説明

シールド掘進機およびシールド掘進機における作業領域形成方法

【課題】 シールド掘進機全体の長さを短く抑えることができるとともに、高強度モルタルなどの固化材を用いることなく、地山の水と土圧に対抗させることができるシールド掘進機およびシールド掘進機における作業領域形成方法を提供する。
【解決手段】 シールド掘進機1における掘削方向前方部位に薬液注入を行って地盤改良領域Rを形成する。それから、シールド掘進機1における周囲に、地盤改良領域Rにラップする形で凍結領域Fを形成する。このうちの地盤改良領域Rによって、主に地山の土圧に対抗し、凍結領域Fおよび地盤改良領域Rによって作業領域に地下水の浸入を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機およびシールド掘進機における作業領域、たとえばカッタ部に設けられたビットを交換する作業を行うための作業領域の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機によってシールドトンネルを掘進する際には、カッタ部に設けられたビットで地山を掘削しながらシールド掘進機が前進していく。このビットによる地山の掘削によってビットが消耗し、ビットの消耗が激しくなると、ビットを交換するなどのメンテナンスが必要となる場合がある。
【0003】
ところが、シールドトンネルでの掘進作業を行っている間は、カッタ部は地山に当接した状態となっており、ビットの交換作業を行うために地山からカッタ部を離す際に、地山の水と土圧に対抗する必要がある。このような点を考慮した従来のシールド掘進機として、特許第3124503号公報に開示されたシールドマシンがある。
【0004】
このシールドマシンには、シールド外筒のフードの内側にフード部ジベルとしての凹凸が設けられ、カッタが取り付けられたシールド内筒がシールド外筒に対して引き込み可能とされている。また、ビットの交換作業を行うにあたり、シールド内筒をシールド外筒内に引き込み、カッタを地山から離す。このときにカッタの前方に高強度モルタルを打設して高強度モルタルとフード部ジベルとを結合させ、地山の水と土圧に対抗させて、ビットの交換作業を行うことができるようにしている。
【特許文献1】特許第3124503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に開示されたシールドマシンでは、カッタの前方に高強度モルタルを打設し、高強度モルタルとフード部ジベルとを結合させることにより、地山の水と土圧に対抗させている。ここで、高強度モルタルとフード部ジベルとを結合させて地山の水や土圧に対抗させるためには、結合部の長さをある程度長くする必要がある。このため、シールド外筒を長くする必要があり、シールドマシン全体を長くする必要が生じるという問題がある。
【0006】
また、高強度モルタルを打設する際、カッタと地山との間に高強度モルタルを充填することになるが、充填部の上部にブリーディングや空隙が生じることがあり、この場合には、十分な止水ができないという問題もある。さらに、高強度モルタルを打設する際に、固化する前の高強度モルタルがビットに付着して交換作業の邪魔となることもあり、さらに、交換作業終了後は、打設した高強度モルタルを自らのカッタで掘削する必要があり、このときにカッタ部の回転反力をとる複雑な反力受け部材を設ける必要も生じるという問題がある。このような問題は、いずれも高強度モルタルなどの固化材を打設することに起因するものである。
【0007】
そこで、本発明の課題は、シールド掘進機全体の長さを短く抑えることができるとともに、高強度モルタルなどの固化材を用いることなく、地山の水と土圧に対抗させることができるシールド掘進機およびシールド掘進機における作業領域形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明に係るシールド掘進機は、外筒部と、地盤を掘削するカッタ部とを備え、カッタ部が外筒部に対して相対的に移動し、外筒部に収容可能とされたシールド掘進機において、シールドトンネルの掘進中に、カッタ部における作業領域を形成する作業領域形成手段を備え、作業領域形成手段は、シールド掘進機の掘進方向前方部位を地盤改良して地盤改良領域を形成する地盤改良手段と、シールド掘進機における周囲の地盤を凍結させ、地盤改良領域とラップする凍結領域を形成する凍結手段と、を有するものである。
【0009】
本発明に係るシールド掘進機は、カッタ部における作業領域形成手段として、シールド掘進機の掘進方向前方部位を地盤改良して地盤改良領域を形成する地盤改良手段と、シールド掘進機における周囲の地盤を凍結させ、地盤改良領域とラップする凍結領域を形成する凍結手段と、を有している。作業領域を形成するにあたり、地盤改良手段と凍結手段とを用いているので、高強度モルタルなどの固化材を用いることなく、地山の水と土圧に対抗させることができる。したがって、固化する前の高強度モルタルがビットに付着して交換作業の邪魔となることもなく、交換作業終了後は、打設した高強度モルタルを自らのカッタで掘削する必要もないので、カッタ部の回転反力をとる複雑な反力受け部材を設ける必要もなくなる。また、高強度モルタルと外筒部とを結合させることにより、地山の水と土圧に対抗させる必要もないので、高強度モルタルとの結合のために外筒部を長くする必要もなく、シールド掘進機全体の機長を長くしすぎないようにすることができる。
【0010】
さらに、シールド掘進機に対する地山の水および土圧について、水はシールド掘進機の前方および周囲から浸入しようとする一方、土圧については、シールド掘進機の前方からの土圧に確実に対抗する必要がある。この点、本発明に係るシールド掘進機では、シールド掘進機の地盤改良領域を形成して、地山の水および土圧に対抗し、シールド掘進機の周囲については、簡易な凍結領域の形成によって主に地山の水に対抗している。このため、簡易な補強構成としながら、シールド掘進機の周囲における地山の水と土圧に対して確実に対抗することができる。
【0011】
また、カッタ部は、カッタディスクと、カッタディスクに取り付けられたビットとを有し、作業領域は、カッタディスクに取り付けられたビットを交換する作業を行う領域である態様とすることができる。
【0012】
カッタ部における作業としては、シールド掘進機の掘進により疲労したビットの交換があるが、このビットの交換作業を容易かつ安全に行うことができる。
【0013】
さらに、凍結手段は、外筒部に設けられた貼付凍結管である態様とすることもできる。
【0014】
このように、凍結手段として貼付凍結管を用いることにより、簡易な構成で周囲の地山に対して凍結領域を容易に形成することができる。
【0015】
また、上記課題を解決した本発明に係るシールド掘進機における作業領域形成方法は、外筒部と、地盤を掘削するカッタ部とを備え、カッタ部が外筒部に対して相対的に移動し、外筒部に収容可能とされたシールド掘進機における作業領域形成方法であって、シールド掘進機の掘進方向前方部位に地盤改良領域を形成するとともに、シールド掘進機における周囲の地盤を凍結させ、地盤改良領域とラップする凍結領域を形成し、カッタ部を外筒部に対して相対的に後退させ、カッタ部を外筒部に収容することにより、カッタ部における作業領域を形成することを特徴とする。
【0016】
ここで、作業領域は、カッタ部におけるカッタディスクに取り付けられたビットを交換する作業を行うための領域である態様とすることができる。
【0017】
また、地盤改良領域は、シールド掘進機内から地盤改良処理を施すことによって形成する態様とすることもできる。
【0018】
このように、シールド掘進機内から地盤改良処理を施すことにより、たとえばシールドトンネルを地中の深い位置に形成している場合やシールドトンネルにおける直上の道路などの使用が困難な場合などであっても、地盤改良領域を容易に形成することができる。
【0019】
さらに、地盤改良領域は、シールド掘進機の前方位置に、地上から地盤改良処理を施すことによって形成する態様とすることもできる。
【0020】
逆に、シールドトンネルが非常に深いというようなことがなく、また、直上の道路などの使用が容易である場合などには、地上から地盤改良を施すことにより、容易に地盤改良領域を形成することができる。
【0021】
そして、凍結領域は、外筒部に設けられた貼付凍結管によって形成する態様とすることもできる。
【0022】
このように、外筒部に設けられた貼付凍結管を用いることにより、凍結領域を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るシールド掘進機およびシールド掘進機における作業領域形成方法によれば、シールド掘進機全体の長さを短く抑えることができるとともに、高強度モルタルなどの固化材を用いることなく、地山の水と土圧に対抗させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。まず、本発明の第一の実施形態について説明する。図1は本発明の第一の実施形態に係るシールド掘進機の側断面図、図2はシールド掘進機の正面図、図3は図1のIII−III線断面図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係るシールド掘進機1は、外筒部10を備えている。外筒部10は、前外筒部10Aと後外筒部10Bとを備えており、前外筒部10Aは後外筒部10Bに対して揺動可能に取り付けられている。この前外筒部10Aと後外筒部10Bの間とは揺動シール10Cを介して接続されており、揺動シール10C周りに相対的に回動(首振り)可能とされている。
【0026】
また、外筒部10における前外筒部10Aの先端部には、本発明のカッタ部であるカッタ装置11が設けられている。カッタ装置11は、円盤状をなすカッタディスク21を備えており、カッタディスク21の表面には、複数のビット22が取り付けられており、カッタディスク21が回転することにより、ビット22によって地山が掘削される。また、カッタディスク21の側縁部には、オーバーカッタ23が設けられており、このオーバーカッタ23は、カッタディスク21に対してその半径方向に伸縮する。こうして、カッタ装置11は、その半径方向に縮径可能とされている。
【0027】
カッタディスク21は、掘削を行っている間は、オーバーカッタ23が伸長した状態で、外筒部10と同一径とされている。このオーバーカッタ23を伸長させることにより、外筒部10と同径のシールドトンネルを掘削することができる。また、オーバーカッタ23が収縮したときには、カッタディスク21の径は、外筒部10の内径よりも小さくなり、カッタディスク21が外筒部10に対して引き込み可能となる。さらに、カッタディスク21には、複数の空隙部24が形成されており、この空隙部24には、交換可能となる交換可能ビット25が複数取り付けられている。
【0028】
さらに、カッタディスク21の後方には、内筒部12が設けられている。内筒部12は、外筒部10の内面に沿った外周部を有しており、外筒部10の内面に沿って移動可能とされている。この内筒部12には、隔壁26が設けられており、カッタディスク21と隔壁26とによってチャンバが形成されている。隔壁26の後方には駆動モータ28が設けられている。また、図3に示すように、隔壁26にはハッチ27が設けられている。ハッチ27としては、大ハッチ27Aと小ハッチ27Bとが設けられており、大ハッチ27Aの内側に小ハッチ27Bが設けられている。小ハッチ27Bは、大ハッチ27Aに対して取り外し可能とされており、大ハッチ27Aは、隔壁26に対して取り外し可能とされている。隔壁26の後部には、駆動モータ28が設けられており、駆動モータ28によりカッタディスク21を回転可能とされている。
【0029】
また、内筒部12は、掘削作業中は外筒部10に固定されており、カッタ装置11は外筒部10とともに前進する。そして、内筒部12およびカッタ装置11が外筒部10に対して相対的に後退することにより、カッタ装置11は外筒部10に収容可能とされている。
【0030】
内筒部12には、シールド掘進機1の進行方向に長い長尺のブラケット13が取り付けられており、ブラケット13には、中折れジャッキ14における中折れジャッキロッド14Aが取り付けられている。内筒部12は、ブラケット13および接続ピンP1によって外筒部10に固定されている。
【0031】
中折れジャッキ14は、中折れジャッキロッド14Bが進退可能となる中折れジャッキシリンダ14Aを備えており、中折れジャッキシリンダ14Aは、外筒部10の後外筒部10Bに設けられたブラケット10Dに取り付けられている。この中折れジャッキ14を伸縮させることにより、外筒部10における前外筒部10Aは、後外筒部10Bに対して首振りする。
【0032】
さらに、後外筒部10Bには、リング部材10Eが設けられており、リング部材10Eにはシールドジャッキ15が取り付けられている。シールドジャッキ15は、シールドジャッキシリンダ15Bおよびシールドジャッキロッド15Aを備えており、シールドジャッキロッド15Aの先端は、組み立てられたセグメントSを押圧する。シールドジャッキロッド15AでセグメントSを押圧することにより、このセグメントSに反力をとってシールド掘進機1を前進させる。
【0033】
さらに、後外筒部10Bにおけるリング部材10Eの後部には、エレクタ16が設けられている。エレクタ16は、カッタ装置11によって形成された孔にセグメントSを順次組み立てていく。
【0034】
また、シールド掘進機1には、送泥管17および排泥管18が設けられている。送泥管17および排泥管18の先端開口部は、いずれもカッタ装置11におけるカッタディスク21と隔壁26との間に配置されている。送泥管17からは、カッタディスク21と隔壁26との間のチャンバ内に泥水が供給され、チャンバ内の圧力を高めている。また、排泥管18は、チャンバ内における送泥管17から供給された泥水および掘削された土からなる泥水を排出している。このとき、送泥管17からの水の供給量および排泥管18からの泥水の排出量により、チャンバ内の圧力を調整している。
【0035】
さらに、後外筒部10Bの後端部には、テールシール19が設けられている。テールシール19は、シールド掘進機1の後端部において、セグメントSとシールド掘進機1との間を止水している。
【0036】
また、外筒部10には本発明の凍結手段である貼付凍結管20が設けられている。貼付凍結管20は、図示しない冷媒タンクに接続されており、図示しないポンプを作動させることにより、貼付凍結管20をマイナス温度とされた冷媒である冷凍液が循環供給される。この貼付凍結管20を冷凍液が流れることにより、外筒部10の外側の地山に含まれる土中水を冷凍させることができる。
【0037】
一方、シールド掘進機1には、本発明の地盤改良手段である図示しない薬液注入装置が設けられている。薬液注入装置は、薬液注入管、薬液注入用ポンプ、および地盤改良用薬液貯蔵タンクを備えており、薬液注入管は、シールド掘進機1におけるカッタ装置11に形成された空隙部24からシールド掘進機1の前方に突出可能とされているとともに、シールド掘進機1の前方における地山に挿入可能とされている。また、地盤改良用薬液貯蔵タンク内には、地盤改良としての薬液注入工法に用いられる薬液が貯蔵されている。さらに、薬液注入用ポンプを作動させることにより、地盤改良用薬液貯蔵タンクに貯蔵された薬液が薬液注入管に供給され、薬液注入管から地山に薬液が注入されて、地盤改良が施される。
【0038】
次に、本実施形態に係るシールド掘進機1におけるシールドトンネルの掘進およびビットの交換方法について説明する。図4は、シールド掘進機による掘進およびビット交換作業を行う工程の状態を示す側断面図、図5は、図4に続く工程の状態を示す側断面図である。なお、図4から図8に示す側断面図においては、シールド掘進機を模式的に示している。
【0039】
シールド掘進機1による掘進が開始されると、ビット22の磨耗も徐々に激しくなり、ビット22の磨耗状態の監視により、ビット22の交換の必要性が検知されることがある。このようにビット22の交換の必要性が検知されると、ビット交換作業が開始される。
【0040】
ビット交換作業を行う際には、シールド掘進機1の掘進を中断し、図4(a)に示すように、シールド掘進機1の前方位置を薬液注入による地盤改良を施して地盤改良領域Rを形成する。地盤改良を施す際には、カッタ装置11におけるカッタディスク21に形成された空隙部24から薬液注入管をシールド掘進機1の前方(進行方向)に向けて地山内に挿入する。この薬液注入管の先端を地盤改良領域に到達するように薬液注入管を地山に挿入したら、薬液注入管から薬液を注入し、地山を地盤改良して地盤改良領域Rを形成する。
【0041】
こうして、地盤改良領域Rを形成したら、シールド掘進機1による掘進を再開し、図4(b)に示すように、地盤改良領域Rにラップする位置までシールド掘進機1を前進させる。それから、シールド掘進機1が地盤改良領域Rにラップする位置に到達したら、オーバーカッタ23を収縮させるとともに、接続ピンP1を取り外す。その後、図4(c)に示すように、内筒部12およびカッタ装置11を外筒部10に対して相対的に後退させる。
【0042】
内筒部12およびカッタ装置11を後退させる際には、中折れジャッキ14またはシールドジャッキ15を利用する。中折れジャッキ14を用いる場合には、長尺のブラケット13を短尺のブラケットに交換して内筒部12に取り付け、この短尺のブラケットに、伸長した状態の中折れジャッキ14における中折れジャッキロッド14Aを取り付ける。それから、中折れジャッキ14を伸縮させることにより、内筒部12を後退させてカッタ装置11を外筒部10の内側に引き込む。
【0043】
このように、カッタ装置11を外筒部10の内側に引き込む際には、チャンバ内およびカッタ装置11と地山との間に送泥管17から泥水Dを供給して充填しておく。泥水Dを充填しておくことにより、地山の水と土圧に対抗させることができ、地山からの水の流入や地山の崩落を防止することができる。泥水Dによる加圧力は、充填される泥水Dの量によって適宜調整することができる。
【0044】
こうして、カッタ装置11を外筒部10の内側に引き込んだら、貼付凍結管20にブラインやLN(液化窒素)などの冷凍液を循環供給し、図4(d)に示すように、貼付凍結管20の周囲における地山を凍結させて凍結領域Fを形成する。このとき、シールド掘進機1は、地盤改良領域Rに到達しているので、凍結領域Fと地盤改良領域Rとはラップした状態で形成される。
【0045】
いま、図6に示すように、凍結領域Fと地盤改良領域Rとがラップして形成されると、シールド掘進機1の前方から流入しようとする地下水は地盤改良領域Rによってその流入が防止される。ここで、シールド掘進機1の周囲から流入しようとする地下水は、凍結領域Fによってその流入が防止される。また、凍結領域Fと地盤改良領域Rとがラップしていることから、両領域の隙間から地下水が流入することが好適に防止される。
【0046】
また、シールド掘進機1に作用する土圧を見ると、シールド掘進機1の前面カッタディスクに作用する切羽前方からの土圧は受圧面積が大きいために大きな土圧を受け、シールド掘進機1の外筒先端部(フード)の周囲に作用する上下と横方向からの土圧は受圧面積が小さいため、前方から受ける土圧と比較して小さいものとなっている。このうち、大きな土圧が生じるシールド掘進機1の前方は、改良強度の高い地盤改良領域Rによって対抗し、シールド掘進機1の周囲は凍結領域Fのみによって簡易に土圧に対抗している。この凍結領域Fは、地盤改良領域Rを形成するよりも簡易に形成することができるとともに、その解凍も簡易に行うことができる。このように、小さな土圧に対抗すればよい領域に対して、形成が簡易な凍結領域Fを形成していることにより、効率的に地盤の補強を行いながら、シールド掘進機1に対する地山の水と土圧に対抗することができる。
【0047】
このように、地盤改良領域Rとラップさせた状態で凍結領域Fを形成したら、図4(e)に示すように、チャンバおよびカッタ装置11と地山との間に充填された泥水Dを排泥管18によって排出する。チャンバおよびカッタ装置11と地山との間から泥水Dを排出することにより、チャンバおよびカッタ装置11と地山との間に空間が形成され、チャンバ内に作業領域Wが形成される。
【0048】
ここで形成された作業領域Wは、図6に示すように、地盤改良領域Rおよび凍結領域Fによって地山からの流水が防止されることによって形成されている。このように、凍結領域Fを形成することで作業領域Wを形成することから、高強度モルタルを打設する場合などと比較して、止水長さを短いものとすることができる。したがって、シールド掘進機1の全体を長くする必要がなくなる。また、凍結領域Fを凍結させることによって止水を行っていることから、外筒部10やチャンバ周りに空隙が残っていたとしても、その空隙に入り込んだ地下水を凍結させることができるので、結果として地下水の流入を阻止することができる。
【0049】
こうして、作業領域Wを形成したら、図5(a)に示すように、ビット22の交換作業を行う。ビット22の交換作業は、隔壁26に設けられたハッチ27を取り外して行われる。小ハッチ27Bは人一人が通れる程度の小さなハッチであり、大ハッチ27Aは数人が通れる大きなハッチである。いま、交換するビット22が少ない量である場合には、小ハッチ27Bを外し、作業員Hが小ハッチ27Bを通ってチャンバ内に入り込み、ビット22の交換作業を行う。また、交換するビット22が多量である場合には、大ハッチ27Aを取り外して、数人の作業員がチャンバ内に入り、ビット22の交換作業を行う。こうして、ビット22の交換作業が行われる。
【0050】
ビット22の交換作業が済んだら、図5(b)に示すように、内筒部12を前進させて、カッタ装置11を外筒部10から進出させる。このとき、カッタ装置11と地山との間には、空間が形成されたままとなっているので、カッタ装置11を容易に前進させることができる。それから、図5(c)に示すように、凍結領域Fを解凍する。凍結領域Fを解凍する際には、貼付凍結管20に温水を流通させてもよい。貼付凍結管20に温水を流通させることにより、凍結領域Fを容易に解凍することができる。その後、図5(d)に示すように、カッタ装置11を前進させた後にオーバーカッタ23を伸長させる。このとき、カッタ装置11と地山との間に空間が形成されていることから、このオーバーカッタ23の伸長作業も容易に行うことができる。
【0051】
そして、オーバーカッタ23を伸長させた後は、ビットの交換作業を開始する前と同様にしてシールド掘進機1による掘進作業を再開する。この掘進作業が開始されたら、シールド掘進機1の前方に形成された地盤改良領域Rは、やがてシールド掘進機1によって掘進される。
【0052】
このように、本実施形態に係るシールド掘進機1の掘進およびそのビット交換方法によれば、高強度モルタルなどの固化材を用いることなく、シールド掘進機1の周囲における地下水を凍結させて止水する。このため、シールド掘進機1の長さを短く抑えることができるとともに、ビットに高強度モルタルが付着したり、カッタ装置と地山との間にブリーディングや空隙が生じたりすることを防止できる。また、シールド掘進機1の前方には地盤改良領域Rを形成しているので、高強度モルタルを掘削するための補強等を不要とすることができる。
【0053】
さらに、チャンバ内に高強度モルタルが充填されることがないので、カッタディスクを容易に前進させることができる。また、シールド掘進機1の周囲を凍結させて止水することから、その凍結領域Fを解凍させることにより、容易に解消することができる。
【0054】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。図7は、本実施形態に係るシールド掘進機による掘進およびビット交換作業を行う工程を説明する工程図である。本実施形態では、上記実施形態と比較して、地盤改良領域の形成態様が主に異なる。使用されるシールド掘進機は上記第一の実施形態と同様であり、地盤改良領域形成手段がシールド掘進機内ではなく、地上に設けられる。
【0055】
本実施形態に係る掘進およびビット交換作業では、まず、図7(a)に示すように、シールド掘進機1の前方におけるシールド掘進機1から離間した位置に地盤改良領域Rを形成する。本実施形態では、シールドトンネルを地上Vから比較的浅い位置に形成しており、シールドトンネルを形成する直上の地上位置は、その使用が比較的容易な状態とされている。かかる状況において、地上Vから通常の地盤改良工法としての薬液注入工法などにより、地盤改良領域Rを形成する。
【0056】
地盤改良領域Rを形成したら、その地盤改良領域Rの位置にシールド掘進機1の先端部が到達するまでシールド掘進機1を掘進させる。それから、図7(b)に示すように、内筒部12を後退させてカッタ装置11を外筒部10内に引き込むとともに、チャンバ内およびカッタ装置11と地山との間に泥水Dを充填させる。
【0057】
続いて、図7(c)に示すように、貼付凍結管20にブラインなどの冷凍液を循環供給して凍結領域Fを形成し、凍結領域Fが形成されたら、チャンバ内およびカッタ装置11と地山との間の泥水Dを排出し、チャンバ内に作業領域Wを形成する。その後、チャンバ内の作業領域Wにおいてビットの交換作業を行い、ビットの交換作業が終了したら、図7(d)に示すように、内筒部12を前進させて、カッタ装置11を外筒部10から前方に進出させる。そして、貼付凍結管20に温水を循環供給して凍結領域Fを解凍し、解凍が済んだら、図7(e)に示すように、シールド掘進機1による掘進を再開する。
【0058】
このように、本実施形態に係るシールド掘進機による掘進およびビット交換作業では、地上から地盤改良領域Rを形成している。シールドトンネルを形成する場所は、交通量が多い道路の下であることが多く、地上からの作業が困難である場合が多い。しかし、シールド掘進機から地盤改良を行うよりも地上から地盤改良を行う方が容易である。このため、交通量が少ない道路の下等にシールドトンネルを形成する場合には、地上から地盤改良を行うのが好適となる。
【0059】
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。図8は、本実施形態に係るシールド掘進機による掘進およびビット交換作業を行う工程を説明する工程図である。本実施形態では、上記実施形態と比較して、地盤改良領域の形成態様が主に異なる。使用されるシールド掘進機は上記第一の実施形態と同様であり、地盤改良領域形成手段は、薬液注入ではなく、地盤凍結によって地盤改良領域を形成する。
【0060】
本実施形態に係る掘進およびビット交換作業では、まず、図8(a)に示すように、シールド掘進機1による掘進を進めた後、ビットの交換作業を行う位置でシールド掘進機1を停止させる。それから、チャンバ内に泥水Dを供給しながら、内筒部12を後退させてカッタ装置11を外筒部10内に引き込む。このとき、チャンバ内に供給された泥水Dは、チャンバ内およびカッタ装置11と地山との間に充填される。
【0061】
次に、図8(b)に示すように、シールド掘進機1によって掘進された部位の前部に、地盤改良領域Rを形成する。本実施形態では、地盤改良領域は、地盤を凍結させることによって形成する。具体的に、地盤を凍結させる際には、シールド掘進機1によって掘削された部位の前方位置に、シールド掘進機1から凍結管を差し込み、この凍結管にLNやブラインなどの冷凍液を循環供給することにより、地山を凍結させる。ここで、地盤改良のために地山を凍結させる際には、地下水の浸入を防止するほかに、地山からの土圧に対抗する必要がある。したがって、貼付凍結管20による凍結領域よりも厚い凍結部分を形成して、強度を十分に有する凍結部分を形成して、地盤改良領域Rとする。
【0062】
こうして、地盤改良領域Rを形成したら、図8(c)に示すように、貼付凍結管20にブラインなどの冷凍液を循環供給し、凍結領域Fを形成する。それから、チャンバ内およびカッタ装置11と地山との間から泥水Dを排出し、チャンバ内に作業領域Wを形成する。その後、チャンバ内の作業領域Wにおいてビットの交換作業を行い、ビットの交換作業が終了したら、図8(d)に示すように、内筒部12を前進させて、カッタ装置11を外筒部10から前方に進出させる。そして、貼付凍結管20に温水を循環供給して凍結領域Fを解凍し、解凍が済んだら、シールド掘進機1による掘進を再開する。また、シールド掘進機1の前方に形成した地盤改良領域Rは、解凍するのに時間が掛かるので、シールド掘進機1によって掘削する。
【0063】
このように、本実施形態に係るシールド掘進機による掘進およびビット交換作業では、地山を凍結させることによって地盤改良領域Rを形成している。このため、シールド掘進機1による掘進が行われた直前の位置の地山の地盤改良を容易に行うことができるので、急にビットの交換が必要となった場合などに、好適に対応することができる。
【0064】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記各実施形態では、貼付凍結管を用いて凍結領域を形成しているが、シールド掘進機の側部から凍結管を地山に挿入して凍結領域を形成する態様とすることができる。
【0065】
また、上記実施形態では、シールド掘進機としてはいわゆる泥水式シールド掘進機を用いているが、泥水式でないシールド掘進機を用いる態様とすることもできる。さらに、第一第二実施形態では、地盤改良領域を薬液注入によって形成しているが、その他の地盤改良方法で形成する態様とすることもできる。
【0066】
他方、上記実施形態においてはシールド掘進機における作業として、ビットの交換を上げているが、地山の水と土圧に対抗しながらシールド掘進機の前方部位で行われる作業については、いずれの作業に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】第一の実施形態に係るシールド掘進機の側断面図である。
【図2】シールド掘進機の正面図である。
【図3】シールド掘進機の断面図である。
【図4】第一の実施形態に係るシールド掘進機による掘進およびビット交換作業を行う工程の状態を示す側断面図である。
【図5】図4に続く工程の状態を示す側断面図である。
【図6】凍結領域を形成した後のシールド掘進機の前方位置に拡大側断面図である。
【図7】第二の実施形態に係るシールド掘進機による掘進およびビット交換作業を行う工程の状態を示す側断面図である。
【図8】第三の実施形態に係るシールド掘進機による掘進およびビット交換作業を行う工程の状態を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1…シールド掘進機
10…外筒部
11…カッタ装置
12…内筒部
13…ブラケット
14…中折れジャッキ
15…シールドジャッキ
16…エレクタ
17…送泥管
18…排泥管
20…貼付凍結管
21…カッタディスク
22…ビット
23…オーバーカッタ
24…空隙部
25…交換可能ビット
26…隔壁
27…ハッチ
27A…大ハッチ
27B…小ハッチ
F…凍結領域
R…地盤改良領域
W…作業領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒部と、地盤を掘削するカッタ部とを備え、前記カッタ部が前記外筒部に対して相対的に移動し、前記外筒部に収容可能とされたシールド掘進機において、
シールドトンネルの掘進中に、前記カッタ部における作業領域を形成する作業領域形成手段を備え、
前記作業領域形成手段は、
前記シールド掘進機の掘進方向前方部位を地盤改良して地盤改良領域を形成する地盤改良手段と、
前記シールド掘進機における周囲の地盤を凍結させ、前記地盤改良領域とラップする凍結領域を形成する凍結手段と、
を有することを特徴とするシールド掘進機。
【請求項2】
前記カッタ部は、カッタディスクと、前記カッタディスクに取り付けられたビットとを有し、
前記作業領域は、前記カッタディスクに取り付けられた前記ビットを交換する作業を行う領域である請求項1に記載のシールド掘進機。
【請求項3】
前記凍結手段は、前記外筒部に設けられた貼付凍結管である請求項1または請求項2に記載のシールド掘進機。
【請求項4】
外筒部と、地盤を掘削するカッタ部とを備え、前記カッタ部が前記外筒部に対して相対的に移動し、前記外筒部に収容可能とされたシールド掘進機における作業領域形成方法であって、
前記シールド掘進機の掘進方向前方部位に地盤改良領域を形成するとともに、前記シールド掘進機における周囲の地盤を凍結させ、前記地盤改良領域とラップする凍結領域を形成し、
前記カッタ部を前記外筒部に対して相対的に後退させ、前記カッタ部を前記外筒部に収容することにより、前記カッタ部における作業領域を形成することを特徴とするシールド掘進機における作業領域形成方法。
【請求項5】
前記作業領域は、前記カッタ部におけるカッタディスクに取り付けられたビットを交換する作業を行うための領域である請求項4に記載のシールド掘進機における作業領域形成方法。
【請求項6】
前記地盤改良領域は、前記シールド掘進機内から地盤改良処理を施すことによって形成する請求項4または請求項5に記載のシールド掘進機における作業領域形成方法。
【請求項7】
前記地盤改良領域は、前記シールド掘進機の前方位置に、地上から地盤改良処理を施すことによって形成する請求項4または請求項5に記載のシールド掘進機における作業領域形成方法。
【請求項8】
前記凍結領域は、前記外筒部に設けられた貼付凍結管によって形成する請求項4〜請求項7のうちのいずれか1項に記載のシールド掘進機における作業領域形成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−77682(P2007−77682A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267182(P2005−267182)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】