説明

シリンダヘッドガスケットおよびその製造方法

【解決手段】 帯状のステンレスを巻いたコイルから素材を供給したら(101)、この素材に対し、その表面および裏面の少なくともフルビードを形成する位置にショットピーニングを施す(102)。
続いて、素材の表面および裏面に化成処理を行うとともに(103)、素材の表面および裏面に上記コーティングを塗布し(104)、その後上記素材をプレス加工機に投入して、該プレス加工機では穴あけ加工や外周のブランク加工を行い、同時にフルビード11aの成形を行う(105)。
【効果】 フルビードの亀裂の発生を抑え、耐疲労性の高いシリンダヘッドガスケットを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダヘッドガスケットおよびその製造方法に関し、詳しくはシリンダヘッドまたはシリンダブロックに向けて膨出するビードを有した少なくとも1枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダヘッドガスケットとして、シリンダヘッドまたはシリンダブロックに向けて膨出するビードを有した少なくとも1枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケットが知られている(特許文献1)。
上記ビードには上記シリンダヘッドとシリンダブロックとによって挟持されるとともに繰り返し荷重が作用するため、金属疲労等によりビードに亀裂が発生するという問題が知られている。
この亀裂については様々な対策が試みられており、例えば複数枚のガスケット基板を積層させて、各ガスケット基板にビードを形成したり、積層させたガスケット基板の間にシムを介在させたシリンダヘッドガスケットが知られている(特許文献1〜7)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−050361号公報
【特許文献2】実開平5−001064号公報
【特許文献3】特開平5−039867号公報
【特許文献4】特開平11−247998号公報
【特許文献5】特開2000−145969号公報
【特許文献6】特開2002−031238号公報
【特許文献7】特開2005−337275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載されたシリンダヘッドガスケットでは、十分なシール性が得られなかったり、またコスト高につながるなどの問題があることから、更なる対策が求められている。
このような問題に鑑み、本発明は上記ビードにおける亀裂の発生を可及的に防止することが可能な耐疲労性の高いシリンダヘッドガスケットと、その製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、請求項1に記載のシリンダヘッドガスケットの製造方法は、シリンダヘッドまたはシリンダブロックに向けて膨出するビードを有した少なくとも1枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケットの製造方法において、
薄板状のガスケット基板の素材に、少なくとも上記ビードを形成すべき位置にショットピーニングを施し、しかる後、該素材の上記ショットピーニングを施した位置にビードを形成することを特徴としている。
【0006】
また請求項5に記載のシリンダヘッドガスケットの製造方法は、シリンダヘッドまたはシリンダブロックに向けて膨出するビードを有した少なくとも1枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケットの製造方法において、
薄板状のガスケット基板の素材に上記ビードを形成し、しかる後、該ビードを形成した位置にショットピーニングを施すことを特徴としている。
【0007】
さらに請求項6に記載のシリンダヘッドガスケットは、シリンダヘッドまたはシリンダブロックに向けて膨出するビードを有した少なくとも1枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケットにおいて、
上記ビードは、ショットピーニングが施されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記請求項1および請求項5にかかるシリンダヘッドガスケットの製造方法によれば、ビードの形成される位置にショットピーニングを施すことで、ビードでの亀裂の発生を抑えることができ、耐疲労性の高いシリンダヘッドガスケットを得ることができる。
【0009】
また請求項6にかかるシリンダヘッドガスケットによれば、ビードにショットピーニングが施されているため、該ビードの亀裂を抑えることができ、耐疲労性の高いシリンダヘッドガスケットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施例にかかるシリンダヘッドガスケットの平面図。
【図2】図1におけるII―II部の断面図。
【図3】第1の製造方法を説明する図。
【図4】第2の製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1は図示しないシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟持されてそれらの間をシールするシリンダヘッドガスケット1を示している。
上記シリンダヘッドガスケット1は、一直線上に直列に配置された複数の燃焼室孔2を備えており、これら燃焼室孔2はそれぞれ上記シリンダブロックに形成されたシリンダボアの位置に合わせて穿設されている。
またシリンダヘッドガスケット1には、図示しない締結ボルトを挿通するための複数のボルト孔3と、ブローバイガスを流通させるブローバイ孔4と、潤滑油を流通させる油孔5と、冷却水を流通させる水孔6とが穿設されている。
【0012】
図2に示すように、上記シリンダヘッドガスケット1は、上方のシリンダヘッド側および下方のシリンダブロック側に配置した2枚のガスケット基板11と、これら2枚のガスケット基板11の間に設けたシムプレート12とから構成されている。
上記ガスケット基板11およびシムプレート12は、それぞれ上記シリンダブロック及びシリンダヘッドの接合面にほぼ一致する形状を有しており、ステンレス(SUS301やSUS304)からなる厚さ0.2mm〜0.3mm程度の素材を打ち抜いて所定形状に成形し、さらにその表面および裏面に耐熱ゴム等のコーティングを施したものとなっている。
また上記ガスケット基板11には、それぞれ各燃焼室孔2を無端状に囲むフルビード11aが形成されており、上方のガスケット基板11のフルビード11aはシリンダヘッドに向けて上方に突出し、下方のガスケット基板11のフルビード11aはシリンダブロックに向けて下方に突出している。
また、ガスケット基板11の外縁には、上記フルビード11aと同じ方向に無端状にハーフビード11bが形成されており、例えば上記水孔6を流通する冷却水がエンジンの外部に排出されてしまうのを防止するようになっている。
上記シムプレート12は、上記ガスケット基板11にほぼ一致する形状を有するとともに、ステンレス等からなる厚さ0.05mm〜0.15mm程度の素材を打ち抜いたものとなっている。
なお、このシムプレート12については、使用するエンジンによっては2枚以上としてもよく、また省略することも可能である。
【0013】
そして、上記構成を有するシリンダヘッドガスケット1をエンジンに装着すると、上記ガスケット基板11に形成した上記フルビード11aがシリンダブロックおよびシリンダヘッドに密着し、燃焼室孔2からの燃焼ガスの漏れを防止するようになっている。
ここで、上記フルビード11aはシリンダヘッドとシリンダブロックとから繰り返し加重を受けて変形を繰り返すため、金属疲労により上記フルビード11aの頂部や基部に亀裂が発生することがあった。
このため、上記特許文献のように、シリンダヘッドガスケット1の耐疲労性を向上させることについて様々な対策が行われている。しかしながら、いずれもシール性不足や製造コストの面などで問題があり、更なる耐疲労性の向上が求められていた。
このような問題に鑑み、以下の製造方法を用いることでフルビード11aの亀裂の発生を抑えることが可能な耐疲労性の高いシリンダヘッドガスケット1を得ることができる。
【0014】
以下、本発明にかかるシリンダヘッドガスケット1の第1の製造方法について、図3を用いて説明する。ここでは、一方のガスケット基板11の製造手順について説明し、他方のガスケット基板11は同じ製造手順によって製造されるため説明は省略し、また上記シムプレート12は従来公知の製造手順によって製造されることから、詳細な説明は省略する。
最初に、厚さ0.2〜0.3mmの帯状のステンレス(SUS301)を巻いたコイルから、該帯状の素材を供給する(101)。
次に、この帯状に供給された素材をショットピーニング装置に供給し、該素材の表面および裏面の全面にそれぞれショットピーニングを施す(102)。
このショットピーニングは、粒径40〜200μmのセラミックまたはステンレス製の粒子を、時速約100m/sで衝突させるものであって、いわゆるFPB(Fine Particle Bombarding)処理と呼ばれている。
このショットピーニングを施すことで、粒子の衝突により素材の表面および裏面が加熱され、素材の組織が変化するものとなっている。具体的には、素材の表面側および裏面側の組織が厚さ約1μmの範囲でマルテンサイト化し、これにより素材の表面側および裏面側の組織が超微細化するとともに、硬度および内部残留圧縮応力が上昇することとなる。
【0015】
このようにして上記ショットピーニングを施したら、続いて素材の表面および裏面に化成処理を行い(103)、その後さらに素材の表面および裏面に上記コーティングを塗布する(104)。
上記化成処理を行うことにより、上記素材とコーティングとの密着力を高めることができ、コーティングのはがれ等を防止することができる。なお、上記化成処理およびコーティング自体は従来公知であるため詳細な説明は省略する。
最後に、上記素材をプレス加工機に投入し、該プレス加工機では上記ガスケット基板11を形成するよう、穴あけ加工や外周のブランク加工が行われ、また同時に上記フルビード11aの成形が行われ(105)、上記ガスケット基板11が得られる事となる。
ここで、上記フルビード11aの成形時において、素材はショットピーニングによって表面および裏面の硬度および内部残留圧縮応力が上昇しているが、当該部分は素材の表面および裏面のごく薄い範囲であるため、フルビード11aの成形に支障をきたすことはない。
そしてその後、製造した2枚のガスケット基板11と、1枚のシムプレート12とを重ね合わせることにより、上記シリンダヘッドガスケット1が組み立てられる。
【0016】
以下、上記製造方法によって製造したガスケット基板11を有するシリンダヘッドガスケット1(発明品)の耐疲労性を評価するため、上記製造方法のうちショットピーニングの工程(102)のみを省いて製造したガスケット基板11を有するシリンダヘッドガスケット1(従来品)との比較実験を行った。
この実験にはシリンダヘッドおよびシリンダブロックに見立てた治具を用い、この治具に上記発明品および従来品をそれぞれ挟持させ、この治具を油圧により8μmの振幅で上下に振動させることで、シリンダヘッドガスケット1に繰り返し荷重を作用させた。
上記繰り返し荷重を1000万回作用させたところ、発明品におけるガスケット基板11のフルビード11aには亀裂は発生しなかったが、従来品におけるガスケット基板11のフルビード11aには亀裂が発生した。
これは、上記ショットピーニングを施すことにより、上記フルビード11aの部分における硬度および内部残留圧縮応力が上昇したため、繰り返し荷重に対する耐疲労性が上がったものと考えられる。
また、ショットピーニングを施すことにより、ガスケット基板11の表面および裏面の組織が超微細化することから、亀裂の起点がなくなり、亀裂が発生しにくくなったものと考えられる。
このように、上記製造方法を用いることで、フルビード11aに亀裂の生じにくい耐疲労性の高いシリンダヘッドガスケット1を得ることができる。
【0017】
図4は、本発明にかかるシリンダヘッドガスケット1の第2の製造方法を説明する図である。ここでも、一方のガスケット基板11の製造手順について説明し、他方のガスケット基板11は同じ製造手順によって製造され、また上記シムプレート12については従来公知の製造手順によって製造されるため、詳細な説明は省略する。
本実施例では、最初に、厚さ0.2〜0.3mmの板状のステンレス(SUS301)を巻いたコイルから素材を帯状に供給し(201)、該素材をそのままプレス加工機に投入する。
これにより、プレス加工機では上記ガスケット基板11を形成するよう、穴あけ加工や外周のブランク加工が行われ、また同時に上記フルビード11aの成形が行われる(202)。
続いて、加工された素材をプレス加工機より取り出したら、該素材の表面および裏面にマスキングを行い、上記フルビード11aの形成された部分だけを露出させる(203)。
具体的には、フルビード11aと重合する位置にスリットを形成した金属製のシートを上記素材の表面および裏面に重ね合わせ、これによりフルビード11aを露出させるようになっている。
そして、上記マスキングが行われた状態で、該素材および金属製シートをショットピーニング装置に投入し、素材の表面および裏面のそれぞれにショットピーニングを施す(204)。ここで、ショットピーニングの条件は上記第1の製造方法と同じ条件となっている。
このショットピーニングを施すことにより、マスキングされていない上記フルビード11aの部分において、素材の表面および裏面がマルテンサイト化され、当該部分の組織が超微細化するとともに、表面硬度および内部残留圧縮応力が上昇する。
このようにして上記ショットピーニングを施したら、上記金属製シートを取り外し、続いて素材の表面および裏面に化成処理を行うとともに(205)、素材の表面および裏面にコーティングを塗布する(206)。
そしてその後、製造した2枚のガスケット基板11と、1枚のシムプレート12とを重ね合わせることにより、シリンダヘッドガスケット1を組み立てる。
【0018】
上記製造方法によれば、特に亀裂の発生しやすいフルビード11aの形成された部分にだけショットピーニングを施すことから、上記第1の製造方法によって製造したシリンダヘッドガスケット1と同様、フルビード11aの亀裂の発生を抑えた耐疲労性の高いシリンダヘッドガスケット1を得ることができる。
なお、上記実施例において、上記ガスケット基板11に形成した上記ハーフビード11bに対して上記ショットピーニングを施してもよく、その他図示しない上記ブローバイ孔4や油孔5等を囲繞するように形成したフルビードやハーフビードに対してショットピーニングを施してもよい。
また上記第2の製造方法において、ブランクおよびフルビード11aを成形した素材に対し、上記マスキングを行わないまま素材の表面および裏面の全面にショットピーニングを施してもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 シリンダヘッドガスケット 11 ガスケット基板
11a フルビード 12 シムプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドまたはシリンダブロックに向けて膨出するビードを有した少なくとも1枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケットの製造方法において、
薄板状のガスケット基板の素材に、少なくとも上記ビードを形成すべき位置にショットピーニングを施し、しかる後、該素材の上記ショットピーニングを施した位置にビードを形成することを特徴とするシリンダヘッドガスケットの製造方法。
【請求項2】
上記ショットピーニングは、上記ガスケット基板の素材の表裏全面に施すことを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドガスケットの製造方法。
【請求項3】
上記ガスケット基板の素材に上記ショットピーニングを施した後で、かつフルビードを形成する前に、コーティング層を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリンダヘッドガスケットの製造方法。
【請求項4】
上記ビードは、シリンダボアの位置に合わせて穿設した燃焼室孔を囲むフルビードであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシリンダヘッドガスケットの製造方法。
【請求項5】
シリンダヘッドまたはシリンダブロックに向けて膨出するビードを有した少なくとも1枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケットの製造方法において、
薄板状のガスケット基板の素材に上記ビードを形成し、しかる後、該ビードを形成した位置にショットピーニングを施すことを特徴とするシリンダヘッドガスケットの製造方法。
【請求項6】
シリンダヘッドまたはシリンダブロックに向けて膨出するビードを有した少なくとも1枚のガスケット基板を備えたシリンダヘッドガスケットにおいて、
上記ビードは、ショットピーニングが施されていることを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項7】
上記ショットピーニングが上記ビードの形成された位置に施されていることを特徴とする請求項6に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項8】
上記ビードは、シリンダボアの位置に合わせて穿設した燃焼室孔を囲むフルビードであることを特徴とする請求項6または請求項7のいずれかに記載のシリンダヘッドガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−163493(P2011−163493A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28843(P2010−28843)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000228383)日本ガスケット株式会社 (43)
【Fターム(参考)】