説明

シリコン製ノズル基板及びその製造方法、液滴吐出ヘッド並びに液滴吐出装置

【課題】ノズル孔が所望の傾斜面を有してノズルが高密度化され、ノズル孔が連続する曲
面で形成されて流路特性が最適化されたノズル基板およびその製造方法等を提供する。
【解決手段】液滴を吐出するためのノズル孔11が、基板面に対して垂直な中心軸11d
を有する回転体の連続曲面で構成され、前記中心軸11dと垂直な断面積が、吐出部11
aから導入部11bにむけて漸増し、前記中心軸11dを含む断面形状が、前記中心軸1
1dを対称軸として線対称な指数曲線11eを有することを特徴とするシリコン製ノズル
基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン製ノズル基板及びその製造方法、液滴吐出ヘッド並びに液滴吐出装
置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載さ
れたインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴
を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合され
ノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成され
たキャビティ基板とを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることにより、インク滴を
選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を
利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商
標)方式等がある。
【0003】
近年、印刷速度の高速化及びカラー化を目的として、ノズル列を複数有する構造のイン
クジェットヘッドが求められている。さらに、ノズルは高密度化すると共に長尺化(1列
当りのノズル数が増加)しており、インクジェットヘッド内のアクチュエータ数は、益々
増加している。このため、インクジェットヘッドのノズル部に関して、従来より様々な工
夫、提案がなされている。
【0004】
従来のインクジェットヘッドに、(100)面のシリコン基材に異方性ウェットエッチ
ングを施してピラミッド状のノズル孔を貫通させたノズル基板を備えたものがあった(例
えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、従来のインクジェットヘッドに、シリコン基材に等方性ドライエッチングと異方
性ドライエッチングを繰り返してノズル孔を加工したノズル基板を備えたものがあった(
例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、従来のインクジェットヘッドに、(100)面のシリコン基材に一方の面から
ウェットエッチングによって未貫通の傾斜したノズル孔部を形成し、他方の面からドライ
エッチングによって垂直のノズル孔部を貫通形成したノズル基板を備えたものがあった(
例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開昭56−135075号公報(第2頁、図2)
【特許文献2】特開2006−45656号公報(第15頁、図16)
【特許文献3】特開平10−315461号公報(第4頁−第5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の技術によれば、ノズル孔を異方性ウェットエッチングで形成するため
、ノズル孔の傾斜角度がシリコン単結晶基板の面方位に依存してしまい、ノズル密度を高
めることには限界があった。また、ノズル孔の先端形状がシリコン基材の面方位のために
四角くなってしまい、吐出物の直進性に悪影響を与えることになる。さらに、ノズル吐出
口に垂直なノズル孔部がないため、メニスカスを安定維持することが困難であった。
【0009】
特許文献2記載の技術によれば、等方性ドライエッチングによってノズル孔の側壁のア
ンダーカットが進むので、ノズル孔の底部径の制御が困難であった。また、ノズル孔の吐
出口に垂直なノズル孔部がないため、メニスカスを安定維持することが困難であった。
【0010】
特許文献3記載の技術によれば、ノズル孔の傾斜したノズル孔部を異方性ウェットエッ
チングで形成するため、傾斜角度がシリコン単結晶基材の面方位に依存してしまい、ノズ
ル密度を高めることには限界があった。また、傾斜したノズル孔部と垂直のノズル孔部の
両面位置合わせが必要であり、精度が落ちる場合があった。
このため、ノズル孔の傾斜角度がシリコン単結晶基材の面方向に依存しないようにしつ
つ、傾斜したノズル孔部と垂直のノズル孔部を片面から位置合わせして形成していくこと
も考えられるが、この場合でも、傾斜したノズル孔部と垂直のノズル孔部の境界部に段差
部が残ったり、傾斜したノズル孔部の深さを高精度に制御したりすることが容易でなく、
工程数が多く、かつ複雑になってしまうという問題があった。
【0011】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、ノズル孔がシリコン基材
の結晶方位に拘束されない所望の傾斜面を有してノズルが高密度化され、ノズル孔が連続
する曲面で形成されて流路特性が最適化されたシリコン製ノズル基板及びその製造方法、
液滴吐出ヘッド並びに液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るシリコン製ノズル基板は、液滴を吐出するためのノズル孔が、基板面に対
して垂直な中心軸を有する回転体の連続曲面で構成され、中心軸と垂直な断面積が、吐出
部から導入部にむけて漸増し、中心軸を含む断面形状が、中心軸を対称軸として線対称な
指数曲線を有するものである。
【0013】
ノズル孔の導入部がシリコン基板の結晶方位に拘束されない所望の傾斜面を有するため
、ノズルの高密度化が可能となる。そして、導入部の断面形状が中心軸を対称軸として線
対称な指数曲線であるため、漸次縮小管による損失防止効果があり、最適な流路抵抗及び
整流作用を得ることができる。また、ノズル孔の吐出部と導入部とが段差なく連続形成さ
れているため、メニスカスの連続性を確保することができ、流路特性が最適化されて安定
した吐出特性を有する。
【0014】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板は、中心軸を含む断面形状が、中心軸を対称
軸として、前記線対称な指数曲線と、該指数曲線に連続する直線により構成されているも
のである。
【0015】
吐出部が円筒形、つまり中心軸を含む断面形状が直線部分を有するので、研削による薄
板化の際の厚みばらつきがノズル径に影響せず、ノズル径の精度を確保することができる

【0016】
本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、シリコン基板の表面にエッチング保
護膜を設け、該エッチング保護膜に開口部を形成する第1の工程と、エッチング保護膜の
開口部から異方性ドライエッチングを行ってシリコン基板に垂直孔部を形成する第2の工
程と、シリコン基板の表面に設けたエッチング保護膜を除去し、シリコン基板に形成した
垂直孔部から等方性ドライエッチングを行って、垂直孔部の開口部側に向けて断面積が漸
増し、該断面形状がシリコン基板に対して垂直な中心軸を対称軸として線対称な指数曲線
となるような孔部を形成する第3の工程と、を有するものである。
【0017】
等方性ドライエッチングを行い、シリコン基板の結晶方位に拘束されない所望の傾斜面
をもち断面積が漸増する孔部、つまりノズル孔を形成するようにしたので、ノズルを高密
度に形成することができる。そして、製造時においては工程数が少なく、かつ低コストで
済み、生産性に優れている。
【0018】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、垂直孔部の開口部側から異方
性ドライエッチングを施して、断面形状が中心軸を対称軸として、前記線対称な指数曲線
に連続する線対称な直線となるような孔部を形成する第4の工程をさらに有するものであ
る。
【0019】
中心軸を含む断面形状が直線部分を有するので、研削による薄板化の際の厚みばらつき
がノズル径に影響せず、ノズル径の精度を確保することができる。
【0020】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、等方性ドライエッチングは、
エッチングを促進する第1のガスと、孔部の側壁に保護膜を形成してサイドエッチング量
を調整する第2のガスとの混合ガスによる連続処理で行うものである。
【0021】
第1のガスによってエッチングを促進し、第2のガスによってノズルである孔部の側壁
に保護膜を形成してサイドエッチング量を制御するようにしたので、シリコン基板の結晶
方位に拘束されない所望の傾斜面を持つ孔部を形成することができる。
【0022】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、第1のガスがSF6 であり、
第2のガスがO2 である。
【0023】
SF6 によってエッチングを促進し、O2 によってノズルである孔部の側壁に保護膜を
形成してサイドエッチング量を制御するようにしたので、シリコン基板の結晶方位に拘束
されない所望の傾斜面を持つ孔部を形成することができる。
【0024】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、SF6 と、O2 とが、10
対1の割合で混合されているものである。
【0025】
SF6 と、O2 とを上記の割合で混合することによって、シリコン基板の結晶方位に拘
束されない所望の傾斜面を持つ孔部を形成することができる。
【0026】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、指数曲線となるような孔部の
制御は、垂直孔部の深さと、等方性ドライエッチングを行う時間とを制御して行うもので
ある。
【0027】
垂直孔部の深さと、等方性ドライエッチングを行う時間とを制御して行うことによって
、シリコン基板の結晶方位に拘束されない所望の深さと所望の傾斜を持つ孔部を形成する
ことができる。
【0028】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、垂直孔部の深さを50〜10
0μmとし、等方性ドライエッチングを行う時間を5〜10分とするものである。
【0029】
垂直孔部の深さを50〜100μmとし、等方性ドライエッチングを行う時間を5〜1
0分とすることによって、シリコン基板の結晶方位に拘束されない所望の深さと所望の傾
斜を持つ孔部を最適条件で形成することができる。
【0030】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のいずれかのノズル基板を備えたものである。
【0031】
ノズルが高密度化し、流路特性が最適化された液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0032】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを備えたものである。
【0033】
ノズルが高密度化し、流路特性が最適化された液滴吐出装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
実施の形態1.
図1は本実施の形態1に係るインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)の一部を
断面で示した分解斜視図、図2は図1を組立てた状態の要部を示す縦断面図、及び図3は
図2のノズル孔の近傍を拡大して示した断面図である。
インクジェットヘッド10は、図1および図2に示すように、複数のノズル孔11が所
定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が
設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対峙して個別電極31
が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0035】
ノズル基板1は、シリコン単結晶基材(単にシリコン基材ともいう)から作製されてい
る。ノズル基板1には、インク滴を吐出するためのノズル孔11が開口されている。この
ノズル孔11は、図3に示すように、基板面に対して垂直な中心軸11dを有する回転体
の連続曲面を有し、中心軸11dと垂直な断面積が、吐出部11aから導入部11bにむ
けて漸増し、中心軸11dを含む断面形状が、中心軸11dを対称軸として線対称な指数
曲線11eにより構成されているものである。
【0036】
そして、ノズル孔11の導入部11bは、シリコンの結晶方位に拘束されない所望の傾
斜面を有し、深さにほぼ反比例してサイドエッチング量が変化する等方的なエッチング条
件で等方性ドライエッチングを施すことによって形成される。また、ほぼ円筒形状をなす
吐出部11aは、導入部11bの底部に異方性ドライエッチングを施して形成する。
【0037】
なお、吐出部11aはノズル基板1の表面(吐出方向の先端側の面1a)に対して垂直
に形成されており、また、吐出部11aと導入部11bは同軸上に形成されている。かか
る構成により、インク滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安
定したインク吐出特性を発揮させることができる。
【0038】
キャビティ基板2は、シリコン単結晶基材(単にシリコン基材ともいう)から作製され
ている。シリコン基材に異方性ウェットエッチングを施し、インク流路の吐出室24、リ
ザーバ25をそれぞれ構成するための凹部240、250、及びオリフィス23を構成す
るための段差部230が形成される。凹部240はノズル孔11に対応する位置に独立に
複数形成される。したがって、ノズル基板1とキャビティ基板2とを接合した際、各凹部
240は吐出室24を構成し、それぞれがノズル孔11に連通し、またインク供給口であ
るオリフィス23ともそれぞれ連通している。そして、吐出室24(凹部240)の底壁
が振動板22となっている。
【0039】
他方の凹部250は、液状のインクを貯留するためのものであり、各吐出室24に共通
の共通インク室であるリザーバ25を構成する。そして、リザーバ25は、それぞれオリ
フィス23を介して全ての吐出室24に連通している。また、リザーバ25の底部には後
述する電極基板3を貫通する孔が設けられ、この孔で形成されたインク供給孔34を通じ
て図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
また、キャビティ基板2の全面、もしくは少なくとも電極基板3との対向面には、Si
2 膜等からなる絶縁膜26が形成されている。この絶縁膜26は、インクジェットヘッ
ド10を駆動させたときに、絶縁破壊や短絡を防止する。
【0040】
電極基板3は、ガラス基材から作製されている。このガラス基材は、キャビティ基板2
のシリコン基材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが好ましい。こ
れは、電極基板3とキャビティ基板2とを陽極接合する際、両基板3、2の熱膨張係数が
近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、そ
の結果、剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2とを強固に接合す
ることができるからである。
【0041】
電極基板3のキャビティ基板2と対向する面には、キャビティ基板2の各振動板22に
対向する位置にそれぞれ凹部32が設けられている。そして、各凹部32内には、一般に
、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31が形成されて
いる。そして、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)Gは、イ
ンクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響する。なお、個別電極31の材料にはクロム
等の金属等を用いてもよいが、ITOは透明であるので放電したかどうかの確認が行いや
すいため、一般にITOが用いられている。
【0042】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される
端子部31bとを有する。これらの端子部31bは、図2に示すように、配線のためにキ
ャビティ基板2の末端部が開口された電極取り出し部29内に露出している。
【0043】
上述したノズル基板1、キャビティ基板2、および電極基板3は、一般に個別に作製さ
れ、これらを図2に示すように貼り合わせることにより、インクジェットヘッド10の本
体部が作製される。すなわち、キャビティ基板2と電極基板3とは例えば陽極接合により
接合され、そのキャビティ基板2の上面(図2の上面)にはノズル基板1が接着剤等によ
り接合されている。さらに、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップGの
開放端部は、エポキシ等の樹脂による封止材27で封止されている。これにより、湿気や
塵埃等がギャップGへ侵入するのを防止することができる。
【0044】
そして、図2に示すように、ICドライバ等の駆動制御回路4が、各個別電極31の端
子部31bと、キャビティ基板2上に設けられた共通電極28とに、前記フレキシブル配
線基板(図示せず)を介して接続されている。
【0045】
上記のように構成されたインクジェットヘッド10において、駆動制御回路4によりキ
ャビティ基板2と個別電極31との間にパルス電圧が印加されると、振動板22と個別電
極31との間に静電気力が発生し、その吸引作用により振動板22が個別電極31側に引
き寄せられて撓み、吐出室24の容積が拡大する。これにより、リザーバ25の内部に溜
まっていたインクがオリフィス23を通じて吐出室24に流れ込む。次に、個別電極31
への電圧の印加を停止すると、静電吸引力が消滅して振動板22が復元し、吐出室24の
容積が急激に収縮する。これにより、吐出室24内の圧力が急激に上昇し、この吐出室2
4に連通しているノズル孔11からインク液滴が吐出される。
【0046】
次に、インクジェットヘッド10の製造方法について、図4〜図13を用いて説明する
。図4は本発明の実施の形態1に係るノズル基板1を示す上面図、図5〜図11はノズル
基板1の製造工程を示す断面図(図4をA−A線で切断した断面図)である。図12、図
13はキャビティ基板2と電極基板3との接合工程を示す断面図であり、ここでは、主に
、電極基板3にシリコン基材200を接合した後に、キャビティ基板2を製造する方法を
示している。
まず最初に、ノズル基板1の製造方法を、図5〜図11を用いて説明する。
【0047】
(a) 図5(a)に示すように、基板の厚みが、例えば280μmのシリコン基材41
を用意し、熱酸化装置にセットする。なお、以下に記載の数値はその一例を示すもので、
これに限定するものではない。
【0048】
(b) 例えば、酸化温度1075℃、酸化時間4時間、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の
条件で熱酸化処理を行い、図5(b)に示すように、シリコン基材41の両面41a、4
1bに、エッチング保護膜となる例えば膜厚1μmのSiO2 膜42を均一に成膜する。
【0049】
(c) 図6(c)に示すように、シリコン基材41においてキャビティ基板2と接合さ
れる側の接合面41aにレジスト43をコーティングし、そのレジスト43から垂直孔部
110(図6(f)参照)に対応する部分43aを除去し、レジストパターンを形成する

【0050】
(d) 図6(c)に示すレジストパターンをマスクとして、例えば、緩衝フッ酸水溶液
(フッ酸水溶液:フッ化アンモニウム水溶液=1:6)でエッチングし、図6(d)に示
すように、SiO2 膜42に垂直孔部110に対応する部分42aを開口する。このとき
、面(吐出面)41bのSiO2 膜42はエッチングされ、完全に除去される。
【0051】
(e) 図6(e)に示すように、レジスト43を硫酸洗浄などにより剥離する。
【0052】
(f) ICPドライエッチング装置により、SiO2 膜42の開口された部分42aを
介して垂直に異方性ドライエッチングを行い、図6(f)に示すように、例えば深さ50
μmの垂直孔部110を形成する。この場合のエッチングガスとしては、例えば、C4
8 、SF6 を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用する。ここで、C4 8 は形
成される孔の側面にエッチングが進行しないように孔側面を保護するために使用し、SF
6 は垂直方向のエッチングを促進させるために使用する。
【0053】
(g) 図7(g)に示すように、シリコン基材41の表面のSiO2 膜42を、希フッ
酸水溶液によりエッチング除去する。
【0054】
(h) 垂直孔部110に、深さにほぼ反比例してサイドエッチング量が変化する等方的
なエッチング条件で、図7(h)に示すように、ドライエッチングを施す。この場合、反
応ガスのスイッチングを行わず、ガスを連続して流した状態にして処理する。傾斜面は、
処理時間、及び垂直部(垂直孔部110)の深さによって制御する。この場合、処理時間
を5〜10分、垂直部(垂直孔部110)の深さを50〜100μmとするのが好ましい

上記の等方的なエッチングは、エッチングを促進する第1のガス(例えばSF6 )と、
ノズル側壁に保護膜を形成することでサイドエッチング量を調整する第2のガス(例えば
2 )とを、垂直孔部110内に導入して行う。ガスの混合比は、例えば、SF6 :O2
=10:1である。第2のガスであるO2 を導入することでノズル側壁に酸化膜が形成さ
れ、サイドエッチング量の制御が可能となる。圧力は、例えば、数Paとし、Coil
Powerは500〜1000Wとする。
【0055】
(i) 所定の時間経過すると、図7(i)に示すように、所望の傾斜面を持つほぼラッ
パ形状のノズル(ノズル断面積が漸増したほぼラッパ形状のノズル)、すなわち導入部1
1bが形成される。
【0056】
(j) 異方性ドライエッチングにより、導入部11bの底部を、図8(j)に示すよう
に垂直にエッチングし、円筒形状のノズル孔部、すなわち吐出部11aを形成する。この
際の異方性ドライエッチングは、C48とSF6 とからなるガスを交互に使用して行う。
4 8 は吐出部11a、導入部11bの側面にエッチングが進行しないように吐出部1
1a、導入部11bの側面を保護し、SF6 は垂直方向のエッチングを促進する。
【0057】
(k) シリコン基材41を熱酸化装置にセットし、例えば酸化温度1000℃、酸化時
間2時間、酸素雰囲気中の条件で熱酸化処理を行い、図8(k)に示すように、吐出部1
1a及び導入部11bの側面及び底面を含む表面全体に、例えば膜厚0.1μmのSiO
2 膜46を均一に成膜する。
【0058】
(l) 図9(l)に示すように(図9(l)より図9(o)に至るまでは図8(k)の
上下を逆転した図を示す)、ガラス等よりなる透明材料の支持基板50に、紫外線または
熱などの刺激で容易に接着力が低下する自己剥離層61を持った両面テープ60を張り合
わせる。具体的には、支持基板50に張り合わせた両面テープ60の自己剥離層61の面
と、シリコン基材41の面(接合面)41aとを向かい合わせ、真空中で貼り合せる。こ
れにより、接着界面に気泡が残らないきれいな接着が可能になる。この接着の際に接着界
面に気泡が残ると、次の(m)工程の研削加工において薄板化されるシリコン基材41の
板厚がばらつく原因となる。
【0059】
(m) シリコン基材41の吐出面側からバックグラインダーで研削加工を行い、図9(
m)に示すように、吐出部11aの先端部11cが開口するまでシリコン基材41を薄く
する。この薄板化の方法としては、他にポリッシャー、CMP装置による方法がある。こ
れらの加工方法を用いた場合、研磨剤のカス等がノズル孔11内に残るため、ノズル孔1
1内の研磨材の水洗除去工程などで吐出部11a及び導入部11bの内壁は洗浄される。
また、これらの方法以外に、ドライエッチングによりシリコン基材41を薄板化するよう
にしてもよい。すなわち、例えばSF6 をエッチングガスとするドライエッチングにより
、吐出部11aの先端部11cのSiO2 膜46が露呈するまでシリコン基材41を薄く
し、そして、その先端部11cのSiO2 膜46をCF4 又はCHF3 等のエッチングガ
スとするドライエッチングで除去するようにしてもよい。
【0060】
(n) オゾンを溶存させた洗浄水にシリコン基材41を10分間浸し、図9(n)に示
すように、吐出面41bに例えば膜厚2nmのSiO2 膜47を形成する。このとき、ノ
ズル孔11内に入り込んだ自己剥離層61の一部も除去される。また、シリコン基材41
の表面が洗浄され、異物、汚れの付着がなくなり、これにより、次の工程で形成される撥
インク膜の均一なコーティングが可能となる。
【0061】
(o) シリコン基材41の吐出面41bに、図9(o)に示すように、撥インク処理を
施す。すなわち、F原子を含む撥インク性を持った材料を蒸着やディッピングで成膜し、
撥インク層48を形成する。このとき、吐出部11a及び導入部11bの内壁も撥インク
処理される。
【0062】
(p) 図10(p)(図10(p)より図10(s)に至るまでは図9(o)の上下を
逆転した図を示す)に示すように、吐出面41bにダイシングテープ70をサポートテー
プとして貼り付ける。
【0063】
(q) 図10(q)に示すように、支持基板50側からUV光を照射する。
【0064】
(r) 図10(r)に示すように、両面テープ60の自己剥離層61をシリコン基材4
1から剥離する。
【0065】
(s) 図10(s)に示すように、Arスパッタもしくは02 プラズマ処理によって、
シリコン基材41の吐出部11a及び導入部11bの内壁に余分に形成された撥インク層
48を除去する。
【0066】
(t) 図11(t)(図11(t)より図11(u)に至るまでは図10(s)の上下
を逆転した図を示す)に示すように、シリコン基材41のダイシングテープ70を貼り付
けている面とは反対側に位置する接合面41aを真空ポンプに連通した吸着冶具80で吸
着固定し、その状態でダイシングテープ70を剥離する。
【0067】
(u) 図11(u)に示すように、吸着冶具80の吸着固定を解除し、ノズル基板1が
完成する。なお、図示を省略したが、シリコン基材41にはノズル孔11を形成するのと
同時にノズル基板外輪となる部分に貫通溝を形成するようにしており、吸着冶具80を取
り外す段階でノズル基板1が個片に分割されるようになっている。
【0068】
本実施の形態1によれば、深さにほぼ反比例してサイドエッチング量が変化する等方的
なエッチング条件で等方性ドライエッチングを行い、サイドエッチング量を制御すること
で、シリコンの結晶方位に拘束されない所望の傾斜面を持つほぼラッパ形状の導入部を形
成するようにしたので、高密度なノズル孔を形成することができる。そして、導入部11
bがほぼラッパ形状であるため、漸次縮小管による損失防止効果があり、最適な流路抵抗
及び整流作用を得ることができる。また、ノズル先端が垂直のノズルであるため、研削に
よるノズル径のばらつきが発生せず、吐出部11aのノズル径の精度を確保することが可
能である。こうして形成されたノズル孔11は、吐出部11aと導入部11bが連続形成
されているため、メニスカスの連続性を確保することができる。
なお、ノズル孔11の製造時においては、工程数が少なくて済み、コストが低くて生産
性に優れる。
【0069】
上記のノズル基板1の製造方法では、静電駆動方式のインクジェットヘッドに用いるノ
ズル基板の場合を例に説明したが、圧電駆動方式やバブルジェット(登録商標)方式など
、他方式のインクジェットヘッドのノズル基板にも適用可能である。
【0070】
次に、キャビティ基板2および電極基板3の製造方法について説明する。
ここでは、電極基板3にシリコン基材200を接合した後、そのシリコン基材200か
らキャビティ基板2を製造する方法について、図12、図13を用いて説明する。
【0071】
(a) 硼珪酸ガラス等からなる板厚が例えば約1mmのガラス基材300に、金・クロ
ムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより、凹部32を
形成する。なお、この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり
、個別電極31ごとに複数形成される。
そして、凹部32の内部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からな
る個別電極31を形成する。
その後、ドリル等によってインク供給孔34となる孔部34aを形成することにより、
図12(a)に示すように、電極基板3を作製する。
【0072】
(b) 厚さが例えば525μmのシリコン基材200の両面を鏡面研磨した後に、図1
2(b)に示すように、シリコン基材200の片面に、プラズマCVD(Chemical Vapor
Deposition)によって、例えば厚さ0.1μmのTEOS(TetraEthylorthosilicate)
からなるシリコン酸化膜(絶縁膜)26を形成する。なお、シリコン基材200を形成す
る前に、エッチングストップ技術を用いて、振動板22の厚みを高精度に形成するための
ボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとは、エッチング面か
ら発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の
発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0073】
(c) このシリコン基材200と、図12(a)のようにして作製された電極基板3を
、例えば360℃に加熱し、シリコン基材200を陽極に、電極基板3を陰極に接続して
800V程度の電圧を印加して、図12(c)に示すように、陽極接合により接合する。
【0074】
(d) シリコン基材200と電極基板3とを陽極接合した後に、図12(d)に示すよ
うに、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基材200をエッチングし、シリコ
ン基材200を例えば140μmの厚さまで薄板化する。
【0075】
(e) シリコン基材200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全
面に、プラズマCVDによって、例えば厚さ1.5μmのTEOS膜260を形成する。
そして、このTEOS膜260に、吐出室24となる凹部240、オリフィス23とな
る段差部230およびリザーバ25となる凹部250を形成するためのレジストをパター
ニングし、これらの部分のTEOS膜260をエッチング除去する。
その後、シリコン基材200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングすることにより、
図13(e)に示すように、吐出室24となる凹部240、オリフィス23となる段差部
230及びリザーバ25となる凹部250を形成する。このとき、配線のための電極取り
出し部29となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、ウェットエッチングの工
程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後、3重量%の
水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制
することができる。
【0076】
(f) シリコン基材200のエッチングが終了した後に、フッ酸水溶液でエッチングし
、図13(f)に示すように、シリコン基材200の上面に形成されているTEOS膜2
60を除去する。
【0077】
(g) シリコン基材200の吐出室24となる凹部240等が形成された面に、図13
(g)に示すように、プラズマCVDによりTEOS膜(絶縁膜26)を、例えば厚さ0
.1μmで形成する。
【0078】
(h) RIE(Reactive Ion Etching)等によって、図13(h)に示すように、電極
取り出し部29を開放する。また、電極基板3のインク供給孔34となる孔部にレーザ加
工を施して、シリコン基材200のリザーバ25となる凹部250の底部を貫通させ、イ
ンク供給孔34を形成する。また、振動板22と個別電極31の間のギャップの開放端部
にエポキシ樹脂等の封止材27を充填して封止する。また、共通電極28をスパッタによ
り、シリコン基材200の端部に形成する。
【0079】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基材200からキャビティ基板2が
作製される。
最後に、キャビティ基板2に、前述のようにして作製(図5〜図11)されたノズル基
板1を接着等により接合することにより、図2に示したインクジェットヘッド10が完成
する。
【0080】
本実施の形態1に係るインクジェットヘッド10の製造方法によれば、キャビティ基板
2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基材200から作製するので
、電極基板3によりシリコン基材200を支持した状態となり、シリコン基材200を薄
板化しても割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。したがって、
キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。また、シリコンによ
ってノズル基板1を形成しているので、キャビティ基板との熱膨張係数差に起因する接着
位置ずれがない。
【0081】
実施の形態2.
図14は、実施の形態1に係るノズル基板の製造方法で得られたノズル基板を有するイ
ンクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置を示す斜視図である。図14に示
すインクジェット記録装置400は、インクジェットプリンタであり、実施の形態1に係
るインクジェットヘッド10を搭載しているため、吐出特性が良く、また高密度化が可能
であり、このため液滴の着弾位置の高精度化が可能で、安定した高品質の印字が可能なイ
ンクジェット記録装置400を得ることができる。
なお、実施の形態1に示したインクジェットヘッド10は、図14に示すインクジェッ
ト記録装置400の他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィル
タの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液
のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図。
【図2】図1の液滴吐出ヘッドを組立てた状態の要部の縦断面図。
【図3】図2のノズル孔部分を拡大した縦断面図。
【図4】図1のノズル基板の上面図。
【図5】図1のノズル基板の製造工程の断面図。
【図6】図5に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図7】図6に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図8】図7に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図9】図8に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図10】図9に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図11】図10に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図12】キャビティ基板および電極基板の製造工程の断面図。
【図13】図12に続く製造工程の断面図。
【図14】本発明の実施の形態2に係るインクジェット記録装置の斜視図。
【符号の説明】
【0083】
1 ノズル基板、2 キャビティ基板、3 電極基板、4 駆動制御回路、10 イン
クジェットヘッド、11 ノズル孔、11a 吐出部、11b 導入部、22 振動板、
23 オリフィス、24 吐出室、25 リザーバ、26 絶縁膜、28 共通電極、3
1 個別電極、32 凹部、34 インク供給孔、41 シリコン基材、42 SiO2
膜(エッチング保護膜)、42a 垂直孔部に対応する部分(開口部)、110 垂直孔
部、400 インクジェット記録装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するためのノズル孔が、基板面に対して垂直な中心軸を有する回転体の連続
曲面で構成され、
前記中心軸と垂直な断面積が、吐出部から導入部にむけて漸増し、
前記中心軸を含む断面形状が、前記中心軸を対称軸として線対称な指数曲線を有するこ
とを特徴とするシリコン製ノズル基板。
【請求項2】
前記中心軸を含む断面形状は、前記中心軸を対称軸として、前記線対称な指数曲線と、
該指数曲線に連続する直線により構成されていることを特徴とする請求項1記載のシリコ
ン製ノズル基板。
【請求項3】
シリコン基材の表面にエッチング保護膜を設け、該エッチング保護膜に開口部を形成す
る第1の工程と、
前記エッチング保護膜の開口部から異方性ドライエッチングを行って前記シリコン基材
に垂直孔部を形成する第2の工程と、
前記シリコン基材の表面に設けた前記エッチング保護膜を除去し、前記シリコン基材に
形成した前記垂直孔部から等方性ドライエッチングを行って、前記垂直孔部の開口部側に
向けて断面積が漸増し、該断面形状が前記シリコン基材に対して垂直な中心軸を対称軸と
して線対称な指数曲線となるような孔部を形成する第3の工程と、
を有することを特徴とするシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項4】
前記垂直孔部の開口部側から異方性ドライエッチングを施して、前記断面形状が前記中
心軸を対称軸として、前記線対称な指数曲線に連続する線対称な直線となるような孔部を
形成する第4の工程をさらに有することを特徴とする請求項3に記載のシリコン製ノズル
基板の製造方法。
【請求項5】
前記等方性ドライエッチングは、エッチングを促進する第1のガスと、前記孔部の側壁
に保護膜を形成してサイドエッチング量を調整する第2のガスとの混合ガスによる連続処
理で行うことを特徴とする請求項3または4記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1のガスがSF6 であり、前記第2のガスがO2 であることを特徴とする請求項
5記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項7】
前記SF6 と、前記O2 とが、10対1の割合で混合されていることを特徴とする請求
項6記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項8】
前記指数曲線となるような孔部の制御は、前記垂直孔部の深さと、前記等方性ドライエ
ッチングを行う時間とを制御して行うことを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の
シリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項9】
前記垂直孔部の深さを50〜100μmとし、前記等方性ドライエッチングを行う時間
を5〜10分とすることを特徴とする請求項8記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2記載のシリコン製ノズル基板を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッ
ド。
【請求項11】
請求項10記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−18463(P2009−18463A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181780(P2007−181780)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】