説明

シリコン単結晶の製造方法

【課題】シリコン単結晶中のピンホールの発生を大きく抑制することができるシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法において、少なくとも前記シリコン原料の溶融後Ssから前記シリコン単結晶の直胴部の引上げ後Esまでの炉内圧制御範囲(Ss−Es間)において、炉内圧を減圧させずに常に漸増Rpさせる(a)、炉内圧を減圧させずに一定Cpとする過程に加え、炉内圧を漸増Rpさせる過程を含む(b)、(c)、及び、炉内圧を減圧させずに一定Cpとする過程と炉内圧を漸増Rpさせる過程を複数含む(d)、等の方法からなり、前記炉内圧の漸増Rpは、20torr以上85torr以下の範囲で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法という)によるシリコン単結晶の製造方法に関し、特に、シリコン単結晶中のピンホールの発生を抑制することができるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン単結晶の引上げ時において、シリコン融液中に存在する気泡がシリコン単結晶中に取り込まれやすくなり、ピンホールという欠陥が発生しやすいという問題がある。
【0003】
このような問題に対して、多結晶シリコン原料を5〜60mbarの炉内圧で溶融し、100mbar以上の炉内圧でシリコン単結晶の引上げを行う方法(例えば、特許文献1)、多結晶シリコン原料を65〜400mbarの炉内圧力で溶解し、そのシリコン融液からの単結晶引上げを、溶解時の炉内圧力より低く、且つ95mbar以下の炉内圧力で行う方法(例えば、特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−9097号公報
【特許文献2】特開2000−169287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法は、シリコン単結晶引上げ中の炉内圧を上記特定範囲の一定の炉内圧に制御するものであり、この方法ではシリコン単結晶中のピンホールの発生を抑制するには限界があるものであった。
【0006】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、シリコン単結晶中のピンホールの発生を大きく抑制することができるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシリコン単結晶の製造方法は、炉体内でシリコン原料を溶融してシリコン融液とした後、シリコン単結晶を引上げるチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、少なくとも前記シリコン原料の溶融後から前記シリコン単結晶の直胴部の引上げ後までの間は、前記炉体内の炉内圧を減圧させずに制御すると共に、かつ、漸増させる過程を含むことを特徴とする。
【0008】
前記炉内圧の漸増は、20torr以上85torr以下の範囲で行うことが好ましい。
【0009】
前記シリコン原料の溶融時から前記シリコン単結晶の引上げ完了時に至るまでの炉内圧は、100torr以下で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリコン単結晶中のピンホールの発生を大きく抑制することができるシリコン単結晶の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法に用いられるシリコン単結晶引上装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法の炉内圧制御の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法に用いられるシリコン単結晶引上装置の一例を示す概略構成図である。図2は、本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法の炉内圧制御(炉内圧シーケンス)の一例を示す概念図である。
【0013】
本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法に用いられるシリコン単結晶引上装置10は、図1に示すように、炉体12と、炉体12内に配置され、シリコン原料(主に、ポリシリコン)を保持するルツボ14と、ルツボ14の外周囲に設けられ、ルツボ14を加熱し、ルツボ14内に保持されたシリコン原料を溶融してシリコン融液16とするヒータ18と、シリコン融液16の上方に配置され、CZ法によりシリコン融液16から引上げたシリコン単結晶Igへの輻射熱を遮断する円筒形状の熱遮蔽体20とを備える。
【0014】
ルツボ14は、シリコン融液16を保持する石英ルツボ14aと、石英ルツボ14aを収容するカーボンルツボ14bとで構成されている。
【0015】
ヒータ18の外周囲には第1保温部材22が設けられ、第1保温部材22の上部には、ヒータ18と一定の間隔を有して第2保温部材24が設けられている。
【0016】
熱遮蔽体20の上方には、熱遮蔽体20の内周側、熱遮蔽体20とシリコン融液16との間を通って、ルツボ14の下方に位置する排出口26から炉体12外に排出されるキャリアガスG1を供給するキャリアガス供給口28が設けられている。
【0017】
炉体12内には、シリコン単結晶Igを育成するために用いられる種結晶50を保持するシードチャック32が取り付けられた引上用ワイヤ34が、ルツボ14の上方に設けられている。引上用ワイヤ34は、炉体12外に設けられた回転昇降自在なワイヤ回転昇降機構36に取り付けられている。
【0018】
ルツボ14は、炉体12の底部を貫通し、炉体12外に設けられたルツボ回転昇降機構38によって回転昇降可能なルツボ回転軸40に取付けられている。
【0019】
熱遮蔽体20は、第2保温部材24の上面に取付けられた熱遮蔽体支持部材42を介してルツボ14の上方に保持されている。
【0020】
キャリアガス供給口28には、調整弁43を介して、炉体12内にキャリアガスG1を供給するキャリアガス供給部44が接続されている。排出口26には、バタフライ弁46を介して、熱遮蔽体20の内周側、熱遮蔽体20とシリコン融液16との間を通ったキャリアガスG1を排出するキャリアガス排出部48が接続されている。調整弁43を調整することで炉体12内に供給するキャリアガスG1の供給量を、バタフライ弁46を調整することで炉体12内から排出する排出ガス(キャリアガスG1及びシリコン融液16から発生したSiOxガス等も含む)の排出量をそれぞれ制御する。
【0021】
次に、本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法を説明する。
本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法は、図1に示すようなシリコン単結晶引上装置10を用いて、炉体12内でシリコン原料を溶融してシリコン融液16とする段階(S100)と、シリコン単結晶Igを引上げる段階(S200)とを備える。
シリコン単結晶Igを引上げる段階(S200)では、シードチャック32に保持された種結晶50を、シリコン融液16に接触させた後、ネック部55を形成する段階(S201)と、ネック部55を所望の結晶径まで拡径してクラウン部Igを形成する段階(S202)と、前記所望の結晶径に制御して直胴部Igを形成する段階(S203)と、前記所望の結晶径から縮径してテール部Igを形成する段階(S204)と、を備える。
【0022】
本発明に係わるシリコン単結晶の製造方法は、上述した段階のうち、少なくとも前記シリコン原料の溶融後(S100後)から前記シリコン単結晶の直胴部の引上げ後(S203後)までの間は、前記炉体内の炉内圧を減圧させずに制御すると共に、かつ、漸増させる過程を含むことを特徴とする。
【0023】
シリコン融液には、SiOxガスや炉内雰囲気ガス(主にアルゴンガス)などのガス成分が飽和状態で溶解されていると考えられる。そのため、シリコン融液におけるガス成分の溶解度が低下すると溶解しているガス成分が気泡となって発生し、これがシリコン単結晶中に取り込まれ、ピンホールが発生すると考えられる。
つまり、シリコン融液におけるガス成分の溶解度の低下を抑制することで気泡の発生を抑制し、ひいては、ピンホールの発生を抑制できると考えられる。
【0024】
なお、溶解度に影響を及ぼす因子としては温度と圧力であるが、温度はシリコン単結晶引上げ時の引上条件によって制約される。従って、シリコン融液の溶解度の低下を抑制するには、シリコン融液における圧力制御、すなわち、炉体内の圧力制御が重要な鍵となる。
【0025】
よって、炉体12内の炉内圧を減圧させずに制御する過程に加え、漸増させる過程を含むことで、シリコン融液におけるガス成分の溶解度の低下を抑制し、これを少なくともシリコン原料の溶融後(S100後)からシリコン単結晶の直胴部の引上げ後(S203後)までの間に適用することで、シリコン単結晶中のピンホールの発生を大きく抑制することができる。
【0026】
なお、ここでいう「炉内圧を減圧させずに制御すると共に、かつ、漸増させる過程を含む」とは、シリコン原料の溶融後(S100後)Ssからシリコン単結晶の直胴部の引上げ後(S203後)Esまでの炉内圧制御範囲(Ss−Es間)において、炉内圧を減圧させずに常に漸増Rpさせること(例えば、図2(a))、炉内圧を減圧させずに一定Cpとする過程に加え、炉内圧を漸増Rpさせる過程を含むこと(例えば、図2(b)、(c))及び炉内圧を減圧させずに一定Cpとする過程と炉内圧を漸増Rpさせる過程を複数含むこと(例えば、図2(d))を含む。
【0027】
前記炉内圧の漸増は、20torr以上85torr以下の範囲で行うことが好ましい。すなわち、図2に示す炉内圧増加量Δpは、20torr以上85torr以下の範囲で行うことが好ましい。
前記炉内圧の漸増が20torr未満である場合には、シリコン単結晶中のピンホールの発生を大きく抑制することが難しい。前記炉内圧の漸増が85torrを超える場合には、炉体12内の炉内圧が高くなるため、炉体12内の雰囲気ガスの整流が崩れてしまい、炉体12内の汚れが悪化し、シリコン単結晶における有転位化の原因となるため好ましくない。
【0028】
前記シリコン原料の溶融時から前記シリコン単結晶の引上げ完了時に至るまでの炉内圧は、100torr以下で行うことが好ましい。
前記炉内圧が100torrを越える場合には、炉内圧が高くなるため、炉体12内の雰囲気ガスの整流が崩れてしまい、炉体12内の汚れが悪化し、シリコン単結晶における有転位化の原因となるため好ましくない。
前記炉内圧の下限値は、装置構成上使用限界である15torr以上であることが好ましい。
【0029】
なお、前記炉内圧の制御は、周知の方法で行うことができる。例えば、図1に示すようなシリコン単結晶引上装置10を用いる場合には、調整弁43によるキャリアガスの供給量の制御や、バタフライ弁46による排気量の制御、別途、炉体12に取り付けた図示しない真空ポンプ等により制御することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により限定解釈されるものではない。
【0031】
図1に示すシリコン単結晶引上装置10を用いて、シリコン原料360kgにて、P型、面方位<100>の直径310mmの直胴部Igを有するシリコン単結晶Igを引上げた。
その際、シリコン原料の溶融後からシリコン単結晶の直胴部の引上げ後までの間において、図2(d)に示す炉内圧シーケンスにて、炉内圧を変化させて、各々シリコン単結晶Igを引上げた(実施例1〜6)。
また、炉内圧を漸増させる過程を含まない炉内圧シーケンスにて、各々シリコン単結晶Igを引上げた(比較例1〜3)。
得られた各条件におけるシリコン単結晶Igの直胴部Igを周知の方法にて加工してシリコンウェーハとした後、全数(およそ3000枚強)のピンホール欠陥を評価し、各条件におけるピンホールの発生率を評価した。本評価では、ウェーハ面内に1個でもピンホールの発生を確認した場合は不良とした。
【0032】
本試験における炉内圧制御条件及びピンホール発生率を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、実施例1から実施例6においてはピンホール発生率が非常に低いことが認められる。これに対し、炉内圧増加量Δpが10torrである場合(比較例1、2)は、比較例3に比べてピンホール発生率が若干良化するものの、その抑制効果は低いことが認められる。
また、本結果から、本発明の効果は、このように、炉内圧増加量Δpによって大きく影響するものであるため、図2(a)、(b)、(c)に示すような炉内圧シーケンスであっても同様な効果が得られると考えられる。
【符号の説明】
【0035】
10 シリコン単結晶引上装置
12 炉体
14 ルツボ
16 シリコン融液
18 ヒータ
20 熱遮蔽体
22 第1保温部材
24 第2保温部材
26 排出口
28 キャリアガス供給口
32 シードチャック
34 引上用ワイヤ
36 ワイヤ回転昇降機構
38 ルツボ回転昇降機構
40 ルツボ回転軸
42 熱遮蔽体支持部材
43 調整弁
44 キャリアガス供給部
46 バタフライ弁
48 キャリアガス排出部
50 種結晶
55 ネック部
60 縮径部
70 拡径部
Ig シリコン単結晶
G1 キャリアガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体内でシリコン原料を溶融してシリコン融液とした後、シリコン単結晶を引上げるチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、
少なくとも前記シリコン原料の溶融後から前記シリコン単結晶の直胴部の引上げ後までの間は、前記炉体内の炉内圧を減圧させずに制御すると共に、かつ、漸増させる過程を含むことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記炉内圧の漸増は、20torr以上85torr以下の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン原料の溶融時から前記シリコン単結晶の引上げ完了時に至るまでの炉内圧は、100torr以下で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184213(P2011−184213A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48196(P2010−48196)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】