説明

シリコン単結晶引き上げ装置及びシリコン単結晶の製造方法

【課題】シリコン原料の溶融と種結晶の予備加熱を簡単な構成で効率良く行うことが可能なシリコン単結晶引き上げ装置及びシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶引き上げ装置10は、シリコン融液2を保持する石英ルツボ14と、石英ルツボ14の周囲に設けられたヒーター15と、石英ルツボ14の上方に設けられ、先端に種結晶1が取り付けられた第1の引き上げ軸18と、石英ルツボ14の上方に配置された略逆円錐台形状の筒状部分を有する熱遮蔽部材20と、中空部を有する円盤状の熱遮蔽板22とを備えている。熱遮蔽板22は、シリコン融液2の上方を覆う保温位置とシリコン融液2から見て保温位置よりも上方の待避位置との間を移動可能に構成されており、熱遮蔽板22の保温位置は垂直方向に対して前記熱遮蔽部材20と重なる位置である。熱遮蔽板22の位置制御は、第1の引き上げ軸18の昇降制御とは独立して行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶引き上げ装置に関し、詳細には、シリコン原料及び種結晶の保温構造に関するものである。また、本発明は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法に関し、シリコン原料及び種結晶を加熱する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用シリコン単結晶の製造方法の一つとしてチョクラルスキー法(CZ法)がよく知られている。CZ法では、ルツボ内に充填したシリコン原料を加熱して溶融し、得られたシリコン融液に種結晶を浸漬し、種結晶を徐々に引き上げて単結晶を成長させる。引き上げ工程では、まず無転位化のため直径を絞るダッシュ法によるネック部の形成、結晶直径を広げるショルダー部の形成、直径を一定のまま単結晶を成長させるボディー部の形成、結晶径が絞られたテール部の形成が順に行なわれる。
【0003】
近年のシリコン単結晶の大口径化に伴い、使用するルツボのサイズも大きくなり、一回当たりの原料使用量も増加している。このため、ルツボ内の全ての原料、特にルツボの中央部の原料を溶融するためにはヒーターパワーを増加させなければない。しかし、ヒーターパワーを増加させると石英ルツボがヒーターから受ける熱量が増加し、石英ルツボ内表面の溶融(クリストバライト化)が促進され、その後の単結晶育成の過程において単結晶の有転位化を生じ、製品歩留まりが低下する問題が生じている。
【0004】
そのため、特許文献1には、ルツボ内のシリコン原料を溶解するにあたり、輻射熱遮蔽板を輻射スクリーン内に吊下させた状態でシリコン単結晶原料を溶解することにより、石英ルツボがヒーターから受ける熱量を低減させ、石英ルツボ内面のクリストバライト化を抑制する方法が提案されている。多結晶シリコンの溶解後は、輻射熱遮蔽板をプルチャンバー内に上昇させ、輻射熱遮蔽板及びその支持部材を取り出し、種結晶への付け替え操作を実施する。その後、引き上げ軸を降下させて、単結晶の育成を実施する。
【0005】
また、近年のシリコン単結晶の大重量化により、従来のダッシュ法によるネッキング工程ではネックの直径が細すぎて単結晶の重さに耐えられず、ネック部が破断して単結晶が落下する事故が問題となっている。
【0006】
そのため、特許文献2には、ルツボ内の溶融液に種結晶を浸漬した後、該種結晶を引き上げることにより種結晶を成長させる単結晶の引き上げ方法において、種結晶をシリコン融液に接触させた後、補助加熱手段を用いて種結晶とシリコン融液との界面近傍を加熱しながら、さらに種結晶をシリコン融液に漬け込み、ネックを形成せずに単結晶を引き上げる方法が提案されている。この方法によれば、大重量の単結晶であっても安全に引き上げることができ、一般的な通常の種結晶を使用することで種結晶に関して新たなコストを発生させることがなく、単結晶吊り下げ部を高速に無転位化して所用プロセス時間を短縮することができる。
【0007】
また、特許文献3には、ルツボの上方に設けられた熱遮蔽部材とシリコン融液の液面との間のギャップを広げてヒーターからの熱流を増加させたり、ヒーターパワーを上げたりすることにより、種結晶の温度を上昇させ、種結晶とシリコン融液との温度差を小さくし、熱応力によって種結晶に導入される転位を減少させる方法が提案されている。さらに特許文献3には、シードチャックに熱反射板を取り付けることにより種結晶の温度を調整する方法が提案されている。この方法によれば、ヒーターやシリコン融液からの輻射熱を種結晶に集中させることができ、ネッキング工程における単結晶の最小径を従来よりも大きくすることができる。
【0008】
特許文献4には、引き上げ操作開始後から育成されたシリコン単結晶インゴットがプルチャンバー部内へと侵入してくるまでの期間にわたり、メインチャンバー部とプルチャンバー部との概略区画位置に断熱体を配置して引き上げを行うシリコン単結晶の製造方法が開示されている。断熱体は、種結晶を懸架する種結晶引き上げ用ワイヤー11aの挿通部を有しかつプルチャンバー部の内部空間断面の少なくとも一部を塞ぐことのできる断面形状を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−292288号公報
【特許文献2】特許第3065076号公報
【特許文献3】特許第4184725号公報
【特許文献4】特開平11−012092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、シリコン原料の溶解終了後に単結晶の育成を実施するために、引き上げ軸を上昇させて輻射熱遮蔽板及びその支持部材を取り出し、種結晶への付け替え操作を実施する必要があり、非常に面倒である。また、シリコン原料と共に高温に加熱された輻射熱遮蔽板及びその支持部材を交換する作業は非常に危険である。
【0011】
また、特許文献2に記載の方法では、種結晶を加熱するための補助加熱手段を新たに用意しなければならない。また、補助加熱手段を用いて種結晶とシリコン融液との界面近傍を加熱しながら種結晶をシリコン融液に漬け込むので、補助加熱手段がシリコン融液と接触する危険性があり、その位置制御も非常に難しいという問題がある。
【0012】
また、特許文献3に記載の方法では、熱反射板がシードチャックに取り付けられているので、熱反射板を種結晶の加熱時にしか使用することができない。また、熱反射板が種結晶と共に融液面に近づくので、熱反射板の材料として輻射熱(赤外線)を効率良く反射させることができる金属材料を用いた場合にはシリコン融液が汚染されやすいという問題もある。
【0013】
さらに特許文献4に記載の方法は、引き上げ中の単結晶インゴットを効率良く加熱することはできるが、種結晶を効率良く加熱することが難しいという問題がある。
【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、シリコン原料の溶融と種結晶の加熱を簡単な構成で効率良く行うことが可能なシリコン単結晶引き上げ装置及びシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明によるシリコン単結晶引き上げ装置は、シリコン融液を保持するルツボと、前記ルツボの周囲に設けられたヒーターと、前記ルツボの上方に設けられ、先端に種結晶が取り付けられた第1の引き上げ軸と、前記ルツボの上方に配置された略逆円錐台形状の筒状部分を有する熱遮蔽部材と、中空部を有する略円盤状の熱遮蔽板と、前記ルツボの上方に設けられ、先端に前記熱遮蔽板が取り付けられた第2の引き上げ軸とを備え、前記熱遮蔽板は、前記シリコン融液の上方を覆う保温位置と前記シリコン融液から見て前記保温位置よりも上方の待避位置との間を移動可能に構成されており、 前記保温位置は、垂直方向に対して前記熱遮蔽部材と重なる位置であり、前記熱遮蔽板の位置制御は、前記第1の引き上げ軸の昇降制御とは独立して行われることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、熱遮蔽板の位置制御が種結晶の位置制御とは別に行われるので、シリコン原料の溶融時から種結晶の着液までの間、熱遮蔽板を保温位置に設置しておくことができる。また、第2の引き上げ軸が種結晶を昇降させる第1の引き上げ軸とは独立に制御されるので、熱遮蔽板の待避位置を保温位置の上方に設定することができ、待避位置と保温位置との間の移動も容易である。したがって、シリコン原料の溶融時にはこの熱遮蔽板を用いてシリコン原料を効率良く加熱することができ、種結晶の着液時には同じ熱遮蔽板を用いて種結晶を効率良く加熱することができる。
【0017】
本発明において、前記熱遮蔽板の前記中空部は前記第1の引き上げ軸に吊設された前記種結晶を通過させることが可能な大きさを有することが好ましい。この構成によれば、種結晶を着液させる際に、種結晶が熱遮蔽板と干渉することなく、種結晶を確実に着液させることができる。また、種結晶の着液後に熱遮蔽板を待避位置に移動させる際に、熱遮蔽板と第1の引き上げ軸との干渉を回避することができ、熱遮蔽板を垂直方向に容易に移動させることができる。
【0018】
本発明において、前記熱遮蔽板の主面の面積は、引き上げられるシリコン単結晶の断面積の60%以上であることが好ましい。この構成によれば、シリコン原料及び着液前の種結晶に対する加熱を効率良く行うことができる。
【0019】
本発明において、前記熱遮蔽板は、300〜1500℃の温度範囲における熱伝導率が0.1〜0.5W/m・Kであることが好ましい。この構成によれば、熱遮蔽板の断熱機能を有効に発揮させることができ、シリコン原料及び種結晶を効率良く加熱することができる。
【0020】
本発明において、前記熱遮蔽板は、カーボンコンポジットの基本構造体の表面をグラファイトでコーティングしたものであることが好ましい。この構成によれば、シリコン単結晶を汚染することがなく、軽量で断熱性及び耐久性に優れた熱遮蔽板を提供することができる。
【0021】
また、上記課題を解決するため、本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、中空部を有する略円盤状の熱遮蔽板を、垂直方向に対して前記熱遮蔽部材と重なる位置であって石英ルツボの上方を覆う保温位置に保持した状態で前記石英ルツボ内のシリコン原料を溶融する溶融工程と、前記熱遮蔽板の位置を前記保温位置に維持したまま、前記熱遮蔽板よりも上方に準備された種結晶を前記中空部に通過させて降下し、前記ルツボ内のシリコン融液に着液させる着液工程と、前記熱遮蔽板の位置を、前記シリコン融液から見て前記前記保温位置よりも上方の待避位置に移動させる待避工程と、前記単結晶の直径を徐々に大きくしながら成長させるショルダー形成工程と、前記単結晶の直径を一定に維持しながら成長させるボディー形成工程と、前記単結晶の直径を徐々に小さくして前記シリコン融液から切り離すテール形成工程とを備えることを特徴とする。
【0022】
本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、前記種結晶の着液後であってショルダー形成工程の前に、前記熱遮蔽板を前記保温位置に配置したまま、前記種結晶の直径が6mm以上となるように調整するネッキング工程をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シリコン原料の溶融と種結晶の加熱を簡単な構成で効率良く行うことが可能なシリコン単結晶引き上げ装置及びシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態によるシリコン単結晶引き上げ装置の構成を示す略側面断面図である。
【図2】図2は、熱遮蔽板22及びシードチャック17の構成の一例を示す略斜視図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施の形態によるシリコン単結晶の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】図4(a)〜(f)は、シリコン単結晶の製造工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施形態によるシリコン単結晶引き上げ装置の構成を示す略側面断面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態によるシリコン単結晶引き上げ装置10は、チャンバー11と、チャンバー11の底部中央を貫通して鉛直方向に設けられた支持軸12と、支持軸12の上端部に固定されたグラファイトサセプタ13と、グラファイトサセプタ13内に収容された石英ルツボ14と、グラファイトサセプタ13の周囲に設けられたヒーター15と、支持軸12を昇降及び回転させるための支持軸駆動機構16と、種結晶1を保持するシードチャック17と、シードチャック17を吊設するワイヤー(第1のワイヤー)18と、ワイヤー18を巻き取るためのワイヤー巻き取り機構19と、ヒーター15及び石英ルツボ14からの輻射熱によるシリコン単結晶インゴットの加熱を防止すると共にシリコン融液2の温度変動を抑制する略逆円錐台状の熱遮蔽部材20と、各部を制御する制御装置21とを備えている。
【0028】
また、本実施形態によるシリコン単結晶引き上げ装置10は、熱遮蔽部材20の開口部を覆う熱遮蔽板22と、熱遮蔽板22を吊設する一対のワイヤー(第2のワイヤー)23とを備えている。装置の中心にはワイヤー18が設けられているので、これと中心軸が一致する熱遮蔽板22を一本のワイヤーで吊設することはできない。また、熱遮蔽板22は水平状態を維持する必要がある。このような理由から、熱遮蔽板22には2本のワイヤーが用いられている。ワイヤー巻き取り機構19は、単結晶引き上げ用のワイヤー18のみならず、ワイヤー23の巻き取りにも使用される。熱遮蔽板22の昇降動作はワイヤー23の上下動によって行われる。熱遮蔽板22は円形の中空部を有しており、種結晶1が熱遮蔽板22よりも下方に位置するとき、種結晶1を引き上げるワイヤー18はこの中空部を貫通している。したがって、熱遮蔽板22の昇降動作を種結晶1と独立して行うことができる。
【0029】
チャンバー11の上部には、キャリアガスとしてのArガスをチャンバー11内に導入するためのガス導入口24が設けられており、チャンバー11の底部には、チャンバー11内のArガスを排気するためのガス排出口27が設けられている。Arガスはガス管25を介してガス導入口24からチャンバー11内に導入され、その導入量はコンダクタンスバルブ26により制御される。また、密閉したチャンバー11内のArガスはガス排出口27から排ガス管28を経由して外へと排出される。排ガス管28の途中にはコンダクタンスバルブ29及び真空ポンプ30が設置されており、真空ポンプ30でチャンバー11内のArガスを吸引しながらコンダクタンスバルブ29でその流量を制御することでチャンバー11内の減圧状態が保たれている。
【0030】
熱遮蔽部材20は、石英ルツボ14の上方であって、シリコン単結晶の引き上げ通路の周囲に設けられた略逆円錐台形状の円筒部材である。熱遮蔽部材20は、種結晶1及び種結晶1が成長して得られるシリコン単結晶を、石英ルツボ14、シリコン融液2、ヒーター15などの高温部で発生する輻射熱から断熱する役割を果たす。また、熱遮蔽部材20は、チャンバー11内で発生した不純物(例えばシリコン酸化物)がシリコン単結晶に付着してその育成が阻害されることを防止する。
【0031】
また、熱遮蔽部材20は、チャンバー11の上方から供給されるArガスをシリコン融液2の表面の中央に導き、さらに融液表面を通過させて融液表面の周縁部に導く役割を果たす。そして、Arガスは、融液から蒸発したSiOガスとともに、チャンバー11の底部に設けられたガス排出口27から排出される。このため、液面上のガス流速を安定化させることができ、シリコン融液2から蒸発する酸素を安定な状態に保つことができる。液面上のガス流速は、熱遮蔽部材20の下端とシリコン融液2の表面との間のギャップGの広さによって調整することができる。ギャップGの広さは、支持軸12を上昇又は降下させて、石英ルツボ14の上下方向の位置を変化させることで調整することができる。
【0032】
図2は、熱遮蔽板22及びシードチャック17の構成の一例を示す略斜視図である。
【0033】
図2に示すように、熱遮蔽板22は、中空部22aを有する円板状(ドーナツ状)の断熱部材である。熱遮蔽板22が断熱部材として有効に機能するためには、300〜1500℃の温度範囲において5〜10W/m・Kの低い熱伝導率を有することが好ましい。特に限定されるものではないが、本実施形態による熱遮蔽板22はカーボンコンポジットの基本構造体の表面をグラファイトでコーティングしたものであることが好ましい。この構成によれば、シリコン単結晶を汚染することがなく、軽量で断熱性及び耐久性に優れた熱遮蔽板を提供することができる。
【0034】
熱遮蔽板22の主面の面積は、引き上げられるシリコン単結晶の断面積の60%以上であることが好ましい。60%よりも小さいと断熱性が不十分となるからである。一方、熱遮蔽板22の主面の面積は、最大でも熱遮蔽部材20に干渉しない大きさであることが好ましい。また、熱遮蔽板22の直径Rは、熱遮蔽部材20の開口部20aの最小直径R以下であることがより好ましい。熱遮蔽板22の厚さDは20〜250mmであることが好ましい。熱遮蔽板22の厚さDが20mmよりも薄いと断熱性及び耐久性が不十分となり、250mmよりも厚い場合にはそれ以上の断熱効果が得られない反面、重量が大きくなって制御し難くなり、コスト面でも不利だからである。
【0035】
種結晶1の直径R(又は最大幅)は5mm以上であることが好ましい。種結晶1の直径Rが5mm未満の場合、重量が300kgを超える直径12インチの単結晶を支持することが困難となるからである。シードチャック17の最大直径Rは種結晶1よりも大きく、例えば10mm程度である。熱遮蔽板22の中空部22aの直径Rは、シードチャック17に取り付けられた種結晶1を通過させることが可能なように、シードチャック17の直径Rよりも大きいことが好ましい。この場合、シードチャック17及び熱遮蔽板22の中空部22aの少なくとも一方がテーパー面を有することが好ましい。図示の構成では、シードチャック17及び熱遮蔽板22の中空部22aの両方にテーパー面が形成されている。この構成によれば、種結晶が中空部22aを通過して上下方向(特に降下方向)に移動するときに、シードチャック17が中空部22aの角部に引っかかり、熱遮蔽板22がシードチャック17に干渉することを防止することができる。
【0036】
本実施形態による熱遮蔽板22は、シリコン原料の溶融開始からネッキング工程までの間において、石英ルツボ14内のシリコン融液2に近づいてその上方を覆うことにより、熱遮蔽部材20の開口部20aを通じた熱拡散を抑制し、シリコン融液2や種結晶1を効率良く加熱する。これにより、ヒーターパワーを抑えて石英ルツボ14に加わる熱負荷を軽減することができると共に、種結晶1を着液したときのシリコン融液2との温度差による熱ショックを抑制することができる。以下、熱遮蔽板22を用いた本実施形態によるシリコン単結晶の製造方法について詳細に説明する。
【0037】
図3は、本発明の好ましい実施の形態によるシリコン単結晶の製造工程を示すフローチャートである。また、図4(a)〜(f)は、シリコン単結晶の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0038】
図3及び図4(a)に示すように、シリコン単結晶の製造では、まず原料となる多結晶シリコン砕片を用意し、チャンバー11内のグラファイトサセプタ13内に収容された石英ルツボ14内に充填する(ステップS11)。次に、図4(a)に示すように、熱遮蔽板22を降下させて石英ルツボ14の上方の保温位置に設置する(ステップS12)。このとき、ワイヤー18の先端に装着されたシードチャック17及び種結晶1は石英ルツボ14よりも十分に高い待避位置にあり、溶融前のシリコン原料から引き離されている。
【0039】
熱遮蔽板22の保温位置は、垂直方向に対して熱遮蔽部材14と重なる位置であり、この熱遮蔽板22は略逆円錐台形状の円筒の内側に入り込んでいる。熱遮蔽板22の保温位置は、シリコン原料を溶融したときの融液面から上方に100〜600mmの高さであることが好ましい。100mmよりも低い場合には、種結晶が融液と接触するおそれがあるからであり、また600mmよりも高い場合には断熱性が不十分となるからである。
【0040】
次に、図4(b)に示すように、熱遮蔽板22を保温位置に維持したままシリコン原料の溶融を開始する。シリコン原料の溶融時には、チャンバー11内を減圧下のArガス雰囲気とした後、ヒーター15で石英ルツボ14内の多結晶シリコンを加熱して溶融する(ステップS13)。このときも種結晶1は待避位置に維持されたままである。上述のように、シリコン単結晶の最大直径が400mm以上になるとシリコン原料の溶融に長時間を要し、短時間で溶融するためにヒーターパワーを大きくすると、石英ルツボ14の状態に悪影響を与えるという問題がある。しかし、シリコン原料の上方に蓋体としての熱遮蔽板22を配置し、石英ルツボ14の上方を覆えば、石英ルツボ14に過度な熱負荷をかけることなくシリコン原料を効率良く加熱することができる。
【0041】
次に、図4(c)に示すように、熱遮蔽板22を保温位置に維持したまま、種結晶1をシリコン融液2の液面近くまで降下させた後、着液させることなく種結晶1をその位置に一定時間保持して予備加熱する(ステップS14)。このとき、種結晶1は熱遮蔽板22とシリコン融液2との間の実質的に閉じられた空間内で十分に加熱されるので、種結晶1とシリコン融液2との温度差を十分に小さくすることができる。
【0042】
次に、図4(d)に示すように、種結晶1をさらに降下させてシリコン融液2に着液させる(ステップS15)。このとき、種結晶1とシリコン融液2との温度差が十分に小さくなっているので、着液時の熱衝撃による転位の発生を防止することができる。さらに、シリコン融液2が1500℃程度に安定するまで温度調整を行いながら、種結晶1をシリコン融液2に馴染ませる。このときの温度調整期間は3〜6時間程度である。こうしてシリコン融液2の温度調整が完了する。
【0043】
次に、シリコン単結晶の引き上げを開始する。CZ法によるシリコン単結晶の引き上げでは、支持軸12及びワイヤー18を互いに逆方向に回転させながら、種結晶1をゆっくりと引き上げることにより、種結晶1の下端にシリコン単結晶を成長させていく。
【0044】
本実施形態においては、ダッシュ法によるシード絞り(ダッシュネック)は行わず、最小直径が6mm以上の太さを有するネック部を形成する(ステップS16)。従来、ネッキング工程では、種結晶に元から含まれる転位や、着液時の熱衝撃により種結晶中に生じるスリップ転位を消滅させるため、種結晶の最小直径が3〜5mm程度になるまで細く絞り込んでいた。しかし、本実施形態では、種結晶とシリコン融液との温度差を極力小さくした後に着液するので、熱衝撃による転位の発生を防止することができ、シード絞りを不要にすることができる。したがって、転位を含まない太いネック部を形成することができ、大重量の単結晶に耐えるネック部の太さを実現することができる。
【0045】
次に、図4(e)に示すように、熱遮蔽板22を待避位置まで上昇させて、熱遮蔽部材20の開口部20aを開放する(ステップS17)。熱遮蔽板22が保温位置に配置されているとシリコン単結晶の引き上げの邪魔になるため、熱遮蔽板22を上方に引き上げてシリコン単結晶の引き上げ通路を確保する。その後、種結晶1の引き上げ速度とシリコン融液2の温度を調整してネック部の直径を拡大し、ショルダー部の育成に移行する(ステップS18)。
【0046】
ショルダー部が所定の直径に達すると、今度は図4(f)に示すようにボディー部の育成に移行する(ステップS19)。ウェハー収率を高めるためボディー部の直径は一定とする必要があり、単結晶育成中は、ボディー部がほぼ一定の直径を維持して育成されるように、ヒーターの出力、引き上げ速度、ルツボの上昇速度等が制御される。特に、シリコン単結晶の成長に伴ってシリコン融液2が減少し、その液面が下がるので、液面の低下に合わせてルツボを上昇させることにより、シリコン単結晶育成中の液面レベルを一定に保ち、育成中の単結晶の直径が一定となるように調整される。
【0047】
次に、ボディー部が所定の長さになるまでシリコン単結晶を成長させた後、結晶成長界面に存在したシリコン融液とシリコン単結晶との間の熱均衡が崩れて結晶に急激な熱衝撃が加わり、スリップ転位や異常酸素析出等の品質異常が発生することを防止するため、直径を徐々に縮小して円錐状のテール部を形成し、シリコン融液2からのシリコン単結晶を切り離す(ステップS20)。以上により、シリコン単結晶インゴットが完成する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、熱遮蔽部材20の開口20aであってシリコン融液の上方を覆う熱遮蔽板22を設け、熱遮蔽板22の位置制御が種結晶1の位置制御とは別に独立して行われるので、シリコン原料の溶融開始からネッキング工程までの間、熱遮蔽板22を所定の保温位置に設置しておくことができる。したがって、シリコン原料の溶融時にはこの熱遮蔽板22を用いてシリコン原料を効率良く加熱することができ、種結晶1の着液時には同じ熱遮蔽板22を用いて種結晶1を効率良く加熱することができ、転位のない太いネック部を確実に形成することができる。
【0049】
以上、本発明をその好ましい実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明に包含されるものであることは言うまでもない。
【0050】
例えば、上記実施形態においては、シリコン原料の溶融開始からネッキング終了までの間、熱遮蔽板22を保温位置に配置しているが、少なくともシリコン原料の溶融開始から着液直前までの間、熱遮蔽板22を保温位置に配置すればよい。すなわち、ネッキングを開始する前に熱遮蔽板22を待避位置に移動させてもよく、熱遮蔽板22を用いて種結晶を十分に加熱した後は種結晶を待避位置に移動させてもよい。
【0051】
また、上記実施形態としては、第1のワイヤー18と第2のワイヤー23に共通の巻き取り機構19を用いているが、それぞれのワイヤーに対して別々の巻き取り機構を用意してもよい。また、種結晶や熱遮蔽板の引き上げ軸としてワイヤーを用いているが、引き上げ棒を用いて引き上げを行ってもよい。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
図1に示すシリコン単結晶引き上げ装置10を用いてシリコン単結晶の引き上げを行うと共に、無転位のネック部を形成するために設定されたギャップG(図1参照)とボディー部を形成するために設定されたギャップGとの比(以下、GAP比という)を求めた。ギャップGは、図1に示すように、熱遮蔽部材20の下端とシリコン融液2の表面との間のギャップである。ギャップGの広さを調整することによって、種結晶に与えられる熱量を増やすことができ、種結晶の無転位化を図ることが可能である。
【0053】
シリコン単結晶の引き上げは、熱遮蔽板を使用する場合と、熱遮蔽板を使用しない場合の両方について行った。熱遮蔽板を使用する実施例では、図3に示す製造工程に従ってシリコン単結晶の引き上げを行った。ネック部の直径を6mmとし、熱遮蔽板は液面から245mmの高さに配置した。熱遮蔽板の断面積は引き上げる単結晶の目標直径(ウェーハ径)と同一とし、熱遮蔽板の厚さは75mmとした。一方、熱遮蔽板を使用しない比較例では、従来の一般的な製造工程に従ってシリコン単結晶の引き上げを行った。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、GAP比は、熱遮蔽板が無い場合よりも熱遮蔽板が有る場合のほうが小さく、この傾向は単結晶の目標直径が200mm、300mm、400mmのすべてにおいて同じであった。この結果から、熱遮蔽板があることによって種結晶の加熱効果が高まり、熱遮蔽部材とシリコン融液の液面との間のギャップGをそれほど広げなくても種結晶を十分に加熱できることが分かった。
【0056】
またGAP比は、単結晶の目標直径が大きくなるほど大きくなることが分かった。このことから、単結晶の目標直径が大きくなるほど熱遮蔽板が必要であり、熱遮蔽板による効果がより大きくなることが分かった。
【0057】
(実施例2)
シリコン融液の液面から熱遮蔽板までの距離とGAP比との関係を求めた。単結晶の目標直径は300mmとし、熱遮蔽板の構造や引き上げ条件は実施例1と同一とした。その結果を表2に示す。
【表2】

【0058】
表2に示すように、GAP比は、液面から熱遮蔽板までの距離が大きくなるほど大きくなることが分かった。このことから、液面からの距離が100〜600mmの範囲内であれば所望の効果は得られた。しかし、液面から熱遮蔽板までの距離が700mmの場合には、熱遮蔽板を設けたことによる効果が全くないわけではないものの、GAP比の最大値が3.0以上となり、所望の効果が得られないことが分かった。
【0059】
(実施例3)
単結晶の目標直径に対する熱遮蔽板の直径比とGAP比との関係を求めた。単結晶の目標最大直径は300mmとし、熱遮蔽板の構造や引き上げ条件は実施例1と同一とした。その結果を表3に示す。
【表3】

【0060】
表3に示すように、GAP比は、直径比が小さくなるほど(つまり熱遮蔽板の直径が小さくなるほど)大きくなり、直径比が60〜100(%)の範囲内であれば所望の効果が得られた。しかし、直径比が50(%)の場合には、熱遮蔽板を設けたことによる効果が全くないわけではないものの、GAP比の最大値が3.0以上となり、熱遮蔽板を設けたことによる所望の効果が得られないことが分かった。
【0061】
(実施例4)
熱遮蔽板の厚みとGAP比との関係を求めた。単結晶の目標直径は300mmとし、熱遮蔽板の構造や引き上げ条件は実施例1と同一とした。その結果を表2に示す。その結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表4に示すように、GAP比は、熱遮蔽板の厚みが厚くなるほど大きくなり、20〜300mmの範囲内であれば所望の効果が得られた。しかし、熱遮蔽板の厚みが10mmの場合には、熱遮蔽板を設けたことによる効果が全くないわけではないものの、GAP比の最大値が3.0以上となり、所望の効果が得られないことが分かった。
【符号の説明】
【0064】
1 種結晶
2 シリコン融液
10 シリコン単結晶引き上げ装置
11 チャンバー
12 支持軸
13 グラファイトサセプタ
14 石英ルツボ
15 ヒーター
16 支持軸駆動機構
17 シードチャック
18 ワイヤー
19 機構
20 熱遮蔽部材
20a 熱遮蔽部材の開口部
21 制御装置
22 熱遮蔽板
22a 熱遮蔽板の中空部
23 ワイヤー
24 ガス導入口
25 ガス管
26 コンダクタンスバルブ
27 ガス排出口
28 排ガス管
29 コンダクタンスバルブ
30 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液を保持するルツボと、
前記ルツボの周囲に設けられたヒーターと、
前記ルツボの上方に設けられ、先端に種結晶が取り付けられた第1の引き上げ軸と、
前記ルツボの上方に配置された略逆円錐台形状の筒状部分を有する熱遮蔽部材と、
中空部を有する略円盤状の熱遮蔽板と、
前記ルツボの上方に設けられ、先端に前記熱遮蔽板が取り付けられた第2の引き上げ軸とを備え、
前記熱遮蔽板は、前記シリコン融液の上方を覆う保温位置と、前記シリコン融液から見て前記保温位置よりも上方の待避位置との間を移動可能に構成されており、
前記保温位置は、垂直方向に対して前記熱遮蔽部材と重なる位置であり、
前記熱遮蔽板の位置制御は、前記第1の引き上げ軸の昇降制御とは独立して行われることを特徴とするシリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項2】
前記熱遮蔽板の前記中空部は前記種結晶を通過させることが可能な大きさを有することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項3】
前記熱遮蔽板の主面の面積は、引き上げられるシリコン単結晶の断面積の60%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項4】
前記熱遮蔽板は、300〜1500℃の温度範囲における熱伝導率が0.1〜0.5W/m・Kであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項5】
前記熱遮蔽板は、カーボンコンポジットの基本構造体の表面をグラファイトでコーティングしたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶引き上げ装置。
【請求項6】
中空部を有する略円盤状の熱遮蔽板を、垂直方向に対して前記熱遮蔽部材と重なる位置であって石英ルツボの上方を覆う保温位置に保持した状態で前記石英ルツボ内のシリコン原料を溶融する溶融工程と、
前記熱遮蔽板の位置を前記保温位置に維持したまま、前記熱遮蔽板よりも上方に準備された種結晶を前記中空部に通過させて降下し、前記ルツボ内のシリコン融液に着液させる着液工程と、
前記熱遮蔽板の位置を、前記シリコン融液から見て前記前記保温位置よりも上方の待避位置に移動させる待避工程と、
前記単結晶の直径を徐々に大きくしながら成長させるショルダー形成工程と、
前記単結晶の直径を一定に維持しながら成長させるボディー形成工程と、
前記単結晶の直径を徐々に小さくして前記シリコン融液から切り離すテール形成工程とを備えることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
着液工程の前であってショルダー形成工程の前に、前記熱遮蔽板を前記保温位置に配置したまま、前記種結晶の直径が6mm以上となるように調整するネッキング工程をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載のシリコン単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91942(P2012−91942A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238016(P2010−238016)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】