説明

シリンダボアの測定方法及び測定装置

【課題】エンジンのシリンダボアの真円度あるいは円筒度を測定する際、実際のエンジンの作動状態に近似させた状態で測定を行い、エンジンの作動状態における正確な真円度の測定データを得る。
【解決手段】測定するエンジンのシリンダブロック1とシリンダヘッド3とを締結ボルト4により組み付けて組立体9とする。これをシリンダブロック1が上側となるように設置し、両方のウォータジャケットに高温の流体を送り込む。この状態で測定装置20を組立体9の上方からシリンダボア2に挿入して測定することにより、エンジンの作動時の状態を再現し、内部応力や熱膨張の影響を反映した真円度を測定することができる。測定装置20には、位置決めのため、シリンダボア2と合致する第1基準部材21と、シリンダブロック1の主軸受部7に合致する第2基準部材とが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンにおいて、ピストンが往復動する円筒形シリンダボアの断面の真円度を測定する測定方法並びにその測定方法に適した測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン等の往復動式エンジンでは、シリンダブロックに形成されたシリンダボア内で燃料を燃焼させ、ピストンを往復させて動力を発生する。近年、車両用のエンジンにおいては、省エネルギ、燃料消費率の向上の要請からエンジンの小型軽量化が進んでおり、シリンダブロックについても軽量化のためアルミニュウム等の軽金属の利用や薄肉化などが図られている。
【0003】
シリンダボアにはピストンが挿入され、シリンダボアの内周面を、ピストンに嵌め込まれたピストンリングが摺動する。シリンダボアは断面円形の形状であるが、シリンダボアが歪みその真円度が低下していると、ピストンリングの片当りが生じ摺動抵抗が増大する。その結果、エンジンの機械損失が増加して燃料消費率を悪化させる。また,シリンダボアとピストンリングとのクリアランスが大きくなることから、エンジンのクランクケースに吹き抜ける燃焼ガス、つまりブローバイガスが増加する。ブローバイガスは、HC(炭化水素)等の未燃焼成分を含むので、エンジン排出ガスの有害成分が増えることとなる。
【0004】
こうしたことから、シリンダボアの真円度あるいは円筒度を測定する装置が一般的に知られており、例えば、特開平7−270153号公報に開示されている。この測定装置は、図9に示すように、中心軸からシリンダボア内周面までの距離を測定する測定用センサ101を下端に取付けた軸102を有する。軸102は、モータ103により回転駆動される回転体104の中心穴を貫通しており、回転体104とともに回転可能であって、さらに、回転体104上に設置されたモータ105により上下方向に移動可能に構成されている。測定装置はコンピュータ106と接続され、モータ103、105はこれによって制御され駆動されるとともに、測定したデータもコンピュータ106に送られ、ここで演算処理が行われて真円度及び円筒度が求められる。
【0005】
回転体104及びこれを駆動するモータ103は、軸102が通過する孔を設けた基台107の上面に載置されている。基台107の下面は平面となっており、真円度の測定に際しては、シリンダブロック108の上部の平坦面、つまりシリンダヘッドの取付け面に基台107の下面を合わせ、シリンダブロック108の上部に測定装置を設置する。この状態で軸102を上下方向に移動して測定用センサ101を所定の位置にセットし、軸102を回転し測定用センサ101をシリンダボア109の内周面に沿って回転させることにより真円度を測定する。軸102はシリンダボア109の中心軸に正確に一致させる必要があるので、基台107の下面にはシリンダボア内周面に当接する位置決め用のピン110が設けられている。なお、この図に示されたシリンダブロック108は冷却フィンを有する空冷のものであるが、自動車用エンジンとしては一般的には水冷のシリンダブロックが使用されている。
【0006】
ここで、水冷の直列式エンジンにおけるシリンダブロック周辺の構造を、図6〜図8に基づいて概略的に説明する。図6は、シリンダブロックとシリンダヘッドを組み付けたエンジンの縦断面図であり、図7は図6のA−A断面矢視図、また、図8はシリンダブロックの下面図であるB−B矢視図を表す。
シリンダブロック1の上方には、シリンダボア2を閉塞するシリンダヘッド3がヘッドガスケットを介して載置され、シリンダヘッド3には吸排気通路や吸排気弁が配置される。シリンダヘッド3とシリンダブロック1とは、長尺の締結ボルト4によって燃焼ガスの圧力に耐えうるよう強固に締結されている。シリンダボア2の周りには冷却水が流れるウォータジャケット5が設けられ、冷却水はこのウォータジャケット5からシリンダヘッド3のウォータジャケット6に流入し、シリンダブロック1とシリンダヘッド3とを冷却した後、ここからエンジンのラジエータへ排出される。
【0007】
シリンダブロック1の下部には、クランクシャフトを取付けるため、図8に示されるように、クランクシャフトのクランクジャーナル部の数に応じた複数の主軸受部7が形成されている。主軸受部7は断面半円形であって、同じく断面半円形の軸受面を形成したベアリングキャプ8(図6)をボルトで固着し、クランクジャーナル部を挟み込むことによって、シリンダブロック1の下部にクランクシャフトを取付ける。したがって、主軸受部7は各シリンダボア2の両側にそれぞれ配置されている。
【特許文献1】特開平7−270153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、シリンダボアの真円度はエンジン性能に重大な影響を与えるので、加工後のシリンダボアの真円度を測定して工作機械の精度の管理を実施したり、加工方法の開発に向けてデータを取得したりすることが従来から行われている。この真円度の測定では、図9に示されるように、シリンダブロック単体の状態でそのシリンダボアの上方から測定装置を挿入し、測定用センサを回転させて径方向の距離を測定する。
【0009】
しかし、実際のエンジンでは、シリンダブロックにはシリンダヘッドが締結ボルトによって強固に締め付けられ、シリンダボアの周囲には内部応力が発生してシリンダボアが歪みを受ける。このようなシリンダボアの歪みは、シリンダブロックの薄肉化等、その軽量化を図ることにより増大する傾向にある。ところが、シリンダボアの上方から測定装置を挿入するため、シリンダヘッドを外してシリンダブロック単体で行う真円度や円筒度の測定では、ボルトの締結による内部応力の発生がないため、その測定結果は、エンジン組み立て状態における真円度等とは異なるものとなる。
【0010】
また、エンジンの作動中には高温の燃焼ガスによってシリンダブロック及びシリンダヘッドが加熱され、シリンダブロック等の温度が上昇するとともに、その熱は冷却水に伝達されて冷却水の温度も上昇する。つまり、エンジンの作動中にあっては、シリンダボアの周辺には温度上昇に伴う熱膨張や熱応力が発生するが、従来の測定装置は常温において測定するものであるので、エンジン作動中の熱膨張等による真円度の変化については全く考慮されていなかった。
本発明は、シリンダボアの真円度あるいは円筒度を測定するにあたり、シリンダブロックを実際のエンジンの作動状態に可及的に近似させ、その状態で測定を行って、エンジンの作動状態における正確な真円度の測定データを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み、本発明は、シリンダブロックとシリンダヘッドとを締結ボルトによって組み付け、実際のエンジンと同様な組立体として真円度の測定を実施するものである。すなわち、本発明は、
「エンジンのシリンダブロックに設けられたシリンダボアの真円度を測定する測定方法であって、
前記シリンダブロックに組み合わされるシリンダヘッドを締結ボルトにより前記シリンダブロックに締結して組立体とし、さらに、前記組立体を、前記シリンダブロックが上側に前記シリンダヘッドが下側に位置するよう台上に設置し、
真円度を測定する測定用センサを、前記組立体の上方から前記シリンダボアに挿入して測定する」
ことを特徴とする測定方法となっている。
【0012】
請求項2に記載のように、前記シリンダブロック及び前記シリンダヘッドがウォータジャケットを有しているときは、そのウォータジャケットに高温の流体を送り込んで測定することが好ましい。
【0013】
また、本発明の測定装置は、請求項1の測定方法に使用する測定装置として特に適したものであって、請求項3に記載のように
「シリンダブロックに設けられたシリンダボアの真円度を測定する測定装置であって、
前記測定装置は、前記シリンダボアに挿入される測定用センサと、その測定用センサを前記シリンダボアの内周面に沿って回転させるとともに前記シリンダボアの軸線方向に移動させる駆動機構と、その駆動機構を保持する基台とを有し、
前記基台には、前記シリンダボアの内周面と合致する基準面を形成した第1基準部材と、前記シリンダブロックの下部に設けられた主軸受部の形状に合致する基準面を形成した第2基準部材とが取付けられている」
ことを特徴とする測定装置となっている。
【0014】
請求項4に記載のように、前記第1基準部材と前記第2基準部材とを、断熱材を介して測定装置の前記基台に取付け、前記基台の内部には冷却用の流体を送り込むようにしてもよい。
【0015】
測定装置の前記駆動機構には、請求項5に記載のように、前記測定用センサを取付けたボールスプライン機構が嵌め込まれるスプライン軸と、前記ボールスプライン機構を前記シリンダボアの軸方向に移動させる操作軸とを設け、かつ、前記スプライン軸がその軸の径方向に嵌めこまれたピンを介してモータにより回転駆動されるとともに、前記ボールスプライン機構が薄板を介して前記操作軸に連結されているよう構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の測定方法では、シリンダブロックとシリンダヘッドとを、ヘッドガスケットを挟んで締結ボルトにより組み付けて組立体とし、この組立体は、エンジン作動時とは逆にシリンダブロックが上側となるように設置される。こうすると、主軸受部の存在するシリンダブロックの下面、つまりオイルパンの取付け面が上側に露出し、その下方にシリンダボアが見通せる状態である。したがって、上方からシリンダボアに測定用センサを挿入することが可能であり、シリンダブロックにシリンダヘッドを締め付けて真円度を測定することができる。このような測定を行うことにより、エンジンが水冷式であるか空冷式であるかを問わず、シリンダヘッドの締め付けに伴うシリンダボアの変形を直接反映した真円度のデータが得られ、エンジンの実態に即した真円度を知ることが可能となる。
【0017】
水冷式のエンジンの作動時においては、シリンダブロック及びシリンダヘッドの内部のウォータジャケットには冷却水が循環し、冷却水は高温の燃焼ガスによってその温度が上昇する。請求項2の発明のように、両方のウォータジャケットに高温の流体を送り込んで測定した場合には、エンジンの作動時の状態を近似的に再現することになり、熱膨張等の影響を受けたシリンダボアにおける真円度を測定することができる。このため、測定結果はより一層エンジン作動時の真円度に近似したものとなる。
【0018】
本発明の測定方法で使用する測定装置としては、特許文献1に示される一般的な真円度測定装置を用いてもよいが、請求項3の発明の測定装置が特に適している。すなわち、請求項3の発明では、測定用センサの駆動機構を保持する基台に、シリンダボアの内周面と合致する基準面を形成した第1基準部材と、シリンダブロックの下部に設けられた主軸受部の形状に合致する基準面を形成した第2基準部材とを取付けている。本発明の測定方法においては、シリンダブロックとシリンダヘッドとの組立体は、シリンダブロックが上側となるように設置され、主軸受部が組立体の上面に露出し、その下方にシリンダボアが存在している。請求項3の発明の測定装置を組立体の上側に載置し、第1基準部材をシリンダボアの内周面に、かつ、第2基準部材を主軸受部に当接すると、測定用センサを正確に位置決めすることが可能である。そして、こうした位置決め作業は2つの基準面を合わせるだけであるので、作業者が手作業により容易に行えるものである。
【0019】
請求項4の発明のように、基台と両方の基準部材との間に断熱材を置き、また、基台の内部に冷却流体を流した場合には、請求項2の測定方法のように、熱膨張等の影響を反映させるため高温の流体を水冷エンジンに通過させながら行う測定においても、熱伝達による測定装置自体の温度上昇が防止できる。したがって、測定用センサを移動させる駆動機構及び測定用センサの位置を検出する検出器などが熱によって損傷したり検出結果に誤差を生じる事態が回避される。
【0020】
真円度の測定装置における駆動機構には、測定用センサをシリンダボアの内周面に沿って回転させる機能と、これを軸方向に上下移動させる機能とが必要である。そのため、測定用センサをボールスプライン機構に取付け、スプライン軸を回転させると同時にラック軸等の操作軸により上下に可動としている。このとき、請求項5の発明のように、スプライン軸の径方向にピンを嵌めこんでこれを介してモータにより回転駆動すると、ピンを上下方向には多少のクリアランスを持たせてスプライン軸に嵌めこむことができるから、モータ駆動により上下方向の振動が加わったとしてもピンの部分で吸収され、その振動が測定用センサに伝達されることがない。さらに、軸方向に駆動する操作軸と測定用センサを固着したボールスプライン機構とを、薄板を介して連結したときは、薄板の可撓性によって操作軸の振動が遮断され、上下方向の動きのみがボールスプライン機構に伝えられる。その結果、測定用センサの測定データの振動による誤差が防止される。なお、このような振動遮断手段が、真円度を測定する装置一般に適用できるのは明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明のエンジンシリンダボアの真円度測定方法及び測定装置について説明する。図1は本発明の測定方法を全体的に示す図であり、図2は本発明の測定装置の全体図である。図3は本発明の測定装置における基準部材の断面図等、また、図4は測定用センサを取付けるボールスプライン機構の要部の断面図、図5はスプライン軸と駆動プーリとの連結部を示す詳細図である。
【0022】
図1において、左側には被測定物である水冷エンジンの組立体9が置かれ、これは、図6のエンジンと同様に、シリンダブロック1にシリンダヘッド3を、ヘッドガスケットを介して締結ボルト4により締め付けて取付けたものである。組立体9は、シリンダヘッド3が下側に、シリンダブロック1が上側に位置するように台10上に設置され、オイルパンの取付けられるシリンダブロック1の下面が上方に露出している。シリンダヘッド3の前部とシリンダブロック1の側部には、冷却水の出入口となる短管11、12が設けられ、それぞれウォータジャケット6、5に連通している。
【0023】
この実施例の測定方法では、シリンダヘッド3の前部の短管11から100℃を超える高温の水をポンプ13によって送り込む。水の温度を上昇するため高温油タンク14が備えられている。ここには電気ヒータ15で130℃程度に加熱されたシリコン油が貯留されており、ポンプ13に供給される水を熱伝達により高温化する。シリンダヘッド3の前部から送り込まれた高温水はシリンダヘッド及びシリンダブロックのウォータジャケット6、5を通過し、組立体9の温度を上昇させた後、シリンダブロック1の側部の短管12から排出され、高温油タンク14に戻される。ポンプ13の吐出側には流量調整バルブ16が設けてあり、温度検出器17、18により検出される供給側及び排出側の温度が適切な値となるよう流量調整バルブ16の開度が調整される。なお、19は項温水の圧力を検出する圧力計である。
【0024】
このような準備の後、例えば2点鎖線で表される本発明の測定装置20を、組立体9の上面、換言すればシリンダブロック1の下面に載置して真円度の測定を行う。測定装置20については詳しくは後述するが、第1基準部材21及び第2基準部材22が取付けてあり、これらはそれぞれシリンダボア2の内周面と主軸受部4とに当接し、測定装置20を所定の位置に安定して保持する。シリンダボア2の形成されているシリンダブロック1には、エンジン作動時と同じように、シリンダヘッド3が締結ボルト4により強固に固着されている。この状態では、シリンダボア周辺にはボルトの締め付けに起因する内部応力が生じており、真円度の測定結果は、その応力の影響を反映したものとなる。
【0025】
また、シリンダブロック1のウォータジャケット5には高温の水を通過させ、シリンダボア周辺の温度を上昇させているので、真円度の測定結果は、熱膨張や熱応力の影響が加味されたものとなり、一層エンジンの作動時に近似した測定結果を得ることができる。なお、この実施例ではシリコン油と熱交換させた高温水を0.15MP程度に加圧して組立体9に循環しているが、場合によってはシリコン油を直接送り込むようにしてもよく、高温水・高温油に代えて高温の蒸気を供給してもよい。
【0026】
次いで、本発明の測定装置20について図2〜図5により説明する。
図2に示すように、本発明の測定装置20は基台23を備え、基台23には、測定用センサ24をシリンダボア2の内週面に沿って回転させ、また、その軸方向に往復動させる駆動機構25が載置されている。基台23は、上方基板231と下方基板232とを有しており、その内部にはエアパイプ26から冷却空気が供給されるとともに、上方基板231の両端には取っ手27が固着されている。
【0027】
基台23の下方基板232には、第1基準部材21及び第2基準部材22が断熱板28を介して取付けられる。第1基準部材21は、図3(a)の断面図(図2のD−D断面)及び斜視図から明らかなように、シリンダボア2と当接する円弧状の基準面211を形成した、基本的に円筒形の一部をなす形の部材であって、内径方向に張り出した上部の取付け部212に通したボルトによって下方基板232に固定される。
【0028】
第2基準部材22は、図3(b)の断面図(図2のE−E断面)から明らかなように、主軸受部7の形状に合致する円弧状の基準面221を下部に形成した部材であって、取付け部222に通したボルトにより下方基板232に固定される。第2基準部材22は、シリンダボア2の両側に存在する主軸受部7(図8参照)と合致させるよう、第1基準部材21を挟んで両側に2個配置されている。なお、第1基準部材21及び第2基準部材22は、各種のエンジンの真円度の測定を可能とするため、シリンダボアの寸法等に合わせた複数のものが用意され、測定するエンジンに応じて交換して使用される。
【0029】
測定装置20の中央部分には、下方に延びるスプライン軸29と上下方向に移動するラック軸30とが配置される。スプライン軸29は、測定用センサ24の取付け部材31と一体的に連結されたスプラインスリーブ32が嵌め込まれている。スプライン軸29は、上下方向に真直に形成されたスプライン溝291を備え、図4(図2のF−F断面)に示されるように、スプラインスリーブ32に設けられた内周溝321と4本のスプライン溝291との間には、ボール33が介在させてあリ、ボール33は上下方向に複数のものが配置されている。スプラインスリーブ32は、ハウジング34内にベアリング35を介して回転可能に取付けられるが、上下方向はハウジング34に対し固定されている。このようなボールスプライン機構は一般的なものであって、スプラインスリーブ32は、スプライン軸29の回転によって回転しながらスプライン軸29の軸方向にも摺動可能となっており、これと一体的に連結された測定用センサ24も回転しながら軸方向に移動できる。なお、この実施例では軸方向に移動させるためにラック軸を使用しているが、送りねじ機構等を備えた操作軸などを使用することが可能であるのは当然である。
【0030】
スプライン軸29は、上部のベアリング36と下部のベアリング37によって基台23に軸支され、基台23にはスプライン軸29を回転させるためのスプライン軸駆動モータ38が設置されている。スプライン軸29の上部にはスリーブ39が嵌め込まれ、そのスリーブ39は被駆動プーリ40に挿入される。スプライン軸駆動モータ38の出力軸には駆動プーリ41が固着され、両プーリの間には回転伝動用の丸ベルト42が掛け渡されている。
【0031】
図5は、被駆動プーリ40の断面図であって、被駆動プーリ40とスプライン軸29との連結部分を示す詳細図である。被駆動プーリ40の上方部にはピン孔が設けられ、ここに、スリーブ39及びスプライン軸29を貫通する断面円形のピン43が嵌め込まれる。ピン43が貫通するスリーブ39及びスプライン軸29の孔は、幅方向にはピン43と密接して嵌合するが上下方向はピン43との間にクリアランスを持たせる、つまり間隙44が生じる長孔に形成されている。また、スリーブ39とスプライン軸29との間にも間隙45が設けられている。
【0032】
駆動プーリ41と被駆動プーリ40との間は、円形断面の丸ベルト42により回転を伝動する。丸ベルト42の断面は円形であるから、スプライン軸駆動モータ38の出力軸の振動等が被駆動プーリ40に伝達され難い。そして、被駆動プーリ40とスプライン軸29とは間隙44、45を介在させて連結されているから、被駆動プーリ40が上下方向に振動したり揺動したときも間隙によってこれらの動きが吸収され、スプライン軸29には回転方向の動きのみが伝達される。その結果、スプライン軸29の下方に取付けられた測定用センサ24へスプライン軸駆動モータ38等の振動が伝達されることはなく、測定用センサ24の振動に伴う測定誤差が回避され、精度の高い真円度の測定が可能となる。
【0033】
ボールスプライン機構のハウジング34はラック軸30に連結されており、ラック軸30を上下方向に駆動することにより、測定用センサ24がシリンダボア2の軸方向に移動される。ラック軸30を駆動するため、基台23の上部にはラック軸駆動モータ46が設置してあり、その出力軸にはラック軸30に形成されたラックと係合するピニオン歯車47が固着されている。ハウジング34は、厚さ0.05mm程度の薄板48によってラック軸30の下端に連結されている(図2及び図4参照)。薄板48は厚さ方向には可撓性が大きいから、ラック軸30が横方向に振動したとしても薄板48により振動が遮断され、ハウジング34には上下方向のみの動きが伝達されることとなり、この面からも測定用センサ24の振動に伴う測定誤差が回避される。
【0034】
スプライン軸駆動モータ38及びラック軸駆動モータ46の回転軸には、回転角度を検出するロータリーエンコーダ49、50がそれぞれ取付けられ、ロータリーエンコーダ49により測定用センサ24の回転位置が検出され、ロータリーエンコーダ50により軸方向位置が検出されて、それらの検出信号はコンピュータ等のデータ処理装置に送られる。スプライン軸駆動モータ38とラック軸駆動モータ46は、断熱板51を介して上部基板231に固定されるとともに、これらを収容するケース52内には冷却空気が送り込まれ、駆動機構の熱による損傷を防止している。
【0035】
ここで、本発明の測定装置20の使用態様について述べる。
図1に関して説明したように、シリンダボア2の真円度を測定する際には、エンジンのシリンダブロック1にシリンダヘッド3を締結ボルト4によって締め付け、シリンダブロック1を上方にしてこの組立体9を台上に設置した後、高温の流体をポンプ13によって供給する。所定の時間が経過し、流体の出入口の温度差及びシリンダブロック1の温度が安定した時に、作業者が本発明の測定装置20の取っ手27を手で保持し、シリンダブロック下面に上方から載置する。
【0036】
測定装置20の下方には第1基準部材21と第2基準部材22とが取付けてあり、これらは測定用センサ24が嵌め込まれたスプライン軸29を位置決めするための基準面を備えている。作業者は、第1基準部材21をシリンダボア2の内周面に当接しながら第2基準部材22を軸受部7の半円形状に合わせて測定装置20を設置するだけで、スプライン軸29をシリンダボア2の中心に位置させることができる。したがって、測定装置の位置決めは容易で短時間に行うことができ、シリンダブロック1が高温となり作業環境が悪化している状況にあっても、作業者に危険が及ぶことはない。
【0037】
測定装置20を組立体9上にセットした後は、これに接続されたコンピュータ等の制御装置により、測定用センサ24の駆動機構25を制御して真円度の測定を実行する。具体的には、ラック軸駆動モータ46を回転して測定用センサ24をシリンダボア2の軸方向の所定位置に設定し、スプライン軸駆動モータ38により測定用センサ24を回転させ、シリンダボア2の中心軸と内周面との距離を連続的に測定して真円度を求める。真円度の測定を軸方向の多数の位置で実行し得られたデータを処理することにより、真円度の軸方向の分布状況、すなわち、シリンダボア2の円筒度が求められることとなる。なお、測定用センサ24としては、例えば、電気容量式センサあるいは渦電流式センサなど周知のセンサを、シリンダブロック1の材質等を勘案しながら適宜選択して使用する。
【0038】
本発明の測定装置20では、測定用センサ24を回転させるスプライン軸29が上下方向の振動を吸収するようピン43を介して駆動されるとともに、ラック軸30と測定用センサ24とは横方向の振動を遮断する薄板48を介して連結されている。このため、測定用センサ24の振動が可及的に防止され、振動の影響に伴う測定誤差が回避される。また、駆動機構25は、基台23に断熱板51を挟み込んで取付けられ、基台23等には冷却空気が供給されているため、高温の流体を流しシリンダブロック1の温度を上昇させて測定する場合であっても、駆動機構25への熱の伝達が遮断され、熱による駆動機構25の作動不良や損傷を防止することができる。
【0039】
以上詳述したとおり、本発明のシリンダボアの真円度測定方法は、シリンダブロックとシリンダヘッドを締結ボルトで締め付けた、実際のエンジン作動時の状態で真円度を測定するものであり、さらには、これのウォータジャケットに高温の流体を通過させて測定するものである。上述の実施例では直列型のエンジンについて説明しているが、本発明の真円度測定方法は、シリンダブロック下面からシリンダボアが見通せるものであれば、例えばV型エンジンにも適用できることは明らかである。また、本発明の測定装置は、半円形状の主軸受部を形成したシリンダブロック、例えばクランクシャフトを有する往復動式コンプレッサのシリンダブロック、であれば、そのシリンダボアの真円度を測定するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のエンジンシリンダボア真円度の測定方法を示す全体図である。
【図2】本発明の真円度測定装置の全体図である。
【図3】本発明の測定装置における基準部材の断面図及び斜視図である。
【図4】本発明の測定装置におけるボールスプライン機構の要部の断面図である。
【図5】本発明の測定装置のスプライン軸と被駆動プーリとの連結部を示す図である。
【図6】水冷式エンジンの構造を示す断面図である。
【図7】図6のA−A断面を示す図である。
【図8】シリンダブロック下面を示す、図6のB−B矢視図である。
【図9】従来の真円度測定方法及び測定装置を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 シリンダヘッド
4 締結ボルト
5、6 ウォータジャケット
7 主軸受部
9 組立体
10 台
13 ポンプ
20 測定装置
21 第1基準部材
22 第2基準部材
23 基台
24 測定用センサ
29 スプライン軸
30 ラック軸(操作軸)
38 スプライン軸駆動モータ
43 ピン
48 薄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダブロック(1)に設けられたシリンダボア(2)の真円度を測定する測定方法であって、
前記シリンダブロック(1)に組み合わされるシリンダヘッド(3)を締結ボルト(4)により前記シリンダブロック(1)に締結して組立体(9)とし、さらに、前記組立体(9)を、前記シリンダブロック(1)が上側に前記シリンダヘッド(3)が下側に位置するよう台(10)上に設置し、
真円度を測定する測定用センサ(20)を、前記組立体(9)の上方から前記シリンダボア(2)に挿入して測定することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
前記シリンダブロック(1)及び前記シリンダヘッド(3)がウォータジャケット(5、6)を有しており、前記ウォータジャケット(5、6)に高温の流体を送り込んで測定する請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
シリンダブロック(1)に設けられたシリンダボア(2)の真円度を測定する測定装置(20)であって、
前記測定装置(20)は、前記シリンダボア(2)に挿入される測定用センサ(24)を、前記シリンダボア(2)の内周面に沿って回転させるとともに前記シリンダボア(2)の軸線方向に移動させる駆動機構(25)と、その駆動機構(25)を保持する基台(23)とを有し、
前記基台(23)には、前記シリンダボア(2)の内周面と合致する基準面を形成した第1基準部材(21)と、前記シリンダブロック(1)の下部に設けられた主軸受部(7)の形状に合致する基準面を形成した第2基準部材(22)とが取付けられていることを特徴とする測定装置。
【請求項4】
前記第1基準部材(21)と前記第2基準部材(22)とは、断熱材(28)を介して前記基台(23)に取付けられ、前記基台(23)の内部には冷却用の流体が送り込まれる請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記駆動機構は、前記測定用センサ(24)を取付けたボールスプライン機構が嵌め込まれるスプライン軸(29)と、前記ボールスプライン機構を前記シリンダボア(2)の軸方向に移動させる操作軸(30)とを有しており、
前記スプライン軸(29)は、その軸の径方向に嵌めこまれたピン(43)を介してスプライン軸駆動モータ(38)により回転駆動されるとともに、前記ボールスプライン機構は、薄板(48)を介して前記操作軸(30)に連結されている請求項3又は請求項4に記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−275760(P2006−275760A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95206(P2005−95206)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】