説明

シンチレータパネルおよび放射線検出装置

【課題】蛍光体膜18の機械的強度および耐湿性などの信頼性を向上でき、小形化、薄形化できる放射線検出装置11を提供する。
【解決手段】放射線検出装置11は、放射線を光に変換する蛍光体膜を有する蛍光体膜部12と、蛍光体膜部12で変換した光を電気信号に変換する光電変換素子部13とを備える。蛍光体膜18は、膜面方向に複数の柱状結晶17を形成した柱状結晶17の集合体であり、かつ膜面方向に隣り合う柱状結晶17が界面を介して隙間なく接触して結合する。蛍光体膜18の機械的強度および耐湿性などの信頼性が向上する。蛍光体膜18の機械的強度が向上するため、蛍光体膜18を保持する基板16を省略したり、基板16の小形化、薄形化し、放射線検出装置11を小形化、薄形化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を光に変換するシンチレータパネルおよび放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線、特にX線を光に変換する蛍光体膜部と、その光を電気信号に変換する光電変換素子部とをその構成要素として含む放射線検出装置が実用化されてきている。
【0003】
これは、放射線装置全体の小形軽量化に貢献するとともに、放射線を介した検査対象物からの画像情報を放射線検出装置によりデジタル電気情報に変換し、デジタル画像処理、デジタル画像保存などデジタル情報処理の多くの利便性を享受することができるためである。
【0004】
放射線検出装置は、患者診断や治療に使用する医療用や歯科用、非破壊検査などの工業用、構解析などの科学研究用などの広い分野で使われつつある。それぞれの分野において、デジタル情報処理による高精度な画像抽出、高速度な画像検出が可能となることにより、不要な放射線被爆量の低減や、迅速な検査、診断などの効果が期待できる。
【0005】
これら放射線検出装置の蛍光体膜には、従来のX線イメージ管で用いられているCsおよびIを主成分とするシンチレータ材の技術を転用することが多い。これは、主成分であるヨウ化セシウム(以下CsI)が柱状結晶を成すため、他の粒子状結晶からなるシンチレータ材に比較し、光ガイド効果による感度および解像度の向上を成すことができるためである。
【0006】
例えば、従来のX線イメージ管におけるCsI膜の形成技術を転用し、基板上にCsI膜を形成したものがある。基板上にCsIの柱状結晶を形成しているが、柱状結晶間には隙間が存在しており、それ故、CsI膜を保持するために基板が必須であり、かつその隙間を吸湿防湿膜で覆う必要もある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、例えば、シンチレーションファイバープレートの柱状結晶を成すシンチレータ材のCsIなどは1本1本の柱状結晶が6μm径以下と非常に細く、かつ独立して空間的に分離していることから、柱状結晶の表面積が非常に大きく、潮解性による発光劣化の問題があるため、その改善策として柱状結晶シンチレータをフィルムで被覆した構造がある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
このような柱状結晶間の隙間の存在は、X線イメージ管などで用いられてきた従来のCsI膜技術の特徴である。またX線イメージ管においては、Naを添加したCsI柱状結晶の離散分離による欠点を回避するため、隙間を跨ぐ薄い連続膜を追加形成した例もある(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−75593号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】特公平5−39558号公報(第2頁、第1図)
【特許文献3】特公平6−68955号公報(第2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のシンチレータ材の柱状結晶構造を持つ蛍光体膜では、柱状結晶間に隙間が存在し、柱状結晶が空間的に分離されているために、蛍光体膜自体を一体に保つ強度が無く、柱状結晶を固定保持するための強度を有する基板または基板に相当する強度を有する基材部分が必須となる。
【0010】
また、耐潮解性確保などのために柱状結晶間の隙間を埋めるなどの対策が必要であるが、無数に存在する数μm径の柱状結晶の隙間を全て埋めることは実行上困難を伴うものである。
【0011】
また、蛍光体膜の表面全体を被膜で覆うにしても、蛍光体膜自体の一体強度の欠如は改善できず、放射検出装置の構造上の複雑化や寸法上の制約、信頼性における機械強度、耐湿性など問題がある。
【0012】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、蛍光体膜の機械的強度および耐湿性などの信頼性を向上でき、さらに、小形化および薄形化を図ることができるシンチレータパネルおよび放射線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のシンチレータパネルは、放射線を光に変換する蛍光体膜を有し、この蛍光体膜は、膜面方向に複数の柱状結晶が形成された柱状結晶の集合体であり、かつ膜面方向に隣り合う柱状結晶が界面を介して隙間なく接触して結合されているものである。
【0014】
また、本発明の放射線検出装置は、放射線を光に変換する蛍光体膜を有し、この蛍光体膜は膜面方向に複数の柱状結晶が形成された柱状結晶の集合体であり、かつ膜面方向に隣り合う柱状結晶が界面を介して隙間なく接触して結合されている蛍光体膜部と、この蛍光体膜部で変換された光を電気信号に変換する光電変換素子部とを具備しているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシンチレータパネルによれば、蛍光体膜が膜面方向に複数の柱状結晶が形成された柱状結晶の集合体であり、かつ膜面方向に隣り合う柱状結晶が界面を介して隙間なく接触して結合することにより、一体の蛍光体膜を形成できるため、蛍光体膜の機械的強度および耐湿性などの信頼性を向上でき、さらに、蛍光体膜の機械的強度が向上するために、蛍光体膜を保持するための基板などを省略したり、その基板などの小形化および薄形化が可能となり、シンチレータパネルの小形化および薄形化を図ることができる。
【0016】
また、本発明の放射線検出装置によれば、蛍光体膜が膜面方向に複数の柱状結晶が形成された柱状結晶の集合体であり、かつ膜面方向に隣り合う柱状結晶が界面を介して隙間なく接触して結合することにより、一体の蛍光体膜を形成できるため、蛍光体膜の機械的強度および耐湿性などの信頼性を向上でき、さらに、蛍光体膜の機械的強度が向上するために、蛍光体膜を保持するための基板などを省略したり、その基板などの小形化および薄形化が可能となり、放射線検出装置の小形化および薄形化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1ないし図3に第1の実施の形態を示す。
【0019】
図1に示すように、放射線検出装置11は、放射線を光に変換するシンチレータパネルとしての蛍光体膜部12と、この蛍光体膜部12で変換された光を電気信号に変換する光電変換素子部13とを備えている。
【0020】
蛍光体膜部12は、薄く柔軟な基板16を備え、この基板16上に、膜面方向に複数の柱状結晶17が形成された柱状結晶17の集合体であり、かつ膜面方向に隣り合う柱状結晶17が界面を介して隙間なく接触して強固に結合され、膜面方向に二次元の多結晶である一体の蛍光体膜18が形成されている。
【0021】
柔軟な基板16としては、例えば、ポリイミド樹脂フィルムなどの樹脂フィルムのほか、アルミニウム、銅、ステンレスなど金属箔などが使用できる。
【0022】
蛍光体膜18のシンチレーション材としては、例えば、CsIにTlを添加した材料が使用されている。シンチレーション材の添加材としては、使用する発光波長により適当に選択することが可能であり、緑色波長の使用する場合には、Tl、Cuなどを添加すると良い。また、X線イメージ管などで用いられている青色波長を使用する場合には、Naが主に用いられる。これら以外にもIn、Ta、Kなどの添加材を用いることができる。例えば、光電変換素子部13がアモルファスシリコン(以下a−Si)にて構成される場合、その光電変換素子部13の光電変換特性に合わせて、蛍光体膜部12から緑色波長を発光させるために、CsIにTlを添加した材料を選択する。
【0023】
蛍光体膜18の膜厚は、例えば、600μmで形成されているが、放射線強度、特に使用するX線のエネルギーなどに応じて適当な膜厚を設定することができる。通常は150μmから2000μmの間で選択される。
【0024】
蛍光体膜18の柱状結晶17の径の平均値は、数μmから10数μmの範囲で形成できる。これに対し、光電変換素子部13の光電変換素子の典型的な寸法は20μmから200μm、特に医療用途にて要求される実効的な解像度は40μm以上であることを考慮すると、十分小さい柱状結晶17の径とすることができるため、必要十分な解像度も確保することができる。
【0025】
蛍光体膜18の表面には、この蛍光体膜18を被覆する厚さ数μmの保護層19が形成されている。保護層19としては、例えば、ポリパラキシリレン膜が化学的気相成長法(以下CVD法)にて形成されるが、キシリレン系樹脂、エポキシ系樹脂膜、シリコン系樹脂膜などのほかの有機樹脂を使用することもできる。また、スパッタ法による無機膜や、無機膜と有機膜との多層膜などを用いることも可能である。いずれの保護層19を使用して蛍光体膜18を被覆するにしても、複数の柱状結晶17の界面を介して隙間なく接触して強固に結合されて多結晶状態の一体の蛍光体膜18であることから、蛍光体膜18自体の機械的強度が高く一体物として安定しており、さらに柱状結晶17間の隙間も無いことから、保護層19により従来のように隙間を埋める不確実性も解消でき、信頼性が向上する。
【0026】
また、光電変換素子部13は、上述の様にa−Siを材料に形成されたものであり、光を電荷に変換するフォトダイオード部22と、変換された電荷を読み出す薄膜トラジスタ部23(以下TFT)とを備える。それぞれの機能を構成するためには、ボロン(B)を添加したP層とリン(P)を添加したN層、およびa−SiのみのI層とを適切に積層し、各機能素子部を形成する必要がある。本実施の形態では、例えば、フォトダイオード部22は、a−SiからなるP層、I層、N層の積層構造をITOからなる上部透明電極24とMoからなる下部透明電極25で挟み込んだ構造である。
【0027】
なお、図1には示されていないが、光電変換素子部13より出力された電気信号は、放射線検出装置11の後段の信号処理回路部においてデジタル信号に変換され、補正処理および画像処理が行われる。
【0028】
次に、図5および図6に、従来の蛍光体膜の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真(SEM写真)を示す。図6は図5に対して拡大したものである。
【0029】
この従来の蛍光体膜のシンチレーション材はCsIであるが、図5および図6から判るように、柱状結晶は空間的に分離しており、柱状結晶間の隙間が多数存在する。このため、一体物の蛍光体膜が形成できず、機械的強度や信頼性に問題を有することになる。
【0030】
それに対して、図2および図3に、本実施の形態に使用される蛍光体膜18の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真(SEM写真)を示す。図3は図2に対して拡大したものである。
【0031】
蛍光体膜18のシンチレーション材はCsIであり、Tlが添加されている。図2および図3から判るように、蛍光体膜18の膜面方向に複数の柱状結晶17が界面を介して隙間なく接触して結合しており、柱状結晶17の界面は存在するが、隙間は存在せず、一体物の蛍光体膜18が形成されている。
【0032】
このような蛍光体膜18は、蒸着法において、基板過熱温度を200℃以上にするとともに、基板加熱温度変更プロファイルと蒸発レートを適正にコントロールすることにより得ることができる。
【0033】
柱状結晶17間の隙間は存在せず、蛍光体膜18の膜面方向は柱状結晶17が界面を介して隙間なく接触して結合し、一体物の蛍光体膜18を形成しているため、機械的強度や信頼性などを向上できる。
【0034】
柱状結晶17間の隙間は存在せず、蛍光体膜18の膜面方向は柱状結晶17が界面を介して隙間なく接触して結合していても、柱状結晶17間には明確な界面が存在するため、光ガイド機能における解像度低下への影響は少ない。すなわち、柱状結晶17の径の平均値は、数μmから10数μmの範囲であり、光電変換素子部13の光電変換素子の典型的な寸法は医療用途の肺や内臓用で150μm〜200μm、歯科用でも20μm〜40μmであるため、解像度低下への影響は少ない。
【0035】
また、蛍光体膜18の機械的強度が十分強固なため、蒸着後に蒸着の下地となる基材から蛍光体膜18単体を剥がし取ることが可能であり、この結果、蛍光体膜18単体として放射線検出装置11の構成部品として使用することもできる。
【0036】
なお、蛍光体膜18は、添加材を添加しない場合にも同様の作用効果が得られる。
【0037】
また、柱状結晶17の界面の結合方法として、例えば蒸着後に、乾燥空気またはN中で340℃の高温でアニール処理を行うなどの方法が取られることもある。しかしながら、このような方法では、柱状結晶17の界面を存在させながら隙間を完全に無くすことは困難であり、部分的に隣り合う柱状結晶17間の界面が消失して柱状結晶17が合体し、解像度低下の原因となる一方、隙間が残存することにより、蛍光体膜18の機械的強度の向上や信頼性の向上を成すことはできない。
【0038】
次に、図2に第2の実施の形態を示す。
【0039】
口内、歯科用などに使用される小形かつ薄形の放射線検出装置11である。
【0040】
蛍光体膜18は、膜面方向に複数の柱状結晶17が界面を介して隙間なく接触して強固に結合し、多結晶状態の一体の蛍光体膜18であることから、蛍光体膜18自体の機械的強度が高く一体物として扱うことが可能である。そのため、基板16を使用せず、蛍光体膜18単体を光電変換素子部13上に貼り付けることができ、小形かつ薄形の放射線検出装置11を構成できる。光電変換素子部13は、CCDやCMOSなどの半導体素子にて構成されている。
【0041】
蛍光体膜18単体の蛍光体膜部12および光電変換素子部13の全体が保護カバー31にて覆われ、保護カバー31内が密封封止されている。保護カバー31内は、中空として例えばNガスが充填されるか、他の方法として樹脂材などが充填される。保護カバー31からは光電変換素子部13から電気信号を外部に取り出すケーブル32が引き出されている。
【0042】
口内、歯科用などでは、放射線検出装置11の放射線検出部を口内に入れるため、その形状を小さく、かつ薄くすることが必要であり、蛍光体膜18の下地の基板16としてきわめて薄い基板16を使用するか、基板16自体を使用せずに構成できることは、放射線検出装置11の形状の更なる小形化、かつ薄形化を達成することができる。
【0043】
また、蛍光体膜18単体で作製し、必要十分量の蛍光体膜18のみを光電変換素子部13に貼り付けて放射線検出装置11を構成できるため、材料効率もよく製造もより容易なる利点がある。
【0044】
なお、第1の実施の形態と同様に、図4には示していないが、光電変換素子部13より出力された電気信号は放射線検出装置11の後段の信号処理回路部においてデジタル信号に変換され、補正処理および画像処理が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す放射線検出装置の断面図である。
【図2】同上放射線検出装置の蛍光体膜の顕微鏡写真である。
【図3】同上蛍光体膜を拡大した顕微鏡写真である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す放射線検出装置の断面図である。
【図5】一般的な蛍光体膜の顕微鏡写真である。
【図6】一般的な蛍光体膜を拡大した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0046】
11 放射線検出装置
12 シンチレータパネルとしての蛍光体膜部
13 光電変換素子部
17 柱状結晶
18 蛍光体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を光に変換する蛍光体膜を有し、
この蛍光体膜は、膜面方向に複数の柱状結晶が形成された柱状結晶の集合体であり、かつ膜面方向に隣り合う柱状結晶が界面を介して隙間なく接触して結合されている
ことを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】
蛍光体膜の主成分はCsおよびIであり、副成分としてNa、Ta、Tl、K、In、Cuのうちの少なくとも1元素以上を含む
ことを特徴とする請求項1記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
蛍光体膜は、蒸着法により一括して形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載のシンチレータパネル。
【請求項4】
放射線を光に変換する蛍光体膜を有し、この蛍光体膜は膜面方向に複数の柱状結晶が形成された柱状結晶の集合体であり、かつ膜面方向に隣り合う柱状結晶が界面を介して隙間なく接触して結合されている蛍光体膜部と、
この蛍光体膜部で変換された光を電気信号に変換する光電変換素子部と
を具備していることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項5】
蛍光体膜の主成分はCsおよびIであり、副成分としてNa、Ta、Tl、K、In、Cuのうちの少なくとも1元素以上を含む
ことを特徴とする請求項4記載の放射線検出装置。
【請求項6】
蛍光体膜は、蒸着法により一括して形成されている
ことを特徴とする請求項4または5記載の放射線検出装置。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−32407(P2008−32407A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203000(P2006−203000)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】