説明

シートモールディングコンパウンド

【課題】成形品の生産性を低下させずに揮発性有機物化合物の放散速度を低減することができるシートモールディングコンパウンドを提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂と補強繊維と架橋性モノマーと硬化剤とを含有するシートモールディングコンパウンドに関する。硬化剤の配合量を2phr以上とする。樹脂に硬化遅延剤を5質量%で溶解させた硬化遅延剤組成物を6phr以上配合する。成形品中の残留スチレン量を低減することが可能となる。硬化遅延剤により硬化のタイミングを合わせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材などに使用される成形品を製造するためのシートモールディングコンパウンド(以下、SMCという)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のSMCは、熱硬化性樹脂、硬化剤(有機過酸化物)、充填材、低収縮材、内部離型剤、補強繊維(補強材)、架橋剤としてのスチレンモノマー及び増粘するための増粘剤などを配合したものであって(例えば、特許文献1参照)、所定の温度に設定した金型内にSMCを入れて圧力をかけることによって所望の形状の成形品(製品)を形成していた(例えば、特許文献1参照)。SMCの上記熱硬化性樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂を、架橋剤としてはスチレンモノマーを、硬化剤としてはt−アミルパーオキシイソピルカーボネートやt−ブチルパーオキシイソピルカーボネートなどが使用されてきた。
【0003】
しかし、上記のSMCは架橋剤で使用されているスチレンモノマーがプレス成形後でも残留し、揮発性有機物化合物(以下、VOCという)が指針値を超えて検出される場合があった。例えば、従来のSMCを用いた成形品のVOC放散速度は、80〜200μg/m/hもあり、大量のスチレンモノマーが発生していた。
【0004】
このようなVOCを低減する方法としては、SMCの成形条件を見直す方法と成形後の放置条件を見直す方法があるが、成形条件で行う場合は、金型の温度を上げるか金型内での時間を多くするなどの方法があり、いずれの方法でも成形時間が延びてしまうか成形後の後処理が必要となるために生産性が落ちてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2004−269662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、成形品の生産性を低下させずに揮発性有機物化合物の放散速度を低減することができるシートモールディングコンパウンドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載のシートモールディングコンパウンドは、不飽和ポリエステル樹脂と補強繊維と架橋性モノマーと硬化剤とを含有するシートモールディングコンパウンドにおいて、硬化剤の配合量を2phr以上とし、樹脂に硬化遅延剤を5質量%で溶解させた硬化遅延剤組成物を6phr以上配合して成ることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項2に記載のシートモールディングコンパウンドは、請求項1において、連鎖移動剤を配合して成ることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項3に記載のシートモールディングコンパウンドは、請求項1又は2において、硬化剤として、半減期温度の異なる2種以上のパーカーボネート系のものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項4に記載のシートモールディングコンパウンドは、請求項3において、硬化剤として、t−アミルパーオキシイソピルカーボネート60〜80質量%とt−ブチルパーオキシイソピルカーボネート20〜40質量%とを組み合わせて成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明では、硬化剤の配合量を2phr以上とすることにより、成形品中の残留スチレン量を低減することが可能となり、成形品表面からの揮発性有機物化合物(スチレンモノマー)の放散速度を低減することが可能となる。ここで、このSMCは加熱された金型などで成形されるので、硬化時間のコントロールをする必要があり、硬化剤の配合量を増やすだけでは、硬化の開始時間が早くなってしまい成形不良になる可能性が高くなる。そこで、硬化のタイミングを合わせるために、樹脂に硬化遅延剤を5質量%で溶解させた硬化遅延剤組成物を7phr以上配合することが必要となる。これにより、成形品の生産性を低下させずに揮発性有機物化合物の放散速度を低減することができるものである。
【0011】
請求項2の発明では、連鎖移動剤を配合することにより、重合度の調整と生成するポリマーの分子量の調整が可能となり、残留スチレン量の低減が可能となる。
【0012】
請求項3の発明では、パーカーボネート系の半減期温度の異なる2種類以上の硬化剤を用いることによって、ラジカルの生成が均一化されて残留スチレン量の低減が可能となるものである。
【0013】
請求項4の発明では、t−アミルパーオキシイソピルカーボネート60〜80質量%とt−ブチルパーオキシイソピルカーボネート20〜40質量%とを組み合わせることで、ラジカルの生成がより均一化されて残留スチレン量の低減が可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0015】
本発明で使用する不飽和ポリエステル樹脂としては、多塩基酸と多価アルコールとを原料とする生成物であって、多塩基酸の不飽和酸として無水マレイン酸、フマル酸などを、多価アルコールであるグリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエングリコール、トリメチレングリコール、トリメチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチルプロパンモノアリルエーテル、水素添加ビスフェノール、ビスフェノールジオキシプロピルエーテルなどをそれぞれ利用することができる。また、不飽和ポリエステル樹脂の原料として、無水フタル酸、イソフタル酸などの飽和酸も用いることができ、その他にポリエステル樹脂骨格への組み込みとしてジシクロペンタジエンも原料として添加することができる。
【0016】
本発明で使用する補強繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ウォラストナイトなど従来からSMCに使用されているものを利用することができ、これらの補強繊維をシート状にして強化材として用いることができる。補強繊維の配合量は特に制限はないが、80〜98phrとすることができる。尚、「phr」は不飽和ポリエステル樹脂と架橋性モノマーと低収縮剤の合計量100質量部に対する配合質量割合である。
【0017】
架橋性モノマー(架橋剤)としてはスチレンモノマーを使用する。スチレンモノマーの配合量は特に制限はないが、不飽和ポリエステル樹脂に対して10〜60質量%とすることができる。
【0018】
また、本発明では、上記の材料の他に、硬化剤、低収縮剤、硬化遅延剤、増粘剤、充填材、着色剤、硬化促進剤、製造上の粘度の調整のために減粘剤やトナーの分散向上のために分散調整剤などを用いることができる。
【0019】
低収縮剤としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂を使用することができる。低収縮剤の配合量は特に制限はないが、10〜30phrとすることができる。
【0020】
上記硬化剤としては、有機過酸化物であるパーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類、パーオキシモノカーボネート類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類などを使用することができるが、本発明では、パーオキシジカーボネート類のt−アミルパーオキシプロピルカーボネート(例えば、化薬アクゾ製の「AIC75」)を用いることができる。また、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(例えば、化薬アクゾ製の「BIC75」)をt−アミルパーオキシプロピルカーボネートと併用し、ラジカルの生成を均一化し、残留スチレン量の低減が可能である。本発明の効果を得るためには硬化剤の配合量は2phr以上が必要であり、また、半減期温度の異なる2種のパーカーボネート系の硬化剤として、t−アミルパーオキシプロピルカーボネートとt−アミルパーオキシプロピルカーボネートとを併用する場合は、t−アミルパーオキシプロピルカーボネートを60〜80質量%、t−アミルパーオキシプロピルカーボネートを20〜40質量%の割合で配合するのが好ましい。尚、硬化剤の配合量は多すぎても効果の向上は認められないので、5phr以下とすることができる。
【0021】
硬化遅延剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン等を利用することができる。この硬化遅延剤は不飽和ポリエステル樹脂やアクリル樹脂などの樹脂に予め濃度5質量%で溶解して希釈することによって、硬化遅延剤組成物を調製する。このように硬化遅延剤を予め樹脂に溶解させることによって、SMCに均一に混合することができる。そして、本発明ではこの硬化遅延剤組成物を6phr以上で配合する。硬化遅延剤組成物の配合量が6phr未満であれば、本発明の効果を得ることができない。尚、硬化遅延剤組成物の配合量は多すぎると硬化しにくくなって生産性が低下するため、10phr以下とすることができる。
【0022】
増粘剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等を用いることができる。増粘剤の配合量は特に制限はないが、0.5〜2phrとすることができる。
【0023】
充填材としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、マイカ、ガラスビーズ等を使用することができる。充填材の配合量は特に制限はないが、100〜150phrとすることができる。
【0024】
着色剤としては、無機系顔料、有機系顔料等を使用することができる。着色剤の配合量は特に制限はないが、5〜20phrとすることができる。
【0025】
連鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマーなどを使用し、SMCの全体100質量量に対して0.25〜1.0質量部配合することにより、重合速度の調整とポリマーの分子量の調整が可能である。
【0026】
本発明のSMCは建材などの成形材料として用いることができる。この場合の成形方法は、金型内に配置して加熱加圧成形して硬化させるプレス成形などを例示することができる。この場合の成形条件としては、例えば、成形圧3〜10MPa、金型温度125〜150℃、成形時間3〜7分とすることができるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0028】
(実施例1〜7及び比較例)
表1に示す材料を含有するSMCを製造した。各材料の配合量(単位はphr)を表1に示す。
【0029】
表1において不飽和ポリエステル樹脂は不飽和ポリエステル樹脂とその溶媒としての架橋性モノマーとを含有するものである。実施例及び比較例で使用している不飽和ポリエステル樹脂溶液は、昭和高分子(株)製造の商品名「M−640LS」(スチレンモノマーを架橋性モノマー(溶媒)として全量に対して40質量%含有し、残部は不飽和ポリエステル樹脂(固形分))である。また、表1において、ポリスチレン樹脂溶液は低収縮剤であるポリスチレン樹脂と希釈溶媒である上記架橋性モノマーとを含有するものである。また、硬化遅延剤硬化物は、上記と同様の不飽和ポリエステル樹脂で硬化遅延剤を濃度5質量%に希釈したものである。
【0030】
比較例と実施例の共通の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂80phr、低収縮剤20phr、内部離型剤7phr、充填材(炭酸カルシウム)130phr、増粘剤(酸化マグネシウム)1phr、トナー10phr、及び補強繊維(強化材であって、1インチにカットしたガラス繊維)95phrである。
【0031】
そして、各実施例及び比較例のスチレン放散量を測定した。この測定方法は、上記で得られたSMCをシート状に成形した後、15cm×15cmに切断して試験片とした。そして、小型チャンバー法により、ガスクロマトグラフ質量分析装置にて試験片からの気中放散スチレンを測定した。具体的には、JIS A1901−2003(小型チャンバー法−建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定法)の(附属書2(参考)小型チャンバーの例(20L))に記載されている手順に基づき、測定温度28℃、湿度50%、換気回数0.5回/hr、試料負荷率2.2m/mで測定を実施した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1では、化薬アクゾ製の硬化剤(AIC75)3phr、硬化遅延剤組成物7phrで配合したものであり、VOCの放散速度は目標値11μg/m/hをクリアーする5μg/m/hとなる。
【0034】
実施例2は、実施例1において硬化剤を2phr、硬化遅延剤組成物の量を6phrにしたものであるが、VOCの放散速度は10μg/m/hとなり目標値をクリアーする。
【0035】
実施例3は、実施例1よりも硬化剤の量、硬化遅延剤組成物の量を増やしているが、VOCの値は変わらない。硬化剤の量はある一定量以上配合してもVOCの値はあまり変化しない。
【0036】
実施例4,5は、二種類の硬化剤を併用する場合であるが、化薬アクゾ製の硬化剤(AIC75)2phrと化薬アクゾ製の硬化剤(BIC75)1phrを配合した場合、VOCの目標値をクリアーするが、配合比率を変更し、化薬アクゾ製の硬化剤(AIC75)1phrと化薬アクゾ製の硬化剤(BIC75)2phrを配合した場合、目標値をやや超える。
【0037】
実施例6は、実施例1に連鎖移動剤(日本油脂製のノフマーMSD)1phrを配合したものであるが、この場合、VOCの値を低くすることが可能である。また、実施例7のように、硬化剤と硬化遅延剤組成物の配合量をそれぞれ1phrずつ減らしてもVOCの値はあまり変化しない。
【0038】
また、いずれの実施例においても、従来から行われている成形条件を変えずに、VOCの放散速度を低下できるものであり、成形品の生産性が低くなるようなことはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂と補強繊維と架橋性モノマーと硬化剤とを含有するシートモールディングコンパウンドにおいて、硬化剤の配合量を2phr以上とし、樹脂に硬化遅延剤を5質量%で溶解させた硬化遅延剤組成物を6phr以上配合して成ることを特徴とするシートモールディングコンパウンド。
【請求項2】
連鎖移動剤を配合して成ることを特徴とする請求項1に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項3】
硬化剤として、半減期温度の異なる2種以上のパーカーボネート系のものを用いて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項4】
硬化剤として、t−アミルパーオキシイソピルカーボネート60〜80質量%とt−ブチルパーオキシイソピルカーボネート20〜40質量%とを組み合わせて成ることを特徴とする請求項3に記載のシートモールディングコンパウンド。

【公開番号】特開2008−127546(P2008−127546A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317506(P2006−317506)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】