説明

シリンダ潤滑システム及びシリンダ潤滑装置を備えた往復ピストン燃焼エンジン

【課題】往復ピストン燃焼エンジン、特に、低速運転二行程大型ディーゼル・エンジンのシリンダ4のシリンダ壁3の滑り面2の潤滑用の改良されたシリンダ潤滑システム1の提供。
【解決手段】ピストン5が、軸線方向Aに下死点位置UTと上死点位置OTとの間でシリンダ4の滑り面2に沿って往復移動可能であるように構成される。この点において、掃気スロット7が、運転モードにおいて、外気71が掃気スロット7を通じてシリンダ4の燃焼空間8へ供給され得るようにシリンダ4の入口領域6に設けられる。本発明によれば、潤滑油10がシリンダ4の外へ導かれ得るように、出口開口部9が、掃気スロット7と上死点位置OTとの間の領域にシリンダ壁3に設けられる。更に、本発明は、本発明によるシリンダ潤滑システム1を備えた往復ピストン燃焼エンジンにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ潤滑装置に関するものであり、特に各カテゴリの独立請求項の前提部に記載されたシリンダ潤滑装置を備えた低速運転大型ディーゼル・エンジンの往復ピストン燃焼エンジンに係るものである。
【背景技術】
【0002】
大型ディーゼル・エンジンは、船舶用の駆動ユニットとして、又は、例えば電気エネルギーを発生させるための大型発電機を駆動するための定置運転においてもしばしば利用される。この点に関して、一般に、エンジンは、運転の安全性及び稼働率に対して高い要件を課す連続的な運転モードで相当の期間にわたって動作する。したがって、特に操作者にとって、長期のメンテナンス間隔、低摩耗、並びに燃料及び潤滑剤の経済的な取り扱いは、エンジン操作に関する主要な基準となる。とりわけ、このような大口径の低速運転ディーゼル・エンジンのピストン動作挙動は、メンテナンス間隔の長さおよび稼働率に関して、また、潤滑剤の消費によって、直接的には運転コストに関しても、ひいてはコスト有効度に関しても決定的な要因である。このため、大型ディーゼル・エンジンの潤滑の複雑な問題は、これまで以上に重要になっている。
【0003】
しかしながら、大型ディーゼル・エンジンに関しては、これらのみならず、ピストン潤滑が、往復移動するピストン内に又はシリンダ壁内に構成された潤滑装置によって達成され、潤滑油はシリンダ壁を通じてシリンダ壁の滑り面へ供給され、ピストンと滑り面との間の摩擦を軽減し、したがって滑り面およびピストン・リングの摩耗を最小限に抑制する。例えば、バルチラ(Wartsila)のRTAエンジン等の現代のエンジンに関して、滑り面の摩耗は、今日、1000時間の運転期間で0.05ミリメートル未満の状況にある。このエンジンの潤滑油の流量は、約1.3g/kWh以下にあり、特にコストの理由により、同時に摩耗を最小限に抑制しつつ、可能であれば更に抑制されるべきである。
【0004】
多くの様々な解決策が、潤滑装置自体の特定の具体例および潤滑のための方法について、滑り面の潤滑のための潤滑システムとして知られている。例えば、潤滑油がシリンダ壁の周方向に設けられている複数の潤滑剤開口部を通じて通り過ぎるピストン上に供給され、潤滑剤が周方向及び軸線方向の両方でピストン・リングにより分配される潤滑装置が知られている。この方法を用いた場合、潤滑剤が、シリンダ壁の滑り面にわたり広範囲に供給されず、おおよそピストン・リング間で選択式にピストンの側面上に供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
潤滑油を相手材に供給する方法とは関係なく、クロス・ヘッドの大型ディーゼル・エンジンのシリンダ潤滑に関する固有の問題があり、今日いまだ解決されない。
【0006】
例えば、1つの問題は、潤滑油による受容空間の大規模な汚染であり、これは原理上常に生じるものである。その理由は、ピストンが、下死点位置に向かう方向への動作時に、受容空間内へ開口する掃気スロットを通過する際、潤滑油が、ある量の潤滑油が常に蓄えられるピストン・リング溝及び/又はピストン・リング・パッケージから、ピストン・リング・パッケージ内の正圧により、潤滑油の雲の形態で、受容空間内へ排出されるからである。
【0007】
当業者に知られるように、ガス圧は、ピストン・リング・パッケージにわたるラビリンス・シール内と同様に、燃焼空間内に移動し、ピストン・リング・パッケージ内に位置する潤滑油とともにそこに蓄えられ、ピストン・リング・パッケージがシリンダ壁の滑り面に密封接触する限り、実質的に逃れることができない。その後、ピストンが、下死点位置UTへの方向の減圧動作時に、掃気スロットを通過する際、ピストン・リング・パッケージ内に蓄えられたガス圧は、ピストン・リング・パッケージ内に蓄えられた潤滑油とともに、掃気スロットを介して、潤滑油の雲の形態で、受容空間内に急速に逃げることができる。それにより、受容空間は、潤滑油により大規模に汚染される。
【0008】
受容空間それ自体の汚染に加えて、このプロセスには、なお多くの他の負の派生的問題がある。受容空間内に排出された潤滑油は、当然ながら同様に、吸引サイクル毎に燃焼空間へ供給される外気とともに、少なくとも部分的に燃焼空間内に運ばれる。燃焼空間では、潤滑油が燃焼し、その結果、更なる供給毎に最終的に失われる。
【0009】
特に、非常に高価であり、大型のディーゼル・エンジンの運転コストに相当に影響する潤滑油の損失は、コスト及び原料を節約するために、可能であれば回避又は少なくとも最小限に抑制すべきである。
【0010】
更なるポイントは、掃気スロットの領域において、すなわち掃気スロットの上方及び真下で並びに掃気スロット自体で、潤滑がしばしば不十分になることである。ここでは、特にやはり潤滑油が、上気のようにピストン・リング・パッケージから掃気スロットを通じて排出されるため、しばしば対向する相手方同士の間で潤滑剤がほとんど使用できなくなる。
【0011】
したがって、本発明の目的は、往復ピストン燃焼エンジンのシリンダの滑り面の潤滑のための改良された潤滑装置を提供し、それにより上記した問題を回避し、特に潤滑油による受容側の汚染を著しく抑制し、潤滑油を好ましくは節約し、掃気スロットの領域における潤滑を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のこれらの目的を満足させる主題は、独立請求項1の構成により特徴付けられる。
【0013】
従属請求項は、本発明の特に有利な具体例に関する。
【0014】
したがって、本発明は、とりわけ低速運転二行程大型ディーゼル・エンジンの、往復ピストン燃焼エンジンのシリンダのシリンダ壁の滑り面の潤滑のためのシリンダ潤滑装置に関する。ピストンは、シリンダ内に配置され、下死点位置と上死点位置との間で、滑り面に沿って軸線方向に往復移動可能である。この点に関し、掃気スロットがシリンダの入口領域に設けられ、それにより運転モードにおいて、外気が掃気スロットを介してシリンダの燃焼空間へ供給できる。本発明によれば、潤滑油がシリンダの外へ導かれ得るように、出口開口部が、シリンダ壁の掃気スロットと上死点位置との間の領域に設けられる。
【0015】
本発明による出口開口部によって、掃気スロットを通じて受容空間内へ比較的高圧で潤滑油の雲の形態でピストン・リング・パッケージの外へ予め噴霧された潤滑油による受容側及び/又は受容空間の汚染を効果的に防止することが、初めて可能になる。
【0016】
出口開口部を通じてシリンダの外へ導かれた潤滑油が、好ましくは油貯留空間に集められるため、油貯留容器に集められた潤滑油を再利用することができるので、潤滑油が付加的に節約できる。この目的のため、潤滑油は、例えば浄化装置及び/又は再循環装置へ供給できる。浄化装置及び再循環装置では、出口開口部を通じてシリンダから集められた潤滑油が再度浄化、再処理され、および潤滑油回路に再度供給される。潤滑油回路においては、例えば、潤滑油が潤滑油用の精製油タンクに再供給される。
【0017】
実用上特に重要な例では、油貯留空間に集められた潤滑油が、油貯留空間の外へ直接的に掃気スロットの領域におけるシリンダ滑り面上へ入口開口部を通じて戻され、その結果、やはり初めて、掃気スロットの領域において滑り面に潤滑油を理想的に付加的に供給することができる。
【0018】
受容側に予め失われた潤滑油がこのように潤滑用に利用され得るため、本発明により潤滑油による受容側の汚染は防止され、掃気スロットの領域におけるシリンダの滑り面の潤滑が改善されると同時に、潤滑油が節約される。
【0019】
したがって、好適な具体例では、シリンダ潤滑装置のサブシステム内への潤滑油の戻りのための戻り手段が設けられる。この点において、サブシステムは、例えば、シリンダ又はシリンダのシリンダ滑り面若しくは出口開口部を介してシリンダの外へ導かれる潤滑油が再処理され潤滑油回路へ再供給されて戻される浄化装置及び/又は再循環装置であり得る。特に、サブシステムは、出口開口部を介して排出された潤滑油が、例えば、潤滑油回路内へ再循環することができない場合に処分する廃棄容器であることも可能である。
【0020】
既に述べたように、実用上特に重要な具体例では、出口開口部に連通する油貯留空間が、シリンダからの潤滑油が油貯留空間内へ供給され中間的に蓄えられ得るように設けられる。
【0021】
この点に関して、先に述べた戻り手段は、シリンダ壁内に油貯留空間と連通して設けられた入口開口部であると特に好適であり、それにより、潤滑油をシリンダの滑り面の潤滑のために油貯留空間からシリンダ内へ再供給できる。
【0022】
特に空間の節約のため、油貯留空間はシリンダのシリンダ壁の一体的な構成要素にでき、それにより、場所を取る付加的な油貯留空間をシリンダ・ライナに外側に設ける必要がない。当然ながら特に、油貯留空間は、やはりシリンダの外側に代替的に又は付加的に設けることが可能である。
【0023】
油貯留空間が、全体的に又は部分的にシリンダのまわりに延びるリング空間として形成されることが好ましい。
【0024】
この点に関し、例えば、周方向及び/又は軸線方向に互いに離して少なくとも2つの油貯留空間を設けることができる。それにより、一方では、ピストンのピストン・リング・パッケージからの潤滑油が油貯留リングにより一層効果的に集められることが可能であり、他方では、集められた潤滑油が、再度より良く、入口開口部によって滑り面上により大きな領域にわたって再循環させられることが可能である。
【0025】
この目的のため、好ましくは、複数の入口開口部をも設けることができ、油貯留空間も、中間壁により互いに隔離される複数の油空間区域に分割できる。それにより、導かれた潤滑油が、個々に、できる限り異なる種類及び方法で、これらを通じて個々の油空間区域内に出口開口部を介して導かれ、シリンダ滑り面の特定の領域にも特定の油空間区域の位置に応じて、対応する油空間区域からの潤滑油を個々に直接的に供給することができる。
【0026】
この目的のため、圧力弁及び/又は逆止弁が、油貯留空間に、好ましくは各油空間区域に設けられ得ることが好ましい。それにより、戻り手段によりサブシステムに戻ることのできる潤滑油の量、特に、シリンダ滑り面上に戻ることのできる潤滑油の量が、予め設定可能な値の範囲に設定され得る、及び/又は、戻り手段によりサブシステム内に再供給される潤滑油の量が、周方向に対して及び/又は軸線方向に対して可変になる。
【0027】
特に好ましくは、潤滑油の流量が設定可能であり、特に理想的な、時間及び位置の両方に応じて予め設定可能な滑り面の潤滑が可能となるように、出口開口部及び/又は戻り手段、特に入口開口部が形成される。
【0028】
更に、本発明は、往復ピストン燃焼エンジンに関し、特にこの文献に記載されるような本発明によるシリンダ潤滑装置を有する二行程大型ディーゼル・エンジンに関する。
【0029】
本発明は、以下に、概略的な図面を参照しながら詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による二行程大型ディーゼル・エンジンのシリンダ構成を示す図。
【図2】油貯留空間を備えた実施例を示す図。
【図2a】出口溝及び入口溝を備えた図2の実施例を示す図。
【図2b】図2aの実施例の変形体を示す図。
【図3】図2に関する第2の実施例を示す図。
【図4】図2に関する第3の実施例を示す図。
【図5a】掃気スロット付近におけるピストンの減圧動作を示す図。
【図5b】掃気スロット付近におけるピストンの減圧動作を示す図。
【図5c】掃気スロット付近におけるピストンの減圧動作を示す図。
【図5d】掃気スロット付近におけるピストンの減圧動作を示す図。
【実施例】
【0031】
図1の本発明によるシリンダ構成は、本発明による出口開口部は別として、長手方向に掃気された二行程大型ディーゼル・エンジンに関する先行技術からそれ自体知られるような典型的な構成である。
【0032】
シリンダ壁3の滑り面2の潤滑のための本発明によるシリンダ潤滑装置1を有するシリンダ構成は、シリンダ・ライナ4とも呼ばれるシリンダ4を有する。シリンダ4では、ピストン5が、軸線方向Aにシリンダ4の滑り面2に沿って下死点位置UTと上死点位置OTとの間で往復移動できるように構成される。ピストン5は、ピストン・リング・パッケージ50を有し、ピストン・リング・パッケージ50は、ここで、2つのピストン・リング51、52のみを備えて単に概略的に図示される。すなわち、トップ・リング51として知られてもいる、燃焼空間8に最も近接して存在する第1のピストン・リング51を備えるとともに、例えば、欧州特許第1936245A1号による油貯留リング52として形成され得る第2のピストン・リング52を備える
【0033】
燃焼空間8は、図示のとおり、噴射ノズル801を有するシリンダ・カバー800及び図1では開いている出口弁802により上端が境界付けられている。
【0034】
ピストンは、それ自体知られた方法で、ピストン・ロッド53を介して、図1には示されていないクロス・ヘッドに接続され、クロス・ヘッドから大型ディーゼル・エンジンの運転モードにおけるピストンの往復動作が、同様に図示されないエンジンのクランク・シャフトへ受け渡される。ピストン・ロッド53は、例示に従ってシリンダ・ライナ4とその底部で隣接する受容空間15を通じて、また、下側に存在するクランク・シャフト空間16に対して受容空間15を密閉するパッキン箱151を通じて案内される。それにより、同様に図示されないターボ・チャージャが、高圧で、例えば4バール(40000パスカル)の圧力で受容空間15へ供給し、矢印71により表される外気71が、受容空間15を出てクランク・シャフト空間16内へ移動できない。
【0035】
この点に関して、運転モードでは、図示のとおり、外気71が、ピストン5の上側が下死点位置UTと掃気スロットの上側端部との間にある限り、それ自体知られる方法で、ターボ・チャージャから燃焼空間8内に供給できる。
【0036】
本発明によれば、出口開口部9が、掃気スロット7と上死点位置OTとの間の領域においてシリンダ壁3に設けられ、それにより潤滑油10がシリンダ4の外へ排出され得る。図1の実施例では、図示のとおり、出口開口部9が、掃気スロット付近の受容空間15の上方に設けられる。
【0037】
図2は、本発明の簡単な特定の実施例を示しており、ここでは、リング状の油貯留空間13がシリンダ4の掃気スロット7の上方に設けられる。図3及び図4は、更に、図2に従った実施例の他の展開型を示している。
【0038】
往復ピストン燃焼エンジン(以下の実施例では低速運転二行程大型ディーゼル・エンジンである)のシリンダ4のシリンダ壁3の滑り面2の潤滑用のシリンダ潤滑装置1は、シリンダ4を有し、シリンダ4においては、ピストン5が、軸線方向Aに下死点位置UTと上死点位置OTとの間で滑り面2に沿って往復移動可能であるように配置される。容易に認識され得るように、ピストン5は、図2に示されない受容空間15内で、シリンダ4の入口領域6に設けられる掃気スロット7の真上に配置され、それにより、外気71が、同様に明瞭性のため図示されないターボ・チャージャによって、掃気スロット7を介して、運転モードにおけるシリンダ4の燃焼空間8へ供給され得るようになっている。本発明によれば、出口開口部9が、掃気スロット7と上死点位置OTとの間の領域において、シリンダ壁3に設けられ、潤滑油10がシリンダ4の外へ排出され得るようになっている。
【0039】
図2の断面説明図では認識できないが、図2の実施例では、複数の出口開口部9が、周方向Uに沿って分布しており、潤滑油10が、周方向Uにわたり均一にシリンダ4の外へ排出され得るようになっている。
【0040】
ピストン5が、下死点位置UTへの方向の動作時に、複数の出口開口部9を通過する際、潤滑油10は、ピストン・リング溝の外へ、及び/又は、ある量の潤滑油10が蓄えられるピストン・リング・パッケージ50の外へ、ピストン・リング・パッケージにかかる正圧により、出口開口部9内へ潤滑油の雲の形態で排出される。
【0041】
当業者に知られるように、ガス圧は、ピストン・リング・パッケージ50のラビリンス・シールと同様に、燃焼空間8内に移動し、ピストン・リング・パッケージ50内にある量存在する潤滑油10とともにそこに集められ、ピストン・リング・パッケージ50がシリンダ壁3のピストン滑り面2に密封接触する限り、実質的に逃れることができない。その後、ピストン5が、下死点位置UTへ向かう方向に減圧動作を起こす際に、出口開口部9を通過するとき、ピストン・リング・パッケージ内に蓄えられたガス圧は、ピストン・リング・パッケージ50内に蓄えられた潤滑油とともに、潤滑油の雲状の形態で、出口開口部9内に急速に逃げることができる。
【0042】
この点に関し、逆止弁17が、潤滑油10及び/又は潤滑油の雲が、開口部9を通じてシリンダ内へ戻ることを防止する。逆止弁17は、このように、油貯留空間13から出てシリンダ内に戻る流体の流れを阻止する。
【0043】
その後、潤滑油10の雲は、液体の潤滑油10の形態で、油貯留空間13にてそれ自体を安定し、重力の影響により油貯留空間13の底部に潤滑油10の溜まり及び/又は湖を形成する。油貯留空間13にこのように集められた潤滑油10は、その後、シリンダ壁3の滑り面2の潤滑のために再び利用可能であり、このため、シリンダ潤滑装置1のサブシステム12を形成する滑り面2へ入口開口部111を通じて再供給される。
【0044】
この点に関して、ピストン5の膨張行程の度に油貯留空間13に入る潤滑油10の雲が原因となり、ある静水圧が、油貯留空間13の内部に形成され、それにより、油貯留空間13に集められた潤滑油10は、再びシリンダ壁3の滑り面2上に入口開口部111を通じて再循環させられる。一方では、それにより、潤滑油10の雲が、受容空間内に逃げ、それを汚染することが防止される。他方では、シリンダ4の下側領域における滑り面2の潤滑が、特に掃気スロット7の領域において、著しく改善される。
【0045】
同様に、逆止弁18が入口開口部111に設けられ、それが、潤滑油、潤滑油の雲の一部、又は、例えば燃焼空間8からの若しくは受容空間15からの圧縮ガスが、油貯留空間13内に入口開口部111を通じて移動することを防止する。したがって、逆止弁18は、シリンダ4から油貯留空間13内への流体の流れを阻止する。
【0046】
更に、圧力弁14が油貯留空間13に設けられ、予め設定可能な静水圧が、油貯留容器13にて設定できる。それにより、戻り手段11、111を通じて再供給可能である潤滑油10の量、すなわち、ここではサブシステム12内に、つまり、ここでは滑り面2上に入口開口部111を通じて再供給可能な量が、予め設定可能な値の範囲に設定できるようになっている。
【0047】
潤滑油10の雲が、油貯留空間13に液体の潤滑油10の形で安定させられる前に、再び油貯留空間13の外に逃げることを防止するために、曲げられたシート金属部品131、132が、これを防止するために役立つ予防措置として設けられる。
【0048】
この点に関し、出口開口部9及び/又は入口開口部111が、周方向Uにおいて全体的に又は部分的に延びる出口溝90に、及び/又はシリンダ壁3の入口溝1110に設けられることも可能である。図2aに概略的に示されるように、出口溝90及び/又は入口溝1110は、同時に、滑り面2の潤滑用の潤滑油10が中間的に蓄えられ得る油貯留器として作用できる。この点に関して、出口溝90及び/又は入口溝1110は、当然ながら、必ずしも図2aに概略的に示されるようなジグザグ線の形状で延在する必要はない。しかしながら、図2aの例示的なジグザグ形状の広がりは、複数の出口開口部9及び/又は複数の入口開口部111が軸線方向Aに関して様々な高さで構成できるという利点を有する。そのため、ピストン5は、図2aの実施例における滑り面2に沿ったその動作が、全ての出口開口部9及び/又は全ての入口開口部111が軸線方向Aに関して同じ高さに設けられた場合よりも長い期間の間、出口開口部9及び/又は入口開口部111の有効領域に残るため、より多くの潤滑油10が、ピストン・リング・パッケージ50から集められ得る、又は、例えば、入口開口部111を通じて、通り過ぎるピストン5へ、より長い間供給できるようになっている。
【0049】
この点に関し、出口溝90及び入口溝1110は、シリンダ壁3の1つの同じ溝により形成できる。しかしながら、各別個の溝もまた、シリンダ4のシリンダ壁3にて出口溝90及び入口溝1110用に設けることができる。
【0050】
この点に関して、別の実施例においては、油貯留空間13は、シリンダ4のシリンダ壁3の一体的な構成要素として形成できる。この実施例が、図2aに概略的に示される。この点について、複数の出口開口部9及び複数の入口開口部111が、図2の特定の実施例における軸線方向Aに、滑り面2にて交互に構成される。
【0051】
当然ながら、図2bによる変形体の特有の利点は、油貯留空間13がシリンダ壁3の一体的な構成要素なので、油貯留空間13用の付加的な空間が必要とされないことである。
【0052】
図面に明示されない別の特定の実施例では、出口開口部9を通じて集められた潤滑油10が、本発明によるシリンダ潤滑装置1のサブシステム12を同様に構成する潤滑油処理装置12に対して、全体的に又は部分的に供給され得ることも可能である。潤滑油処理装置12は、例えば、集められた潤滑油10が再び浄化され、続いて潤滑油回路に対して再び利用可能とされ得る浄化装置12であり得る。
【0053】
同様に図面に示されない更なる実施例では、出口開口部9を通じて集められた潤滑油10は、例えば過度に激しく汚染されているため、又は戻り手段11、111が設けられていないためにもはや使用できない。そのため、出口開口部9を通じて集められた潤滑油10がこの場合に適切に処分される。
【0054】
図2による本発明の更なる例示的な好都合の実施例が、図3及び図4を参照して提示される。
【0055】
図3の実施例では、更に、すすシート金属部品133がサイフォン133の形状で設けられる。すす堆積物100が油貯留空間13に留め置かれ、特に、逆止弁18内に、および滑り面2上にも移動することができないようになっており、それにより、逆止弁18の遮蔽が防止でき、損傷を与えるすすが滑り面2から遠ざけられるようになっている。
【0056】
図4の実施例では、出口栓を備えた出口弁134が付加的に設けられ、それにより、すす100が、時折又は連続的に、そして自動的に、油貯留空間13から除去され得るようになっている。
【0057】
本出願に記載されている又は述べられているどの実施例が実現されるかとは関係なく、あらゆる場合において本発明によるシリンダ潤滑装置1は、ピストン・リング・パッケージ50内に蓄えられた潤滑油10が、受容空間内に吹き出されず、それにより、それを汚染することのないという効果を有することが、現時点ではっきりと述べられるべきである。
【0058】
図5a〜図5dには、ピストン5の減圧動作が、図5aによるピストン・リング・パッケージ50がなお出口開口部9の上方にある位置から、ピストン5が、下死点位置UT付近における掃気スロット7の真下にある図5dに関するピストン5の位置まで示されている。
【0059】
図5aに関する位置において、ピストン・リング・パッケージ50は、なお完全に出口開口部9及び/又は入口開口部111の上方にあり、ピストン・リング・パッケージ50にあるガス圧で蓄えられた潤滑油10は、ピストン・リング・パッケージ50から本質的に逃げることができないようになっている。この位置において、シリンダ4から開口部9を通じた油貯留空間内への、潤滑油10の流れ又は潤滑油10の雲のどちらもなく、そしてまた、入口開口部111を通じたシリンダ滑り面2上への潤滑油10のいかなる逆流もない。
【0060】
図5bに示すように、ピストン・リング・パッケージ50は、現在、軸線方向Aに関して、出口開口部9及び/又は入口開口部111の高さにある。油貯留空間13の十分に大きな容量のために、潤滑油10の雲の大部分は、現在、ピストン・リング・パッケージ50に蓄えられた圧力の影響の下で、出口開口部9を通じて、油貯留空間13内へ流れる。潤滑油10の雲の非常にわずかな一部のみが、下側のピストン側へ失われる。
【0061】
図5cに示すように、ピストン・リング・パッケージは、現在、入口開口部111の位置よりも下方の位置へ移動させられており、潤滑油10の雲は、第1に、油貯留空間13内にほとんど完全に入っている。図5cでは、現在、油貯留空間13の静水圧の下で、又は、単に重力の影響の下で、先に集められた潤滑油10が、入口開口部111を通じて滑り面2上へ移動させられ、その結果、掃気スロット7の領域において滑り面2の潤滑が改善される。適度に小さく選択された入口開口部111の断面のおかげで、油貯留空間13の圧力低下は非常に遅く、十分に長い時間、潤滑油が、入口開口部111を通じて滑り面2上へゆっくりとまた連続的に再供給され、その結果、ピストンが、いくぶん遅れて開始する圧縮行程においてさえ、油貯留空間に集められた潤滑油から恩恵を受け得る。
【0062】
図5dでは、ピストン5は、現在、掃気スロット7の基本的に真下にある。現在、燃焼空間8と連通するために受容空間15内はより低い圧力になっており、潤滑油10は、入口開口部111を通じて滑り面2上に逆流し続け、その結果、下死点位置UTの領域においてピストン5の潤滑を更に改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復ピストン燃焼エンジン、とりわけ低速運転二行程大型ディーゼル・エンジンのシリンダ(4)のシリンダ壁(3)の滑り面(2)を潤滑するためのシリンダ潤滑装置であって、ピストン(5)が下死点位置(UT)と上死点位置(OT)との間で軸線方向(A)に前記シリンダ(4)の前記滑り面(2)に沿って往復移動可能に構成され、掃気スロット(7)が前記シリンダ(4)の入口領域(6)に設けられることにより、運転モードでは外気が前記掃気スロット(7)を介して前記シリンダ(4)の燃焼空間(8)へ供給され得るようになっているシリンダ潤滑装置において、
出口開口部(9)が、前記掃気スロット(7)と前記上死点位置(OT)との間の領域の前記シリンダ壁(3)に設けられ、潤滑油(10)が前記シリンダ(4)の外へ導かれ得るようになっていることを特徴とするシリンダ潤滑装置。
【請求項2】
戻り手段(11、111)が、前記シリンダ潤滑装置のサブシステムへの潤滑油(10)の戻りのために設けられている、請求項1に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項3】
前記サブシステム(12)が、前記シリンダ(4)の前記シリンダ壁(3)の前記滑り面(2)である、請求項1又は請求項2に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項4】
前記サブシステム(12)が潤滑油再処理装置(12)である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項5】
前記出口開口部(9)と連通する油貯留空間(13)が、潤滑油(10)が前記シリンダ(4)を出て前記油貯留空間(13)へ導かれ得るように設けられている、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項6】
前記戻り手段(11)が、前記シリンダ壁(3)に設けられ、前記油貯留空間(13)に連通する入口開口部(111)であり、前記潤滑油(10)が、前記油貯留空間(13)から前記シリンダ(4)内へ戻され得るようになっている、請求項2から請求項5までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項7】
前記油貯留空間(13)が、前記シリンダ(4)の前記シリンダ壁(3)の一体的な構成要素である、請求項5又は請求項6に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項8】
前記油貯留空間(13)が、前記シリンダ(4)の外側に設けられる、請求項5から請求項7までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項9】
前記油貯留空間(13)がリング空間として形成される、請求項5から請求項8までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項10】
少なくとも2つの油貯留空間(13)が設けられ、前記油貯留空間(13)が周方向(U)で互いに対して、及び/又は前記軸線方向(A)に対して位置がずらされている、請求項5から請求項9までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項11】
複数の入口開口部(111)が設けられ、及び/又は前記油貯留空間(13)が、中間壁により互いに隔離される複数の油空間区域に分割される、請求項5から請求項10までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項12】
圧力弁(14)及び/又は逆止弁(17、18)が、前記油貯留空間(13)、好ましくは全ての油空間区域に設けられ、それにより、前記戻り手段(11、111)により前記サブシステム(12)へ戻り可能な潤滑油(10)の量、とりわけ前記シリンダ滑り面(2)上に戻り可能な潤滑油(10)の量が、予め設定可能な範囲の値に設定できるようになっている、請求項5から請求項11までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項13】
前記戻り手段(11、111)により前記サブシステム(12)内に戻り可能な潤滑油(10)の量が、前記周方向(U)及び/又は前記軸線方向(A)に関して可変になっている、請求項2から請求項12までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項14】
前記出口開口部(9)及び/又は前記戻り手段(11)、とりわけ前記入口開口部(111)が、潤滑油の流量が設定可能であるように形成される、請求項2から請求項13までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置。
【請求項15】
請求項1から請求項14までのいずれか一項に記載されたシリンダ潤滑装置(1)を備えた、とりわけ二行程大型ディーゼル・エンジンである、往復ピストン燃焼エンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図5c】
image rotate

【図5d】
image rotate


【公開番号】特開2010−144718(P2010−144718A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277144(P2009−277144)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(501082602)ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチェンゲゼルシャフト (46)
【Fターム(参考)】