説明

シールド掘進機

【課題】切削用リングをカッタヘッドに簡単に且つ容易に連結し得るシールド掘進機を提供する。
【解決手段】シールド本体1、カッタヘッド2及びシールド本体に前後方向で出退自在に設けられた切削用リング3を有するシールド掘進機であって、シールド本体の環状隔壁部12の外周寄り部分に環状空間部Sを形成し、この環状空間部の内周側に環状可動部材51を回転可能に配置すると共に、その外周に切削用リングをキー部材61を介して前後方向でのみ移動可能に外嵌させ、カッタヘッドを構成する放射状の伸縮式カッタスポーク35に穴部43aを形成し、且つ環状可動部材に、係合用ロッド53を前後方向で出退可能に配置すると共に、この係合用ロッドを、穴部に係合する係合位置と穴部から離脱する非係合位置との間で出退させるロッド出退用シリンダ装置54を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機に関し、特に、カッタヘッドに加えて、前方に位置する物体に穴部を形成し得る切削用リングを有するシールド掘進機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機のなかには、トンネルを掘削するとともに、当該トンネルを既設のトンネルに接続するために、既設のトンネル側に接続用の穴部を形成し得る切削用リングを有するものがある。
【0003】
この種のシールド掘進機においては、シールド本体の前部に、カッタヘッドが回転自在に設けられるとともに、シールド本体の外周部であるスキンプレートの内面には、円筒状の切削用リングがシールド本体から前後方向で出退自在に設けられ、さらにこの切削用リングはカッタヘッドの回転駆動力により回転するように構成されている。すなわち、切削用リングを使用する際には、例えば押出し用シリンダ装置(押出し用ジャッキともいう)により切削用リングを前方に押し出し、そしてカッタヘッドのカッタスポークの外周部に設けられたコピーカッタ装置のカッタ部を外周側に突出させて、その先端に突設された係合ピンを切削用リングに形成された穴部に挿入させることにより互いに係合させ、その後、カッタヘッドを介して切削用リングを回転させるとともにシールド本体を前進させることにより、既設のトンネルに接続用穴部を形成していた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−306685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の構成によると、係合ピンはコピーカッタ装置のカッタ部に設けられるとともにこのカッタ部は外周に向かって出退するように構成されているため、係合ピンを切削用リングの穴部に係合させる際に、カッタ部をその出退ストロークのエンドではなく、ストロークの途中で停止させる必要があり(コピーカッタ装置の通常使用時はストロークエンドで使用される)、しかも、係合する相手は薄いリングであるため、カッタ部を突出し過ぎると切削用リングを曲げてしまう惧れがあり、逆に、カッタ部の突出量が少な過ぎる場合には、切削時に切削用リングが少しでも撓むと、係合ピンが穴部から外れてしまう惧れが生じる。このようなことから、切削用リングのカッタヘッドへの連結作業が非常に面倒で且つ難しいという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、切削用リングをカッタヘッドに簡単に且つ容易に連結し得るシールド掘進機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のシールド掘進機は、シールド本体と、このシールド本体内に設けられた隔壁部に回転自在に支持されてトンネルを掘削し得るカッタヘッドと、上記シールド本体に前後方向で出退自在に設けられて上記カッタヘッドの前方の物体に穴部を形成し得る切削用リングとを有するシールド掘進機であって、
上記シールド本体の隔壁部の外周寄り部分に環状空間部を形成し、
この環状空間部の内周側に環状可動部材を上記シールド本体の軸心回りで回転可能に配置するとともに、この環状可動部材の外周に上記切削用リングをキー部材を介して前後方向でのみ移動可能に外嵌させ、
上記カッタヘッドを構成する放射状のカッタスポークに穴部を形成し、
且つ上記環状可動部材に、棒状係合部材を前後方向で出退可能に配置するとともに、この棒状係合部材を、上記穴部に係合する係合位置と上記穴部から離脱する非係合位置との間で出退させる出退装置を設けたものである。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によると、カッタヘッド前方の物体に穴部を形成するための切削用リングをカッタヘッド側に係合させる際に、環状可動部材を介して行うようにするとともに、両者を係合する棒状係合部材の出退方向が切削用リングの幅方向となるようにしたので、切削用リングの厚みに対して注意を払う必要がなくなり、したがって従来のように、コピーカッタ装置のカッタ部を直接薄い切削用リングにしかもその厚み方向で係合させるようにしたものとは異なり、その連結作業を非常に簡単に行うことができる。
【0008】
さらに、棒状係合部材の係合方向が切削用リングと平行であるため、従来のように、その係合方向が切削用リングの厚み方向であるものに比べて、それほど制御精度を必要としないので、両者の連結作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係るシールド掘進機を図面に基づき説明する。
このシールド掘進機は、セグメントなどにより形成された既設のトンネル(以下、既設トンネルという)に、例えば当該既設トンネルよりも径が小さい別のトンネルを接続し得る機能を有するものである。
【0010】
すなわち、このシールド掘進機は、図1および図2に示すように、概略的には、シールド本体1と、このシールド本体1内に設けられた隔壁部(後述する)に回転自在に支持されてトンネルを掘削し得るカッタヘッド2と、同じくシールド本体1に前後方向で移動自在にすなわち出退自在に設けられて上記カッタヘッド2前方の物体つまり既設トンネルT1の側壁部に別のトンネルT2を接続するための接続用穴部を形成し得る切削用リング3とが設けられたものである。
【0011】
上記シールド本体1は、外殻である円筒状で且つ所定長さのスキンプレート11と、このスキンプレート11内面の中間付近に設けられるとともに中央に穴部12aを有する環状隔壁部[カッタヘッドの回転軸心(水平方向の軸心で、シールド本体の軸心でもある)aと直交する鉛直面内に設けられる]12と、この環状隔壁部12の穴部12aの周囲から前方に突設された筒状支持体13と、この筒状支持体13の内部に配置(固定)された筒状取付体14とから構成されている。
【0012】
上記筒状取付体14は、筒状支持体13の内部に挿入配置される筒状部材21と、この筒状部材21の前端に設けられた前壁板材22の外周に取り付けられるとともに環状鉛直板部23aおよびその外周に設けられる水平フランジ部23bからなる断面T字形状の環状支持部材23とから構成され、また上記筒状取付体14とスキンプレート11との間には、所定高さの環状空間部Sが形成されている。
【0013】
上記カッタヘッド2は、上記筒状取付体14の前壁板材22の中心部に前方に突出して設けられた筒状支持部材24に軸受31を介して回転自在に支持された回転軸部材32と、この回転軸部材32の前端(先端)に固定された取付ボス部材33と、この取付ボス部材33に120度おきで外周に向かって突設された3つの固定式カッタスポーク34と、これら固定式カッタスポーク34同士の中間位置で120度おきに外周に向かって突設された3つの伸縮式カッタスポーク35とから構成されている。つまり、これら両カッタスポーク34,35は、60度おきに交互に配置されている。
【0014】
そして、上記固定式カッタスポーク34の長さは短く(例えば、回転軸心aからスキンプレート11までの半径距離の2/3程度に)されるとともに、伸縮式カッタスポーク35は少なくともスキンプレート11の表面と同一径まで掘削し得るようにされている。
【0015】
上記伸縮式カッタスポーク35は、固定式カッタスポーク34と略同じ長さの固定スポーク部と、油圧シリンダ機構を用いて固定スポーク部から所定ストロークでもって出退自在に設けられた可動スポーク部とから構成されている。
【0016】
すなわち、この伸縮式カッタスポーク35は、図3および図4に示すように、取付ボス部材33に直接取り付けられた固定筒状部材(上述した固定スポーク部であり、固定式カッタスポークと同一の構成を有している)41と、この固定筒状部材41内に設けられた空間室41a内に摺動自在に配置された可動筒状部材42と、この可動筒状部材42の外端部(先端部)に固定されるとともに前面側にカッタビットCBが固定されたビットの取付用筒状部材43とから構成されている。これら可動筒状部材42と取付用筒状部材43とが、上述した可動スポーク部に相当する。なお、固定筒状部材41に対して可動筒状部材42が出退し得る構造としては、可動筒状部材42そのものに油圧シリンダ装置が用いられたものである。すなわち、可動筒状部材42はシリンダ本体部42aおよびピストンロッド42bから構成されるとともに、このピストンロッド42bの先端部が固定筒状部材41の空間室41a内を挿通されて取付ボス部材33側に連結され、そしてシリンダ本体部42a側に取付用筒状部材43が連結されている。なお、この可動筒状部材42を作動させるための油圧は、ピストンロッド部42b内に形成された油圧給排出用穴部42cを介して行われる。
【0017】
そして、上記伸縮式カッタスポーク35の外端寄り位置、すなわち取付用筒状部材43の後面(カッタヘッドの背面でもある)の外端寄り位置に、円柱状の穴部43aが前後方向で形成されている。勿論、固定式カッタスポーク34の前面の適所にカッタビットCBが設けられている。
【0018】
さらに、カッタヘッド2を回転させる回転駆動装置4が筒状取付体14内に配置されている。すなわち、回転軸部材32の後端側には、平歯車46が取り付けられ、またその周囲の前壁板材22には円周方向に沿って複数台(例えば、5台)の電動機47が所定間隔おきに取り付けられるとともに、それぞれの出力軸には上記平歯車46に噛合するピニオン48が取り付けられている。したがって、これら各電動機47が駆動されると、ピニオン48および平歯車46を介して、回転軸部材32が、つまりカッタヘッド2が回転される。
【0019】
なお、この筒状取付体14内の下部に、カッタヘッド2により掘削された土砂を排出する土砂排出装置5が配置されている。
次に、上記環状空間部Sに配置される切削用リング3およびその出退機構について説明する。
【0020】
環状空間部S内の内周側には、所定厚さの環状可動部材51が、すべり軸受52を介して環状支持部材23の外周面に、スキンプレート11に沿う円周方向で回転自在に支持されるとともに、この環状可動部材51には、120度おきで、つまり伸縮式カッタスポーク35に対応する位置で、取付用筒状部材43に形成された穴部43aに係脱自在な円柱状の係合部53aを有する係合用ロッド(棒状係合部材の一例)53およびこの係合用ロッド53を前後方向で移動させて、すなわち係合用ロッド53が穴部43aに係合する係合位置と穴部43aから離脱する非係合位置との間で出退させるロッド出退用シリンダ装置(ロッド用出退装置)54が設けられている。なお、この環状可動部材51の後端部分に回転軸心a側に折れ曲がる折曲部51aが設けられており、この折曲部51aが筒状支持体13と環状支持部材23との間に挿入されることにより、当該環状可動部材51の前後方向での位置決めが行われている。
【0021】
そして、上記環状可動部材51の外周面(環状空間部S内の外周側である)には、切削用リング3が、円周上の複数箇所に設けられたキー部材(例えば、すべりキーが用いられる)61を介して前後方向でのみ移動可能に、言い換えれば、環状可動部材51側の回転駆動力だけが伝達されるように外嵌されるとともに、シールド本体1内の後方部には、当外切削用リング3を前後方向で移動させる、すなわち出退させるリング出退用シリンダ装置(リング用出退装置)62が具備されている。勿論、切削用リング3側には、当該切削用リング3の移動量よりも長いキー溝3aが形成されている。
【0022】
また、この切削用リング3は既設トンネルT1の側壁部を切削し得るように比較的長くされているが、シールド本体1内に配置されるリング出退用シリンダ装置62は短い方がよいため、そのストロークは短くされている。したがって、切削用リング3を前方に突出させる際には、順次、所定長さ(短い)のリング押出し用ロッド63が切削用リング3との間に挿入されることになる。なお、切削用リング3の前端縁にはカッタビットCBが多数配置されており、また後縁部には、リング押出しロッド63の前端部を案内・係合し得る穴部64aを有する係合部材64が設けられている。また、切削用リング3と環状可動部材51およびスキンプレート11との間にもすべり軸受65が配置されている。
【0023】
したがって、環状可動部材51が円周方向で回転されると、キー部材61を介して、切削用リング3が円周方向で回転されるとともに、リング出退用シリンダ装置62により前後方向で出退される。
【0024】
上記構成において、シールド掘進機により、既設トンネルT1に別のトンネルT2を掘削し接続する場合、まず図3に示すように、伸縮式カッタスポーク35を伸長させた状態で、回転駆動装置4によりカッタヘッド2を回転させてトンネルT2の掘削を行う。
【0025】
そして、既設トンネルT1の側壁部に接近すると掘削を停止した後、図4に示すように、伸縮式カッタスポーク35の外径を少し縮めるとともにカッタヘッド2を回転させて、その取付用筒状部材43の後面(カッタヘッドの背面でもある)に形成された穴部43aを係合用ロッド53の位置に対応(対向)させる。
【0026】
次に、ロッド出退用シリンダ装置54により係合用ロッド53を前方に突出させて、その前端の係合部53aを伸縮式カッタスポーク35側の穴部43aに挿入し係合させる。これにより、カッタヘッド2と環状可動部材51とはその回転動作において互いに連動(連結)された状態となる。
【0027】
次に、回転駆動装置4によりカッタヘッド2を回転させれば、係合用ロッド53を介して環状可動部材51が回転し、そしてこの環状可動部材51に円周方向で係合された切削用リング3が回転される。
【0028】
この状態で、シールド本体1を前進させると、切削用リング3の前端縁に設けられたカッタビットCBにより、既設トンネルT1の側壁部に接続用穴部を形成することができる。
【0029】
このように、既設トンネルT1の側壁部に接続用穴部を形成するための切削用リング3をカッタヘッド2側に連動させる際に、環状可動部材51を介して行うようにするとともに、両者を係合する係合用ロッド53の出退方向が切削用リング3の幅方向となるようにしたので、切削用リング3の厚みに対して注意を払う必要がなくなり、したがって従来のように、コピーカッタ装置のカッタ部を直接薄い切削用リングにしかもその厚み方向で係合させるようにしたものとは異なり、その連結作業を非常に簡単に行うことができる。
【0030】
さらに、係合用ロッド53の係合方向が切削用リング3と平行であるため、従来のように、その係合方向が切削用リングの厚み方向であるものに比べて、それほど制御精度を必要としないので、両者の連結作業を容易に行うことができる。
【0031】
ところで、上記実施の形態に係るシールド掘進機を、その掘削した穴内にセグメントを構築するとともにこのセグメントを利用して前進(つまり、推進)するものとして説明したが、本発明に係るシールド掘進機には、立穴内から水平方向でもって円筒状の管体を押出ジャッキを用いて穴内に順次継ぎ足しながら押し出すことにより、シールド本体を前進させるようにした掘進機(推進機とも呼ぶことができ、この場合、シールド本体は推進機本体と呼ばれる)も含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係るシールド掘進機の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】同シールド掘進機における動作を説明するための要部拡大断面図である。
【図4】同シールド掘進機における動作を説明するための要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 シールド本体
2 カッタヘッド
3 切削用リング
11 スキンプレート
12 環状隔壁部
13 筒状支持体
14 筒状取付体
21 筒状部材
22 前壁板材
23 環状支持部材
24 筒状支持部材
34 固定式カッタスポーク
35 伸縮式カッタスポーク
41 固定筒状部材
42 可動筒状部材
43 取付用筒状部材
43a 穴部
51 環状可動部材
52 すべり軸受
53 係合用ロッド
53a 係合部
54 ロッド出退用シリンダ装置
61 キー部材
62 リング出退用シリンダ装置
63 リング押出し用ロッド
64 係合部材
64a 穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド本体と、このシールド本体内に設けられた隔壁部に回転自在に支持されてトンネルを掘削し得るカッタヘッドと、上記シールド本体に前後方向で出退自在に設けられて上記カッタヘッドの前方の物体に穴部を形成し得る切削用リングとを有するシールド掘進機であって、
上記シールド本体の隔壁部の外周寄り部分に環状空間部を形成し、
この環状空間部の内周側に環状可動部材を上記シールド本体の軸心回りで回転可能に配置するとともに、この環状可動部材の外周に上記切削用リングをキー部材を介して前後方向でのみ移動可能に外嵌させ、
上記カッタヘッドを構成する放射状のカッタスポークに穴部を形成し、
且つ上記環状可動部材に、棒状係合部材を前後方向で出退可能に配置するとともに、この棒状係合部材を、上記穴部に係合する係合位置と上記穴部から離脱する非係合位置との間で出退させる出退装置を設けたことを特徴とするシールド掘進機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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