説明

シリコン単結晶引上装置

【課題】試料管と供給管とを接続する接続手段の密閉性を高め、昇華性ドーパントが接続手段から漏れることを防止するシリコン単結晶引上装置を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶引上装置は、引上炉2と、昇華性ドーパント23を収容する試料室20と、試料室20の内部と引上炉の内部との間を昇降可能な試料管21と、試料管21を昇降させる昇降手段25と、引上炉の内部に設けられ、昇華性ドーパント23を融液に供給する供給管22と、試料管21と供給管22とを接合する接合手段と、を含む。接合手段は、試料管21の一端から突出する凸部211と、供給管22の一端に設けられ凸部211が嵌合可能に形成された凹部221と、からなり、凸部211と凹部221との接触面が曲面となるように形成されるボールジョイント構造により構成され、試料管21と供給管22との間には、流路が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶引上装置に関し、具体的には、引上炉内の坩堝に融液を貯留し、チョクラルスキー(CZ)法により、ドープされたシリコン単結晶を融液から引き上げるシリコン単結晶引上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドーパントをシリコン結晶に添加する方法としては、昇華性ドーパントが収容された試料室を、引上炉内の融液上方の所定位置まで下降し、融液から輻射される輻射熱によって昇華性ドーパントを加熱して昇華させて、昇華によって気体となった昇華性ドーパントを融液に導入する方法が取られている。
【0003】
気体となったドーパントを融液に導入する方法の1つとしては、供給管を、その開口端を融液より上方に配置して設け、アルゴンガス等の不活性ガスからなるキャリアガスによって搬送されるドーパントを、供給管から融液に向けて吹き付ける方式が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、引上げ機構と干渉しない位置に試料管(ドープ管)を配置して、試料管を坩堝の上面よりも上となる位置まで下降させて、その位置で融液から輻射される輻射熱によって試料室内部のドーパントを溶解させ、さらにドーパントを収容した試料管を融液に浸漬する位置まで下降させて、試料管の開放面から溶解されたドーパントを融液に投入し、成長軸方向に不連続に異なる比抵抗範囲をもつシリコン単結晶インゴットを引上げ成長させる発明が記載されている。
【特許文献1】特開2005−336020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、試料管を供給管と接続する手段の詳細については検討されていない。気化した昇華性ドーパントは、試料管と供給管とが接続される接続手段の密閉性が高くないと、接続手段に形成される隙間から漏れる場合がある。その結果、必要な量の昇華性ドーパントを融液に供給することができなくなり、所望の品質のシリコン単結晶が得られなくなってしまう。
【0006】
そこで、試料管と供給管との接続位置が僅かにずれた場合でも、試料管と供給管とを接続する部分を密閉できる接続手段が求められている。しかしながら、供給管は引上炉の内部に配置されているため、結晶の汚染の原因となる材質のものを使用できない。また、供給管は、融液の表面と近接して配置されるため、高温に晒されており、試料管と供給管とを接合する部分に用いられる材料は、耐熱性の高いものに限られる。このため、試料管と供給管との接続手段に用いることのできる材料は限定されており、密閉性を高める構造とすることが困難であった。
【0007】
本発明は、試料管と供給管とを接続する接続手段の密閉性を高め、昇華性ドーパントが接続手段から漏れることを防止するシリコン単結晶引上装置を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明のシリコン単結晶引上装置は、ドープされたシリコン単結晶をチョクラルスキー法により融液から引き上げるシリコン単結晶引上装置であって、引上炉と、前記引上炉に外付けされ昇華性ドーパントを収容する試料室と、前記試料室の内部と前記引上炉の内部との間を昇降可能な試料管と、前記試料管を昇降させる昇降手段と、前記引上炉の内部に設けられ、前記試料管から排出される前記昇華性ドーパントを前記融液に供給する供給管と、前記試料管と前記供給管とを接合する接合手段と、を含み、前記接合手段は、前記試料管の一端から突出する凸部と、前記供給管の一端に設けられ前記凸部が嵌合可能に形成された凹部と、からなり、前記凸部と前記凹部との接触面が曲面となるように形成され、前記凸部が前記凹部に嵌合して接合されるボールジョイント構造により構成され、前記試料管と前記供給管との間には、流路が形成されることを特徴とする。
【0009】
(2) 本発明のシリコン単結晶引上装置は、ドープされたシリコン単結晶をチョクラルスキー法により融液から引き上げるシリコン単結晶引上装置であって、引上炉と、前記引上炉に外付けされ昇華性ドーパントを収容する試料室と、前記試料室の内部と前記引上炉の内部との間を昇降可能な試料管と、前記試料管を昇降させる昇降手段と、前記引上炉の内部に設けられ、前記試料管から排出される前記昇華性ドーパントを前記融液に供給する供給管と、前記試料管と前記供給管とを接合する接合手段と、を含み、前記接合手段は、前記試料管の一端に設けられる凹部と、前記供給管の一端に設けられ前記凹部が嵌合可能に形成された凸部と、からなり、前記凹部と前記凸部との接触面が曲面となるように形成され、前記凹部が前記凸部に嵌合して接合されるボールジョイント構造により構成され、前記試料管と前記供給管との間には、流路が形成されることを特徴とする。
【0010】
(3) 前記凸部の外面は略球状を有し、前記凹部の内面は、前記凸部の外面に対応する湾曲形状を有することが好ましい。
【0011】
(4) 前記昇降手段は、前記試料管が摺動可能なガイドレールを備え、前記試料管は、前記ガイドレールに案内されて前記凸部を前記凹部に嵌合することが好ましい。
【0012】
(5) 前記昇華性ドーパントは砒素又は赤燐であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料管と供給管とを接続する接続手段の密閉性を高め、昇華性ドーパントが接続手段から漏れることを防止するシリコン単結晶引上装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[引上炉]
以下、本発明のシリコン単結晶引上装置1の実施形態について具体的に説明する。図1は、本実施形態のシリコン単結晶引上装置1を説明する概略図である。図2は、本実施形態に係る試料室20と、遮蔽手段24と、試料管としてのドープ管21と、昇降手段25と、供給管22との位置関係を示す断面の概略図である。図1及び図2に示すように、本実施形態のシリコン単結晶引上装置1は、CZ法による結晶成長に用いることのできる引上炉(チャンバ)2を備えている。
【0015】
引上炉2の内部には、多結晶シリコン(Si)からなる原料を溶融した融液5を収容する坩堝3が設けられている。坩堝3は、黒鉛坩堝32とその内側の石英坩堝31とから構成されている。坩堝3の周囲には、坩堝3の中にある原料を加熱して溶融するヒータ9が設けられている。このヒータ9と引上炉2の内壁との間には、保温筒13が設けられている。
【0016】
また、坩堝3の上方には、引上げ機構4が設けられている。引上げ機構4は、引上げ用ケーブル4aと、引上げ用ケーブル4aの先端に取り付けられた種結晶ホルダ4bとからなる。この種結晶ホルダ4bによって種結晶が把持される。
【0017】
ここで、坩堝3の中に原料を入れ、ヒータ9を用いて加熱し、原料を溶融して融液5にする。融液5の溶融状態が安定化したところで、引上げ用ケーブル4aを降下して種結晶ホルダ4bに把持させた種結晶(図示せず)を融液5に浸漬する。種結晶を融液5になじませた後で、引上げ用ケーブル4aを上昇させ、融液5からシリコン単結晶(シリコン単結晶インゴット)6を引上げて成長させる。シリコン単結晶6を成長させる際、坩堝3を回転軸10によって回転させる。それとともに、引上げ機構4の引上げ用ケーブル4aを、回転軸10の回転方向と同じ方向又は逆の方向に回転させる。ここで、回転軸10は鉛直方向にも駆動することができ、坩堝3を任意の上方方向の位置に上下動させることもできる。
【0018】
このとき、引上炉2の内部は外気を遮断して真空状態(例えば数KPa程度)に減圧し、不活性ガスとしてアルゴンガス7を供給しつつ、ポンプを用いてアルゴンガス7を排気する。引上炉2の内部にアルゴンガス7を流通させることにより、引上炉2の内部で発生した蒸発物を、アルゴンガス7ととともに引上炉2の外部に除去することができる。このときのアルゴンガス7の供給流量は、結晶成長の各プロセスによって各々設定することができる。
【0019】
シリコン単結晶6が成長してくると、融液5の減少によって融液5と坩堝3との接触面積が変化し、坩堝3からの酸素溶解量が変化するため、引き上げられるシリコン単結晶6中の酸素濃度分布に影響を与える。そこで、坩堝3の上方及びシリコン単結晶6の周囲に、熱遮蔽板8(ガス整流筒)を設ける。この熱遮蔽板8は、引上炉2の上方より供給されるアルゴンガス7を融液表面5aの中央に導き、さらに融液表面5aを経由して融液表面5aの周縁部に導く作用を有する。そして、アルゴンガス7は、融液5からの蒸発物とともに、引上炉2の下部に設けた排気口(図示せず)から排出される。それにより、融液表面5a上のガス流速を安定化させ、融液5から蒸発する酸素を安定な状態に保つことができる。
【0020】
また、この熱遮蔽板8は、種結晶及び成長するシリコン単結晶6に対する、坩堝3、融液5、ヒータ9等の高温部で発生する輻射熱を遮断する作用も有する。ここで、熱遮蔽板8の下端と融液表面5aとの距離の大きさは、坩堝3の上下動によって調整してもよく、熱遮蔽板8の昇降装置による上下動によって調整してもよい。
【0021】
[試料室]
試料室20は、成長させるシリコン単結晶6に、ドープさせる昇華性ドーパント(不純物)23を収容するものである。試料室20は、引上炉2のフランジ部に、後述する遮蔽手段24を介して外付けされるものである。ここで、試料室20に収容する昇華性ドーパント23としては、シリコン単結晶6にN型の電気的特性を与えるためのN型用のドーパントである、砒素As、赤燐P、又はアンチモンSbが挙げられる。特に、砒素As及び赤燐Pは、昇華可能な昇華性ドーパントであるため、これらを昇華性ドーパント23として用いることにより、比較的低い温度で固相から気相に気化させることができる。
【0022】
試料室20に昇華性ドーパント23を収容する際には、試料管としてのドープ管21に昇華性ドーパント23を投入するとともに、このドープ管21を試料室20に収容することが好ましい。
【0023】
ドープ管21は、略円筒形の形状を有する。ドープ管21は、試料室20の内部から引上炉2の内部に延びるように設けられるガイドレール25b(第1ガイドレール25c、第2ガイドレール25d)の溝に沿って配置され、ガイドレール25bに案内されて試料室20の内部と引上炉2の内部との間を昇降する。ドープ管21及びガイドレール25bの具体的な形状については、後に詳述する。
【0024】
ドープ管21を用いることで、試料室20への昇華性ドーパント23の出し入れを容易にするとともに、稼働中の引上炉2への昇華性ドーパント23の投入をより確実に行うことができる。ここで、ドープ管21の材質は、融液の輻射熱による高温に耐えられる材質であればよく、具体的には透明の石英を用いることができる。ドープ管21は、昇華性ドーパント23を引上炉2の内部に供給する。
【0025】
試料室20には真空ポンプ(図示せず)及びアルゴンガスライン(図示せず)を設けることが好ましい。真空ポンプ及びアルゴンガスラインを設けることで、試料室20の内部の圧力が引上炉2と独立して減圧され、又は常圧に戻されるため、ゲートバルブを開放した時やドープ管21を取り外した時に、試料室20の内部における急激な圧力変化を低減することができる。
【0026】
また、試料室20には冷却機構を設けることが好ましい。冷却機構を設けることで、引上炉2の中で加熱されたドープ管21が、冷却機構とアルゴンガスとの併用で効率よく冷却されるため、ドープ管21の交換をよりスムーズにすることができる。
【0027】
試料室20と引上炉2との間には、遮蔽手段24の他に、両端にフランジを有する配管を介することもできる。このとき、配管には試料室20と同様に冷却機構を設けることもでき、又は、配管に小窓を設けることもできる。特に、配管に小窓を設けることで、昇華性ドーパント23の投入が確実に行われていることを容易に確認することができる。
【0028】
[遮蔽手段]
遮蔽手段24は、引上炉2と試料室20とを熱的に遮断するものであり、引上炉2と試料室20の間に設けられるものである。遮蔽手段24を設けることで、引上炉2内の輻射熱及び雰囲気が遮蔽手段24で熱的に遮断されるため、所望のタイミングで所望量の昇華性ドーパント23を気化することができ、例えば結晶成長中に遮蔽手段24を開放して試料室20から昇華性ドーパント23を投入することも可能になる。
【0029】
遮蔽手段24としては、スライドゲートバルブを好ましく用いることができる。スライドゲートバルブを用いることにより、遮蔽手段24のストローク方向のスペースが小さくなるため、試料室20から昇華性ドーパント23を移送する距離をより短くすることができる。このとき、遮蔽手段24にも冷却機構を用いることがより好ましい。冷却機構を用いることで、引上炉2からの熱によって遮蔽手段24が劣化しないため、引上炉2と試料室20との間を確実に熱的に遮断することができる。
【0030】
遮蔽手段24を閉じている間は、引上炉2内の輻射熱が試料室20内の昇華性ドーパント23に及ばず、昇華性ドーパント23が気化しない。そのため、シリコン単結晶6の成長を開始して最初に遮蔽手段24を開くまでの間は、成長するシリコン単結晶6を昇華性ドーパント23が含まれない無添加の状態にすることができる。
【0031】
その後、シリコン単結晶6に昇華性ドーパント23をドープし始めるタイミング、すなわちシリコン単結晶6の肩部から直胴部の前半部まで成長したタイミングで遮蔽手段24を開放する。ここで、遮蔽手段24を開放する際には、昇華性ドーパント23を試料室20の所定の位置に収納して試料室20の扉を閉めた後、試料室20側の真空ポンプを作動させて引上炉2の内部と試料室20の内部とを調圧してから、遮蔽手段24を開放するようにする。シリコン単結晶6の肩部から直胴部の前半部まで成長したタイミングで遮蔽手段24を開放し、N型用の昇華性ドーパント23を高濃度にドープさせることにより、肩部から直胴部の前半部までは、昇華性ドーパント23が無添加の状態となっており、直胴部の前半部以降テール部までは、昇華性ドーパント23が高濃度に添加された状態となっている。従って、抵抗率が0.01Ωcmより小さいN型の電気的特性を示すN++型シリコン単結晶6を製造することができる。
なお、ドープ開始のタイミングは上記のタイミングに制限されるものではない。例えば、単結晶を引き上げる前に、すなわち、石英坩堝31内の多結晶素材が溶解した後から種結晶が融液に着液するまでの間に、ドープを開始してもよい。
【0032】
シリコン単結晶6に昇華性ドーパント23を高濃度に添加して低抵抗率のN++型のシリコン単結晶6を引上げ、成長させるときには、結晶の崩れが生じやすい。一方、本実施形態によれば、遮蔽手段24を用いることでシリコン単結晶6にN型の電気的特性を与える昇華性ドーパント23を投入するタイミングが正確に制御されるため、仮にシリコン単結晶6の直胴部の前半部までの成長に時間がかかったとしても、結晶の崩れを低減することができる。
【0033】
この遮蔽手段24は、シリコン単結晶6の成長が終わったタイミングに加え、結晶の成長中であっても昇華性ドーパント23を全て投入し終えたタイミングでも閉じることができる。遮蔽手段24を閉じた後は、試料室20内にアルゴンガス7を導入して試料室20の内部の圧力を大気圧に戻した後、試料室20の扉を開放して昇華性ドーパント23を繰返し投入することができる。
【0034】
[昇降手段]
昇降手段25は、ドープ管21を、後述する供給管22に接続するように昇降させるものである。昇降手段25は、ドープ管21が摺動可能なガイドレール25b(第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25d)及びガイドレール25bに沿ってドープ管21を昇降させるワイヤ機構25aを備える。
【0035】
ワイヤ機構25aは、ドープ管21に取り付けられるワイヤ26と、ワイヤ26を巻き取るドラム部材としての巻き取りドラム252と、巻き取りドラム252を駆動する駆動装置としてのモータ251と、を備える。ワイヤ機構25aは、ドープ管21をガイドレール25bに沿ってワイヤ26により昇降させる機構であり、モータ251により巻き取りドラム252を駆動して、ワイヤ26を介してドープ管21の高さ位置を調節する。このとき、ワイヤ機構25aにおけるモータ251の駆動は、ドープ管21の高さ位置や遮蔽手段24の開閉状態によって制御されることが好ましい。
【0036】
ワイヤ26は、巻き取りドラム252に収容可能であり、試料室20のワイヤ機構25a側の端部から引上炉2の内部まで、ドープ管21を昇降させることができる長を有していればよく、ワイヤ26の長さは特に限定されない。ワイヤ26は、モリブデン製の金属等の耐熱性の金属で構成される。ワイヤ26は、ドープ管21の長手方向の端部に引っ掛けて固定できるようになっている。
【0037】
ガイドレール25bは、試料室20の内部から遮蔽手段24まで延びる第1ガイドレール25cと、遮蔽手段24から引上炉2の内部まで延びる第2ガイドレール25dとを備える。第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25dは、試料室20の内部から供給管22に向かって設けられ、ドープ管21が昇降する位置を規定するものである。第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25dを設けることで、ドープ管21をより確実に供給管22に接続し、昇華性ドーパント23をより確実に供給管22に送ることができる。ここで、ガイドレール25bは、黒鉛材からなることが好ましい。黒鉛材から形成することにより、高い耐熱性を持たせるとともに、ガイドレール25bの形状に対する制約をより小さくすることができる。
【0038】
これらの昇降手段25は、図1に示すように、シリコン単結晶6及び引上げ機構4と干渉せず、融液5に浸漬しない位置に配置する。昇降手段25を引上げ機構4と干渉しない位置に配置することにより、シリコン単結晶6を引き上げながら昇華性ドーパント23を投入することができる。
【0039】
遮蔽手段24は、試料室20から引上炉2の内部に向かって第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25dが延びる方向に直交するように、設けられている。図3に示すように、第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25dそれぞれには、ドープ管21の外径に適合する溝253が形成されている。図3は、ドープ管21とガイドレール25bとの配置を示す斜視図である。説明の便宜のため、第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間の遮蔽手段24は省略してある。溝253は、横断面が略半円で、円筒を縦に割った形状を有する。溝253は、ドープ管21が摺動可能なように、ドープ管21の外径よりも僅かに大きい内径を有する。
【0040】
第1ガイドレール25cの遮蔽手段24側の端部及び第2ガイドレール25dの遮蔽手段24側の端部には、それぞれこれらの端部に向かって内径が大きくなるテーパー254a、254bが形成される。
【0041】
遮蔽手段24が開いた状態では、第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間に遮蔽手段24の分の隙間が形成される。しかしながら、第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25dの遮蔽手段24側の端部には、これらの端部に向かって内径が大きくなるテーパー254a、254bが形成されている。このため、遮蔽手段24が開いた状態で、ドープ管21が第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間の隙間を通過するときに、ドープ管21が傾いたとしても、ドープ管21はテーパー254a、254bによって傾きを補正される。従って、ドープ管21は、第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間をスムーズに受け渡されるため、ガイドレール25bをスムーズに昇降する。
【0042】
[ドープ管]
図3に示すように、ドープ管21は、管状の本体214と、ドープ管21の長手方向の一方の端部に、該長手方向に沿って突出する凸部211とを備える。ドープ管21の長手方向の一方の端部とは、ドープ管21をガイドレール25bに配置したときに、ドープ管21の引上炉2の内部側に位置する側の端部(以下、下端部という)である。凸部211は、ドープ管21の本体214の端面215の略中央部から突出し、略球状の形状を有する。「略球状の形状」とは、完全な球状ではないが、大部分が球状の曲面を備えていることを意味する。
【0043】
図4に示すように、凸部211の内部は中空である。図4(a)は、ドープ管21が供給管22に接続された状態の断面の概略図である。図4(b)は、図4(a)の部分拡大断面図である。ドープ管21は、その長手方向の最も下方側に、ドープ管21の内部から外部へ連通する貫通孔212を備える。貫通孔212には、この貫通孔212よりさらに細かい孔が複数形成された板216が取り付けられている。この孔の直径は2mm程度である。このような構成により、ドープ管21の内部に収容された昇華性ドーパント23が貫通孔212から外部に落ちることを防止できる。ドープ管21は、遮蔽手段24が開いたときに、ワイヤ機構25aの駆動によって、ガイドレール25bを摺動して降下する。図4(a)及び図4(b)に示すように、ドープ管21は、降下した後、引上炉2の内部に設けられた供給管22と接続される。ドープ管21が供給管22と接続された際に、貫通孔212に取り付けられた板216の孔より、ドープ管21の内部から供給管22の内部へと通じる流路が形成される。
【0044】
また、ドープ管21は、本体214の端面215からドープ管21の長手方向に沿って下方に突出する突起213を備える。突起213の外側の面は、ドープ管21の外周側から凸部211側に傾斜している。突起213の高さ(端面215からドープ管21の長手方向に沿う高さ)は、凸部211の高さ(端面215からドープ管21の長手方向に沿う高さ)よりも低い。遮蔽手段24が開き、ドープ管21が第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間の隙間を通過するときに、ドープ管21が傾いたとしても、突起213がテーパー254a、254bによって傾きを補正される。従って、ドープ管21は、第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間をスムーズに受け渡されるため、ガイドレール25bをスムーズに昇降する。
【0045】
なお、ドープ管21の他方の端部には、昇華性ドーパント23を出し入れする開口と、この開口を封じるキャップ217が設けられる。ドープ管21は、ガイドレール25bを昇降するため、他方の端部にも、一方の端部と同様に突起213が設けられる。従って、ドープ管21がワイヤ機構25aにより引き上げられるときにも、ドープ管21は、第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25dとの間をスムーズに昇降できる。
【0046】
[供給管]
図4(a)に示すように、供給管22は、昇降手段25により降下したドープ管21と接続し、融液5等からの輻射熱が与えられることによって気化した昇華性ドーパント23を融液5に導くものである。供給管22は、ドープ管21から排出される昇華性ドーパント23を引上炉2の内部に供給する。
【0047】
供給管22は、図1に示すように、シリコン単結晶6及び引上げ機構4と干渉せず、融液5に浸漬しない位置に配置する。後述するように、供給管22の一端には、ドープ管21の凸部211と接合される接合部222が設けられる。供給管22の材質は、融液等の輻射熱による高温に耐える材質を用いることができ、具体的には石英を用いることができる。
【0048】
供給管22は、引上げ機構4と干渉しない位置に配置されることにより、シリコン単結晶6を引き上げながら、気化した昇華性ドーパント23を融液5に導くことが可能になり、結晶の引上げ中のドーピングを極めて精度よく行うことができる。また、供給管22を融液5に浸漬しない位置に配置し、気化した昇華性ドーパント23を供給管22から融液5に吹き付けることで、供給管22や昇華性ドーパント23等を融液5に浸漬することで起こる融液5の液振、融液5の液温の低下、及び融液5の対流の変化が軽減される。また、成長中の単結晶の結晶化率を安定化させることにより、成長したシリコン単結晶6の結晶状態への悪影響を少なくすることができる。このとき、供給管22は、融液5に昇華性ドーパント23を吹きつけるときに融液5内への昇華性ドーパント23の投入効率が最大となるような位置に配置することが好ましい。
【0049】
図4(a)に示すように、供給管22は、昇華性ドーパントを融液5に導く本体224と、供給管22の長手方向の一方の端部に設けられ、該長手方向に沿って突出する接合部222とを備える。この一方の端部は、供給管22を引上炉2の内部に配置したときに、第2ガイドレール25d側に向けて配置される側の端部(以下、上端部という)である。図4(b)に示すように、接合部222は、ドープ管21の凸部211が嵌合可能な凹形状を有する凹部221を備える。ドープ管21の凸部211と凹部221とは、ドープ管21と供給管22とを接合する接合手段としてのボールジョイント構造を構成する。凹部221は、第2ガイドレール25dに沿って降下したドープ管21の凸部211が嵌合して接続するように、第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25dの軌道上に配置される。
【0050】
凹部221の内面は、ドープ管21の凸部211との接触面となり、この接触面が曲面となるように形成される。凹部221の内面は、ドープ管21の凸部211の外面に対応する湾曲した湾曲形状を有する。凹部221の最も深く窪んだ部分には孔223が形成され、この孔223は中空の供給管22へと連続している。この構成により、ドープ管21が供給管22に接続されたときに、ドープ管21の内部と供給管22の内部とを連通する流路が形成され、気化した昇華性ドーパントが融液5に導かれる。
【0051】
[パージチューブ]
図1に示すように、引上炉2には、上方から下方に向かって、パージチューブ14が設けられる。パージチューブ14は、引上炉2の上方から下向きに延び、供給管22の接合部から、供給管22に沿ってさらに融液5の上面まで延びる。パージチューブ14は、ドープ管21がガイドレール25bに沿って昇降する際、ガイドレール25bから擦れて生じる粉体としてのカーボン粉を融液5に混入させない。
【0052】
次に、図2から図4を参照して、本実施形態に係るシリコン単結晶引き上げ装置1の使用状態の一例を説明する。ドープ管21には、昇華性ドーパント23が投入される。投入されている間は、遮蔽手段24は閉じており、試料室20の内部は大気圧である。昇華性ドーパント23がドープ管21に投入された後、所定の圧力に調整され、遮蔽手段24が開かれる。
【0053】
ドープ管21は、ワイヤ機構25aのワイヤ26と接続されている。ワイヤ機構25aのモータ251は、巻き取りドラム252を駆動して、ワイヤ26を繰り出す。そして、ワイヤ26に接続されたドープ管21が下降する。ドープ管21は、遮蔽手段24が開かれると、第1ガイドレール25c及び第2ガイドレール25dに沿って降下する。
【0054】
遮蔽手段24が開いた状態では、第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間に隙間が開いている。しかしながら、第1ガイドレール25cの遮蔽手段24側の端部及び第2ガイドレール25dの遮蔽手段24側の端部には、これらの端部側に向かって内径が大きくなるテーパー254a、254bが形成されている。このため、遮蔽手段24が開いた状態で、ドープ管21が第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間の隙間を通過するときに、ドープ管21が傾いたとしても、ドープ管21はテーパー254a、254bによって傾きを補正される。従って、ドープ管21は、第1ガイドレール25cと第2ガイドレール25dとの間をスムーズに受け渡されるため、ガイドレール25bをスムーズに昇降する。
【0055】
さらに、ドープ管21の長手方向の端部には、ドープ管21の外側から内側に向かって傾斜する突起213が設けられているため、よりスムーズに、ドープ管21が昇降する。
【0056】
ドープ管21は、ガイドレール25bに形成された溝253に沿って降下する。ドープ管21はワイヤ26によって支持されて、第2ガイドレール25dの引上炉2側の端部を通過する。ガイドレール25bを下方に摺動したドープ管21は、溝253の延長線上に配置されている供給管22の接合部222に接続される。ドープ管21の下端部に設けられた凸部211は、ガイドレール25bに案内されて供給管22の上端部に設けられた凹部221に嵌合する。
【0057】
凸部211の最も下方側には、貫通孔212が設けられ、貫通孔212に複数の孔を有する板216が取り付けられている。一方、凹部221の最も窪んだ部分は、供給管22の内部へと連通する孔223となっている。このため、凸部211が凹部221に嵌合するとドープ管21と供給管22との間には流路が形成される。ドープ管21の内部の気化した昇華性ドーパント23は、流路を通って供給管22まで流れ込み、供給管22のさらに下方にある融液5の上面に吹き付けられる。
【0058】
このとき、ドープ管21が供給管22と接続される角度に多少ずれが生じても、接合手段の凸部211と凹部221とはボールジョイント構造であるため、凸部211が凹部221に嵌ったまま、両者間の角度を変えることができる。また、ガイドレール25bは引上炉2の内部に向かって傾斜して設けられており、この傾斜したガイドレール25bを通過したドープ管21の自重が凸部211にかかるため、凸部211と凹部221とがより強固に密着する。
【0059】
本実施形態のシリコン単結晶引上装置によれば、以下の各効果が奏される。本実施形態によれば、ドープ管21と供給管22との接続手段は、ドープ管21に設けられた凸部211と供給管22に設けられた凹部221からなる。そして、凸部211と凹部221との接触面は曲面となるように形成され、互いに嵌合するように適合されているため、ドープ管21と供給管22との接続手段の密閉性を向上させることができる。仮に、凸部211と凹部221とをテーパー形状として嵌め合わせた場合には、テーパの凸部と凹部とが嵌まり込んで固定され、外れないという状態になる恐れがある。しかしながら、本実施形態における接続手段においては、凸部211と凹部221との接触面が曲面であるため、互いに嵌り合って外れなくなることを防止できる。さらに、凸部211と凹部221との接触面が曲面であることで、凸部211と凹部221との熱膨張率が異なる場合でも、両者を問題なく接続することができ、互いに異なる物性値の凸部211及び凹部221を用いることができる。
【0060】
本実施形態によれば、凸部211は略球状であるため、ドープ管21が供給管22に接続される角度がずれた場合でも、凸部211が凹部221の湾曲した形状に沿って移動することにより、凸部211と凹部221との位置のずれを補正することができる。
【0061】
本実施形態によれば、ドープ管21は、傾斜したガイドレール25bを降下して、供給管22に接続される。このため、供給管22の凹部221にドープ管21の自重が掛かり、凸部211と凹部221との密閉性がさらに向上する。
【0062】
本発明の実施形態は、上記の実施形態に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲は、これに限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、ドープ管21に凸部211が設けられ、供給管22に凹部221が設けられる構成となっているが、凸部211と凹部221とが逆の構成であってもよい。すなわち、本発明における接合手段は、試料管(ドープ管21)の一端に設けられる凹部と、供給管22の一端に設けられ凹部が嵌合可能に形成された凸部と、からなり、凹部と凸部との接触面が曲面となるように形成され、凹部が凸部に嵌合して接合されるボールジョイント構造により構成され、ドープ管21と供給管22との間には、流路が形成されるように構成することもできる。
【0063】
図示は省略し、便宜上、上記の実施形態と同じ符号を用いるが、詳細には、ドープ管21の下端部側に凹部が設けられ、供給管22の上端部側に接合部222が設けられる。接合部222は、ガイドレール25b側に向かって突出する凸部を備える。ドープ管21がガイドレール25bに沿って下方に摺動すると、ドープ管21の下端部に設けられた凹部は、ガイドレール25bに案内されて供給管22の上端部に設けられた凸部に嵌合する。その他の構成及び効果は上記の実施形態と同様である。
【0064】
また、上記の実施形態では、吹き付け法により昇華性ドーパント23を融液5に供給するようにしているが、供給管22を融液5に浸漬する浸漬法を用いて昇華性ドーパント23を融液5に供給してもよい。
【0065】
また、キャリアガス導入管(図示せず)を用いることもできる。キャリアガス導入管は、ドープ管21に連通するものであり、図示しないガス供給源から供給されるドーパント輸送用のキャリアガスをドープ管21に導入するものである。キャリアガスを導入することにより、気化した昇華性ドーパント23をドープ管21内に滞留させることなく、効率よく供給管22を経て融液5に導くことができる。キャリアガス導入管は、例えば石英から構成される。また、キャリアガスとしては、アルゴンガス等の不活性ガスが用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態のシリコン単結晶引上装置を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る昇降手段を示す断面の概略図である。
【図3】本実施形態に係るドープ管とガイドレールとの配置を示す斜視図である。
【図4】図4(a)は、本実施形態に係るドープ管が供給管に接続された状態の断面の概略図であり、図4(b)は、図4(a)の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 シリコン単結晶引上装置
2 引上炉
5 融液
14 パージチューブ
20 試料室
21 試料管(ドープ管)
211 凸部
22 供給管
221 凹部
222 接合部
23 昇華性ドーパント
24 遮蔽手段
25 昇降手段
25a ワイヤ機構
25b ガイドレール
25c 第1ガイドレール
25d 第2ガイドレール
251 駆動装置
252 ドラム部材(巻き取りドラム)
253 溝
254a、254b テーパー
26 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドープされたシリコン単結晶をチョクラルスキー法により融液から引き上げるシリコン単結晶引上装置であって、
引上炉と、
前記引上炉に外付けされ昇華性ドーパントを収容する試料室と、
前記試料室の内部と前記引上炉の内部との間を昇降可能な試料管と、
前記試料管を昇降させる昇降手段と、
前記引上炉の内部に設けられ、前記試料管から排出される前記昇華性ドーパントを前記融液に供給する供給管と、
前記試料管と前記供給管とを接合する接合手段と、を含み、
前記接合手段は、前記試料管の一端から突出する凸部と、前記供給管の一端に設けられ前記凸部が嵌合可能に形成された凹部と、からなり、前記凸部と前記凹部との接触面が曲面となるように形成され、前記凸部が前記凹部に嵌合して接合されるボールジョイント構造により構成され、
前記試料管と前記供給管との間には、流路が形成されることを特徴とするシリコン単結晶引上装置。
【請求項2】
ドープされたシリコン単結晶をチョクラルスキー法により融液から引き上げるシリコン単結晶引上装置であって、
引上炉と、
前記引上炉に外付けされ昇華性ドーパントを収容する試料室と、
前記試料室の内部と前記引上炉の内部との間を昇降可能な試料管と、
前記試料管を昇降させる昇降手段と、
前記引上炉の内部に設けられ、前記試料管から排出される前記昇華性ドーパントを前記融液に供給する供給管と、
前記試料管と前記供給管とを接合する接合手段と、を含み、
前記接合手段は、前記試料管の一端に設けられる凹部と、前記供給管の一端に設けられ前記凹部が嵌合可能に形成された凸部と、からなり、前記凹部と前記凸部との接触面が曲面となるように形成され、前記凹部が前記凸部に嵌合して接合されるボールジョイント構造により構成され、
前記試料管と前記供給管との間には、流路が形成されることを特徴とするシリコン単結晶引上装置。
【請求項3】
前記凸部の外面は略球状を有し、前記凹部の内面は、前記凸部の外面に対応する湾曲形状を有する請求項1又は2に記載のシリコン単結晶引上装置。
【請求項4】
前記昇降手段は、前記試料管が摺動可能なガイドレールを備え、
前記試料管は、前記ガイドレールに案内されて前記凸部を前記凹部に嵌合する請求項1から3のいずれかに記載のシリコン単結晶引上装置。
【請求項5】
前記昇華性ドーパントは砒素又は赤燐である請求項1から4のいずれかに記載のシリコン単結晶引上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−30853(P2010−30853A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195999(P2008−195999)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000184713)SUMCO TECHXIV株式会社 (265)
【Fターム(参考)】