説明

シリコン合金製摺動案内装置及びその製造方法

【課題】シリコンを主成分とするシリコン合金を用いた摺動案内装置、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】温度及び圧力を制御しながら行う燃焼合成方法により、燃焼合成温度2000℃以下、同圧力1MPa以下で製造されたシリコン合金を粉末化し、含水コンパウンド工程を経て押出成形後、焼結し、完成品形状に合わせ適宜の方法を選択して研削、研磨することにより、転動体を介さず、軌道体12と、これに対し相対移動可能なように形成された移動体14のみを具えることを特徴とする、シリコン合金製摺動案内装置10が得られる。これにより、優れた剛性、耐摩耗性、耐熱性を有しながら、転動体を用いない極めてシンプルな構造で、優れた自己潤滑性、動作特性、耐食性を有し、騒音・振動も生じない摺動案内装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンを主成分とするシリコン合金を用いた摺動案内装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種産業機械設備において、機械装置やワーク等を精度よく移動させる手段として、種々の摺動案内装置が用いられてきた。
一例として、直線運動軸受、リニアガイド等と呼ばれる装置がある(特許文献1参照。)。この種の案内装置は、軌道体と、その上で移動可能なように支持される移動体からなり、移動体は、ケーシングとその両端に取付けられた一対のエンドキャップを有し、移動体がスライドするのに伴い、ケーシング内部に形成された循環路とエンドキャップ内部に形成された方向転換路を、転動体(ボール又はローラ)が循環移動するようになっている。
また、他の構成として、円筒状のシャフトに、スプライン溝又はねじ溝が形成され、移動体が回転運動を行いつつ直線方向の案内を行えるようにし、上記同様、転動体が、シャフト上の溝と移動体内周面に形成された転走溝からなる循環路を循環移動するようにしたものもある。
【0003】
このような従来技術による摺動案内装置は、解決すべきいくつかの課題に直面してきた。軌道体やシャフトと移動体間に生じる摩擦抵抗による作動能力の低下、騒音・振動の発生、また、通常、この種の摺動案内装置は鉄鋼材で作られるため、腐食をいかに防ぐかという課題もあった。そして、これらの課題を解決するため、幾多の提案がなされてきた。
【0004】
上記のように、転動体を介して直線運動が行われるようにする従来技術は、軌道体やシャフトと移動体間に生じる摩擦抵抗を低減させてスムーズな動作を実現するために提案されたものであり、直動案内装置の技術分野においては、転動体とその循環路が不可欠の基本構成となり、これを前提として、種々の提案・発明が行われてきた。
例えば、転動体の循環を円滑にするための、グリース等の潤滑剤の使用(特許文献1参照。)、転動体とその循環路間の接触性の調整(特許文献2参照。)、転動体間に介在させるスペーサに関する発明(特許文献3参照。)、潤滑剤を含浸させた潤滑部材の組込み、その材質や転動体との接触性の改良発明(特許文献4、5参照。)、防錆被膜による被覆(特許文献6参照。)等である。潤滑剤の採用は、転動体の運動を助けて摩擦抵抗を低減させることに加え、騒音・振動を緩和するための必須の手段でもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−286334号公報
【特許文献2】特開2009−68650号公報
【特許文献3】特開2001−21018号公報
【特許文献4】特開2009−41743号公報
【特許文献5】特開2009−68611号公報
【特許文献6】特開2009−30628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の案内装置を巡る各種の発明は、上記のとおり、転動体を介して直線運動や回転運動を促進する構成を大前提とするものであって、転動体、その循環路、方向転換路を形成したエンド部材、潤滑剤を含浸させた潤滑部材等、軌道体やシャフトと移動体本体の他に多くの部材や構成要素を要するため、製造工程は複雑化し、製造コストが嵩むものとなっていた。また、潤滑剤や防錆剤等は有害物質を含むため、環境への負荷が問題視されていた。
これらの問題は、詰まるところ、案内装置の材質として鉄鋼材を用いることに不可避的に伴うものであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等は、上記課題に着目し、シリコン、特に、酸素及び鉄等の金属元素を不純物として含有する低価格金属シリコンを原料として、シリコン合金を合成する手法について鋭意研究を重ねた。その結果、制御型燃焼合成法により、酸素及び鉄等の金属元素を固溶元素として許容できるシリコン合金を合成することに成功し、同シリコン合金、その製造方法及び製造装置について、先に、特願2009−60453(特願2006−354835の分割出願)として出願した。
併せて、発明者等は、平均粒径を特定値以下に制御した上記シリコン合金の粉末と、水、及び成形用バインダとで構成したことを特徴とする湿式コンパウンド法と、焼結法との組合わせを用いて、シリコン合金焼結体を製造する新たな製品加工技術を発明した。これについても、先に、特願2006−354835として出願している。
そして、これらの手法により製造されたシリコン合金焼結体を用い、これに研削、研磨加工を施すことにより、優れた剛性、耐摩耗性、耐熱性を有しながら、転動体やその循環を助けるための潤滑剤、潤滑部材を要することなく、それ自体として、優れた自己潤滑性、動作特性を有し、鋼製の摺動案内装置のような騒音・振動を生じることなく、耐食性にも優れた摺動案内装置を製造することに成功した。
【0008】
すなわち、本発明は、温度及び圧力を制御しながら行う燃焼合成方法により、燃焼合成温度2000℃以下、同圧力1MPa以下で製造され、
重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有するシリコン合金からなり、
転動体を介さず、軌道体又はシャフトと、該軌道体又はシャフトと嵌合又はスプライン係合若しくはねじ係合しつつ相対移動可能なように形成された移動体のみからなることを特徴とするシリコン合金製摺動案内装置により、前記課題を解決した。
【0009】
また、本発明は、真空状態とした制御型燃焼合成装置内に、所定量の窒素を供給し、金属シリコン、アルミニウム、アルミナ及び/又はシリカを前記制御型燃焼合成装置内の反応容器中に供給して、前記制御型燃焼合成装置内圧力を1MPa以下、前記反応容器内温度を2000℃以下に制御しながら燃焼合成したシリコン合金を、
粒径1ミクロン以下に粉末化し、
前記シリコン合金粉末を原料として、水分を添加してコンパウンドを製造する含水コンパウンド製造工程と、押出成形による成形工程と、乾燥工程とにより製造した棒状体のグリーン成形品を、
常圧又は常圧以上に保持した窒素雰囲気中において、ミリ波加熱による焼結法、通常加熱による常圧焼結法、又はHIP焼結法により、1300〜1900℃の温度範囲、及び、30分〜3時間の加熱時間で焼結してシリコン合金の焼結体とし、
上記焼結体を研削、研磨することにより、
転動体を介さず、軌道体又はシャフトと該軌道体又はシャフトに嵌合又はスプライン係合若しくはねじ係合しつつ相対移動可能なように形成された移動体のみからなる摺動案内装置を製造することを特徴とするシリコン合金製摺動案内装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、優れた剛性、耐摩耗性、耐熱性を有しながら、摺動案内装置においてこれまで殆ど不可欠の構成と考えられてきた転動体とその循環路、転動体の循環を助けるための潤滑剤、潤滑部材等を要しない、軌道体又はシャフトと移動体のみの極めてシンプルな構造で、それ自体として、優れた自己潤滑性、動作特性を有し、鋼製の摺動案内装置のような騒音・振動を生じることなく、耐食性にも優れ、防錆剤による被覆も不要な摺動案内装置を提供することができる。これにより、製造コスト、メンテナンスコストともに抑えることができ、また、小型化により従来用いられることのなかった用途にも利用することが可能となる。
また、本発明は、地殻に大量に存在するシリコンを活用し、二酸化炭素を発生させない燃焼合成法により素材を製造し、廃棄する際には砂に戻る無公害廃却が可能であり、有害物質を含む潤滑剤や防錆剤等を使用しなくてよいから、近年急速に関心が高まっている環境問題の観点からも、極めて有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は、本発明のシリコン合金製摺動案内装置の第1実施形態の斜視図、(b)はその分解正面図。
【図2】(a)は、本発明のシリコン合金製摺動案内装置の第2実施形態の斜視図、(b)はその分解斜視図。
【図3】(a)は、本発明のシリコン合金製摺動案内装置の第3実施形態の斜視図、(b)はその分解斜視図。
【図4】(a)は、本発明のシリコン合金製摺動案内装置の第4実施形態の斜視図、(b)はその分解斜視図。
【図5】本発明のシリコン合金製摺動案内装置の製造工程図。
【図6】本発明に用いる制御型燃焼合成装置の概念的構成図。
【図7】シリコン50重量%の場合における、シリコン合金の生成領域を示す、窒素・アルミニウム・酸素の3元系状態図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の構成について詳述する。
図1〜4(a)は本発明の摺動案内装置の斜視図であり、図5はその製作工程を表したものである。本発明の摺動案内装置は、制御型燃焼合成法により合成した「シリコン合金」の粉末を原料とし、湿式コンパウンド法と窒素雰囲気中での焼結法との組合わせにより製造されたシリコン合金焼結体を、研削・研磨することにより製造することができる。
【0013】
そこで、まず、本発明の摺動案内装置の材質として用いる「シリコン合金」について、詳述する。
このシリコン合金は、主成分となるシリコン、アルミニウムの粉体の所定量と、シリコン及び/又はアルミニウムの酸化物の所定量と、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン、チタン、イットリウム、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、バナジウム、ボロン、タングステン及びコバルトのうち少なくとも1種の所定量を、必要に応じて任意の圧力で窒素を連続供給でき、反応時の圧力及び温度が制御できるとともに、燃焼合成反応終了後に装置内で制御冷却できる構成とした、発明者等の開発による制御型燃焼合成装置に装入し、圧力及び反応温度を制御しつつ燃焼合成反応を行うことによって得ることができる。
なお、低価格金属シリコン、リサイクルシリコン及び/又は金属アルニウムを、シリコン及び/又はアルミニム原料として使用することができる。
【0014】
燃焼合成は、装入原料の発熱反応を応用する合成法であり、合成の為の投入エネルギーが不要な合成手段として期待されている。しかし、燃焼合成反応時に、3000℃以上の高温、数十気圧の高圧となる為、高温・高圧反応に対応できる機能及び構造を有する装置が必要となるばかりでなく、合成生成物を常に一定組成で安定して合成する為の燃焼合成反応の制御技術が確立できていないという課題があった。そのため、実験室レベルでの小規模試作は行われているものの、工業的な実用化は行われてこなかった。
【0015】
これらの課題を解決するため、発明者等は、長年に亘り燃焼合成の制御に関する研究を鋭意推進し、窒素雰囲気中でのシリコンの燃焼合成反応を、2000℃以下、1MPa以下で行われるよう制御できるとともに、装置内で、温度を制御しつつ燃焼合成生成物を冷却できる構成とした制御型燃焼合成装置を、世界に先駆けて開発することに成功した。
【0016】
そして、発明者等は、上記の制御型燃焼合成装置を用い、シリコンと窒素とを主成分とする固溶体型のシリコン合金の開発に初めて成功した。すなわち、本発明の摺動案内装置を構成するシリコン合金は、本発明者等が開発した制御型燃焼合成装置により合成されることによって、初めて創出されたものである。
【0017】
図6は、本発明に用いる制御型燃焼合成装置50の概念的構成図である。
この装置50は、燃焼合成開始前に装置内の空気を排出する真空排気機構60と、原料粉末に着火するための少なくとも1つの着火機構52と、燃焼合成時に装置内の圧力を連続的に検出する圧力センサ54と、圧力センサ54からの出力に連動して、窒素供給機構を構成する管体56を介して外部窒素源(図示せず。)からの窒素を装置内に供給するとともに、装置内の反応ガスを外部に排出して装置内圧力を制御できるガス圧力制御弁58とを具える。
さらに、反応容器70底部に接して設置される冷却用プレート72と、装置全体を覆う水冷ジャケット74を配し、温度検出手段76からの出力により、流量制御バルブ78の開口度合を自動制御して、冷却水量の制御により温度を自動制御するようにしている。なお、水冷ジャケット74の流量制御バルブの図示は省略した。温度検出に基づく冷却用プレート72と水冷ジャケット74の流量制御は、双方について行なっても、いずれか一方だけ行なってもよい。
なお、反応時の過剰な冷却の際の補填装置として、装置内に加熱装置を設置してもよい(図示せず)。
【0018】
次に、この制御型燃焼合成装置を用いてシリコン合金を合成する方法について説明する。
まず、装置内の空気を真空排気機構60により排出し、装置内を真空状態にする。
次いで、管体56を介して外部窒素源から所定量の窒素を装置内に供給し、目標とするシリコン合金(符号80で示す。)が得られる量に秤量装入した金属シリコンとアルミニウムとアルミナ及び/又はシリカ原料に、少なくとも1箇所に設けた着火機構52により着火する。
そして、装置50内の圧力を検出する圧力センサ54、外部から窒素を供給する管体56、装置内反応ガスの排出機能を具えたガス圧力制御弁58からなる圧力制御機構と、反応容器内温度の検出手段76、装置全体を覆う水冷ジャケット74による第1冷却機構、装置内に設けた冷却用プレート72による第2冷却機構からなる冷却機構と、前記温度検出手段76と流量制御バルブ78からなる温度制御機構によって、装置内圧力と反応容器内温度を所定値に制御しながら制御型燃焼合成を実施する。
【0019】
前記制御型燃焼合成により合成したシリコン合金について、シリコンを重量%で50に一定値とした場合の、本発明によるシリコン合金の生成される領域26を、窒素・アルミニウム・酸素の3元系状態図として図7に示した。窒素・アルミニウム・酸素の3元系状態図の幅の広い領域Aは、シリコンを主成分とする全率固溶体1相組織であることを、X線回折法(XRD法)の解析から確認している。
さらに、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン、チタン、イットリウム、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、バナジウム、ボロン、タングステン及びコバルトのうちの少なくとも1種が、不可避の不純物として重量%で0.3未満存在しても、全率固溶体領域Aは何ら変化しないことを確認している。これにより、前記不可避不純物元素は、シリコン・窒素・アルミニウム・酸素で構成される全率固溶体に固溶することが確証された。
【0020】
併せて、重量%でシリコン70、40及び30を含有する場合についても、全率固溶体1相組織領域を本発明によるシリコン合金の組成領域として特定化している。さらに、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン、チタン、イットリウム、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、バナジウム、ボロン、タングステン及びコバルトのうち少なくとも1種を重量%で、0.3以上、10未満添加した際に構成される全率固溶体1相組織領域も同様に特定された。
【0021】
図7において、成分領域Aを外れた成分領域B〜Eは、シリコン合金に固溶できない金属酸化化合物、又は複合酸窒化化合物が生成され、シリコン合金と金属酸化化合物、又は複合酸窒化化合物との複合相の生成領域となるため、本特許請求範囲外とした。
【0022】
定量的数値で表現すると、重量%で、シリコン<30、シリコン>70、窒素<10、窒素>45、アルミニウム<1、アルミニウム>40、酸素<1、酸素>40の場合は、複合化合物がシリコン合金に混在して生成し、シリコン合金を脆弱化するため、これらの成分領域は本特許請求範囲から除外した。
【0023】
鉄、ニッケル、クロム、モリブテン、マンガン、チタン、イットリウム、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、バナジウム、ボロン、タングステン、及びコバルトは、いずれもシリコン合金に固溶して、シリコン合金の硬さ、剛性、耐熱特性、耐食特性を改善する作用を有する。総量添加量が重量%で0.3未満では添加効果が希薄であり、10以上では複合化合物が生成し、多層構造となるので、総量添加量は重量%で0.3以上、10未満が好ましい。
【0024】
上記の合成装置及び合成方法を用いれば、通常の電気炉還元精錬によって硅石又は硅砂から製造される金属シリコンの内、半導体用途用の酸素含有量の少ない高価格の高グレード金属シリコンではなく、酸素含有量が多く、且つ、鉄等の金属元素等を不純物元素として含有する低価格金属シリコンを、原料として使用することができる。
これにより、これまで殆ど未活用で、酸化シリコンの形で、硅石鉱山の硅石又は砂漠等の砂、硅砂として死蔵状態で埋蔵されている最多含有地球資源であるシリコンを、大量に有効活用できることになる。
【0025】
後述のとおり、本発明の摺動案内装置は、このシリコン合金を粉末化し、焼結、研削・研磨することにより得られる。上記の制御型燃焼合成によって得られるシリコン合金は、短時間で粉末化し、且つ、粒度の揃った粉末を得ることができ、最適焼結温度も、従来の燃焼合成法により合成した場合よりも低くてよいという優れた特性を有する。
【0026】
具体的には、燃焼合成温度2000℃以下、燃焼合成圧力1MPa以下で合成したシリコン合金の所定粒径への粉砕時間は、燃焼合成温度2000℃超、燃焼合成圧力1MPa超で行う従来の燃焼合成により合成したシリコン合金に比し、50%以上短縮された。
また、燃焼合成温度2000℃以下、燃焼合成圧力1MPa以下で合成したシリコン合金粉末の最適焼結温度は、従来の燃焼合成により合成したシリコン合金の場合と比較すると、約100℃低下することも確認された。
これにより、従来技術に比し、より少ないエネルギー量で、粉末化及び焼結を行うことができる。このように、良好な粉砕性により、超微粉末への加工と焼結処理が低コストで実施でき、しかも、粒度の揃った粉末を得ることができる。
【0027】
粒度の測定は、ナノレベルの微粒子の粒子径を測定することができる動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて行うことができる。動的光散乱法は、溶液中に分散する微粒子にレーザー光を照射し、粒子がその大きさにより異なるブラウン運動をみせることによって生じる散乱光の揺らぎを観測して、粒子のブラウン運動の速度(拡散係数)を求め、粒子径、粒子径分布を解析する手法である。そして、積算粒子径分布において、10%、50%、90%のときの粒径は、それぞれ、D10、D50、D90で表される。
本発明に用いるシリコン合金の粒子径分布は、D10=0.35μm、D50=0.51μm、D90=0.89μmであった。比較として、市販の窒化ケイ素は、最高級品で、D10=0.18μm、D50=0.5μm、D90=1.26μmである。本発明に用いるシリコン合金は、D10、D90の値の差が小さく、粒度のばらつきが小さいことが分かる。
【0028】
なお、粉砕に要する時間と燃焼合成条件との関係については、温度・圧力ともに低い方が被粉砕特性は良好であるが、燃焼合成時間が長くなるため、1800℃、0.8MPaが好ましい。
また、焼結後の密度、粒成長の観点から決定した最適焼結温度と燃焼合成条件との関係についても、温度・圧力ともに低くなるに伴い、最適焼結温度は低下するが、燃焼合成時間が長くなるため、やはり1800℃、0.8MPaが好ましい。
【0029】
次に、上記制御型燃焼合成装置により合成したシリコン合金を、湿式及び/又は乾式粉砕装置により、目標とする粒径1ミクロン以下に粉砕する。焼結後の相対密度を向上させる為には、平均粒径で500nm以下まで粉砕するのが好ましい。
粉砕の際、又は、この前後に、焼結時の焼結を効果的に行う目的で、焼結助剤として、イットリウム、イッテリビウム、アルミニウム及びジルコニウムを主成分とする酸化物のうち少なくとも1種を、重量%で0.1〜10シリコン合金に混合することができる。平均粒径を小さくすると、焼結助剤の必要添加量は少量となり、平均粒径500nm以下では、焼結助剤の添加なしで、高密度の焼結体を得ることができる。具体的には、焼結体の比重として、後述するように、焼結処理A,Cでは、3.27以上、焼結処理Bでは3.25以上を確保することができた。
【0030】
続いて、湿式コンパウンド法と焼結法との組合わせにより、このシリコン合金の粉末から焼結体を得る製造工程について、図2を参照しつつ説明する。
【0031】
焼結品内部に残存するマイクロポアを極力低減させることが、シリコン合金を用いた焼結体製造における大きな課題であり、これを解決しうる最善の方法が、湿式コンパウンド法と、常圧焼結法・ミリ波焼結法・HIP焼結法のうちの、少なくとも1種の焼結法との組合わせによるシリコン合金焼結法である。ここで、「マイクロポア」とは、顕微鏡レベルで発見される微細な空孔のことである。
【0032】
微粉砕粉末に、バインダと水、場合によっては蒸留水又は精製水を添加し、混練機により粘土状のコンパウンドを製造する。バインダは無機質が好ましく、シリコン合金の主要構成元素シリコン、アルミニウムを主成分とする無機質バインダが、シリコン合金にとっては最適である。粉体の粒径が500nm以下の場合には、バインダの添加は不要であるが、安定製造確保の目的で、重量%で、0.1〜10の無機バインダを添加することができる。なお、無機バインダの分散性向上の目的で、pHを管理したアルカリ性水を用いることができる。
無機バインダを添加したコンパウンド又はバインダ無添加のコンパウンドで構成したグリーン成形品は、焼結の際に前工程として通常行われる脱バインダ処理が不要となり、生産性の向上と良好な品質が確保できるという大きな利点を有する。
【0033】
このように、シリコン合金の微粉末からコンパウンド製造を介して素形材を得る方法は、乾燥粉末から造粒工程を介しての製造方法より高い生産性が確保できる。
また、含水コンパウンド製造における混練工程及び/又は成形工程を、常圧以下の減圧環境で行うことにより、コンパウンド中に不可避に包含されるマイクロポアを極限値にまで低減することができるので、本発明の摺動案内装置のように、特に強度が必要とされる用途に使用されるシリコン合金焼結体製造には、本湿式コンパウンド法による成形法は、推奨される必須工程である。
【0034】
上記の湿式コンパウンド法により、混練機で粘土状にされたシリコン合金のコンパウンドを、押出し機にかけ、最終製品に近い断面形状を有する棒状体に押出成形する。
図1〜4に示すように、本発明の摺動案内装置の実施形態として、(1)断面が台形状の凸部を有するように断面がほぼ正方形の棒状体が切削加工されてなる軌道体12と、これに嵌合するように直方体の長手方向に断面が台形状の切欠部が設けられた移動体14とからなる摺動案内装置10と、(2)断面が円形のシャフト22と、これに嵌合する中空部を有する断面がドーナツ形状の移動体24とからなる摺動案内装置20、(3)スプライン加工されたシャフト32と移動体34とからなる摺動案内装置30、(4)ねじ加工された雄ねじ軸であるシャフト42と、ナットである移動体44とからなる摺動案内装置40とがある。
従って、本実施形態においては、ほぼ正方形、矩形、ほぼ円形、ドーナツ形の4種の断面形状を有する棒状体を押出成形するとよい。
【0035】
次に、これらの成形体を乾燥して、含有水量を重量%で1以下とする。乾燥は、自然乾燥が好ましい。
【0036】
このようにして製造されたグリーン成形品を、常圧又は常圧以上に保持した窒素雰囲気中において、ミリ波による加熱手段、抵抗加熱による通常加熱手段、又はHIP加熱手段のうち少なくとも1種の加熱手段により、所定温度にて所定時間加熱し、シリコン合金の焼結体を製造する。
この場合、1300〜1900℃の温度範囲及び30分〜3時間の加熱時間で焼結することを基本とする。
【0037】
具体的には、焼結処理A:ミリ波加熱窒素雰囲気常圧焼結1700℃×1h,焼結処理B:通常加熱窒素雰囲気常圧焼結1700℃×3h,焼結処理C:CIP+窒素雰囲気200MPa HIP焼結1700℃×1hの3種の焼結処理を、シリコン合金の焼結処理方法として選定した。
上記の処理方法の内、特に、通常加熱による常圧焼結処理(焼結処理B)で高度な焼結素形材が形成できることは、低価格製造を実現するため、工業技術上極めて価値があるといえる。
【0038】
ミリ波による加熱では、グリーン成形品の中心から加熱が開始される。その際、内在するマイクロポアは成形品の表層部に浮上するので、ミリ波焼結法は、マイクロポアを極限値にまで低下させる最適な焼結処理である。ミリ波加熱は、15GHz以上のミリ波環境において行うことが好ましい。
【0039】
また、ミリ波による加熱では、被加熱材の芯から加熱が進むので、被加熱材からの熱の放散を極力防止する必要がある。その為に被加熱材の外周に保温材を配置する必要がある。
この作業性の煩わしさを解消する目的で、ミリ波加熱方式と汎用加熱方式とを組合わせて行うハイブリット焼結法が推奨される。
【0040】
粒径500nm以下の粉末を用いたシリコン合金は、いずれの焼結処理においても、比重3.25以上が確保できた(焼結処理Bでは3.25以上、焼結処理A,Cでは、3.27以上)。比較として、工業用途に現在活用されているシリコン系のセラミックスである窒化ケイ素(ASTM F2094−01)は3.0/3.4、及びサイアロンは3.2である。
【0041】
また、粒径500nm以下の粉末を用いたシリコン合金の焼結材には、いずれの焼結処理によった場合も、顕微鏡レベルの広域観測結果で、マイクロポアは認められなかった。金属相及びセラミックス異相についても同様である。
これに対し、窒化ケイ素では不可避的にマイクロポアが残存している。
【0042】
いずれの焼結処理においても、良好な焼結特性が得られている理由は、粒径500nm以下のシリコン合金微粉末が焼結特性に優れているためと結論することができる。
【0043】
このようにして得られたシリコン合金焼結体について、特許請求範囲の成分域(重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40)における、主要成分の変化に伴う主要特性値の変化を観察したところ、ヤング率が、シリコン量の変化に伴い大きく変化することが分かった。
材質の撓みにくさを示すヤング率は、機械部品の設計基準である疲労強度に影響を及ぼす重要な特性値である。上記のとおり、本発明に用いるシリコン合金においては、シリコンの含有量によりヤング率が異なるから、接触する相手材のヤング率との相関で最適なヤング率を選ぶことができ、機械設計上極めて有利である。
ヤング率は材料固有の物性値とされていたから、これを特定範囲で任意に変化させられることは、ヤング率に関する従来の学術的知見を覆す発見でもある。
【0044】
また、摩擦係数は、0.6であった。ちなみに、窒化ケイ素は、0.7、鉄は0.8である。
【0045】
なお、合金元素として、粒界エネルギーを付加する硼素を添加すると破壊靭性の向上が認められ、又、非酸化性の金属元素を添加すると耐食性と耐熱性が向上する。
【0046】
最後の主要な製造工程が、上記のようにして得られたシリコン合金焼結体の研削・研磨である。
図1に示すような角形の摺動案内装置の場合には、平面研削加工を、図2に示すような丸形の摺動案内装置の場合には、センターレス加工を、また、図3,4に示すタイプのように、スプライン加工、ねじ加工を要するものの場合には、グラインディングセンタによる研磨を行う。
【0047】
本発明の摺動案内装置の一例として、図1に示すような形状の摺動案内装置10を製造することができる。この摺動案内装置は、断面が台形状の凸部を有するように、断面がほぼ正方形の棒状体が切削加工されてなる軌道体12と、これに嵌合するように、直方体の長手方向に断面が台形状の凹部が設けられた移動体14とからなる。これは、従来、直線運動軸受と呼ばれているものである。
軌道体12に形成された台形状の凸部12aは、移動体に接する側がやや幅広になるように形成され、これに嵌合しつつ相対移動可能な内部寸法を有する凹部14aが形成された移動体14と嵌合するようになっている。これにより、移動体が軌道体から抜け落ちることなく、滑らかな摺動が可能となっている。
【0048】
このような摺動案内装置を製作するには、上記したように、平面研削加工を用いることができる。
平面研削加工は、加工物の平面を研削する加工法であり、加工物を保持するテーブルと円筒形の砥石からなる平面研削盤を用いて行われる。加工物保持テーブルの形状と運動方向、及び砥石軸の向きの組合わせにより、様々な研削が可能である。
大別すると、加工物を保持するテーブル面が長方形で直線運動するものと、円形で回転運動するものがあり、また、円筒形の砥石の外周面で研削を行う場合(横軸型)と円形平面の一方で研削を行う場合(縦軸型)とがある。一般に、円筒形砥石の外周面で研削を行う横軸型は、面粗さ、寸法精度の面で精度の高い仕上げが得られ、縦軸型は研削効率が良く粗仕上げに向くから、本発明の摺動案内装置の製造には、横軸型の加工法が好適であるが、加工の段階に応じて、縦軸型による加工と横軸型による仕上げを組合わせてもよい。
【0049】
この平面研削加工により、断面がほぼ正方形のシリコン合金の棒状体を、移動体が嵌合される側がやや幅広となるような台形状の凸部12aを有するように研削・研磨を行うと、軌道体が得られる。
また、シリコン合金の直方体に、上記凸部12aに嵌合しつつ、相対移動可能なように凸部12aの外寸法より僅かに大きい内寸法を有する凹部14aを形成すべく、研削・研磨を行う。
これにより、上記凸部12aと凹部14aが噛合い、移動体が軌道体から抜け落ちることなく、また、研磨により得られる両部材の表面平滑性によって、滑らかな動作が実現できる。
【0050】
また、本発明による摺動案内装置の他の一例として、図2に示すような形状の摺動案内装置20を製造することもできる。この摺動案内装置20は、ブシュ又はスライダと呼ばれるもので、断面が円形のシャフト22と、これに嵌合しつつ相対移動可能なように、シャフトの外径より僅かに大きい内径を有する中空部24aが形成された、断面がドーナツ形状の移動体24とからなる。これにより、滑らかな摺動が可能となっている。
【0051】
このような摺動案内装置を製作するには、センターレス加工を用いることができる。
センターレス加工は、円筒状の加工物の外周を研削する加工法である。回転する調整車と砥石、その間で加工物を支持する支持刃からなり、支持刃上で円筒状加工物を支持しつつ、調整車の回転により加工物の回転と送りを調整しながら研削・研磨を行い、外周を加工する。砥石と調整車の間隔を調整することにより、加工物の外径を適宜調整することができる。
円筒研削のように加工物の両端をセンタで支える必要がなく、研削盤への取付けが不要であるため、量産が可能である。また、加工物が、その全長にわたって支持刃により支持されているため、研削抵抗による撓みが少なく、高い精度を確保することができる。このように、加工速度が非常に速い上、寸法精度、表面粗度、真円度において、非常に精度の高い加工法であり、本発明の摺動案内装置には好適な加工法である。
さらに、砥石と調整車の間に内周研削用砥石を具えたセンターレス加工機によれば、上記のように高精度に仕上げられた外周面を回転基準としつつ、内周面の加工も同時に行うことができ、高い同軸度と精度の高い内周加工面を有する筒状体得ることができる。
【0052】
このセンターレス加工により、断面が円形及びドーナツ形状のシリコン合金の棒状体を研削・研磨して、シャフト22と移動体24を製作する。シャフト22と移動体24が相対移動可能なように、移動体24の中空部24aの内径より僅かに小さい外径を有するように、シャフト22の研削・研磨を行う。
これにより、シャフト22と移動体24が嵌合しつつ、研磨により得られる両部材の表面平滑性によって、滑らかな動作が実現できる。
【0053】
さらに、図3に示すような、スプライン係合するように加工されたシャフト32と移動体34とからなる摺動案内装置30として製造することもできる。
シャフト32には、スプライン溝32aが、移動体34には、この溝と嵌合する凸部34aが形成されている。
【0054】
このようなスプライン加工を施すには、マシニングセンタの一種で、セラミックス、ガラス等の硬脆性材料の研削加工のために開発されたグラインディングセンタを用いることができる。
近年の技術革新により、グラインディングセンタには様々な構成のものがあるが、基本的構成としては、加工物を保持するテーブル、1つ又は複数の砥石とこれが取付けられた回転軸、目の粗度や形状の異なる交換用砥石とからなり、最初に粗研削を施した後に、目の細かい砥石で仕上げ研削を行ったり、砥石の切替えにより、加工物の所定の箇所に各別の研削加工を施すことができる。一連の作業が数値制御(Numerical Control)によって行われる、NC工作機である。
【0055】
この研削加工法により、正確なスプラインの歯形が形成されたシャフト32と移動体34を製造することができる。すなわち、加工表面が設計値通りとなるように、加工物の回転、砥石の回転時間や砥石の切替え等を予めプログラムして組込むことにより、シャフトの外周面及び移動体の内周面のスプライン加工を、正確に、効率良く行うことができる。そして、これにより、精度が高く、転動体なしでもスムーズな運動の可能な、摺動案内装置を得ることができる。
【0056】
図4は、ねじ加工されたシャフト42と移動体44とからなる摺動案内装置40であり、このタイプの装置についても、上記実施形態3の場合と同様、グラインディングセンタを用いた研削加工法により、正確に、効率良く、ねじ加工を行うことができる。
なお、44aは、相手部品に取付けるためのフランジであり、ボルト孔44bを介し、ボルトを相手部品にねじ込むことにより、摺動案内装置40を相手部品と連結させることができる。この構成は、上記各実施形態においても、適宜採用することができる。
【0057】
本発明に使用するシリコン合金焼結体は硬質素材であるため、これらの加工方法を用いて研削・研磨を行うことができる。そして、研磨により、表面を滑らかにし、摩擦係数を低減させ、自己潤滑性を有するように加工することができる。このため、転動体やその循環を助けるための潤滑剤を要することなく、シリコン合金製の軌道体又はシャフトと移動体のみで、滑らか且つ無音の動作が可能となり、摺動案内装置として優れた機能を発揮する。
【0058】
摩擦は、擦れ合う材質の表面に関わる現象で、表面状態や物体自体の性質等、様々な要素に左右されるため、モデル化が難しく、未だに未解明の部分が多く残されているが、現在のところ、少なくとも、物理的要素に起因する摩擦(表面粗さによる引っ掛かりが生む摩擦)と、化学的要素に起因する摩擦(原子間の凝着力による摩擦)があることが確認されている。
これら2つの要素を念頭において考察すると、本発明に用いるシリコン合金は、上記のとおり、粉砕性が良好で、粒径が極めて小さく、しかも粒度が揃っているため、表面平滑性が高く、表面粗さに起因する摩擦、すなわち、荷重を受けた表面の凹凸が噛合って生じる抵抗が起きにくいものと考えられる。また、鉄鋼材等の金属と比べ、分子同士の凝着が起きにくいと推測される。
対して、一般に、金属表面は、精密仕上げのものでも相当な粗さを伴い、山脈状となっている。そして、金属同士は、表面の酸化被膜が取れると結合しやすく、また、同じ金属同士は、特に分子構造的に結合しやすいため、凝着力が大きい。このような条件下で大きな荷重がかかると、真実接触部となる狭い面積で全荷重を受けるため、強い凝着が発生し、削れが生じやすく、その摩耗粉により摩耗が進行する、という悪循環が起こる。これを避けるため、表面処理によって金属表面の真実接触部の面積を広くすることが行われるが、アモントン=クーロンの法則によれば、真実接触部の面積が大きくなると、摩擦抵抗も増大することになる。これに対する対策として、また、上記のような凝着、削れ、それによる摩耗を緩和するために、潤滑剤が用いられる。そして、従来の直線運動案内装置においては、転動体を介在させているが、通常、これも鉄鋼材であるから、その運動を助けるための潤滑剤を供給する構成が不可欠のものとなり、この分野における発明は、これらの構成に関する改良発明に集中してきた。
本発明品の場合は、それ自体として、低い摩擦抵抗を示す、自己潤滑性を有する材質であるため、上記のような考慮を不要とし、よって、従来不可欠の構成要素と考えられてきた転動体やその循環を促進するための潤滑剤を不要とするものであって、極めて顕著な効果を奏し、革新的な技術的意義を有する。
【0059】
最後に、嵌め合い確認検査による寸法精度のチェック、洗浄工程を経て、最終製品が完成する。
シリコン合金製摺動案内装置は、鋼製の摺動案内装置のように腐食することもなく、耐食性に優れているから、このように洗浄が可能であり、防錆剤による被覆も不要である。
【0060】
本発明の摺動案内装置は、軌道体又はシャフトと移動体のみからなるシンプルな構造で、潤滑剤の供給や防錆剤も不要であるから、製造コストのみならず、メンテナンスコストも抑えることができる。錆の恐れはないから、汚れが付着した場合は、布で拭き取ればよい。
【0061】
また、このようなシンプルな構造のため、小型化が可能であり、従来は不可能であった用途を含め、様々な需要に応え、摺動案内装置の活用の場を拡大することができる。
【0062】
さらに、本発明に用いるシリコン合金は、耐熱温度が約1200℃であり、高温環境下での使用も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の摺動案内装置は、優れた剛性、耐摩耗性、耐熱性を有しながら、摺動案内装置においてこれまで殆ど不可欠の構成と考えられてきた転動体とその循環路、転動体の循環を助けるための潤滑剤、潤滑部材等を要しない、軌道体又はシャフトと移動体のみの極めてシンプルな構造で、それ自体として、優れた自己潤滑性、動作特性を有し、鋼製の摺動案内装置のような騒音・振動を生じることなく、耐食性にも優れ、防錆剤による被覆も不要である。低摩擦での摺動特性と、騒音の低さは、従来の転動体を用いた直線運動案内機構と同等以上であることが確認されている。
また、本発明に用いるシリコン合金は、特殊鋼と同等の製造価格で製造できるものである。従って、製造コスト、メンテナンスコストともに抑えることができ、また、小型化により従来用いられることのなかった用途にも利用することが可能となる。
さらに、本発明は、地殻に大量に存在するシリコンを活用し、二酸化炭素を発生させない燃焼合成法により素材を製造し、廃棄する際には砂に戻る無公害廃却が可能であり、有害物質を含む潤滑剤や防錆剤等を使用しなくてよいから、近年急速に関心が高まっている環境問題の観点からも、極めて有利な効果を奏し、産業界のニーズに応えるものである。
【符号の説明】
【0064】
10:シリコン合金製摺動案内装置の第1実施形態
12:軌道体
14:移動体
20:シリコン合金製摺動案内装置の第2実施形態
22:シャフト
24:移動体
30:シリコン合金製摺動案内装置の第3実施形態
32:シャフト
34:移動体
40:シリコン合金製摺動案内装置の第4実施形態
42:シャフト
44:移動体
50:制御型燃焼合成装置
70:反応容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度及び圧力を制御しながら行う燃焼合成方法により、燃焼合成温度2000℃以下、同圧力1MPa以下で製造され、
重量%で、シリコン30〜70、窒素10〜45、アルミニウム1〜40、及び酸素1〜40を含有するシリコン合金からなり、
転動体を介さず、軌道体又はシャフトと、該軌道体又はシャフトと嵌合又はスプライン係合若しくはねじ係合しつつ相対移動可能なように形成された移動体のみからなることを特徴とする、
シリコン合金製摺動案内装置。
【請求項2】
真空状態とした制御型燃焼合成装置内に、所定量の窒素を供給し、金属シリコン、アルミニウム、アルミナ及び/又はシリカを前記制御型燃焼合成装置内の反応容器中に供給して、前記制御型燃焼合成装置内圧力を1MPa以下、前記反応容器内温度を2000℃以下に制御しながら燃焼合成したシリコン合金を、
粒径1ミクロン以下に粉末化し、
前記シリコン合金粉末を原料として、水分を添加してコンパウンドを製造する含水コンパウンド製造工程と、押出成形による成形工程と、乾燥工程とにより製造した棒状体のグリーン成形品を、
常圧又は常圧以上に保持した窒素雰囲気中において、ミリ波加熱による焼結法、通常加熱による常圧焼結法、又はHIP焼結法により、1300〜1900℃の温度範囲、及び、30分〜3時間の加熱時間で焼結してシリコン合金の焼結体とし、
上記焼結体を研削、研磨することにより、
転動体を介さず、軌道体又はシャフトと、該軌道体又はシャフトに嵌合又はスプライン係合若しくはねじ係合しつつ相対移動可能なように形成された移動体のみからなる摺動案内装置を製造することを特徴とする、
シリコン合金製摺動案内装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−12776(P2011−12776A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158407(P2009−158407)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(303066208)株式会社イスマンジェイ (15)
【Fターム(参考)】