説明

シリコンスラリーの脱水・成形方法

【課題】 多結晶シリコンインゴット用の原料になるシリコン粉末成形体を製造する水分離・成形装置およびそれを用いたシリコン粉末成形方法を提供すること。
【解決手段】 水分離・成形装置1は、加圧容器であるダイ4、圧力付与装置の一部である上パンチ2、そして下パンチ3とベース5を一体とした下側の加圧容器などが備えられている。そしてダイ4には、上方に上パンチ2に配置される。上パンチ2は、先端部に有機樹脂製のOリング6aを持つ。下パンチ3には有機樹脂製のOリング6bが取付けられる。下パンチ3の上面には濾過シート13が上に置かれている。下パンチ3及びベース5には、4個の排水路9が形成され、そして排水口10に繋がっている。そして排水口10は吸水装置に接続されている。吸水装置7は、吸水管12、吸引濾過瓶12そして油回転型真空ポンプ8で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンの製造方法に関し、特にシリコンウエハや半導体の製造工程において、シリコンウエハを研削・研磨する際に生じるシリコンスラッジを有効に再使用し安価に多結晶シリコンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハや半導体を製造するには、素材であるシリコンインゴットあるいはシリコンウエハを所定のサイズに研削したり、研磨する必要がある。その研削および研磨作業を行うと、当然のことながら多量のシリコン屑が発生する。
【0003】
このシリコン屑は、粒度が0.1〜10μmと非常に細かく、且つシリコンウエハを所定のサイズに研削した場合には、シリコン以外にも、イオン注入法によってウエハ表面に不純物として打ち込まれたボロン、リン、タングステン、クロム、チタン、砒素、ガリウム、鉄が含有されている。また、研削、研磨には装置の温度上昇を防いだり、潤滑性を向上させるために、水が利用されるが、この水に油などを添加するので、油などを添加するので、油などの不純物が多く含まれている。さらに水中のシリコン屑を凝集沈殿させる際に添加される凝集剤としてポリ塩化アルミニウムや硫酸バンドも含有されている。
【0004】
このように、シリコンインゴットあるいはシリコンウエハを研削、研磨する際に生じるシリコン屑には、シリコン以外に、多くの金属元素や有機・無機物が含まれているため、これまで適当に再利用方法がなく、所謂「廃スラッジ」として埋め立て処理が行われていた。つまり、シリコン屑から水を分離・除去し、埋め立てて廃棄していたのである。
【0005】
ところが、分離した排水中に含まれるシリコンインゴットあるいはシリコンウエハのシリコン屑は、粒度が0.1〜10μmと非常に細かいばかりでなく、その含有量が50〜300ng/リットルと非常に少ないので、この屑を分離・除去するのに多大の費用と時間がかかっていた。また、大量に生成した廃スラッジは、前記したように、再利用の途はなく、埋め立て処理する以外には途は無いが、埋め立て処理するにも、埋め立て処分場の規制があり、無害化処理をしてから行わねばならない。さらに、近年、埋め立て処分場の枯渇という問題が生じていた。
【0006】
そこで特許文献1において、従来、埋め立て処理されていたシリコンの廃スラッジを主原料にして、安価な太陽電池の素材を製造することの可能な太陽電池用多結晶シリコンの製造方法を提案している。
【0007】
以下特許文献1の内容を示す。溶融状態にある一方向凝固で精製して、太陽電池仕様を満たすシリコンインゴットとするに際し、前記溶融シリコンを、シリコンウエハ及び半導体の製造においてシリコンインゴットあるいはシリコンウエハを研削、研磨する工程の排水より濾過分離して得たシリコンスラッジだけで形成する太陽電池用多結晶シリコンの製造方法である。
【0008】
この場合、前記排水よりの濾過分離を、該排水に含まれる前記シリコンスラッジを第1のフィルタ表面に該シリコンスラッジからなる第2のフィルタを形成させて行うのが好ましい。また、前記溶融状態にあるシリコンに、珪石を電気炉内で炭素還元剤により還元して得られた金属シリコンを添加しても良く、その際、前記金属シリコンの添加量が溶融状態にあるシリコンに対して0.1〜20質量%であることが好ましい。さらに、前記溶融状態にあるシリコンが、前記シリコンスラッジを乾燥し、不活性雰囲気または真空中で溶解したものであることが好ましい。
【0009】
以上のように特許文献1によれば、従来は埋め立て処理されていたシリコンの廃スラッジを主原料にして、安価な太陽電池の素材を製造することが可能となるとされている。
【特許文献1】特開2003−238137号公報
【0010】
しかしながら、特許文献1においては、シリコンインゴットあるいはシリコンウエハを研削、研磨する工程の排水より濾過分離する方法としてフィルターを用いて行っているがこのフィルターによる濾過では、まだ含水率が80%であり、濾過した後、このシリコンスラッジを乾燥するために窒素中において90℃で24時間の処理が必要であった。
【0011】
したがって、フィルターを用いる濾過では、乾燥するための大きなエネルギーと、そして酸化を防止するための大量の窒素が必要となり製造コストが大きくなるという問題点がある。また、酸化を防止するために窒素を用いても、乾燥前のシリコンスラッジの水分が大きいとどうしても酸化してしまうという問題点もある。
【0012】
さらに、フィルターにより濾過した後、乾燥したシリコンスラッジは、粉体状、または脆い塊であり、後の不活性雰囲気または真空下での溶解工程において、粉体状、または脆い塊が溶融したシリコンに投入する際に、粉体として舞い上がり又は溶融したシリコンの上に浮いてしまい、シリコンに投入できないという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、シリコンスラリーから水を含水率5質量%以下にする濾過し、さらに取り扱いが容易なシリコンの成形体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、シリコン粉末と水とのシリコンスラリーを、少なくとも加圧容器、圧力付与装置と吸水装置を備えた水分離・成形装置を用いて水を分離し、かつシリコン成形体を製作するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水分離・成形装置を用いた成形により、シリコンスラリーから水を分離して5質量%以下の含水率を持つシリコン粉末の成形体を作成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
シリコンウエハ製造で用いられるシリコンインゴットの純度は、99.9999質量%以上と非常に純度が高いので、このシリコンインゴットから生じる研削・研磨屑のシリコン純度も非常に高く、ほとんど不純物が無いシリコンスラッジが得られる。
【0017】
また、半導体製造におけるICの製造工程は、使用する技術や装置設備、製造環境によりウエハ製造装置、組立(アセンブル)工程、検査(テスト)工程の3つに大きく分けられる。そのウエハ製造装置では、単結晶シリコンインゴットから切り出され、表面研磨された5〜8インチ径のシリコンウエハ(シリコン基板)上に、不純物注入、薄膜形成、フォトエッチングを繰り返すことでトランジスタや配線等を形成し、チップを完成させている。そしてウエハ製造装置を完了したシリコンウエハ(ICチップ群)は、組立工程で個々のICチップ単位に切断、分離される。従って、半導体の製造においてシリコンウエハを研削・研磨する際に排出されるシリコンスラッジとは、かかるウエハ製造工程及び組立工程で排出されるシリコンスラッジのことである。また、シリコン基板は最初、数百μmの厚みを有しているが、これは強度を確保するための厚みであり、実際に使用されるシリコンウエハは、組立工程で使用される際に有利なように、その半分の厚さまで研磨により薄くされるので、この研磨だけでも約半分のシリコンが研磨屑として廃棄されている。また、ICチップ単位に切断、分離する際にもシリコン研削、研磨屑が発生している。
【0018】
以上述べたように、現在入手可能なシリコンスラッジは、シリコンウエハ製造で得られるものと、半導体製造で得られるものの2種類あるが、シリコンウエハ製造で得られるシリコンスラッジは、シリコン純度が高く、不純物を含まないのに対し、半導体製造で得られるシリコンスラッジは、シリコン以外にボロン、リン、タングステン、クロム、チタン、砒素、ガリウム、鉄の不純物元素や、凝集剤、油等の無機、有機物が多く含まれている。
【0019】
特許文献1によれば、シリコンインゴットからのシリコンスラッジからは、太陽電池用シリコンの原料にできるシリコン粉末を製造することが可能であるもちろんであるが、半導体製造工程で得られる不純物を含むシリコンスラッジからも様々な処理をすることで太陽電池用シリコンの原料にできるシリコン粉末を製造することが可能であると記載されている。
【0020】
しかし、フィルターを用いる濾過では、乾燥するための大きなエネルギーと、そして酸化を防止するための大量の窒素が必要となり製造コストが大きくなるという問題点がある。また、酸化を防止するために窒素を用いても、乾燥前のシリコンスラッジの水分が大きいとどうしても酸化してしまうという問題点もある。
【0021】
また、フィルターにより濾過した後、乾燥したシリコンスラッジは、粉体状、または脆い塊であり、後の不活性雰囲気または真空下での溶解工程において、粉体状、または脆い塊が溶融したシリコンに投入する際に、粉体として舞い上がり又は溶融したシリコンの上に浮いてしまい、溶融シリコンに投入できないという問題点がある。
【0022】
以上の問題点を解決することができれば、さらに安価なシリコンを太陽電池用シリコンの原料として提供できる。また、特許文献2に記載のように製鉄用副原料として提供できる。
【特許文献2】特開2004−169166号公報
【0023】
そこで、本発明者は上記の問題を解決するために水分離・成形装置を用いることを発案した。
【0024】
以下、本発明に関わる水分離・成形装置1の実施の形態について図1の構造概略図を用いて説明する。水分離・成形装置1は、加圧容器であるダイ4、圧力付与装置の一部である上パンチ2、そして下パンチ3とベース5を一体とした下側の加圧容器などが備えられている。なお圧力付与装置は、図示しない油圧による加圧シリンダと上パンチ2とからなる。
【0025】
鋼製のダイ4は外径50mm、内径10mmそして高さ80mmである。そしてダイ4には、上方に上パンチ2に配置される。上パンチ2は、鋼製であり外径10mm、長さ80mmであり、先端部に内径6.8mmそして肉厚1.9mmの有機樹脂製のOリング6aを持つ。
【0026】
ベース5と下パンチ3は鋼製で、そして一体で製作される。下パンチ3には有機樹脂製のOリング6bが取付けられる。下パンチ3の上面には濾過シート13が上に置かれている。濾過シート13は粒子保持能が20〜25μmの濾紙であり、直径10mmそして厚さは約0.2mmである。下パンチ3及びベース5には、4個の排水路9が形成され、そして排水口10に繋がっている。
【0027】
そして排水口10は吸水装置7に接続されている。吸水装置は、吸水管11、容量2リットルの吸引濾過瓶12、排気速度が20L/minの油回転型真空ポンプ8で構成されている。
【0028】
次に本発明の水分離・成形装置1を用いたシリコンスラリー14からの水の分離とシリコン成形体の製造方法について説明する。ここでの分離した水は、純水ではなく、濾過できなかったシリコン微粉末そして微量の金属、無機物、有機物の少なくとも1つ以上を含む。
【0029】
シリコンスラリー14をダイ4に注ぐ。シリコンスラリー14は、シリコンが約30質量%に対して水が約70質量%である。
【0030】
次に油回転型真空ポンプ8を稼動して、シリコンスラリー14から水を吸引濾過する。濾過経路は、濾過シート13、下パンチ3及びベース5の4個の排水路9、排水口10、吸水管11そして吸引濾過瓶12である。
【0031】
そして図示しない加圧シリンダを下降させ、上パンチ2をダイ4の中で下方に押し込む。そしてシリコンスラリー14に圧力を加え、成形圧が約2ton/cmになるまで約1分間で加圧する。上パンチ2による加圧中も油回転型真空ポンプ8を稼動しており、加圧され濾過シート13により分離された水は真空ポンプ8により吸水される。この機械的圧力と真空ポンプによる吸引力の相乗効果によりシリコンスラリー14は、他の水分離方法では実現不可能な質量5%以下の含水率まで達成できる。
【0032】
成形したシリコン成形体は直径10mm、長さ14.1mmで質量は約1.12グラムであった。この成形体の密度は約1g/cm、そしてこの含水率を測定するために、乾燥器で110℃、24時間乾燥して質量を測定した。その結果約1.06グラムであり、含水率は約3.6質量%である。
【0033】
以上述べたように簡単な装置で、シリコンスラッジの含水率を5質量%以下にでき、且つ取り扱いが容易な成形体にできるので従来の水を分離する方法での含水率の問題、およびシリコンスラッジの取り扱いの問題を解決できる。
【0034】
参考までに、現状の脱水能力の最も高いフィルタープレスは、シリコンスラッジの含水率の限界は約30質量%であるといわれている。これに比較して水分離・成形装置の脱水能力の限界は約1〜5質量%である。これは、水分離・成形装置の加圧力がフィルタープレスに比較して大きいことと、水分離・成形装置は、吸水装置を持っていることによるものである。
【0035】
以上述べた構成は、水分離・成形装置の作用を説明するのが容易なように小型のものについてであった。しかし、実際は、多量のシリコンスラリーを処理するためにもっと大型の
水分離・成形装置にするか、あるいは上に述べたような小型の水分離・成形装置を複数台用いる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のシリコンスラリーを原料とするシリコン粉末の成形方法は、多結晶シリコンインゴット用の原料になるシリコン粉末成形体の製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の構成の水分離・成形装置を示す構造概略図である。
【符号の説明】
【0038】
1 水分離・成形装置
2 上パンチ
3 下パンチ
4 ダイ
5 ベース
6 Oリング
7 吸水装置
8 真空ポンプ
9 排水路
10 排水口
11 吸水管
12 吸引濾過瓶
13 濾過シート
14 シリコンスラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン粉末と水とのシリコンスラリーに、機械的な圧力と真空ポンプによる吸引力を同時に与えることにより、水を分離しかつ成形を行うことを特徴とする。

【図1】
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【公開番号】特開2011−201708(P2011−201708A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288230(P2008−288230)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(500222021)
【Fターム(参考)】