説明

シロスタゾールのシクロデキストリン包接化合物を有効成分とする緑内障治療剤

【課題】新たな緑内障の治療薬の提供。
【解決手段】一般式(1)で示されるカルボスチリル誘導体もしくはその塩、およびシクロデキストリン類を含む、点眼用緑内障治療剤。カルボスチリル誘導体もしくはその塩をシクロデキストリンに包接させることによって作られる包接化合物は、溶解性が改善され、緑内障の治療に有効である。


[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑内障治療剤、さらに詳しくは、一般式(1):
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩、およびシクロデキストリン類を含む点眼用緑内障治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は我が国における失明原因の上位を占めており、眼科分野においては常に大きな問題として取り上げられている。以前の調査によると、緑内障患者は40歳以上において推定3.56%を占めるとされていたが、最近行われた大規模な調査では、これよりさらに多くの人が緑内障に罹患していることが分かってきている(日本眼科学会HPより)。緑内障とは、眼圧が通常よりも上昇することにより視神経が損傷し、これにより視野狭窄を起こす疾患と考えられており、失明の大きな原因の一つとなっている。
【0003】
また、近年、正常眼圧緑内障も大きな問題となっている。正常眼圧緑内障とは、眼圧が正常範囲(通常21mmHg以下)にあるにもかかわらず、緑内障と同様の症状が見られる疾患であり、その有病率は緑内障の中でもかなりの部分を占めていることが明らかになっている。
【0004】
このように、緑内障は失明に至る危険要因を含んだ疾患であるにもかかわらず、その原因においては正常眼圧緑内障の場合など未だ不明な点が多く、また疾患の分類も複雑であることから、現在臨床で用いられているベータ遮断薬、プロスタグランジン製剤、アルファ作動薬などの緑内障治療薬より有用な緑内障治療薬、特に既存の治療薬にはないメカニズムが期待できるものや有効化合物の構造の種類が異なるなどの新たな緑内障治療薬の開発が切望されていた。
【0005】
一方、一般式(1)で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩ならびにその製法は、特許文献1に記載されており、それが血小板凝集抑制作用、ホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害作用、抗潰瘍作用、降圧作用及び消炎作用を有し、抗血栓症剤、脳循環改善剤、消炎剤、抗潰瘍剤、降圧剤、抗喘息剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤などとして有用であることが知られている。
【0006】
また、非特許文献1には、前記カルボスチリル誘導体の一つであるシロスタゾールが静脈注射投与において、視神経に影響を及ぼす旨が開示されており、実験的な確認はされていないが、緑内障の治療の可能性が示唆されている。
【0007】
また、特許文献2には、前記カルボスチリル誘導体が水に対して難溶であることから、水への溶解度を上げて注射用製剤とするために、シクロデキストリン類を含有した注射用シロスタゾール水性製剤の開示がされている。
【特許文献1】特公昭63−20235号公報
【特許文献2】特開2003−63965号公報
【非特許文献1】Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics, Vol. 14, No. 3, 239-245 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かくして、上記のとおり、緑内障については、その原因が未だ不明な点が多く、また疾患の分類も複雑であることから、より有用な緑内障治療薬、特にこれまでにないタイプの緑内障治療薬の開発が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々研究を重ねるうちに、前記一般式(1)で表されるカルボスチリル誘導体、特に6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩を、シクロデキストリンに溶解させることによって作られると考えられる包接化合物が緑内障の治療に有効であることを見出した。上記のとおり該カルボスチリル誘導体は水に難溶であり、点眼剤には不向きであったが、シクロデキストリンに溶解することで、点眼剤として用いることを可能とし、しかも緑内障に効果があることは予測外のことであり、これまでにないタイプの新たな点眼用緑内障治療薬として期待される。なお、特許文献2では注射用剤としてシクロデキストリンが検討されていたが、点眼用としては全く検討されておらず、また、非特許文献1においてはカルボスチリル誘導体であるシロスタゾールによる緑内障の治療の可能性が示唆されていたが、具体的な薬理実験や実用的な製剤態様もなかった。
【0010】
本発明者らは、緑内障治療動物モデルウサギにおいて、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩をシクロデキストリン類に溶解させてできた包接化合物を点眼することによって緑内障の治療を改善することを発見し、初めてカルボスチリル誘導体による実用的な緑内障治療薬を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明によれば、一般式:
【化2】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体もしくはその塩、およびシクロデキストリン類を含む、点眼用緑内障治療剤を提供する。
【0012】
また本発明によれば、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)もしくはその塩、およびシクロデキストリン類を含む、点眼用緑内障治療剤を提供する。
【0013】
また本発明によれば、シクロデキストリン類が2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである、上記点眼用緑内障治療剤を提供する。
【0014】
本発明によれば、上記カルボスチリル誘導体もしくはその塩とシクロデキストリン類を含む点眼用組成物を提供する。特に、好ましいカルボスチリル誘導体としてはシロスタゾールであり、好ましいシクロデキストリン類としては2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである。
【0015】
本発明によれば、緑内障治療用の上記カルボスチリル誘導体および上記シクロデキストリン類を含む組成物を提供する。
【0016】
本発明によれば、懸濁液である上記点眼用緑内障治療剤および組成物を提供する。
【0017】
本発明によれば、緑内障治療剤を製造するための上記カルボスチリル誘導体および上記シクロデキストリン類の使用を提供する。
【0018】
本発明によれば、緑内障の患者に、治療上の有効量の上記カルボスチリル誘導体および上記シクロデキストリン類を投与することからなる緑内障の治療方法を提供する。
【0019】
本発明によれば、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩をシクロデキストリン類に溶解したものを点眼することによる緑内障治療剤を提供する。ここで溶解とは完全に溶解していること、または点眼剤として用いるのに支障のない溶解状態をいう。したがって、点眼剤として用いるのに支障のないのであれば、懸濁液であってもよい。
【0020】
本発明によれば、溶解することにより、包接化合物を形成して、上記包接化合物を有効成分とする緑内障治療剤を提供する。ここで包接化合物とはシクロデキストリンの内部に上記カルボスチリル誘導体を水素結合などで取り込んで包接複合体を形成していると考えられる化合物をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
式(1)において、「シクロアルキル基」には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどのようなC3-8シクロアルキル基が含まれ、好ましくはシクロヘキシルである。「低級アルキレン基」には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレンなどのようなC1-6アルキレン基が含まれ、好ましくはブチレンである。
【0022】
好ましいカルボスチリル誘導体は、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]3,4−ジヒドロカルボスチリルであり、抗血小板薬としてシロスタゾールの商品名で市場に出ている。
【0023】
本発明のカルボスチリル誘導体(1)は、医薬的に許容される酸を作用させることによって容易に塩を形成し得る。該酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸を挙げることができる。
【0024】
これらのカルボスチリル誘導体(1)およびその塩、並びにその製造方法については、例えば特許文献1に開示されている。
【0025】
本発明で用いられるシクロデキストリン類としては、特許文献2に開示されたシクロデキストリンを用いることができる。特に、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−β−CD)が最も好ましく、カルボスチリル誘導体(1)およびその塩、特にシロスタゾールを溶解してできた包接化合物は、点眼することにより、顕著な眼圧の低下が認められるだけでなく、溶血性などの副作用もなく、緑内障治療剤としてより有用である。
包接化合物の製造方法としては、カルボスチリル誘導体(1)およびその塩、特にシロスタゾールを生理食塩水によって懸濁したものに対してHP−β−CDを溶解させたものが良い。
【0026】
点眼液中のカルボスチリル誘導体(1)およびその塩、特にシロスタゾールにおいては、特に制限はないが、溶解性を向上される目的等から微細化していてもよく、マイクロオーダー、更にはナノオーダーとより微細化した点眼剤も用いられる。また微細化したカルボスチリル誘導体を含む点眼剤は、懸濁状態で用いてもよく、またろ過して用いてもよい。
微細化の方法としては、例えば乾式法では、本品原末を流体式破砕装置又は衝撃型破砕装置等に投入し、強いせん断応力によりナノ粒子化を行う。湿式法では、本品原末を適当な濃度で水又は懸濁安定化剤を含む溶液中に懸濁し、撹拌ミル、高圧ホモジナイザー又は高圧せん断型撹拌装置等に投入することによりナノ粒子化を行う。その他の方法として、炭酸ガス、水、エタノール等の超臨界流体に本品原末を溶解し、その後、常圧中に放出することによりナノ粒子化することができる。
【0027】
本発明である、カルボスチリル誘導体(1)およびその塩にシクロデキストリンを包接させた化合物は、網膜神経節細胞に対して神経保護作用を示す。この結果より、眼の虚血性疾患である緑内障に効果があることがより明らかである一方、他の眼の虚血性疾患、例えば、網膜血管閉塞症、糖尿病網膜症、虚血性視神経症、眼虚血症候群などにも効果があることが期待できる。なおここで緑内障とは、あらゆる緑内障が含まれ、特に制限されないが、閉塞隅角緑内障、開放隅角緑内障、および先天緑内障を含み、また眼圧に関しても高眼圧症および正常眼圧緑内障を含む。
【0028】
本発明の緑内障治療剤は、点眼剤にのみ制限するのではなく、広く眼適用製剤、例えば点眼剤、眼軟膏剤などの形に調整することを意図する。点眼剤、眼軟膏剤等の眼適用製剤は通常の眼科用製剤担体を用い、常法にしたがって製造することができる。通常の眼科用製剤担体は特許第3093661号に記載の基材を使用することができる。
【0029】
本発明の式(1)の化合物は、バルクで、または好ましくは通常の医薬担体もしくは希釈剤と共に調製した医薬製剤の形態で用いられ得る。これらに限らないが、本製剤中のカルボスチリル誘導体の濃度は0.005〜1%であり、好ましくは0.01〜0.25%であり、また懸濁液の場合は、0.1〜1%であり、好ましくは0.3〜0.7%であり、より好ましくは0.5%である。シクロデキストリンの濃度は1〜40%、好ましくは5〜30%である(いずれも質量/容積%)。投与方法は1回数滴を1日に1回〜10回程度投与するのが好ましい。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
シロスタゾールのシクロデキストリン包接点眼剤の製造
生理食塩液50mLにシロスタゾール(CLZ)50mg、シクロデキストリン(HP−β−CD)5gを加えて、30分攪拌した。これでは溶解しなかったため、HP−β−CDを2.5gずつ追加して攪拌し続けた結果、合計HP−β−CDを10g加えたところでCLZが完全に溶解した。よって、CLZ 0.1%(HP−β−CD 20%)溶液を調製した。これに、生理食塩液50mLを加えてCLZ 0.05%(HP−β−CD 10%)溶液を調製し、滅菌濾過し、これをCLZシクロデキストリン包接化合物点眼液とした。(濃度はいずれも質量/容積%)
【0031】
(実施例2)
微細化によるシロスタゾール高含有シクロデキストリン包接懸濁液の製造
生理食塩液500mLに低置換メチルセルロース(MC)2.5g、HP−β―CD 25gを順に加えて溶解させ、0.5% MC含有 5% HP−β−CD溶液を調製した。この溶液300mLにシロスタゾール(CLZ)1.5gを加え、懸濁液とし、これをマイクロフルイダイザー(M−110−E/H、みづほ工業株式会社製)により4回通過処理した。処理条件はマイクロフルイダイザーの流路を外部より冷却し、165MPaにて圧縮通過させ、通過ごとにMT3300(LOW−WET)粒子径測定装置(日機装株式会社製)により粒子径の変化をモニターした。4回の通過処理後の粒子径は個数平均径(MN)1.156μmであった。この懸濁液および懸濁液のろ過液をそれぞれ点眼液1および点眼液2とした(点眼液1は0.5%CLZを含み、点眼液2は0.01%CLZが含まれていた)。
また、精製水100mLにシロスタゾール100mg、HP−β―CD 20gを加えて、シロスタゾールが完全に溶解するまで攪拌し、0.1% CLZ(20% HP−β−CD)溶液を調製した。これを−80℃で凍結後、凍結乾燥した。凍結乾燥品1.005gに生理食塩液10mLを加えて、滅菌ろ過し、0.05%CLZ対照点眼液とし、更にこれを生理食塩水で2倍に希釈して0.025%CLZ対照点眼液とした。(濃度はいずれも質量/容積%)
【0032】
(製造比較試験)
シロスタゾール懸濁液(生理食塩液に0.5%懸濁)の中にHP−β−CD粉末を終濃度5〜20%になるように添加し溶解したもの(1)とHP−β−CD溶液(生理食塩液に5〜20%になるように溶解)の中にシロスタゾール粉末(終濃度0.5%)を添加し溶解したもの(2)を25℃、遮光下24時間撹拌後、メンブランフィルター(細孔0.2μm)にてろ過後、その溶解性を比較した。両者とも溶液の組成は同じであったが、結果は図1に示すとおりで、溶解方法(1)の方が溶解方法(2)よりもシロスタゾールの溶解性が増すという結果となった(包接化が優れていた)。実際には、溶解方法(1)では撹拌10分で図1に示される溶解曲線が得られたが、溶解方法(2)では撹拌10分では図1で示される溶解曲線の5分の1以下の溶解度しか得られなかった。(濃度はいずれも質量/容積%)
【0033】
(シロスタゾール・ナノ(nano−CLZ)の溶解実験)
CLZを約80%、賦形剤を約20%の割合で混合してnano−CLZ粉末を調製し、これを用いて、nano−CLZ懸濁液(0.5% CLZ懸濁液:nano−CLZ粉末 120mgを最終20mLの精製水に懸濁)の中にHP−β−CD粉末を終濃度5〜20%になるように添加し溶解したもの(1)と、HP−β−CD溶液(精製水に5〜20%になるように溶解)の中にnano−CLZ粉末(CLZ終濃度0.5%)120mgを添加し溶解したもの(2)を、25℃、遮光下24時間撹拌後、メンブランフィルター(孔径0.2μm)にてろ過後、その溶解性を比較した。
両者とも溶液の組成は同じであったが、結果は図2に示すとおりで、溶解方法(1)の方が溶解方法(2)よりもシロスタゾールの溶解性が増すという結果となった(包接化が優れていた)。実際には、溶解方法(1)では撹拌30分で図2に示される溶解曲線が得られたが、溶解方法(2)では撹拌30分では図2で示される溶解曲線の2分の1以下の溶解度しか得られなかった。(濃度はいずれも質量/容積%)
精製水を用いて調製されたnano−CLZ懸濁液の粒子径を動的レーザー光散乱粒子径測定装置Sub−micron Particle Analyzer Model N4 SD(Coulter社)にて測定した結果を以下に示す。
nano−CLZ懸濁液:251±20nm
ろ液(メンブランフィルター、孔径0.2μm):181±47nm
【0034】
(薬理試験1)
眼圧降下作用の測定をした。雄性白色ウサギの両眼にベノキシール点眼液を点眼して麻酔を施し、片眼に実施例1で得られた0.05%シロスタゾール(CLZ)シクロデキストリン包接化合物点眼液を50μL点眼した。もう片方の眼には10% HP−β−CD溶液を50μL点眼しコントロールとした。20分後に、雄性白色ウサギの耳介静脈から体重kgあたり15mLの5%ブドウ糖溶液を、30秒以内に雄性白色ウサギの耳介静脈から注入し、一過性に眼圧を上昇させた。注入20分前から60分後までの間、一定の間隔で眼圧を測定した。結果を図3に示す。CLZ点眼剤が投与された眼の眼圧は、コントロールに比べ、全体的に低下が認められた。この測定期間中の眼圧・時間曲線下面積AUCを図4にまとめ直したが、明確にCLZ点眼剤が投与された眼の眼圧が、コントロールに比べ低下していることが示された。(濃度はいずれも質量/容積%)
【0035】
(薬理実験2)
暗所において、雄性白色ウサギの両眼にベノキシール点眼液を点眼して麻酔を施し、右眼に実施例1で得られた0.05%CLZシクロデキストリン包接化合物点眼液を50μL点眼した。左眼には10%HP−β−CD点眼液を点眼した。点眼5分前から30分後までの間、一定の間隔で眼圧を測定した。実施例2で得られた0.5%CLZシクロデキストリン包接化合物点眼液(点眼液1)についても、同様の実験を行った。いずれの実験においても、CLZを投与した右眼では、シクロデキストリンのみを投与した左眼に比べ、眼圧の低下が認められた(実施例1の点眼剤については図5、実施例2の点眼剤については図6参照)。(濃度はいずれも質量/容積%)
【0036】
インビトロ ウサギ角膜透過実験
(1)緩衝液の調製:HEPES(+Glc)緩衝液
HEPES(最終濃度 10mM)、NaCl2(136.2mM)、KCl(5.3mM)、K2HPO4(1.0mM)、CaCl2・H2O(1.7mM)、グルコース(5.5mM)の順に加え溶解後、1N NaOHでpH 7.4に調整し、メンブランフィルターMinisart CE(ザルトリウス、0.2μm)でろ過した。
(2)角膜透過実験
雄性Datch種ウサギに耳介静脈により致死量のペントバルビタールおよび空気を注入することにより安楽死させた後、眼球を丁寧に摘出し、強膜部分を約1〜2mmを残して角膜部分を傷付けないように切り取った。この角膜をアクリル樹脂製角膜透過セルに装着し、リザーバー側(房水側)には等張の上記HEPES緩衝液(pH 7.4)、ドナー側(涙液側)には、上記で調製したそれぞれのCLZ点眼液を3.0mLずつを加え、35℃に加温した。角膜透過セルを、恒温槽中35℃に保ち、試験開始後15分から6時間、所定の間隔でリザーバー側から10μLずつサンプルを採取した。この採取したサンプルを、メチルフェニトインを内部標準としたHPLC法にて測定し、角膜を透過したCLZの量を求めた。
結果を図7に示す。点眼液1(0.5%CLZ懸濁液)、0.1%CLZ溶液、0.05%CLZ溶液、点眼液2(懸濁液のろ液:0.01%CLZ)、0.025%CLZ溶液の順に、濃度依存的な角膜透過が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】シロスタゾールのシクロデキストリン包接点眼剤の溶解方法の違いによるシロスタゾールの溶解性の違いを示す。
【図2】シロスタゾールのシクロデキストリン包接点眼剤の溶解方法の違いによるシロスタゾールの溶解性の違いを示す(nano−CLZ)。
【図3】CLZ点眼剤投与の有無による、ウサギの眼圧の違いを示す。
【図4】CLZ点眼剤投与の有無による、ウサギの眼圧の違いをAUCで示す。
【図5】暗所でのCLZ点眼剤およびコントロール投与の違いによる、ウサギの眼圧の違いを示す。
【図6】暗所でのCLZ点眼剤およびコントロール投与の違いによる、ウサギの眼圧の違いを示す(nano−CLZ)。
【図7】CLZの濃度の違いによるウサギ角膜透過量を時間経過と共に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体もしくはその塩、およびシクロデキストリン類を含む、点眼用緑内障治療剤。
【請求項2】
カルボスチリル誘導体が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ)3,4−ジヒドロカルボスチリル又はその塩である請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
シクロデキストリン類が2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである請求項1または2に記載の治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−227650(P2009−227650A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199301(P2008−199301)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【出願人】(506208908)学校法人兵庫医科大学 (12)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】