説明

シリコン単結晶の製造方法、およびこれに用いる覗き窓ガラス、結晶観察用窓ガラス、シリコン単結晶製造装置

【課題】ウェーハの外周部であってもFe及び/またはCu濃度が極めて低い高品質のシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】チョクラルスキー法により、チャンバに覗き窓が設けられ、該覗き窓に覗き窓ガラスが嵌め込まれており、且つ、シリコン単結晶を囲繞するように整流筒が配置され、該整流筒に結晶観察用窓ガラスが嵌め込まれている単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造方法であって、前記覗き窓ガラス及び/または前記結晶観察用窓ガラスとして、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスを用いることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(Czochralski Method、以下CZ法と称す)により製造されたシリコン単結晶の外周部における重金属不純物濃度、特にFeやCuが低減された極めて高品質なシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路素子の高集積化とそれに伴う微細化の進展は目覚しく、また、素子製造の歩留りを向上させるため、基板として用いられるウェーハの大口径化と高品質化が要求されている。基板中の酸素濃度や重金属不純物などの結晶品質に関連した項目は、半導体集積回路素子の特性に影響を与え(非特許文献1参照)、特にFe等の重金属汚染によりMOSのゲート酸化膜耐圧が劣化することが報告されている。また、シリコン単結晶に重金属汚染があった場合には、少数キャリアのライフタイムに大きな影響を与え、半導体集積回路素子に問題が生じる可能性がある。
【0003】
特に近年の素子製造における歩留り向上の重要な要素として、ウェーハの外周部における素子の収率向上が課題となっており、そのためウェーハの外周部においてもFeやCuなどの重金属汚染を低減させることが重要となっている。シリコン単結晶の重金属汚染の原因としては、融液中に不純物が混入することが挙げられるが、最近、整流筒などから放出されたFeが引上げ中のシリコン単結晶に付着することで不純物として混入することが分かってきた。
【0004】
CZ法において、特に200mm以上の大直径のシリコン単結晶を育成する場合には、原料融液から引上げた単結晶を囲むように整流筒を配置した装置を使用することが多い。整流筒は、育成中にチャンバ内に供給される不活性ガスを整流させ、融液から蒸発するシリコン酸化物を炉外へ効率的に排出させるためにも重要である。一般的な整流筒としては、黒鉛部材等の炭素材が用いられ、結晶から10mm〜200mmの範囲の距離、好ましくは10〜100mmの距離で結晶に近接するように配置されている。また、整流筒の材料としては、他にタングステン、モリブデン等の高融点金属を用いることもある。さらに、冷媒を用いる場合には、ステンレスや銅を整流筒の材料として用いることもできる。
【0005】
しかし、整流筒からFeなどの重金属成分が放出されると、育成中のシリコン単結晶表面に重金属不純物が付着し、その後の単結晶成長に伴い単結晶が育成中の超高温から室温まで冷却される過程において、結晶周辺から結晶中心に向かってFeが拡散する。特に結晶周辺部において著しい金属汚染を引き起こす場合がある。
【0006】
このような整流筒に起因する重金属汚染の対策として、整流筒の表面をFe濃度を極めて低く抑えた熱分解炭素の高純度皮膜等でコートすることが提案されている(特許文献1参照)。このように、整流筒の表面をFe濃度が低い皮膜でコートすることにより、整流筒からのFe成分の放出が抑制され、育成された単結晶の外周部におけるFe濃度を低く抑えることができる。
【0007】
また、育成中のシリコン単結晶が観察できるように、整流筒に設けられた結晶観察用窓に結晶観察用窓ガラスが嵌め込まれ、さらに、チャンバーに設置された覗き窓にも覗き窓ガラスが嵌め込まれる。この結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスとしては石英ガラスが用いられ、そして、これら石英ガラスには、Fe、Cuの不純物濃度が低い、高純度仕様のものを使用するのが一般的であった。
【0008】
しかしながら、上記のような炉内構成部品の高純度化を行い単結晶を育成しても、製造されたシリコン単結晶ウェーハの周辺部に重金属不純物であるFeやCuがある程度の頻度で検出されるという問題があった。
【0009】
【特許文献1】国際公開第01/81661号公報
【非特許文献1】ウルトラクリーンテクノロジー、Vol.5 NO5/6「シリコンウェーハの重金属汚染と酸化膜欠陥」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウェーハの外周部であってもFe及び/またはCu濃度が極めて低い高品質のシリコン単結晶の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、チョクラルスキー法により、チャンバに覗き窓が設けられ、該覗き窓に覗き窓ガラスが嵌め込まれており、且つ、シリコン単結晶を囲繞するように整流筒が配置され、該整流筒に結晶観察用窓ガラスが嵌め込まれている単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造方法であって、前記覗き窓ガラス及び/または前記結晶観察用窓ガラスとして、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスを用いることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法である(請求項1)。
【0012】
このように、チャンバの覗き窓に嵌め込まれた覗き窓ガラス及び/または整流筒に嵌め込まれた結晶観察用窓ガラスとして、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスを用いれば、結晶の外周部においてもFe及び/またはCu濃度が極めて低く抑えられた高品質のシリコン単結晶を製造することができる。その結果、このような単結晶から切り出したウェーハを半導体素子の基板として用いれば、ウェーハ外周部における素子の収率を向上させることが可能となる。
【0013】
この場合、前記覗き窓ガラス及び前記結晶観察用窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であることが好ましい(請求項2)。
【0014】
このように、覗き窓ガラス及び結晶観察用窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であり、上記のようにこの表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度を1ppm未満とすることで、シリコン単結晶の外周がFe及び/またはCuにほとんど汚染されることなく高品質のシリコン単結晶を製造することができる。
【0015】
この場合、前記覗き窓ガラス及び前記結晶観察用窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が、0.5ppm未満であることが好ましい(請求項3)。
【0016】
このように、覗き窓ガラス及び結晶観察用窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が0.5ppm未満であれば、確実に高品質のシリコン単結晶を製造することができる。
【0017】
また本発明は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するためのチャンバに設けられた覗き窓に嵌め込まれる覗き窓ガラスであって、前記覗き窓ガラスが、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスであることを特徴とする覗き窓ガラスを提供する(請求項4)。
【0018】
このように、覗き窓ガラスが、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスであれば、この覗き窓ガラスをシリコン単結晶の製造装置に用いた場合、単結晶がFe及び/またはCuの不純物に汚染されることを防止することができる。また、シリコン単結晶の製造過程で石英ガラス表面の白濁が生じにくくなり交換頻度が低減するため、製造コストを低減することができる。
【0019】
この場合、覗き窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であることが好ましい(請求項5)。
【0020】
このように、覗き窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であれば、これを用いた装置でシリコン単結晶を製造した場合、Fe及び/またはCu濃度が極めて低い高品質のシリコン単結晶を確実に得ることができる。さらに、シリコン単結晶の製造過程で石英ガラス表面が白濁しにくくなる。
【0021】
この場合、前記覗き窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が、0.5ppm未満であることが好ましい(請求項6)。
【0022】
このように、覗き窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が0.5ppm未満であれば、Fe及び/またはCu濃度が低いシリコン単結晶の製造に好適に使用することができる。
【0023】
さらに本発明は、チョクラルスキー法により育成されるシリコン単結晶を囲繞するように配置された整流筒に嵌め込まれる結晶観察用窓ガラスであって、前記結晶観察用窓ガラスが、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスであることを特徴とする結晶観察用窓ガラスを提供する(請求項7)。
【0024】
このように、結晶観察用窓ガラスが、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスであれば、これをシリコン単結晶の製造装置に用いた場合、単結晶がFe及び/またはCuに汚染されることを防止することができる。また、シリコン単結晶の製造過程で石英ガラス表面の白濁が生じにくくなり交換頻度が低減するため、製造コストを低減することができる。
【0025】
この場合、前記結晶観察用窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であることが好ましい(請求項8)。
【0026】
このように、結晶観察用窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であれば、これを用いた装置でシリコン単結晶を製造した場合、Fe及び/またはCu濃度が極めて低い高品質のシリコン単結晶を確実に得ることができる。さらに、シリコン単結晶の製造過程で石英ガラス表面が白濁しにくくなる。
【0027】
この場合、前記結晶観察用窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が、0.5ppm未満であることが好ましい(請求項9)。
【0028】
このように、結晶観察用窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が0.5ppm未満であれば、Fe及び/またはCu濃度が低いシリコン単結晶の製造に好適に使用することができる。
【0029】
また本発明は、少なくとも、上記の覗き窓ガラスが嵌め込まれた覗き窓を設けたチャンバ、及び/または、上記の結晶観察用窓ガラスが嵌め込まれた整流筒を具備することを特徴とするシリコン単結晶製造装置を提供する(請求項10)。
【0030】
このように、シリコン単結晶製造装置が、少なくとも上記の覗き窓ガラスが嵌め込まれた覗き窓を設けたチャンバ、及び/または、上記の結晶観察用窓ガラスが嵌め込まれた整流筒を具備していれば、育成されるシリコン単結晶のFe及び/またはCu汚染を低減できる単結晶製造装置とすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、外周部においてもFe及び/またはCu濃度が極めて低く抑えられた、高品質のシリコン単結晶を製造することができる。その結果、このようなシリコン単結晶からウェーハを製造し、これを半導体素子の基板として用いることによって、ウェーハ外周部における素子の収率を向上させることができる。
さらに、石英ガラスの表面層を高純度にすることにより、石英ガラス表面の白濁が起こり難いという効果も得られ、石英ガラスの交換頻度を低減することが可能となり、シリコン単結晶製造のランニングコストを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明によるシリコン単結晶の製造方法に関し、添付の図面に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明者らは、CZ法により育成したシリコン単結晶の外周部におけるFeやCuによる汚染について鋭意研究したところ、整流筒の窓に嵌め込まれている結晶観察用窓ガラス、あるいは、チャンバの覗き窓に嵌め込まれている覗き窓ガラスを交換した後に製造したシリコン単結晶から切り出されたウェーハの外周部におけるFe及び/またはCuの不純物濃度が高いことを見出した。そして、たとえこれらの窓ガラスとしてバルク中のFe、Cuの不純物濃度が1ppb未満と高純度化させた石英ガラスを用いた場合であっても、この傾向が見られた。そこで、これらの窓ガラスとして用いられている石英ガラスの表面層における不純物について詳細に調査を行ったところ、バルク中は極めて高純度であっても、表面から10μmの極表面層のFe及び/またはCuの不純物濃度は1〜200ppmと、バルク中における不純物レベルの5〜1000倍の汚染を受けていることが判明した。特筆すべき点は、汚染レベルのばらつきが極めて大きいことである。
【0033】
従って、表面層におけるFe及び/またはCuの汚染レベルが高い石英ガラスを結晶観察用窓ガラスや覗き窓ガラスとして使用しシリコン単結晶を製造したときに、石英ガラスから放出されたFe及び/またはCu成分が育成中の単結晶表面に付着し、付着したFe及び/またはCuが単結晶の内側に向けて拡散するので、シリコン単結晶の外周部においてFe及び/またはCuの不純物濃度が高くなると理解することができる。
【0034】
そして、石英ガラスの表面層においてFe及び/またはCu汚染が発生する原因及び汚染レベルのばらつきの大きい原因を調査したところ、石英ガラス製造工程において、石英ガラスを切断・研磨・固定する際にFeやCuを含む冶工具を使用しており、しかも、それらの石英ガラスの表面層の不純物管理を全く行っていなかったことが判った。
【0035】
そこで、本発明者らは、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつそれより内部の領域におけるFe及び/またはCuの不純物濃度が表面層の平均不純物濃度より低い石英ガラスを使用すれば、単結晶外周部におけるFe及び/またはCu汚染を確実に防止することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0036】
図1は、本発明で好適に使用できるシリコン単結晶引上げ装置の一例の概略を示している。この単結晶引上げ装置11は、チャンバ1内にシリコン融液2を収容するルツボ(石英ルツボ5と黒鉛ルツボ6)を備え、ルツボ5,6の周囲にはヒータ7が配置されており、さらに外側周囲には断熱材8が配置されている。また、単結晶引上げ装置11の上部には、育成中にAr等の不活性ガスを導入するためのガス導入管9および流量調整バルブ18が設けられ、底部にはガス排気管10が設けられている。
【0037】
ルツボ5,6の上方には、引上げられた単結晶3を取り囲むように筒状の整流筒4が配置されている。整流筒4の下端には、外側断熱部材14が設けられている。そして、育成中の結晶を観察するために、整流筒4の下部に設けられた結晶観察用窓に結晶観察用窓ガラス20が、また、チャンバ1に設けられた覗き窓には覗き窓ガラス21が、それぞれ嵌め込まれている。
【0038】
なお、本発明で使用する整流筒4や外側断熱材14に関しては、Feなどの重金属成分ができるだけ少ないものを用いることが好ましい。例えば、整流筒にFe濃度が0.05ppm以下である高純度の熱分解炭素の皮膜を形成したものを使用することができる。
【0039】
本発明では、結晶観察用窓ガラス20や覗き窓ガラス21として、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ表面層より内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの不純物濃度が、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度より低い石英ガラスを用いる。
【0040】
石英ガラス中の不純物についての調査を行った結果、表面から10μmの深さであれば正確な不純物分析が可能であることが判明した。したがって、板状の石英ガラスを製造する工程において、石英ガラスの表面から深さ10μmまでのFe及び/またはCu濃度が1ppm未満になるように管理すれば、シリコン単結晶製造装置に用いた場合に、Fe及び/またはCuによってシリコン単結晶が汚染されるのを防止するのに十分な効果が得られる。
また、石英ガラスの内部領域についても、Fe及び/またはCuの平均不純物濃度が0.5ppm未満であれば、シリコン単結晶がFe及び/またはCuによって汚染されるのを防止するのにより十分な効果が得られる。
【0041】
上記のようなFe及び/またはCuの深さ方向の濃度分布を有する石英ガラスは、高純度の石英ガラス母材から板状の石英ガラスを成形する工程において、工具をダイヤモンドや石英など極力FeやCuを含まないものに変更し、石英ガラスの表面層の不純物濃度を定期的に測定して所定の閾値を超えないように管理するという対策を施すことにより得られる。
【0042】
単結晶を育成する際には、まず、ルツボ5,6内にシリコンの高純度多結晶シリコン原料を充填し、融点(約1420℃)以上に加熱して融解する。そして、種結晶ホルダ12で種結晶13を保持し、ワイヤー15を巻き出すことにより、シリコン融液2の表面略中心部に種結晶13の先端を接触又は浸漬させる。その後、ルツボ5,6を回転させるとともに、ワイヤー15を回転させながらゆっくり巻き取る。これにより種結晶13に続いてシリコン単結晶が育成される。以後、引上げ速度と温度を適切に調節することにより、略円柱形状のシリコン単結晶棒3を引上げる。
【0043】
シリコン単結晶育成中は、ガス導入管9からAr等の不活性ガスが導入され、チャンバ1内を流下し、引上げたシリコン単結晶棒3と整流筒4との間を通過した後、排気管10を通じて真空ポンプ17によって外部に排出される。このとき、単結晶製造装置11上部の流量調整バルブ18を調整することによって導入ガス流量を調節し、単結晶製造装置11下部の流量調整バルブ16の開度を調整することによって炉内の圧力を調節する。
【0044】
上記の方法によりシリコン単結晶を製造すれば、整流筒4に設けられた窓、あるいはチャンバ1に設置された覗き窓に嵌め込まれている石英ガラスを交換した後に製造した場合であっても、シリコン単結晶外周部におけるFe及び/またはCuの不純物濃度が極めて低く抑えられた高品質の単結晶を得ることができる。従って、これを基板として半導体素子の作製を行えば、基板外周部での収率も向上し、歩留り向上並びに製造コストの低減を達成することができる。
【0045】
さらに、結晶観察用窓ガラスや覗き窓ガラスとして用いられる石英ガラス中にFeやCuといった不純物が含まれると、シリコン単結晶製造過程を繰り返すことで白濁し、育成中のシリコン単結晶を観察することが困難となる。一方、上記のような表面層でも不純物濃度が低い石英ガラスでは白濁が発生しにくくなる。従って、上記のような石英ガラスを用いれば、結晶観察用窓ガラスや覗き窓ガラスの寿命が長くなり、交換回数が減少するので、製造コストを低減することが可能となる。
【0046】
なお、本発明の他の実施形態では、整流筒4に内側断熱材を設けたシリコン単結晶製造装置を用いたり、チャンバ1の外側に磁石を設置してシリコン融液2に水平方向あるいは垂直方向等の磁場を印加するMCZ法を適用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
口径24インチ(600mm)のルツボから、直径200mm、直胴長さ100cmのボロンドープのシリコン単結晶の製造を行った。このとき、結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスとして、表面から深さ10μmまでの表面層におけるFe及びCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ深さ10μm以上の内部領域におけるFe及びCuの平均不純物濃度が0.2ppm未満である石英ガラスを使用した。また、整流筒としては、黒鉛基材の表面に層厚40μm、皮膜中のFe濃度が0.05ppm未満の熱分解炭素皮膜をCVD法により形成したものを用いた。
【0048】
育成したシリコン単結晶を円筒研磨した後、スライス、ラッピング、ポリッシングなど、通常のシリコンウェーハを工業的に製造するために必要な諸過程を経てシリコンウェーハを製造し、得られたウェーハ中のFe濃度の面内分布測定及びウェーハバルク中のCu濃度分析を行った。
【0049】
なお、ウェーハ面内のFe濃度測定は、SPV法(Surface Photo−voltage Method)にて行った。ボロンドープのシリコン単結晶中に固溶したFeは、室温ではドーパントであるボロンと結合してFeBの形で安定化している。FeBの結合エネルギーは0.68eV程度であり、200℃程度でほとんどが解離しFei(格子間に存在する鉄原子)となる。Feiは深い準位を形成するので、少数キャリアの再結合中心として働き、少数キャリアの拡散長を低下させる。すなわち、200℃程度の熱処理前では少数キャリアの拡散長は長いが、熱処理後にはFeiが再結合中心として働くために少数キャリアの拡散長が短くなる。その差を測定することによりFe濃度が測定できる。
また、ウェーハバルク中のCu濃度分析については、酸蒸気による全溶解溶液を誘導結合プラズマ質量分析器(ICP−MS)にて分析した。
【0050】
その結果、ウェーハ面内のFe濃度は、図2に示す分布となり、ウェーハ最外周部の最大値が3×1010atoms/cm、最外周部以外の中央部は1×1010atoms/cm以下であった。ウェーハバルク中のCu濃度は1×1011atoms/cm以下であった。また、結晶育成後の結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスは無色透明であり、これらの窓ガラスは、その後、結晶観察用窓ガラスは10バッチ、覗き窓ガラスは8バッチ継続して使用することができた。
【0051】
(実施例2)
口径32インチ(800mm)のルツボから、直径300mm、直胴長さ120cmのボロンドープのシリコン単結晶の製造を行った。このとき、結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスとして、実施例1と同様の石英ガラスを用いた。また、整流筒として、実施例1と同様、黒鉛基材の表面に層厚40μm、皮膜中のFe濃度が0.05ppm未満の熱分解炭素皮膜をCVD法により形成したものを用いた。
【0052】
育成したシリコン単結晶を円筒研磨した後、スライス、ラッピング、ポリッシングなど、通常のシリコンウェーハを工業的に製造するために必要な諸過程を経てシリコンウェーハを製造し、実施例1と同様の方法で、ウェーハ中のFe濃度の面内分布測定及びウェーハバルク中のCu濃度分析を行った。
【0053】
その結果、ウェーハ面内のFe濃度は、ウェーハ最外周部の最大値が2×1010atoms/cm、最外周部以外の中央部は1×1010atoms/cm以下であり、Cu濃度は1×1011atoms/cm以下であった。また、結晶育成後の結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスは無色透明であり、これらの窓ガラスは、その後、結晶観察用窓ガラスは8バッチ、覗き窓ガラスは7バッチ継続して使用することができた。
【0054】
(比較例1)
口径24インチ(600mm)のルツボから、直径200mm、直胴長さ100cmのボロンドープのシリコン単結晶の製造を行った。このとき、結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスとして、表面から深さ10μmまでの表面層におけるFe及びCuの平均不純物濃度が7ppmであり、かつ深さ10μm以上の内部領域におけるFe及びCuの平均不純物濃度が0.2ppm未満である石英ガラスを使用した。また、整流筒として、実施例1と同様、黒鉛基材の表面に層厚40μm、皮膜中のFe濃度が0.05ppm未満の熱分解炭素皮膜をCVD法により形成したものを用いた。
【0055】
そして、実施例1と同様の工程を経てシリコンウェーハを製造し、得られたウェーハのFe濃度の面内分布測定及びウェーハバルク中のCu濃度分析を実施例1と同様の方法で行った。
【0056】
その結果、ウェーハ面内のFe濃度は、図3に示す分布となり、ウェーハ最外周部の最大値が1×1012atoms/cm、最外周部以外でも1×1010atoms/cm以上となった。ウェーハバルク中のCu濃度は2×1012atoms/cmであった。また、結晶育成後の結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスは一部表面が白濁し、これらの窓ガラスは、その後1バッチ使用して交換した。
【0057】
実施例1では、ウェーハ最外周部であってもFe濃度が小さく、ウェーハバルク中のCu濃度も低かった。実施例1よりも結晶直径が大きい実施例2でも、実施例1と同様にウェーハ最外周部であってもFe濃度が小さく、ウェーハバルク中のCu濃度も小さかった。このように、実施例1及び2では、Fe及びCuによる汚染レベルが低いシリコン単結晶を得ることができた。一方、比較例1では、実施例1に比べ、ウェーハの最外周部だけでなく内部におけるFe濃度も高かった。また、ウェーハバルク中のCu濃度も実施例よりも高かった。このことは、結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスからFe及びCuがシリコン単結晶外周部に付着し、内部に拡散したことを示している。
以上のように、本発明を用いれば、Fe及びCuによる汚染レベルが低いシリコン単結晶を育成することができる。そのため、このシリコン単結晶から得られるシリコンウェーハは最外周部であってもFe及びCuの不純物濃度が低くなり、ウェーハ外周部における素子の収率を向上させることが可能となる。
【0058】
さらに、結晶観察用窓ガラスは、実施例1では11バッチ、実施例2では9バッチ連続して使用することができたが、比較例1では2バッチしか連続して使用することができなかった。同様に、覗き窓ガラスは、実施例1では9バッチ、実施例2では8バッチ連続して使用することができたが、比較例1では2バッチしか連続して使用することができなかった。このように、本発明を用いれば、結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスの交換頻度が減少するので、シリコン単結晶の製造コストを低減させることが可能となる。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、如何なるものであっても本発明の技術範囲に包含される。
【0060】
例えば、上記実施例では、結晶観察用窓ガラス及び覗き窓ガラスの両方共に、表面層におけるFe及びCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側におけるFe及びCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスを用いた場合を述べたが、結晶観察用窓ガラスあるいは覗き窓ガラスのいずれか一方のみを本発明の窓ガラスとしても、従来よりも効果が得られる。特に、育成中のシリコン単結晶に近い結晶観察用窓ガラスを本発明の窓ガラスとすれば、従来より結晶品質が改善される度合いが大きい。また、求められる結晶によっては、Fe、Cuのうちどちらか一方のみについて上記のような深さ方向の濃度分布を有する石英ガラスを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の単結晶引上げ装置の一例を示す概略図である。(A)全体図、(B)(A)中の点線枠で囲まれた部分の拡大図。
【図2】実施例1で製造したシリコンウェーハのFe濃度の面内分布図である。
【図3】比較例1で製造したシリコンウェーハのFe濃度の面内分布図である。
【符号の説明】
【0062】
1…チャンバ、 2…シリコン融液、 3…シリコン単結晶棒、 4…整流筒、
5…石英ルツボ、 6…黒鉛ルツボ、 7…ヒーター、 8…断熱材、
9…ガス導入管、 10…排気管、 11…単結晶製造装置、
12…種結晶ホルダ、 13…種結晶、 14…外側断熱材、
15…ワイヤー、 16、18…流量調整バルブ、 17…真空ポンプ、
20…結晶観察用窓ガラス、 21…覗き窓ガラス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により、チャンバに覗き窓が設けられ、該覗き窓に覗き窓ガラスが嵌め込まれており、且つ、シリコン単結晶を囲繞するように整流筒が配置され、該整流筒に結晶観察用窓ガラスが嵌め込まれている単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造方法であって、前記覗き窓ガラス及び/または前記結晶観察用窓ガラスとして、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスを用いることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記覗き窓ガラス及び前記結晶観察用窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記覗き窓ガラス及び前記結晶観察用窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が、0.5ppm未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するためのチャンバに設けられた覗き窓に嵌め込まれる覗き窓ガラスであって、前記覗き窓ガラスが、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスであることを特徴とする覗き窓ガラス。
【請求項5】
前記覗き窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であることを特徴とする請求項4に記載の覗き窓ガラス。
【請求項6】
前記覗き窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が、0.5ppm未満であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の覗き窓ガラス。
【請求項7】
チョクラルスキー法により育成されるシリコン単結晶を囲繞するように配置された整流筒に嵌め込まれる結晶観察用窓ガラスであって、前記結晶観察用窓ガラスが、表面層におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が1ppm未満であり、かつ、表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が表面層よりも小さい石英ガラスであることを特徴とする結晶観察用窓ガラス。
【請求項8】
前記結晶観察用窓ガラスの表面層が、表面から10μmまでの範囲であることを特徴とする請求項7に記載の結晶観察用窓ガラス。
【請求項9】
前記結晶観察用窓ガラスの表面層よりも内側の内部領域におけるFe及び/またはCuの平均不純物濃度が、0.5ppm未満であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の結晶観察用窓ガラス。
【請求項10】
少なくとも、請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の覗き窓ガラスが嵌め込まれた覗き窓を設けたチャンバ、及び/または、請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載の結晶観察用窓ガラスが嵌め込まれた整流筒を具備することを特徴とするシリコン単結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−1767(P2006−1767A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178059(P2004−178059)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】