説明

シリコン半導体結晶の製造方法

【課題】浮遊帯溶融法(FZ法)により大直径のシリコン半導体結晶を製造する場合であっても、コーン部における有転位化および放電による無転位化の阻害の両方を防止することができ、高品質のシリコン半導体結晶を高歩留まりで製造することのできるシリコン半導体結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、原料となるシリコン半導体棒を溶融して種結晶に融着させた後、チャンバ内で直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し、その後、170mm以上の所望の直径に制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成する浮遊帯溶融法において、シリコン半導体結晶の育成中に前記チャンバ内の圧力を、予め準備したパターンにしたがって、低い状態から高い状態へ変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも、原料となるシリコン半導体棒を溶融して種結晶に融着させた後、チャンバ内で直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し、その後、所望の直径に制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成する浮遊帯溶融法によるシリコン半導体結晶を製造する方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
浮遊帯溶融法(FZ法:フローティングゾーン法ともいう)は、原料半導体棒を誘導加熱コイルで加熱溶融して浮遊帯域を形成し、該浮遊帯域を移動することで、半導体結晶を育成する方法である。
FZ法で製造される半導体結晶としては、例えば、シリコン半導体結晶が挙げられる。このようなFZシリコン半導体結晶は、例えば、図4に示すような工程に従い、図5に示すように、シリコン半導体結晶をFZ半導体結晶製造装置によって製造することができる。
【0003】
FZシリコン半導体結晶の製造は、少なくとも、図4のように、原料となるシリコン半導体棒を溶融して種結晶に融着させた(a)後、チャンバ内で直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し(b)、その後、所望の直径に制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成する(c)ことによって行われる。
【0004】
例えば、具体的には、まず、原料となるシリコン半導体棒1を、チャンバ20内に設置された上軸3の上部保持治具4に保持する。一方、直径の小さい単結晶の種(種結晶)8を、原料シリコン半導体棒1の下方に位置する下軸5の下部保持治具6に保持する。次に、誘導加熱コイル7により原料シリコン半導体棒1を溶融して、種結晶8に融着(種付け)させる(図4(a))。その後、種絞り(ネッキング)により絞り部9を形成して無転位化する。
【0005】
そして、上軸3と下軸5を回転させながらチャンバ内で浮遊帯域(溶融帯あるいはメルトともいう。)10を形成し、該浮遊帯域10を原料シリコン半導体結晶棒1の上端まで移動させながらゾーニングしつつ、シリコン半導体結晶2のコーン部18を、直径を拡大させながら育成し(図4(b))、該シリコン半導体結晶2の直胴部19を、所望の直径に制御しつつ育成する(図4(c))。
【0006】
このシリコン半導体結晶2の育成は、一般にArガス等の希ガスに微量の窒素ガスを混合した雰囲気下で行うことが多い。該雰囲気は、ガス導入部17から導入ガス23として導入し、排出ガス22としてガス排出部16から排出される。
【0007】
上記誘導加熱コイル7としては、銅または銀からなる単巻または複巻の冷却用の水を流通させた誘導加熱コイルが用いられており、例えば図6に示す誘導加熱コイル7aが知られている(例えば、特許文献1参照)。この誘導加熱コイル7aは、スリット12を有するリング状の誘導加熱コイルで、外周面15から内周面14に向かって断面先細り状に形成されている。また、加熱コイルの外周面15には、電源端子13a、13bが設けられている。この両端子13a、13b側の対向面12a、12bをスリット12を介して極力接近させるようにしており、これにより、誘導加熱コイル7の周方向における電流回路の対称性を維持し、ほぼ均一な磁界分布が得られるようにしている。
【0008】
このようなFZ半導体結晶製造装置40では、原料シリコン半導体棒1を狭小域において短時間に芯まで溶融する必要がある。そのため、電源端子13a、13b間に高電圧を印加することにより、誘導加熱コイルに高電流を発生させて原料シリコン半導体結晶棒1を溶融している。しかし、このように電源端子13a、13b間に高電圧を印加すると、シリコン半導体結晶2の成長中に誘導加熱コイル7のスリット12、特にコイルスリット外周部の電圧が高くなり、放電が発生し、結晶の無転位化が阻害されるという問題が生じていた。
【0009】
そこで、誘導加熱コイルのスリットでの放電を防止するために、誘導加熱コイルのスリットの空隙部に絶縁性部材を挿入する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、高電圧、高電流にするために、コイルを2重巻きとして、外巻き部と内巻き部の間で発生する放電を防止するために外巻き部を絶縁性部材で被覆する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。さらに、このような対策に加えて、チャンバ内の圧力を高くしたり、窒素ガスをより多く流すといった方法を併せて行うことにより、誘導加熱コイルのスリット、あるいは外巻き部と内巻き部の間等の放電防止をより確実なものにしようとしてきた。
【0010】
しかし、近年では、育成するシリコン半導体結晶の大直径化に伴い、誘導加熱コイルの電源端子に印加する電圧をより高くする必要がある。大直径の原料シリコン半導体棒を誘導加熱コイルで溶融して浮遊帯域を形成するためには、高い電力が必要だからである。例えば、直径200mmのシリコン半導体結晶の育成では、消費電力が160kWを超えるような高い電力で原料シリコン半導体棒を溶融して浮遊帯域を形成し、結晶化している。
【0011】
このような直径170mm以上、特には直径200mm以上の大直径のシリコン半導体結晶の製造における高電圧における放電を完全に防止することは困難であるため、従来の放電防止方法に加え、チャンバ内の圧力を0.18MPa以上に高くする方法が採用されている。しかし、これによって放電を防止するには一定の効果があるものの、コーン部での有転位化が非常に起こりやすくなり、結晶の製造歩留まりが大幅に低下するという問題があった。
【0012】
【特許文献1】特公昭51−24964号公報
【特許文献2】特公昭63−10556号公報
【特許文献3】特開昭50−37346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、浮遊帯溶融法(FZ法)により大直径のシリコン半導体結晶を製造する場合であっても、コーン部における有転位化および放電による無転位化の阻害の両方を防止することができ、高品質のシリコン半導体結晶を高歩留まりで製造することのできるシリコン半導体結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明によれば、少なくとも、原料となるシリコン半導体棒を溶融して種結晶に融着させた後、チャンバ内で直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し、その後、所望の直径に制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成する浮遊帯溶融法によってシリコン半導体結晶を製造する方法において、シリコン半導体結晶の育成中に前記チャンバ内の圧力を変化させることを特徴とするシリコン半導体結晶の製造方法が提供される(請求項1)。
【0015】
このように、シリコン半導体結晶の育成中に前記チャンバ内の圧力を変化させることによって、育成中のシリコン半導体結晶の直径あるいは使用電力に応じて、最適なチャンバ内圧力を与えることができるので、コーン部の直径が小さい部分を育成する際に問題となるコーン部における有転位化と、直径が大きい部分を育成する際に生じる放電による有転位化の両方を防止し、大直径で高品質のFZシリコン半導体結晶を高歩留まりで製造することができる。
【0016】
このとき、前記チャンバ内の圧力の変化を、低い状態から高い状態へ変化させることが好ましい(請求項2)。
印加電圧が低く放電の危険性が小さいコーン部の直径が小さい部分を育成する際には、チャンバ内圧力を低い状態とすることによって、コーン部における有転位化を防止することができる。そして、印加電圧が高く放電の危険性が高い直径が大きい部分を育成する際には、チャンバ内圧力を変化させ、高い状態とすることによって、放電を抑制することができて、放電による有転位化を防止することができる。
【0017】
また、前記シリコン半導体結晶を、窒素ガスを含む不活性ガス雰囲気下で育成することが好ましい(請求項3)。
このように、シリコン半導体結晶を、窒素ガスを含む不活性ガス雰囲気下で育成することによって、放電の防止効果が高く、結晶強度の高い高品質のシリコン半導体結晶を製造することができる。
【0018】
さらに、前記育成するシリコン半導体結晶として、直胴部の直径が170mm以上のものを育成することが好ましい(請求項4)。
直胴部の直径が170mm以上、さらには、200mm以上の大直径のFZシリコン半導体結晶を製造する場合、放電防止のためにチャンバ内の圧力を高くするとコーン部における有転位化が起こりやすくなるという問題が顕著であるため、特に本発明のシリコン半導体結晶の製造方法で製造することが有効である。
【0019】
また、前記チャンバ内の圧力を、予め準備したパターンによって変化させることが好ましい(請求項5)。
このように、チャンバ内の圧力を、例えば予め準備したパターンに従って変化させることによって、育成中のシリコン半導体結晶の直径に応じた所望の圧力に自動で制御して変化させることができ、より確実に放電とコーン部における有転位化の両方を防ぐことができる。
【0020】
さらに、前記チャンバ内の圧力を、シリコン半導体結晶の育成中に0.03MPa以上変化させることが好ましい(請求項6)。
このように、チャンバ内の圧力を、シリコン半導体結晶の育成中に0.03MPa以上変化させることによって、大直径のシリコン半導体結晶を育成する際に、放電およびコーン部における有転位化の両方をより効果的に防ぐことができる。
【0021】
また、前記シリコン半導体結晶のコーン部の育成を開始してから該シリコン半導体結晶の直径が30mmになるまで、前記チャンバ内の圧力を0.15MPa以下として育成することが好ましい(請求項7)。
このように、シリコン半導体結晶のコーン部の育成を開始してから該シリコン半導体結晶の直径が30mmになるまで、前記チャンバ内の圧力を0.15MPa以下として育成することによって、より効果的にコーン部における有転位化を防ぐことができる。
【0022】
さらに、前記育成中のシリコン半導体結晶の直径が170mm以上の部分を育成する際に、前記チャンバ内の圧力を0.18MPa以上として育成することが好ましい(請求項8)。
このように、育成中のシリコン半導体結晶の直径が170mm以上の部分を育成する際に、前記チャンバ内の圧力を0.18MPa以上として育成することによって、印加電圧が高く放電の危険性が特に高い直径が170mm以上の大きい部分を育成する際にも、放電を効果的に抑制することができるため、放電による無転位化の阻害を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本発明のシリコン半導体結晶の製造方法によって、FZ法により大直径のシリコン半導体結晶を製造する場合であっても、コーン部における有転位化および放電による無転位化の阻害の両方を防止し、高品質のシリコン半導体結晶を高歩留まりで安定して製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
大直径のシリコン半導体結晶をFZ法によって製造する場合、放電防止のために誘導加熱コイルのスリットの空隙部に絶縁性部材を挿入する等の従来の方法のみで放電を完全に防止することは困難であるため、チャンバ内の圧力を高くする必要があった。しかし、これによって放電が防止できても、コーン部での有転位化が非常に起こりやすくなり、歩留まりが大幅に低下するという問題があった。
【0025】
そこで、本発明者等は、このようにシリコン半導体結晶の有転位化する問題について鋭意検討を重ねたところ、放電を防止するためにチャンバ内の圧力を高くして育成した場合、原料シリコン半導体棒のメルト量が少ない時点で、チャンバ内の圧力が高いと、原料シリコン半導体結晶の先端及び種結晶の先端に窒化膜が厚く生成されることにより、メルト中の窒素濃度が高くなることや窒化膜が完全に溶融せずに固液界面に到達することによって、コーン部での有転位化が非常に起こりやすくなることに気がついた。すなわち、チャンバ内圧力が低いままで育成すると結晶口径が大きくなったところで放電が発生し、チャンバ内圧力が高いままで育成すると、コーン部における有転位化が起こりやすくなるということであった。
【0026】
そこで、本発明者等は、原料となるシリコン半導体棒を溶融して種結晶に融着させた後、チャンバ内で直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し、その後、所望の直径に制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成する浮遊帯溶融法によってシリコン半導体結晶を製造する方法において、シリコン半導体結晶の育成中に前記チャンバ内の圧力を変化させることによって、コーン部での有転位化と大径部での放電の両方を防止し、高品質の大直径のFZシリコン半導体結晶を高歩留まりで製造することができることに想到し、本発明を完成させた。
【0027】
具体的には、印加電圧が低く放電の危険性が小さくメルト量も少ないコーン部の直径が小さい部分を育成する際には、チャンバ内の圧力を低い状態とすることで、メルト中の窒素濃度が高くなったり窒化膜が完全に溶融せずに固液界面に到達するのを抑制することができて、コーン部における有転位化を防止することができる。そして、印加電圧が高く放電の危険性が高くメルト量も多い直径が大きい部分を育成する際には、チャンバ内の圧力が高い状態とすることで放電を抑制するこができて、放電による無転位化の阻害を防止することができる。尚、FZ結晶による育成の最後に、育成半導体結晶の径を縮小し、原料棒と切り離す場合には、コーン部とは逆に圧力を高い状態から低い状態に下げるようにしてもよい。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明に係るシリコン半導体結晶の製造方法の一例のフロー図である。図2は、 本発明に係るシリコン半導体結晶のFZ半導体結晶製造装置による製造の一例を示した概略断面図である。
【0029】
本発明のシリコン半導体結晶の製造方法は、例えば、図1のように、低圧力で原料となるシリコン半導体棒を溶融して種結晶に融着させた(a)後、チャンバ内で直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し、その際に、前記チャンバ内の圧力を上げるように変化させ(b)、その後、その上げた圧力で所望の直径に制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成する(c)浮遊帯溶融法によってシリコン半導体結晶を製造する方法である。
【0030】
例えば、具体的には、まず、原料となるシリコン半導体棒1を、FZ半導体結晶製造装置30のチャンバ20内に設置された上軸3の上部保持治具4に保持する。一方、直径の小さい単結晶の種(種結晶)8を、原料シリコン半導体棒1の下方に位置する下軸5の下部保持治具6に保持する。次に、図6に示すような誘導加熱コイル7により原料シリコン半導体棒1を溶融して、種結晶8に融着(種付け)させる(図1(a))。その後、種絞り(ネッキング)により絞り部9を形成して無転位化する。この時、雰囲気圧力は、例えば0.15MPa以下の低圧としておく。
【0031】
そして、上軸3と下軸5を回転させながら密閉したチャンバ内で浮遊帯域(溶融帯あるいはメルトともいう。)10を形成し、該浮遊帯域10を原料シリコン半導体結晶棒1の上端まで移動させながらゾーニングしつつ、シリコン半導体結晶2のコーン部18を、直径を拡大させながら育成し、その際に、ガス排気部16およびガス導入部17に設けたチャンバ内圧力制御機構21a、21bによって排出ガス22および導入ガス23の流量を制御することにより、例えば図3のグラフに示すように、前記チャンバ内の圧力を低い状態から高い状態へ徐々に変化させ(図1(b))、その後、その高い圧力のまま該シリコン半導体結晶2の直胴部19を、所望の直径に制御しつつ育成する(図1(c))。
【0032】
このシリコン半導体結晶2の育成は、窒素ガスを含む不活性ガス雰囲気下で育成することが好ましい。これによって、放電の防止効果が高く、結晶強度が高いとともに結晶欠陥も少ない高品質のシリコン半導体結晶を高歩留まりで製造することができる。
該窒素ガスを含む不活性ガス雰囲気は、特に、Arガス等の希ガスに微量の窒素ガスを混合した雰囲気が好ましい。これによって、コーン部での有転位化防止と放電防止の両方に高い効果を得ることができる。なお、該雰囲気は、ガス導入部17から導入ガス23として導入し、排出ガス22としてガス排出部16から排出することができる。これらの流量をチャンバ内圧力制御機構としての弁21a、21bの開度を調整することによって制御すれば、容易にチャンバ内圧力を変更制御できる。
【0033】
また、直胴部の直径が170mm以上、さらには、200mm以上の大直径のFZシリコン半導体結晶を製造する場合、放電防止のためにチャンバ内の圧力を育成当初より高くすると有転位化が起こりやすくなるという問題が顕著であり、特に本発明により低圧力でコーン部を育成し、大口径化したら圧力を上げるというシリコン半導体結晶の製造方法で製造することが有効である。
【0034】
チャンバ内の圧力は、予め準備したパターンによって変化させることが好ましい。これによって、チャンバ内圧力を、育成中のシリコン半導体結晶の直径に応じた所望の圧力に自動制御して変化させることができ、より確実に放電とコーン部における有転位化の両方を防ぐことができる。また、作業者の負担も軽減できる上に、バラツキを防止できる。
なお、徐々にチャンバ内圧力を変化させることで乱流による異物混入等の有転位化要因を排除することができる。
【0035】
また、チャンバ内の圧力を、シリコン半導体結晶の育成中に0.03MPa以上変化させることが好ましい。これによって、大直径のシリコン半導体結晶を製造する場合であっても、大口径部での放電およびコーン部における有転位化の両方をより効果的に防ぐことができる。
【0036】
さらに、シリコン半導体結晶のコーン部の育成を開始してから該シリコン半導体結晶の直径が30mmになるまで、前記チャンバ内の圧力を0.15MPa以下として育成することが好ましい。これによって、より効果的にコーン部における有転位化を防ぐことができる。
また、直径30mmより小さい部分を育成する際には印加電圧が低いため、前記チャンバ内圧力は、0.02MPa以上であれば、放電は発生し難い。
【0037】
また、育成中のシリコン半導体結晶の直径が170mm以上の部分を育成する際に、前記チャンバ内の圧力を0.18MPa以上として育成することが好ましい。これによって、大直径のシリコン半導体結晶を製造する場合であっても、より効果的に放電を防ぐことができる。
また、直径170mm以上の部分を育成する際にはメルト量が多いため、前記チャンバ内圧力が0.30MPa以下であれば、メルト中に窒素濃度が非常に高くなる事や窒化膜が完全に溶融せずに固液界面に到達し、有転位化を生じる危険は少ない。
【0038】
例えば、図3に示すように、種付け前からシリコン半導体結晶のコーン部の直径が60mmになるまで、チャンバ内圧力を0.10MPaとして育成し、コーン部の直径が60mmから140mmになる間に徐々に圧力を変化させて、直径140mm以降のコーン部から直径205mmの直胴部を0.20MPaとして育成することができる。
【0039】
以上のような本発明のシリコン半導体結晶の製造方法によって、FZ法により大直径のシリコン半導体結晶を製造する場合であっても、製造するシリコン半導体結晶が中間多結晶である場合およびシリコン単結晶である場合ともに、コーン部における有転位化および放電による無転位化の阻害の両方を防ぐことができるため、転位が少ないまたは無い高品質のシリコン半導体結晶を高歩留まりで製造することが可能となった。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
原料シリコン半導体棒として、直径150mmの多結晶シリコンを溶融して種結晶に融着させた(種付け)後、密閉したチャンバ内でFZ法によりゾーニングしつつ、シリコン半導体結晶のコーン部を、直径を拡大させながら育成し、その際に、前記チャンバ内の圧力を変化させ、その後、該シリコン半導体結晶の直胴部を、目標直径に制御しつつ育成し、該シリコン半導体結晶として、直胴部の直径205mm、直胴長さ30cmのシリコン単結晶を製造した。
【0041】
このシリコン単結晶の製造の際には、図2に示すFZ半導体結晶製造装置30を用いた。誘導加熱コイルは、具体的には、内側の第一加熱コイルの外径を170mm、外側の第二加熱コイルの外径を280mmのパラレルコイルとし、コイルスリットの空隙部に絶縁性部材を挿入し、Arガス流量を30L/min、チャンバ内窒素ガス濃度を0.1%、結晶成長速度を2.0mm/min、上軸と下軸の偏芯量を12mmとした。また、チャンバ内の圧力を、図3のパターンに従い0.10MPaから0.20MPaまで徐々に増加していった。
そして、FZ法によるシリコン単結晶の育成を8回実施した。その結果、8回中、コーン部の有転位化トラブルは2回、ノントラブルは6回であり、放電は全く発生せず、大直径で高品質のシリコン半導体結晶を高歩留まりで製造することができた。
【0042】
(比較例1)
原料シリコン半導体棒として、直径150mmの多結晶シリコンをFZ法によりゾーニングしつつ、直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し、その後、直径を制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成し、該シリコン半導体結晶として、直胴部の直径205mm、直胴長さ30cmのシリコン単結晶を製造した。
【0043】
このシリコン単結晶の製造の際には、図5に示すFZ半導体結晶製造装置40を用い、チャンバ内の圧力を種付け前から直胴部の育成まで0.10MPa一定としたこと以外は、実施例と同様の方法で、FZ法によるシリコン単結晶の育成を12回実施した。その結果、12回中、全て放電によるトラブルが発生し、特に直径170mm以上の部分で無転位化することが困難であった。
【0044】
(比較例2)
原料シリコン半導体棒として、直径150mmの多結晶シリコンをFZ法によりゾーニングしつつ、直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し、その後、直径を制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成し、該シリコン半導体結晶として、直胴部の直径205mm、直胴長さ30cmのシリコン単結晶を製造した。
【0045】
このシリコン単結晶の製造の際には、図5に示すFZ半導体結晶製造装置40を用い、チャンバ内の圧力を種付け前から直胴部の育成まで0.20MPa一定としたこと以外は、実施例と同様の方法で、FZ法によるシリコン単結晶の育成を10回実施した。その結果、10回中、コーン部の有転位化によるトラブルが9回、ノントラブルが1回で、生産性および歩留まりが非常に低い結果となった。
【0046】
以上のように、本発明のシリコン半導体結晶の製造方法によれば、FZ法により大直径のシリコン半導体結晶を製造する場合であっても、コーン部における有転位化および放電による無転位化の阻害の両方を効果的に防ぐことができ、高品質のシリコン半導体結晶を高歩留まりで製造することが可能となった。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
例えば、上記では、結晶育成中に圧力を上げるように変化させたが、目的に応じ、圧力変化パターンは適宜変更できる。例えば、結晶底部では、圧力を下げるように制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るシリコン半導体結晶の製造方法の一例のフロー図である。
【図2】本発明に係るシリコン半導体結晶のFZ半導体結晶製造装置による製造の一例を示した概略断面図である。
【図3】本発明に係るチャンバ内の圧力の変化パターンの一例である。
【図4】従来技術に係るシリコン半導体結晶の製造方法の一例のフロー図である。
【図5】従来技術に係るシリコン半導体結晶のFZ半導体結晶製造装置による製造の一例を示した概略断面図である。
【図6】FZ法に用いる誘導加熱コイルの一例の斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1…原料シリコン半導体棒、 2…シリコン半導体結晶棒、
3…上軸、 4…上部保持治具、 5…下軸、 6…下部保持治具、
7、7a…誘導加熱コイル、 8…種結晶、 9…絞り部、 10…浮遊帯域、
12…スリット、 12a、12b…対向面、
13a、13b…電源端子、 14…内周面、 15…外周面、
16…ガス排出部、 17…ガス導入部、 18…コーン部、 19…直胴部、
20…チャンバ、 21a、21b…チャンバ内圧力制御機構、
22…排出ガス、 23…導入ガス、 30、40…FZ半導体結晶製造装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、原料となるシリコン半導体棒を溶融して種結晶に融着させた後、チャンバ内で直径を拡大させながらシリコン半導体結晶のコーン部を育成し、その後、所望の直径に制御しつつ該シリコン半導体結晶の直胴部を育成する浮遊帯溶融法によってシリコン半導体結晶を製造する方法において、シリコン半導体結晶の育成中に前記チャンバ内の圧力を変化させることを特徴とするシリコン半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記チャンバ内の圧力の変化を、低い状態から高い状態へ変化させることを特徴とする請求項1に記載のシリコン半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン半導体結晶を、窒素ガスを含む不活性ガス雰囲気下で育成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記育成するシリコン半導体結晶として、直胴部の直径が170mm以上のものを育成することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のシリコン半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記チャンバ内の圧力を、予め準備したパターンによって変化させることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のシリコン半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記チャンバ内の圧力を、シリコン半導体結晶の育成中に0.03MPa以上変化させることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のシリコン半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記シリコン半導体結晶のコーン部の育成を開始してから該シリコン半導体結晶の直径が30mmになるまで、前記チャンバ内の圧力を0.15MPa以下として育成することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のシリコン半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
前記育成中のシリコン半導体結晶の直径が170mm以上の部分を育成する際に、前記チャンバ内の圧力を0.18MPa以上として育成することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のシリコン半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−145610(P2007−145610A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338346(P2005−338346)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】