説明

シールド導電路およびシールド導電路の製造方法

【課題】放熱性を向上させることが可能なシールド導電路およびシールド導電路の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のシールド導電路10は、導体13を絶縁被覆14で包囲してなる1本の電線11を金属製のパイプ12に挿通し、前記パイプ12を前記一本の電線11の外周に沿う形状としたものである。このような構成によれば、電線11の全周がパイプ12に近接するから、電線11の熱が効率よくパイプ12に伝達するので、放熱性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド導電路およびシールド導電路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数本のノンシールド電線を金属製のパイプに挿通することで、電線をシールドするとともに保護するようにしたシールド導電路が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−171952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような構成のシールド導電路では、通電時に電線で発生した熱が熱伝導率の低い空気に遮断されてパイプに伝達しにくく、パイプの内部に籠もりやすいので、放熱性の向上を図る工夫が望まれていた。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、放熱性を向上させることが可能なシールド導電路およびシールド導電路の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシールド導電路は、導体を絶縁被覆で包囲してなる1本の電線を金属製のパイプに挿通し、前記パイプを前記一本の電線の外周に沿う形状としたものである。このような構成によれば、電線の全周がパイプに近接するから、電線の熱が効率よくパイプに伝達するので、放熱性を向上することができる。
【0007】
また、前記パイプの内周を前記1本の電線の外周に面接触させたものとしてもよい。このような構成によれば、電線の熱がより効率よくパイプに伝達するから、さらなる放熱性の向上を図ることができる。
【0008】
また、前記パイプの外周に、外方に突出する突出片を設けたものとしてもよい。このような構成によれば、パイプの放熱面積が増えるから、さらなる放熱性の向上を図ることができる。
また、前記突出片を介して前記パイプ同士を連結する構成としてもよい。このような構成によれば、複数のシールド導電路を一体に取り扱うことができる。
【0009】
本発明のシールド導電路の製造方法は、導体を絶縁被覆で包囲してなる1本の電線を金属製のパイプに挿通し、前記パイプを前記一本の電線の外周に沿った形状となるように変形させる方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放熱性を向上させることが可能なシールド導電路およびシールド導電路の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態1にかかるシールド導電路の断面図
【図2】パイプを加工する様子を表す概念図
【図3】実施形態2にかかるシールド導電路の断面図
【図4】実施形態3にかかるシールド導電路の断面図
【図5】実施形態4にかかるシールド導電路の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1について、図1および図2を参照しつつ詳細に説明する。
本実施形態におけるシールド導電路10は、例えば電気自動車において走行用の動力源を構成するバッテリ、インバータ、モータなどの装置(図示せず)の間に配索されるものであり、ノンシールドタイプの電線11を、シールド機能と電線保護機能を兼ね備える金属製のパイプ12内に挿通してなるものである。
【0013】
電線11は、金属製(例えば、アルミニウム合金や銅合金など)の導体13の外周を合成樹脂製の絶縁被覆14で包囲してなるものであり、導体13は、複数本の細線(図示せず)を螺旋状に寄り合わせた撚り線からなる。
【0014】
パイプ12は金属製(例えば、アルミニウム合金や銅合金など)であって、その断面形状は、パイプ12内に挿通された一本の電線11の外周に沿う円形状をなしている。詳しくは、パイプ12の内周12Aおよび外周12Bは、軸方向から見ると、ともに凹凸のない真円形状をなしている。また、パイプ12の厚さ寸法は、軸方向および周方向に一定とされている。パイプ12の内周12Aは、略全周にわたり電線11の外周に面接触している。
【0015】
次に、シールド導電路10の製造方法について説明する。
まず、パイプ12を製造する。このとき、電線11よりも一回り大きい(内径寸法が電線11の外径寸法よりも大きい)断面形状を有するパイプ12を、押し出し成形により製造する。
次いで、パイプ12内に1本の電線11を挿通させる。電線11の外周とパイプ12の内周12Aとの間には、電線11の挿通を容易にするためのクリアランスが空いている。
【0016】
その後、パイプ12を、一本の電線11の外周に沿った形状となるように変形させる。この工程においては、複数のローラ15を有する加工機(図示せず)を使用する。電線11を挿通したパイプ12を、加工機のうちローラ15に囲まれてなる空間に挿入すると、回転軸15Aを中心にローラ15が回転し、ローラ15の外周がパイプ12の外周12Bを押圧する。そして、ローラ15の押圧力を管理しつつパイプ12を軸方向に移動させると、ローラ15の押圧作用によりパイプ12は縮径し、電線11の外周に密着する。こうして、パイプ12は、電線11の外周に沿った形状に塑性変形し、シールド導電路10が完成する。
【0017】
次に、上記のように構成された実施形態1の作用および効果について説明する。
本実施形態では、シールド導電路10は、導体13を絶縁被覆14で包囲してなる1本の電線11を金属製のパイプ12に挿通し、このパイプ12を一本の電線11の外周に沿う形状としている。これにより、電線11の全周がパイプ12に近接するから、電線11の通電時に導体13において発生した熱は、導体13から絶縁被覆14に伝達され、絶縁被覆14の外周の全体からパイプ12の内周12Aの全体に伝達され、パイプ12の外周12Bから大気中へ放出される。ここで、複数本(例えば3本)の電線11をパイプに挿通し、3本の電線11の外周に沿う形状にパイプを変形させた場合には、パイプ内において電線11同士が密着する部分が生じ、その部分においては熱が籠もりやすくなるおそれがある。しかしながら、本実施形態では、1本の電線11を金属製のパイプ12に挿通し、このパイプ12を一本の電線11の外周に沿う形状としているから、そのような電線11の密着部分が生じず、電線11の全周からパイプ12に熱が伝わるようになっている。したがって、電線11の熱が効率よくパイプ12に伝達するので、放熱性を向上することができる。
【0018】
また、パイプ12の内周12Aを1本の電線11の外周に面接触させている。これにより、電線11の熱が効率よくパイプ12に伝達するから、さらなる放熱性の向上を図ることができる。
【0019】
なお、本実施形態のシールド導電路10は、1本の電線11を金属製のパイプ12に挿通したものであるから、複数本の電線11をパイプに一括して挿通し、この複数本の電線11の外周に沿う形状にパイプを変形させてなるシールド導電路に比べてパイプの剛性が低くなる。したがって、機器等との干渉を避けて三次元的に屈曲して配索する際、シールド導電路10の曲げ加工を容易に行うことができる。
【0020】
また、本実施形態のシールド導電路10は、1本の電線11を金属製のパイプ12に挿通したものであるから、例えば複数本の電線11をパイプ12に一括して挿通し、この複数本の電線11の外周に沿う形状にパイプを変形させてなるシールド導電路に比べて、パイプ12を縮径させる際の圧力が電線11の全周に均等に作用するから、電線11の断面形状が歪んでしまうことを防ぐことができる。
【0021】
<実施形態2>
次に、本発明を具体化した実施形態2に係るシールド導電路20を図3によって説明する。
本実施形態のシールド導電路20は、パイプ21の外周21Bに、外方に突出する突出片22を設けた点で、実施形態1とは相違する。なお、実施形態1と同様の構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
本実施形態のシールド導電路20は、実施形態1と同様、1本の電線11を金属製のパイプ21内に挿通してなるものである。
パイプ21の内周21Aは、実施形態1と同様、パイプ21内に挿通された一本の電線11の外周に沿う円形状をなし、略全周にわたり電線11の外周に面接触している。
【0023】
そして、パイプ21の外周21Bには、一対の突出片22が設けられている。突出片22は、パイプ21の外周21Bから外方に突出してパイプ21の軸方向に連なる板状をなしている。突出片22の厚さ寸法は、パイプ21の厚さ寸法と同等とされている。一対の突出片22は、パイプ21の外周21Bから略垂直に突出し、パイプ21の中心軸に関して対称に設けられている。
【0024】
このシールド導電路20を製造するには、まず、電線11よりも一回り大きい断面形状をなし、かつ外周21Bに一対の突出片22を有するパイプ21を押し出し成形により製造し、次いで、実施形態1と同様、パイプ21内に1本の電線11を挿通させ、その後、パイプ21を、一本の電線11の外周に沿った形状となるように変形させる。
【0025】
以上のように本実施形態に係るシールド導電路20は、導体13を絶縁被覆14で包囲してなる1本の電線11を金属製のパイプ21に挿通し、パイプ21を一本の電線11の外周に沿う形状としたものであるから、実施形態1と同様、電線11の熱が効率よくパイプ21に伝達するので、放熱性を向上することができる。
また、パイプ21の外周21Bに、外方に突出する突出片22を設けたから、その分パイプ21の放熱面積が増えるので、さらなる放熱性の向上を図ることができる。
【0026】
<実施形態3>
次に、本発明を具体化した実施形態3に係るシールド導電路30を図4によって説明する。
本実施形態のシールド導電路30は、パイプ31の外周31Bに、外方に突出する突出片32を設けた点で、実施形態1とは相違する。なお、実施形態1と同様の構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0027】
本実施形態のシールド導電路30は、実施形態1と同様、1本の電線11を金属製のパイプ31内に挿通してなるものである。
パイプ31の内周31Aは、実施形態1と同様、パイプ31内に挿通された一本の電線11の外周に沿う円形状をなし、略全周にわたり電線11の外周に面接触している。
【0028】
そして、パイプ31の外周31Bには、複数の突出片32が設けられている。各突出片32は、パイプ31の外周31Bから外方に突出してパイプ31の軸方向に連なる突条をなしている。複数の突出片32は、所定のピッチ(本実施形態では一定ピッチ)でパイプ31の周方向に配置され、パイプ31の中心軸に関して対称をなす一対の突出片32のセットが、複数セット配置された形態をなしている。全ての突出片32の厚さ寸法およびパイプ31からの突出寸法は同等とされている。なお、突出片32の厚さ寸法は、パイプ31の厚さ寸法と同等とされている。
【0029】
このようなシールド導電路30は、以下のようにして製造される。まず、電線11よりも一回り大きい断面形状で、かつ外周31Bに複数の突出片32を有するパイプ31を押し出し成形により製造し、次いで、実施形態1と同様、パイプ31内に1本の電線11を挿通させ、その後、パイプ31を、一本の電線11の外周に沿った形状となるように変形させることで製造される。
【0030】
以上のように本実施形態に係るシールド導電路30は、導体13を絶縁被覆14で包囲してなる1本の電線11を金属製のパイプ31に挿通し、パイプ31を一本の電線11の外周に沿う形状としたものであるから、実施形態1と同様、電線11の熱が効率よくパイプ31に伝達するので、放熱性を向上することができる。
また、パイプ31の外周31Bに、外方に突出する突出片32を設けたから、その分パイプ31の放熱面積が増えるので、さらなる放熱性の向上を図ることができる。
【0031】
<実施形態4>
次に、本発明を具体化した実施形態4に係るシールド導電路40を図5によって説明する。
本実施形態のシールド導電路40は、突出片41を介してパイプ42同士を連結する構成とした点で、実施形態1とは相違する。なお、実施形態1と同様の構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0032】
本実施形態のシールド導電路40は、実施形態1と同様、1本の電線11を金属製のパイプ42内に挿通してなるものである。
パイプ42の内周42Aは、実施形態1と同様、パイプ42内に挿通された一本の電線11の外周に沿う円形状をなし、略全周にわたり電線11の外周に面接触している。
【0033】
そして、パイプ42の外周42Bには、一の突出片41が設けられ、この突出片41を介して2本のパイプ42が連結されている。突出片41は、2つのパイプ42の外周42Bから突出してパイプ42の軸方向に連なる板状をなしている。突出片41の厚さ寸法は、パイプ42の厚さ寸法と同等とされている。突出片41は、両パイプ42の外周42Bに対して垂直をなし、両パイプ42の法線(並び方向)に沿う平坦な形状をなしている。
【0034】
このようなシールド導電路40は、以下のようにして製造される。まず、押し出し成形により、電線11よりも一回り大きい断面形状を有する2本のパイプ42を、一の突出片41で連結した形状に製造し、次いで、実施形態1と同様、2本のパイプ42内にそれぞれ電線11を1本ずつ挿通させ、各パイプ42を、一本の電線11の外周に沿った形状となるようにそれぞれ変形させることで製造される。
【0035】
以上のように本実施形態に係るシールド導電路40は、導体13を絶縁被覆14で包囲してなる1本の電線11を金属製のパイプ42に挿通し、パイプ42を一本の電線11の外周に沿う形状としたものであるから、実施形態1と同様、電線11の熱が効率よくパイプ42に伝達するので、放熱性を向上することができる。
【0036】
また、パイプ42の外周42Bに、外方に突出する突出片41を設けたから、その分パイプ42の放熱面積が増えるので、さらなる放熱性の向上を図ることができる。
また、突出片41を介してパイプ42同士を連結する構成としたから、2本のシールド導電路40を一体に取り扱うことができる。
【0037】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0038】
(1)上記実施形態では、電線11の導体13を撚り線としたが、これに限らず、導体を単芯線としてもよい。
(2)上記実施形態では、パイプ12(21)(31)(42)の内周12A(21A)(31A)(42A)を電線11の外周に面接触させたが、これに限らず、パイプの内周と電線の外周とを非接触、線接触、点接触等いずれの形態としてもよい。また、電線とパイプとの間の隙間に、空気よりも熱伝導率の高い充填材を充填してもよい。
(3)上記実施形態では、ローラ15を用いてパイプ12(21)(31)(42)を押圧して変形させたが、どのような方法でパイプを押圧するようにしてもよい。
【0039】
(4)実施形態4では、2本のパイプ42を連結するようにしたが、これに限らず、3本以上のパイプを連結するようにしてもよい。
(5)実施形態4では、2本のパイプ42を連結する一の突出片41のみを設けたが、これに限らず、例えばパイプを連結する突出片の他に、複数の突出片を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10,20,30,40…シールド導電路
11…電線
12,21,31,42…パイプ
12A,21A,31A,42A…パイプの内周
12B,21B,31B,42B…パイプの外周
13…導体
14…絶縁被覆
22,32,41…突出片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁被覆で包囲してなる1本の電線を金属製のパイプに挿通し、
前記パイプを前記一本の電線の外周に沿う形状としたシールド導電路。
【請求項2】
前記パイプの内周を前記1本の電線の外周に面接触させた請求項1に記載のシールド導電路。
【請求項3】
前記パイプの外周に、外方に突出する突出片を設けた請求項1または請求項2に記載のシールド導電路。
【請求項4】
前記突出片を介して前記パイプ同士を連結する構成とした請求項3に記載のシールド導電路。
【請求項5】
導体を絶縁被覆で包囲してなる1本の電線を金属製のパイプに挿通し、
前記パイプを前記一本の電線の外周に沿った形状となるように変形させるシールド導電路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−186601(P2010−186601A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28794(P2009−28794)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】