説明

シリコン単結晶の円筒研削方法

【課題】シリコン単結晶の軸線と把持カップの回転軸の軸線が一致した状態で、把持カップがクラウン部並びにテール部を把持することができ、シリコン単結晶の直胴部を完全な円筒形に研削することができる単結晶の円筒研削方法を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶Wのクラウン部Wc及びテール部Wtの外周側面を、前記把持カップの内面形状と同一形状を有する研削砥石24により研削し、その後、円筒研削装置の把持カップに、前記クラウン部及びテール部を装着し、前記シリコン単結晶の直胴部の外周側面を研削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の直胴部を円筒形に研削するための、シリコン単結晶の円筒研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造方法として、CZ法が知られている。この製造方法について説明すると、まず育成炉内に設置されたルツボに原料塊を収容し、高温加熱して溶融する。その後、種結晶を着液させ、ネック工程を経て円錐形状のクラウン部を育成する。そして更に、ウエハの母材となる円筒状の直胴部を育成してから下端が突出した円錐形のテール部を育成する。
このようにして形成されたシリコン単結晶(いわゆるインゴット)は、種結晶の下に上端が突出した円錐形のクラウン部と、円筒形の直胴部と下端が突出した円錐形のテール部より構成される。
【0003】
そして、このシリコン単結晶内、直径が略一定な円筒形の直胴部のみが製品とされる。そのため、例えば、特許文献1に示されるように、シリコン単結晶の直胴部に発生した凹凸を研削し、前記直胴部が完全な円筒形になるようにその外周側面を研削する。
【0004】
この外周側面の研削は、図5に示す円筒研削装置によってなされる。図に示すように、この円筒研削装置1は、基台2と、前記基台2の上面に設けられたシリンダ部材3,3と、前記シリンダ部材3,3の上端部に設けられたVブロック4,4と、シリコン単結晶Wのクラウン部Wcを把持する把持カップ5と、テール部Wtを把持する把持カップ6と備えている。この把持カップ5,6は、モータ7,8によって回転可能に構成されている。したがって、シリコン単結晶(インゴット)Wは、前記Vブロック4,4上に載置され、この把持カップ5,6によって、前記シリコン単結晶Wが回転可能に支持されている。
【0005】
更に、この円筒研削装置1は、例えばダイヤモンドホイール等の研削砥石9を備えている。前記研削砥石9の軸9aとモータ10の駆動軸10aとは、ベルト11によって連結され、研削砥石9はモータ10の回転によって回転駆動されるように構成されている。
そして、前記シリコン単結晶Wを回転させると共に、研削砥石9を回転させながらシリコン単結晶Wの軸線方向に、かつ前記シリコン単結晶の軸線と平行に移動させることにより、シリコン単結晶Wの直胴部Wsの外周側面を研削し、所定の直径を備える直胴部Wsを有するシリコン単結晶Wに仕上げている。
【0006】
また、特許文献2には、引き上げられたシリコン単結晶Wの外周側面の研削に際し、引上げ後、シリコン単結晶Wからクラウン部Wc、テール部Wtを切断し、その直胴部Wtの切断端面に擬似クラウン、擬似テールを接合させ、把持カップ5,6に正確に把持させる方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−58185号公報
【特許文献2】特開2000−263434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記円筒研削装置1にあっては、シリコン単結晶Wの両端のクラウン部Wc及びテール部Wtを把持カップ5,6で把持するように構成されている。そして、把持カップ5,6でクラウン部Wc及びテール部Wtを把持することでシリコン単結晶Wの軸芯のセンター出しが行なわれる。
したがって、前記把持カップ5,6がクラウン部Wc及びテール部Wtを正確に把持できれば、シリコン単結晶Wの軸線と把持カップ5,6の回転軸の軸線が一致した状態でシリコン単結晶を回転させながら、シリコン単結晶Wの外周側面を研削することができる。
【0008】
しかし実際には、クラウン部Wc及びテール部Wtの表面には凹凸が存在し、また把持カップ受入部の形状(内面形状)とクラウン部Wc及びテール部Wtの形状も異なることから、把持カップ5,6とクラウン部Wc及びテール部Wtとが点接触状態で把持される。このような点接触状態で把持されると、図6に示すように、シリコン単結晶Wの軸線L1と把持カップ5,6の回転軸の軸線L2が不一致の状態となるため、研削が径方向において不均一な状態となり、研削が不十分となるという問題があった。
【0009】
この問題を解決方法として、引き上げられるシリコン単結晶Wの直径を大きく形成することが考えられる。しかしながら、シリコン単結晶Wの直径を大きくすることは、一方においてシリコン単結晶Wの外周側面の研削される部分が増大することを意味し、単結晶歩留低下の原因となるという新たな問題を招来する。
【0010】
また、特許文献2に記載されているように、クラウン部Wc、テール部Wtを切断し、切断端面に擬似クラウン、擬似テールを接合させ、把持カップに正確に把持させる方法がある。
しかしながら、この方法による場合には、外周側面研削前にシリコン単結晶Wからクラウン部Wc、テール部Wtを切断し、擬似クラウン、擬似テールを取付ける必要があり、取付け精度が要求されると共に、この切断に伴って直胴部Wtにロスが生じるため、実用的ではなかった。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、シリコン単結晶の軸線と把持カップの回転軸の軸線が一致した状態で、把持カップがクラウン部並びにテール部を把持することができ、シリコン単結晶の直胴部を完全な円筒形に研削することができる単結晶の円筒研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかるシリコン単結晶の円筒研削方法は、引き上げられたシリコン単結晶のクラウン部とテール部を、円筒研削装置の把持カップに把持させ、前記シリコン単結晶の直胴部を円筒形に研削するためのシリコン単結晶の円筒研削方法において、シリコン単結晶のクラウン部及びテール部の外周側面を、前記把持カップの内面形状と同一形状に研削する工程と、前記工程の後、円筒研削装置の把持カップに、前記クラウン部及びテール部を装着し、前記シリコン単結晶の直胴部の外周側面を研削する工程とを備えていることを特徴としている。
【0013】
このように、シリコン単結晶のクラウン部及びテール部の外周側面を、前記把持カップの内面形状と同一形状に研削するため、クラウン部及びテール部の外周側面の形状は把持カップの内面形状と同一形状となり、しかも凹凸のない滑らかな面に形成される。
これにより、把持カップがクラウン部及びテール部を把持した際、クラウン部と把持カップの内面、及びテール部と把持カップの内面は面接触となる。前記クラウン部及びテール部が把持カップと面接触状態にある場合には、シリコン単結晶の軸線と把持カップの回転軸の軸線が一致した状態に把持され、シリコン単結晶が回転した際、軸心ぶれが生じないため、シリコン単結晶の径方向に均一な研削を行うことができる。
【0014】
ここで、把持カップの内面形状が円錐形状あるいは半球状形状であり、前記クラウン部及びテール部が円錐形状あるいは半球状形状に研削されることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明にかかるシリコン単結晶の円筒研削方法にあっては、シリコン単結晶の軸線と把持カップの回転軸の軸線が一致した状態で、把持カップがクラウン部、テール部を把持することができ、シリコン単結晶の直胴部を完全な円筒形に研削することができるシリコン単結晶の円筒研削方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図1乃至図3に基づいて説明する。なお、円筒研削装置は従来の装置と変わらないため、必要に応じて図5、図6を用いて説明する。
本発明は、図5に示した円筒研削装置1の把持カップ5,6がシリコン単結晶Wを把持する前に、クラウン部Wc、テール部Wtの外周側面を研削加工し、滑らかな面を形成する点に特徴がある。
【0017】
具体的に説明すると、図1に示すように、引き上げられたシリコン単結晶Wのクラウン部Wcの凹凸を有する外周側面W1の一部が研削され、滑らかな面W2が形成される。クラウン部Wcは円錐形状であるため、その頂点から底面(直胴部)方向の領域において研削される。この領域は、図3に示すように、クラウン部Wcと円筒研削装置1の把持カップ5とが接触する領域を越えて、研削される。必ずしも、クラウン部Wcの凹凸を有する外周側面W1の全面を研削し、滑らかな面とする必要はない。
【0018】
このクラウン部Wcの外周側面の研削は、図2に示す研削装置によってなされる。図に示すように、この研削装置20は、基台21と、前記基台21の上面に設けられたシリンダ部材22,22と、前記シリンダ部材22,22の上端部に設けられたシリコン単結晶Wを載置するVブロック23,23と、シリコン単結晶Wのクラウン部Wcを研削する研削砥石24と、前記研削砥石24を回転させるためのモータ25を備えている。尚、このモータ25は基台21に支持台26を介して取付けられている。
【0019】
また、前記研削砥石24の内面形状は、把持カップ5の内面形状と同一形状に形成されている。したがって、この研削砥石24でクラウン部Wcを研削すると、クラウン部Wcの外周側面の形状は把持カップ5の内面形状と同一形状となり、しかも凹凸のない滑らかな面に形成される。これにより、把持カップ5がクラウン部Wcを把持した際、クラウン部Wcと把持カップ5の内面は面接触となる。
【0020】
また、テール部Wtも同様に、把持カップ6の内面形状と同一形状に形成された研削砥石によって研削する。研削装置20の研削砥石24を交換することによって、テール部Wtの研削を行うことができる。
前記研削砥石でテール部Wtを研削すると、クラウン部Wcと同様に、テール部Wtの外周側面の形状は把持カップ6の内面形状と同一形状となり、しかも凹凸のない滑らかな面に形成される。これにより、把持カップ6がテール部Wtを把持した際、テール部Wtと把持カップ6の内面は面接触となる。
【0021】
このように、クラウン部Wc及びテール部Wtが把持カップ5,6と面接触状態にあるため、図3に示すように、シリコン単結晶Wの軸線L1と把持カップ5,6の回転軸の軸線L2が一致した状態で把持される。
そして、図5に示した円筒研削装置1により、前記シリコン単結晶Wを回転させると共に、研削砥石9を回転させながらシリコン単結晶Wの軸線方向に移動させる。これにより、シリコン単結晶Wの直胴部Wsの外周側面は径方向に均一に研削され、所定の直径を備える直胴部Wsを有するシリコン単結晶に仕上げられる。
【0022】
尚、前記実施形態にあっては、把持カップの内面形状、研削砥石の内面形状が円錐形状に形成されたものを示したが、本発明は特にこれに限定されるものではなく、把持カップの内面形状と研削砥石の内面形状を半球形状になし、クラウン部及びテール部の形状を半球形状になしても良い。
【実施例】
【0023】
本発明にかかる加工方法を用いて実験を行い、検証を行った。
(実験例1)
CZ方により引き上げられた、直径が304±1mmで重量が220kgのシリコン単結晶のクラウン部及びにテール部の外周側面を、図2に示した研削装置を用いて研削し、その面を滑らかな面とした。
そして、続いて、図5に示した円筒研削装置を用いて、シリコン単結晶の最外周から径方向に1.0〜2.0mm範囲で研削し、最終研削直径301mmに研削加工した。
その結果、直胴部は完全な円筒形に研削することができ、凹凸部が残存するような研削が不十分の箇所は存在しなかった。
【0024】
(実験例2)
CZ方により引き上げられた、直径が203±1mmで重量が120kgのシリコン単結晶をクラウン部及びテール部の周面を、図2に示した研削装置を用いて研削し、その面を滑らかな面とした。
そして、続いて、図5に示した円筒研削装置を用いて、シリコン単結晶の最外周から径方向に0.5〜1.5mm範囲で研削し、最終研削直径201mmに研削加工した。
その結果、直胴部は完全な円筒形に研削することができ、凹凸部が残存するような研削が不十分の箇所は存在しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明にかかるシリコン単結晶の円筒研削方法は、半導体製造分野において好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明にかかるシリコン単結晶の円筒研削方法を用いて研削されたシリコン単結晶のクラウン部を示す側面図である。
【図2】図2は、図1に示したシリコン単結晶のクラウン部及びテール部を研削する研削装置を示す側面図である。
【図3】図3は、図1に示したシリコン単結晶のクラウン部を把持カップで把持した状態を示す断面図である。
【図4】図4は、クラウン部、テール部の変形例を示す図である。
【図5】図5は、円筒研削装置を示す概略構成図である。
【図6】図6は、図5に示した円筒研削装置における把持カップの把持状態を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
20 研削装置
21 基台
22 シリンダ部材
23 Vブロック
24 研削砥石
25 モータ
26 支持台
W シリコン単結晶(インゴット)
W1 凹凸を有する外周側面
W2 滑らかな面(研削面)
Wc クラウン部
Ws 直胴部
Wt テール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引き上げられたシリコン単結晶のクラウン部とテール部を、円筒研削装置の把持カップに把持させ、前記シリコン単結晶の直胴部を円筒形に研削するためのシリコン単結晶の円筒研削方法において、
シリコン単結晶のクラウン部及びテール部の外周側面を、前記把持カップの内面形状と同一形状に研削する工程と、
前記工程の後、円筒研削装置の把持カップに、前記クラウン部及びテール部を装着し、前記シリコン単結晶の直胴部の外周側面を研削する工程とを備えていることを特徴とするシリコン単結晶の円筒研削方法。
【請求項2】
把持カップの内面形状が円錐形状あるいは半球状形状であり、前記クラウン部及びテール部が円錐形状あるいは半球状形状に研削されることを特徴とする請求項2記載のシリコン単結晶の円筒研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−253254(P2007−253254A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78025(P2006−78025)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】