シリンダヘッドカバー
【課題】合成樹脂製のシリンダヘッドカバーの外殻部を成形するに際し、樹脂圧による変形がバルブケースの一部に生じた場合であっても、バルブケースの収容部にOCVのバルブ本体を挿入することが容易なシリンダヘッドカバーを提供する。
【解決手段】外殻部2に埋設されるバルブケースにおいて、その端部に変形吸収部としての環状溝13を形成した。前記環状溝13の外側の第1環状突部が変形許容部を構成している。このため、第1環状突部が変形しても、内側の第2環状突部の変形が防止されるので、バルブケースに対するOCVのバルブ本体の挿入を常に容易に行うことができる。
【解決手段】外殻部2に埋設されるバルブケースにおいて、その端部に変形吸収部としての環状溝13を形成した。前記環状溝13の外側の第1環状突部が変形許容部を構成している。このため、第1環状突部が変形しても、内側の第2環状突部の変形が防止されるので、バルブケースに対するOCVのバルブ本体の挿入を常に容易に行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダヘッドに装着される合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに係り、特には、オイルコントロールバルブが装着されるバルブケースを埋設したシリンダヘッドカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンのシリンダヘッドの上に装着されるシリンダヘッドカバーは、合成樹脂で形成されることにより、軽量化されている。そして、オイルコントロールバルブ(以下「OCV」と称する)を装着するためのバルブケースを埋設して、バルブケースを一体化したシリンダヘッドカバーが提案されている。
【0003】
特許文献1のシリンダヘッドカバーでは、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーの外殻部に、金属製のバルブケースが一体化されている。そして、バルブケースの一端の開口部からバルブケース内にOCVのバルブ本体が挿入組み付けされている。外殻部にはバルブケースの開口部の端面側に突出する環状の突出部が設けられて、突出部とバルブ本体との間にシールリングが設けられている。このような構造により、外殻部とバルブケースとの境界部から外部へオイル漏れが生じることを防止することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−222015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシリンダヘッドカバーは、図10に示すように、シリンダヘッドカバー1の一部を形成する外殻部2にバルブケース3が埋設されて、そのバルブケース3にOCV4が装着された構造をしている。そして、図11に示すように、金属製のバルブケース3は、OCV4のバルブ本体4aが挿入される円形孔6aを有する円筒状の収容部6と、油路7が形成された油路形成部5とを備えている。このバルブケース3は、合成樹脂製のシリンダヘッドカバー1の成形時に、外殻部2と共に一体化されている。この成形において、バルブケース3は、高圧の射出圧を受けたり、固化時の樹脂の収縮圧力を受けたりする。このため、円形孔6aはわずかではあっても変形する。
【0006】
一方、図12に示すように、重量軽減のために、油路形成部5を金属材料で形成しない構造のシリンダヘッドカバーが提案されている。前記外殻部2は、二ヶ所の油路7を有する油路形成部2aを備えている。このため、成形型において、油路形成部2aを成形するためのキャビティを流れる樹脂の射出圧が、バルブケース10に対して作用しやすくなっている。そして、バルブケース10の内面11は、許容される寸法公差から外れるほどに変形する場合がある。従って、このような場合は、バルブケース10に対するOCV4のバルブ本体4aの挿入が困難となる。
【0007】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、バルブケースにOCVのバルブ本体を挿入することが容易なシリンダヘッドカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために請求項1に記載のシリンダヘッドカバーの発明は、バルブケースが埋設された合成樹脂製の外殻部を備えたシリンダヘッドカバーにおいて、前記バルブケースの端部には、成形時の樹脂圧を受けて変形することを許容する変形許容部を備えると共に、その変形が前記バルブケースの内面に及ぶことを阻止するために、変形吸収部を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
上記構成によれば、変形許容部においてバブルケースの端部を変形させると共に、その変形を変形吸収部で吸収して、変形がバルブケースの内面に伝達しないようにした。このため、バルブケースに対して高圧の樹脂圧が作用しても、バルブケースへのOCVのバルブ本体の挿入が困難とならないように、バルブケース内面の変形を防止することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシリンダヘッドカバーにおいて、前記変形吸収部が、前記バルブケースの端面に開口する溝であることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のシリンダヘッドカバーにおいて、前記溝は、環状であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載のシリンダヘッドカバーにおいて、前記溝は、油路側に位置し、半円弧状であることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載のシリンダヘッドカバーにおいて、前記バルブケースの端部は、前記合成樹脂により被覆されると共に、前記溝内にその合成樹脂が浸入しないように、前記溝内には、熱硬化性エラストマーが充填されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バルブケースの端部には、変形許容部と変形吸収部とを備えるようにした。このため、バルブケースをインサートしてシリンダヘッドカバーを成形する際、バルブケースの内面に許容範囲を超えた変形が生じることを抑制することができる。従って、バルブケースへのOCVの挿入を容易に行うことが可能なシリンダヘッドカバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態のバルブケースにOCVが装着された状態を示す断面図。
【図2】バルブケースが埋設された外殻部を示す断面図。
【図3】図2におけるA部拡大図。
【図4】図2におけるB矢視の側面図。
【図5】図2におけるC−C矢視断面図。
【図6】第1実施形態における作用を示す断面図。
【図7】第2実施形態のバルブケースを示す一部断面の側面図。
【図8】第3実施形態のバルブケースの端部を示す側面図。
【図9】第4実施形態のバルブケースを示す断面図。
【図10】従来技術におけるOCVが装着された外殻部を示す断面図。
【図11】従来技術における外殻部を示す断面図。
【図12】従来技術における外殻部の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図6を用いて説明する。なお、従来技術と同一の構成については、その説明において用いた同一の符号を用いるものとする。
【0015】
図1に示すように、合成樹脂製のシリンダヘッドカバー1の外殻部2には、金属製のバルブケース10が埋設されている。そのバルブケース10内には、OCV4(オイルコントロールバルブ)が装着されている。そして、OCV4のバルブ本体4aにおける二ヶ所の環状の油溝4bと、外殻部2の油路形成部2aにおける二ヶ所の油路7とが、バルブケース10の油孔10bを介して連通している。また、オーリング4cによりオイルが外殻部2外へ漏洩することが防止されている。
【0016】
図2に示すように、バルブケース10は、全体が略円筒状に形成されているが、境界Kを境にして、その左右の形状が異なっている。即ち、境界Kの右方の油路形成部2aに埋設される部分は、二ヶ所に油孔10bが形成されて逆U字状断面の油孔形成部10d(図5に示す)となっている。また、境界Kの左方の端部10a側の部分は、円筒状となって、外殻部2の突出部2bに埋設されている。そして、バルブケース10は、図2における右方の端部10cを側殻部2dの内側に露出するだけで、内面11を除くその他の部分が外殻部2に覆われている。バルブケース10の端部10aは、突出部2bにおける被覆部2cにより被覆されている。
【0017】
なお、図5に示すように、油孔形成部10dを逆U字状断面に形成したので、断面円形の場合と異なり、バルブケース10の姿勢を確認することが容易となる。このため、バルブケース10を図示しない成形型にインサートする際、油孔10bの軸方向がずれないようにセットすることができる。また、図示しないセットピンを逆U字状の底面部に当てる等して、バルブケース10を所定の姿勢に保持することもできる。
【0018】
図3及び図4に示すように、バルブケース10の端部10aには、変形吸収部としての環状溝13が形成されている。環状溝13の外側の第1環状突部12aは、樹脂圧を受けて変形し、その変形により応力を緩和する変形許容部を構成している。そして、本実施形態の環状溝13は、熱硬化性エラストマーであるウレタン樹脂製の環状充填材14により充填されている。前記環状充填材14は、外殻部2を形成する合成樹脂の熱により溶融することがない。このため、環状充填材14により、合成樹脂の環状溝13内への浸入を防止することができる。
【0019】
なお、本実施形態では、液状のウレタン樹脂を環状溝13内へ注入して硬化させたものであるが、予め環状に形成したものを環状溝13内へ挿入するようにしてもよい。
このような構成のバルブケース10は、シリンダヘッドカバー1を成形するための図示しない成形型にインサートされる際、内面11において支持ピンにより支持される。支持ピンと内面11との嵌め合いは、挿入容易性のために、緩いものとなっている。従って、樹脂圧を受けたバルブケース10には、嵌め合いの公差分、例えば100〜40μm程度の内径の収縮が起きる余地がある。
【0020】
また、油路形成部2aは他部と比較して肉厚であるため、油路形成部2aにおける成形時の合成樹脂は、その流速及び樹脂圧を減じることなく、従って、殆ど抵抗なしに流動することができる。このため、バルブケース10の油路形成部2a側には、高圧の樹脂圧が作用する。従って、逆U字状断面の油孔形成部10dでは、樹脂圧の影響を受け難いものの、円筒状のバルブケース10の端部10a近傍は、油路形成部2aの樹脂圧により、内面11の変形が起き易い。
【0021】
ところが、図6に示すように、本実施形態のバルブケース10においては、樹脂圧を受けた第1環状突部12aのみが、環状充填材14を圧縮しながら内側に向かって変形するに止まる。即ち、第1環状突部12aの変形側に環状溝13があるため、第1環状突部12aは変形しやすい。また、その変形により応力が緩和されると共に、その変形の伝達は環状溝13で遮断される。このため、第2環状突部12bは変形することがない。
【0022】
また、本実施形態では、環状溝13内に環状充填材14が充填されているが、前記環状充填材14は、その材質がエラストマーであるため変形しやすく、第1環状突部12aの変形を妨げることがない。また、環状充填材14自体が容易に変形して応力を分散するので、第2環状突部12bへの変形の伝達を防止することができる。
【0023】
従って、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、バルブケース10の端部10aにおいて、変形吸収部としての環状溝13を形成して、その環状溝13の外側の第1環状突部12aを変形許容部とした。このため、バルブケース10をインサートしたシリンダヘッドカバー1の成形において、環状溝13の存在により、第1環状突部12aのみが樹脂圧を受けて変形する。また、その変形を生じた応力は、環状溝13により遮断される。このため、第2環状突部12bは殆ど変形しないので、内面11の内径の寸法公差を維持することができる。従って、バルブケース10に対するOCV4のバルブ本体4aの挿入が容易なシリンダヘッドカバー1を提供することができる。
【0024】
(2)上記実施形態では、バルブケース10の端部10aの環状溝13を、熱硬化性エラストマーの環状充填材14で充填した。このため、シリンダヘッドカバー1を形成する合成樹脂の環状溝13内への浸入を防止することができる。また、環状充填材14自体の変形により、応力を分散することができる。従って、環状溝13の変形吸収部としての機能を維持することができる。
【0025】
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を、第1実施形態と異なる部分を中心に図7を用いて説明する。
【0026】
本実施形態のバルブケース10では、端部10aにおいて、半円弧状の変形吸収部としての環状溝16が形成されている。前記環状溝16の外側が変形許容部としての第1環状突部12aとなっている。また、環状溝16の内側は、第1環状突部12aの変形が及ばない第2環状突部12bとなっている。
【0027】
バルブケース10の油路形成部2a側には、他の部分と同様に高圧の樹脂圧が作用するが、この樹脂圧のみならず、肉厚の油路形成部2aの冷却時における収縮により、樹脂をバルブケース10の表面から離反させる方向の力が生じることがある。即ち、バルブケース10の端部10aでは、油路形成部2a側の部分の方が変形しやすくなっている。ところが、バルブケース10の油路形成部2a側には環状溝16を設けたので、比較的高圧の樹脂圧が作用したり、前記離反方向の力が生じたりしても、第2環状突部12bの変形を防止することができる。また、円形の環状溝13を形成する場合と異なり、環状溝16は円弧状であるため、加工時間の削減と共に、環状溝16に充填されるウレタン樹脂の量を少なくすることができる。
【0028】
そして、この第2実施形態においては、第1の実施形態における効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(3)上記実施形態では、端部10aに半円弧状の環状溝16を形成して、その外側を第1環状突部12aとすると共に、その内側を第2環状突部12bとした。このため、高圧の樹脂圧を受ける側の第2環状突部12bの変形を防止することができる。また、環状溝16の加工時間の削減と共に、環状溝16に充填されるウレタン樹脂の量を少なくすることができる。
【0029】
(第3の実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態を、第1、2実施形態と異なる部分を中心に図8を用いて説明する。
【0030】
本実施形態においては、第1環状突部12aが、ウレタン樹脂製の断面略C字状の環状体20により被覆されている。そして、環状体20の一部は、環状溝13に嵌入している。本実施形態では、環状体20の先端が溝底部13aに達していない。従って、環状溝13の溝底部13aに空間が形成されるため、環状体20の変形が許容される。このため、このような形態であっても、合成樹脂の環状溝13内への浸入を防ぐことができる。なお、環状溝13の全体が環状体20により充填されるようにしてもよい。
【0031】
また、突出部2bの被覆部2cは、環状体20を介して第1環状突部12aを被覆している。従って、バルブケース10の端部10aと被覆部2cとの間から外部へオイルが漏れることを防止するため、環状体20をシール材として機能させることができる。
【0032】
そして、この第3実施形態においては、第1、2の実施形態における効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(4)上記実施形態では、第1環状突部12aを、ウレタン樹脂製の断面略C字状の環状体20で被覆するようにした。この場合、環状体20の一部は環状溝13内に嵌入している。このため、合成樹脂の環状溝13内への浸入を防ぐことができると共に、環状体20を、バルブケース10の端部10aと被覆部2cとの間からのオイル漏れを防止するためのシール材として機能させることができる。
【0033】
(第4の実施形態)
次に、本発明を具体化した第4実施形態を、第1〜3実施形態と異なる部分を中心に図9を用いて説明する。
【0034】
本実施形態のバルブケース10においては、OCV4が挿入される側の端部10a及び端部10aとは反対側の端部10cのそれぞれが、合成樹脂に被覆されずに露出している。そして、それぞれの端部10a、10cに環状溝13が形成されている。これらの環状溝13には、熱硬化性エラストマーが充填されていない。従って、両端部10a、10c近傍に対して樹脂圧が作用しても、第2環状突部12bが変形することはない。このため、バルブケース10よりも長いバルブ本体4aが挿入される場合であっても、バルブ本体4aの先端は端部10cの内面11をスムーズに通過できる。従って、挿入を容易に行うことができる。
【0035】
そして、この第4実施形態においては、第1〜3の実施形態における効果に替えて、以下の効果を得ることができる。
(5)上記実施形態では、バルブケース10の両端部10a、10cのそれぞれを露出させると共に、両端部10a、10cのそれぞれに環状溝13を形成した。このため、両端部10a、10cの第2環状突部12bの変形を防止することができる。従って、バルブケース10よりも長いバルブ本体4aが挿入される場合であっても、バルブ本体4aの挿入を容易に行うことができる。
【0036】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 環状充填材14又は環状体20をウレタン樹脂で形成したが、シリコーン樹脂又はフッ素樹脂等の熱硬化性エラストマーで形成すること。
・ 上記第3実施形態では、環状体20を断面略C字状としたが、断面略L字状又は断面略T字状とし、その一部を環状溝13に嵌入させること。
【0037】
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について、それらの効果と共に以下に記載する。
(イ)前記変形吸収部が、前記バルブケースの端部において、前記樹脂圧が他の部分に比較して高圧で作用する位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダヘッドカバー。このように構成した場合、変形吸収部を形成するための加工時間を削減することができる。
(ロ)前記環状溝は、液状で注入されて硬化した熱硬化性エラストマーにより充填されていることを特徴とする請求項3に記載のシリンダヘッドカバー。このように構成した場合、熱硬化性エラストマーによる環状溝の充填を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
1…シリンダヘッドカバー、2…外殻部、7…油路、10…バルブケース、10a,10c…端部、11…内面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダヘッドに装着される合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに係り、特には、オイルコントロールバルブが装着されるバルブケースを埋設したシリンダヘッドカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンのシリンダヘッドの上に装着されるシリンダヘッドカバーは、合成樹脂で形成されることにより、軽量化されている。そして、オイルコントロールバルブ(以下「OCV」と称する)を装着するためのバルブケースを埋設して、バルブケースを一体化したシリンダヘッドカバーが提案されている。
【0003】
特許文献1のシリンダヘッドカバーでは、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーの外殻部に、金属製のバルブケースが一体化されている。そして、バルブケースの一端の開口部からバルブケース内にOCVのバルブ本体が挿入組み付けされている。外殻部にはバルブケースの開口部の端面側に突出する環状の突出部が設けられて、突出部とバルブ本体との間にシールリングが設けられている。このような構造により、外殻部とバルブケースとの境界部から外部へオイル漏れが生じることを防止することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−222015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシリンダヘッドカバーは、図10に示すように、シリンダヘッドカバー1の一部を形成する外殻部2にバルブケース3が埋設されて、そのバルブケース3にOCV4が装着された構造をしている。そして、図11に示すように、金属製のバルブケース3は、OCV4のバルブ本体4aが挿入される円形孔6aを有する円筒状の収容部6と、油路7が形成された油路形成部5とを備えている。このバルブケース3は、合成樹脂製のシリンダヘッドカバー1の成形時に、外殻部2と共に一体化されている。この成形において、バルブケース3は、高圧の射出圧を受けたり、固化時の樹脂の収縮圧力を受けたりする。このため、円形孔6aはわずかではあっても変形する。
【0006】
一方、図12に示すように、重量軽減のために、油路形成部5を金属材料で形成しない構造のシリンダヘッドカバーが提案されている。前記外殻部2は、二ヶ所の油路7を有する油路形成部2aを備えている。このため、成形型において、油路形成部2aを成形するためのキャビティを流れる樹脂の射出圧が、バルブケース10に対して作用しやすくなっている。そして、バルブケース10の内面11は、許容される寸法公差から外れるほどに変形する場合がある。従って、このような場合は、バルブケース10に対するOCV4のバルブ本体4aの挿入が困難となる。
【0007】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、バルブケースにOCVのバルブ本体を挿入することが容易なシリンダヘッドカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために請求項1に記載のシリンダヘッドカバーの発明は、バルブケースが埋設された合成樹脂製の外殻部を備えたシリンダヘッドカバーにおいて、前記バルブケースの端部には、成形時の樹脂圧を受けて変形することを許容する変形許容部を備えると共に、その変形が前記バルブケースの内面に及ぶことを阻止するために、変形吸収部を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
上記構成によれば、変形許容部においてバブルケースの端部を変形させると共に、その変形を変形吸収部で吸収して、変形がバルブケースの内面に伝達しないようにした。このため、バルブケースに対して高圧の樹脂圧が作用しても、バルブケースへのOCVのバルブ本体の挿入が困難とならないように、バルブケース内面の変形を防止することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシリンダヘッドカバーにおいて、前記変形吸収部が、前記バルブケースの端面に開口する溝であることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のシリンダヘッドカバーにおいて、前記溝は、環状であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載のシリンダヘッドカバーにおいて、前記溝は、油路側に位置し、半円弧状であることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載のシリンダヘッドカバーにおいて、前記バルブケースの端部は、前記合成樹脂により被覆されると共に、前記溝内にその合成樹脂が浸入しないように、前記溝内には、熱硬化性エラストマーが充填されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バルブケースの端部には、変形許容部と変形吸収部とを備えるようにした。このため、バルブケースをインサートしてシリンダヘッドカバーを成形する際、バルブケースの内面に許容範囲を超えた変形が生じることを抑制することができる。従って、バルブケースへのOCVの挿入を容易に行うことが可能なシリンダヘッドカバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態のバルブケースにOCVが装着された状態を示す断面図。
【図2】バルブケースが埋設された外殻部を示す断面図。
【図3】図2におけるA部拡大図。
【図4】図2におけるB矢視の側面図。
【図5】図2におけるC−C矢視断面図。
【図6】第1実施形態における作用を示す断面図。
【図7】第2実施形態のバルブケースを示す一部断面の側面図。
【図8】第3実施形態のバルブケースの端部を示す側面図。
【図9】第4実施形態のバルブケースを示す断面図。
【図10】従来技術におけるOCVが装着された外殻部を示す断面図。
【図11】従来技術における外殻部を示す断面図。
【図12】従来技術における外殻部の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図6を用いて説明する。なお、従来技術と同一の構成については、その説明において用いた同一の符号を用いるものとする。
【0015】
図1に示すように、合成樹脂製のシリンダヘッドカバー1の外殻部2には、金属製のバルブケース10が埋設されている。そのバルブケース10内には、OCV4(オイルコントロールバルブ)が装着されている。そして、OCV4のバルブ本体4aにおける二ヶ所の環状の油溝4bと、外殻部2の油路形成部2aにおける二ヶ所の油路7とが、バルブケース10の油孔10bを介して連通している。また、オーリング4cによりオイルが外殻部2外へ漏洩することが防止されている。
【0016】
図2に示すように、バルブケース10は、全体が略円筒状に形成されているが、境界Kを境にして、その左右の形状が異なっている。即ち、境界Kの右方の油路形成部2aに埋設される部分は、二ヶ所に油孔10bが形成されて逆U字状断面の油孔形成部10d(図5に示す)となっている。また、境界Kの左方の端部10a側の部分は、円筒状となって、外殻部2の突出部2bに埋設されている。そして、バルブケース10は、図2における右方の端部10cを側殻部2dの内側に露出するだけで、内面11を除くその他の部分が外殻部2に覆われている。バルブケース10の端部10aは、突出部2bにおける被覆部2cにより被覆されている。
【0017】
なお、図5に示すように、油孔形成部10dを逆U字状断面に形成したので、断面円形の場合と異なり、バルブケース10の姿勢を確認することが容易となる。このため、バルブケース10を図示しない成形型にインサートする際、油孔10bの軸方向がずれないようにセットすることができる。また、図示しないセットピンを逆U字状の底面部に当てる等して、バルブケース10を所定の姿勢に保持することもできる。
【0018】
図3及び図4に示すように、バルブケース10の端部10aには、変形吸収部としての環状溝13が形成されている。環状溝13の外側の第1環状突部12aは、樹脂圧を受けて変形し、その変形により応力を緩和する変形許容部を構成している。そして、本実施形態の環状溝13は、熱硬化性エラストマーであるウレタン樹脂製の環状充填材14により充填されている。前記環状充填材14は、外殻部2を形成する合成樹脂の熱により溶融することがない。このため、環状充填材14により、合成樹脂の環状溝13内への浸入を防止することができる。
【0019】
なお、本実施形態では、液状のウレタン樹脂を環状溝13内へ注入して硬化させたものであるが、予め環状に形成したものを環状溝13内へ挿入するようにしてもよい。
このような構成のバルブケース10は、シリンダヘッドカバー1を成形するための図示しない成形型にインサートされる際、内面11において支持ピンにより支持される。支持ピンと内面11との嵌め合いは、挿入容易性のために、緩いものとなっている。従って、樹脂圧を受けたバルブケース10には、嵌め合いの公差分、例えば100〜40μm程度の内径の収縮が起きる余地がある。
【0020】
また、油路形成部2aは他部と比較して肉厚であるため、油路形成部2aにおける成形時の合成樹脂は、その流速及び樹脂圧を減じることなく、従って、殆ど抵抗なしに流動することができる。このため、バルブケース10の油路形成部2a側には、高圧の樹脂圧が作用する。従って、逆U字状断面の油孔形成部10dでは、樹脂圧の影響を受け難いものの、円筒状のバルブケース10の端部10a近傍は、油路形成部2aの樹脂圧により、内面11の変形が起き易い。
【0021】
ところが、図6に示すように、本実施形態のバルブケース10においては、樹脂圧を受けた第1環状突部12aのみが、環状充填材14を圧縮しながら内側に向かって変形するに止まる。即ち、第1環状突部12aの変形側に環状溝13があるため、第1環状突部12aは変形しやすい。また、その変形により応力が緩和されると共に、その変形の伝達は環状溝13で遮断される。このため、第2環状突部12bは変形することがない。
【0022】
また、本実施形態では、環状溝13内に環状充填材14が充填されているが、前記環状充填材14は、その材質がエラストマーであるため変形しやすく、第1環状突部12aの変形を妨げることがない。また、環状充填材14自体が容易に変形して応力を分散するので、第2環状突部12bへの変形の伝達を防止することができる。
【0023】
従って、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、バルブケース10の端部10aにおいて、変形吸収部としての環状溝13を形成して、その環状溝13の外側の第1環状突部12aを変形許容部とした。このため、バルブケース10をインサートしたシリンダヘッドカバー1の成形において、環状溝13の存在により、第1環状突部12aのみが樹脂圧を受けて変形する。また、その変形を生じた応力は、環状溝13により遮断される。このため、第2環状突部12bは殆ど変形しないので、内面11の内径の寸法公差を維持することができる。従って、バルブケース10に対するOCV4のバルブ本体4aの挿入が容易なシリンダヘッドカバー1を提供することができる。
【0024】
(2)上記実施形態では、バルブケース10の端部10aの環状溝13を、熱硬化性エラストマーの環状充填材14で充填した。このため、シリンダヘッドカバー1を形成する合成樹脂の環状溝13内への浸入を防止することができる。また、環状充填材14自体の変形により、応力を分散することができる。従って、環状溝13の変形吸収部としての機能を維持することができる。
【0025】
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を、第1実施形態と異なる部分を中心に図7を用いて説明する。
【0026】
本実施形態のバルブケース10では、端部10aにおいて、半円弧状の変形吸収部としての環状溝16が形成されている。前記環状溝16の外側が変形許容部としての第1環状突部12aとなっている。また、環状溝16の内側は、第1環状突部12aの変形が及ばない第2環状突部12bとなっている。
【0027】
バルブケース10の油路形成部2a側には、他の部分と同様に高圧の樹脂圧が作用するが、この樹脂圧のみならず、肉厚の油路形成部2aの冷却時における収縮により、樹脂をバルブケース10の表面から離反させる方向の力が生じることがある。即ち、バルブケース10の端部10aでは、油路形成部2a側の部分の方が変形しやすくなっている。ところが、バルブケース10の油路形成部2a側には環状溝16を設けたので、比較的高圧の樹脂圧が作用したり、前記離反方向の力が生じたりしても、第2環状突部12bの変形を防止することができる。また、円形の環状溝13を形成する場合と異なり、環状溝16は円弧状であるため、加工時間の削減と共に、環状溝16に充填されるウレタン樹脂の量を少なくすることができる。
【0028】
そして、この第2実施形態においては、第1の実施形態における効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(3)上記実施形態では、端部10aに半円弧状の環状溝16を形成して、その外側を第1環状突部12aとすると共に、その内側を第2環状突部12bとした。このため、高圧の樹脂圧を受ける側の第2環状突部12bの変形を防止することができる。また、環状溝16の加工時間の削減と共に、環状溝16に充填されるウレタン樹脂の量を少なくすることができる。
【0029】
(第3の実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態を、第1、2実施形態と異なる部分を中心に図8を用いて説明する。
【0030】
本実施形態においては、第1環状突部12aが、ウレタン樹脂製の断面略C字状の環状体20により被覆されている。そして、環状体20の一部は、環状溝13に嵌入している。本実施形態では、環状体20の先端が溝底部13aに達していない。従って、環状溝13の溝底部13aに空間が形成されるため、環状体20の変形が許容される。このため、このような形態であっても、合成樹脂の環状溝13内への浸入を防ぐことができる。なお、環状溝13の全体が環状体20により充填されるようにしてもよい。
【0031】
また、突出部2bの被覆部2cは、環状体20を介して第1環状突部12aを被覆している。従って、バルブケース10の端部10aと被覆部2cとの間から外部へオイルが漏れることを防止するため、環状体20をシール材として機能させることができる。
【0032】
そして、この第3実施形態においては、第1、2の実施形態における効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(4)上記実施形態では、第1環状突部12aを、ウレタン樹脂製の断面略C字状の環状体20で被覆するようにした。この場合、環状体20の一部は環状溝13内に嵌入している。このため、合成樹脂の環状溝13内への浸入を防ぐことができると共に、環状体20を、バルブケース10の端部10aと被覆部2cとの間からのオイル漏れを防止するためのシール材として機能させることができる。
【0033】
(第4の実施形態)
次に、本発明を具体化した第4実施形態を、第1〜3実施形態と異なる部分を中心に図9を用いて説明する。
【0034】
本実施形態のバルブケース10においては、OCV4が挿入される側の端部10a及び端部10aとは反対側の端部10cのそれぞれが、合成樹脂に被覆されずに露出している。そして、それぞれの端部10a、10cに環状溝13が形成されている。これらの環状溝13には、熱硬化性エラストマーが充填されていない。従って、両端部10a、10c近傍に対して樹脂圧が作用しても、第2環状突部12bが変形することはない。このため、バルブケース10よりも長いバルブ本体4aが挿入される場合であっても、バルブ本体4aの先端は端部10cの内面11をスムーズに通過できる。従って、挿入を容易に行うことができる。
【0035】
そして、この第4実施形態においては、第1〜3の実施形態における効果に替えて、以下の効果を得ることができる。
(5)上記実施形態では、バルブケース10の両端部10a、10cのそれぞれを露出させると共に、両端部10a、10cのそれぞれに環状溝13を形成した。このため、両端部10a、10cの第2環状突部12bの変形を防止することができる。従って、バルブケース10よりも長いバルブ本体4aが挿入される場合であっても、バルブ本体4aの挿入を容易に行うことができる。
【0036】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 環状充填材14又は環状体20をウレタン樹脂で形成したが、シリコーン樹脂又はフッ素樹脂等の熱硬化性エラストマーで形成すること。
・ 上記第3実施形態では、環状体20を断面略C字状としたが、断面略L字状又は断面略T字状とし、その一部を環状溝13に嵌入させること。
【0037】
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について、それらの効果と共に以下に記載する。
(イ)前記変形吸収部が、前記バルブケースの端部において、前記樹脂圧が他の部分に比較して高圧で作用する位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダヘッドカバー。このように構成した場合、変形吸収部を形成するための加工時間を削減することができる。
(ロ)前記環状溝は、液状で注入されて硬化した熱硬化性エラストマーにより充填されていることを特徴とする請求項3に記載のシリンダヘッドカバー。このように構成した場合、熱硬化性エラストマーによる環状溝の充填を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
1…シリンダヘッドカバー、2…外殻部、7…油路、10…バルブケース、10a,10c…端部、11…内面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブケースが埋設された合成樹脂製の外殻部を備えたシリンダヘッドカバーにおいて、前記バルブケースの端部には、成形時の樹脂圧を受けて変形することを許容する変形許容部を備えると共に、その変形が前記バルブケースの内面に及ぶことを阻止するために、変形吸収部を備えていることを特徴とするシリンダヘッドカバー。
【請求項2】
前記変形吸収部が、前記バルブケースの端面に開口する溝であることを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドカバー。
【請求項3】
前記溝は、環状であることを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッドカバー。
【請求項4】
前記溝は、油路側に位置し、半円弧状であることを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッドカバー。
【請求項5】
前記バルブケースの端部は、前記合成樹脂により被覆されると共に、前記溝内にその合成樹脂が浸入しないように、前記溝内には、熱硬化性エラストマーが充填されていることを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッドカバー。
【請求項1】
バルブケースが埋設された合成樹脂製の外殻部を備えたシリンダヘッドカバーにおいて、前記バルブケースの端部には、成形時の樹脂圧を受けて変形することを許容する変形許容部を備えると共に、その変形が前記バルブケースの内面に及ぶことを阻止するために、変形吸収部を備えていることを特徴とするシリンダヘッドカバー。
【請求項2】
前記変形吸収部が、前記バルブケースの端面に開口する溝であることを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドカバー。
【請求項3】
前記溝は、環状であることを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッドカバー。
【請求項4】
前記溝は、油路側に位置し、半円弧状であることを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッドカバー。
【請求項5】
前記バルブケースの端部は、前記合成樹脂により被覆されると共に、前記溝内にその合成樹脂が浸入しないように、前記溝内には、熱硬化性エラストマーが充填されていることを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッドカバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−2098(P2012−2098A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136191(P2010−136191)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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