説明

シールド電線およびシールド電線の端末シールド構造

【課題】導電性シートを廃止することができ、それにより、部品点数や組立工数を減らして、生産効率の向上とコストダウンを図れるようにしたシールド電線および該シールド電線の端末シールド構造を提供すること。
【解決手段】シールド電線1は、内部の複数の被覆電線2の外側を中空筒状のシールド箔3で包囲し、該シールド箔3の外側を絶縁性の外部被覆6で覆ったものである。該シールド箔3の少なくともシールド電線1の端末部に位置する部分には、該部分の周方向の引き延ばしを許容して拡径可能とする多数の切り込み4が設けられている。シールド箔3は、銅箔、アルミニウム箔、等といった導電性金属製の箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド導体として中空筒状のシールド箔を使用しているシールド電線、および、そのシールド電線をコネクタに接続した際のシールド電線の端末部のシールド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内部の被覆電線の外側を筒状のシールド箔で包囲し、そのシールド箔の外側を絶縁性の外部被覆で覆った構造のシールド電線をコネクタに接続する場合、シールド電線の端末部の外部被覆とシールド箔を適当な長さ取り除いて、内部の被覆電線を露出させ、その露出させた導体の先端部をコネクタに接続している。
【0003】
その際、シールド箔を取り除いて、内部の被覆電線を露出させた部分が、コネクタ側のシールドシェル(シールド部材)からのシールド保護を受けられない場合は、そのままシールド箔を延長しても、シールド箔より寸法の大きなコネクタ側のシールドシェルに被せることができないので、シールド箔とコネクタ側のシールドシェルとの間のシールド不在部分に、別のシールド導体を被せて、露出した被覆電線部分をシールドするようにしている。
【0004】
図6は、その場合の例として、特許文献1に記載されたシールド構造を示している。図において、101はシールド電線、102は内部の被覆電線、103はシールド電線101の端末部の外部被覆を取り除いて露出させたシールド箔、110はコネクタ、108はシールド箔103とコネクタ110の間に被せた導電性シートであり、この導電性シート108により露出した被覆電線102の部分を覆っている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−198178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようにシールド電線の端末部をシールドする場合、シールド電線101やコネクタ110とは別に用意した導電性シート108を用いる必要があるため、それだけ部品点数や組立工数が増えてしまい、生産効率が低下しコストアップになる。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電性シートを廃止することができ、それにより、部品点数や組立工数を減らして、生産効率の向上とコストダウンを図れるようにしたシールド電線および該シールド電線の端末シールド構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係るシールド電線は、下記(1)および(2)を特徴としている。
(1) 内部の被覆電線の外側を中空筒状のシールド箔で包囲し、該シールド箔の外側を絶縁性の外部被覆で覆ったシールド電線であって、
前記シールド箔の少なくとも前記シールド電線の端末部に位置する部分に、該部分の周方向の引き延ばしを許容して拡径可能とする多数の切り込みが形成されていること。
(2) 上記(1)の構成のシールド電線において、
前記切り込みが設けられた前記シールド箔を、前記切り込みの位置がずれるようにして少なくとも2層重ねて設けたこと。
【0009】
上記(1)の構成のシールド電線によれば、シールド箔の少なくとも端末部に、シールド箔を周方向に引き延ばし可能とすることで拡径可能とする多数の切り込みを設けたので、コネクタ側のシールド部材の寸法に合わせて径を自由に拡大することができる。従って、従来のように別に用意した導電性シートを用いないでも、シールド電線自体の端末部のシールド箔を取り去らずに残しておき、その部分を拡径させて、コネクタ側のシールド部材まで延ばして接続することにより、シールド電線の端末部にて露出した被覆電線をシールドすることができる。このように導電性シートを用いないで済むため、部品点数や組立工数を減らすことができて、生産効率の向上とコストダウンを図ることができる。
上記(2)の構成のシールド電線によれば、切り込みを設けたシールド箔を、切り込みの位置がずれるようにして2層以上重ねて設けているので、シールド箔を拡径した際に拡がる切り込み部分を別の層のシールド箔で塞ぐことができ、高いシールド性能を発揮することができる。
【0010】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係るシールド電線の端末シールド構造は、下記(3)および(4)を特徴としている。
(3) 上記(1)または(2)の構成のシールド電線の前記端末部の外部被覆を取り除き、それにより露出した前記シールド箔の部分を周方向に引き延ばして拡径すると共に、前記シールド箔の拡径した部分の内側の前記被覆電線をコネクタに接続し、そして当該拡径した部分の端部を前記コネクタの電線導出部のシールド部材にまで延ばして接続することにより、前記被覆電線を前記シールド箔で覆ったこと。
(4) 上記(3)の構成のシールド電線の端末シールド構造において、
前記外部被覆を取り除いて露出させた前記シールド箔の部分を折り返して二重に重ね合わせた状態で拡径し、当該二重に重ね合わせた状態で拡径した部分の端部を、前記コネクタの電線導出部のシールド部材にまで延ばして接続することにより、前記被覆電線を前記シールド箔で覆ったこと。
【0011】
上記(3)の構成のシールド電線の端末シールド構造によれば、外部被覆を取り除いて露出させたシールド箔を拡径させ、内側の被覆電線をコネクタに接続し、拡径したシールド箔の端部をコネクタ側のシールド部材にまで延ばして接続することにより、従来のように別に用意した導電性シートを用いないでも、シールド電線の端末部にて露出した被覆電線をシールドすることができる。従って、部品点数や組立工数を減らすことができて、生産効率の向上とコストダウンを図ることができる。
上記(4)の構成のシールド電線の端末シールド構造によれば、シールド箔を二重に重ね合わせた状態で拡径させるので、シールド箔を拡径した際に拡がる切り込み部分を、重ね合わせた別のシールド箔で塞ぐことができ、高いシールド性能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シールド電線自体に備わっているシールド箔を拡径させることによって、コネクタとの接続部までシールドすることができるので、従来のように別に用意した導電性シートを用いずに済み、部品点数や組立工数を減らすことができて、生産効率の向上とコストダウンを図ることができる。
【0013】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1Aおよび図1Bは実施形態のシールド電線の端末部とコネクタの接続部分の構成を示す図であって、図1Aは外観斜視図、そして図1Bはシールド箔の一部を切り欠いて示す平面図である。図2Aおよび図2Bはシールド箔だけを取り出して示した図であって、図2Aは拡径前の状態を示す図、そして図2Bはコネクタ側のシールドシェルに合わせて寸法を拡大させた状態を示す図である。
【0016】
また、図3Aはシールド構造の作製の初期段階を示す模式図、そして図3Bはシールド構造の作製の最終段階を示す模式図である。また、図4Aはシールド電線の構造を説明するための断面図、図4Bはシールド電線の構造の第1変更例を説明するための断面図、そして図4Cはシールド電線の構造の第2変更例を説明するための断面図である。
【0017】
この実施形態のシールド電線1は、内部の複数の被覆電線2の外側を中空筒状のシールド箔3で包囲し、該シールド箔3の外側を絶縁性の外部被覆6で覆ったもので、該シールド箔3の少なくともシールド電線1の端末部に位置する部分に、該部分の周方向の引き延ばしを許容して拡径可能とする多数の切り込み4を設けたことを特徴としている。被覆電線2は、導体7(図4A参照)の外周面を絶縁被覆で覆ったものである。シールド箔3は、銅箔、アルミニウム箔、等といった導電性金属製の箔である。
【0018】
図2Aに示すように、切り込み4は、シールド箔3の周方向と直交する長手方向に適当な長さを持つものであり、例えば、一定のピッチで周方向に配列されている。また、長手方向に(斜めに)隣接する切り込み4は、周方向に略半ピッチずつずれてジグザグ状に配列されており、しかも、長手方向に若干ラップしている。このように長手方向に隣接する切り込み4が、長手方向に若干ラップして配置されていることにより、長手方向の任意の位置で周方向に線を引いた線上に、いずれかの切り込み4が位置することになり、それによりシールド箔3が周方向に引き延ばし可能となる。
【0019】
そして、このように、シールド箔3にプレス等の手段によって多数の切り込み4を入れることにより、シールド箔3を周方向に引き延ばせるようになるので、図2Bに示すように、寸法を拡大することによって、コネクタ10側の部材まで覆えるようになる。尚、多数の切り込み4は、刃物などを用いて手作業でシールド箔3に形成してもよい。
【0020】
このシールド電線1の端末部をコネクタ10に接続した部分のシールド構造は、次のように構成されることになる。
【0021】
即ち、まず、シールド電線1の端末部の外部被覆6を取り除き(図3A参照)、それにより露出したシールド箔3の部分を周方向に引き延ばして拡径する。それと共に、そのシールド箔3の拡径した部分の内側の被覆電線2の導体7(図4A参照)をコネクタ10の導電性金属製のコネクタ端子(不図示)に圧着、圧接、あるいはハンダ付け等で接続した後、拡径したシールド箔3の端部を、コネクタ10の電線導出部11に被せた導電性金属製のシールドシェル(シールド部材)15の筒状嵌合部16にまで延ばして接続する(図3B参照)。こうすることにより、内部の被覆電線2をシールド箔3で覆うことができ、シールドすることができる。筒状嵌合部16とシールド箔3とをハンダや銀ペーストなどを用いて接続することで、電気的接続を確実にすることができる。あるいは導電性粘着材などを利用してもよい。
【0022】
従って、このシールド電線1を用いることによって、従来のように別に用意した導電性シートを用いないでも、シールド電線1自体の端末部のシールド箔3を取り去らずに残しておき、その部分を拡径させて、コネクタ10側のシールドシェル15まで延ばして接続することにより、シールド電線1の端末部にて露出した被覆電線2をシールドすることができ、部品点数や組立工数を減らすことができて、生産効率の向上とコストダウンを図ることができる。
【0023】
尚、図4Bに示されるように、上記実施形態において中空筒状のシールド箔3の外周面に伸縮性材料膜31を貼り付けたものを用いてもよい。例えば、ゴム、その他弾性変形する材料、等からなる伸縮性材料膜31を設けることにより切り込み4によって拡径変形されたシールド箔3の端末部が弾性復元力を与えられることになる。この弾性復元力によってシールドシェル(シールド部材)15の筒状嵌合部16にシールド箔3をより強固に接続することができる。また、伸縮性材料膜31を絶縁体とすることで、外部被覆から露出された場合に外部の導体との電気的接触を防ぐことができる。
【0024】
尚、切り込み4が拡大することによって、その切り込み4の部分のシールド性が落ちる可能性がある。それを防ぐためには、外部被覆6を取り除いて露出させたシールド箔3を折り返して二重に重ね合わせた状態で拡径させ、その二重に重ね合わせた状態で拡径させたシールド箔3の端部を、コネクタ10の電線導出部11のシールドシェル15に接続する(図4C参照)。
【0025】
そうすれば、シールド箔3を拡径した際に拡がる切り込み4の部分を、重ね合わせた別のシールド箔3で塞ぐことができるので、高いシールド性能を発揮することができる。
【0026】
また、シールド電線1の段階で、最初から、切り込み4を設けたシールド箔3を、切り込み4の位置がずれるようにして少なくとも2層重ねて設けておくこともできる。そうした場合は、シールド箔3を拡径した際に拡がる切り込み4の部分を、別の層のシールド箔3で塞ぐことができるので、同様に高いシールド性能を発揮することができる。
【0027】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0028】
例えば、切り込み4の形は、例えば図5(a)〜(f)に示すようなバリエーションから自由に選ぶことができる。図5(a)はI型の切り込み4a、図5(b)は+型の切り込み4b、図5(c)はX型の切り込み4c、図5(d)はY型の切り込み4d、図5(e)は*型の切り込み4e、そして図5(f)は米字状の切り込み4fを示している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】実施形態のシールド電線の端末部とコネクタの接続部分の構成を示す外観斜視図である。
【図1B】実施形態のシールド電線の端末部とコネクタの接続部分の構成を示す図であって、シールド箔の一部を切り欠いて示す平面図である。
【図2A】シールド箔だけを取り出して示した図であって、拡径前の状態を示す図である。
【図2B】シールド箔だけを取り出して示した図であって、コネクタ側のシールドシェルに合わせて寸法を拡大させた状態を示す図である。
【図3A】シールド構造の作製の初期段階を示す模式図である。
【図3B】シールド構造の作製の最終段階を示す模式図である。
【図4A】シールド電線の構造を説明するための断面図である。
【図4B】シールド電線の構造の第1変更例を説明するための断面図である。
【図4C】シールド電線の構造の第2変更例を説明するための断面図である。
【図5】(a)〜(f)はシールド箔に形成した切り込みの形のバリエーションを示す図である。
【図6】従来のシールド電線の端末シールド構造を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1:シールド電線
2:被覆電線
3:シールド箔
4:切り込み
6:外部被覆
10:コネクタ
11:電線導出部
15:シールドシェル(シールド部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の被覆電線の外側を中空筒状のシールド箔で包囲し、該シールド箔の外側を絶縁性の外部被覆で覆ったシールド電線であって、
前記シールド箔の少なくとも前記シールド電線の端末部に位置する部分に、該部分の周方向の引き延ばしを許容して拡径可能とする多数の切り込みが形成されていることを特徴とするシールド電線。
【請求項2】
前記切り込みが設けられた前記シールド箔を、前記切り込みの位置がずれるようにして少なくとも2層重ねて設けたことを特徴とする請求項1に記載したシールド電線。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したシールド電線の前記端末部の外部被覆を取り除き、それにより露出した前記シールド箔の部分を周方向に引き延ばして拡径すると共に、前記シールド箔の拡径した部分の内側の前記被覆電線をコネクタに接続し、そして当該拡径した部分の端部を前記コネクタの電線導出部のシールド部材にまで延ばして接続することにより、前記被覆電線を前記シールド箔で覆ったことを特徴とするシールド電線の端末シールド構造。
【請求項4】
前記外部被覆を取り除いて露出させた前記シールド箔の部分を折り返して二重に重ね合わせた状態で拡径し、当該二重に重ね合わせた状態で拡径した部分の端部を、前記コネクタの電線導出部のシールド部材にまで延ばして接続することにより、前記被覆電線を前記シールド箔で覆ったことを特徴とする請求項3に記載したシールド電線の端末シールド構造。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−140875(P2010−140875A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318660(P2008−318660)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】