説明

シール付き転がり軸受

【課題】転がり軸受の異常摩耗を防ぐ。
【解決手段】外輪41と、この外輪41の内周側に配置された内輪50と、外輪41および内輪50間に配置されこれらに対し転動する転動体70と、外輪41および内輪50間をシールするシール部材71とからなり、シール部材71は、外輪41および内輪50のうち回転輪間でラビリンスシール78を形成したシール付き転がり軸受において、シール部材71の転動体70と反対側の側面に、飛散するオイルをキャッチし貯蔵するキャッチ部73を設け、このキャッチ部73内に磁石74を設け、シール部材71にキャッチ部73内のオイルを外輪41、内輪50およびシール部材71で囲われた内部空間へ導く導入口75を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触シールタイプのシール付き転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図5(特許文献1)に示すシール付き転がり軸受は、外輪100および内輪110間を転動する円筒ころ120を有し、外輪100の内周の軸方向両端に環状溝101が形成され、これにシール部材130が圧入固定されている。シール部材130の内周側のリップ部135は、内輪110の外周に摺接している。図5および図6に示すようにシール部材130の外周側の厚肉部131には、外周面に円周上1箇所で軸方向に連通する軸方向溝132が形成され、円筒ころ120側の側面に円周上2箇所で径方向に連通する径方向溝133が形成されている。軸方向溝132および径方向溝133は、外輪100、内輪110およびシール部材130で囲まれた内部空間140の内圧を調節するのに使用しているが、転がり軸受をトランスミッションのギヤの回転軸支持に使用した場合、ミッションオイルを空間140へ導く通路として、前記軸方向溝132および径方向溝133を使用することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−79049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この場合、トランスミッション内のギヤの掻き揚げによって飛散したミッションオイルが、前記軸方向溝132および径方向溝133を介して内部空間140へ流入する形となるが、ミッションオイルが軸方向溝132になかなか入らないため、内部空間140内へ流入するミッションオイルが不足し、転がり軸受の異常摩耗を防ぐ点で好ましくない。
【0005】
またミッションオイルは、タンク、フィルター、ポンプ、ミッション各部の順に循環している。トランスミッションは、互いに噛合する複数のギヤを有し、ギヤ同士の噛み合いによる金属屑(異物)が発生する。トランスミッション使用始めの初期段階では、ギヤ同士が互いになじんでいないため、金属屑が大量に発生し、金属屑はフィルターに捕捉される。ギヤ同士が互いになじんでくると、金属屑の発生が少なくなってくる。トランスミッション使用始めの初期段階で、金属屑が混じったミッションオイルが、軸方向溝132および径方向溝133を介して空間140へ入るのは、転がり軸受の異常摩耗を防ぐ点で好ましくない。本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、転がり軸受の異常摩耗を防ぐ。すなわち外輪100、内輪110、円筒ころ120の異常摩耗を防ぐ。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、外輪と、この外輪の内周側に配置された内輪と、前記外輪および前記内輪間に配置されこれらに対し転動する転動体と、前記外輪および前記内輪間をシールするシール部材とからなり、前記シール部材は、前記外輪および前記内輪のうち回転輪間でラビリンスシールを形成したシール付き転がり軸受において、
前記シール部材の前記転動体と反対側の側面に、飛散するオイルをキャッチし貯蔵するキャッチ部を設け、このキャッチ部内に磁石を設け、前記シール部材に前記キャッチ部内の前記オイルを前記外輪、前記内輪および前記シール部材で囲われた内部空間へ導く導入口を設けたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、飛散してくるオイルをキャッチ部で受け止めるため、潤滑に必要なオイルを確保でき、転がり軸受の異常摩耗を防ぐことができる。しかも、オイル内の金属屑がキャッチ部内の磁石に吸着され、金属屑の少ないオイルを潤滑に供給できるので、転がり軸受の異常摩耗を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態におけるトランスミッションの縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における図1の要部拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態における図2の要部拡大図である。
【図5】従来のシール付き転がり軸受の縦断面図である。
【図6】従来のシール付き転がり軸受のオイルシールの厚肉部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について、図1乃至図4を参酌しつつ説明する。図1はトランスミッションの縦断面図であり、図2は図1のA−A線断面図であり、図3は図1の要部拡大図であり、図4は図2の要部拡大図である。
【0010】
図1および図2においてトランスミッション10は、アルミ製のミッションケース11を有する。ミッションケース11は、円筒状のボス部12が一体形成され、このボス部12に断面円形の嵌合穴13が形成されている。嵌合穴13に、鉄製で円筒状の補強部材15が圧入固定され、この補強部材15にシール付き転がり軸受40が径方向に隙間を持って嵌合されている。補強部材15の内周には、リング溝16が形成され、このリング溝16に止め輪34が嵌め込まれている。シール付き転がり軸受40の外輪41の外周には、リング溝16と対応する位置に係合溝45が形成され、この係合溝45に止め輪34が係合している。すなわち、止め輪34はリング溝16および係合溝45に跨る位置に存在し、止め輪34自体は径方向に縮小しようとする弾性力を有する。
【0011】
シール付き転がり軸受40の内輪50に回転軸20が嵌合され、回転軸20の外周には、内輪50が嵌合される第1の被嵌合部21、スプライン22、第2の被嵌合部23がボス部12から順に形成されている。また回転軸20のボス部12側の一端にネジ穴24が形成され、このネジ穴24に挟持部材30が螺合されている。挟持部材30は外径方向に拡張したフランジ部を有し、このフランジ部に内輪50の側面が当接している。
【0012】
回転軸20のスプライン22には、第1のギヤ32および第2のギヤ33がスプライン嵌合され、第1のギヤ32および第2のギヤ33が回転軸20と一体回転するようになっている。回転軸20の第2の被嵌合部23には、間座31が嵌め込まれ、シール付き転がり軸受40、第1のギヤ32および第2のギヤ33が、挟持部材30のフランジ部および間座31とで挟持されている。第1のギヤ32は、回転軸20と平行な軸線回りに回転する第3のギヤ35に噛合している。ミッションケース11内には、第1のギヤ32、第2のギヤ33および第3のギヤ35の下部にかかる程度の位置までミッションオイル80が入っており、このミッションオイル80によって第1のギヤ32および第3のギヤ35の滑らかな噛み合いがなされる。またミッションケース11内のミッションオイル80は、第1のギヤ32、第2のギヤ33および第3のギヤ35によって掻き揚げられ、粒となって各部へ飛散するようになっている。
【0013】
図1に示す非接触シールタイプのシール付き転がり軸受は、転動体として玉を使った玉軸受40である。玉軸受40は、リング状の外輪41と、外輪41の内周側に配置されるリング状の内輪50と、外輪41と内輪50間に配置されるリング状の保持器60と、保持器60に保持される複数の玉70と、玉70を挟んで両側に設けられたシール部材71、79とからなっている。シール部材71は、玉70に対して第1のギヤ32側に設けられ、シール部材79は、玉70に対して第1のギヤ32と反対側に設けられている。
【0014】
図1および図3に示すように、前記外輪41の内周には、断面円弧状の外輪側軌道面42が形成され、外輪側軌道面42の両側に、段部44、環状溝43の順に形成されている。段部44は径方向に形成され、段部44の外径側に環状溝43が形成されている。段部44および環状溝43は、外輪側軌道面42を中心に左右対称となるように形成されている。内輪50の外周には、断面円弧状の内輪側軌道面52が形成され、内輪側軌道面52の両側に、摺動面53が形成されている。摺動面53は、内輪50の軸線と平行な面を有する。
【0015】
前記保持器60は円周方向に複数のポケット部61を有し、各ポケット部61に玉70が回転可能に保持されている。前記玉70は、金属製で球形状を有する。
【0016】
図3および図4に示すように前記シール部材71は、径方向に延びるシール本体72と、シール本体72の玉70と反対側の側面に設けられたキャッチ部73と、キャッチ部73内に設けられた磁石74と、シール本体72に設けられた導入口75とからなっている。シール本体72の内周および内輪50の摺動面53間にはラビリンスシール78が設けられている。
【0017】
キャッチ部73は、シール部材71の上部に設けられ、飛散してくるミッションオイル80をキャッチできるように上向きに開口した箱形状を有する。よって、キャッチ部73は、飛散してくるミッションオイル80をキャッチするとともに貯留する機能を有する。
【0018】
磁石74は、キャッチ部73内の底部に垂直に取り付けられ、キャッチ部73の貯留空間を外輪41の軸線方向に2分する仕切り機能を有する。すなわち磁石74によってキャッチ部73内の貯留空間は、磁石74に対し玉70と反対側の第1の貯留空間76と、磁石74に対し玉70側の第2の貯留空間77とに区分される。磁石74は、第1の貯留空間76内のミッションオイル80の金属屑を吸着する機能を有し、また第2の貯留空間77内のミッションオイル80の金属屑を吸着する機能を有し、さらに第1の貯留空間76から第2の貯留空間77へ乗り越えてくるミッションオイル80の金属屑を吸着する機能を有する。導入口75は、第2の貯留空間77の上部に対応する位置に形成されている。導入口75は、一方は第2の貯留空間77の上部に開口し、他方は外輪41、内輪50およびシール部材71とで囲われた内部空間に開口している。
【0019】
磁石74の上方に邪魔板85が配置され、邪魔板85のピン部を外輪41のピン穴に嵌め込むことによって、邪魔板85は外輪41に取り付けられるようになっている。邪魔板85は、外輪41より磁石74の近傍まで径方向に延びている。邪魔板85は、飛散したミッションオイル80が直接、導入口75に入らないようにするとともに邪魔板85に付着したミッションオイル80を第1の貯留空間76へ導く機能を有する。
【0020】
前記シール部材79は、径方向に延びるシール本体72のみで、シール本体72の内周および内輪50の摺動面53間にはラビリンスシール78が設けられている。
【0021】
シール本体72およびキャッチ部73は、ゴム製であり、射出成形によって一体成形される。邪魔板85も、ゴム製であり、射出成形によって一体成形される。
【0022】
図3に示すように、外輪41および保持器60間、保持器60および内輪50間にグリース82が注入されている。使用初期段階では、グリース82によって外輪41および玉70間、玉70および内輪50間を潤滑し、導入口75を介して外輪41、内輪50およびシール部材71とで囲われた内部空間へ流入してきたミッションオイル80にグリース82が次第に溶けるようになっている。
【0023】
次に上述した構成にもとづいて、玉軸受10の組付け動作について説明する。
【0024】
図1に示すように、外輪41、保持器60、内輪50を同軸に配置し、内輪50に対し保持器60を傾け、保持器60に対し外輪41をさらに傾ける。保持器60のポケット部61に玉70を挿入し、保持器60を回して空いているポケット部61に玉70を挿入する動作を繰り返す。図3に示すように、外輪41および保持器60間、保持器60および内輪50間にグリースガンを使用してグリース82を注入する。外輪41の環状溝43にシール部材71、78を嵌め込み、外輪41に邪魔板85を取り付けて玉軸受10の組付け動作が完了する。
【0025】
続いてトランスミッションの組付け動作について説明する。
【0026】
図1に示すように、回転軸20の第2の被嵌合部23に間座31を嵌合し、スプライン22に第1のギヤ32および第2のギヤ33をスプライン嵌合し、第2の被嵌合部23に玉軸受10の内輪50を嵌合し、ネジ穴24に挟持部材30を螺合させる。これによって、玉軸受10、第1のギヤ32および第2のギヤ33は、挟持部材30のフランジ部および間座31によって挟持される。
【0027】
ボス部12の嵌合穴13に鉄製で円筒状の補強部材15を圧入嵌合し、補強部材15のリング溝16に止め輪34を嵌め込む。補強部材15に回転軸20と一体化した玉軸受10を挿入し、止め輪34は玉軸受10の外輪41によってリング溝16側へ径方向に拡張し、止め輪34が係合溝45に対応すると、止め輪34は径方向に縮小し、止め輪34は係合溝45に係合する。このとき、止め輪34は、リング溝16および係合溝45に跨った位置に位置し、補強部材15に対する玉軸受10の抜けが防止される。トランスミッション10の他の各部の組付けが完了すると、図2に示すようにミッションケース11内へミッションオイル80が第1のギヤ32、第2のギヤ33および第3のギヤ35の下部にかかる程度まで注入される。
【0028】
かかる状態で回転軸20を回転させると、図1および図2に示すように、第1のギヤ32および第3のギヤ34は互いに噛合しながら互いに逆方向に回転する。このとき図1および図3に示すように、内輪50も外輪41に対し回転し、外輪側軌道面42および内輪側軌道面52上を玉70が転動し、玉70は内輪50の回転方向と同方向へ移動する。玉70を保持する保持器60も玉70と同方向へ移動する。外輪41およびシール部材71間は、環状溝43にシール部材71を圧入嵌合することによりシールされる。内輪50およびシール部材71間は、この間に形成されるラビリンスシール78によりシールされる。
【0029】
図1および図3に示すように、トランスミッション10の始動開始の初期段階においては、グリース82によって外輪41および玉70間、玉70および内輪50間が潤滑される。第1のギヤ32、第2のギヤ33および第3のギヤ34によって掻き揚げられたミッションオイル80は飛散し、飛散したミッションオイル80の一部は第1の貯留空間76にキャッチされる。第1の貯留空間76で飛散するミッションオイル80をキャッチすることによって後述する玉軸受10の潤滑に必要なミッションオイル80を確保できる。
【0030】
ミッションオイル80内には、第1のギヤ32および第3のギヤ34の噛み合いによって発生した金属屑(異物)が多数含まれている。これらは、ミッションオイル80の循環によって、循環経路の途中にあるフィルターに捕捉される。また、図3および図4に示すように第1の貯留空間76および第2の貯留空間77に貯留されたミッションオイル80の金属屑は、磁石74に吸着される。また第1の貯留空間76から第2の貯留空間77へ乗り越えるところでミッションオイル80の金属屑は、磁石74に吸着される。第2の貯留空間77へ流入したミッションオイル80は、導入口75を介して外輪41、内輪50およびシール部材71とで囲われた内部空間へ流入する。
【0031】
トランスミッション10の使用経過時間がある程度以上になると、第1のギヤ32および第3のギヤ34は互いになじみ、金属屑を発生しなくなる。また、グリース82は劣化して潤滑機能が低下し、グリース82は内部空間へ流入したミッションオイル80に次第に溶ける。グリース82がミッションオイル80に完全に溶けると、ミッションオイル80によって外輪41および玉70間、玉70および内輪50間が潤滑される。このように、外輪41および玉70間、玉70および内輪50間の潤滑に、劣化したグリース80ではなく金属屑が少ないミッションオイル80を使用するので、玉軸受10の異常摩耗を防ぐことができる。すなわち外輪側軌道面42、内輪側軌道面52、玉70の異常摩耗を防ぐことができる。
【0032】
外輪41、内輪50およびシール部材71とで囲われた内部空間にミッションオイル80が存在していない間は、内輪50につれ回り回転する空気の流れによって、シール部材71、78および内輪50間のラビリンスシール78はラビリンスシール機能を有し、外部から内部空間へ塵等が侵入するのを阻止する。
【0033】
外輪41、内輪50およびシール部材71とで囲われた内部空間にミッションオイル80が存在すると、シール部材71、78および内輪50間のラビリンスシール78から外部へミッションオイル80が流出し、ラビリンスシール78はラビリンスシール機能を有さない。
【0034】
ミッションオイル80は、自動車の走行キロあるいは使用経過時間に応じて定期的に交換されるが、玉軸受10内のグリース82の交換は、トランスミッション10、玉軸受10の分解がない限り不可能である。このようにトランスミッションの使用経過時間がある程度経過した時点では、グリース82ではなくミッションオイル80を玉軸受10の潤滑に使用した方が望ましい。
【0035】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0036】
上述した実施形態は、転がり軸受として、玉軸受を適用した例を挙げた。他の実施形態として、転がり軸受として、円筒ころ軸受も適用できる。
【符号の説明】
【0037】
41:外輪、50:内輪、70:玉(転動体)、71:シール部材、72:シール本体、73:キャッチ部、74:磁石、75:導入口、78:ラビリンスシール、80:ミッションオイル(オイル)、82:グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、この外輪の内周側に配置された内輪と、前記外輪および前記内輪間に配置されこれらに対し転動する転動体と、前記外輪および前記内輪間をシールするシール部材とからなり、前記シール部材は、前記外輪および前記内輪のうち回転輪間でラビリンスシールを形成したシール付き転がり軸受において、
前記シール部材の前記転動体と反対側の側面に、飛散するオイルをキャッチし貯蔵するキャッチ部を設け、このキャッチ部内に磁石を設け、前記シール部材に前記キャッチ部内の前記オイルを前記外輪、前記内輪および前記シール部材で囲われた内部空間へ導く導入口を設けたことを特徴とするシール付き転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60957(P2013−60957A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197741(P2011−197741)
【出願日】平成23年9月10日(2011.9.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】