説明

シワ改善剤

光老化により出現するシワの改善効果に優れたシワ改善剤を提供する。本発明は、下記一般式(1):


式中、Rは、炭素数2〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基であり、
1位の立体構造は、α又はβ形のどちらであってもよい
で表されるN−アセチルグルコサミン有機酸エステルを配合することを特徴とするシワ改善剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化に伴い、特に露光部位に発生するシワの改善効果に優れ、皮膚を皮膚科学的及び美容的に健やかな状態に保つ効果を有するN−アセチルグルコサミン有機酸エステルを含有するシワ改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとするすべての生物の臓器は、誕生して成長した後、加齢と伴に徐々に衰え、やがて機能停止し、機能停止した部分がある一定以上になると死に至る。その機能が徐々に衰えていく状態を老化と呼んでいる。皮膚は、周りの環境から直接影響を受けており、生体内部の環境を維持する重要な機能を持っているため全てが機能停止に至ることはあまりないが、シワ、シミ、くすみ、タルミなど老化徴候が顕在化しやすい臓器であり、日光に暴露される露光部位では特に顕著である。
【0003】
皮膚の老化が進行すると、酸化ストレスなどの刺激に対する防御が弱まり、皮膚内部環境を乱す原因となり、さらに老化を進める。特に、露光部位では紫外線など強い酸化ストレスに常に曝されていることから、老化の進行が顕著である。このような皮膚の変化を光老化と呼んでおり、そのような皮膚では、例えば、真皮中の大部分を占める構成成分であるコラーゲンが減少するなど、様々な変化が起こり、その結果、皮膚表面でシワが深く大きくなるなど美容上も好ましくない状態となる。
【0004】
光老化が進行した結果生じるシワに対して改善効果を有する物質として、米国ではレチノイン酸が処方箋薬として用いられているが、副作用が強く安全性にも問題があるため、我が国では承認に至っていない(「FRAGRANCE JOURNAL」、1998年4月15日発行、第26巻、第4号、p.75−77参照)。したがって、安全性が高く十分な効果を有するシワ改善物質の開発が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、老化により、特に露光部位で顕著に顕在化するシワの改善効果に優れ、美容的にも健やかな皮膚に保つ効果に優れたシワ改善剤を提供することにある。
【0006】
本発明者は、上記事情を鑑み、鋭意研究を行った結果、次のシワ改善剤が老化により、特に露光部位で顕著に出現するシワを改善し、美容的にも皮膚を健やかに保つ効果及び安全性に優れることを確認して本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、下記一般式(1):

式中、Rは、炭素数2〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基であり、
1位の立体構造は、α又はβ形のどちらであってもよい
で表されるN−アセチルグルコサミン有機酸エステルを配合することを特徴とするシワ改善剤に関する。
【0008】
本発明は、加齢に伴い特に露光部位に発生するシワの改善効果に優れ、皮膚を皮膚科学的及び美容的に健やかな状態に保つシワ改善剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
【0010】
N−アセチルグルコサミンは、カニ、エビなどの甲殻類の外皮を形成するキチン質に多量に含まれているアミノ糖の1種である。本発明で用いられるN−アセチルグルコサミン有機酸エステルは、これを定法によって有機酸を用いてエステル化することにより得ることができる。
【0011】
本発明に用いられるN−アセチルグルコサミン有機酸エステルは、下記一般式(1):

式中、Rは、炭素数2〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基であり、
1位の立体構造は、α又はβ形のどちらであってもよい
で表される。
【0012】
一般式(1)におけるRは、好ましくは、炭素数が2〜12であり、より好ましくは8〜12である。また、Rは、飽和であっても不飽和であってもよい。Rとしては、例えばアセチル、ブタノイル、ヘプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、2−エチルヘキサノイル、ラウロイル、パルミトイル、ステアロイル、オレオイルを挙げることができる。
【0013】
本発明においては、1位の立体構造がα又はβ形のどちらであってもよく、いずれか単独でも、あるいはそれらの混合物としても用いることができる。
【0014】
具体的には、一般式(1)としては、下記一般式(2):

で表されるものを挙げることができる。
【0015】
本発明におけるN−アセチルグルコサミン有機酸エステルの配合量は、シワ改善剤の総量を基準として、0.001〜10.0質量%(以下において、別の意味である旨の記載がない限り、%は質量%を表す)が好ましい。配合量がこの範囲であれば、本発明の目的とする効果が効率よく、十分に得られる。配合量は、より好ましくは、0.05〜5.0%、さらに好ましくは、0.1〜2.0%である。
【0016】
本発明のシワ改善剤は、皮膚化粧料や外用剤として医薬品や入浴剤等に適用でき、剤型的には例えばローション類、乳液類、クリーム類、パック類等とすることができる。
【0017】
尚、本発明のシワ改善剤には上記の他に色素、香料、防腐剤、界面活性剤、顔料、抗酸化剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳説する。しかしながら、本発明の範囲は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0019】
〔製造例1〕
2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−オクタノイル−α−D−グルコピラノース(化合物1)の製造方法
N−アセチルグルコサミン0.5gにピリジン5mL、N,N−ジメチルホルムアミド5mLを加え、攪拌しながら70℃に加熱し、n−オクタノイルクロリド0.46mLを滴下して4時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルで抽出、2mol/L塩酸で洗浄後、酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、次いで減圧下溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール=15:1)を用いて精製し、2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−オクタノイル−α−D−グルコピラノースを白色結晶として170mg得た。
【0020】
2−アセトアミド−2−デオキシ−6−O−オクタノイル−α−D−グルコピラノースの1H−NMR測定結果を示す。
【0021】
NMR(DMSO−d6)δ:0.92(t,3H,J=6.8Hz),1.33(s,10H),1.55−1.60(m,2H),1.89(s,3H),2.34(t,2H),3.15−3.20(m,1H),3.55−3.60(m,1H),3.65−3.70(m,1H),3.85−3.90(m,1H),4.08(dd,1H,J=6.0,11.6Hz),4.35(dd,1H,J=2.1,11.8Hz),4.70(d,1H,J=5.4Hz),4.96(t,1H,J=3.5,4.3Hz),5.13(d,1H,J=5.8Hz),6.54(d,1H,J=4.7H),7.61(d,1H,J=8.1Hz).
【0022】
〔実施例1及び比較例1〕
基剤のみ、又は化合物1を配合した試料を、光老化させた皮膚に適用したときのシワ改善効果を次の試験方法により調べた。
【0023】
1.実験動物
試験開始時10週齢のヘアレスマウス1群10匹を用いた。
【0024】
2.シワ改善効果の測定
2−1.光老化条件及び測定方法
光老化は、UVAとUVBを1日1回、週5回、8週間照射することで誘発させた。照射量はUVAが20J/cm、25J/cm、30J/cm、UVBを20mJ/cm、30mJ/cm、40mJ/cmと一週ごとに増量し、3週目以降は最大量を照射した。
【0025】
シワ改善効果はシワスコアと真皮コラーゲン量により評価した。シワスコアは、Bissettらの方法(Photochem Photobiol、46:367−378、1987)に従って採点した。すなわち、シワの大きさ及び深さを肉眼で総合的に評価し、最高点を3点として、「大きく深いシワが確認できる」を3、「シワが確認できる」を2、「シワが確認できない」を1、「正常なキメが観察される」を0とした。
【0026】
真皮コラーゲン量の測定は、全層皮膚を採取してポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)で破砕後、コラーゲン画分を抽出して酸加水分解後、ヒドロキシプロリン含有量をコラーゲン量としてアミノ酸分析装置(日本分光社製)を用いて測定した。
【0027】
2−2.試料と実験方法
50%(v/v)エタノール水溶液(基剤)に、N−アセチルグルコサミン有機酸エステル(化合物1)を1%配合した試料を調製した(実施例1)。また基剤のみの試料を比較例1とした。
【0028】
まず、これらの試料0.1mLをヘアレスマウスの背部皮膚(直径約2.5cm)に1日1回、1週間に5回の頻度で、UV照射開始後5週目から照射終了後4週目まで塗布した。そして、塗布終了後にシワスコアを採点し、屠殺後、皮膚を採取した。コラーゲン含有量は、1cmあたりのヒドロキシプロリン量を算出した。シワスコアとコラーゲン含有量ともに基剤塗布群を対照として比較した。
【0029】
3.評価

【0030】
実施例1は、比較例1と比較して有意に低いシワスコア値を示し、光老化により誘発したシワに対し、N−アセチルグルコサミン有機酸エステルが有効であることを示した。

【0031】
実施例1は、比較例1と比較してコラーゲン含有量に増加傾向が見られ、光老化により減少する真皮コラーゲン量に対し、N−アセチルグルコサミン有機酸エステルが効果的であることを示した。
【0032】
本試験の結果から製造例1で製造したN−アセチルグルコサミン有機酸エステル(化合物1)を含有するシワ改善剤(実施例1)が、比較例1と比較して明らかに、光老化によるシワを改善する効果を有することが分かる。
【0033】
〔実施例2及び比較例2〕
本実施例及び比較例では、下記組成のスキンローションを下記の調製法にしたがって調製し、それを試料として次の操作によって、シワ改善効果を評価した。
【0034】
5名の目尻にシワのある健常人被検者(女性、45〜57歳)に実施例及び比較例のスキンローションを塗布し、次に示す方法で目尻部分の皮膚(シワ)の状態に関しアンケート調査を行った。
【0035】
各試料を、左右のどちらかに決めて、朝洗顔後、及び夕方入浴後の1日2回、2ヵ月間(60日)連続で目尻のシワの部分(各試料ごとに目尻を中心に約4cm、2×2cm)に約0.2mLずつ塗布してもらった。次に最終塗布終了後に左右の目尻部分の皮膚(シワ)の状態に関しアンケートに答えてもらった。
【0036】
1.スキンローションの組成

【0037】
2.調製法
C成分のN−アセチルグルコサミン有機酸エステル(化合物1)をB成分に添加して均一に溶解した後、A成分を添加して混合撹拌分散し、次いで容器に充填する。使用時には内容物を均一に振盪分散して使用する。
【0038】
3.評価
アンケート結果をもとに、皮膚(シワ)の状態に関する各項目において、比較例2より実施例3のスキンローションの方が有効であると回答した人数を以下に示す。

【0039】
本試験結果から実施例2のスキンローションは、比較例2と比較して明らかにシワを改善しており、さらに、光老化により悪化する柔軟性や皮膚のハリまでもが改善されたことが分かる。また、本発明のスキンローションによる刺激や痒み等の皮膚の異常は認められなかった。
【0040】
〔実施例3〕
下記組成のスキンクリームを下記の調製法にしたがって調製し、事前アンケートで目尻のシワを肌悩みとして挙げた20名の健常人(女性、48〜57歳)に1週間以上使用してもらいアンケート調査を行った。
【0041】
1.スキンクリームの組成

【0042】
2.調製法
C成分のN−アセチルグルコサミン有機酸エステル(化合物1)をB成分に添加して、A,B成分を各々80℃に加熱溶解した後、混合して撹拌しつつ、30℃まで冷却してスキンクリームを調製した。
【0043】
3.評価
実施例3のスキンクリームを使用してもらいアンケート調査を実施した。その結果を以下に示した。尚、結果は、シワの状態に関して下記項目のアンケート調査を行い、各項目ごとに使用前と比較して使用後にそう思うと回答した人数を示した。

【0044】
本試験結果から実施例3のスキンクリームは、使用前と比較してシワが目立たなくなったと実感しているヒトがほぼ全員で、その要因としてシワの数よりもシワの大きさを軽減することで、光老化によるシワを改善したことが分かる。また、本発明のスキンクリームによる刺激や痒み等の皮膚の異常は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のシワ改善剤は、皮膚化粧料や外用剤として医薬品や入浴剤等に適用でき、剤型的には例えばローション類、乳液類、クリーム類、パック類等とすることができ、皮膚の美容の面から非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):

式中、Rは、炭素数2〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基であり、
1位の立体構造は、α又はβ形のどちらであってもよい
で表されるN−アセチルグルコサミン有機酸エステルを配合することを特徴とするシワ改善剤。
【請求項2】
N−アセチルグルコサミン有機酸エステルが、下記一般式(2):

で表される、請求の範囲第1項のシワ改善剤。
【請求項3】
N−アセチルグルコサミン有機酸エステルの配合量が、シワ改善剤の総量を基準として、0.001〜10.0質量%である、請求の範囲第1項又は2項に記載のシワ改善剤。

【国際公開番号】WO2005/074879
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517715(P2005−517715)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001572
【国際出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】