説明

シリンダブロック

【課題】重量の増加を抑制すると共にシリンダブロックの剛性を確保して性能及び耐久性に優れたシリンダブロックを提供する。
【解決手段】シリンダブロック本体11のシリンダボア12A、12Bに鉄系金属からなるシリンダライナ14A、14Bを鋳込むと共に、シリンダブロック本体11と一体形成されたクランクジャーナル部25〜28の軸受部に軸受面32aを有する本体部32及び補強部34が一体形成され軸受部材31A〜31Dを鋳込むと共に、軸受部材31A〜31Dの補強部34の先端に形成され係合部36をシリンダライナ14A、14Bに荷重伝達可能に係合する。クランクジャーナル部25〜28の変形が防止されてクランク軸2の支持剛性が確保されると共に、シリンダライナ14A、14Bの局部的な変形が阻止さてピストンスラップ振動の発生が抑制でき、かつエンジンフリクションが低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに関し、特にクランク軸のジャーナルを回転可能に支持するクランクジャーナル部の軸受部を補強する鉄系金属からなる軸受部材を鋳込んだシリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両用エンジンにおいては、重量軽減を図るためにアルミニウム系合金を鋳造成形したシリンダブロックが広く用いられている。このようなシリンダブロックはクランク軸のジャーナルを回転可能に支持する軸受部が形成されたクランクジャーナル部を有し、軸受部には強度向上を目的として鉄系金属からなる軸受部材が鋳込まれる。
【0003】
この軸受部材を鋳込んだシリンダブロックとして例えば特許文献1が知られている。特許文献1のシリンダブロックは、多気筒エンジン用のシリンダブロックにおいて、隣接するシリンダボア間に形成される隔壁状のクランクジャーナル部にクランク軸のジャーナルを支持する軸受部が形成される。この軸受部に鋳込まれる軸受部材に補強リブを一体に形成することによって、シリンダブロックの剛性を確保している。
【0004】
また、特許文献2には、隣接するシリンダボア間に形成されるクランク軸のジャーナルを支持するクランクジャーナル部の軸受部に鋳込まれる軸受部材となるプリフォーム材に延出部を設け、この延出部によってプリフォームを鋳込む際の位置ずれを防止している。
【0005】
【特許文献1】特開2002−115519号公報
【特許文献2】特開2004−19513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1にあっては、シリンダブロックの隣接するシリンダボア間に形成される隔壁状のクランクジャーナル部の軸受部に鋳込まれる軸受部材に補強リブを設けることから、シリンダブロックのシリンダボア間が補強される。また特許文献2においてもプリフォームに延出部を設けることからプリフォームが鋳込まれるシリンダブロックのシリンダボア間が補強される。
【0007】
一方、燃焼圧荷重によってピストンが押し下げられるとき、シリンダライナ内を往復動するピストンストローク方向に対して傾斜した回転方向の荷重がコンロッドを介してクランク軸に付与され、クランク軸のジャーナルを支持するクランクジャーナル部の軸受部にはピストンストローク方向のみならず回転方向に偏倚した方向の荷重が作用し、クランクジャーナル部の基端に応力荷重が集中して発生して該部の変形が誘発される。また、軸受部からの反力がクランク軸及びコンロッドを介してピストンをシリンダボアの側面、即ちシリンダボア内に鋳込まれたシリンダライナの内面を押圧してシリンダライナが局部的に変形することが懸念される。
【0008】
このクランクジャーナル部及びシリンダライナの局部的な変形によりシリンダライナに嵌合して往復動するピストン及びピストンリングの挙動を誘発し、ピストンスカートやピストンリングとシリンダライナとの摺接、いわゆるあたりが不均一となりピストンスラップ振動の発生要因となり、かつエンジンフリクションが増加する。このエンジンフリクションの増加に伴い、燃費の悪化や潤滑油の消費増加を招く要因となる。また、このクランク軸の支持剛性の低下及びエンジンフリクションの増加によりエンジン性能及び耐久性等が低下する要因となる。
【0009】
この対策として、シリンダブロックの肉厚を増加してシリンダブロック自体の剛性を向上させることもあるが、シリンダブロックの肉厚増加に伴って重量が増加して燃費の悪化を招くと共に、シリンダブロックを鋳造する際に鋳巣等の鋳造欠陥の発生を誘発する要因となり、シリンダブロックの品質の低下を招くことが懸念される。
【0010】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、重量の増加を抑制すると共にシリンダブロックの剛性を確保してエンジン性能の向上が得られ、かつ耐久性に優れたシリンダブロックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する請求項1のシリンダブロックの発明は、シリンダブロック本体のシリンダボアに鉄系金属からなるシリンダライナを鋳込むと共に、該シリンダブロック本体と一体形成されたクランクジャーナル部の軸受部に鉄系金属の軸受部材を鋳込んだシリンダブロックにおいて、軸受け部材は、クランクジャーナル部の軸受部を覆うと共に内周面にクランク軸のジャーナルを回転自在に支持する本体部と、該本体部に延設されて先端が上記シリンダライナに荷重伝達可能に係合する係合部が形成された補強部とが一体形成されたことを特徴とする。
【0012】
この発明によると、剛性に優れた鉄系金属からなるシリンダライナと軸受部材の補強部が荷重伝達可能に係合することから、これらが鋳込まれるシリンダ本体及びクランクジャーナル部を含むシリンダブロック全体に亘り剛性の向上が得られる。更に、クランク軸のジャーナルを支持する軸受部材の軸受面に作用した荷重が補強部を介してクランクジャーナル部の広範囲に分散伝達されると共に係合部を介してシリンダライナに荷重伝達され、シリンダライナを介してシリンダ本体の広範囲に分散伝達されてクランクジャーナル部に応力が集中することがなくなりクランクジャーナル部の局部的な変形が防止される。軸受部材からクランク軸及びコンロッドを介してピストンがシリンダライナの側面を押圧する反力は、シリンダライナを介してシリンダ本体に分散伝達すると共に、シリンダライナに係合する係合部を介して軸受部材に荷重伝達されてクランクジャーナル部に分散伝達してシリンダボア及シリンダライナに応力が集中することなくなりシリンダボア及びシリンダライナを含むシリンダ本体の局部的な変形が防止できる。
【0013】
この結果、クランクジャーナル部の変形が防止されてクランク軸の支持剛性が確保されると共に、シリンダライナの局部的な変形が阻止されてシリンダライナに嵌合して往復動するピストン及びピストンリングの挙動が抑制されてピストンスラップ振動の発生が抑制でき、かつエンジンフリクションが低減されてエンジン性能の向上が得られる。更に、重量の増加を伴うことなく耐久性の向上及び燃費の向上が得られ、シリンダブロック品質が向上する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1のシリンダブロックにおいて、上記係合部は、シリンダライナの軸方向端部に当接する平坦な当接部及び該当接部の両端からシリンダライナの外周面に沿って延在する突出部を備えてシリンダライナの端部に嵌合することを特徴とする。
【0015】
この発明によると、シリンダライナの軸方向端部に当接する平坦な当接部及び当接部の両端からシリンダライナの外周面に沿って延在する突出部を備える簡単形状で軸受部材とシリンダライナとの間の荷重伝達可能な係合部が構成できる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2のシリンダブロックにおいて、上記突出部は、クランク軸の回転中心線と直交する平面内に対向配置されたことを特徴とする。この発明によると、軸受部材とシリンダライナとの間の荷重伝達が効率的に行われる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、剛性に優れた鉄系金属からなるシリンダライナと軸受部材の補強部が荷重伝達可能に係合することから、これらが鋳込まれるシリンダ本体及びクランクジャーナル部を含むシリンダブロック全体に亘り剛性の向上が得られる。更にクランクジャーナル部の変形が防止されてクランク軸の支持剛性が確保されると共に、シリンダライナの局部的な変形が阻止されてシリンダライナに嵌合して往復動するピストン及びピストンリングの挙動が抑制されてピストンスラップ振動の発生が抑制できると共に、エンジンフリクションが低減できてエンジン性能の向上がえられると共にシリンダブロック品質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図を参照して説明する。
【0019】
(第1実施の形態)
本発明に係る第1実施の形態を、水平対向型4気筒エンジンを例に図1乃至図5を参照して説明する。
【0020】
図1は水平対向型4気筒エンジンのエンジン本体1の概要を示す全体斜視図である。エンジン本体1は、クランク軸2の回転中心軸線Lを中心として左右のバンクを形成するアルミニウム合金製のシリンダブロック10A、10Bの対向する接合面3を当接させて図示しない複数本の結合ボルトによって一体に結合される。左右の各シリンダブロック10A、10Bのトップデッキ19には図示しないシリンダヘッドが取り付けられ、更に左右のシリンダブロック10A、10Bの下部に掛け渡されて潤滑油貯留用の図示しないオイルパンが取り付けられる。
【0021】
左右のシリンダブロック10A、10Bは実質的に対称形であり、以下一方のシリンダブロック10Bについて図2乃至図5を参照して説明する。
【0022】
図2は右側のシリンダブロック10Bの斜視図、図3は図2のI−I線断面図、図4は図2のII−II線断面図、図5は図4の要部III矢視図である。
【0023】
シリンダブロック10Bは、第1シリンダボア12A及び第2シリンダボア12Bのシリンダ列部を形成する筒状のシリンダブロック本体11と、シリンダ本体11の基端側から接合面側、即ちエンジン本体1の中心側に延びて内側にクランク軸収容空間を形成するクランクケース部21とが一体に形成される。
【0024】
シリンダブロック本体11は、図3及び図4に示すように第1シリンダボア12A及び第2シリンダボア12Bに対応して耐摩耗性に優れた鉄系金属、本実施の形態では鋳鉄製で円筒状に形成された同一形状の第1シリンダライナ14A、第2シリンダライナ14Bが並列配置されて鋳込まれ、かつ基端がクランクケース部21のクランク軸収納空間内に突出する円筒状体が連結された、いわゆる断面形状がめがね状のシリンダ壁16を有している。
【0025】
クランクケース部21は、図2及び図4に示すように上側及び下側のスカート壁部22、23によって内部にクランク軸収容空間が形成され、上側スカート壁部22及び下側スカート壁部23はシリンダブロック本体11と一体に連続形成される。
【0026】
クランクケース部21の左側のシリンダブロック10Aとの合わせ面3には、クランク軸2の回転中心軸線L方向に沿って互いに離間に、かつシリンダブロック本体11に基端が連続する隔壁状の複数の第1〜第4クランクジャーナル部25〜28が上側スカート壁部22と下側スカート部23の間に掛け渡されて一体に設けられる。また、図5に示すように、これら第1クランクジャーナル部25及び第2クランクジャーナル部26が第1シリンダボア12Aの基端側に、第1シリンダボア12Aの中心からほぼ等距離隔てて対向して架設される。同様に第3クランクジャーナル27及び第4クランクジャーナル部28が第2シリンダボア12Bの基端側に、第2シリンダボア12Bの中心からほぼ等距離隔てて対向して架設される。
【0027】
第1〜第4クランクジャーナル部25〜28にクランク軸2のジャーナルを回転可能に支持する軸受部が形成され、各軸受部に対応して耐摩耗性に優れると共に剛性が確保された鉄系金属、本実施の形態では鋳鉄製の第1〜第4軸受部材31A〜31Dが鋳込まれる。
【0028】
第1〜第4軸受部材31A〜31Dは同一形状であって、各軸受部材31A〜31Dは、図2乃至図5に示しように、所定の厚さを有し、半円弧状の軸受面32aである内周面を有して軸受部を覆う本体部32と、この本体部32と同一厚さで本体部32の上部及び下部からそれぞれ上方及び下方に向かって突出すると共にボルト孔用の貫通孔33aが穿設された一対のフランジ部33を有し、本体部32の外周に基端が結合されてシリンダブロック本体11側に突出して第1〜第4クランクジャーナル部25〜28に鋳込まれる補強部34が形成される。
【0029】
補強部34は本体部32より小さな厚さを有し、シリンダブロック本体11側に突出する板状であって先端35に係合部36が形成される。係合部36は平坦な当接部36a及び当接部36aの両端においてクランク軸2の回転中心軸線Lの延在方向と直交する平面内で対向配置されて上端及び下端からそれぞれ突出する一対の延在部36bが形成される。
【0030】
第1クランクジャーナル部25及び第2クランクジャーナル部26に鋳込まれる第1軸受部材31A及び第2軸受部32Bの各補強部34の先端35に形成された係合部36の当接部36aが第1シリンダライナ14Aの軸方向端部である基端15aに当接すると共に各延在部36bが第1シリンダライナ14Aの外周面15bの上部範囲及び下部範囲の両側に沿って延在する。換言すると、第1軸受部材31A及び第2軸受部材31Bの各補強部34の先端35に形成された係合部36の当接部36aに第1シリンダライナ14Aの基端15aが当接すると共に対応する延在部36b間に外周面15bが上部範囲及び下部範囲が延在部36b間に荷重伝達可能に嵌合する。
【0031】
同様に、第3クランクジャーナル部27及び第4クランクジャーナル部28に鋳込まれる第3軸受部材31C及び第4軸受部31Dの各補強部34の先端35に形成される係合部36の当接部36aが第2シリンダライナ14Bの基端15aに当接すると共に各延在部36bが第2シリンダライナ14Bの外周面15bの上部範囲及び下部範囲の両側に沿って延在する。換言すると、第3軸受部材31C及び第4軸受部材31Dの各補強部34の先端35に形成された係合部36の当接部36aに第2シリンダライナ14Bの基端15aが当接すると共に対応する延在部36b間に外周面15bの上部範囲及び下部範囲が延在部36b間に荷重伝達可能に嵌合する。
【0032】
このように構成されたシリンダブロック10は、クランク軸2を回転自在に支持する第1、第2クランクジャーナル部25、26に鋳込まれる鋳鉄製の第1、第2軸受部材31A、31Bが第1シリンダライナ14Aの基端15aまで延在しかつ荷重伝達可能に係合して第1、第2クランクジャーナル部25、26からシリンダブロック本体11に亘る広範囲で剛性が確保される。また、互いに嵌合する第1シリンダライナ14Aの基端15aと第1軸受部材31Aの係合部36を介して第1シリンダライナ14Aと第1軸受部材31Aとが荷重伝達可能に結合される。同様に第1シリンダライナ14Aの基端15aと第2軸受部材31Bの係合部36を介して第1シリンダライナ14Aと第2軸受部材31Bとが荷重伝達可能に係合される。
【0033】
第3、第4クランクジャーナル部27、28の軸受部に鋳込まれる鋳鉄製の第3、第4軸受部材31C、31Dが第2シリンダライナ14Bの基端15aまで延在しかつ係合して第3、第4クランクジャーナル部27、28からシリンダブロック本体11に亘る広範囲で剛性が確保される。また、互いに嵌合する第2シリンダライナ14Bの基端15と第3軸受部材31Cの係合部36を介して第2シリンダライナ14Bと第3軸受部材31Cとが荷重伝達可能に係合される。同様に第2シリンダライナ14Bの基端15と第4軸受部材31Dの係合部36を介して第2シリンダライナ14Bと第4軸受部材31Dとが荷重伝達可能に係合される。
【0034】
このように構成された左右のシリンダブロック10A及び10Bを備えたエンジン1によると、例えばエンジン1の運転に伴う燃焼荷重によってシリンダライナ14A,14B内をピストンが押し下げられるとき、コンロッドを介してピストンストローク方向及びストローク方向に対して傾斜した回転方向に対して回転方向の荷重等がクランク軸2に付与され、クランク軸2のジャーナルを支持する第1〜第4軸受部材31A〜31Dの各軸受面32aに作用した荷重が各軸受部材31A〜31Dに延設された補強部34を介して第1〜第4クランクジャーナル部25〜28の広範囲に分散伝達される。更に第1軸受部材31A及び第2軸受部材31Bに作用した荷重がクランク軸2の回転中心軸線Lの延在方向と直交する平面内で対向配置された延在部36bが形成される各係合部36を介して第1シリンダライナ14Aの基端15に効率的に荷重伝達され、かつ同様に第3軸受部材31C及び第4軸受部材31Dに作用した荷重が各係合部36を介して第2シリンダライナ14Bの基端15に効率的に荷重伝達されてこれら第1シリンダライナ14A及び第2シリンダライナ14Bを介してシリンダ本体11の広範囲に分散伝達されて各クランクジャーナル部25〜28に応力が集中することなく各クランクジャーナル部25〜28の局部的な変形が防止される。
【0035】
一方、第1軸受部材31A及び第2軸受部材31Bからクランク軸2及びコンロッドを介してピストンが第1シリンダライナ14Aの側面を押圧する反力は、第1シリンダライナ14Aを介してシリンダ本体11に分散伝達すると共に、第1シリンダライナ14Aの基端15に係合する各係合部36を介して第1軸受部材31A及び第2軸受部材31Bに荷重伝達されて第1クランクジャーナル部25及び第2クランクジャーナル部26に分散伝達してクランクケース部21の広範囲に伝達され、第1シリンダボア12A及び第1シリンダライナ14Aに応力集中することなく第1シリンダボア12A及び第1シリンダライナ14Aを含むシリンダ本体11の局部的な変形が防止できる。
【0036】
第3軸受部材31C及び第4軸受部材31Dからクランク軸2及びコンロッドを介してピストンが第2シリンダライナ14Bの側面を押圧する反力は、第2シリンダライナ14Bを介してシリンダ本体11に分散伝達すると共に、第2シリンダライナ14Bの基端15に係合する第3軸受部材31C及び第4軸受部材31Dを介して第3クランクジャーナル部27及び第4クランクジャーナル部28に分散伝達してクランクケース部21の広範囲に伝達され、第2シリンダボア12B及び第2シリンダライナ14Bに応力集中することなく第2シリンダボア12B及び第2シリンダライナ14Bを含むシリンダ本体11の局部的な変形が防止できる。
【0037】
この結果、第1〜第5クランクジャーナル部25〜28に応力が集中することが抑制されてクランクジャーナル部25〜28の変形が防止され、クランク軸の支持剛性が確保されると共に、第1及び第2シリンダライナ14A、14Bへの応力集中が防止されて該部の局部的な変形が阻止されて第1及び第2シリンダライナ14A、14Bに嵌合して往復動するピストン及びピストンリングの挙動が抑制され、ピストンスカートやピストンリングと第1及び第2シリンダライナ14A、14Bとの摺接、いわゆるあたりが均一となりピストンスラップ振動の発生が抑制でき、かつエンジンフリクションが低減できる。このエンジンフリクションの低減に伴い、燃費の向上及び潤滑油の消費低減が得られる。また、このクランク軸の支持剛性の確保及びエンジンフリクションの低下によりエンジン性能及び耐久性等の向上が期待できる。
【0038】
更に、左右のシリンダブロック10A、10Bの剛性向上に伴いシリンダブロック10A、10Bの肉厚を削減することが可能になり、重量の低減による燃費の向上と共に、シリンダブロック10A、10Bを鋳造する際に鋳巣等の鋳造欠陥の発生要因が少なくなり、シリンダブロック10A、10Bの品質が向上する。
【0039】
(第2実施の形態)
本発明に係る第2実施の形態を、直列型多気筒型エンジンを例に図6及び図7を参照して説明する。
【0040】
図6は直列型多気筒型エンジンのシリンダブロックの要部断面図、図7は図6の要部IV矢視図である。
【0041】
シリンダブロック50はアルミニウム合金製であって、第3シリンダボア52A及び第4シリンダボア52Bのシリンダ列部を形成する筒状のシリンダブロック本体51と、クランク軸収容空間を形成するクランクケース部61とが一体に形成される。シリンダブロック50のトップデッキ59側に図示しないシリンダヘッドが取り付けられ、下部にクランク室の下部を形成するロアケース及びオイルパンが取り付けられる。
【0042】
シリンダブロック本体51は、第3及び第4シリンダボア52A、52Bに対応して鉄系金属、例えば鋳鉄製の第3、第4シリンダライナ54A、54Bが並列配置されて鋳込まれ、かつ基端がクランクケース部61のクランク軸収納空間内に突出する円筒状体が連結されたシリンダ壁56を有している。
【0043】
クランクケース部61は、対向するスカート壁部62、63によって内部にクランク軸収容空間が形成され、スカート壁部62及び63はシリンダブロック本体51と一体に連続形成される。
【0044】
クランクケース部61にクランク軸の回転中心軸線方向に沿って互いに離間に、かつシリンダブロック本体51に基端が連続する隔壁状の複数のクランクジャーナル部65〜68がスカート壁部62と63の間に掛け渡されて一体に設けられる。
【0045】
各クランクジャーナル部65〜68に図示しないロアケースに形成されたクランクジャーナル部に形成された軸受部と共にクランク軸のジャーナルを回転可能に挟持して支持する軸受部が形成される。クランクジャーナル部65、66が第3シリンダボア52Aの基端側に対向して架設され、クランクジャーナル部67、68が第2シリンダボア62の基端側に対向して架設される。
【0046】
各クランクジャーナル部65〜68の各軸受部に対応して耐摩耗性に優れると共に剛性が確保された鉄系金属、本実施の形態では鋳鉄製の軸受部材71A〜71Dが鋳込まれる。各軸受部材71A〜71Dは同一形状であって、各軸受部材71A〜71Dは、半円弧状の軸受面72aを有する本体部72及び補強部74が形成される。
【0047】
補強部74はシリンダブロック本体51側に突出する板状であって先端75に係合部76が形成される。係合部76は平坦な当接部76a及び当接部76aの両端からそれぞれ突出する一対の延在部76bが形成される。
【0048】
クランクジャーナル部65、66に鋳込まれる軸受部材71A及び71Bの各補強部74の先端に形成された係合部76の当接部76aが第3シリンダライナ54Aの基端に当接すると共に各延在部76bが第3シリンダライナ54Aの外周面の両側に沿って延在し、軸受部材71A、71Bの各補強部74に形成された係合部76が第3シリンダライナ54Aと荷重伝達可能に係合する。
【0049】
同様に、クランクジャーナル部67、68に鋳込まれる軸受部材71C及び71Dの各補強部74の先端に形成された係合部76の当接部76aが第2シリンダライナ54Bの基端に当接すると共に各延在部76bが第4シリンダライナ54Bの基端側外周面の両側に沿って延在し、軸受部材71C、71Dの各補強部74の係合部76が第4シリンダライナ71Bと荷重伝達可能に係合する。
【0050】
このように構成されたシリンダブロック50は、クランク軸を回転自在に支持するクランクジャーナル部65、66にそれぞれ鋳込まれる鋳鉄製の部材71A、71Bに形成された補強部77が第3シリンダライナ54Aの基端まで延在して係合してクランクジャーナル部65、66からシリンダブロック本体51に亘る広範囲で剛性が確保される。また、互いに嵌合する第3シリンダライナ54Aの基端と軸受部材71A、71Bが係合部76を介して荷重伝達可能に係合される。
【0051】
同様に、クランクジャーナル部67、68にそれぞれ鋳込まれる鋳鉄製の部材71C、71Dに形成された補強部77が第4シリンダライナ54Bの基端まで延在して係合してクランクジャーナル部67、68からシリンダブロック本体51に亘る広範囲で剛性が確保され、かつ第4シリンダライナ54Bの基端と軸受部材71C、71Dが係合部76を介して荷重伝達可能に係合する。
【0052】
このように構成さされたシリンダブロック50を備えるエンジンは、運転に伴う燃焼荷重によってシリンダライナ54A、54B内をピストンが押し下げられるとき、コンロッドを介してピストンストローク方向及びストローク方向に対して傾斜した回転方向に対して回転方向の荷重等がクランク軸に付与され、クランク軸のジャーナルを支持する軸受部材71A〜71Dの作用した荷重が各軸受部材71A〜71Dに延設された補強部74を介して各クランクジャーナル部65〜68の広範囲に分散伝達される。更に軸受部材71A及び71Bに作用した荷重が各係合部76を介して第3シリンダライナ54Aの基端に荷重伝達され、かつ軸受部材71C及び71Dに作用した荷重が各係合部76を介して第4シリンダライナ54Bの基端15に荷重伝達され、これら第3シリンダライナ54A及び第4シリンダライナ54Bを介してシリンダ本体51の広範囲に分散伝達されて各クランクジャーナル部65〜68に局部的な変形が防止される。
【0053】
一方、軸受部材71A及び71Bからクランク軸及びコンロッドを介してピストンが第3シリンダライナ74Aの側面を押圧する反力は、第3シリンダライナ54Aを介してシリンダ本体11に分散伝達すると共に、第3シリンダライナ54Aの基端55に係合する各係合部76を介して軸受部材71A及び71Bを介してクランクジャーナル部65、66に分散伝達してクランクケース部61の広範囲に伝達され、第3シリンダボア52A及び第3シリンダライナ54Aを含むシリンダ本体51の局部的な変形が防止できる。軸受部材71C及び71Dからクランク軸及びコンロッドを介してピストンが第4シリンダライナ54Bの側面を押圧する反力は、第4シリンダライナ54Bを介してシリンダ本体51に分散伝達すると共に、第4シリンダライナ54Bの基端55に係合する軸受部材71C及び軸受部材71Dを介してクランクジャーナル部67及び68に分散伝達してクランクケース部61の広範囲に伝達され、第4シリンダボア52B及び第2シリンダライナ74Bを含むシリンダ本体11の局部的な変形が防止できる。
【0054】
この結果、各クランクジャーナル部65〜68に応力が集中することが抑制されてクランクジャーナル部65〜68の変形が防止され、クランク軸の支持剛性が確保されると共に、第1及び第2シリンダライナ54A、54Bへの応力集中が防止されて該部の局部的な変形が阻止されて第3及び第4シリンダライナ54A、54Bに嵌合して往復動するピストン及びピストンリングの挙動が抑制される。このピストン及びピストンリングの挙動抑制に伴って、ピストンスカートやピストンリングと第1及び第2シリンダライナ54A、54Bとの摺接、いわゆるあたりが均一となりピストンスラップ振動の発生が抑制でき、かつエンジンフリクションが低減できる。このエンジンフリクションの低減に伴い、燃費の向上及びや潤滑油の消費低減が得られる。また、このクランク軸の支持剛性の確保及びエンジンフリクションの低下によりエンジン性能及び耐久性等の向上が期待できる。
【0055】
更に、シリンダブロック50の剛性向上に伴いシリンダブロック50の肉厚を削減することが可能になり、重量の低減による燃費の向上と共に、シリンダブロック50を鋳造する際に鋳巣等の鋳造欠陥の発生要因が少なくなりシリンダブロック50の品質が向上する。
【0056】
なお、本発明は上記第1実施の形態及び第2実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば上記第1実施に形態では水平対向型4気筒エンジンを例に、第2実施の形態では直列型多気筒型エンジンを例に説明したが、水平対向型4気筒エンジン及び直列型多気筒型エンジンに限定されることなく他のエンジンに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る第1実施の形態に係る水平対向型4気筒エンジンのエンジン本体の概要を示す全体斜視図である。
【図2】シリンダブロックの斜視図である。
【図3】図2のI−I線断面図である。
【図4】図2のII−II線断面図である。
【図5】図4の要部III矢視図である。
【図6】本発明に係る第2実施の形態に係る直列型多気筒型エンジンのシリンダブロックの概要を示す断面図である。
【図7】図6の要部IV矢視図である。
【符号の説明】
【0058】
1 水平対向型4気筒エンジンのエンジン本体
2 クランク軸
10A、10B シリンダブロック
11 シリンダブロック本体
12A 第1シリンダボア
12B 第2シリンダボア
14A 第1シリンダライナ
14B 第2シリンダライナ
15a 基端(軸方向端部)
15b 基端側外周面
16 シリンダ壁
21 クランクケース部
25〜28 第1〜第5クランクジャーナル部
31A〜31D 第1〜第4軸受部材
32 本体部
32a 軸受面
34 補強部
35 先端
36 係合部
36a 当接部
36b 延在部
50 シリンダブロック
51 シリンダブロック本体
52A 第3シリンダボア
52B 第4シリンダボア
54A 第3シリンダライナ
54B 第4シリンダライナ
61 クランクケース部
64〜67 クランクジャーナル部
71A〜71E 軸受部材
72 本体部
72a 軸受面
74 補強部
76 係合部
76a 当接部
76b 延在部
L クランク軸の回転中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロック本体のシリンダボアに鉄系金属からなるシリンダライナを鋳込むと共に、該シリンダブロック本体と一体形成されたクランクジャーナル部の軸受部に鉄系金属の軸受部材を鋳込んだシリンダブロックにおいて、
軸受け部材は、
クランクジャーナル部の軸受部を覆うと共に内周面にクランク軸のジャーナルを回転自在に支持する本体部と、
該本体部に延設されて先端が上記シリンダライナに荷重伝達可能に係合する係合部が形成された補強部とが一体形成されたことを特徴とするシリンダブロック。
【請求項2】
上記係合部は、シリンダライナの軸方向端部に当接する平坦な当接部及び該当接部の両端からシリンダライナの外周面に沿って延在する突出部を備えてシリンダライナの端部に嵌合することを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロック。
【請求項3】
上記突出部は、クランク軸の回転中心線と直交する平面内に対向配置されたことを特徴とする請求項2に記載のシリンダブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−121581(P2010−121581A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297765(P2008−297765)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】