説明

シリンダブロックのめっき処理方法及び装置

【課題】めっき皮膜の剥離、特にめっき皮膜の端部の剥離を確実に防止できるシリンダブロックのめっき処理方法及び装置を提供すること。
【解決手段】シリンダブロック1におけるシリンダ内周面3の一端(クランクケース面5側)を、シール治具13を用いてシールして処理液を循環させ、シリンダ内周面3をめっき前処理またはめっき処理し、シール治具13によるめっき処理時のシール位置を、めっき前処理が施された箇所に設定するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックにおけるシリンダ内周面の一端をシールして処理液を循環させ、シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理するシリンダブロックのめっき処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリンダ内周面にめっき皮膜を形成するシリンダブロックの製造方法が多数開示されている。例えば特許文献1では、めっき前処理工程でシリンダ内周面へポンプを用いて処理液を必要供給量だけ送液した後にポンプを停止し、バルブを閉じた状態で、シリンダブロックのシリンダ内に処理液を所定時間だけ滞留させて保時し、シリンダ内周面をめっき前処理している。次のめっき処理工程では、シリンダ内周面の一端をシール部材でシールした後に、ポンプを用いてめっき液を循環させながら、シリンダ内周面をめっき処理している。
【特許文献1】特開平9−13193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、特許文献1に記載のめっき前処理工程では、シリンダ内周面の一端が開放されているため、有毒な反応ガスが放出され、設備を腐食させたり、作業者の健康に悪影響を与える等の課題があった。
【0004】
その対策として、めっき前処理工程及びめっき工程で、共に、シリンダ内周面の一端をシール治具でシールする方法が考えられる。しかしこの場合、シール治具をシリンダ内周面に接触する位置がめっき前処理工程とめっき工程とでズレてしまうと、めっき前処理がなされていない領域にめっき皮膜が形成されることがある。その場合には、めっき前処理されていない部分のめっき皮膜は、所定の密着性が得られないため剥離し易く、ホーニング加工時やエンジン運転時に剥離などの不具合が発生する恐れがある。
【0005】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、めっき皮膜の剥離、特にめっき皮膜の端部の剥離を確実に防止できるシリンダブロックのめっき処理方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシリンダブロックのめっき処理方法は、シリンダブロックにおけるシリンダ内周面の一端をシールして処理液を循環させ、前記シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理し、前記めっき処理時のシール位置を、前記めっき前処理が施された箇所に設定することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明に係るシリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダブロックにおけるシリンダ内周面の一端をシールするシール治具を電極先端に備え、このシール治具により前記シリンダ内周面の前記一端をシールして処理液を循環させ、このシリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理し、前記シール治具の前記シリンダ内周面に対するシール位置を変更する位置変更手段を備え、この位置変更手段により、前記めっき処理時のシール位置を、前記めっき前処理が施された箇所に設定可能に構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るシリンダブロックのめっき処理方法及び装置によれば、めっき処理は、めっき前処理がなされた領域に施され、めっき前処理の範囲を越えて施されることがないので、めっき皮膜の密着性を確保でき、従って、めっき皮膜の端部の剥離を確実に防止して、めっき品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
[A]第1の実施の形態(図1〜図7)
図1は、本発明に係るめっき処理装置の第1の実施の形態を備えためっき処理ラインを示す平面図である。図2は、図1のめっき処理装置及びめっき前処理装置として機能する処理装置を示す全体正面図である。
【0011】
図1に示すめっき処理ライン70は、被処理物としてのエンジンのシリンダブロック1(本実施の形態ではV型多気筒エンジンのシリンダブロック)におけるシリンダ内周面3に、めっき前処理及びめっき処理を施す設備であり、複数台のめっき前処理装置(つまり、脱脂洗浄装置71、電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73)と、めっき処理装置74と、搬送コンベアとしてのローラコンベア75とを有して構成される。ここで、脱脂洗浄装置71、電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73、めっき処理装置74は、めっき処理ライン70の上流側から下流側へ向かって順次設置される。
【0012】
ローラコンベア75は、並列された多数本のローラ76が転動することでシリンダブロック1を水平方向に搬送するものである。このローラコンベア75は、脱脂洗浄装置71と電解エッチング処理装置72間、電解エッチング処理装置72と陽極酸化処理装置73間、陽極酸化処理装置73とめっき処理装置74間にそれぞれ配置される。更に、このローラコンベア75は、脱脂洗浄装置71と、この脱脂洗浄装置71の上流側の機械加工装置77(例えばシリンダ内周面3の切削加工装置)との間や、めっき処理装置74と、このめっき処理装置74下流側の機械加工装置78(例えばシリンダ内周面3のホーニング加工装置)との間にも配置される。
【0013】
脱脂洗浄装置71は、シリンダブロック1を処理液中に浸漬して脱脂等の処理を施す方式の処理装置である。これに対し、電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73及びめっき処理装置74は、シリンダブロック1におけるシリンダ2のシリンダ内周面3のみへ処理液を循環して導いて、このシリンダ内周面3のみに電解エッチング処理、陽極酸化処理、めっき処理をそれぞれ施す方式の処理装置である。
【0014】
つまり、脱脂洗浄装置71は、脱脂槽79、洗浄槽80及び予備加温槽81を備えて脱脂洗浄工程を実施すると共に、ローラコンベア75が配設された搬入出部82にシリンダブロック1が搬送されたときに、このシリンダブロック1を位置決めする位置決め手段(不図示)を備える。脱脂洗浄装置71では、この位置決めされたシリンダブロック1が、図示しないワークチャックなどの把持手段で把持されて、脱脂槽79、洗浄槽80、予備加温槽81に順次浸漬される。シリンダブロック1が脱脂槽79内に浸漬されることで、シリンダブロック1に付着した油分や汚れが除去され、シリンダブロック1が洗浄槽80内に浸漬されることでシリンダブロック1が洗浄される。また、シリンダブロック1が予備加温槽81内に浸漬されることで、シリンダブロック1全体が所定温度まで均一に加温される。ここで、脱脂槽79は、脱脂剤(例えばキザイ社製マックスクリーンNG−30等)が溶解された温水中で、シリンダブロック1を超音波などを利用して脱脂する。
【0015】
電解エッチング処理装置72には、2槽の薬液タンク83と送液ポンプ84とが配置された処理槽85が隣接して設置される。電解エッチング処理装置72は、シリンダブロック1におけるシリンダ2のシリンダ内周面3のみに送液ポンプ84の作用で、薬液タンク83から処理液(めっき前処理液としての例えばリン酸水溶液等)を導いて、このシリンダ内周面3に付着した不純物や酸化膜を除去すると共に、シリンダ内周面3を所定量エッチングして粗面にし、めっきの密着性を高める電解エッチング処理工程を実施する。2槽の薬液タンク83は、一方の槽で処理液を更新する際に、他方の槽からの処理液を電解エッチング処理装置72へ導いて、電解エッチング処理を継続して実施可能に設けられる。
【0016】
この電解エッチング処理装置72では、電解エッチング処理工程終了後に、シリンダブロック1を電解エッチング処理装置72に装着した状態で、バルブ(不図示)を切り替え、送液ポンプ84の作用で、給水タンク(不図示)からの水をシリンダ内周面3へ導いて、このシリンダ内周面3を水洗処理する。
【0017】
陽極酸化処理装置73には、2槽の薬液タンク86と送液ポンプ87とが配置された処理槽88が隣接して設置される。陽極酸化処理装置73は、シリンダブロック1におけるシリンダ2のシリンダ内周面3のみに送液ポンプ87の作用で、薬液タンク86から処理液(めっき前処理液としての例えばリン酸水溶液等)を導いて、このシリンダ内周面3に多孔質な酸化皮膜を形成しめっきの密着性を高める陽極酸化処理工程を実施する。2槽の薬液タンク86は、一方の槽で処理液を更新する際に、他方の槽からの処理液を陽極酸化処理装置73へ導いて、陽極酸化処理を継続して実施可能に設けられる。
【0018】
この陽極酸化処理装置73では、陽極酸化処理工程終了後に、シリンダブロック1を陽極酸化処理装置73に装着した状態でバルブ(不図示)を切り替え、送液ポンプ87の作用で、給水タンク(不図示)からの水をシリンダ内周面3へ導いて、このシリンダ内周面3を水洗処理する。
【0019】
めっき処理装置74には、1槽の薬液タンク89と送液ポンプ90とが配置された処理槽91が隣接して設置される。めっき処理装置74は、シリンダブロック1におけるシリンダ2のシリンダ内周面3のみに送液ポンプ90の作用で、薬液タンク89から処理液(めっき液としての例えば硫酸ニッケルめっき溶液等)を導いて、このシリンダ内周面3にめっき皮膜(例えばニッケルめっき皮膜)を形成するめっき処理工程を実施する。
【0020】
このめっき処理装置74では、めっき処理工程終了後に、シリンダブロック1をめっき処理装置74に装着した状態でバルブ(不図示)を切り替え、送液ポンプ90の作用で、給水タンク(不図示)からの水をシリンダ内周面3へ導いて、このシリンダ内周面3を水洗処理する。
【0021】
これらの電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73及びめっき処理装置74では、ワーク載置台19(図2、後述)に、位置決め手段としての位置決めピン(不図示)が進退可能に設けられる。ローラコンベア75によって電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73またはめっき処理装置74のワーク載置台19に搬送されたシリンダブロック1は、このワーク載置台19から進出した位置決めピンに当接して位置決めされる。
【0022】
尚、処理槽85の薬液タンク83、処理槽88の薬液タンク86、及び処理槽91の薬液タンク89は、後述の薬液タンク25(図3)と同義であり、また、処理槽85の送液ポンプ84、処理槽88の送液ポンプ87、及び処理槽91の送液ポンプ90は、後述の送液ポンプ24A、24B(図3)と同義である。
【0023】
ここで、電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73及びめっき処理装置74としてそれぞれ機能する処理装置10について、図2〜図4を用い以下に説明する。
【0024】
図2に示す処理装置10は、エンジンにおけるシリンダブロック1のシリンダ内周面3に処理液(めっき前処理液またはめっき液)を導いて、シリンダ内周面3を高速で処理(めっき前処理またはめっき処理)するものであり、装置本体11、電極12、シール治具13、ワーク保持治具14、エアジョイント15、クランプ用シリンダ16及び電極用シリンダ17を有して構成される。本実施の形態では、シリンダブロック1がV型多気筒エンジンのV型シリンダブロックであり、このシリンダブロック1において所定角度差を有して形成された複数のシリンダ2のシリンダ内周面3に、処理装置10によって同時にめっき前処理またはめっき処理が施される。
【0025】
装置本体11は架台18に設置して固定され、シリンダブロック1を載置するワーク載置台19を備える。シリンダブロック1は、ヘッド面4を下方にしてワーク載置台19に載置される。装置本体11にはワーク載置台19の上方にワーク保持治具14が、クランプ用シリンダ16によって昇降可能に設置される。このワーク保持治具14には、クランプ(不図示)が設けられている。ワーク保持治具14は、下降位置で、ワーク載置台19に載置されたシリンダブロック1のクランクケース面5に当接する。このとき、ワーク保持治具14の前記クランプがシリンダブロック1のクランクケース面5側を把持して、シリンダブロック1がワーク載置台19とワーク保持治具14間に保持される。
【0026】
電極12は電極支持部20に支持され、この電極支持部20が装置本体11に設置された電極用シリンダ17に取り付けられる。この電極用シリンダ17の進退動作によって、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入され、また、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2から退避される。図2の左側の電極12がシリンダ2内への挿入状態を示し、図2の右側の電極12がシリンダ2からの退避状態を示す。電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入されたときには、流路構成ブロック66に設置されたシリコンゴムシートなどのシールリング21(図3)がシリンダブロック1のヘッド面4に接触して、シリンダ内周面3のヘッド面4側(他端側)がシールされる。
【0027】
尚、流路構成ブロック66は、電極支持部20に一体化されて、この電極支持部20と共に電極用シリンダ17により動作され、且つ電極支持部20の外周面との間で処理液用の流路67を構成する。
【0028】
図2に示すように、電極12の上端にシール治具13が、また、ワーク保持治具14にエアジョイント15がそれぞれ設置される。これらのシール治具13及びエアジョイント15は、後に詳説するが、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入されたときに、図3に示すようにシール治具13がエアジョイント15に当接して、このエアジョイント15のメインエア継手22からシール治具13のシール部材33へ流体としてのエア(空気)が供給される。これにより、シール部材33が半径方向のみに拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3のクランクケース面5側(一端側)がシールされる。
【0029】
図2に示す電極支持部20には処理液パイプ23Aが接続され、この処理液パイプ23Aが送液ポンプ24A(図3)に接続される。この送液ポンプ24Aは、シリンダブロック1のシリンダ内周面3におけるクランクケース面5側がシール部材33によりシールされた状態において、薬液タンク25に貯溜された処理液(めっき液)を処理液パイプ23A及び電極支持部20を経て電極12内へ導く。この電極12内に導かれた処理液は、図3の矢印に示すように電極12内を上方へ流れ、シール治具13のシール下板34(後述)と電極12との間のスリット26を経て、電極12の外周面とシリンダブロック1のシリンダ内周面3とにより区画される空間27内を下方へ流れ、電極支持部20と流路構成ブロック66による流路67を経て薬液タンク25へ戻り循環する。
【0030】
また、流路構成ブロック66に処理液パイプ23Bが接続され、この処理液パイプ23Bが送液ポンプ24Bに接続される。この送液ポンプ24Bは、シリンダブロック1のシリンダ内周面3におけるクランクケース面5側がシール治具13によりシールされた状態で、薬液タンク25に貯溜された処理液(めっき前処理液)を処理液パイプ23B、電極支持部20と流路構成ブロック66により構成される流路67を順次経て、電極12とシリンダ内周面3との空間27内へ導き、この空間27内を上方へ流動させる。この空間27内を流れた処理液は、シール治具13と電極12間のスリット26を通って電極12内へ至り、この電極12内を下方へ流れ、薬液タンク25へ戻って循環する。
【0031】
図2及び図3に示すように、電極支持部20にはリード線28が接続され、このリード線28が電源装置30に接続される。電源装置30は、前記空間27が処理液で満たされ、この処理液が流動した状態で、リード線28及び電極支持部20を経て電極12へ電気を供給する。この給電は、めっき前処理時には電極12がマイナス極、シリンダブロック1がプラス極になるように実施され、これによりシリンダブロック1のシリンダ内周面3がめっき前処理される。めっき処理時には電極12がプラス極、シリンダブロック1がマイナス極に給電され、シリンダ内周面3がめっき処理されて、このシリンダ内周面3にめっき皮膜が形成される。ここで、めっき前処理とめっき処理は、後述の如く、処理液と通電条件等を異ならせることで、同一種類の処理装置10により実施される。
【0032】
尚、エアジョイント15は、図2に1個図示されているが、電極12の個数に対応した個数(つまり、シリンダブロック1におけるシリンダ2の個数)がワーク保持治具14に設置されている。また、図2中の符号31は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3にめっき前処理またはめっき処理がなされて、電極12がシリンダブロック1から退避した後に進出して、シリンダブロック1のヘッド面4へ洗浄液を噴射し洗浄するときに用いられる洗浄シャッターである。
【0033】
次に、前記シール治具13とエアジョイント15などの構成を、図3及び図4を用いて詳説する。
【0034】
シール治具13は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3を含む空間27内へ処理液を導く際に、シリンダ内周面3に接触してこのシリンダ内周面3をシールするものであり、シール部材33、シール下板34及びシールベース35を有して構成される。
【0035】
シール部材33は、図4に示すように、伸縮自在な材料(例えばゴムなどの弾性部材)にて構成され、浮き輪形状に形成される。このシール部材33の内周側部分は開口されて開口部49が設けられると共に、この開口部49近傍の両側に係合突起36が形成される。このシール部材33の外周部33Aが、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触可能とされる。
【0036】
シール下板34は、図4に示すように、円板部32の中央に膨出部37が一体成形されて構成される。膨出部37の外周に、周溝38が形成されたリング部材39が配置される。また、膨出部37にはメインエア流路40C及び40Dが連通して形成される。このうちメインエア流路40Dは、シール下板34の周方向に複数本、例えば3本等間隔に形成される。このメインエア流路40Dは、リング部材39の周溝38に連通し、このリング部材39の周方向複数箇所(例えば3箇所)に周溝38に連通して形成されたメインエア流路40Eと連通する。
【0037】
また、シール下板34の円板部32には、膨出部37との境界部分に係合溝41がリング形状に形成される。この係合溝41に、シール部材33の係合突起36が係合される。また、円板部32及び膨出部37には、締結用の雌ねじ部42と、ボルト43挿入用のボルトねじ穴44が設けられる。このように構成されたシール下板34は、リング部材39にシール部材33の開口部49を嵌合させ、係合溝41にシール部材33の係合突起36が係合した状態で、円板部32がシール部材33の一方の片側面(図4の下側面33C)を支持する。
【0038】
シールベース35は、図4に示すように、円板部45の中央に膨出部46が一体成形されて構成され、膨出部46にシート座47及びメインエア流路40Bが形成される。シート座47にシールシート48が装着され、このシールシート48に、メインエア流路40Bに連通するメインエア流路40Aが形成される。メインエア流路40Bは、シール下板34のメインエア流路40Cに連通可能に設けられる。
【0039】
また、円板部45には、シート座47と反対位置に、シール下板34の膨出部37を嵌合可能な凹部50が形成され、この凹部50の外側に係合溝51がリング状に形成される。この係合溝51にシール部材33の係合突部36が係合される。円板部45及び膨出部46には、ボルト43螺挿用のボルトねじ穴52が形成される。
【0040】
シール下板34の膨出部37がシールベース35の凹部50に嵌合し、シール部材33の開口部49がシール下板34のリング部材39に嵌合し、シール部材33の係合突起36がシール下板34の係合溝41及びシールベース35の係合溝51に係合した状態で、シール下板34のボルトねじ穴44とシールベース35のボルトねじ穴52にボルト43が螺合され、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化されてシール治具13が構成される。
【0041】
この状態で、シール下板34とシールベース35とが互いに対向配置され、シール下板34の円板部32がシール部材33の一方の片側面(図4の下側面33C)を、シールベース35の円板部45がシール部材33の他方の片側面(図4の上側面33B)をそれぞれ支持する。更に、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化された状態で、互いに連通するメインエア流路40A、40B、40C、40D及び40Eが、シール部材33の内部に連通する。
【0042】
図3に示すように、シール治具13は、絶縁部材としてのシール治具取付板53を介して電極12の上端に取り付けられる。このシール治具取付板53は4方向が切り欠かれた略十字形状に形成され、中央部に締結用の雄ねじ部54が形成される。この略十字形状のシール治具取付板53の先端部がボルト55により電極12に固定される。そして、シール治具取付板53の雄ねじ部54がシール治具13のシール下板34における雌ねじ部42に螺合して、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化されたシール治具13がシール治具取付板53に取り付けられる。
【0043】
このシール治具取付板53は、非導電性の樹脂などにて構成され、導電性の金属にて構成されたシール下板34及びシールベース35を電極12に対して絶縁する。また、略十字形状のシール治具取付板53の切り欠かれた部分を通って処理液が、例えば図3の矢印に示すように前記スリット26へ向かって流動する。シール治具取付板53の外周側下面には、絶縁性を更に高めるために、絶縁カラー68が装着されている。
【0044】
図2及び図3に示すエアジョイント15は、前述の如くメインエア継手22を備えると共に、メインエア供給流路56が形成されている。メインエア継手22は、メインエア供給配管57を介して図示しないエア供給バルブ及びコンプレッサに接続される。また、エアジョイント15は、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内に挿入されたときに、電極12に取り付けられたシール治具13のシールシート48に当接し、この状態でメインエア供給流路56がシールシート48のメインエア流路40Aに連通する。メインエア供給流路56からメインエア流路40Aへエアが供給されるが、この際のエアの漏洩がシールシート48により防止される。
【0045】
メインエア供給流路56からメインエア流路40Aへ供給されたエアは、図4に示すように、メインエア流路40B、40C、40D及び40Eを経てシール部材33内へ導入される。このシール部材33は、上側面33Bがシールベース35により、下側面33Cがシール下板34によりそれぞれ支持されて膨張が規制されるので、図4(A)に示すように半径方向のみに拡張され、シール部材33の外周部33Aがシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触して、このシリンダ内周面3のクランクケース面5側をシールする。これにより、シリンダ内周面3と電極12の外周面とにより区画された空間27(図3)からクランクケース面5側へ、めっき前処理液またはめっき液が液漏れすることが防止される。
【0046】
メインエア継手22からシール部材33内へのエアの供給が遮断されたときには、図4(B)に示すように、シール部材33は半径方向に収縮して、その外周部33Aがシリンダ内周面3から離反する。
【0047】
このシール部材33の拡張、収縮を確認する確認手段が、図3に示すようにシール治具13及びエアジョイント15に設けられている。この確認手段は、エアジョイント15側のサブエア継手58及びサブエア供給流路59と、シール治具13側のサブエア流路60と、エア圧センサ61及び制御回路62とである。
【0048】
サブエア継手58は、エアジョイント15に複数個、例えば3個配置されている。サブエア供給流路59は、サブエア継手58に対応してエアジョイント15に複数本、例えば3本形成され、それぞれがサブエア継手58に連通して設けられる。
【0049】
サブエア流路60は、図4に示すように、シール治具13のシールベース35に形成される。このシールベース35には、膨出部46の天面に同心円状のリング溝63が、サブエア供給流路59の本数に対応して複数個(例えば3個)形成されており、それぞれが各サブエア供給流路59(図3)に連通可能とされる。シールベース35には、更に、各リング溝63の個数に対応して複数本(例えば3本)のサブエア流路60が放射状に等間隔に形成される。それぞれのサブエア流路60が各リング溝63に連通して設けられる。これらのサブエア流路60のそれぞれには、シールベース35の外周端部において吹出口64が形成される。この吹出口64は、図4に示すように、シール部材33の拡張時にこのシール部材33によって閉塞され、シール部材33の収縮時に開放される位置に設けられる。
【0050】
図3に示すエアジョイント15に備えられたサブエア継手58から導入される流体としてのエアは、サブエア供給流路59を通り、シール治具13(図4)のリング溝63及びサブエア流路60を経て吹出口64から吹き出し可能に設けられる。この吹出口64からのエアの吹き出しは、図4(B)に示すように、シール部材33の収縮時に吹出口64がシール部材33により閉塞されず開放されているときに実施される。このときには、サブエア流路60、サブエア供給流路59及びサブエア継手58のエア圧が低くなる。これに対し、シール部材33の拡張時には、図4(A)に示すように、吹出口64がシール部材33により閉塞されてエアが吹出口64から吹き出されず、サブエア流路60、サブエア供給流路59及びサブエア継手58内のエア圧が上昇する。
【0051】
図3に示すエア圧センサ61は、例えば複数本のサブエア継手58へそれぞれエアを導く複数本、例えば3本のサブエア供給配管65に配置されて、上述のサブエア流路60のエア圧を検出する。このエア圧の検出値によって、シール治具13のシール部材33の拡張または収縮を確認することが可能となる。つまり、シール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3を液密にシールしている状態であるか、またはシール部材33が収縮して、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触せず、このシリンダ内周面3がシールされていない状態であるかを確認することが可能となる。
【0052】
シール部材33の拡張、収縮によるシリンダブロック1のシリンダ内周面3のシールの確認は、サブエア流路60がシールベース35(つまりシール部材33)の周方向に複数本等間隔に、例えばシール部材33の周方向に120度の等間隔で3本形成されているので、シール部材33の全周に亘ってなされる。これにより、シール部材33の周方向の一部に劣化や亀裂、破損が発生して、その箇所以外ではシール部材33の拡張が正常になされるが、亀裂等が発生した箇所ではシール部材33の拡張が不充分となって、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触していない場合にも、このシール部材33の周方向の拡張、収縮状況を確認して、シリンダ内周面3のシールを確認することが可能となる。
【0053】
図3に示す制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値を取り込んで、送液ポンプ24A、24B及び電源装置30の駆動を制御する。つまり、制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値が所定値よりも高い場合に、シール治具13のシール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3におけるクランクケース面5側のシールが良好になされていると判断する。このとき、制御回路62は、送液ポンプ24Aまたは24Bを起動して処理液を、シリンダ内周面3と電極12の外周面とにより区画された空間27へ供給し、その後、電源装置30を駆動して電極12へ給電し、シリンダ内周面3にめっき前処理(電解エッチング処理、陽極酸化処理)またはめっき処理を実施させる。
【0054】
制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値が所定値以下の場合には、シール治具13のシール部材33が適正に拡張せずまたは収縮して、シリンダ内周面3に接触していず、このシリンダ内周面3のシールが不完全であると判断して、送液ポンプ24A、24B及び電源装置30を駆動せず、またはこれらの駆動中にはこれらの駆動を中止する。
【0055】
上述のように構成された処理装置10は、電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73、めっき処理装置74としてそれぞれ機能し、図1に示すめっき処理ライン70の該当位置に別々に設置され、それぞれ電解エッチング処理、陽極酸化処理、めっき処理を実施する。つまり、電解エッチング処理、陽極酸化処理、めっき処理は同一種類の異なった処理装置10によって実施される。これらの各処理における、シール治具13によるシリンダ内周面3のクランクケース面5側のシール位置について、図3及び図5を用いて以下に説明する。
【0056】
図5(A)に示すように、脱脂洗浄処理完了後、電解エッチング処理装置72にて、シール治具13のシール部材33がシリンダ内周面3のクランクケース面5側に接触して、このシリンダ内周面3のクランクケース面5側をシールしている。その後、処理液(電解エッチング液)としてのリン酸水溶液が送液ポンプ24Bによって、シリンダ内周面3と電極12との空間27へ送液されると共に、電源装置30によってシリンダブロック1がプラス極、電極12がマイナス極となるように通電される。すると、図5(B)に示すように、シリンダ内周面3のうち処理液と接している部分が溶解されて、エッチング領域92が形成される。
【0057】
電解エッチング処理の詳細条件は、例えば処理液としてリン酸100〜500g/l(リットル)を用い、液温度60〜90℃、処理時間0.5〜3分間、液流速10〜40cm/秒、通電条件10〜80A/dmで処理を行う。この電解エッチング処理を行うことで、シリンダ内周面3に付着している不純物や酸化膜を除去すると共に、アルミニウム合金中の共晶シリコンを表面に突出させ、更に、シリンダ内周面3をエッチングによって粗面にして、アンカー効果によりめっき皮膜93(図5(C))の密着性が高められる。また、エッチング領域92の深さは、後に成膜するめっき皮膜93の厚さと相関するが、通常0.01〜0.2mm程度が適当である。この電解エッチング処理後に処理液パイプ23A及び23Bのバルブ(不図示)が切り替えられて、シリンダブロック1は、シリンダ内周面3が水洗されて陽極酸化処理装置73へ搬送される。
【0058】
陽極酸化処理装置73では電解エッチング処理装置72と同様に、シリンダ内周面3のクランクケース面5側がシール治具13によってシールされ、処理液としてのリン酸水溶液が送液ポンプ24Bにより、シリンダ内周面3と電極12との空間27へ送液されると共に、電源装置30によってシリンダブロック1がプラス極、電極12がマイナス極となるように通電される。これにより、電解エッチングされたエッチング領域92の表面上に、厚さ数ミクロンの酸化膜(不図示)が形成される。この酸化膜はポーラス状となっており、アンカー効果によってめっき皮膜93の密着性を更に高める効果が得られる。
【0059】
陽極酸化処理の詳細条件は、例えば処理液としてリン酸5〜70g/l(リットル)を用い、液温度30〜70℃、処理時間0.5〜3分間、液流速10〜40cm/秒、通電条件5〜30A/dmで処理を行う。陽極酸化処理後に処理液パイプ23A及び23Bのバルブ(不図示)が切り替えられて、シリンダブロック1は、シリンダ内周面3が水洗されて、めっき処理装置74へ搬送される。
【0060】
めっき処理装置74では、図5(C)に示すように、シール治具13のシール位置をめっき前処理(電解エッチング処理、陽極酸化処理)時のシール位置よりもヘッド面4側へ移動させ、めっき前処理が施された箇所にてシールを行う。シール位置の移動幅は0.5〜10mm程度が適当である。このようにめっき処理でのシール位置を、めっき前処理でのシール位置に比べて、シール治具13がめっき前処理済みの箇所に重なるように移動されるので、めっき前処理がなされた範囲にのみめっき皮膜93を確実に形成することが可能になる。
【0061】
このシール治具13によるシール位置の移動は、電解エッチング処理と陽極酸化処理においても実施することが好ましく、電解エッチング処理、陽極酸化処理、めっき処理と3段階に移動させることが好ましい。但し、シール治具13によるシール位置の移動回数が増すと、シリンダ内周面3においてめっき処理される面積がその分だけ減少するため、シリンダ内周面3の面積に余裕がある場合に3段階のシール位置の移動を実施し、シリンダ内周面3の面積に余裕がない場合には、電解エッチング処理と陽極酸化処理を同位置でシールし、めっき処理時にのみシール治具13によるシール位置を移動する2段階の移動を行うことが好ましい。
【0062】
シール治具13によるシール動作の完了後、処理液(めっき液)として、例えば硫酸ニッケルめっき溶液がシリンダ内周面3へ送液ポンプ24Aによって送液されると共に、電源装置30によってシリンダブロック1がマイナス極、電極12がプラス極となるように、弱→中→強の3段階に分けて電気が供給されて、めっき皮膜93が形成される。めっき処理の詳細な条件は、例えば処理液は硫酸ニッケル300〜700g/l(リットル)を用い、液温度40〜80℃、処理時間5〜10分間、液流速50〜80cm/秒、通電条件10〜30A/dm×0.5〜1分間(弱)→30〜70A/dm×0.5〜1分間(中)→80〜120A/dm×4〜8分間(強)で処理を行う。めっき処理が完了した後、処理液パイプ23A及び23Bのバルブ(不図示)が切り替えられて、シリンダブロック1は、シリンダ内周面3が水洗されてホーニング工程へ移送される。
【0063】
ホーニング工程では、図5(D)に示すように、めっき皮膜93が施されたシリンダ内周面3が、所定の内径及び表面粗さとなるよう研削加工される。このホーニング加工後の加工済めっき皮膜95は、その内径D1がシリンダブロック1の素材表面96の内径D2と同一寸法(D1=D2)、または素材表面96の内径D2よりも若干小さくなるようにする(D1<D2)。この場合、加工済めっき皮膜95の端部94は、加工済めっき皮膜95の表面及び素材表面96よりもシリンダブロック1の外径方向へ退避した凹部構造に設けられる。
【0064】
上述のようにシール治具13によりシリンダブロック1におけるシリンダ内周面3のシール位置を変更する具体的な位置変更手段としては、本実施形態の如く、電解エッチング処理、陽極酸化処理、めっき処理が別々の処理装置10により実施される場合には、めっき前処理装置(電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73)とめっき処理装置74との間で、長さL(図3)を異ならせた電極12を用いる。つまり、めっき処理装置74の電極12を、電解エッチング処理装置72及び陽極酸化処理装置73の電極12よりも所定寸法(例えば0.5〜10mm程度)短くする。これにより、めっき処理時のシール治具13によるシリンダ内周面3のシール位置は、めっき前処理(電解エッチング処理及び陽極酸化処理)が施された箇所に設定されることになる。
【0065】
また、電解エッチング処理、陽極酸化処理、めっき処理が別々の処理装置10により実施される場合で、めっき前処理装置(電解エッチング処理装置72及び陽極酸化処理装置73)とめっき処理装置74との間で電極12の長さが同一の場合には、前記位置変更手段として、図6に示すように、電極12と、この電極12を支持する電極支持部20との間に介在させた電極スペーサ97、または図7に示すように、電極支持部20及び流路構成ブロック66を介して電極12に一体化されて、シリンダブロック1におけるシリンダ内周面3のヘッド面4側をシールする高さの異なるシールリング21A、21B、21Cを用いる。これらの前記電極スペーサ97またはシールリング21A、21B、21Cによって、めっき処理時のシール治具13によるシリンダ内周面3のシール位置は、めっき前処理(電解エッチング処理及び陽極酸化処理)が施された箇所に設定される。
【0066】
つまり、図6に示す電極スペーサ97を用いた場合には、前処理工程(電解エッチング工程や陽極酸化工程)で使用する処理装置10(電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73)の電極12のみに電極スペーサ97を挿入して、電極12先端のシール治具13がシリンダ内周面3のクランクケース面5側へ配置されるようにする。めっき工程を実施するめっき処理装置74では電極スペーサ97を介在させないことで、シール治具13によるシリンダ内周面3のシール位置を、電解エッチング処理装置72及び陽極酸化処理装置73の場合よりも寸法E1だけヘッド面4側に近づけ、めっき前処理が施された領域のみにめっき皮膜93が成膜されるようにする。
【0067】
また、電極スペーサ96の厚さを変えることで、めっき前処理工程のうちの電解エッチング工程と陽極酸化工程で、シール治具13によるシール位置を変更させることも可能である。即ち、陽極酸化工程では、電解エッチング工程の場合よりもシール治具13をヘッド面4側に近づけることも可能である。
【0068】
図7に示すシールリング21A、21B、21Cを用いる場合には、電解エッチング処理、陽極酸化処理、めっき処理をそれぞれ実施する電解エッチング処理装置72、陽極酸化処理装置73、めっき処理装置74において、シールリング21Aの高さHa、シールリング21Bの高さHb、シールリング21Cの高さHcを順次高くすることにより(Ha<Hb<Hc)、シリンダ内周面3への電極12の挿入深さを順次浅くする。これにより、シール治具13のシール位置は、陽極酸化処理装置73の場合が電解エッチング処理装置72の場合よりも寸法E2だけ、また、めっき処理装置74の場合が陽極酸化処理装置73の場合よりも寸法E3だけヘッド面4側に近い方向に変更される。
【0069】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
【0070】
(1)めっき前処理(電解エッチング処理、陽極酸化処理)とめっき処理を別々の処理装置10を用いて実施する場合に、各処理装置10で電極12の長さLを変更したり、各処理装置10で電極12の長さを変更せずに、めっき前処理を実施する処理装置10に電極スペーサ97を設置したり、各処理装置10で電極12の長さを変更せずに、高さの異なるシールリング21A、21B、21Cを用いることで、めっき処理時のシール治具13によるシリンダ内周面3のシール位置を、めっき前処理が施された箇所に設定する。このため、めっき処理は、めっき前処理がなされた領域に施され、めっき前処理の範囲を越えて施されることがないので、めっき皮膜93、加工済めっき皮膜95の密着性を確保できる。従って、めっき皮膜93、加工済めっき皮膜95の密着性がこれらの端部94においても確保されるので、シリンダ内周面3に加工済めっき皮膜95の端部94が存在する場合であっても、ピストン(不図示)の摺動による加工済めっき皮膜95の端部94の剥離を防止でき、めっき品質を向上させることができる。
【0071】
(2)加工済めっき皮膜95の端部94が、加工済めっき皮膜95の表面及びシリンダブロック1の素材表面96よりもシリンダブロック1の外径方向へ退避した凹部構造に構成されているので、加工済めっき皮膜95の端部94に、摺動時におけるピストンスカート(不図示)などが引っ掛かることを防止でき、加工済めっき皮膜95の端部94の剥離を確実に防止できる。更に、加工済めっき皮膜95の端部94の凹部には、エンジン運転時にオイルが溜るので、シリンダ内周面3でのピストンの摺動を円滑化できる。しかも、オイル溜りとなる加工済めっき皮膜95の端部94の下方に位置する素材表面96は、アルミニウム合金などのように耐摩耗性が低い材質で構成されていても、十分なオイルが供給されることで、過度な摩耗や焼き付きの発生を防止できる。
【0072】
[B]第2の実施の形態(図8)
図8は、本発明に係るめっき処理装置の第2の実施の形態において、図5のシール位置の変更を弾性ゴムを用いて実施する場合を示す図3に対応する断面図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0073】
本実施の形態では、めっき前処理(電解エッチング処理、陽極酸化処理)とめっき処理が同一の処理装置10を用いて順次実施される場合であり、この場合にシール治具13によるシリンダブロック1のシリンダ内周面3のシール位置を変更する位置変更手段として、弾性ゴム98やスプリングなどの弾性部材が用いられる。
【0074】
弾性部材としての弾性ゴム98は、シール治具13に一体化されたシール治具取付板53と電極12との間に介在され、エアジョイント15からのシール治具13への押圧力によって伸縮量が変更されて、シール治具13が電極12に対して接近または離反した位置に設定される。これにより、めっき処理時のシール治具13によるシリンダブロック1のシリンダ内周面3のシール位置が、めっき前処理が施された箇所に設定される。
【0075】
つまり、めっき前処理(電解エッチング処理または陽極酸化処理)では、エアジョイント15からシール治具13に作用する押圧力を小さくして、弾性ゴム98の伸縮量を減少して設定する。これに対しめっき処理では、エアジョイント15からシール治具13への押圧力を大きくして、弾性ゴム98の伸縮量を増大させる。これにより、シール治具13の位置は、めっき処理の場合がめっき前処理の場合よりも寸法E4だけヘッド面4側に近い方向に変更される。
【0076】
尚、上述の弾性ゴム98等の弾性部材を用いた位置変更手段は、めっき前処理とめっき処理を別々の処理装置10を用いて実施する場合に、これらの各処理装置10に適用されてもよい。
【0077】
従って、本実施の形態においても、めっき処理時のシール治具13によるシリンダブロック1のシリンダ内周面3のシール位置が、めっき前処理が施された箇所に設定されるので、前記第1の実施の形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係るめっき処理装置の第1の実施の形態を備えためっき処理ラインを示す平面図。
【図2】図1のめっき処理装置及びめっき前処理装置として機能する処理装置を示す全体正面図。
【図3】図2の処理装置における電極及びエアジョイント回りを示す断面図。
【図4】図3のシール治具を示し、(A)はシール部材の拡張状態を示す断面図、(B)はシール部材の収縮状態を示す断面図。
【図5】図3及び図4のシリンダ内周面におけるクランクケース面側のシール部分を拡大して示し、(A)及び(B)はめっき前処理(電解エッチング処理)時の断面図、(C)はめっき処理時の断面図、(D)はホーニング加工後の断面図。
【図6】図5のシール位置の変更を、電極スペーサを用いて実施する場合を示す図3に対応する断面図。
【図7】図5のシール位置の変更を、高さ寸法の異なるシールリングを用いて実施する場合を示す図3に対応する断面図。
【図8】本発明に係るめっき処理装置の第2の実施の形態において、図5のシール位置の変更を弾性ゴムを用いて実施する場合を示す図3に対応する断面図。
【符号の説明】
【0079】
1 シリンダブロック
3 シリンダ内周面
4 ヘッド面
5 クランクケース面
10 処理装置
12 電極
13 シール治具
21A、21B、21C シールリング(位置変更手段)
72 電解エッチング処理装置
73 陽極酸化処理装置
74 めっき処理装置
97 電極スペーサ(位置変更手段)
98 弾性ゴム(位置変更手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックにおけるシリンダ内周面の一端をシールして処理液を循環させ、前記シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理し、
前記めっき処理時のシール位置を、前記めっき前処理が施された箇所に設定することを特徴とするシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項2】
前記めっき前処理とめっき処理を異なった処理装置にて別々に実施することを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項3】
前記めっき前処理とめっき処理を同一の処理装置にて順次実施することを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項4】
シリンダブロックにおけるシリンダ内周面の一端をシールするシール治具を電極先端に備え、このシール治具により前記シリンダ内周面の前記一端をシールして処理液を循環させ、このシリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理し、
前記シール治具の前記シリンダ内周面に対するシール位置を変更する位置変更手段を備え、この位置変更手段により、前記めっき処理時のシール位置を、前記めっき前処理が施された箇所に設定可能に構成されたことを特徴とするシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項5】
前記位置変更手段は、電極と、この電極を支持する電極支持部との間に介在される電極スペーサであることを特徴とする請求項4に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項6】
前記位置変更手段は、電極と一体に設けられて、シリンダブロックにおけるシリンダ内周面の他端側に当接し、この他端側をシールする高さの異なるシールリングであることを特徴とする請求項4に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項7】
前記位置変更手段は、電極とシール治具との間に介在され、このシール治具への押圧力により伸縮量が変更されて、前記電極に対する前記シール治具の位置を変更可能とする弾性部材であることを特徴とする請求項4に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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