説明

シート金属加工用滑剤配合物

伝導性向上剤として、式(I)[R1とR2は、約10〜22炭素原子を含む飽和脂肪酸から誘導される十分に飽和した脂肪アシル基であり、R3は、コリン、第I族及び第II族の金属の一種の塩及び複数種の塩及び脂肪酸中和エタノールアミンから成る群から選択される]の構造を有するリン脂質を含む、食糧、ビール又は飲料容器素材用及び容器構成部品素材用滑剤が提供される。0.5〜50重量%のプロピレングリコールの脂肪酸エステル、0.5〜90重量%のペトロラタム及び0.5〜90重量%の鉱物性ホワイトオイルを含んで成る滑剤配合物も記載されている。最後に、式(II)[nは、7〜21で、そのアシル部分は、水素化されて最大限飽和されている]によって与えられるようなプロピレングリコールの脂肪酸モノエステルを耐力添加剤として含む金属加工用滑剤が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート(板状又は薄板状)金属を形成又は圧延する際に使用する滑剤組成物に関する。より具体的には、本発明は、シート金属表面に塗工可能で、非食糧及び食糧、ビール及び飲料包装製造を含む、種々の金属物体製造に使用可能な滑剤配合物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属シート加工の際に、滑剤(離型剤又は潤滑剤)をしばしば用いて、工具の低摩耗及び低付着としながら、加工物(又は工作物)を所望の製品(又は生産物)に変えるために必要な、切断、切削、切り抜き(cutting)、打ち抜き(stamping)、曲げ(bending)、圧伸成形、絞り成形(drawing)、アイアニング、しごき加工(ironing)及び他の形成操作を容易にする。
【0003】
米国では、食糧、ビール及び飲料容器及びその部分を形成するために使用される滑剤配合物は、米国食品医薬品局(FDA)規則No.21CFR178.3910を満足しなければならない。
【0004】
通常、灯油系滑剤がシート加工で使用される。しかし、これらの滑剤は、変換操作の間に形成されるかすの付着を生ずる傾向にある。その上、揮発性オイル滑剤の蒸発は、揮発性有機化合物(VOC)の形成をもたらし、健康及び環境問題を引き起こす。
【0005】
現在、二種の半固体プレ滑剤が、タブ素材(タブストック、つまみ原料又はフタ材料:tabstock)滑剤として一般に使用される。一つの配合物は、アルコア(Alcoa)によって1995年に出願された米国特許第5,672,401 に記載されている。フォース・インダストリーズ(Force Industries)によって製造され、商品名AMCO4942(登録商標)の下で市販されているもう一つの材料も、使用される。しかし、これらの滑剤は、種々のモードの塗工及び操作条件に適用性が乏しい。
【0006】
しばしば、シート金属製品、例えば缶体シートは、成形前に予め滑らかにされる及び/又は圧延後に液状滑剤で後ほど滑らかにされる。これらの液状滑剤は、一般的に低粘度であり及び/又は湿潤性が乏しいので、加工の間にシート表面から流れ出る、又は保管又は輸送中に巻いたシート金属からしみ出す傾向にある。このことを克服するために、過剰量の滑剤をしばしば塗工するが、これは追加のコストと廃棄物をもたらす。
【0007】
例えば、エチレングリコールのモノ及びジラウリル酸エステルから成るもの等の他の滑剤は、しばしば予め滑らかにされた自動車シートに使用されるが、室温で過度にもろいロウ状の固体になる傾向にあり、輸送又は加工の間にシートから分離する傾向にある。
【0008】
薄板圧延(又はシート圧延)では、常套の滑剤成分、例えば、脂肪アルコール、脂肪酸又は脂肪酸モノエステル(例えばメチル及びブチル等)は、圧延装置の作業ロールの負荷のために生ずるストリップ(切れ又は片)の破損防止に必ずしも成功せず、製品品質の問題を生じる。
【0009】
その結果、滑剤の配合選択及び滑剤塗工方法も、食糧、ビール及び飲料容器を含む、金属物品の製造の際の成功する使用に重要である。
【0010】
現在、FDA規則21CFR178.3910を満足する配合された表面滑剤は、典型的にはローラー塗り又は他の機械的技術を用いて塗工されるが、それは必ずしも均一な表面被覆を確保せず、しばしば物品に過剰な滑剤の堆積をもたらす。
【0011】
滑剤の均一塗工をもたらすことが見出された一つの方法は、静電塗工(electrostatic application)である。表面滑剤の静電塗工は、正確に制御可能な塗工レベルで高いライン速度で行えるので、経済的かつ技術的に好ましい。更に、極めて少ない過剰量の滑剤を用いるので、この技術は一つの滑剤からもう一つの滑剤へ容易な切り替えを可能とし、相当小さな環境的痕跡を残す。
【0012】
しかし、滑剤は、静電塗工を用いて塗工するために、あるレベルの伝導性を有さなければならない。FDA規則21CFR178.3910に基づいて配合され、食糧、ビール及び飲料用途に最も一般的に使用される炭化水素及び脂肪酸エステル又は脂肪酸系滑剤は伝導性ではなく、それらが静電技術に従うようにするために伝導性向上剤を必要とする。
【0013】
炭化水素系滑剤配合物に可溶性の伝導性向上剤として数は極めて限られている。もちろん、レシチンは、表面滑剤用伝導性向上剤として市販されている限られた材料の一つであり、必要なFDAの要求も満足する。しかし、滑剤中のその存在により、そのような滑剤を用いて滑らかにされた金属容器に包装された食糧、ビール又は飲料の味と香りを危うくし得る。
【0014】
U.S. 5,135,669 は、燃料油と潤滑油のための摩擦緩和剤として水素化レシチンを開示するが、自動車の自動変速機で使用するための潤滑油を検討するのみである。
【0015】
U.S. 2,295,192 も、潤滑油添加剤として水素化レシチンを開示する。
【0016】
最後に、U.S. 6,207,286 及び U.S. 2002/0006519 は、食糧容器素材から形成された金属シート製品を開示する。滑剤組成物は、伝導性向上剤として天然レシチンを含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、食糧、ビール及び飲料容器についての使用に安全であり、金属加工用に適する特性を与える、シート(又は板状)金属製品の製造に使用する滑剤を開発することが極めて望まれている。静電塗工用滑剤の伝導性(伝導度又は導電性)を向上する、臭気と香気は実質的に中立(又はニュートラル)の、滑剤用添加剤を見出すことも望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の開示
従って、第一の要旨において、本発明は、伝導性向上剤として式(I):
【化1】

[ここで、
及びRは、同じでも異なっていてもよく、約10〜22の炭素原子を含む飽和脂肪酸から誘導される十分に(又は完全に)飽和した脂肪アシル基であり、
は、コリン、第I族及び第II族の金属の一種の塩及び複数種の塩及び脂肪酸中和エタノールアミンである。]
の構造を有するリン脂質を含む、食糧、ビール又は飲料容器素材(材料又は原料)用及び容器構成部品(又は容器構成材)素材用滑剤を提供する。
【0019】
本発明のリン脂質を、伝導性向上剤として含む滑剤を用いて滑らかに(円滑に又は潤滑)されている表面であって、食糧、ビール又は飲料と接触する少なくとも一つの表面を有する金属シート又は箔(又はホイル)を含んで成る、食糧、ビール又は飲料容器素材及び容器構成部品素材も提供する。更に本発明は、滑剤が本発明のリン脂質を伝導性向上剤として含む、食糧、ビール又は飲料容器素材及び容器構成部品素材を滑らかにする方法を提供する。容器構成部品素材は、典型的にはタブ(つまみ又はフタ)素材である。
【0020】
第二の要旨において本発明は、シート金属表面に、ロウ状の展性のある半固体ドレッシングとして塗工(塗布又は適用)でき、0.5〜50重量%のプロピレングリコールの脂肪酸エステル、0.5〜90重量%のペトロラタム及び0.5〜90重量%の鉱物性(又はミネラル)ホワイトオイル(mineral white oil)を含んで成る滑剤(又は潤滑)配合物を提供する。0.5〜50重量%のプロピレングリコールの脂肪酸エステル、0.5〜90重量%のペトロラタム及び0.5〜90重量%の鉱物性ホワイトオイルを含んで成る滑剤配合物を準備すること及びシート金属表面に滑剤配合物を塗工することを含んで成るシート金属表面を滑らかにする方法も提供する。
【0021】
本発明は、シート金属表面に、ロウ状の展性のある半固体ドレッシングとして塗工でき、プロピレングリコールの脂肪酸エステルを耐力添加剤(耐荷力又は耐荷重添加剤:load bearing additive)として含んで成る滑剤配合物も広く提供する。
【0022】
第三の要旨において本発明は、式(II):
【化2】

[ここで、nは、7〜21であり、そのアシル部分は水素化されて、最大に飽和されている]
によって与えられるようなプロピレングリコールの脂肪酸モノエステルを耐力添加剤として含む金属加工法用滑剤又は冷却材;及び
本発明のプロピレングリコールの脂肪酸モノエステルを耐力添加剤として含む滑剤又は冷却材を、加工ロール又は金属素材の少なくとも一つの表面に塗工すること、及び滑らかにした金属素材を所定の厚さに圧延することを含んで成る金属素材を圧延して金属シート又はホイルを形成する方法を提供する。
【0023】
本発明を添付した図面を参照しながら、以下説明する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、滑剤の伝導性を改良する伝導性向上剤を含めることによってシート金属製造に使用される常套の滑剤を改良する。滑剤の伝導性は、シート金属の表面に滑剤の静電塗工(又は塗装)を可能とするために必要である。静電塗工では、滑剤の小さな帯電した滴(又は粒)が互いに反発する傾向にあり、またそれらが堆積した、電気的に接地した金属シート表面に引きつけられる。滴の間の一般的な反発のために、滴は、電荷のない領域に堆積する傾向にあり、このことが塗工の均一性に寄与する。
【0025】
本発明で提案する伝導性向上剤は、それを伝導性にするイオン構造の特徴を有する合成リン脂質化合物である。その化学構造中に存在する飽和のみの脂肪酸部分を有するリン脂質化合物が許容できることが見出された。なぜならば、それらは酸化に対してより安定であり、レシチンのように、天然リン脂質ほど腐った香気及び鼻につくにおいを生ずる可能性が高くないからである。
【0026】
本発明で述べる伝導性向上剤の一つの構造は、下記式(I):
【化3】

に示される。
【0027】
本発明の向上剤は、脂肪酸グリセリドと似ているが、ホスフェート(又はリン酸エステル:phosphate)基が脂肪酸基の一つを置換しており、有機塩基がホスフェート基に結合している。有機塩基としてコリンが示されているが、エタノールアミンはもう一つの他の可能な塩基であり、一級アミノ基を有する。好ましい構造では、R及びR基は、完全に飽和され、単結合のみを有し、香気と酸化の中立性を確保する。
【0028】
好ましくは、RC=OとRC=O基の炭素鎖長は、例えば80〜85%のC18ステアリン酸と12〜16%C16パルミチン酸の組成物では、約10〜22炭素原子である。それらの基は、同じ長さでも混合されてもよい。オレイン酸及びその異性体の含有量は5%より少ないことが好ましく、リノール酸とリノレン酸の含有量は5%より低いことが好ましく、2%より低いことがより好ましい。
【0029】
式(I)に示される伝導性向上剤は、ホスフェートとアミノ基に内部電荷を有し、それが伝導性向上特性を与える作用を行う。
【0030】
場合により、ホスファチジルコリンを置換し得る他の可能性のある電荷を有する基は、ホスフェートのモノナトリム塩及びナトリウム又は他のアルカリ金属塩、例えばカリウム塩又は脂肪酸中和ホスホエタノールアミンである。
【0031】
室温で典型的に液体である天然レシチンと異なり、本発明で使用する合成水素化レシチンは固体である。
【0032】
本発明の伝導性向上剤を含む種々の滑剤の伝導性と臭気を評価するために、向上剤の種々の濃度で、温度を変えて試験を行った。これらの試験結果は、実施例で検討する。
【0033】
本発明の第二の要旨は、FDA規則21CFR178.3910を満足し、上述の伝導性向上剤と一緒に使用するに適する新規な滑剤配合物に関する。本発明の目的のために、食糧、ビール又は飲料容器素材用滑剤を、FDA規則21CFR178.3910の要求の範囲に入るものと定義する。
【0034】
本発明の滑剤配合物は、固体プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.5〜50重量%の濃度で、ペトロラタムを0.5〜90重量%の濃度で、鉱物性ホワイトオイルを0.5〜90重量%の濃度で含んで成る。好ましくは配合物は、固体プロピレングリコール脂肪酸モノエステルを4〜30重量%で、ペトロラタムを6〜75重量%で、鉱物性ホワイトオイルを8〜80重量%で含んで成る。形成した物品の目的とする最終用途及び形成操作後の加工工程に応じて、提案滑剤配合物を、別の純度又はグレードの薬品を用いて混合してよく、異なるタイプの機能性共同(又は補助)添加剤と組み合わせてよい。
【0035】
上述の成分は、本発明の基本的配合物を形成するが、上述の成分の濃度を変えることによって及び/又は機能性添加剤を用いて配合物を修正することによって、具体的な形成方法、ベース金属、又は物品の要求に適合するように配合物を調整することができる。滑剤の静電塗工が可能なように添加剤を加えてよく、粘度及び耐力特性を修正するために他の添加剤を加えてよく、また、乳化性及び洗浄特性を与えるために他の添加剤を加えてよく、製品の貯蔵寿命と酸化安定性を向上するために他の添加剤を加えてもよい。
【0036】
本発明の三つの主要な構成成分は、食糧及び飲料との偶発的又は直接的接触に対してFDAが承認したグレード(又は等級)で全て市販されている。三つの主要な成分の濃度を変えることによって、適用性(又は塗工性)、稠度、粘着性及び工具摩耗及び増加する要求を満たすために、本発明の滑剤配合物を容易に調整することができる。従って、他の金属形成操作で塗工用に常套の配合物を調整することができるので、プレス操作での故障及びコストを減少させることができる。
【0037】
シート金属に滑剤を塗工するために使用する方法及び形成した物品の最終用途に応じて、滑剤配合物に少量の機能性添加剤を加えることが好ましい。そのような添加剤は、10重量%より少ない濃度で存在することが好ましい。
【0038】
添加剤は、
(i)耐力添加剤、例えば脂肪アルコール、ジカルボン酸又は脂肪酸及びそれらのエステル、例えば脂肪酸エステル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、アゼライン酸トリデシル及び/又はセバシン酸ジオクチル、
(ii)マトリックス希釈剤、例えば上述のエステル、
(iii)酸化防止剤、例えばBHT、BHA、没食子酸プロピル(propyl gallate)又はビタミンE、
(iv)乳化剤及び洗浄剤、例えばアミンと脂肪酸の塩、例えばトリエタノールアミンとイソステアリン酸から製造されるもの、及び
(v)伝導性向上剤、例えば水素化レシチン及び関連化合物
を含み得る。
【0039】
他の可能な伝導性向上剤は、(a)パルミチン酸マグネシウム又はパルミチン酸アルミニウム又はステアリン酸アルミニウム、(b)テトラメチルノニルアミン又はC11〜C14アルキルアミンで中和されたリン酸のジヘキシルエステル、(c)食用に適する供給源から誘導されるモノ及びジグリセリドを五酸化リン(十酸化四リン)と反応させ、その後炭酸ナトリウムで中和することで形成されるグリセリド誘導体から成るモノ及びジグリセリドのホスフェート(又はリン酸エステル)モノナトリウム誘導体、(d)上述のように製造され、エタノールアミンと反応され、脂肪酸で中和されたモノ及びジグリセリドのホスフェート誘導体、(e)ドデシルスルホン酸ナトリウムを含むことができる。
【0040】
具体的金属成形作業に要する滑剤の量は、成形方法の過酷度、使用する金属の種類、成形作業の前及び間の温度、工具の摩耗と堆積、物品の種類、及び所望の表面品質を含む要因に依存する。300mg/フィート(3230mg/m)を超える滑剤表面塗工速度が満足なものである。しかし、多くの塗工は、100mg/フィート(1075mg/m)より低い、好ましくは20〜80mg/フィート(215〜860mg/m)を要求する。
【0041】
本発明の滑剤配合物を、顧客に出荷する前に金属シート又はストリップに塗工することができ、成形プレスの直前に、裸の清浄にした又は予め処理した金属表面に塗工することができる。周囲温度から周囲温度より下の温度で、固体又は半固体状態で配合物を塗工することができる。溶融及び均一状態で滑剤を塗工することが好ましい。
【0042】
全ての配合物は、均一な単一系を確保し、好ましくは約65℃(150°F)に加熱して容易な塗工を示す。使用する塗工装置に応じて、より低い又はより高い温度も選択できる。浸漬(dipping)、浸漬と塗り付け(wiping)、浸漬とロール塗り(rolling)、ローラー塗り(roller coating)、吹き付け(spraying)、はけ塗り(brushing)、回転噴霧(rotary atomizing)、又は静電塗工を含む種々の技術を用いて基材に滑剤を塗工することができる。後の二種の技術が好ましく、一般に可溶性導電性向上剤、例えば上述したものを加えることを要求する。静電塗工では、滑剤は液体の形態に加熱されるが、滑剤の滴は、接地した金属シート上で固化する。シート金属上で固体又は半固体滑剤が好ましく、その結果滑剤はシート金属に付着し無傷でいられ、成形加工の間にうまく機能する。
【0043】
圧延の際に、滑剤配合物のプロピレングリコールの脂肪酸エステル成分は、金属表面と滑剤の間に結合をもたらすように作用し、加工の間に耐力添加剤として摩擦を減らすようにも作用する。プロピレングリコールの脂肪酸モノエステルはこのために使用することが好ましい。この成分は、アルミニウム表面と多座結合を形成すると考えられ、常套の脂肪アルコール型の滑剤より圧延負荷と摩擦の減少により効果的である。この圧延負荷の減少は、実質的により少ない圧延孔型をもたらし、より少ないストリップの破損をもたらす。ストリップの破損は、過剰の圧延負荷によって生じる端部の破損によって生ずる。このことによって生産性の増加が結果として生ずる。この成分は、0.1〜5重量%の濃度で使用することが最も好ましい。
【0044】
本発明のプロピレングリコールの脂肪酸モノエステルは、式(II):
【化4】

[ここで、アシル部分は、nが7〜21、好ましくは11〜17であるn炭素原子から成ってよい]
に示す構造を含む。モノエステルは、純粋な又は精製された脂肪酸の(工業用)原料から作ることができる。また、ヨウ素価(又はヨード数)が5を超えないように、原料を水素処理して、又は最終モノエステルを水素処理してアシル部分内の不飽和炭素−炭素二重結合のレベルを除去又は減少させるという条件で、植物又は動物油原料から作ることができる。
【0045】
プロピレングリコールの脂肪酸モノエステルは、式(III)に示すように複数のAl−O結合を介してアルミニウム表面に付着することができ、アルミニウムとの強い親和性又は結合をもたらすことができると考えられる。化合物のアシル基の長い炭素原子鎖は、構成部品に優れた潤滑特性を与える。
【化5】

【実施例】
【0046】
例1:伝導性向上剤として水素化合成レシチンを有する滑剤の伝導性(又は伝導度)
第1表は、ある温度範囲で、リポイド(Lipoid)S75−3N(登録商標)として市販の水素化レシチンを種々の濃度で含む市販の滑剤配合物から取った抵抗率(伝導性の逆数)測定を示す。試験した滑剤は、アルキャン(Alcan)1A(本発明で記載したもの)とアムコ(AMCO)4942(登録商標)(約15%のブチルパルミテート/ステアレートと約85%のペトロラタムを含んで成る)である。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
例2:伝導性向上剤としての水素化合成レシチンを有する滑剤の臭気
第2表は、本発明の水素化レシチンを種々の濃度で配合した市販の滑剤とアルキャン1Aの臭気試験結果を示す。結果は、下記の表面滑剤の臭気評価に見られるように、LipoidS75−3Nとして市販の水素化レシチンは臭気を増加しない。
【0050】
【表3】

【0051】
例3:成功した滑剤配合物
アルミニウムのふた、つまみ、カップ(又はコップ)、缶を形成するために首尾よく試みた滑剤配合物を第三表に示した。これらの例では、マイベロール(Myverol)P−06K(登録商標)は、プロピレングリコールの脂肪酸モノエステルであり、増粘剤及び耐力成分として使用されており、プロトペット(Protopet)1S(登録商標)は、ペトロラタム化合物であり、増粘剤として使用されており、ドラケロール(Drakerol)600(登録商標)は、食糧グレードの鉱物性ホワイトオイルであり、キャリアとして使用されている。セバシン酸ジオクチル(DOS)も、配合物のいくつかに増粘剤及び耐力化合物として加えられている。
【0052】
【表4】

【0053】
上述の潤滑配合物を、裸の(又はありのままの)清浄にしたタブ素材のストリップ(又は細長い片)に、32フィート/分(9.75m/分)で動作する実験室サイズの塗工機を用いて46〜89mg/平方フィート(495〜958mg/m)の表面濃度で塗工した。ストリップは、0.0110”(0.028cm)ゲージ、AA5182タブ素材、2100〜2200フィート(640〜670m)長さであり、タブ製造工程の前に、巻き直した。予め滑らかに(又は潤滑)されたタブストリップを、各々公称1.7時間の継続時間、一分当たり200ストローク(spm)で動作する変換プレスを通した。滑らかにしたタブ素材の合計23,000フィート(224,000タブ)をプレスを通して加工した。最後の19,500フィート(187,000タブ)は、累積15.6時間を示したが、工具清浄を要することなく動作した。故障や重大な工具堆積を生じなかった。タブの品質は満足なものであり、いくつかの配合物は他のものより良好な表面損傷保護をもたらすことが見出された。
【0054】
例4:滑剤配合物を用いるカップ/缶製造
裸の缶本体素材も、本発明の滑剤配合物を用いて滑らかにすることができ、カップ用プレスを通す常套の方法で、カップ用滑剤を塗工することなく、通常の冷却材を用いるボディーマーカーを用いて首尾よく運転可能なことを確認するために試験を行った。
【0055】
約40フィート(12m)の缶本体シートを洗浄し、滑剤配合物をストリップの両面に塗工した。この材料を、カッププレスで約100spmで運転し、カップを粘着又は搬送の問題無く常套のコンベアと追跡システムを介してボディマーカーに運んだ。合計126のカップを作り、それらの107をボディーマーカーに送った。全ての107カップは、故障や供給ミスなく、約300spmで運転するボディーマーカーを通って連続的に供給された。
【0056】
例5:圧延オイル添加剤として脂肪酸モノエステルを用いる圧延試験
プロピレングリコールの脂肪酸モノエステルを含む滑剤を、実験室スケールの圧延機で試験して、その耐力特性を調べた。典型的な脂肪アルコール添加剤とベースオイル(又は基油)としての炭化水素を含むモデル圧延油に0.5〜6%濃度で共同添加剤として、モノエステルを用いた。図1のその結果は、共同添加剤を用いないモデル圧延と比較して、モノエステル共同添加剤は10%圧延負荷(具体的圧力として示す)を減少させたことを示す。
【0057】
本発明の方法とモノの詳細な説明は、本発明の優れた態様を説明するために使用される。当業者であれば、本発明について種々の変更が可能であり、種々の他の態様を使用できることは自明であろう。従って、本発明の方法及びもの、更にものを適用する用途に関し本発明の範囲(これは添付した特許請求の範囲によってのみ制限される)を離れることなく、種々の変更が可能であることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、種々の滑剤を用いてアルミニウムシートを圧延するための具体的な圧力の強さ(又は単位圧)と累積工学ひずみとの間の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝導性向上剤として式(I):
【化1】

[ここで、
及びRは、同じでも異なっていてもよく、約10〜22の炭素原子を含む飽和脂肪酸から誘導される十分に飽和した脂肪アシル基であり、
は、コリン、第I族及び第II族金属の一種の塩及び複数種の塩及び脂肪酸中和エタノールアミンから成る群から選択される]
の構造を有するリン脂質を含む、食糧、ビール又は飲料容器素材用及び容器構成部品素材用滑剤。
【請求項2】
リン脂質のR及びRの鎖は、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸を含んで成る請求項1に記載の滑剤。
【請求項3】
リン脂質のR及びRの鎖は、18炭素原子の長さを有するステアリン酸を80〜85%、16炭素原子の長さを有するパルミチン酸を12〜16%、オレイン酸を5%より少なく、リノール酸を5%より少なく含んで成る請求項2に記載の滑剤。
【請求項4】
滑剤成分は、食糧、ビール又は飲料容器用米国食品医薬品局規則を満たすものである請求項1〜3のいずれかに記載の滑剤。
【請求項5】
滑剤成分は、炭化水素及び脂肪酸エステル又は脂肪酸を含んで成る請求項4に記載の滑剤。
【請求項6】
第I族及び第II族金属の一種の塩及び複数種の塩は、ナトリウム塩、モノナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含んで成る請求項1〜5のいずれかに記載の滑剤。
【請求項7】
容器構成部品素材は、タブ素材である請求項1〜6のいずれかに記載の滑剤。
【請求項8】
食糧、ビール又は飲料と接触する少なくとも一つの表面を有する金属シートを含んで成る食糧、ビール又は飲料容器素材及び容器構成部品素材であって、
その表面は、伝導性向上剤として式(I):
【化2】

[ここで、
及びRは、同じでも異なっていてもよく、約10〜22の炭素原子を含む飽和脂肪酸から誘導される十分に飽和した脂肪アシル基であり、
は、コリン、第I族及び第II族金属の一種の塩及び複数種の塩及び脂肪酸中和エタノールアミンから成る群から選択される]
の構造を有するリン脂質を含む滑剤で滑らかにされる容器素材及び容器構成部品素材。
【請求項9】
滑剤は、食糧、ビール又は飲料容器用米国食品医薬品局規則を満たすものである請求項8に記載の容器素材及び容器構成部品素材。
【請求項10】
滑剤は、炭化水素及び脂肪酸エステル又は脂肪酸を含んで成る請求項9に記載の容器素材及び容器構成部品素材。
【請求項11】
伝導性向上剤としての第I族及び第II族金属の一種の塩及び複数種の塩は、ナトリウム塩、モノナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含んで成る請求項8〜10のいずれかに記載の容器素材及び容器構成部品素材。
【請求項12】
容器構成部品素材は、タブ素材である請求項8〜11のいずれかに記載の容器素材及び容器構成部品素材。
【請求項13】
食糧、ビール又は飲料容器素材及び容器構成部品素材を滑らかにする方法であって、
滑剤は、伝導性向上剤として式(I):
【化3】

[ここで、
及びRは、同じでも異なっていてもよく、約10〜22の炭素原子を含む飽和脂肪酸から誘導される十分に飽和した脂肪アシル基であり、
は、コリン、第I族及び第II族金属の一種の塩及び複数種の塩及び脂肪酸中和エタノールアミンから成る群から選択される]
によって与えられるリン脂質を含み、
a)滑剤を加熱して液状の滑剤を形成すること;及び
b)容器素材に、液状の滑剤を静電的に塗工すること
を含む方法。
【請求項14】
滑剤成分は、食糧、ビール又は飲料容器用米国食品医薬品局規則を満たすものである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
滑剤成分は、炭化水素及び脂肪酸エステル又は脂肪酸を含んで成る請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第I族及び第II族金属の一種の塩及び複数種の塩は、ナトリウム塩、モノナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含んで成る請求項13〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
容器構成部品素材は、タブ素材である請求項13〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
a. 0.5〜50重量%のプロピレングリコールの脂肪酸エステル、
b. 0.5〜90重量%のペトロラタム、及び
c. 0.5〜90重量%鉱物性ホワイトオイル
を含んで成る、シート金属表面にロウ状の展性のある半固体状ドレッシングとして塗工するための滑剤配合物。
【請求項19】
プロピレングリコールの脂肪酸エステルを4〜30重量%、ペトロラタムを6〜75重量%、鉱物性ホワイトオイルを8〜80重量%含んで成る請求項18に記載の滑剤配合物。
【請求項20】
プロピレングリコールの脂肪酸エステルは、プロピレングリコールの脂肪酸モノエステルである請求項19に記載の滑剤配合物。
【請求項21】
更に、機能性添加剤を含んで成る請求項20に記載の滑剤配合物。
【請求項22】
機能性添加剤は、耐力添加剤、マトリックス希釈剤、酸化防止剤、乳化剤、洗浄剤、伝導性向上剤及びそれらの組み合わせから成る群から選択される請求項21に記載の滑剤配合物。
【請求項23】
耐力添加剤は、脂肪アルコール、ジカルボン酸又は脂肪酸及びそのエステル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、アゼライン酸トリデシル、セバシン酸ジオクチル及びそれらの組み合わせから成る群から選択される請求項22に記載の滑剤配合物。
【請求項24】
マトリックス希釈剤は、脂肪アルコールエステル、ジカルボン酸エステル及び脂肪酸エステルから成る群から選択される請求項22に記載の滑剤配合物。
【請求項25】
酸化防止剤は、BHT、BHA、没食子酸プロピル及びビタミンEから成る群から選択される請求項22に記載の滑剤配合物。
【請求項26】
乳化剤及び洗浄剤は、アミンと脂肪酸の塩である請求項22に記載の滑剤配合物。
【請求項27】
乳化剤及び洗浄剤は、トリエタノールアミンとイソステアリン酸の塩である請求項26に記載の滑剤配合物。
【請求項28】
伝導性向上剤は、合成水素化レシチン、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、テトラメチルノニルアミン又はC11〜C14アルキルアミンで中和されたリン酸のジヘキシルエステル、食用のソースから誘導されるモノ及びジグリセリドを五酸化リン又は十酸化四リンと反応させた後炭酸ナトリウムで中和して形成されるグリセリド誘導体からできているモノ及びジグリセリドのリン酸モノナトリウム誘導体、食用ソースから誘導されるモノ及びジグリセリドを五酸化リン又は十酸化四リンと反応させエタノールアミンと反応させ脂肪酸で中和させて形成されるモノ及びジグリセリドのホスフェート誘導体、及びドデシルスルホン酸ナトリウムから成る群から選択される請求項22に記載の滑剤配合物。
【請求項29】
伝導性向上剤は、合成水素化レシチンである請求項28に記載の滑剤配合物。
【請求項30】
d. 0.5〜50重量%のプロピレングリコールの脂肪酸エステル、0.5〜90重量%のペトロラタム及び0.5〜90重量%のホワイトオイルを含んで成る滑剤配合物を準備すること、及び
e. シート金属表面に滑剤配合物を塗工すること
を含むシート金属表面を滑らかにする方法。
【請求項31】
配合物を、固体又は半固体状形態でシート金属に塗工する請求項30に記載の方法。
【請求項32】
配合物をシート金属に塗工する前に、液状形態に加熱する請求項31又は32に記載の方法。
【請求項33】
液状形態の配合物を、浸漬、浸漬と塗り付け、浸漬とロール塗り、ローラー塗り、吹き付け、はけ塗り、回転噴霧又は静電塗工によってシート金属に塗工する請求項32に記載の方法。
【請求項34】
液状形態の配合物を静電塗工によってシート金属に塗工する請求項33に記載の方法。
【請求項35】
滑剤配合物を、1075mg/m又はそれより低い濃度でシート金属表面に塗工する請求項30〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
滑剤配合物を、215〜860mg/mの濃度でシート金属表面に塗工する請求項35に記載の方法。
【請求項37】
プロピレングリコールの脂肪酸エステルを耐力添加剤として含み、ロウ状の展性のある半固体ドレッシングとしてシート金属表面に塗工するための滑剤配合物。
【請求項38】
耐力添加剤として式(II):
【化4】

[ここで、nは、7〜21であり、そのアシル部分は水素化されて、最大限飽和されている]
によって与えられるプロピレングリコールの脂肪酸モノエステルを含む、金属加工法で使用する滑剤又は冷却材。
【請求項39】
プロピレングリコールの脂肪酸モノエステルは、炭化水素ベース中に又はエステル中に供給される請求項38に記載の滑剤又は冷却材。
【請求項40】
炭化水素ベースは、鉱油、灯油、直鎖パラフィン及びイソパラフィンから成る群から選択される請求項39に記載の滑剤又は冷却材。
【請求項41】
追加の耐力添加剤を更に含んで成る請求項39に記載の滑剤又は冷却材。
【請求項42】
追加の耐力添加剤は、脂肪アルコール又は脂肪酸である請求項41に記載の滑剤又は冷却材。
【請求項43】
容器素材の圧延に使用する請求項38〜42のいずれかに記載の滑剤又は冷却材。
【請求項44】
nは、11〜17である請求項38〜43のいずれかに記載の滑剤又は冷却材。
【請求項45】
プロピレングリコールの脂肪酸モノエステルは、純粋な又は精製された脂肪酸の原料から作られる請求項38〜44のいずれかに記載の滑剤又は冷却材。
【請求項46】
プロピレングリコールの脂肪酸モノエステルは、不飽和炭素−炭素二重結合を除去又は減ずるために水素処理して5又はそれより小さいヨウ素価を達成した植物原料又は動物油原料から作られる請求項45に記載の滑剤又は冷却材。
【請求項47】
素材の少なくとも一つの表面が食糧、ビール又は飲料と接触する、食糧、ビール又は飲料容器素材及び容器構成部品素材を製造する際に使用するための請求項38〜46のいずれかに記載の滑剤又は冷却材。
【請求項48】
金属シート又は箔を形成するために金属素材を圧延する方法であって、
a. 耐力添加剤として式(II):
【化5】

[ここで、nは、7〜21であり、そのアシル部分は水素化されて、最大限飽和されている]
によって与えられるプロピレングリコールの脂肪酸モノエステルを含む滑剤を、作業ロール又は金属素材の少なくとも一つの表面に塗工すること、
b. 予め滑らかにした金属素材を所定の厚さに圧延すること
を含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−503619(P2008−503619A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516923(P2007−516923)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/CA2005/000966
【国際公開番号】WO2006/000084
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(506110243)ノベリス・インコーポレイテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
【Fターム(参考)】