射により得るための、組成物および塗布型のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法を提供する。
【解決手段】四塩化ゲルマニウムを出発原料として合成した主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂が、シリコン粒子の表面を被覆するよう、ゲルマニウム樹脂とシリコン粒子とを混合粉砕し、該混合粉砕物を有機分散媒中で混合した組成物を製膜した後、熱処理やレーザー照射する。
【解決手段】四塩化ゲルマニウムを出発原料として合成した主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂が、シリコン粒子の表面を被覆するよう、ゲルマニウム樹脂とシリコン粒子とを混合粉砕し、該混合粉砕物を有機分散媒中で混合した組成物を製膜した後、熱処理やレーザー照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池や半導体として使用することが可能なシリコン−ゲルマニウム膜に関し、特に高価な真空装置やスパッタ装置を使用せずに、空気中で製膜が可能で、製造工程のコストが安価なシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー環境問題の顕在化から、現在太陽電池の普及が希求されているが、それに伴い結晶系の太陽電池においては、シリコン基板材料の需要供給の関係からの価格や資源の問題、また、薄膜系の太陽電池においては、気相のガスからの薄膜形成に由来する製膜速度や装置コストの問題が起こっている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
太陽電池の普及においては、低コスト化が課題の一つとなっている。そのため、装置コストを大幅に低減でき、また大面積化が可能である塗布型の太陽電池用の材料および製造プロセスが求められている(例えば、非特許文献2参照)。シリコン系以外の太陽電池においては、CIGS系の太陽電池が既に実用化されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
しかし、資源量、低毒性、環境負荷を考えた場合、シリコン系の太陽電池が塗布法によって低コストで製造できることの意義は大きい。このため、国内外で塗布型のシリコン系太陽電池を目指した、材料および製造法に関する研究開発が行われるようになっている。
【0005】
特に米国では、シリコンのナノ粒子を用いたシリコンインクによる塗布型シリコン太陽電池の開発の進展が著しい。米国Innovalight社は、シリコンナノ粒子からなるシリコンインクを使って塗布型太陽電池を作成し、19%の高変換効率を達成しており(例えば、非特許文献4参照)、関連材料や製造方法に関する多くの技術を開発している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
米国Nnogram社も、シリコンのナノ粒子インクを用いた、印刷法による半導体用途のための薄膜の製造方法に関する技術開発を行っている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
我が国においても、シリコン微粒子を用いた塗布型のシリコン半導体膜および太陽電池の製造を目指した技術開発がおこなわれてきたが(例えば、特許文献3、4参照)、シリコン系塗布型太陽電池の実現には至っていない。
【0008】
塗布法による、シリコン系半導体膜の形成法は、ナノメートルサイズのシリコン微粒子やその表面改質体、それらと分散媒や溶媒を含む組成物に基づくものである。これに対して本発明者は、それらに先行して、有機置換三塩化ケイ素や四塩化ケイ素を原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のSi−Si結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のシリコン樹脂(例えば、特許文献6、非特許文献5、6、7参照)、および、四塩化ゲルマニウムを原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂(例えば、特許文献7、非特許文献8、9参照)の合成、および、それらを前駆体膜として用いた加熱やレーザー照射による、熱分解による有機側鎖の脱離を伴う、シリコンおよびゲルマニウム膜形成に関する技術を報告している(例えば、特許文献5、7、非特許文献参照6、9)。
【0009】
Si−Si結合からなる樹脂やGe−Ge結合からなる樹脂を前駆体として用いた半導体膜製造方法に関しては、本発明者が先行して報告している事と同様な技術あるいは概念の報告が、後年に、他の研究グループからも行われている(例えば、特許文献8参照)。
【0010】
これらの技術においては、ハロゲン化反応、および、LiAlH4等の水素化物の源を用いた還元反応によって、有機置換基を有するポリマーを、SiH2やGeH2構造からなるペルヒドロシランおよびペルヒドロゲルマンに変換し、それら、および、それらポリマーの混合による組成物を前駆体として用いた、加熱やレーザー照射によるSiやGe等の膜形成が、特徴とされている。有機置換基を有さずSiH2やGeH2構造からなるペルヒドロシランやペルヒドロゲルマンを用いる点においては、先に報告された技術(例えば、特許文献3、非特許文献10参照)と同様な特徴のものとなっている。
【0011】
それらの製膜工程は、SiH2構造を有する化合物の、非常に高い空気中の酸素との反応性、そのための発火性の危険によって、不活性ガス雰囲気下で行う必要があった。
【0012】
塗布型の製膜工程であっても、SiH2構造の、空気中での酸素や水との高い反応性を避けるために、全ての工程で、酸素と水とを厳密に除去して行わなければならないのは、シランガスを原料とする既存の気相法による製膜工程と、なんら変わりのない製造方法であると指摘されている(例えば、非特許文献参照11)。塗布法であっても、酸素と反応性の非常に高いSiH2基を有する化合物を扱うことは、装置コストやプロセスコストを下げる観点からは、欠点となる。これは、GeH2構造を有する、ポリゲルマンに関しても同様である。
【0013】
太陽電池の普及においては、低コスト化の他に、変換効率の向上も課題となる。シリコン系太陽電池の高効率化においては、シリコンよりも低エネルギー側の赤外域に吸収を有するゲルマニウム、およびシリコンとゲルマニウムとの合金であるSiGeを用いたタンデム型の太陽電池の開発が、シリコンより効率よく光エネルギーを吸収して電気エネルギーに高効率で変換することを目的として行われている(例えば、非特許文献12参照)。
【0014】
Si1−xGexは、Geの組成xによって、バンドギャップをSiからGeに至るまで、連続的に制御できる、全率固溶の混晶半導体である。固体状態でも完全に固溶しあって中間相を形成しないことから、バンドエンジニアリングが可能な混晶半導体材料として、有用な物質となっている(例えば、非特許文献13、14参照)。すなわち、シリコン半導体膜中にゲルマニウムが存在することは、シリコン半導体膜の特性を損なわないばかりか、太陽電池用材料としては、有利に働くものである。
【0015】
これに対して、シリコンナノ粒子表面とシリコンアルコシサイド基との化学反応によって、シリコン微粒子表面にSi−O−Siの共有結合を形成し、分散性や製膜性を得る技術(例えば、特許文献2、4参照)や、さらに、反応性のエポキシ基を導入し、これとアミノ基を有する化合物等の架橋剤との組成物を調製し、その硬化反応によって製膜性を得る技術(例えば、特許文献4参照)が報告されているが、これらの技術では、Si半導体膜の電気物性に顕著な影響を与えるSi−O−Si結合や絶縁性の樹脂がシリコン微粒子表面に形成される。これらの技術によって形成されたシリコン膜の電気特性についての報告は、これまでなされていない。
【0016】
塗布型の工程によるSiGe合金の形成に関しては、本発明者が先行して技術報告を行っている(例えば、特許文献7、非特許文献8参照)。主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合からなり、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂を、シリコン結晶基板に塗布し、電気炉を用いて真空下700℃以上で加熱処理することによって、SiGe合金薄膜を、シリコン結晶基板上に形成できることを報告している。
【0017】
塗布型のSiGe合金膜の形成に関しては、500nmを超えない平均粒子サイズのSiおよびGeナノ粒子を用いる技術(例えば、特許文献2参照)や、線状及び架橋済みポリシランおよびポリゲルマンの組成物を用いる技術(例えば、特許文献8参照)が、後年、報告されているが、それらの手法で形成される半導体膜の構造や物性に関しては不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第7521340号明細書
【特許文献2】特表2010−514585号公報
【特許文献3】特開2004−087546号公報
【特許文献4】特開2007−173516号公報
【特許文献5】特開平08−017726号公報
【特許文献6】特開平11−14841号公報
【特許文献7】特開2002−110573号公報
【特許文献8】特表2009−511670号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】寺川朗、「プラズマCVD法による薄膜シリコン太陽電池の工業化に向けて」、J. Plasma Fusion Res.、2010年、Vol.86、No.1、p.17-20
【非特許文献2】阪井淳、河野謙司、「塗布形成法による積層型有機薄膜太陽電池」、パナソニック電工技報、Vol.57、No.1、p.46-50
【非特許文献3】和田隆博監修、「化合物薄膜太陽電池の最新技術」、シーエムシー、2007年6月
【非特許文献4】“InnovalightEstablishes New Record with Silicon Ink, Solar Cells, Solar cells achieve 19percent conversion efficiency of sunlight to electricity”, 2010年4月27日, INNOVALIGHT PRESS RELEASE、インターネット〈URL:http://www.innovalight.com/press_releases/pressrelease_04272010.htm〉
【非特許文献5】A.Watanabe and M. Matsuda, “Electrical and Optical Properties of Heat-treatedSilicon Network Polymers", Chem.Lett., 1991年, p.1101-1104
【非特許文献6】A. Watanabe, Y. Nagai, M.Matsuda, M. Suezawa, and K. Sumino, “Amorphous Silicon Structure ofHeat-Treated Poly(n-propylsilyne) Studied by Far-Infrared Spectroscopy", Chem. Phys. Lett., 1993年, 207, p.132-136
【非特許文献7】A. Watanabe, M. Fujitsuka, O.Ito, and T. Miwa, “Soluble Three-Dimensional Polysilanes with OrganosiliconNanocluster Structure", Jpn. J.Appl. Phys., 1997年, 36, p.L1265-L1267
【非特許文献8】A. Watanabe, M. Unno, F. Hojo,and T. Miwa, “Silicon-Germanium Alloys Prepared by the Heat Treatment ofSilicon Substrate Spin-Coated with Organo-Soluble Germanium Cluster", Matterials Letters, 2001年, 47, p.89-94
【非特許文献9】A. Watanabe, M. Unno, F. Hojo, T.Miwa, “Spatially Selective Formation of Microcrystalline Germanium byLaser-Induced Pyrolysis of Organogermanium nanocluster Film", Chem. Lett., 2002年, p.662-663
【非特許文献10】T. Shimoda, Y. Matsuki, M.Furusawa, T. Aoki, I. Yudasaka, H. Tanaka, H. Iwasawa, D. Wang, M. Miyasaka,and Y. a Takeuchi, “Solution-processedsilicon films and transistors", 2006年, Nature, 440(6), p.783
【非特許文献11】L. Rosenberg, “Spray-on silicon", Nature, News & Reviews, 2006年, 440(6), p.749
【非特許文献12】野元克彦、谷口浩、三宮仁、早川尚志、「薄膜太陽電池のデバイス設計」、シャープ技報第70号、1998年4月、p.40-43
【非特許文献13】古川静二郎、雨宮好仁編著、「シリコン系ヘテロデバイス」、丸善、1991年
【非特許文献14】Takayoshi Shimura, MichihiroShimizu, Shinichiro Horiuchi, Heiji Watanabe, Kiyoshi Yasutake, and MasatakaUmeno, “Self-limiting oxidation of SiGe alloy on silicon-on-insulator wafers”, Appl.Phys. Lett. 2006年, 89, p.111923
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述のように、エネルギー環境問題に関して、シリコン系塗布型太陽電池が実現されることの意義は大きく、今後、世界的に技術開発が進展していくことが予想される。
【0021】
本発明者は、上記課題の解決を目的として、塗布型のシリコン樹脂を用いた半導体膜形成の技術開発に、長年に渡り取り組んできたが、これまでは、その実現には至っていない。これまでの研究の蓄積から、それには以下のことが原因となっていることが分かってきた。
【0022】
シリコン樹脂は、Si−Si骨格が、線状、架橋状、3次元状にかかわらず、数ナノメートルのサイズの分子となっている。これより、Siの無機微粒子と比較して、非常に大きな、重さあたりの表面積を有することになる。このため、空気等の酸化性のガスにより、容易な酸化構造の形成が起こりやすい構造となっている。SiH2構造からなる分子や重合物の場合には、さらに反応性が高く、空気中での発火性を示す。数ナノメートルサイズのSi原料を塗布法により製膜し、加熱や電磁波の照射でシリコン連続相からなる膜へ変換する場合、非常に大きな表面積を有する物質であることが、良質の半導体膜を得るうえで問題となる。そのため、上述の先行技術文献では、原料合成、製膜、および加熱やレーザー照射による半導体膜化の工程の全てが不活性ガス雰囲気下で行われている。
【0023】
空気中での原材料の取り扱いや、製膜ができない製造工程では、液相の塗布型の製膜工程であったとしても、既存のシランガスを用いたプラズマCVD法による薄膜形成法と比べて、製造コストやプロセスコスト上の利点は少なくなってしまう。
【0024】
このような、大面積の表面構造を有するシリコン材料の酸化劣化の問題は、Siナノ粒子においても同様である。重さあたりの表面積は非常に大きく、空気中での酸化劣化や発火性の危険を伴う物質である。このため、上述の先行技術文献のように、基本的には、不活性ガス雰囲気下での取り扱いが必要とされる。
【0025】
以上のことから、表面積の、より小さなシリコン粒子、すなわち、より大きな粒径を有するシリコン粒子を用いたほうが、酸化劣化の問題が少なく、空気中での取り扱いが可能な塗布型の製膜工程を実現しやすいことになる。分子や樹脂よりは、Siナノ粒子、Siナノ粒子よりは、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子のほうが、その目的には有利である。粒子径が、1ナノメートル、100ナノメートル、10マイクロメートルの粒子の総表面積の比は、10000:100:1となり、これからも、粒子径が大きいほど、酸化劣化の影響を受けにくいと考えられる。
【0026】
しかし、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いた場合には、いくつかの問題が生じてくる。一つは、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子の製膜性である。シリコン半導体膜の前駆体膜の製膜においては、シリコン微粒子を溶媒に均一に分散し、塗布する必要がある。粒子径が小さなシリコンナノ粒子のほうが良好な製膜性を得られるが、上述の先行技術文献のように、その場合でさえ、その分散性と製膜性を高めるために、シリコンナノ粒子表面とSi−O−Si結合のような共有結合を形成する、有機シリコンアルコキシド等の表面修飾剤が添加されることがある。
【0027】
マイクロメートルの大きさのシリコン微粒子を用いて塗布膜を作製する別の技術としては、環状にSiH2構造が連なった、シクペンタシランを分散媒として用いた技術が、上述の先行技術文献で報告されている。この技術の場合には、シクペンタシランが加熱やレーザー照射により無機Siに変換される特性が生かされており、シリコン微粒子から形成されたシリコン膜の導電性が確認されている。
【0028】
しかし、環状にSiH2構造が連なったシクペンタシランは、空気中で酸化性が高い、発火性の化合物であり、シクペンタシランの取り扱いや製膜工程は、不活性ガス雰囲気下で行う必要がある。これは、他の公知技術と同様、既存のシランガスを用いたプラズマCVD法による薄膜形成法と比べて、製造コストやプロセスコスト上の利点が少なくなってしまうことが課題となる。
【0029】
マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いた場合に生じてくる問題としては、さらに、シリコン微粒子の溶融、結着、それによるシリコン連続相形成に関することが挙げられる。シリコンの融点は非常に高く、1410℃である。マイクロメートルサイズのシリコン微粒子の場合にも、レーザー光照射条件によっては、シリコン微粒子の溶融は可能であるが、シリコンの連続相からなる均一膜の形成を行うのは難しい。
【0030】
以上の技術的課題をまとめると、空気下での取り扱いと製膜工程とを可能とし、均質なシリコン半導体膜を形成する課題を解決するためには、以下の要件を満たすことが必要となる。
【0031】
シリコン微粒子のサイズとしては、空気中での酸化劣化や発火性の問題のない、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いることのできる技術であること、が必要である。
【0032】
マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いた塗布型の製膜工程であっても、均質な前駆体膜形成が可能であること。そのためには、樹脂や有機分散媒としての溶媒が必要となるが、それらは、シリコン微粒子表面に化学結合してSi−O−Si構造のような絶縁性の構造を形成しないものであること。また、シリコン微粒子間に絶縁性の樹脂構造を形成しないこと。さらに、それら樹脂や溶媒は、空気中で安定に取り扱えるものであること、が必要である。
【0033】
マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いた均質な前駆体膜形成においては、添加する樹脂が粘結性であり、シリコン微粒子間に粘着性を付与できることも、要件となる。このためには、ガラス転移温度が室温以下の樹脂が好ましい。
【0034】
マイクロメートルサイズのシリコン微粒子の加熱やレーザー照射によって、均一なSi系半導体膜の形成が可能であること。このためには、Si微粒子の表面を被覆する樹脂がSiの溶融を促進し、結果として、Siの融点より低温での、シリコン微粒子の溶融および結着による、シリコン連続相の形成を可能とするような物質であること、すなわち、添加する樹脂が、シリコン微粒子の融着剤となり、しかも、シリコンの半導体としての特性を妨げないこと、が必要である。
【0035】
このように、本発明は、空気中で製膜が可能で、製造工程のコストが安価なシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明によれば、側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂と、平均粒径が1μm以上のシリコン微粒子とを有機分散媒中で混合した分散液から製膜される組成物膜を、熱処理またはレーザー照射して得られることを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜が得られる。
【0037】
また、本発明によれば、四塩化ゲルマニウムを出発原料として合成した主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂が、シリコン粒子の表面を被覆するよう、前記ゲルマニウム樹脂と前記シリコン粒子とを混合粉砕し、該混合粉砕物を有機分散媒中で混合した組成物を製膜した後、熱処理またはレーザー照射することを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
【0038】
また、本発明によれば、前記ゲルマニウム樹脂は、ガラス転移温度が室温以下であることを特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
【0039】
また、本発明によれば、前記ゲルマニウム樹脂と前記シリコン微粒子とを有機分散媒中で混合した前記組成物を、空気中で基板に塗布して製膜することを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
【0040】
また、本発明によれば、前記ゲルマニウム樹脂で被覆した前記シリコン微粒子表面の前記ゲルマニウム樹脂の有機置換基を、加熱またはレーザー照射によって除去し、無機ゲルマニウムとシリコンとを合金化させることを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
【0041】
更に、本発明によれば、前記レーザー照射工程で、レーザーの熱の影響がなかった個所を有機溶媒で洗浄除去することを特徴とするシリコン-ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0042】
本発明において、分散媒かつシリコン微粒子の融着剤として用いるゲルマニウム樹脂は、上述の先行技術文献に示されるように、本発明者が初めてその合成を報告している物質で、四塩化ゲルマニウムを原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂である。
【0043】
このゲルマニウム樹脂は、4個のGe−Ge結合を有する4配位のGe原子、3個のGe−Ge結合を有する3配位のGe原子を有しており、線状ポリゲルマンより、無機ゲルマニウム化するための分散媒として好適である。Si−Si結合からなるシリコン樹脂やGe−Ge結合からなるゲルマニウム樹脂は、4配位や3配位の分岐構造が、直鎖や環状構造のものより、熱分解による揮発性分解生成物の発生を抑制し、焼成後の残存無機成分の収量を著しく上げることが、上述の先行技術文献で示されている。
【0044】
本発明においては、Ge−Ge骨格が有機基で置換された構造のゲルマニウム樹脂を分散媒として用いている。このようなゲルマニウム樹脂は、加熱やレーザー照射によって、残存炭素無しに、無機ゲルマニウムに変換できることを、上述の先行技術文献で本発明者が報告している。これは、Ge−C結合が、共有結合性の強いSi−C結合に比べて不安定であることに起因している。
【0045】
本研究で用いるゲルマニウム樹脂は空気中で安定に取り扱えるが、その構造のある部分が酸化したとしても、レーザー照射によって酸化ゲルマニウム構造を除去することができる。これは、Ge−O−Ge結合がSi−O−Si結合に比べて不安定であることに起因している。
【0046】
本研究で用いるゲルマニウム樹脂は、有機側鎖が、炭素数が4以上の直鎖アルキル基である場合、室温で粘性液体状であることを、特徴としている。
【0047】
上記のゲルマニウム樹脂の特性は、マイクロメートルのサイズのシリコン微粒子用の分散媒として、好適である。空気中で安定性の高いゲルマニウム樹脂を分散媒として、シリコン微粒子表面を被覆し、分散状態とすることにより、シリコン微粒子の表面の酸化劣化を抑制することができる。
【0048】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の調製は、空気下あるいは不活性ガス雰囲気下で、ゲルマニウム樹脂と多結晶または単結晶のシリコンとを混合し、粉砕することによって行われる。粉砕においては、ゲルマニウム樹脂と粉砕によって形成されるシリコン微粒子との混合を効果的に行うために、脂肪族系や芳香族系の種々の溶媒を添加することができる。
【0049】
上記の組成物の調整において用いられる、ゲルマニウム樹脂との混合時の粉砕によって形成されるシリコン微粒子の原料としては、多結晶または単結晶のシリコンで、未ドープあるいはドープされたものを用いることができるが、本発明の目的および効果を損なわないものであれば特に限定されない。
【0050】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物は、空気中で安定であり、製膜雰囲気を制御するための特殊な装置を必要とせずに製膜することができる。このような特性は、大面積の太陽電池を低コストで製造するために、好適な特性である。
【0051】
このような空気中での取り扱いが可能であるのは、マイクロメートルのサイズのシリコン微粒子が空気中で安定なゲルマニウム樹脂で被覆された構造であること、ゲルマニウム樹脂の一部の構造が酸化されたとしても、Ge−O−Ge構造がレーザー照射によって除去できることに起因している。
【0052】
シリコン微粒子の原料としては、多結晶または単結晶のシリコンで、未ドープあるいはドープされたものを用いることができることは、シリコンナノ粒子を製造するための特殊な装置を必要としないこと、シリコンナノ粒子へのドーピングプロセスを省略できることから、製造コスト低減において効果的である。また、従来の結晶シリコン太陽電池の製造方法との比較においても、単結晶シリコンインゴットの引き上げや、Siウエハー加工にかかわるコストを削減でき、さらに、薄膜化によって、省資源で太陽電池を形成できるという、利点がある。
【0053】
ゲルマニウム樹脂を分散媒かつ融着剤として用いることのさらなる特徴として、SiGe合金形成により、Si微粒子が溶融および結着する温度を下げることができる効果がある。シリコン単結晶基板上に、スピンコート製膜したゲルマニウム樹脂薄膜が、シリコンの融点の1410℃より600℃以上も低い温度で、Si基板表面の溶融を伴って、SiGe合金薄膜形成を行うことを、本発明者は先行して発見し、上述の先行技術文献において報告している。
【0054】
このような特性のゲルマニウム樹脂を、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子からなる組成物の前駆体膜において、シリコン微粒子の融点を低下させシリコン微粒子間の結着を行うような、シリコン微粒子の融着剤として用いることによって、塗布型シリコン半導体膜形成における課題を解決できる、という着想に至った。
【0055】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射においては、ゲルマニウム樹脂の無機ゲルマニウム化、シリコン微粒子の溶融、SiGe合金の形成が起こる。これに対して、レーザー未照射では、ゲルマニウム樹脂の溶媒可溶性によって、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物は溶媒への分散性を保持している。これによって、本発明は、結晶性半導体膜の微細パターン形成を行うことができる、という特徴を有する。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、空気中で製膜が可能で、製造工程のコストが安価なシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法を提供することができる。
【0057】
本発明に関するシリコン微粒子を原料とした半導体膜製造方法および半導体膜パターン形成法は、塗布法により大気下での製膜を行える手法であり、従来法で必要であった高コストな製造装置を必要とせず、太陽電池の普及において課題となっている製造コストの低減に好適な手法を提供することができる。また、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の溶媒分散性によって、レーザー照射においては、レーザー未照射部の有機溶媒での洗浄除去によって、半導体膜の微細パターン形成を行うことができ、従来のフォトリドグラフィー等による微細加工プロセスの簡略化に好適な手法を提供することができる。本発明に関する半導体膜形成および結晶性半導体膜とそれらのパターン形成法は、太陽電池用半導体膜以外にも種々の光電子デバイスへ応用することができる。例えば、薄膜トランジスタ、フォトトランジスタ等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、レーザー照射およびパターン形成を行うための装置および光学系を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、(a)シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜、および、(b)シリコン微粒子の塗布膜の、共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、比較例として、平均粒径50nmのシリコンナノ粒子とゲルマニウム樹脂との組成物膜の共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物前駆体膜の焼成やレーザー照射によって起こる、構造変化を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、レーザー照射を空気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、レーザー照射をAr雰囲気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、比較例として、ゲルマニウム樹脂を添加していないシリコン微粒子の塗布膜を用いて、レーザー照射をAr雰囲気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、比較例として、平均粒径50nmのシリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、レーザー照射をAr雰囲気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、レーザー照射をAr雰囲気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、空気下でのレーザー照射膜パターンの顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの、(a)図6中のIの点、および、(b)図6中のIIの点における顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの、(a)図9中のIの点、(b)図9中のIIの点、および、(c)図9中のIIIの点における顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図13】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、(a)焼成前膜、(b)真空下で250℃電気炉焼成した膜、(c)真空下で900℃電気炉焼成した膜の顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図14】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、(a)Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの共焦点顕微鏡写真、(b)その膜パターンの電流−電圧特性を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの、パルス光照射下での電流−電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子と、分散媒かつ融着剤としてのゲルマニウム樹脂との組成物を、固体基板上に塗布製膜し、その膜を前駆体として、加熱やレーザー照射によって、半導体膜形成および結晶性半導体膜とそれらのパターン形成を行うことを骨子とする。
【0060】
本発明に用いるゲルマニウム樹脂は、四塩化ゲルマニウムを原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型の樹脂であることが好ましいが、加熱により無機ゲルマニウムに変換されるものであれば、それに限定されるものではない。
【0061】
四塩化ゲルマニウムを原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型の樹脂において、有機置換基の例としては、直鎖飽和脂肪族基、分岐飽和脂肪族基、直鎖不飽和脂肪族基、分岐不飽和脂肪族基、あるいは芳香族基が、挙げられる。合成されるゲルマニウム樹脂の性状は、有機置換基の影響を受け、炭素数が4以上の直鎖飽和脂肪族基の場合には液体状であり、鎖長が伸びるほど、粘性が下がる傾向がある。分岐飽和脂肪族基では、例えば、tert−ブチル基の場合には、室温でガラス状の固体となる。シリコン微粒子の分散媒としては、直鎖飽和脂肪族基を有し、高粘性液体状のものが、前駆体膜の製膜性のうえで好適であるが、それは、シリコン微粒子とゲルマニウム樹脂との組成比によっても異なり、それに限定されるものではない。
【0062】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の調製は、空気下あるいは不活性ガス雰囲気下で、ゲルマニウム樹脂と多結晶または単結晶のシリコンとを混合し、粉砕することによって行われる。粉砕においては、ゲルマニウム樹脂と粉砕によって形成されるシリコン微粒子との混合を効果的に行うために、脂肪族系あるいは芳香族系の溶媒を有機分散媒として添加することができる。
【0063】
本発明では、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子の原料としては、多結晶または単結晶のシリコンで、未ドープあるいはドープされたものを用いることができる。これは、Siナノ粒子の場合のような特殊な装置を必要としないことから、製造コスト低減において効果的である。また、従来の結晶シリコン太陽電池の製造方法との比較においても、単結晶シリコンインゴットの引き上げや、Siウエハー加工にかかわるコストを削減でき、さらに、薄膜化によって、省資源で太陽電池を形成できるという、利点がある。
【0064】
本発明において、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の製膜を行う手法としては、スピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、ディップコーティング法等を用いることができるが、それらに限定されるものではない。
【0065】
本発明でレーザー照射に用い得るレーザー光源は、照射する波長やパワー密度を考慮して適宜選択される。具体例として、連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザーで、457、473、488、532、561、660、あるいは1064nmの発振波長を有するもの、パルス発振レーザーで、266、355、532、あるいは1064nmの発振波長を有するもの、325および442nmの発振波長を有するHe−Cdレーザー、488および514.5nmの発振波長を有するArイオンレーザー、800nmの発振波長を有するチタンサファイアレーザー、408、442、473、638、658、780、あるいは830nmの発振波長を有する半導体レーザー、193、248、308、あるいは353nmに発振波長を有するエキシマレーザー、紫外域から赤外域に発振波長を有するファイバーレーザー等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0066】
本発明の実施例においては、発振波長が532nmのCW DPSSレーザーを用いているが、パワーが1Wという小型のものであることから、高倍率の対物レンズで、スポットサイズが数ミクロンとなるまで集光した後、前駆体膜に合焦し、レーザー光を前駆体膜上で走査することによって、レーザー照射およびパターン形成を行っている。大面積の太陽電池等を目指して、工業的な生産性を上げる観点からは、これまでにシリコン半導体材料のレーザーアニーリングに実用化されているエキシマレーザー等のパルス発振レーザーや、高出力なファイバーレーザーを適用することが好ましい。
【0067】
本発明においては、レーザー照射において、レーザー未照射の溶媒分散性を利用して、結晶性半導体膜の微細パターン形成を行うことができる。レーザー未照射の除去は、溶媒洗浄や、除去しづらい場合には、数秒の超音波照射が効果的である。
【0068】
実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の調製例や実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた実験装置は以下の通りである。
[光学顕微鏡]
・機種:オリンパス社 BX51
・対物レンズ:SLMPlan20x(N.A.0.35)、SLMPlan50x(N.A.0.45)、UMMPlan100x(N.A.0.95)
[CCDカメラ]
・機種:Watec社、WAT231S2
[xyz自動ステージ]
・機種:シグマ光機社、TSDM60−20、SPSD60−10ZF
[ステージコントローラー]
・機種:シグマ光機社、SHOT−204MS
[電磁シャッター]
・機種:シグマ光機社、SSH−R
[シャッターコントローラー]
・機種:シグマ光機社、SSH−CB4
[連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザー光源]
・機種2:CNI社、MGL−H−532−1W(532nm、1.18W、TEM00モード)
[顕微ラマン分光装置]
・レーザー光源:連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザー、Laser Quantum社、Ventus532(532nm、500mW)
・分光器:ORIEL社、77385
・冷却型CCDカメラ:Apogee社、AP260EP
[3次元(3D)共焦点レーザー顕微鏡]
・機種:キーエンス社、カラー3Dレーザー顕微鏡 VK−9700
[光源]
・機種:水銀キセノンランプ(浜松ホトニクス株式会社製 C4263)
[直流電圧・電流源/モニタ]
・機種:ADCMT社、6241A
【0069】
<ゲルマニウム樹脂の合成例1>
tert-ブチル基を有するゲルマニウム樹脂の合成例を示す。
四塩化ゲルマニウム(6.83g)を、脱水テトラヒドロフラン(80ml)中でアルゴン雰囲気下で攪拌しながらマグネシウム(6.22g)を添加し、10℃で1時間攪拌しながら反応させた。これによって、四塩化ゲルマニウムのGrignard反応によって、数ナノメートルサイズのゲルマニウムクラスターが形成される。溶媒のテトラヒドロフラン中に分散した状態のゲルマニウムナノクラスターは、表面に未反応の塩素基を有しており、この塩素基を有機置換基で置換することによって、汎用の有機溶媒に可溶で、空気中で安定に取り扱うことのできる、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂を合成した。その合成は、以下の手順で行った。まず、tert-ブチルブロマイド(4.38g)を添加して10℃で1時間攪拌しながら反応させ、再度tert-ブチルブロマイド(4.38g)を添加して10℃で1時間、50℃で2時間攪拌しながら反応させた。さらにその後、室温で一昼夜攪拌しながら反応させた。反応液をメタノール中に沈殿させ、ろ過分離した。再沈殿により重合体を得た。さらに、重合体をトルエンに溶解し、不溶分を分離除去した後、トルエンの減圧除去により、精製重合体を得た。この重合体の分子量をGPCにより測定したところ、重量平均分子量Mw=1800、分子量分布Mw/Mn=1.63であった。元素分析から、Ge一原子あたりの有機置換基の数は、0.8個であった。この樹脂は、室温で黒色のガラス状の固体粉末であった。
【0070】
<ゲルマニウム樹脂の合成例2>
n-ブチル基を有するゲルマニウム樹脂の合成例を示す。
四塩化ゲルマニウム(25g)を、脱水テトラヒドロフラン(200ml)中でアルゴン雰囲気下で攪拌しながらマグネシウム(8.5g)を添加し、10℃で1時間攪拌しながら反応させた。これによって、四塩化ゲルマニウムのGrignard反応によって、数ナノメートルサイズのゲルマニウムクラスターが形成される。溶媒のテトラヒドロフラン中に分散した状態のゲルマニウムナノクラスターは、表面に未反応の塩素基を有しており、この塩素基を有機置換基で置換することによって、汎用の有機溶媒に可溶で、空気中で安定に取り扱うことのできる、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂を合成した。その合成は、以下の手順で行った。まず、n-ブチルブロマイド(16g)を添加して10℃で1時間攪拌しながら反応させ、再度n-ブチルブロマイド(16g)を添加して10℃で1時間、50℃で2時間攪拌しながら反応させた。さらにその後、室温で一昼夜攪拌しながら反応させた。反応液をメタノール中に沈殿させ、ろ過分離した。再沈殿により重合体を得た。さらに、重合体をトルエンに溶解し、不溶分を分離除去した後、トルエンの減圧除去により、精製重合体を得た。この重合体の分子量をGPCにより測定したところ、重量平均分子量Mw=3600、分子量分布Mw/Mn=1.30であった。元素分析から、Ge一原子あたりの有機置換基の数は、1.2個であった。この樹脂は、室温で黒色の粘性の高い液体状であった。この重合体を、シリコン微粒子分散用のゲルマニウム樹脂として、以下の実験に使用した。
【0071】
図1は、本発明の実施の形態のシリコン微粒子を原料とした半導体膜製造法および半導体膜パターンの、レーザー照射を行うための、レーザー光照射・走査装置および光学系の模式図である。レーザー光源としては、連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザーを用いた。光学顕微鏡11に導入したレーザー光を、対物レンズ12で集光し、前駆体塗布膜を形成した基板15上に合焦するよう照射する。基板15上のレーザー光の照射位置を、コンピューター16とステージコントローラー21とで制御するxyzステージ17で走査することによって、半導体膜パターンの描画を行う。レーザー光のオンーオフは、コンピューター16とシャッターコントローラー20とで制御する電磁シャッター18で行う。光学顕微鏡11に接続したCCDカメラ19によって、基板15上に形成した半導体膜パターンを観察した。対物レンズカバー13へ、ガス導入管14から不活性ガスやArガス希釈水素ガスを導入することによって、簡易に、レーザー光照射雰囲気を制御することができる。
【実施例1】
【0072】
n型シリコン結晶(<100>、ドーパント:Ph、抵抗率2Ωcm)0.4gを、希フッ酸水溶液(5%)で処理して、表面の酸化物を除去後、分散媒としてのゲルマニウム樹脂0.1g(シリコンに対して20wt%)、有機分散媒としてのトルエン溶媒とともに、乳鉢で粉砕、混合し、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物を、空気下において調製した。ゲルマニウム樹脂が無機化したとき、20wt%のゲルマニウム樹脂を含む組成物の場合、SiとGeの重量比は約8:1であり、SiとGeの元素比では20:1となる。ゲルマニウム樹脂の組成比を少なくすることによって、得られるシリコン膜の特性変化を小さくすることができる。
【0073】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のトルエン分散液を、基体としてガラス基板を用い、その上に滴下し、ドクターブレード法によって、空気下において、前駆体膜の製膜を行った。シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物に対する、有機分散媒としてのトルエン量は、ドクターブレード法によって形成する膜の厚さによって、適宜調製した。シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜は、溶媒のトルエンを乾燥除去後、加熱処理およびレーザー照射用の前駆体膜として用いた。
【0074】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のトルエン分散液から作製した前駆体膜の比較試料として、トルエン分散媒とともにn型シリコンを乳鉢で粉砕して、基体としてガラス基板を用い、その上に滴下し、乾燥することによって、ゲルマニウム樹脂を含まない塗布膜の作製を行った。この塗布膜は、シリコン微粒子を被覆し粘着する樹脂が存在しないため、塗布膜基板への少しの衝撃で、容易に剥離してしまうものであった。
【0075】
図2(a)および(b)に、それぞれシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜、およびシリコン微粒子の塗布膜の共焦点レーザー顕微鏡写真を示す。図2(b)に示すシリコン微粒子の塗布膜の写真から、数μmから十数μmまでの大きさの分布を有するマイクロメートルのサイズのシリコン微粒子が、上記の粉砕法によって形成されていることが示された。これに対して、図2(a)に示すシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の写真においては、図2(b)で見られる10μm前後の大きさのシリコン微粒子が観察されなかった。これは、シリコン微粒子の表面を、黒色で粘性の高い液体状であるゲルマニウム樹脂が均一に被覆しているためである。
【0076】
[比較例1]
比較試料として、平均粒径50nmのシリコンナノパウダー(Aldrich、レーザー熱分解により製造された結晶性のシリコンナノ粒子)とゲルマニウム樹脂との組成物膜の形成を行った。Siナノ粒子0.4gを、分散媒としてのゲルマニウム樹脂0.1g(シリコンに対して20wt%)、有機分散媒としてのトルエン溶媒とともに、Ar雰囲気下で混合してサンプル管に封入し、超音波照射により、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物を調製した。シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物のトルエン溶液を、基体としてガラス基板を用い、その上に滴下し、ドクターブレード法によって、製膜を行った。図3は、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の共焦点レーザー顕微鏡写真である。写真に示されるように、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜では、トルエンの揮発とともに、膜に亀裂が生じることが観察された。これは、Siに対して、20wt%のゲルマニウム樹脂では、シリコンナノ粒子の表面を十分に被覆して、シリコンナノ粒子間に粘着性を付与することができないためである。
【0077】
そこで、Siに対して200wt%のゲルマニウム樹脂を添加した組成物を調製して、同様な膜形成と共焦点レーザー顕微鏡観察とを行ったが、やはり、塗布膜に亀裂の発生が観察された。これらの結果から、マイクロメートルのサイズのシリコン微粒子に比べて、シリコンナノ粒子は、その表面積が非常に大きく、亀裂のない均質な塗布膜を得るためには、多量の樹脂の添加が必要になることが示された。シリコンナノ粒子において、添加する樹脂が多量に必要であることは、焼成後に均質なシリコン半導体膜を得るためには、好ましくない。
【0078】
図4は、本発明の実施の形態の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を前駆体として、その焼成やレーザー光照射によって、ゲルマニウム樹脂がシリコン微粒子の融着剤として作用し、シリコンの連続相からなる膜が形成される過程の模式図である。図4Aの、焼成やレーザー光照射前の状態において、ゲルマニウム樹脂はSi微粒子を空隙なく被覆し、Si微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を形成している。これは、実施例1の図2(a)の共焦点レーザー顕微鏡写真によって示される。ゲルマニウム樹脂が存在しない場合や、平均粒径が50nmのシリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物の場合には、それぞれ、図2(b)および図3の共焦点レーザー顕微鏡写真で示されるように、空隙のある膜構造となってしまい、以下に述べる比較例中で示すように、レーザー照射後の膜は、不均一な構造のものとなってしまった。図4Bは、SiGe合金化が起こらないような、加熱温度が比較的低い場合に形成される構造である。これは、以下の実施例中では、例えば、実施例8の電気炉を用いた250℃加熱の場合に該当する。この状態では、ゲルマニウム樹脂は無機ゲルマニウムに変換されていおり、この膜は溶媒洗浄により除去されない。これに対して、図4Aの状態では、ゲルマニウム樹脂は溶媒に可溶性であり、その組成物膜は溶媒洗浄によって除去される。このような溶媒に対する除去性の違いを利用することによって、本発明の実施形態の半導体膜のパターン形成を、レーザー照射における、レーザー光の照射、未照射によって、達成している。図4Cは、SiGe合金化が起こる温度で形成される構造であり、シリコン微粒子表面層のシリコンと無機ゲルマニウムとの間での、SiGe合金の形成によって、シリコン微粒子間は結着される。図4Dに示すように、さらなるSiGe合金形成の進行によってシリコン微粒子間で融着が起こり、シリコン連続相からなる膜が形成される。以下の実施例から、図4で模式的に示すような、ゲルマニウム樹脂によるシリコン微粒子の融着現象が起こっていることを示す。
【実施例2】
【0079】
実施例1で作製した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、図1に示す装置によってレーザー照射を、空気下で行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x20(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:10μm、走査速度:4000μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒を用いて、未照射部の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の除去を行った。
【0080】
図5は、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図5(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図5(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図5(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射膜の立体像が、示されている。図5(c)の断面図から、膜厚は約15μmであるとがわかる。図5(b)および(c)から、空気下でのレーザー照射膜では、膜表面の荒れが生じることが観察された。空気下でのレーザー照射においては、酸素により、シリコン微粒子を被覆するゲルマニウム樹脂の酸化反応を伴う熱分解が急激に起こり、それが膜表面の荒れを引き起こした。
【実施例3】
【0081】
そこで、図1に示す装置において、対物レンズカバー13に、ガス導入管14からArガスを導入することによって、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の、不活性雰囲気下でのレーザー照射を行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x50(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:5μm、走査速度:4000μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒を用いて、未照射部の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の除去を行った。
【0082】
図6は、Ar雰囲気下でレーザー照射した膜の、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図6(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図6(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図6(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射膜の立体像が、示されている。図6(c)の断面図から、膜厚は約14μmであるとがわかる。図6(a)で示されるように、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜の表面は、空気下でのそれと比較して、荒れがなく平滑なものとなった。Iの部位には、シリコン微粒子は観察されず、完全に溶融・結着してシリコンの連続相となっていることが、図6(a)および(b)から示される。この状態は、図4Dで模式的に示されるものである。この結果は、ゲルマニウム樹脂が、シリコン微粒子の融着剤として効果的に作用することを示す。
【0083】
図6(a)において、Iで示される部位は、レーザー光照射部であり、IIで示される部位は、レーザー未照射部であるものの、トルエン溶媒処理によっても除去されずに残存した部分である。IとIIの境界に見える白色のラインが、レーザー光照射の最下端となる。除去されずに残存するのは、レーザー照射部からの伝熱により焼成が起こったためである。IIの状態は、図4Bで模式的に示されるものである。
【0084】
[比較例2]
レーザー照射膜の比較例として、実施例1で作製したゲルマニウム樹脂を添加していないシリコン微粒子の塗布膜のレーザー照射を、図1に示す装置によって、Ar雰囲気下で行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x50(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:5μm、走査速度:4000μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒中、超音波を数秒照射することによって、未照射部の、シリコン微粒子の除去を行った。図7は、レーザー照射した膜の、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図7(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図7(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図7(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコン微粒子のレーザー照射膜の立体像が、示されている。図7に示されるように、ゲルマニウム樹脂が存在しない場合には、非常に不均一な構造の膜となり、数十μmの大きさの粒塊と露出したガラス基板表面が観察された。これは、レーザー照射によって溶融したシリコン微粒子が、前駆体膜においてより空隙の少ないシリコン微粒子との間で表面張力によって凝集し、不均一な粒塊状の構造を作るためである。これに対して、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の場合には、図4および図5に示されるように、シリコン微粒子の溶融によって、均質な連続相が形成されている。これは、図4で模式的に示されるように、シリコン微粒子間に存在するゲルマニウム樹脂が、レーザー照射によって、熱分解を伴い無機ゲルマニウム化し、シリコン微粒子とSiGe合金を形成し、それが融着剤として働き、シリコンの連続相を形成するためである。
【0085】
[比較例3]
レーザー照射膜の比較例として、比較例1で作製したシリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜のレーザー照射を、図1に示す装置によって、Ar雰囲気下で行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x50(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:5μm、走査速度:4000μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒中、未照射部の、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の除去を行った。図8は、レーザー照射した膜の、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図8(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図8(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図8(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射膜の立体像が、示されている。図8に示されるように、シリコンナノ粒子の場合には、ゲルマニウム樹脂が存在しても、非常に不均一な構造の膜となり、数十μmの大きさの粒塊と露出したガラス基板表面が観察された。これは、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子に比べて、シリコンナノ粒子の表面積が非常に大きく、Siに対して分散媒として用いた、20wt%のゲルマニウム樹脂では、シリコンナノ粒子の表面を被覆して、シリコンナノ粒子間に結着性を付与することができないためである。このため、レーザー照射によって溶融したシリコン微粒子が、表面張力によって凝集し、不均一な粒塊状の構造が形成された。
【実施例4】
【0086】
実施例1で作製した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、図1に示す装置によってレーザー照射を、Ar雰囲気下で行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x20(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:100μm、走査速度:400μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒を用いて、未照射部の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の除去を行った。
【0087】
図9は、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図9(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図9(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図9(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射膜の立体像が、示されている。
【0088】
図9(a)において、Iで示される部位は、レーザー光照射部であり、IIおよびIIIで示される部位は、レーザー未照射部であるものの、トルエン溶媒処理によっても除去されずに残存した部分である。レーザー未照射であるにも関わらず、IIおよびIIIの部分が除去されずに残存するのは、レーザー照射部からの伝熱による焼成が起こったためである。以下の実施例7での顕微ラマンスペクトルによる構造解析によって実証されるが、IIの部位は、図4Cで模式的に示される構造に対応し、IIIの部位は図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【実施例5】
【0089】
図10は、実施例2で作成した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、空気下での、レーザー照射膜パターンの顕微ラマンスペクトルである。520cm−1のシャープなバンドは、多結晶シリコン(pc−Si)に帰属されるものである。
【実施例6】
【0090】
図11は、実施例2で作成した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下での、レーザー照射膜パターンの顕微ラマンスペクトルである。図11(a)および(b)は、それぞれ、図6におけるIおよびIIの部位における、顕微ラマンスペクトルである。図11(a)において、520cm−1のシャープなバンドは、多結晶シリコン(pcーSi)に帰属されるものである。それに加えて470cm−1付近にアモルファスシリコン(a−Si)に、400cm−1付近に多結晶SiGe合金(pc−SiGe)に帰属されるラマンバンドが、わずかに現れている。この状態は、図4Dで模式的に示される構造に対応する。a−Siのバンドの形成は、SiGe合金形成に伴って、シリコン微粒子の溶融が起こることを示すものである。これに対して、レーザー未照射部であるものの、レーザー照射部からの伝熱により焼成が起こるIIの部位の顕微ラマンスペクトルの図11(b)では、304cm−1に多結晶ゲルマニウム(pc−Ge)に帰属されるバンドが顕著に観測された。しかし、400cm−1付近のpc−SiGeのバンドは、観測されなかった。それは、走査速度4000μm/sでのレーザー照射条件下での、未照射部への伝熱による焼成では、SiGe合金を形成するのに十分な加熱が起こらないためである。この状態は、図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【0091】
図11(a)の、レーザー照射部の顕微ラマンスペクトルにおいて、pc−Geのバンドが観測されないのは、SiGe合金の形成を経て、ゲルマニウムがシリコンのバルク層にまで拡散していることを示すものである。ゲルマニウム樹脂が無機化した場合、20wt%のゲルマニウム樹脂を含む組成物の場合、SiとGeの重量比は約8:1であり、SiとGeの元素比では20:1となる。シリコン微粒子の表面から内部まで均一にSiGe合金が形成された場合には、SiGe合金のSiに対するラマンバンドの強度比は、SiとGeの元素比から考えて、かなり小さなものになる。これは、図11(a)のラマンスペクトルの結果と合致する。実施例3および6の結果からも、ゲルマニウム樹脂は、シリコン微粒子の融着剤として作用し、シリコン微粒子からシリコンの連続相からなる膜を形成するのに効果的であり、添加する量を少なくすることによって、ゲルマニウム添加の影響の小さな、シリコン膜を形成することができることが示唆される。
【0092】
これに対して、図11(b)の、レーザー照射部からの伝熱により焼成が起こったIIの部位においては、ゲルマニウムが、完全には溶融しきれていないシリコン微粒子表面に偏在し、強度の高いpc−Geのバンドが観測された。この状態は、図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【実施例7】
【0093】
図12は、実施例4で作成した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下での、レーザー照射膜パターンの顕微ラマンスペクトルである。図12(a)、(b)および(c)は、それぞれ、図9におけるI、II、およびIIIの部位における、顕微ラマンスペクトルである。図12(a)において、520cm−1のシャープなバンドは、多結晶シリコン(pcーSi)に帰属されるものである。それに加えて470cm−1付近にアモルファスシリコン(a−Si)に、400cm−1付近に多結晶SiGe合金(pc−SiGe)に帰属されるラマンバンドが、わずかに現れている。この状態は、図4Dで模式的に示される構造に対応する。
【0094】
これに対して、レーザー未照射部であるものの、レーザー照射部からの伝熱により焼成が起こるIIの部位の顕微ラマンスペクトルの図12(b)では、406cm−1にpc−SiGeに、304cm−1にpc−Geに帰属されるバンドが顕著に観測された。この場合のレーザー光の走査速度は、400μm/sであり、実施例6の場合の4000μm/sより一桁低く、そのため伝熱による加熱が起こりやすい条件となっている。IIの部位において、Iの部位に比べて、pc−SiGeのバンドが顕著に観測されるのは、IIの部位の加熱温度がIの部位よりも低く、ゲルマニウムのシリコンのバルク層への拡散が起こらず、Si層表面にpc−SiGeが偏在するためである。この状態は、図4Cで模式的に示される構造に対応する。
【0095】
レーザー照射部位Iから、さらに離れたIIIの部位の顕微ラマンスペクトルの図12(c)においては、pc−SiGeのバンドが消失している。これは、レーザー照射部から離れたIIIの部位では、伝熱が不十分で、SiGe合金を形成するのに十分な加熱が起こらないためである。この状態は、図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【実施例8】
【0096】
図13(a)、(b)および(c)には、実施例1で作成したシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、焼成前膜、真空下で250℃電気炉焼成した膜、および真空下で900℃電気炉焼成した膜の顕微ラマンスペクトルを、それぞれ示した。焼成前膜では現れていないpc−Geに帰属されるバンドが、250℃焼成膜では現れている。この状態は、図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【0097】
900℃焼成膜では、300cm−1付近のpc−Ge、400cm−1付近のpc−SiGeのバンドに加えて、490cm−1付近に、a−Siに帰属されるバンドの肩が現れている。シリコンの融点が1410℃であることから考えて、このようなa−Siの生成は、SiGe合金が形成されることに伴い起こる現象である。ゲルマニウムの融点は、942℃であるが、ゲルマニウムの融点付近温度での加熱によって、ゲルマニウム樹脂で被覆されたシリコン微粒子の表面層のSiが、SiGe合金形成を伴って溶融することが示唆される。すなわち、本発明で、分散媒として用いたゲルマニウム樹脂は、SiGe合金形成を伴ってSiの溶融を促進し、Siの融点より低温でのシリコン微粒子の溶融および結着を可能とする、シリコン微粒子の融着剤として作用する物質である。
【実施例9】
【0098】
図14(a)は、実施例3で作成した、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの共焦点レーザー顕微鏡写真であり、その膜パターンの電流−電圧特性を図14(b)に示した。膜パターンへInGa合金を塗布し、オーミック接触を形成して、電流−電圧特性の測定を行った。電流−電圧特性の傾きからの抵抗値と、測定サンプル形状から、抵抗率は、867Ωcmと算出された。用いたバルクのn−Si単結晶の抵抗率は、2Ωcmであるので、粉砕による微粒子化、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜形成、およびレーザー照射による膜パターン形成によって、抵抗率が増加したことになる。これは、今回の測定試料は、厚さが14μmの膜であり、バルクの単結晶シリコン基板に比べて、膜表面の効果が顕著に影響してくることが原因している。レーザー照射における雰囲気の効果、たとえば、Arガス希釈水素ガス等の使用による、半導体膜表面のパッシベーションは、電気物性向上のための手法の一つである。
【実施例10】
【0099】
図15は、実施例3で作成した膜パターンのパルス光照射下での電流−電圧特性である。膜パターンへInGa合金を塗布し、オーミック接触を形成して、電流−電圧特性の測定を行った。水銀キセノンランプからの光(62mW/cm2)を電磁シャッターの開閉によってパルス化し、5秒間隔のオン−オフ照射下のI−V特性の測定を行った。パルス光照射により、良好なレスポンスで光電流が観測された。これにより、半導体材料に特有の、光導電性を確認することができた。
【符号の説明】
【0100】
11 光学顕微鏡
12 対物レンズ
13 対物レンズカバー
14 ガス導入管
15 基板
16 コンピューター
17 xyzステージ
18 電磁シャッター
19 CCDカメラ
20 シャッターコントローラー
21 ステージコントローラー
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池や半導体として使用することが可能なシリコン−ゲルマニウム膜に関し、特に高価な真空装置やスパッタ装置を使用せずに、空気中で製膜が可能で、製造工程のコストが安価なシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー環境問題の顕在化から、現在太陽電池の普及が希求されているが、それに伴い結晶系の太陽電池においては、シリコン基板材料の需要供給の関係からの価格や資源の問題、また、薄膜系の太陽電池においては、気相のガスからの薄膜形成に由来する製膜速度や装置コストの問題が起こっている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
太陽電池の普及においては、低コスト化が課題の一つとなっている。そのため、装置コストを大幅に低減でき、また大面積化が可能である塗布型の太陽電池用の材料および製造プロセスが求められている(例えば、非特許文献2参照)。シリコン系以外の太陽電池においては、CIGS系の太陽電池が既に実用化されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
しかし、資源量、低毒性、環境負荷を考えた場合、シリコン系の太陽電池が塗布法によって低コストで製造できることの意義は大きい。このため、国内外で塗布型のシリコン系太陽電池を目指した、材料および製造法に関する研究開発が行われるようになっている。
【0005】
特に米国では、シリコンのナノ粒子を用いたシリコンインクによる塗布型シリコン太陽電池の開発の進展が著しい。米国Innovalight社は、シリコンナノ粒子からなるシリコンインクを使って塗布型太陽電池を作成し、19%の高変換効率を達成しており(例えば、非特許文献4参照)、関連材料や製造方法に関する多くの技術を開発している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
米国Nnogram社も、シリコンのナノ粒子インクを用いた、印刷法による半導体用途のための薄膜の製造方法に関する技術開発を行っている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
我が国においても、シリコン微粒子を用いた塗布型のシリコン半導体膜および太陽電池の製造を目指した技術開発がおこなわれてきたが(例えば、特許文献3、4参照)、シリコン系塗布型太陽電池の実現には至っていない。
【0008】
塗布法による、シリコン系半導体膜の形成法は、ナノメートルサイズのシリコン微粒子やその表面改質体、それらと分散媒や溶媒を含む組成物に基づくものである。これに対して本発明者は、それらに先行して、有機置換三塩化ケイ素や四塩化ケイ素を原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のSi−Si結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のシリコン樹脂(例えば、特許文献6、非特許文献5、6、7参照)、および、四塩化ゲルマニウムを原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂(例えば、特許文献7、非特許文献8、9参照)の合成、および、それらを前駆体膜として用いた加熱やレーザー照射による、熱分解による有機側鎖の脱離を伴う、シリコンおよびゲルマニウム膜形成に関する技術を報告している(例えば、特許文献5、7、非特許文献参照6、9)。
【0009】
Si−Si結合からなる樹脂やGe−Ge結合からなる樹脂を前駆体として用いた半導体膜製造方法に関しては、本発明者が先行して報告している事と同様な技術あるいは概念の報告が、後年に、他の研究グループからも行われている(例えば、特許文献8参照)。
【0010】
これらの技術においては、ハロゲン化反応、および、LiAlH4等の水素化物の源を用いた還元反応によって、有機置換基を有するポリマーを、SiH2やGeH2構造からなるペルヒドロシランおよびペルヒドロゲルマンに変換し、それら、および、それらポリマーの混合による組成物を前駆体として用いた、加熱やレーザー照射によるSiやGe等の膜形成が、特徴とされている。有機置換基を有さずSiH2やGeH2構造からなるペルヒドロシランやペルヒドロゲルマンを用いる点においては、先に報告された技術(例えば、特許文献3、非特許文献10参照)と同様な特徴のものとなっている。
【0011】
それらの製膜工程は、SiH2構造を有する化合物の、非常に高い空気中の酸素との反応性、そのための発火性の危険によって、不活性ガス雰囲気下で行う必要があった。
【0012】
塗布型の製膜工程であっても、SiH2構造の、空気中での酸素や水との高い反応性を避けるために、全ての工程で、酸素と水とを厳密に除去して行わなければならないのは、シランガスを原料とする既存の気相法による製膜工程と、なんら変わりのない製造方法であると指摘されている(例えば、非特許文献参照11)。塗布法であっても、酸素と反応性の非常に高いSiH2基を有する化合物を扱うことは、装置コストやプロセスコストを下げる観点からは、欠点となる。これは、GeH2構造を有する、ポリゲルマンに関しても同様である。
【0013】
太陽電池の普及においては、低コスト化の他に、変換効率の向上も課題となる。シリコン系太陽電池の高効率化においては、シリコンよりも低エネルギー側の赤外域に吸収を有するゲルマニウム、およびシリコンとゲルマニウムとの合金であるSiGeを用いたタンデム型の太陽電池の開発が、シリコンより効率よく光エネルギーを吸収して電気エネルギーに高効率で変換することを目的として行われている(例えば、非特許文献12参照)。
【0014】
Si1−xGexは、Geの組成xによって、バンドギャップをSiからGeに至るまで、連続的に制御できる、全率固溶の混晶半導体である。固体状態でも完全に固溶しあって中間相を形成しないことから、バンドエンジニアリングが可能な混晶半導体材料として、有用な物質となっている(例えば、非特許文献13、14参照)。すなわち、シリコン半導体膜中にゲルマニウムが存在することは、シリコン半導体膜の特性を損なわないばかりか、太陽電池用材料としては、有利に働くものである。
【0015】
これに対して、シリコンナノ粒子表面とシリコンアルコシサイド基との化学反応によって、シリコン微粒子表面にSi−O−Siの共有結合を形成し、分散性や製膜性を得る技術(例えば、特許文献2、4参照)や、さらに、反応性のエポキシ基を導入し、これとアミノ基を有する化合物等の架橋剤との組成物を調製し、その硬化反応によって製膜性を得る技術(例えば、特許文献4参照)が報告されているが、これらの技術では、Si半導体膜の電気物性に顕著な影響を与えるSi−O−Si結合や絶縁性の樹脂がシリコン微粒子表面に形成される。これらの技術によって形成されたシリコン膜の電気特性についての報告は、これまでなされていない。
【0016】
塗布型の工程によるSiGe合金の形成に関しては、本発明者が先行して技術報告を行っている(例えば、特許文献7、非特許文献8参照)。主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合からなり、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂を、シリコン結晶基板に塗布し、電気炉を用いて真空下700℃以上で加熱処理することによって、SiGe合金薄膜を、シリコン結晶基板上に形成できることを報告している。
【0017】
塗布型のSiGe合金膜の形成に関しては、500nmを超えない平均粒子サイズのSiおよびGeナノ粒子を用いる技術(例えば、特許文献2参照)や、線状及び架橋済みポリシランおよびポリゲルマンの組成物を用いる技術(例えば、特許文献8参照)が、後年、報告されているが、それらの手法で形成される半導体膜の構造や物性に関しては不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第7521340号明細書
【特許文献2】特表2010−514585号公報
【特許文献3】特開2004−087546号公報
【特許文献4】特開2007−173516号公報
【特許文献5】特開平08−017726号公報
【特許文献6】特開平11−14841号公報
【特許文献7】特開2002−110573号公報
【特許文献8】特表2009−511670号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】寺川朗、「プラズマCVD法による薄膜シリコン太陽電池の工業化に向けて」、J. Plasma Fusion Res.、2010年、Vol.86、No.1、p.17-20
【非特許文献2】阪井淳、河野謙司、「塗布形成法による積層型有機薄膜太陽電池」、パナソニック電工技報、Vol.57、No.1、p.46-50
【非特許文献3】和田隆博監修、「化合物薄膜太陽電池の最新技術」、シーエムシー、2007年6月
【非特許文献4】“InnovalightEstablishes New Record with Silicon Ink, Solar Cells, Solar cells achieve 19percent conversion efficiency of sunlight to electricity”, 2010年4月27日, INNOVALIGHT PRESS RELEASE、インターネット〈URL:http://www.innovalight.com/press_releases/pressrelease_04272010.htm〉
【非特許文献5】A.Watanabe and M. Matsuda, “Electrical and Optical Properties of Heat-treatedSilicon Network Polymers", Chem.Lett., 1991年, p.1101-1104
【非特許文献6】A. Watanabe, Y. Nagai, M.Matsuda, M. Suezawa, and K. Sumino, “Amorphous Silicon Structure ofHeat-Treated Poly(n-propylsilyne) Studied by Far-Infrared Spectroscopy", Chem. Phys. Lett., 1993年, 207, p.132-136
【非特許文献7】A. Watanabe, M. Fujitsuka, O.Ito, and T. Miwa, “Soluble Three-Dimensional Polysilanes with OrganosiliconNanocluster Structure", Jpn. J.Appl. Phys., 1997年, 36, p.L1265-L1267
【非特許文献8】A. Watanabe, M. Unno, F. Hojo,and T. Miwa, “Silicon-Germanium Alloys Prepared by the Heat Treatment ofSilicon Substrate Spin-Coated with Organo-Soluble Germanium Cluster", Matterials Letters, 2001年, 47, p.89-94
【非特許文献9】A. Watanabe, M. Unno, F. Hojo, T.Miwa, “Spatially Selective Formation of Microcrystalline Germanium byLaser-Induced Pyrolysis of Organogermanium nanocluster Film", Chem. Lett., 2002年, p.662-663
【非特許文献10】T. Shimoda, Y. Matsuki, M.Furusawa, T. Aoki, I. Yudasaka, H. Tanaka, H. Iwasawa, D. Wang, M. Miyasaka,and Y. a Takeuchi, “Solution-processedsilicon films and transistors", 2006年, Nature, 440(6), p.783
【非特許文献11】L. Rosenberg, “Spray-on silicon", Nature, News & Reviews, 2006年, 440(6), p.749
【非特許文献12】野元克彦、谷口浩、三宮仁、早川尚志、「薄膜太陽電池のデバイス設計」、シャープ技報第70号、1998年4月、p.40-43
【非特許文献13】古川静二郎、雨宮好仁編著、「シリコン系ヘテロデバイス」、丸善、1991年
【非特許文献14】Takayoshi Shimura, MichihiroShimizu, Shinichiro Horiuchi, Heiji Watanabe, Kiyoshi Yasutake, and MasatakaUmeno, “Self-limiting oxidation of SiGe alloy on silicon-on-insulator wafers”, Appl.Phys. Lett. 2006年, 89, p.111923
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述のように、エネルギー環境問題に関して、シリコン系塗布型太陽電池が実現されることの意義は大きく、今後、世界的に技術開発が進展していくことが予想される。
【0021】
本発明者は、上記課題の解決を目的として、塗布型のシリコン樹脂を用いた半導体膜形成の技術開発に、長年に渡り取り組んできたが、これまでは、その実現には至っていない。これまでの研究の蓄積から、それには以下のことが原因となっていることが分かってきた。
【0022】
シリコン樹脂は、Si−Si骨格が、線状、架橋状、3次元状にかかわらず、数ナノメートルのサイズの分子となっている。これより、Siの無機微粒子と比較して、非常に大きな、重さあたりの表面積を有することになる。このため、空気等の酸化性のガスにより、容易な酸化構造の形成が起こりやすい構造となっている。SiH2構造からなる分子や重合物の場合には、さらに反応性が高く、空気中での発火性を示す。数ナノメートルサイズのSi原料を塗布法により製膜し、加熱や電磁波の照射でシリコン連続相からなる膜へ変換する場合、非常に大きな表面積を有する物質であることが、良質の半導体膜を得るうえで問題となる。そのため、上述の先行技術文献では、原料合成、製膜、および加熱やレーザー照射による半導体膜化の工程の全てが不活性ガス雰囲気下で行われている。
【0023】
空気中での原材料の取り扱いや、製膜ができない製造工程では、液相の塗布型の製膜工程であったとしても、既存のシランガスを用いたプラズマCVD法による薄膜形成法と比べて、製造コストやプロセスコスト上の利点は少なくなってしまう。
【0024】
このような、大面積の表面構造を有するシリコン材料の酸化劣化の問題は、Siナノ粒子においても同様である。重さあたりの表面積は非常に大きく、空気中での酸化劣化や発火性の危険を伴う物質である。このため、上述の先行技術文献のように、基本的には、不活性ガス雰囲気下での取り扱いが必要とされる。
【0025】
以上のことから、表面積の、より小さなシリコン粒子、すなわち、より大きな粒径を有するシリコン粒子を用いたほうが、酸化劣化の問題が少なく、空気中での取り扱いが可能な塗布型の製膜工程を実現しやすいことになる。分子や樹脂よりは、Siナノ粒子、Siナノ粒子よりは、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子のほうが、その目的には有利である。粒子径が、1ナノメートル、100ナノメートル、10マイクロメートルの粒子の総表面積の比は、10000:100:1となり、これからも、粒子径が大きいほど、酸化劣化の影響を受けにくいと考えられる。
【0026】
しかし、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いた場合には、いくつかの問題が生じてくる。一つは、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子の製膜性である。シリコン半導体膜の前駆体膜の製膜においては、シリコン微粒子を溶媒に均一に分散し、塗布する必要がある。粒子径が小さなシリコンナノ粒子のほうが良好な製膜性を得られるが、上述の先行技術文献のように、その場合でさえ、その分散性と製膜性を高めるために、シリコンナノ粒子表面とSi−O−Si結合のような共有結合を形成する、有機シリコンアルコキシド等の表面修飾剤が添加されることがある。
【0027】
マイクロメートルの大きさのシリコン微粒子を用いて塗布膜を作製する別の技術としては、環状にSiH2構造が連なった、シクペンタシランを分散媒として用いた技術が、上述の先行技術文献で報告されている。この技術の場合には、シクペンタシランが加熱やレーザー照射により無機Siに変換される特性が生かされており、シリコン微粒子から形成されたシリコン膜の導電性が確認されている。
【0028】
しかし、環状にSiH2構造が連なったシクペンタシランは、空気中で酸化性が高い、発火性の化合物であり、シクペンタシランの取り扱いや製膜工程は、不活性ガス雰囲気下で行う必要がある。これは、他の公知技術と同様、既存のシランガスを用いたプラズマCVD法による薄膜形成法と比べて、製造コストやプロセスコスト上の利点が少なくなってしまうことが課題となる。
【0029】
マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いた場合に生じてくる問題としては、さらに、シリコン微粒子の溶融、結着、それによるシリコン連続相形成に関することが挙げられる。シリコンの融点は非常に高く、1410℃である。マイクロメートルサイズのシリコン微粒子の場合にも、レーザー光照射条件によっては、シリコン微粒子の溶融は可能であるが、シリコンの連続相からなる均一膜の形成を行うのは難しい。
【0030】
以上の技術的課題をまとめると、空気下での取り扱いと製膜工程とを可能とし、均質なシリコン半導体膜を形成する課題を解決するためには、以下の要件を満たすことが必要となる。
【0031】
シリコン微粒子のサイズとしては、空気中での酸化劣化や発火性の問題のない、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いることのできる技術であること、が必要である。
【0032】
マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いた塗布型の製膜工程であっても、均質な前駆体膜形成が可能であること。そのためには、樹脂や有機分散媒としての溶媒が必要となるが、それらは、シリコン微粒子表面に化学結合してSi−O−Si構造のような絶縁性の構造を形成しないものであること。また、シリコン微粒子間に絶縁性の樹脂構造を形成しないこと。さらに、それら樹脂や溶媒は、空気中で安定に取り扱えるものであること、が必要である。
【0033】
マイクロメートルサイズのシリコン微粒子を用いた均質な前駆体膜形成においては、添加する樹脂が粘結性であり、シリコン微粒子間に粘着性を付与できることも、要件となる。このためには、ガラス転移温度が室温以下の樹脂が好ましい。
【0034】
マイクロメートルサイズのシリコン微粒子の加熱やレーザー照射によって、均一なSi系半導体膜の形成が可能であること。このためには、Si微粒子の表面を被覆する樹脂がSiの溶融を促進し、結果として、Siの融点より低温での、シリコン微粒子の溶融および結着による、シリコン連続相の形成を可能とするような物質であること、すなわち、添加する樹脂が、シリコン微粒子の融着剤となり、しかも、シリコンの半導体としての特性を妨げないこと、が必要である。
【0035】
このように、本発明は、空気中で製膜が可能で、製造工程のコストが安価なシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明によれば、側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂と、平均粒径が1μm以上のシリコン微粒子とを有機分散媒中で混合した分散液から製膜される組成物膜を、熱処理またはレーザー照射して得られることを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜が得られる。
【0037】
また、本発明によれば、四塩化ゲルマニウムを出発原料として合成した主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂が、シリコン粒子の表面を被覆するよう、前記ゲルマニウム樹脂と前記シリコン粒子とを混合粉砕し、該混合粉砕物を有機分散媒中で混合した組成物を製膜した後、熱処理またはレーザー照射することを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
【0038】
また、本発明によれば、前記ゲルマニウム樹脂は、ガラス転移温度が室温以下であることを特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
【0039】
また、本発明によれば、前記ゲルマニウム樹脂と前記シリコン微粒子とを有機分散媒中で混合した前記組成物を、空気中で基板に塗布して製膜することを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
【0040】
また、本発明によれば、前記ゲルマニウム樹脂で被覆した前記シリコン微粒子表面の前記ゲルマニウム樹脂の有機置換基を、加熱またはレーザー照射によって除去し、無機ゲルマニウムとシリコンとを合金化させることを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
【0041】
更に、本発明によれば、前記レーザー照射工程で、レーザーの熱の影響がなかった個所を有機溶媒で洗浄除去することを特徴とするシリコン-ゲルマニウム膜の製造方法が得られる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0042】
本発明において、分散媒かつシリコン微粒子の融着剤として用いるゲルマニウム樹脂は、上述の先行技術文献に示されるように、本発明者が初めてその合成を報告している物質で、四塩化ゲルマニウムを原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂である。
【0043】
このゲルマニウム樹脂は、4個のGe−Ge結合を有する4配位のGe原子、3個のGe−Ge結合を有する3配位のGe原子を有しており、線状ポリゲルマンより、無機ゲルマニウム化するための分散媒として好適である。Si−Si結合からなるシリコン樹脂やGe−Ge結合からなるゲルマニウム樹脂は、4配位や3配位の分岐構造が、直鎖や環状構造のものより、熱分解による揮発性分解生成物の発生を抑制し、焼成後の残存無機成分の収量を著しく上げることが、上述の先行技術文献で示されている。
【0044】
本発明においては、Ge−Ge骨格が有機基で置換された構造のゲルマニウム樹脂を分散媒として用いている。このようなゲルマニウム樹脂は、加熱やレーザー照射によって、残存炭素無しに、無機ゲルマニウムに変換できることを、上述の先行技術文献で本発明者が報告している。これは、Ge−C結合が、共有結合性の強いSi−C結合に比べて不安定であることに起因している。
【0045】
本研究で用いるゲルマニウム樹脂は空気中で安定に取り扱えるが、その構造のある部分が酸化したとしても、レーザー照射によって酸化ゲルマニウム構造を除去することができる。これは、Ge−O−Ge結合がSi−O−Si結合に比べて不安定であることに起因している。
【0046】
本研究で用いるゲルマニウム樹脂は、有機側鎖が、炭素数が4以上の直鎖アルキル基である場合、室温で粘性液体状であることを、特徴としている。
【0047】
上記のゲルマニウム樹脂の特性は、マイクロメートルのサイズのシリコン微粒子用の分散媒として、好適である。空気中で安定性の高いゲルマニウム樹脂を分散媒として、シリコン微粒子表面を被覆し、分散状態とすることにより、シリコン微粒子の表面の酸化劣化を抑制することができる。
【0048】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の調製は、空気下あるいは不活性ガス雰囲気下で、ゲルマニウム樹脂と多結晶または単結晶のシリコンとを混合し、粉砕することによって行われる。粉砕においては、ゲルマニウム樹脂と粉砕によって形成されるシリコン微粒子との混合を効果的に行うために、脂肪族系や芳香族系の種々の溶媒を添加することができる。
【0049】
上記の組成物の調整において用いられる、ゲルマニウム樹脂との混合時の粉砕によって形成されるシリコン微粒子の原料としては、多結晶または単結晶のシリコンで、未ドープあるいはドープされたものを用いることができるが、本発明の目的および効果を損なわないものであれば特に限定されない。
【0050】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物は、空気中で安定であり、製膜雰囲気を制御するための特殊な装置を必要とせずに製膜することができる。このような特性は、大面積の太陽電池を低コストで製造するために、好適な特性である。
【0051】
このような空気中での取り扱いが可能であるのは、マイクロメートルのサイズのシリコン微粒子が空気中で安定なゲルマニウム樹脂で被覆された構造であること、ゲルマニウム樹脂の一部の構造が酸化されたとしても、Ge−O−Ge構造がレーザー照射によって除去できることに起因している。
【0052】
シリコン微粒子の原料としては、多結晶または単結晶のシリコンで、未ドープあるいはドープされたものを用いることができることは、シリコンナノ粒子を製造するための特殊な装置を必要としないこと、シリコンナノ粒子へのドーピングプロセスを省略できることから、製造コスト低減において効果的である。また、従来の結晶シリコン太陽電池の製造方法との比較においても、単結晶シリコンインゴットの引き上げや、Siウエハー加工にかかわるコストを削減でき、さらに、薄膜化によって、省資源で太陽電池を形成できるという、利点がある。
【0053】
ゲルマニウム樹脂を分散媒かつ融着剤として用いることのさらなる特徴として、SiGe合金形成により、Si微粒子が溶融および結着する温度を下げることができる効果がある。シリコン単結晶基板上に、スピンコート製膜したゲルマニウム樹脂薄膜が、シリコンの融点の1410℃より600℃以上も低い温度で、Si基板表面の溶融を伴って、SiGe合金薄膜形成を行うことを、本発明者は先行して発見し、上述の先行技術文献において報告している。
【0054】
このような特性のゲルマニウム樹脂を、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子からなる組成物の前駆体膜において、シリコン微粒子の融点を低下させシリコン微粒子間の結着を行うような、シリコン微粒子の融着剤として用いることによって、塗布型シリコン半導体膜形成における課題を解決できる、という着想に至った。
【0055】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射においては、ゲルマニウム樹脂の無機ゲルマニウム化、シリコン微粒子の溶融、SiGe合金の形成が起こる。これに対して、レーザー未照射では、ゲルマニウム樹脂の溶媒可溶性によって、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物は溶媒への分散性を保持している。これによって、本発明は、結晶性半導体膜の微細パターン形成を行うことができる、という特徴を有する。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、空気中で製膜が可能で、製造工程のコストが安価なシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法を提供することができる。
【0057】
本発明に関するシリコン微粒子を原料とした半導体膜製造方法および半導体膜パターン形成法は、塗布法により大気下での製膜を行える手法であり、従来法で必要であった高コストな製造装置を必要とせず、太陽電池の普及において課題となっている製造コストの低減に好適な手法を提供することができる。また、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の溶媒分散性によって、レーザー照射においては、レーザー未照射部の有機溶媒での洗浄除去によって、半導体膜の微細パターン形成を行うことができ、従来のフォトリドグラフィー等による微細加工プロセスの簡略化に好適な手法を提供することができる。本発明に関する半導体膜形成および結晶性半導体膜とそれらのパターン形成法は、太陽電池用半導体膜以外にも種々の光電子デバイスへ応用することができる。例えば、薄膜トランジスタ、フォトトランジスタ等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、レーザー照射およびパターン形成を行うための装置および光学系を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、(a)シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜、および、(b)シリコン微粒子の塗布膜の、共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、比較例として、平均粒径50nmのシリコンナノ粒子とゲルマニウム樹脂との組成物膜の共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物前駆体膜の焼成やレーザー照射によって起こる、構造変化を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、レーザー照射を空気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、レーザー照射をAr雰囲気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、比較例として、ゲルマニウム樹脂を添加していないシリコン微粒子の塗布膜を用いて、レーザー照射をAr雰囲気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、比較例として、平均粒径50nmのシリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、レーザー照射をAr雰囲気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、レーザー照射をAr雰囲気下で行って作成した試料の、(a)共焦点顕微鏡写真、(b)3次元図、(c)膜断面図を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、空気下でのレーザー照射膜パターンの顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの、(a)図6中のIの点、および、(b)図6中のIIの点における顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの、(a)図9中のIの点、(b)図9中のIIの点、および、(c)図9中のIIIの点における顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図13】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、(a)焼成前膜、(b)真空下で250℃電気炉焼成した膜、(c)真空下で900℃電気炉焼成した膜の顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図14】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、(a)Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの共焦点顕微鏡写真、(b)その膜パターンの電流−電圧特性を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の形態のシリコン−ゲルマニウム膜およびシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの、パルス光照射下での電流−電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子と、分散媒かつ融着剤としてのゲルマニウム樹脂との組成物を、固体基板上に塗布製膜し、その膜を前駆体として、加熱やレーザー照射によって、半導体膜形成および結晶性半導体膜とそれらのパターン形成を行うことを骨子とする。
【0060】
本発明に用いるゲルマニウム樹脂は、四塩化ゲルマニウムを原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型の樹脂であることが好ましいが、加熱により無機ゲルマニウムに変換されるものであれば、それに限定されるものではない。
【0061】
四塩化ゲルマニウムを原料として合成した、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型の樹脂において、有機置換基の例としては、直鎖飽和脂肪族基、分岐飽和脂肪族基、直鎖不飽和脂肪族基、分岐不飽和脂肪族基、あるいは芳香族基が、挙げられる。合成されるゲルマニウム樹脂の性状は、有機置換基の影響を受け、炭素数が4以上の直鎖飽和脂肪族基の場合には液体状であり、鎖長が伸びるほど、粘性が下がる傾向がある。分岐飽和脂肪族基では、例えば、tert−ブチル基の場合には、室温でガラス状の固体となる。シリコン微粒子の分散媒としては、直鎖飽和脂肪族基を有し、高粘性液体状のものが、前駆体膜の製膜性のうえで好適であるが、それは、シリコン微粒子とゲルマニウム樹脂との組成比によっても異なり、それに限定されるものではない。
【0062】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の調製は、空気下あるいは不活性ガス雰囲気下で、ゲルマニウム樹脂と多結晶または単結晶のシリコンとを混合し、粉砕することによって行われる。粉砕においては、ゲルマニウム樹脂と粉砕によって形成されるシリコン微粒子との混合を効果的に行うために、脂肪族系あるいは芳香族系の溶媒を有機分散媒として添加することができる。
【0063】
本発明では、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子の原料としては、多結晶または単結晶のシリコンで、未ドープあるいはドープされたものを用いることができる。これは、Siナノ粒子の場合のような特殊な装置を必要としないことから、製造コスト低減において効果的である。また、従来の結晶シリコン太陽電池の製造方法との比較においても、単結晶シリコンインゴットの引き上げや、Siウエハー加工にかかわるコストを削減でき、さらに、薄膜化によって、省資源で太陽電池を形成できるという、利点がある。
【0064】
本発明において、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の製膜を行う手法としては、スピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、ディップコーティング法等を用いることができるが、それらに限定されるものではない。
【0065】
本発明でレーザー照射に用い得るレーザー光源は、照射する波長やパワー密度を考慮して適宜選択される。具体例として、連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザーで、457、473、488、532、561、660、あるいは1064nmの発振波長を有するもの、パルス発振レーザーで、266、355、532、あるいは1064nmの発振波長を有するもの、325および442nmの発振波長を有するHe−Cdレーザー、488および514.5nmの発振波長を有するArイオンレーザー、800nmの発振波長を有するチタンサファイアレーザー、408、442、473、638、658、780、あるいは830nmの発振波長を有する半導体レーザー、193、248、308、あるいは353nmに発振波長を有するエキシマレーザー、紫外域から赤外域に発振波長を有するファイバーレーザー等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0066】
本発明の実施例においては、発振波長が532nmのCW DPSSレーザーを用いているが、パワーが1Wという小型のものであることから、高倍率の対物レンズで、スポットサイズが数ミクロンとなるまで集光した後、前駆体膜に合焦し、レーザー光を前駆体膜上で走査することによって、レーザー照射およびパターン形成を行っている。大面積の太陽電池等を目指して、工業的な生産性を上げる観点からは、これまでにシリコン半導体材料のレーザーアニーリングに実用化されているエキシマレーザー等のパルス発振レーザーや、高出力なファイバーレーザーを適用することが好ましい。
【0067】
本発明においては、レーザー照射において、レーザー未照射の溶媒分散性を利用して、結晶性半導体膜の微細パターン形成を行うことができる。レーザー未照射の除去は、溶媒洗浄や、除去しづらい場合には、数秒の超音波照射が効果的である。
【0068】
実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の調製例や実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた実験装置は以下の通りである。
[光学顕微鏡]
・機種:オリンパス社 BX51
・対物レンズ:SLMPlan20x(N.A.0.35)、SLMPlan50x(N.A.0.45)、UMMPlan100x(N.A.0.95)
[CCDカメラ]
・機種:Watec社、WAT231S2
[xyz自動ステージ]
・機種:シグマ光機社、TSDM60−20、SPSD60−10ZF
[ステージコントローラー]
・機種:シグマ光機社、SHOT−204MS
[電磁シャッター]
・機種:シグマ光機社、SSH−R
[シャッターコントローラー]
・機種:シグマ光機社、SSH−CB4
[連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザー光源]
・機種2:CNI社、MGL−H−532−1W(532nm、1.18W、TEM00モード)
[顕微ラマン分光装置]
・レーザー光源:連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザー、Laser Quantum社、Ventus532(532nm、500mW)
・分光器:ORIEL社、77385
・冷却型CCDカメラ:Apogee社、AP260EP
[3次元(3D)共焦点レーザー顕微鏡]
・機種:キーエンス社、カラー3Dレーザー顕微鏡 VK−9700
[光源]
・機種:水銀キセノンランプ(浜松ホトニクス株式会社製 C4263)
[直流電圧・電流源/モニタ]
・機種:ADCMT社、6241A
【0069】
<ゲルマニウム樹脂の合成例1>
tert-ブチル基を有するゲルマニウム樹脂の合成例を示す。
四塩化ゲルマニウム(6.83g)を、脱水テトラヒドロフラン(80ml)中でアルゴン雰囲気下で攪拌しながらマグネシウム(6.22g)を添加し、10℃で1時間攪拌しながら反応させた。これによって、四塩化ゲルマニウムのGrignard反応によって、数ナノメートルサイズのゲルマニウムクラスターが形成される。溶媒のテトラヒドロフラン中に分散した状態のゲルマニウムナノクラスターは、表面に未反応の塩素基を有しており、この塩素基を有機置換基で置換することによって、汎用の有機溶媒に可溶で、空気中で安定に取り扱うことのできる、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂を合成した。その合成は、以下の手順で行った。まず、tert-ブチルブロマイド(4.38g)を添加して10℃で1時間攪拌しながら反応させ、再度tert-ブチルブロマイド(4.38g)を添加して10℃で1時間、50℃で2時間攪拌しながら反応させた。さらにその後、室温で一昼夜攪拌しながら反応させた。反応液をメタノール中に沈殿させ、ろ過分離した。再沈殿により重合体を得た。さらに、重合体をトルエンに溶解し、不溶分を分離除去した後、トルエンの減圧除去により、精製重合体を得た。この重合体の分子量をGPCにより測定したところ、重量平均分子量Mw=1800、分子量分布Mw/Mn=1.63であった。元素分析から、Ge一原子あたりの有機置換基の数は、0.8個であった。この樹脂は、室温で黒色のガラス状の固体粉末であった。
【0070】
<ゲルマニウム樹脂の合成例2>
n-ブチル基を有するゲルマニウム樹脂の合成例を示す。
四塩化ゲルマニウム(25g)を、脱水テトラヒドロフラン(200ml)中でアルゴン雰囲気下で攪拌しながらマグネシウム(8.5g)を添加し、10℃で1時間攪拌しながら反応させた。これによって、四塩化ゲルマニウムのGrignard反応によって、数ナノメートルサイズのゲルマニウムクラスターが形成される。溶媒のテトラヒドロフラン中に分散した状態のゲルマニウムナノクラスターは、表面に未反応の塩素基を有しており、この塩素基を有機置換基で置換することによって、汎用の有機溶媒に可溶で、空気中で安定に取り扱うことのできる、主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するナノクラスター型のゲルマニウム樹脂を合成した。その合成は、以下の手順で行った。まず、n-ブチルブロマイド(16g)を添加して10℃で1時間攪拌しながら反応させ、再度n-ブチルブロマイド(16g)を添加して10℃で1時間、50℃で2時間攪拌しながら反応させた。さらにその後、室温で一昼夜攪拌しながら反応させた。反応液をメタノール中に沈殿させ、ろ過分離した。再沈殿により重合体を得た。さらに、重合体をトルエンに溶解し、不溶分を分離除去した後、トルエンの減圧除去により、精製重合体を得た。この重合体の分子量をGPCにより測定したところ、重量平均分子量Mw=3600、分子量分布Mw/Mn=1.30であった。元素分析から、Ge一原子あたりの有機置換基の数は、1.2個であった。この樹脂は、室温で黒色の粘性の高い液体状であった。この重合体を、シリコン微粒子分散用のゲルマニウム樹脂として、以下の実験に使用した。
【0071】
図1は、本発明の実施の形態のシリコン微粒子を原料とした半導体膜製造法および半導体膜パターンの、レーザー照射を行うための、レーザー光照射・走査装置および光学系の模式図である。レーザー光源としては、連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザーを用いた。光学顕微鏡11に導入したレーザー光を、対物レンズ12で集光し、前駆体塗布膜を形成した基板15上に合焦するよう照射する。基板15上のレーザー光の照射位置を、コンピューター16とステージコントローラー21とで制御するxyzステージ17で走査することによって、半導体膜パターンの描画を行う。レーザー光のオンーオフは、コンピューター16とシャッターコントローラー20とで制御する電磁シャッター18で行う。光学顕微鏡11に接続したCCDカメラ19によって、基板15上に形成した半導体膜パターンを観察した。対物レンズカバー13へ、ガス導入管14から不活性ガスやArガス希釈水素ガスを導入することによって、簡易に、レーザー光照射雰囲気を制御することができる。
【実施例1】
【0072】
n型シリコン結晶(<100>、ドーパント:Ph、抵抗率2Ωcm)0.4gを、希フッ酸水溶液(5%)で処理して、表面の酸化物を除去後、分散媒としてのゲルマニウム樹脂0.1g(シリコンに対して20wt%)、有機分散媒としてのトルエン溶媒とともに、乳鉢で粉砕、混合し、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物を、空気下において調製した。ゲルマニウム樹脂が無機化したとき、20wt%のゲルマニウム樹脂を含む組成物の場合、SiとGeの重量比は約8:1であり、SiとGeの元素比では20:1となる。ゲルマニウム樹脂の組成比を少なくすることによって、得られるシリコン膜の特性変化を小さくすることができる。
【0073】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のトルエン分散液を、基体としてガラス基板を用い、その上に滴下し、ドクターブレード法によって、空気下において、前駆体膜の製膜を行った。シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物に対する、有機分散媒としてのトルエン量は、ドクターブレード法によって形成する膜の厚さによって、適宜調製した。シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜は、溶媒のトルエンを乾燥除去後、加熱処理およびレーザー照射用の前駆体膜として用いた。
【0074】
シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のトルエン分散液から作製した前駆体膜の比較試料として、トルエン分散媒とともにn型シリコンを乳鉢で粉砕して、基体としてガラス基板を用い、その上に滴下し、乾燥することによって、ゲルマニウム樹脂を含まない塗布膜の作製を行った。この塗布膜は、シリコン微粒子を被覆し粘着する樹脂が存在しないため、塗布膜基板への少しの衝撃で、容易に剥離してしまうものであった。
【0075】
図2(a)および(b)に、それぞれシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜、およびシリコン微粒子の塗布膜の共焦点レーザー顕微鏡写真を示す。図2(b)に示すシリコン微粒子の塗布膜の写真から、数μmから十数μmまでの大きさの分布を有するマイクロメートルのサイズのシリコン微粒子が、上記の粉砕法によって形成されていることが示された。これに対して、図2(a)に示すシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の写真においては、図2(b)で見られる10μm前後の大きさのシリコン微粒子が観察されなかった。これは、シリコン微粒子の表面を、黒色で粘性の高い液体状であるゲルマニウム樹脂が均一に被覆しているためである。
【0076】
[比較例1]
比較試料として、平均粒径50nmのシリコンナノパウダー(Aldrich、レーザー熱分解により製造された結晶性のシリコンナノ粒子)とゲルマニウム樹脂との組成物膜の形成を行った。Siナノ粒子0.4gを、分散媒としてのゲルマニウム樹脂0.1g(シリコンに対して20wt%)、有機分散媒としてのトルエン溶媒とともに、Ar雰囲気下で混合してサンプル管に封入し、超音波照射により、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物を調製した。シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物のトルエン溶液を、基体としてガラス基板を用い、その上に滴下し、ドクターブレード法によって、製膜を行った。図3は、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の共焦点レーザー顕微鏡写真である。写真に示されるように、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜では、トルエンの揮発とともに、膜に亀裂が生じることが観察された。これは、Siに対して、20wt%のゲルマニウム樹脂では、シリコンナノ粒子の表面を十分に被覆して、シリコンナノ粒子間に粘着性を付与することができないためである。
【0077】
そこで、Siに対して200wt%のゲルマニウム樹脂を添加した組成物を調製して、同様な膜形成と共焦点レーザー顕微鏡観察とを行ったが、やはり、塗布膜に亀裂の発生が観察された。これらの結果から、マイクロメートルのサイズのシリコン微粒子に比べて、シリコンナノ粒子は、その表面積が非常に大きく、亀裂のない均質な塗布膜を得るためには、多量の樹脂の添加が必要になることが示された。シリコンナノ粒子において、添加する樹脂が多量に必要であることは、焼成後に均質なシリコン半導体膜を得るためには、好ましくない。
【0078】
図4は、本発明の実施の形態の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を前駆体として、その焼成やレーザー光照射によって、ゲルマニウム樹脂がシリコン微粒子の融着剤として作用し、シリコンの連続相からなる膜が形成される過程の模式図である。図4Aの、焼成やレーザー光照射前の状態において、ゲルマニウム樹脂はSi微粒子を空隙なく被覆し、Si微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を形成している。これは、実施例1の図2(a)の共焦点レーザー顕微鏡写真によって示される。ゲルマニウム樹脂が存在しない場合や、平均粒径が50nmのシリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物の場合には、それぞれ、図2(b)および図3の共焦点レーザー顕微鏡写真で示されるように、空隙のある膜構造となってしまい、以下に述べる比較例中で示すように、レーザー照射後の膜は、不均一な構造のものとなってしまった。図4Bは、SiGe合金化が起こらないような、加熱温度が比較的低い場合に形成される構造である。これは、以下の実施例中では、例えば、実施例8の電気炉を用いた250℃加熱の場合に該当する。この状態では、ゲルマニウム樹脂は無機ゲルマニウムに変換されていおり、この膜は溶媒洗浄により除去されない。これに対して、図4Aの状態では、ゲルマニウム樹脂は溶媒に可溶性であり、その組成物膜は溶媒洗浄によって除去される。このような溶媒に対する除去性の違いを利用することによって、本発明の実施形態の半導体膜のパターン形成を、レーザー照射における、レーザー光の照射、未照射によって、達成している。図4Cは、SiGe合金化が起こる温度で形成される構造であり、シリコン微粒子表面層のシリコンと無機ゲルマニウムとの間での、SiGe合金の形成によって、シリコン微粒子間は結着される。図4Dに示すように、さらなるSiGe合金形成の進行によってシリコン微粒子間で融着が起こり、シリコン連続相からなる膜が形成される。以下の実施例から、図4で模式的に示すような、ゲルマニウム樹脂によるシリコン微粒子の融着現象が起こっていることを示す。
【実施例2】
【0079】
実施例1で作製した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、図1に示す装置によってレーザー照射を、空気下で行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x20(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:10μm、走査速度:4000μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒を用いて、未照射部の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の除去を行った。
【0080】
図5は、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図5(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図5(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図5(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射膜の立体像が、示されている。図5(c)の断面図から、膜厚は約15μmであるとがわかる。図5(b)および(c)から、空気下でのレーザー照射膜では、膜表面の荒れが生じることが観察された。空気下でのレーザー照射においては、酸素により、シリコン微粒子を被覆するゲルマニウム樹脂の酸化反応を伴う熱分解が急激に起こり、それが膜表面の荒れを引き起こした。
【実施例3】
【0081】
そこで、図1に示す装置において、対物レンズカバー13に、ガス導入管14からArガスを導入することによって、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の、不活性雰囲気下でのレーザー照射を行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x50(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:5μm、走査速度:4000μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒を用いて、未照射部の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の除去を行った。
【0082】
図6は、Ar雰囲気下でレーザー照射した膜の、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図6(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図6(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図6(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射膜の立体像が、示されている。図6(c)の断面図から、膜厚は約14μmであるとがわかる。図6(a)で示されるように、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜の表面は、空気下でのそれと比較して、荒れがなく平滑なものとなった。Iの部位には、シリコン微粒子は観察されず、完全に溶融・結着してシリコンの連続相となっていることが、図6(a)および(b)から示される。この状態は、図4Dで模式的に示されるものである。この結果は、ゲルマニウム樹脂が、シリコン微粒子の融着剤として効果的に作用することを示す。
【0083】
図6(a)において、Iで示される部位は、レーザー光照射部であり、IIで示される部位は、レーザー未照射部であるものの、トルエン溶媒処理によっても除去されずに残存した部分である。IとIIの境界に見える白色のラインが、レーザー光照射の最下端となる。除去されずに残存するのは、レーザー照射部からの伝熱により焼成が起こったためである。IIの状態は、図4Bで模式的に示されるものである。
【0084】
[比較例2]
レーザー照射膜の比較例として、実施例1で作製したゲルマニウム樹脂を添加していないシリコン微粒子の塗布膜のレーザー照射を、図1に示す装置によって、Ar雰囲気下で行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x50(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:5μm、走査速度:4000μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒中、超音波を数秒照射することによって、未照射部の、シリコン微粒子の除去を行った。図7は、レーザー照射した膜の、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図7(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図7(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図7(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコン微粒子のレーザー照射膜の立体像が、示されている。図7に示されるように、ゲルマニウム樹脂が存在しない場合には、非常に不均一な構造の膜となり、数十μmの大きさの粒塊と露出したガラス基板表面が観察された。これは、レーザー照射によって溶融したシリコン微粒子が、前駆体膜においてより空隙の少ないシリコン微粒子との間で表面張力によって凝集し、不均一な粒塊状の構造を作るためである。これに対して、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の場合には、図4および図5に示されるように、シリコン微粒子の溶融によって、均質な連続相が形成されている。これは、図4で模式的に示されるように、シリコン微粒子間に存在するゲルマニウム樹脂が、レーザー照射によって、熱分解を伴い無機ゲルマニウム化し、シリコン微粒子とSiGe合金を形成し、それが融着剤として働き、シリコンの連続相を形成するためである。
【0085】
[比較例3]
レーザー照射膜の比較例として、比較例1で作製したシリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜のレーザー照射を、図1に示す装置によって、Ar雰囲気下で行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x50(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:5μm、走査速度:4000μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒中、未照射部の、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の除去を行った。図8は、レーザー照射した膜の、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図8(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図8(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図8(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコンナノ粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射膜の立体像が、示されている。図8に示されるように、シリコンナノ粒子の場合には、ゲルマニウム樹脂が存在しても、非常に不均一な構造の膜となり、数十μmの大きさの粒塊と露出したガラス基板表面が観察された。これは、マイクロメートルサイズのシリコン微粒子に比べて、シリコンナノ粒子の表面積が非常に大きく、Siに対して分散媒として用いた、20wt%のゲルマニウム樹脂では、シリコンナノ粒子の表面を被覆して、シリコンナノ粒子間に結着性を付与することができないためである。このため、レーザー照射によって溶融したシリコン微粒子が、表面張力によって凝集し、不均一な粒塊状の構造が形成された。
【実施例4】
【0086】
実施例1で作製した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜を用いて、図1に示す装置によってレーザー照射を、Ar雰囲気下で行った。レーザー光照射条件は、対物レンズ:x20(N.A.0.32)、入射レーザー光パワー:1W、レーザー光走査条件は、x:4000μm、y:1000μm、y方向走査線間隔:100μm、走査速度:400μm/sであった。レーザー光照射後、トルエン溶媒を用いて、未照射部の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜の除去を行った。
【0087】
図9は、3D共焦点レーザー顕微鏡の測定結果である。図9(a)、(b)および(c)は、それぞれ、共焦点顕微鏡写真、3次元図、膜断面図である。図9(a)において、上部が、レーザー光照射されたシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の膜表面、下部が、トルエン溶媒を用いて未照射部を除去したガラス基板表面、である。図9(b)の3次元図には、ガラス基板上の、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物のレーザー照射膜の立体像が、示されている。
【0088】
図9(a)において、Iで示される部位は、レーザー光照射部であり、IIおよびIIIで示される部位は、レーザー未照射部であるものの、トルエン溶媒処理によっても除去されずに残存した部分である。レーザー未照射であるにも関わらず、IIおよびIIIの部分が除去されずに残存するのは、レーザー照射部からの伝熱による焼成が起こったためである。以下の実施例7での顕微ラマンスペクトルによる構造解析によって実証されるが、IIの部位は、図4Cで模式的に示される構造に対応し、IIIの部位は図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【実施例5】
【0089】
図10は、実施例2で作成した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、空気下での、レーザー照射膜パターンの顕微ラマンスペクトルである。520cm−1のシャープなバンドは、多結晶シリコン(pc−Si)に帰属されるものである。
【実施例6】
【0090】
図11は、実施例2で作成した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下での、レーザー照射膜パターンの顕微ラマンスペクトルである。図11(a)および(b)は、それぞれ、図6におけるIおよびIIの部位における、顕微ラマンスペクトルである。図11(a)において、520cm−1のシャープなバンドは、多結晶シリコン(pcーSi)に帰属されるものである。それに加えて470cm−1付近にアモルファスシリコン(a−Si)に、400cm−1付近に多結晶SiGe合金(pc−SiGe)に帰属されるラマンバンドが、わずかに現れている。この状態は、図4Dで模式的に示される構造に対応する。a−Siのバンドの形成は、SiGe合金形成に伴って、シリコン微粒子の溶融が起こることを示すものである。これに対して、レーザー未照射部であるものの、レーザー照射部からの伝熱により焼成が起こるIIの部位の顕微ラマンスペクトルの図11(b)では、304cm−1に多結晶ゲルマニウム(pc−Ge)に帰属されるバンドが顕著に観測された。しかし、400cm−1付近のpc−SiGeのバンドは、観測されなかった。それは、走査速度4000μm/sでのレーザー照射条件下での、未照射部への伝熱による焼成では、SiGe合金を形成するのに十分な加熱が起こらないためである。この状態は、図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【0091】
図11(a)の、レーザー照射部の顕微ラマンスペクトルにおいて、pc−Geのバンドが観測されないのは、SiGe合金の形成を経て、ゲルマニウムがシリコンのバルク層にまで拡散していることを示すものである。ゲルマニウム樹脂が無機化した場合、20wt%のゲルマニウム樹脂を含む組成物の場合、SiとGeの重量比は約8:1であり、SiとGeの元素比では20:1となる。シリコン微粒子の表面から内部まで均一にSiGe合金が形成された場合には、SiGe合金のSiに対するラマンバンドの強度比は、SiとGeの元素比から考えて、かなり小さなものになる。これは、図11(a)のラマンスペクトルの結果と合致する。実施例3および6の結果からも、ゲルマニウム樹脂は、シリコン微粒子の融着剤として作用し、シリコン微粒子からシリコンの連続相からなる膜を形成するのに効果的であり、添加する量を少なくすることによって、ゲルマニウム添加の影響の小さな、シリコン膜を形成することができることが示唆される。
【0092】
これに対して、図11(b)の、レーザー照射部からの伝熱により焼成が起こったIIの部位においては、ゲルマニウムが、完全には溶融しきれていないシリコン微粒子表面に偏在し、強度の高いpc−Geのバンドが観測された。この状態は、図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【実施例7】
【0093】
図12は、実施例4で作成した、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、Ar雰囲気下での、レーザー照射膜パターンの顕微ラマンスペクトルである。図12(a)、(b)および(c)は、それぞれ、図9におけるI、II、およびIIIの部位における、顕微ラマンスペクトルである。図12(a)において、520cm−1のシャープなバンドは、多結晶シリコン(pcーSi)に帰属されるものである。それに加えて470cm−1付近にアモルファスシリコン(a−Si)に、400cm−1付近に多結晶SiGe合金(pc−SiGe)に帰属されるラマンバンドが、わずかに現れている。この状態は、図4Dで模式的に示される構造に対応する。
【0094】
これに対して、レーザー未照射部であるものの、レーザー照射部からの伝熱により焼成が起こるIIの部位の顕微ラマンスペクトルの図12(b)では、406cm−1にpc−SiGeに、304cm−1にpc−Geに帰属されるバンドが顕著に観測された。この場合のレーザー光の走査速度は、400μm/sであり、実施例6の場合の4000μm/sより一桁低く、そのため伝熱による加熱が起こりやすい条件となっている。IIの部位において、Iの部位に比べて、pc−SiGeのバンドが顕著に観測されるのは、IIの部位の加熱温度がIの部位よりも低く、ゲルマニウムのシリコンのバルク層への拡散が起こらず、Si層表面にpc−SiGeが偏在するためである。この状態は、図4Cで模式的に示される構造に対応する。
【0095】
レーザー照射部位Iから、さらに離れたIIIの部位の顕微ラマンスペクトルの図12(c)においては、pc−SiGeのバンドが消失している。これは、レーザー照射部から離れたIIIの部位では、伝熱が不十分で、SiGe合金を形成するのに十分な加熱が起こらないためである。この状態は、図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【実施例8】
【0096】
図13(a)、(b)および(c)には、実施例1で作成したシリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物の、焼成前膜、真空下で250℃電気炉焼成した膜、および真空下で900℃電気炉焼成した膜の顕微ラマンスペクトルを、それぞれ示した。焼成前膜では現れていないpc−Geに帰属されるバンドが、250℃焼成膜では現れている。この状態は、図4Bで模式的に示される構造に対応する。
【0097】
900℃焼成膜では、300cm−1付近のpc−Ge、400cm−1付近のpc−SiGeのバンドに加えて、490cm−1付近に、a−Siに帰属されるバンドの肩が現れている。シリコンの融点が1410℃であることから考えて、このようなa−Siの生成は、SiGe合金が形成されることに伴い起こる現象である。ゲルマニウムの融点は、942℃であるが、ゲルマニウムの融点付近温度での加熱によって、ゲルマニウム樹脂で被覆されたシリコン微粒子の表面層のSiが、SiGe合金形成を伴って溶融することが示唆される。すなわち、本発明で、分散媒として用いたゲルマニウム樹脂は、SiGe合金形成を伴ってSiの溶融を促進し、Siの融点より低温でのシリコン微粒子の溶融および結着を可能とする、シリコン微粒子の融着剤として作用する物質である。
【実施例9】
【0098】
図14(a)は、実施例3で作成した、Ar雰囲気下でのレーザー照射膜パターンの共焦点レーザー顕微鏡写真であり、その膜パターンの電流−電圧特性を図14(b)に示した。膜パターンへInGa合金を塗布し、オーミック接触を形成して、電流−電圧特性の測定を行った。電流−電圧特性の傾きからの抵抗値と、測定サンプル形状から、抵抗率は、867Ωcmと算出された。用いたバルクのn−Si単結晶の抵抗率は、2Ωcmであるので、粉砕による微粒子化、シリコン微粒子ゲルマニウム樹脂組成物膜形成、およびレーザー照射による膜パターン形成によって、抵抗率が増加したことになる。これは、今回の測定試料は、厚さが14μmの膜であり、バルクの単結晶シリコン基板に比べて、膜表面の効果が顕著に影響してくることが原因している。レーザー照射における雰囲気の効果、たとえば、Arガス希釈水素ガス等の使用による、半導体膜表面のパッシベーションは、電気物性向上のための手法の一つである。
【実施例10】
【0099】
図15は、実施例3で作成した膜パターンのパルス光照射下での電流−電圧特性である。膜パターンへInGa合金を塗布し、オーミック接触を形成して、電流−電圧特性の測定を行った。水銀キセノンランプからの光(62mW/cm2)を電磁シャッターの開閉によってパルス化し、5秒間隔のオン−オフ照射下のI−V特性の測定を行った。パルス光照射により、良好なレスポンスで光電流が観測された。これにより、半導体材料に特有の、光導電性を確認することができた。
【符号の説明】
【0100】
11 光学顕微鏡
12 対物レンズ
13 対物レンズカバー
14 ガス導入管
15 基板
16 コンピューター
17 xyzステージ
18 電磁シャッター
19 CCDカメラ
20 シャッターコントローラー
21 ステージコントローラー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂と、平均粒径が1μm以上のシリコン微粒子とを有機分散媒中で混合した分散液から製膜される組成物膜を、熱処理またはレーザー照射して得られることを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜。
【請求項2】
四塩化ゲルマニウムを出発原料として合成した主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂が、シリコン粒子の表面を被覆するよう、前記ゲルマニウム樹脂と前記シリコン粒子とを混合粉砕し、該混合粉砕物を有機分散媒中で混合した組成物を製膜した後、熱処理またはレーザー照射することを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項3】
前記ゲルマニウム樹脂は、ガラス転移温度が室温以下であることを、特徴とする請求項2記載のシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項4】
前記ゲルマニウム樹脂と前記シリコン微粒子とを有機分散媒中で混合した前記組成物を、空気中で基板に塗布して製膜することを、特徴とする請求項2または3記載のシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項5】
前記ゲルマニウム樹脂で被覆した前記シリコン微粒子表面の前記ゲルマニウム樹脂の有機置換基を、加熱またはレーザー照射によって除去し、無機ゲルマニウムとシリコンとを合金化させることを、特徴とする請求項2、3または4記載のシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項6】
前記レーザー照射工程で、レーザーの熱の影響がなかった個所を有機溶媒で洗浄除去することを、特徴とする請求項5記載のシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項1】
側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂と、平均粒径が1μm以上のシリコン微粒子とを有機分散媒中で混合した分散液から製膜される組成物膜を、熱処理またはレーザー照射して得られることを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜。
【請求項2】
四塩化ゲルマニウムを出発原料として合成した主鎖骨格が3次元状のGe−Ge結合から成り、側鎖に有機置換基を有するゲルマニウム樹脂が、シリコン粒子の表面を被覆するよう、前記ゲルマニウム樹脂と前記シリコン粒子とを混合粉砕し、該混合粉砕物を有機分散媒中で混合した組成物を製膜した後、熱処理またはレーザー照射することを、特徴とするシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項3】
前記ゲルマニウム樹脂は、ガラス転移温度が室温以下であることを、特徴とする請求項2記載のシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項4】
前記ゲルマニウム樹脂と前記シリコン微粒子とを有機分散媒中で混合した前記組成物を、空気中で基板に塗布して製膜することを、特徴とする請求項2または3記載のシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項5】
前記ゲルマニウム樹脂で被覆した前記シリコン微粒子表面の前記ゲルマニウム樹脂の有機置換基を、加熱またはレーザー照射によって除去し、無機ゲルマニウムとシリコンとを合金化させることを、特徴とする請求項2、3または4記載のシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【請求項6】
前記レーザー照射工程で、レーザーの熱の影響がなかった個所を有機溶媒で洗浄除去することを、特徴とする請求項5記載のシリコン−ゲルマニウム膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−59871(P2012−59871A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200843(P2010−200843)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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