説明

シリコーン塗料組成物とその製造方法

【課題】シリコーン系塗装皮膜が持つ本来の特長、即ち、耐熱性、耐候性、撥水性、電気絶縁性、屈曲性や柔軟性、透明性に優れた特長を損なうことなく、しかも短時間で速やかに硬化皮膜化することができるシリコーン塗料組成物とその製造方法の提供を課題とする。また銀を抗菌成分として含有させる場合に、抗菌作用が大きく、且つ長期にわたって安定した抗菌効果を持続させることができるシリコーン塗料組成物とその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】本発明のシリコーン塗料組成物は、主鎖両末端をアルコキシ基で封鎖すると共に側鎖の少なくとも一部にアルコキシ基を持つ加水分解性オルガノポリシロキサンを主成分とし、該加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解と脱水反応による硬化を促進するための触媒として五酸化バナジウムを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコーン塗料組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンを用いた塗料は、シロキサン結合を主鎖とすることから、一般に耐熱性、耐候性、撥水性、電気絶縁性に優れ、また屈曲性や柔軟性、更には透明性にも優れることから、広く使用されている。
シリコーンにアルコキシ基を導入することで、アルコキシ基の加水分解によりシラノールが生成され、更に縮合反応による脱水が行われて硬化、固体化させることができる。従って、このような材料を塗料として部材の表面に塗布することで、硬化し、安定した塗装薄膜を得ることが可能となる。
しかしながら、アルコキシ基を有するオルガノシロキサンの前記加水分解、縮合による硬化を、自然条件だけにたよる場合には長時間を有し、塗料としての性能を充分に果たすことができない。
このため、従来よりオルガノシロキサンの加水分解、縮合反応による硬化を促進させる試みが種々なされている。
またこれらのシリコーン塗料に銀等の抗菌成分を含有させたものも提供されている。
【0003】
特開平5−230375号公報(特許文献1)には、オルガノシロキサンに架橋剤として、液状ケイ素、チタン又はジルコニウムの有機化合物を加えるようにした加熱型の無溶剤無触媒オルガノシロキサン組成物が提供されている。この組成物では、比較的低い加熱温度でもって硬化が充分に行えるようにしたものである。
特開平5−247347号(特許第2137192号)公報(特許文献2)には、オルガノシロキサンに架橋剤として、アルミニウム、ホウ素、ケイ素、チタン、ジルコニウムの有機金属化合物を用い、更に触媒として亜鉛、コバルト、アルミニウム、錫を含む含金属有機物を用いる無溶剤の常温硬化型オルガノシロキサン組成物が提供されている。
特開平9−24335号公報(特許文献3)には、抗菌性無機塗料塗装物及びその製造方法の発明として、ケイ素化合物を含有する無機塗料に加える触媒として金属塩、アミン塩、アンモニウム塩、アミン類、アミン系シランカップリンング剤、アルミニウ化合物、アルカリ触媒、チタニウム化合物、ハロゲン化シランを含有させるようにしたものが提供されている。また抗菌剤として、銀、銅、亜鉛、ニッケル、パラジウム、白金、金、カドミウム、水銀、コバルト、ロジウム、第4級アンモニウム塩、有機ハロゲン含有化合物、塩素含有化合物、ヨード化合物等を含有させるものが提供されている。
特開2003−3068号公報(特許文献4)には、抗菌、妨かび性を有する硬化性組成物及びその硬化物の発明として、硬化性有機珪素化合物に加える硬化触媒として酸や有機金属塩等が用いられたものが提供されている。また抗菌性を付与するために、銀イオンを含む抗菌性ゼオライトを含有させるようにしたものが提供されている。
特開2005−139426号公報(特許文献5)には、側鎖として1個以上の炭素数1〜5のアルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンとシランカップリング剤とを含有する無溶剤の常温硬化型シリコーン樹脂塗料組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平5−230375号公報
【特許文献2】特開平5−247347号公報
【特許文献3】特開平9−24335号公報
【特許文献4】特開2003−3068号公報
【特許文献5】特開2005−139426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に開示の無溶剤無触媒オルガノシロキサン組成物の場合は、架橋剤として有機金属化合物等をかなりの量で含有させなければばらない問題がある。
また特許文献2の常温硬化型オルガノシロキサン組成物の場合は、使用する硬化触媒が含金属有機化合物であり、かなり多量を含有させる必要があることから、人体への影響もあって日用品等への適用に問題が生じる懸念がある。また多量に含有される触媒による製品の均質化の問題や、得られたシリコーン塗料膜における本来の特長である耐熱性、耐溶剤性等の劣化の問題が懸念される。
また特許文献3の抗菌性無機塗料塗装物の場合は、触媒を用いる対象が、オルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液と、シラノール基を含有するポリオルガノシロキサンとの2種類の成分からなる塗料成分であり、これら2種類の塗料成分と触媒との3者を混合させることが必要となる。
また抗菌成分の銀は、塗料による塗装を行った後に、別作業として後から抗菌材を上塗りしなければならない問題がある。
また特許文献4の抗菌、防かび性を有する硬化性組成物の場合は、抗菌成分として銀イオンを含むゼオライトを含有させるようにしているが、ゼオライトでは抗菌性を発揮するのに必要な含有量が多くなり、シリコーン膜の透明性や機械的強度を低減させる問題がある。
また特許文献5の常温硬化型シリコーン樹脂塗料組成物では、シランカップリング剤を使用する必要がある。
【0005】
そこで本発明は上記従来の問題点を解消し、オルガノシロキサンの加水分解と脱水縮合反応を促進させる触媒として、少量で効果的な効き目を奏すると共に、塗料膜の性質の悪影響を与えることが少なく、また日常品等に適用しても人体等への悪影響が生じないものを提供し、これによってシリコーン系塗装皮膜をそれが持つ本来の特長、即ち耐熱性、耐候性、撥水性、電気絶縁性、屈曲性や柔軟性、透明性に優れた特長を損なうことなく、しかも短時間で速やかに硬化皮膜化することができるシリコーン塗料組成物の提供、及びシリコーン塗料組成物の製造方法の提供を課題とする。
また銀を抗菌成分として含有させる場合に、抗菌作用が大きく、且つ長期にわたって安定した抗菌効果を持続させることができるシリコーン塗料組成物の提供、及びシリコーン塗料組成物の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明のシリコーン塗料組成物は、主鎖両末端をアルコキシ基で封鎖すると共に側鎖の少なくとも一部にアルコキシ基を持つ加水分解性オルガノポリシロキサンを主成分とし、該加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解と脱水反応による硬化を促進するための触媒として五酸化バナジウムを添加することを第1の特徴としている。
また本発明のシリコーン塗料組成物は、上記第1の特徴に加えて、五酸化バナジウムの添加量を0.4〜5重量%とすることを第2の特徴としている。
また本発明のシリコーン塗料組成物は、上記第1又は第2の特徴に加えて、化合物ではなく単体としての銀微粉末を添加することを第3の特徴としている。
また本発明のシリコーン塗料組成物は、上記第3の特徴に加えて、銀微粉末は10ミクロン以下の粒径とし、2〜20重量%を添加することを第4の特徴としている。
また本発明のシリコーン塗料組成物の製造方法は、主鎖両末端をアルコキシ基で封鎖すると共に側鎖の少なくとも一部にアルコキシ基を持つ加水分解性オルガノポリシロキサンを主成分とする液に、五酸化バナジウムを分散させたアルコール系分散液を添加、攪拌することを第5の特徴としている。
また本発明のシリコーン塗料組成物の製造方法は、上記第5の特徴に加えて、五酸化バナジウムを添加、攪拌させた後、更に銀微粉末を分散させたアルコール系分散液を添加、攪拌することを第6の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載のシリコーン塗料組成物によれば、加水分解性オルガノポリシロキサンに対して、その加水分解と脱水反応による硬化を促進させる触媒として、五酸化バナジウムを添加することにより、五酸化バナジウムが有する大きな触媒作用により、加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解、脱水反応を短時間で促進させることができる。よって、加水分解性オルガノポリシロキサンの硬化及び膜化を速やかに短時間で完了させることができる。
また五酸化バナジウムは人体に対して無害であることから、これを使用したシリコーン塗料組成物を各種日用品やその他の人に関係する製品、製品に使用しても、充分に安全性を確保することができる。
また五酸化バナジウムは触媒として多量に添加させる必要がないので、得られるシリコーン塗料膜が持つ本来の特長、即ち耐熱性、耐候性、撥水性、電気絶縁性、屈曲性や柔軟性、透明性に優れた特長を損なうことがない。
五酸化バナジウムは他のケースにおいて使用される場合はあるが、加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解、脱水反応の触媒作用としては従来知られていない。
【0008】
請求項2に記載のシリコーン塗料組成物によれば、上記請求項1に記載の構成による効果に加えて、五酸化バナジウムの添加量を0.4〜5重量%とすることで、触媒効果を充分に発揮して、加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解、脱水反応をより一層効果的に促進し、速やかなる固化、膜化を達成させることができる。また必要以上の量を添加させないので、形成される塗膜がざらついたりすることなく、良好な膜欠陥のない塗膜を得ることができる。
【0009】
請求項3に記載のシリコーン塗料組成物によれば、上記請求項1又は2に記載の構成による効果に加えて、化合物ではなく単体としての銀微粉末を添加することで、活性な銀イオンを出現させることができ、また活性な銀イオンを長期にわたって安定して出現させて、良好で且つ安定した抗菌効果、消臭効果を保持させることができる。
【0010】
請求項4に記載のシリコーン塗料組成物によれば、上記請求項3に記載の構成による効果に加えて、銀微粉末を2〜20重量%添加することにより、銀による抗菌、消臭効果現に良好に発揮させることができる。加えて粉末の粒径を10ミクロン以下とすることで、銀粒子が塗膜を構成する原子の網目空間に収容、保持されることが可能となると共に、銀微粒子の添加量を20重量%以下とすることで、銀粒子の全量がシロキサン結合の網目空間に収容可能となり、シリコーン塗料膜に構造的欠陥を生じさせない。よって上記のような範囲の粒径、粒量で添加することで、欠陥の少ない良好なシリコーン塗膜で且つ銀による良好な抗菌、消臭効果を得ることができる。
【0011】
請求項5に記載のシリコーン塗料組成物の製造方法によれば、主鎖両末端をアルコキシ基で封鎖すると共に側鎖の少なくとも一部にアルコキシ基を持つ加水分解性オルガノポリシロキサンを主成分とする液に、五酸化バナジウムを分散させたアルコール系分散液を添加、攪拌するようにしたので、五酸化バナジウムを触媒として加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解、脱水による硬化、膜化に長期間を要することなく塗装ができるシリコーン塗料組成物を得ることができる。
五酸化バナジウムをアルコール系分散媒に分散させてなるアルコール系分散液を用いることで、五酸化バナジウム粉を容易に分散させることができる。またアルコール系分散液は危険性がなく、取り扱いが容易である。この五酸化バナジウムを分散させたアルコール系分散液を加水分解性オルガノポリシロキサンを主成分とする液に添加、攪拌することで、容易に、取り扱いよく五酸化バナジウムを加水分解性オルガノポリシロキサンを主成分とする液に均一に分散させて、速やかなる触媒効果を発揮させることができる。
また五酸化バナジウムは人体に対して無害であることから、人体に対して安全なシリコーン塗料組成物を得ることができる。
勿論、五酸化バナジウムは触媒として少量を添加させればよいので、耐熱性、耐候性、撥水性、電気絶縁性、屈曲性や柔軟性、透明性を損なうことのない塗膜を得ることができるシリコーン塗料組成物を提供できる。
【0012】
請求項6に記載のシリコーン塗料組成物の製造方法によれば、上記請求項5に記載の構成による作用効果に加えて、五酸化バナジウムを添加、攪拌させた後、更に銀微粉末を分散させたアルコール系分散液を添加、攪拌するようにしたので、銀微粉末が抗菌成分として分散されたシリコーン塗料組成物を得ることができる。
銀微粉末をアルコール系分散媒に分散させてなるアルコール系分散液を用いることで、、銀微粉末を容易に、効果的に分散させることができる。またアルコール系分散液は危険性がなく、取り扱いが容易である。この銀微粉末を分散させたアルコール系分散液を加水分解性オルガノポリシロキサンに添加、攪拌することで、銀微粉末を加水分解性オルガノポリシロキサンの硬化膜のシロキサン結合の網目空間内に均一に担持、分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
先ず、本発明のシリコーン塗料組成物に係る実施形態を説明する。
本発明の実施形態に係るシリコーン塗料組成物は、加水分解性オルガノポリシロキサンに五酸化バナジウムを触媒として添加したものである。
【0014】
前記加水分解性オルガノポリシロキサンは、主鎖にSi−Oのシロキサン結合構造を持ち、側鎖にメチル基を持つシリコーンオリゴマーとフェニル基を持つシリコーンオリゴマーとから基本液を作る。メチル基だけのシリコーンオリゴマーの選択もあるが、メチル基だけでは得られる塗膜の硬度が上がりすぎる。塗膜の硬度調整剤としてフェニル基のシリコーンオリゴマーを混合する。
【0015】
前記加水分解性オルガノポリシロキサンの製造は、メチル系シリコーンオリゴマー165部にフェニル系シリコーンオリゴマー120部を加え、更にメチルトリメトキシシラン15部を加え、60℃で90分攪拌して行う。これによって分子の両端がアルコキシ官能基Rで封鎖された3次元構造の加水分解性オルガノポリシロキサンが得られる。
なお前記メチル系シリコーンオリゴマーとフェニル系シリコーンオリゴマーとの比率は、165部対120部に限定されない。塗膜の硬度を硬くする場合にはメチル系シリコーンオリゴマーの量を多くし、塗膜の硬度を柔らかくする場合には、その程度に応じてフェニル系シリコーンオリゴマーの量を多くしてゆく。またメチルトリメトキシシランの量も必ずしも15部である必要はない。加水分解性オルガノポリシロキサンの側鎖にアルコキシ基をどの程度の割合で導入するかによって、適当な割合が選択される。ただし、メチルトリメトキシシランの量は5部〜30部とする。5部未満であれば、後述する触媒を加えても実質上、加水分解反応が生じない。また30部を超えると、やはり加水分解反応がうまく進まない。好ましくは12部〜18部とする。
得られた加水分解性オルガノポリシロキサンの化学構造式を化学式1に示す。
【0016】
【化1】

【0017】
化学式1において、RとRはフェニル基またはメチル基によって選ばれた同一基または異なる基を示し、Rはメチル基またはフェニル基、或いは炭素数1〜5のアルコキシ基より選ばれる同一または異なる基を示し、n個のRは最低1個のアルコキシ基を示す。nは2〜10の数を示す。
【0018】
得られた加水分解性オルガノポリシロキサンは有効成分が100%であり、水分がなければ安定して存在する。しかしアルコキシシラン基が付加されたことで、このオルガノポリシロキサンは、常温下で空気に触れると空気中の湿気と反応し、アルコキシシラン基(Si−OR)が加水分解され、シラノール基(Si−OH)が生成される。そして更に、このシラノール基の脱水反応によって硬化される。この硬化速度はアルコキシ基の加水分解反応速度と比例する。加水分解から脱水反応を経て、結果として透明な薄いシロキサン結合の膜が形成される。この薄膜は、塗布であれば1〜40ミクロン程度まで厚みを調整することができる。
得られる塗膜は光沢性に富み、透明性は90%を超える。また硬度は鉛筆硬度で3Hまで上がり、シリコーンの構造上において珪素と酸素の結合エネルギーが1モル当たり106キロカロリーと大きいために酸性雨にも耐えうる性質を持つ。
【0019】
ただし前記の加水分解性オルガノポリシロキサンは、そのままの自然条件下であれば、含有するアルコキシ基の加水分解の速度はかなり遅く、脱水硬化に長時間を要する。
このため本発明では、前記加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解反応を促進させるため、研究と実験を繰り返した結果、五酸化バナジウム(V)を触媒として加えるのが最適であることを見出した。
勿論、五酸化バナジウムは、触媒としては石油の脱硫触媒、その他の酸化触媒として知られているが、加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解の触媒としては、本発明者が初めて知得したものである。
【0020】
五酸化バナジウムの添加量は、加水分解性オルガノポリシロキサン中に含まれるアルコキシ基の量にもよるが、0.4〜5重量%とする。0.4重量%未満では、加水分解促進効果があまり期待できない。また5重量%を超えると、得られる塗膜の表面がざらつく問題が生じる。
五酸化バナジウムの添加量は、好ましくは0.7〜1.0重量%とするのがよい。
【0021】
五酸化バナジウムは、その微粉末をアルコール系分散媒に入れて分散させる。そしてこの五酸化バナジウムを分散させたアルコール系分散液を加水分解性オルガノポリシロキサンに加え、攪拌することで、五酸化バナジウムを加水分解性オルガノポリシロキサンに分散状態とする。
前記アルコール系分散媒は、典型的にはアルコールそのものであり、鎖式または脂環式の炭化水素の水素原子を水酸基で置換したヒドロキシ化合物である。しかし、それ以外に、水酸基以外に官能基を持つアルコール誘導体、エステルを含むものとする。具体的には低級アルコールが扱いやすく、危険性も少ないので好ましい。
【0022】
前記五酸化バナジウムを添加した加水分解性オルガノポリシロキサンを3分程度攪拌すると、触媒作用が開始される。
五酸化バナジウムの存在により、アルコキシ基の加水分解が大幅に促進され、脱水反応も速まる。反応ブロッキング剤を入れる必要もない。その結果、硬化時間は大幅に短縮され、およそ30〜60分程度で薄膜の表面が硬化する。硬化すれば、水中のような過酷な条件のところで使用しても亀裂、剥離などが生じず、耐久性、耐候性が高い。更に鉛筆硬度で3Hの塗膜硬度を確保するのに60分程度で可能となる。
【0023】
本発明の実施形態に係るシリコーン塗料組成物は、加水分解性オルガノポリシロキサンに五酸化バナジウムを触媒として添加する他に、化合物ではなく単体としての銀微粉末を添加したものである。
銀イオンには抗菌作用、消臭作用がある。本発明では銀を酸化物等の化合物として添加するのではなく、単体で添加することで、効果的な抗菌作用と消臭作用を発揮させ、且つその効果的な抗菌作用、触媒作用を長期間持続させることができるようにしている。
即ち、銀を単体ではなく化合物で添加する場合は、化合物から銀イオンが遊離し難く、有効な銀イオンの発生量が少なくなる。また、有効銀イオンの総量の少なくなり、効果が長期間持続しない。一方、銀を単体で添加する場合は、活性な遊離銀イオンの出現が期待され、効果的な抗菌、消臭効果が期待される。また出現する有効銀イオンの総数が多く、長期にわたって安定した銀イオンの効果を期待できる。
【0024】
銀微粉末は10ミクロン(μm)以下の粒径とする。銀微粒子の粒径が10ミクロンを超えると、銀粒子の径が大きすぎて、銀粒子が塗膜を構成する原子の網目空間に収容されなくなり、塗膜に構造的欠陥をもたらし、塗膜を弱くする。一方、銀微粒子がナノサイズの如き微細になってくると、ナノ粒子が持つ特有な性質が大きくなり、好ましくない。
銀微粒子の粒径は、好ましくは2〜4ミクロンとするのがよい。
銀微粒子の添加量は2〜20重量%とする。2重量%未満では抗菌、消臭効果が充分ではない。また20重量%を超える量では、銀微粒子が塗膜を構成する原子の網目空間に収容しきれなくなる。
銀微粒子の添加量は好ましくは10〜15重量%とするのがよい。
【0025】
銀微粒子は、アルコール系分散媒に予め入れてコロイド状に分散させたものを用いる。そしてこの銀微粒子を分散させたアルコール系分散液を前記五酸化バナジウムが添加された加水分解性オルガノポリシロキサンに加え、攪拌することで、五酸化バナジウムを加水性オルガノポリシロキサンに分散状態とする。
前記アルコール系分散媒については、既述したものと同様である。
銀微粒子を分散させたアルコール系分散液の添加、攪拌は、前記五酸化バナジウムの添加の後、速やかに行う。五酸化バナジウムの添加、攪拌により加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解、脱水反応は既に始まっているからである。
銀微粒子の添加は、五酸化バナジウムの添加に先立って行うことも可能である。
【0026】
銀微粒子の加水分解性オルガノポリシロキサンへの添加、攪拌が完了すると、加水分解性オルガノポリシロキサンを素早くスプレーガンのカップ等に移して、塗布を開始する。五酸化バナジウム触媒添加時と銀微粉末添加時の2回の攪拌で加水分解が既に始まっており、あまり長い時間をおいて塗布すれば、粘度が急速に上がり、わずかな時間内でエアーガンのカップの中でシリコーン液が固まることになるので、素早く塗布することが必要である。
エアーガンでの塗布は、低圧型のエアーガンを使用する方がより好ましい。エアーガンの吹きつけ圧力は0.20〜0.35MPaが好ましい。吸上式と圧送式の2種類あるが、圧送式の方が好ましい。空気使用量は200〜400L/minが好ましい。また塗料使用量は190〜210L/minが好ましい。コンプレッサは7.5馬力のものが好ましい。その他、塗布に関しては、エアーガン以外にも、刷毛やローラを使用することができる。
【0027】
シリコーン塗料組成物を塗布し終われば、すぐに120〜200℃程度の熱風に当てて、1〜2時間乾燥を促進することで、塗布面の内部に形成されるアルコール分が消散し、透明度のある薄膜を得ることができる。薄膜は1〜40ミクロン程度までの厚みを調整することができる。また一度塗布したあとから再度上塗りして厚みを調整することもできる。
【0028】
塗膜には銀微粉末が分散して保持されており、空気の湿気中の水分や水と接触して銀イオンを発生させる。銀イオンはバクテリアと接触して殺菌を行う。またバクテリア等が出す匂いも消臭する。
塗膜は抗菌性、耐候性、耐水性、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性、屈曲性、透明性に優れる。
なお銀に加えて、アパタイト、二酸化チタンを添加し、透明で抗菌性の高い塗料組成物とすることもできる。
【0029】
本発明の塗料組成物は、金属石鹸(石鹸の形をした金属製品)、樹脂石鹸(樹脂やシリコーンで石鹸の形をした製品)、キッチンのゴミ受け用品、歯ブラシの保存容器、口をゆすぐコップ、入れ歯の保存容器、風呂用洗面器、風呂用品(シャンプー入れ、石鹸入れ、その他の全ての風呂用小物製品)、及び浴槽用蓋、風呂の排水フィルター、水を入れるだけで部屋の消臭ができるボトル、水を入れるだけで体臭が消臭できるボトル、爪楊枝を入れる保存器、その他の種々の細菌や臭いが発生する部分、場所に塗布して効果をあげることができる。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
信越化学工業株式会社製のメチル基シリコーンオリゴマー165部、信越化学工業株式会社製のフェニル基シリコーンオリゴマー120部、信越化学工業株式会社製のメチルトリメトキシシラン15部を混合して、フラスコ内で60℃に加熱し、90分攪拌調整することで、アルコキシ基を持つオルガノポリシロキサンを得た。このオルガノポリシロキサンの平均分子量(Mn)は950、粘度は75、MWDは1.63、アルコキシ基量は15重量%であった。
新興化学工業株式会社製の五酸化バナジウム1.0重量%をアルコール系分散媒に分散させて前記得られたオルガノポリシロキサンに加えて攪拌し、更に田中貴金属店製の銀微粉末(3μm)15重量%をアルコール系分散媒に分散させて、これを加えて、数分攪拌する。これによってシリコーン塗料組成物が得られる。得られたシリコーン塗料組成物をエアーガンで被塗装面上に約10ミクロンの厚さに塗装し、120〜200℃の熱風で1〜2時間乾燥させてシリコーン樹脂塗膜を得た。
(比較例1)
鈴木産業株式会社製「セラトンNP」を用いた。この「セラトンNP」は常温硬化型オルガノシロキサン塗料組成物で、上記特許文献2に基づいて、液状オルガノポリシロキサン、架橋剤、有機金属化合物の硬化触媒を用いた塗料組成物である。この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の条件で塗膜を得た。また塗料組成物に、銀の微粉末を15重量%を直接添加して攪拌したものを用いて、同様の条件で塗膜を得た。
(比較例2)
新興ペイント株式会社製「シンコースーパーセラ」を用いた。この「シンコースーパーセラ」は常温硬化型シリコーン樹脂塗料組成物で、上記特許文献5に基づいて、側鎖として1個以上の炭素数1〜5のアルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンとシランカップリング剤とを含有する塗料組成物である。この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の条件で塗膜を得た。また塗料組成物に、銀の微粉末を15重量%を直接添加して攪拌したものを用いて、同様の条件で塗膜を得た。
【0031】
(比較試験)
実施例1、比較例1、2について、速乾性、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度、密着性、分散性、タックフリー時間を試験した。結果を表1に示す。
ここで速乾性は、塗料組成物を被塗装面上に積層した後、120〜200℃の熱風で1〜2時間乾燥させて、塗膜が乾いたか否かを判断した。
耐熱性は、JIS K5400−7−1により、200℃で30分間加熱後、室温まで放冷し、塗膜のクラック、膨れ等を観察し、その有無を判断した。
耐溶剤性は、キシレンに30分間浸漬した後の剥離、膨れ等を観察し、その有無を判断した。
表面硬度は、JIS K5400−6−14による。
密着性は、JIS K5400−6−15の碁盤目試験法に従って行った。
分散性は、塗膜中の銀微粉末の分散具合を拡大レンズで観察して判断した。
タックフリー時間は、塗料組成物を被塗装面上に積層した後、120〜200℃の熱風で乾燥させたときに、表面に指で軽く触っても塗料が付着しない状態になるまでの時間を測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1で明らかなように、比較例1のものは即乾性、タックフリー性に劣るものであった。事実、比較例1のものは塗料が乾燥するのに数日を要した。また比較例1、比較例2に銀微粉末を直接添加する場合には、銀の均一的な分散は実質的にできないことが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖両末端をアルコキシ基で封鎖すると共に側鎖の少なくとも一部にアルコキシ基を持つ加水分解性オルガノポリシロキサンを主成分とし、該加水分解性オルガノポリシロキサンの加水分解と脱水反応による硬化を促進するための触媒として五酸化バナジウムを添加することを特徴とするシリコーン塗料組成物。
【請求項2】
五酸化バナジウムの添加量を0.4〜5重量%とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン塗料組成物。
【請求項3】
化合物ではなく単体としての銀微粉末を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーン塗料組成物。
【請求項4】
銀微粉末は10ミクロン以下の粒径とし、2〜20重量%を添加することを特徴とする請求項3に記載のシリコーン塗料組成物。
【請求項5】
主鎖両末端をアルコキシ基で封鎖すると共に側鎖の少なくとも一部にアルコキシ基を持つ加水分解性オルガノポリシロキサンを主成分とする液に、五酸化バナジウムを分散させたアルコール系分散液を添加、攪拌することを特徴とするシリコーン塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
五酸化バナジウムを添加、攪拌させた後、更に銀微粉末を分散させたアルコール系分散液を添加、攪拌することを特徴とする請求項5に記載のシリコーン塗料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−35620(P2009−35620A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200622(P2007−200622)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(506240229)
【Fターム(参考)】