説明

シート用樹脂組成物の製造方法

【課題】シート押出時のダイにおける目ヤニの発生を大幅に抑制し、高い衝撃強度と優れた真空成形性を有する樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】相対粘度の異なる少なくとも2種のポリアミド混合物、ポリフェニレンエーテル及びエラストマーを含み、第一の工程でポリフェニレンエーテルと相対粘度の低いポリアミドとをあらかじめ溶融混練した予備混合物を形成し、第二の工程で該予備混合物と相対粘度の高いポリアミドとを溶融混練してなる事を特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート押出時のダイにおける目ヤニの発生を大幅に抑制し、高い衝撃強度と優れた真空成形性を有する樹脂組成物の製造方法及び、該製造方法で得られた組成物からなるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド−ポリフェニレンエーテルアロイ系樹脂組成物は優れた流動性や高い衝撃性を有するため、非常に幅広い用途で使用されるポリマーアロイとなっており、射出成形用途に限らず、シート押出に段表される様な押出成形用途にも使用されている。
シート押出成形に代表されるような押出成形加工においては、通常の溶融粘度(あまり高くない溶融粘度)を有する組成物であっても、充分に押出加工が可能である。しかしながら、例えば該シートを用いて、その後に実施される真空成形においては、ドローダウンと呼ばれる現象が発生し、通常の溶融粘度の組成物からなるシートでは、真空成形等を必要とする用途には適切ではない。ここでいうドローダウンとは、真空成形の予備加熱の段階で、必要以上に樹脂が垂れる現象であり、ドローダウンの大きいシートでは真空成形ができなくなる。そのため、できるだけドローダウンの少ない特性をもつ樹脂組成物及びそれからなるシートが求められている。
【0003】
ポリアミド−ポリフェニレンエーテルアロイ系樹脂からなるシートに関する従来の技術としては、例えば、高い分子量のポリフェニレンエーテルと高い分子量のポリアミドの混合物が押出成形に適した組成物を与えるとの開示があり(例えば、特許文献1参照。)、真空成形に適した樹脂組成物を得るために樹脂の分子量等を高めて溶融粘度を上げる手法は、従来より知られている。
しかしながら、高い分子量を有する(高い相対粘度を有する)ポリアミドを用いたポリアミド/ポリフェニレンエーテルアロイは、衝撃強度が低くなるといった問題点を有しており、改善を求められている。
【0004】
この理由は定かではないが、高い相対粘度のポリアミドは、末端アミノ基濃度(ポリフェニレンエーテルとの反応に必要な活性末端基濃度)が低くなるため、ポリアミドとポリフェニレンエーテルの界面の安定化に必要なポリアミド−ポリフェニレンエーテルグラフト体の生成量が充分でなくなるためと推定される。
また、高い相対粘度を有するポリマーは、高い溶融粘度を有する為、、押出機等での溶融混練の際に樹脂温度が非常に高くなり、ポリアミド等が熱分解を起こしやすくなる。この熱分解も組成物の耐衝撃性を低下させる要因の一つと考えられる。
また、この時発生した熱分解物は、耐衝撃性の低下のみでなく、シート押出時等にダイ付近に目ヤニとなって現れ、これが、シート外観に悪影響を及ぼし、シートの生産性を低下させる大きな要因の一つとなっている。
【特許文献1】特開平8−34917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、真空成形可能な溶融粘度を持ちつつ、充分な耐衝撃性をも持ち、更にシート加工時のダイ付近での目ヤニを大幅に抑制することが可能なシート押出用樹脂組成物の製造方法及び、該製造方法で得られたシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため様々な検討を重ねた結果、シート押出に適したポリアミド−ポリフェニレンエーテルアロイを得る製造方法において、特定の製造方法をとることによって上述した課題を解決できることを見いだした。
本発明は以下の内容よりなる。
1.ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及びエラストマーを含むシート押出用樹脂組成物の製造方法であって、ポリアミドが相対粘度の異なる少なくとも2種のポリアミド混合物であり、該ポリアミド混合物の相対粘度が、3.3〜5.0であり、第一の工程でポリフェニレンエーテルと相対粘度の低いポリアミドとをあらかじめ溶融混練した予備混合物を形成し、第二の工程で該予備混合物と相対粘度の高いポリアミドとを溶融混練してなる事を特徴とするシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【0007】
2.相対粘度の異なる2種以上のポリアミド混合物のうち、相対粘度が低いポリアミドの相対粘度が2.0以上3.5以下である上記1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
3.相対粘度の異なる2種以上のポリアミド混合物の内、相対粘度が高いポリアミドの相対粘度が3.5を超え6.0以下である上記1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
4. 二酸化チタン、酸化亜鉛および硫化亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の無機フィラーを、溶融粘度を上昇させるのに充分な量で含む上記1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【0008】
5.溶融混練時のダイ部における樹脂温度が300℃以上340℃以下である上記1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
6.ポリアミドが、ポリアミド6である上記1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
7.一つの押出機中で第一の工程と第二の工程を連続して実施する事を特徴とする上記1に記載の製造方法。
8.第一の工程が、ポリフェニレンエーテルとエラストマーとを溶融混練する工程と、それに引き続き相対粘度が低いポリアミドを添加し溶融混練する工程からなる上記1に記載シート押出用樹脂組成物の製造方法。
9.上記1記載の製造方法により得られたシート押出用樹脂組成物をシート押出してなるシート。
10.厚みが100μm〜700μmである上記10に記載のシート
11.上記11記載のシートを真空成形してなる成形品
【発明の効果】
【0009】
本発明のシート押出用樹脂組成物の製造方法で得られた樹脂組成物は、真空成形可能な溶融粘度を持ちつつ、充分な耐衝撃性を持ち、更にシート加工時の目ヤニを抑制し、良好なシートを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のシート押出用樹脂組成物の製造方法においては、構成成分として少なくとも相対粘度の異なる2種以上のポリアミド、ポリフェニレンエーテル及びエラストマーを含む必要がある。
以下、本発明で使用することのできる各成分について以下に詳しく述べる。
本発明で使用可能なポリアミドの種類としては、ポリマー繰り返し構造単位中にアミド結合{−NH−C(=O)−}を有するものであれば、いずれも使用することができる。
一般にポリアミドは、ラクタム類の開環重合、ジアミンとジカルボン酸の重縮合、アミノカルボン酸の重縮合などによって得られるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
上記ジアミンとしては大別して脂肪族、脂環式および芳香族ジアミンが挙げられ、具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルナノメチレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンが挙げられる。
ジカルボン酸としては、大別して脂肪族、脂環式および芳香族ジカルボン酸が挙げられ、具体例としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,1,3−トリデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸などが挙げられる。
【0012】
ラクタム類としては、具体的にはε−カプロラクタム、エナントラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。
また、アミノカルボン酸としては、具体的にはε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノナノン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、13−アミノトリデカン酸などが挙げられる。
本発明においては、これらラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、ω−アミノカルボン酸は、単独あるいは二種以上の混合物にして重縮合を行って得られる共重合ポリアミド類はいずれも使用することができる。
また、これらラクタム類、ジアミン、ジカルボン酸、ω−アミノカルボン酸を重合反応機内で低分子量のオリゴマーの段階まで重合し、押出機等で高分子量化したものも好適に使用することができる。
【0013】
本発明に用いるポリアミドの重合方法は特に限定されず、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、および、これらを組み合わせた方法のいずれでもよい。これらの中では、溶融重合がより好ましく用いられる。
特に本発明で有用に用いることのできるポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6、ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド6/6,6、ポリアミド6/6,12、ポリアミドMXD(m−キシリレンジアミン),6、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド6/6,T、ポリアミド6/6,I、ポリアミド6,6/6,T、ポリアミド6,6/6,I、ポリアミド6/6,T/6,I、ポリアミド6,6/6,T/6,I、ポリアミド6/12/6,T、ポリアミド6,6/12/6,T、ポリアミド6/12/6,I、ポリアミド6,6/12/6,Iなどが挙げられ、複数のポリアミドを押出機等で共重合化したポリアミド類も使用することができる。これらの中で最も好ましいポリアミドは、ポリアミド6である。
【0014】
本発明においては、使用するポリアミドは相対粘度(以下、単にηrと略す)の異なる2種以上の混合物である必要がある。ポリアミド混合物を構成するηrの異なる2種以上のポリアミドは、ηrが大きく異なるポリアミドを使用することが望ましい。具体的には、ηrの低いポリアミドのηrは2.0以上3.5以下の範囲内である事が望ましく、より好ましくは、2.0以上3.0以下の範囲であり、更には2.5以上3.0以下の範囲が最も好ましい。また、ηrの高いポリアミドのηrは3.5を超え6.0以下の範囲内のポリアミドである事が望ましい。より好ましくは4.0以上6.0以下の範囲内であり、更には、4.0以上5.0以下の範囲内が最も好ましい。
【0015】
本発明においては、使用するポリアミド混合物としてのηrは3.3〜5.0の範囲とする必要がある。
より好ましくは3.8〜4.8の範囲であり、最も好ましくは4.0〜4.5である。
ドローダウンを急激に悪化させないためには、ポリアミド混合物のηrが3.3を下回らないようにすることが望ましい。また、シート押出の生産性(一定トルク時のシート押出機の吐出量)を落とさないためには、ηrが5.0を超えないようにすることが望ましい。
本発明におけるポリアミド混合物のηrは、組成物中に含まれるポリアミド成分を分離して測定する方法、もしくは、原料とするポリアミド成分をηrを測定する濃度(1g/100cm)の溶液として、それらを配合比に応じて混合した混合溶液を実測する方法で知ることができる。
【0016】
また、本発明でいうηrとは、JIS K−6920−1:2000(測定温度25℃、98重量%硫酸、1g/100cm濃度、オストワルド粘度管)に準拠して測定したηrのことを指す。
本発明における、ηrの低いポリアミドとηrの高いポリアミドの配合比は、上述の好ましい範囲内であれば特に制限はないが、ηrの高いポリアミド量に対するηrの低いポリアミドの量の比が1を下回ることが望ましい。より好ましくは0.1〜0.9の比であり、更に好ましくは0.2〜0.7の範囲である。
ポリアミド混合物として3種以上を用いた場合は、ηr3.5を境として3.5未満のものを低ηrポリアミドとし、3.5を超えるものを高ηrポリアミドに分類し、それぞれの分類内で上述の方法に従いポリアミド混合物のηrを測定すればよい。
【0017】
また、本発明で使用可能なポリアミド混合物の末端基としては、アミノ基/カルボキシル基濃度比で、1.0〜0.1の範囲内のものが好ましく使用可能である。より好ましいアミノ基/カルボキシル基濃度比は、0.8〜0.2の範囲内であり、更に好ましくは0.6〜0.3の範囲内である。
加工条件による粘度の変化を抑制するためには、アミノ基/カルボキシル基濃度比が、1.0を超えないようにする事が望ましい。また、耐衝撃性の低下を抑制するためには、アミノ基/カルボキシル基濃度比を0.1以上とする事が望ましい。
また、本発明においては、用いるポリアミドの全ての末端基濃度比が上述の範囲内であることがより好ましい。
【0018】
これらポリアミドの末端基の調整方法は、当業者には明らかであるような公知の方法を用いることができる。例えばポリアミドの重合時に所定の末端濃度となるようにジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物などから選ばれる1種以上を添加する方法が挙げられる。
また、本発明においては、ポリアミドの耐熱安定性を向上させる目的で公知となっている特開平1−163262号公報に記載されてあるような金属系安定剤も、問題なく使用することができる。
これら金属系安定剤の中で特に好ましく使用することのできるものとしては、CuI、CuCl、酢酸銅、ステアリン酸セリウム等が挙げられる。また、ヨウ化カリウム、臭化カリウム等に代表されるアルキル金属のハロゲン化塩も好適に使用することができる。これらは、もちろん併用添加しても構わない。
【0019】
金属系安定剤および/又はアルキル金属のハロゲン化塩の好ましい配合量は、合計量としてポリアミドの100質量部に対して、0.001〜1質量部である。
また、本発明においては、上述した金属系安定剤の他に、公知の有機安定剤も問題なく使用することができる。有機安定剤の例としては、イルガノックス1098等に代表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤、イルガフォス168等に代表されるリン系加工熱安定剤、HP−136に代表されるラクトン系加工熱安定剤、イオウ系耐熱安定剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。
【0020】
これら有機安定剤の中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工熱安定剤、もしくはその併用がより好ましい。
これら有機安定剤の好ましい配合量は、ポリアミドの100質量部に対して、0.001〜1質量部である。
さらに、上記の他にポリアミドに添加することが可能な公知の添加剤等もポリアミド100質量部に対して10質量部未満の量で添加してもかまわない。
本発明において好適に使用できるポリフェニレンエーテルとは、式(1)の構造単位からなる、ホモ重合体及び/または共重合体である。
【0021】
【化1】

【0022】
〔式中、Oは酸素原子、Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、炭化水素オキシ、又はハロ炭化水素オキシ(但し、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)を表わす。〕
【0023】
本発明のポリフェニレンエーテルの具体的な例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されてあるような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。ポリフェニレンエーテルとして2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体を使用する場合の各単量体ユニットの比率は、ポリフェニレンエーテル全量を100質量%としたときに、約80〜約90質量%の2,6−ジメチルフェノールと、約10〜約20質量%の2,3,6−トリメチルフェノールからなる共重合体が特に好ましい。
【0024】
これらの中でも特に好ましいポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、またはこれらの混合物である。
本発明で用いるポリフェニレンエーテルの製造方法は公知の方法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、米国特許第3306874号明細書、同第3306875号明細書、同第3257357号明細書及び同第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び同63−152628号公報等に記載された製造方法等が挙げられる。
【0025】
本発明で使用することのできるポリフェニレンエーテルの還元粘度(ηsp/c:0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)は、0.15〜0.70dl/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.20〜0.60dl/gの範囲、より好ましくは0.40〜0.55dl/gの範囲である。
本発明においては、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテルをブレンドしたものであっても構わない。また、本発明で使用できるポリフェニレンエーテルは、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであっても構わない。
ここでいう変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルを指す。
【0026】
該変性されたポリフェニレンエーテルの製造方法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下、非存在下で100℃以上、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の範囲の温度でポリフェニレンエーテルを溶融させることなく変性化合物と反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下、非存在下でポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物を溶液中で反応させる方法等が挙げられ、これらいずれの方法でも構わないが、(1)及び(2)の方法が好ましい。
【0027】
次に分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物について具体的に説明する。
分子内に炭素−炭素二重結合とカルボン酸基、酸無水物基を同時に有する変性化合物としては、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸及びこれらの酸無水物などが挙げられる。特にフマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が良好で、フマル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。
また、これら不飽和ジカルボン酸のカルボキシル基の、1個または2個のカルボキシル基がエステルになっているものも使用可能である。
【0028】
分子内に炭素−炭素二重結合とグリシジル基を同時に有する変性化合物としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、エポキシ化天然油脂等が挙げられる。
これらの中でグリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートが特に好ましい。
分子内に炭素−炭素二重結合と水酸基を同時に有する変性化合物としては、アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1,4−ペンタジエン−3−オールなどの一般式C2n−3OH(nは正の整数)の不飽和アルコール、一般式C2n−5OH、C2n−7OH(nは正の整数)等の不飽和アルコール等が挙げられる。
【0029】
上述した変性化合物は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、更に好ましくは0.3〜5質量部である。
ラジカル開始剤を用いて変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の好ましいラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して0.001〜1質量部である。
【0030】
また、変性されたポリフェニレンエーテル中の変性化合物の付加率は、0.01〜5質量%が好ましい。より好ましくは0.1〜3質量%である。また、該変性されたポリフェニレンエーテル中には、未反応の変性化合物及び/または、変性化合物の重合体が残存していても構わない。
また、ポリフェニレンエーテルの安定化の為に公知となっている各種安定剤も好適に使用することができる。安定剤の例としては、ヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤であり、これらの好ましい配合量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して5質量部未満である。
更に、ポリフェニレンエーテルに添加することが可能な公知の添加剤等もポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部未満の量で添加しても構わない。
【0031】
本発明において好ましく使用できるエラストマーとしては、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体を挙げる事ができる。
ここでいう芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」とは、当該ブロックにおいて、少なくとも50質量%以上が芳香族ビニル化合物であるブロックを指す。より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」に関しても同様で、少なくとも50質量%以上が共役ジエン化合物であるブロックを指す。より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。この場合、例えば芳香族ビニル化合物ブロック中にランダムに少量の共役ジエン化合物もしくは他の化合物が結合されているブロックの場合であっても、該ブロックの50質量%が芳香族ビニル化合物より形成されていれば、芳香族ビニル化合物を主体とするブロック共重合体とみなす。また、共役ジエン化合物の場合においても同様である。
【0032】
芳香族ビニル化合物の具体例としてはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもスチレンが特に好ましい。
共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組み合わせが好ましい。
ブロック共重合体の共役ジエン化合物ブロック部分のミクロ構造は1,2−ビニル含量もしくは1,2−ビニル含量と3,4−ビニル含量の合計量が5〜80%である事が好ましく、さらには10〜50%である事がより好ましく、15〜40%である事が最も好ましい。
【0033】
本発明におけるブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)がA−B型、A−B−A型、A−B−A−B型から選ばれる結合形式を有するブロック共重合体である事が好ましい。
これらの中でもA−B−A型がより好ましい。これらはもちろん混合物であっても構わない。
また、本発明で使用することのできる芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体は、水素添加されたブロック共重合体であることがより好ましい。水素添加されたブロック共重合体とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体を水素添加処理することにより、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの脂肪族二重結合を0を越えて100%の範囲で制御したものをいう。該水素添加されたブロック共重合体の好ましい水素添加率は50%以上であり、より好ましくは80%以上、最も好ましくは98%以上である。
【0034】
これらブロック共重合体は水素添加されていないブロック共重合体と水素添加されたブロック共重合体の混合物としても問題なく使用可能である。
また、これら芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体は、本発明の趣旨に反しない限り、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2−結合ビニル含有量もしくは1,2−結合ビニル含有量と3,4−結合ビニル含有量の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等混合して用いても構わない。
また、本発明で使用するブロック共重合体は、全部又は一部が変性されたブロック共重合体であっても構わない。ここでいう変性されたブロック共重合体とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたブロック共重合体を指す。ここでいうこれら変性化合物は、変性されたポリフェニレンエーテルで述べた変性化合物と同じものが使用できる。
【0035】
また、本発明のブロック共重合体中には、パラフィンを主成分とするオイルをあらかじめ混合したものを用いても構わない。パラフィンを主成分とするオイルをあらかじめ混合する事により、樹脂組成物の加工性を向上させることができる。
本発明におけるポリアミド、ポリフェニレンエーテル、およびエラストマーの望ましい組成比は、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、およびエラストマーの合計量を100質量部とした際に、ポリアミドが30〜60質量部、ポリフェニレンエーテルが30〜60質量部およびエラストマーが5〜30質量部の範囲である。より好ましくは、ポリアミド35〜60質量部、ポリフェニレンエーテル35〜60質量部およびエラストマー5〜20質量部の範囲であり、最も好ましくは、ポリアミド40〜60質量部、ポリフェニレンエーテル40〜60質量部およびエラストマー5〜20質量部の範囲である。
【0036】
また、本発明においては、ポリアミドとポリフェニレンエーテルの相溶化剤を添加することが望ましい。使用することのできるものの例としては、例えばWO01/81473号明細書中に詳細に記載されるものが挙げられ、これら公知の相溶化剤はすべて使用可能であり、併用使用も可能である。
これら、種々の相溶化剤の中でも、特に好適な相溶化剤の例としては、マレイン酸、無水マレイン酸、クエン酸、フマル酸等が挙げられ、最も好ましい物は無水マレイン酸である。
本発明におけるポリアミドとポリフェニレンエーテルの相溶化剤の好ましい量は、ポリアミドとポリフェニレンエーテル及びエラストマーの合計100質量部に対して0.01〜8質量部であり、より好ましくは0.1〜5質量部、最も好ましくは0.1〜1質量%である。
【0037】
本発明のシート押出用樹脂組成物には無機フィラーを付加的に含んでいても構わない。好ましい無機フィラーの種類は、タルク・クレイ・ウォラストナイト・酸化亜鉛・二酸化チタン・硫化亜鉛から選ばれる1種以上の無機フィラーである。これらの中でも特に酸化亜鉛・二酸化チタン・硫化亜鉛から選ばれる1種以上が好ましく、最も好ましくは二酸化チタンである。二酸化チタンの中でも特にアルミナ・シリコン化合物及びまたはポリシロキサンで表面処理された処理済み二酸化チタンが好ましく使用でき、この場合の二酸化チタンとしての含有量は、90〜99質量%の範囲が好ましく、より好ましくは93〜98質量%の範囲内である。 この場合、表面処理剤は、二酸化チタン量として含めない。
【0038】
本発明で使用する向きフィラー粒子はできるだけ分散粒子径の小さいものが好ましく、その粒子の平均粒子径が0.2〜0.4μmの範囲である無機フィラーが望ましい。
これら無機フィラーを配合する際の適正量は特になく、本発明のシート押出用樹脂組成物の溶融粘度を上げるに充分な量であれば良い。具体的な数値を挙げると、例えば、レオメーターを用いて280℃の環境温度下で1ラジアン/秒の周波数で、線形領域内で測定した複素粘度[η*]の値を用いて、その複素粘度を10%以上、上昇させるに充分な量である。
【0039】
具体的な無機フィラーの添加量としては、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルおよびエラストマーの合計100質量部に対して、1〜20質量部の範囲であることが望ましい。より好ましくは1.5〜15質量部、更に好ましくは2〜10質量部であり、最も好ましくは3〜6質量部である。溶融粘度を向上させる効果を示す為には少なくとも1質量部以上程度の添加量が望ましく、良好な衝撃特性を維持するには20質量部以下程度の添加量が望ましい。
本発明では、上記した成分のほかに、本成分の効果を損なわない範囲で必要に応じて付加的成分を添加しても構わない。
【0040】
付加的成分の例を以下に挙げる。
他の無機充填材(チタン酸カリウム、炭素繊維、ガラス繊維など、)、無機充填材と樹脂との親和性を高める為の公知のシランカップリング剤、難燃剤(ハロゲン化された樹脂、シリコーン系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、有機燐酸エステル化合物、ポリ燐酸アンモニウム、赤燐など)、滴下防止効果を示すフッ素系ポリマー、可塑剤(オイル、低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)及び、三酸化アンチモン等の難燃助剤、カーボンブラック等の着色剤、帯電防止剤、各種過酸化物、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等である。
【0041】
これらの成分の具体的な添加量は、最終的な樹脂組成物中に付加的成分の合計量として10質量%を越えない範囲である。
本発明の樹脂組成物を得るための具体的な加工機械としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等が挙げられるが、中でも二軸押出機が好ましい。
本発明のシート押出用樹脂組成物の製造方法の第一の特徴は、ηrの異なる2種以上のポリアミドを分割して溶融混練することにある。具体的には、、第一の工程でポリフェニレンエーテルとηrの低いポリアミドとをあらかじめ溶融混練した予備混合物を形成し、第二の工程で該予備混合物とηrの高いポリアミドとを溶融混練する事である。
更には第二の特徴として、ηrの異なる2種以上のポリアミド混合物のηrを特定の範囲内とすることである。
【0042】
この第一の特徴である製造方法をとることにより、耐衝撃性に優れ、更には押出加工時の樹脂温度を格段に低下させ、ひいてはシート押出時のダイ部に発生する目ヤニの発生を抑制することが可能である。本発明の製造方法をとることにより、ポリアミドの熱にさらされる平均時間が短くなり、押出加工時の樹脂温度を大幅に低減できる。樹脂組成物の押出加工時の樹脂温度を抑えることは、シート押出時のダイ付近に発生する目ヤニを抑制する事にも有効である。組成物の押出時における樹脂温度は、シリンダー設定温度・スクリュー回転数・樹脂の供給量・スクリューデザイン等々種々の因子での影響を受ける。しかしながら本発明の製造方法をとることによって、同一条件における樹脂温度を低減する事が可能である。
【0043】
この原因としては、定かではないが以下のように考えられる。
例えば、高分子量(高ηr)のポリアミドとポリフェニレンエーテルとのアロイにおいては、両者の反応により、分子量は更に大きくなり、溶融混練時に大きなせん断発熱が生じてしまうが、それに対し、第一の工程で溶融混練するポリアミドをηrの低いポリアミドとし、第二の工程で溶融混練するポリアミドをηrの高いポリアミドとする製造方法では、ポリフェニレンエーテルは先に溶融混練される低ηrのポリアミドと反応するため、高ηrのポリアミドとは反応しにくくなる。その結果、分子量の増大があまり起こらず、せん断発熱が抑制され、樹脂温度の上昇が格段に小さくなるものと推定される。このことは、上述したように、シート押出時のダイ付近に発生する目ヤニを抑制する事にも非常に有効である事は言うまでもない。
【0044】
また、耐衝撃性が向上する理由としては、ポリフェニレンエーテルと反応する末端基濃度が高い低ηrポリアミドとポリフェニレンエーテルをあらかじめ溶融混練することにより、充分量のポリアミドとポリフェニレンエーテルのグラフト体が生成するためと考えられる。逆に、高ηrのポリアミドはポリフェニレンエーテルと反応する末端基濃度が低く、充分なグラフト体を生成しにくいので衝撃強度が発現しにくくなると考えられる。
また、第二の特徴であるηrの異なる2種以上のポリアミド混合物のηrを特定の範囲内とすることによって、真空成形性とシート押出性という2つの相反する2つの特性を同時に満足できるようになる。シート押出性は、ηrの低い組成物のほうが生産性に優れ、真空成形性は、ドローダウンの小さいηrの高い組成物のほうが生産性に優れる。この相反する特性を同時に満足するためには、ポリアミド混合物のηrを本発明の範囲内とする事が必要である。
本発明の製造方法の第一の工程でポリフェニレンエーテルとηrの低いポリアミドとをあらかじめ溶融混練した予備混合物を形成し、第二の工程で該予備混合物とηrの高いポリアミドとを溶融混練する方法の代表的具体例を以下に示す。
【0045】
製造方法例1.
上流に一箇所の供給口を有する二軸押出機を用いて、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル、低ηrのポリアミド及びエラストマー成分を供給し溶融混練した予備混合物を得た後、更にこの予備混合物と高ηrポリアミドとを上流側供給口より、再度供給し溶融痕練し組成物を得る方法。
【0046】
製造方法例2.
上流側供給口と、下流側に1箇所の供給口を備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル、低ηrのポリアミド及びエラストマー成分を供給し溶融混練し、ついで下流側供給口より高ηrのポリアミド供給し溶融混練する方法。
【0047】
製造方法例3.
上流側供給口と、下流側に1箇所の供給口を備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル及びエラストマーを供給し溶融痕練し、下流側供給口より低ηrのポリアミドを供給し溶融混練した予備混合物を得た後、更にこの予備混合物を上流側供給口より供給し溶融痕練し、下流側供給口より高ηrのポリアミドを供給し溶融痕練し組成物を得る方法。
【0048】
製造方法例4.
上流側供給口と下流側に2箇所の供給口を備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル及びエラストマーを供給し溶融混練し、第一の下流側供給口より低ηrのポリアミドを供給し溶融混練し、更に引き続いて第二の下流側供給口より、高ηrのポリアミドを供給し溶融混練する方法。
【0049】
製造方法例5.
上流側供給口と下流側に2箇所の供給口を備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口よりポリフェニレンエーテルを供給し溶融混練し、第一の下流側供給口より低ηrのポリアミド及びエラストマーを供給し溶融混練し、更に引き続いて第二の下流側供給口より、高ηrのポリアミドを供給し溶融混練する方法。
【0050】
製造方法例6.
上流側供給口と下流側に3箇所の供給口を備えた二軸押出機を使用し、上流側供給口よりポリフェニレンエーテルを供給し溶融混練し、第一の下流側供給口よりエラストマーを供給し、第二の下流側供給口より低ηrのポリアミドを供給し溶融混練し、更に引き続いて第三の下流側供給口より、高ηrのポリアミドを供給し溶融混練する方法。
【0051】
上述の具体的な製造方法に限られる事はもちろんないが、ここに挙げた代表例の中では、製造方法例4,5,6のように、予備混合物を得た後、再度、その予備混合物を押出機へ供給するような製造方法よりも、予備混合物を取り出すことなく、一つの工程のなかで組成物まで形成可能な製造方法がより好ましい。製造方法4,5,6の中では製造方法4又は6が最も好ましい。
またフィラーを添加する場合の好ましい添加方法としては、特に制限はないが、ポリフェニレンエーテルとともにフィラーを添加して混練する方法、ηrの低いポリアミドとともにフィラーを添加して混練する方法、ηrの高いポリアミドとともに添加して混練する方法、ポリフェニレンエーテルと全てのポリアミドが溶融混練された後に添加して更に混練する方法等が挙げられる。これらの中で最も好ましいのは、ηrの高いポリアミドとともに添加して混練する方法である。ηrの高いポリアミドと共に添加して混練する事により、フィラーの分散性が向上し、溶融粘度の上昇が低いフィラー濃度で達成しやすくなる。
【0052】
フィラーは、予めポリアミド中に分散さえたマスターバッチの形態で添加してももちろん構わない。
更に相溶化剤を添加する場合の好ましい添加方法としても、特に制限はないが、ポリフェニレンエーテルと共に添加する方法の方が、ポリアミドやエラストマーと添加する方法より好ましい。もちろん、ポリフェニレンエーテル存在下であれば、他の成分の混合物(ポリアミドやエラストマーも含む)と共に添加しても差し支えない。
また、本発明の製造方法においては、好ましい樹脂温度は300℃〜340℃の範囲内である。シート押出時の目ヤニの発生を抑制するためには、組成物の混練時の樹脂温度が340℃を超えない様に調整する事が望ましく、本願の製造方法を用いれば、達成可能となる。この時に樹脂温度とはシート成形用樹脂組成物の押出加工時において、ダイから押し出されてくる溶融樹脂の温度を接触式熱電対等で実測した際の温度である。
【0053】
この際の押出機等の加工機械のシリンダー設定温度は特に限定されるものではなく、上述したように樹脂温度が300℃〜340℃の範囲になるよう調整することが望ましい。具体的には、最も高いシリンダー設定温度は約280℃〜約330℃の中から選択される場合が多い。より好ましい範囲としては、約290℃〜320℃の範囲であろう。しかしながら、これら設定温度は、スクリューデザインによっても設定を変更する必要がある。混練の弱いスクリューデザインのおいては、上述した設定温度よりも若干高めに設定される場合があり、また混練の強いスクリューデザインの場合は若干低めに設定される場合がある。本製造方法においてはシリンダー設定温度は参考値であり、シリンダー設定温度よりは樹脂温度で管理する方が望ましい。
【0054】
本発明の製造方法により得られたシート押出用樹脂組成物は、シート押出を経て、シート状に成形可能である。
シート押出の際の押出機等に特に制限はなく、いずれの押出機でも構わない。また、シート押出時のシリンダー設定温度は、樹脂の溶融温度以上であれば、特に問題はない。具体的には、220℃〜320℃の範囲内である。
本発明の製造方法により得られたシート押出用樹脂組成物から得られるシートの好ましい厚みは50μm〜3mmである。より好ましくは100μm〜1mm、更に好ましくは、200μm〜700μmである。
また、得られたシートは、本シート押出用樹脂組成物のドローダウンが少ないという特性を活かして、真空成形に極めて有効である。真空成形により種々の形状に成形可能である。
以下、本発明を実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0055】
本発明を実施例に基づいて説明する。
[例1〜3(本発明)及び例A〜C(比較例)]
上流側供給口に1箇所と下流側に2箇所の供給口を有するL/Dが48のZSK40SC[コペリオン社製(ドイツ国)バレル数:12バレル(1バレルあたりのL/Dは4)、上流側供給口:第1バレル、第一下流側供給口:第6バレル、第二下流側供給口:第8バレル、減圧吸引で揮発成分除去を行う為のベントポート:第5バレル及び第10バレル]の最高シリンダー温度を320℃に設定した。
【0056】
上流側供給口よりポリフェニレンエーテル[S201A:旭化成ケミカルズ(株)製](以下、単にPPEと略記)、エラストマー[クレイトンG1651:クレイトンポリマーズ(株)製](以下、単にSEBSと略記)及び、相溶化剤[無水マレイン酸:三菱化学(株)製](以下、単にMAHと略記)を供給し、第一下流側供給口及び第二下流側供給口よりポリアミド6[ηr=2.71のPA6,(末端アミノ基濃度[NH])/(末端カルボキシル基濃度[COOH])=0.61](以下、単にPA6aと略記)、ポリアミド6[ηr=4.9のPA6,(末端アミノ基濃度[NH])/(末端カルボキシル基濃度[COOH])=0.93](以下、単にPA6bと略記)及び、ポリアミド6[ηr=4.00のPA6,(末端アミノ基濃度[NH])/(末端カルボキシル基濃度[COOH])=0.74](以下、単にPA6cと略記)と二酸化チタンを、それぞれ表1に示す割合で供給し、溶融混練し、ストランドを水冷し、ペレタイズした。この時、スクリュー回転数は300rpm、供給樹脂量は45kg/hであり、第5バレル及び第10バレルからは揮発成分を除去するため減圧吸引を実施した。
【0057】
この時、ダイから出てきた溶融樹脂の温度を、接触式熱伝対を用いて測定し、押出時のモーターのトルクを記録した。それぞれモータートルクは、モーター定格能力を100%とした相対値で表した。同じ吐出量で比較した時のモータートルクが低いほど、時間あたりの生産量を大きくする事が可能となる。この時得られた樹脂温度とモータートルクを、それぞれ、「押出時の樹脂温度」及び「押出時のトルク」として、表1に記載した。
上述した、原料として用いたポリアミドのηrはJIS K−6920−1:2000(測定温度25℃、98重量%硫酸、1g/100cm濃度、オストワルド粘度管)に準拠して測定した。また、ポリアミド混合物のηr(表1中には「ポリアミドの平均ηr」として記載)は、原料として用いたポリアミド6をそれぞれ1g/100cmの濃度で溶解し、配合比に応じた組成となるよう混合したポリアミド混合溶液を用いて、同様に測定した。
【0058】
得られたペレットを射出成形機(東芝機械株式会社製:IS80EPN)を用いて、溶融樹脂温度290℃、金型温度90℃で、ISO294−1に記載されている多目的試験片及び、150mm×150mm×2mmの平板状成形片を成形し、アルミ防湿袋中にて23℃で48時間静置した。
次に、多目的試験片の両端を切り取った試験片を用いて、ISO179−1993に従いエッジワイズ方向のアイゾッド衝撃強さを測定した。
また、多目的試験片の一部を使い、レオメーターを用いて1ラジアン/秒の周波数で、280℃における線形領域内での複素粘度[η*]を測定した。この時、用いたジオメトリーは、25mm直径のパラレルプレートである。表1には「溶融粘度」としてその値を記載した。
【0059】
次に得られたペレットを、幅約15cmのシートが成形可能な単軸シート押出機を用いて、シリンダー温度及びダイ温度を280℃に設定し、ダイ厚みを0.6mmに調整し、吐出量が35kg/hとなるようスクリュー回転数を調節し、シート押出を実施した。この時に、ダイ付近への目ヤニの生成状況を確認した。
尚、目ヤニの発生状況は以下の評価基準に基づき評価した。
AAA:シート押出開始後30分を経過しても、目ヤニの発生が確認されない。
AA :シート押出開始後20分〜30分経過後に目ヤニの発生が認められる。
A :シート押出開始後10分〜20分経過後に目ヤニの発生が認められる。
B :シート押出開始後、すぐに目ヤニの発生が認められる。
【0060】
次に、ダイ部分をスクレープし、目ヤニを除去した後、引き取りローラーの回転速度を調節し、厚み約0.4mm、長さ約300mmのシートを得た。このときのシートの幅は約140〜145mmであった。
真空成形性の評価として、得られたシートを200mmの長さに切断し、真空成形機での成形を実際に行った。真空成形機の金型は、幅70mm、長さ80mm、深さ30mmの四角いカップ状形状の成形片と幅70mm、長さ80mm、深さ35mmの四角いカップ状形状の成形片を同時に成形できる金型であり、シートの加熱投影面積は240cm(200mm×120mm)である。
【0061】
真空成形機のヒーターは310℃に設定し、予備過熱時間は5分とした。この5分間の加熱時間終了後、減圧吸引を実施して真空成形を実施した。
理解を助ける為、図1にカップ状真空成形片の概略図を示す。
同一条件で真空成形後、得られたカップ状成形片の成形状態を目視で確認し、以下の3つの観点で評価した。これらは、いずれも存在すると成形不良と判断される現象である。
1)穴、裂け目:成形品に穴や裂け目が発生する。
2)しわ:成形品にしわが発生する。
3)真空穴の跡の有無:真空吸引する穴の跡が成形品にある。
【0062】
次に、真空成形時のドローダウン性を評価する為、上述した真空成形時の5分間の加熱時間終了時に、その横から見た状態をデジタルカメラで撮影しておき、得られた画像よりドローダウン量を後に計算し、評価した。
理解を助ける為、図2にドローダウンを説明する概略図を示す。
例1と例A及びBは、ポリアミドとしてのηrはほぼらないが、製造方法が異なる。また、例2は樹脂としての組成は例1と同じであるが溶融粘度を高める量の酸化チタンが入っているところが異なる。
同じηrのポリアミドであっても、本発明の製法のようにηrの低いポリアミドとηrの高いポリアミドの混合物とする方法と、単一のηrのポリアミドとする方法では、真空成形性にさほど大きな差異は見られないが、シート押出性に大きな違いがあることが、例1と例Aの対比からわかる。また、例1と例Bの対比から、ポリアミドの供給位置により、ほぼすべての特性において差異があることが判る。本発明の製造方法は、優れた樹脂組成物・シート並びに真空成形品を得る為に有用であることがわかる。
【0063】
また、更に酸化チタンを溶融粘度を高めるに有効な量配合した例2は、さらに安定した特性を有していることがわかる。
また、例3と例Cは組成はまったく同じであるが、ポリアミドを分割して供給しなかった例Cにおいては樹脂組成物製造時のモータートルクが高くなり吐出量を維持できなくなり、樹脂温度も376℃と極めて高温となった。また、すべての特性において例3は例Cに大幅に優れていることが判る。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の製造方法により得られる組成物は、シート成形に代表される押出成形用途に好適に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例で用いたカップ状真空成形片の概略図。
【図2】本発明でいうドローダウンを説明する概略図
【符号の説明】
【0067】
a ヒーター
b シート
c シート押さえ部
d ドローダウン現象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及びエラストマーを含むシート押出用樹脂組成物の製造方法であって、ポリアミドが相対粘度の異なる少なくとも2種のポリアミド混合物であり、該ポリアミド混合物の相対粘度が3.3〜5.0であり、第一の工程でポリフェニレンエーテルと相対粘度の低いポリアミドとをあらかじめ溶融混練した予備混合物を形成し、第二の工程で該予備混合物と相対粘度の高いポリアミドとを溶融混練してなる事を特徴とするシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
相対粘度の異なる2種以上のポリアミド混合物のうち、相対粘度が低いポリアミドの相対粘度が2.0以上3.5以下である請求項1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
相対粘度の異なる2種以上のポリアミド混合物のうち、相対粘度が高いポリアミドの相対粘度が3.5を超え6.0以下である請求項1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
二酸化チタン、酸化亜鉛および硫化亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の無機フィラーを、溶融粘度を上昇させるのに充分な量で含む請求項1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
溶融混練時のダイ部における樹脂温度が、300℃以上340℃以下である請求項1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
ポリアミドが、ポリアミド6である請求項1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
一つの押出機中で、第一の工程と第二の工程を連続して実施する事を特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
第一の工程が、ポリフェニレンエーテルとエラストマーとを溶融混練する工程と、それに引き続き相対粘度が低いポリアミドを添加し溶融混練する工程からなる請求項1に記載のシート押出用樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の製造方法により得られたシート押出用樹脂組成物を、押出してなるシート。
【請求項10】
厚みが、100μm〜700μmである請求項9に記載のシート。
【請求項11】
請求項11に記載のシートを真空成形してなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−152018(P2006−152018A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340394(P2004−340394)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】