説明

シール付車輪支持用軸受ユニット

【課題】耐泥水性を高めて安定したシール性能を維持すると共に、容易に製造できるシール付車輪支持用軸受ユニットを提供する。
【解決手段】回転フランジ8側のシールリング13aが、外輪2の端部内周に圧入された円筒部22、およびこの円筒部22から径方向内方に延びる支持板部23からなる芯金20と、この芯金に加硫接着され、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ24a及メインリップ25を有する合成ゴム製のシール部材とを備え、回転フランジ8に凹部30が形成され、サイドリップ24aがこの凹部30の内側面と非接触のラビリンスシールを形成し、回転フランジ8の凹部30よりも内径側にメインリップ25が摺動する摺動面32を形成し、凹部30と摺動面32との境界部31が回転フランジ8の軸方向内側面より内側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する為の車輪支持用軸受ユニットに関し、特に、回転支持部分に組み込むシール装置の耐泥水性を高め、シールリップの摩耗を防止することにより、シール性能を向上させたシール付車輪支持用軸受ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車輪を懸架装置に回転自在に支持する為に車輪支持用軸受ユニットが使用されており、この車輪支持用軸受ユニットの従来例を図6に示す。図6に示す車輪支持用軸受ユニット1は、自動車の懸架装置に支持する駆動輪(FF車の前輪、FR車及びRR車の後輪、4WD車の全輪)用として使用される車輪支持用軸受ユニットの1例である。静止輪であり中炭素鋼等の金属製の外輪2は、外周面に形成した外向フランジ状の取付部3により、懸架装置の構成部材であるナックル(不図示)に支持固定されて、使用時にも回転しない。
【0003】
前記外輪2の内径側には、回転輪となるハブ4を、この外輪2と同心に設け、使用時においてこのハブ4が回転する様にしている。このハブ4は、中炭素鋼等の金属製のハブ本体5と、軸受鋼等の金属製の内輪6とから成る。このうちのハブ本体5の中心部内周面にはスプライン孔7を、軸方向外寄り(軸方向に関して、車両への組み付け時に幅方向外側になる方向を「外」と言い、各図の左側)部外周面には、外向フランジ状の回転フランジ8を、軸方向内寄り(軸方向に関して、車両への組み付け時に幅方向内側になる方向を「内」と言い、各図の右側)部外周面には、内輪6を外嵌固定する小径段部16を、それぞれ形成している。そして、前記ハブ本体5の軸方向内端の先端部を径方向外方に塑性変形させてかしめ部17を形成し、このかしめ部17により、ハブ本体5と共にハブ4を構成する内輪6の内端面を抑え付けている。車両への組み付け時に前記スプライン孔7には、等速ジョイントに付属したスプライン軸(不図示)を挿入し、前記回転フランジ8には車輪(不図示)を固定する。
【0004】
又、前記外輪2の内周面に複列の外輪軌道9、9を、前記ハブ本体5の中間部外周面と前記内輪6の外周面とに内輪軌道10、10を、それぞれ形成している。そして、これら各外輪軌道9、9と内輪軌道10、10との間に転動体11、11を、それぞれ複数個ずつ設けて、外輪2の内径側でのハブ4の回転を自在としている。尚、上記各転動体11、11は、それぞれ保持器12、12により、転動自在に保持されている。又、図示の例では転動体11、11として玉を使用しているが、重量が嵩む車両用の軸受の場合には、転動体として円すいころを使用する事もできる。更に、ハブ本体5の中間部外周面に形成された内輪軌道10は、このハブ本体5の中間部外周面に別体の内輪を外嵌し、この内輪の外周面に形成する事もできる。
【0005】
又、前記外輪2の外端部内周面と前記ハブ本体5の中間部外周面との間にはシールリング13を設け、外輪2の内端部内周面と前記内輪6の内端部外周面との間にパックシール14を設ける事により、外輪2の内周面と前記ハブ4の外周面との間で、各転動体11、11を設置した空間の両端開口を塞いでいる。尚、図示の例の場合、パックシール14の軸方向内側面にエンコーダ15を設け、ハブ4(すなわち車輪)の回転速度を検出可能な構造としている。このエンコーダ15の回転速度を検出する為のセンサ(不図示)は、懸架装置を構成するナックル等に設置する。
【0006】
そして、車輪支持用軸受ユニット1の軸方向内端開口部を塞ぐパックシール14は、ゴム等のエラストマーにより造られた3本のシールリップを備え、各シールリップは、断面略L字形で全体を円環状に成形されて外輪2に内嵌固定された芯金にその基端部を結合固定している。そして、これら各シールリップの先端縁を、断面L字形で全体を円環状に成形されて内輪6に外嵌固定されたスリンガに、それぞれ摺動させている。
【0007】
一方、各転動体11、11を設置した空間の軸方向外端開口部を密封するシールリング13は、図7に示す様に構成している。このシールリング13は、それぞれが円環状に形成された芯金20と弾性材21とから成る。このうちの芯金20は、軟鋼板等の金属板にプレス加工等の打ち抜き加工並びに塑性加工を施す事により、一体成形しており、前記外輪2の軸方向外端部内周面に内嵌固定自在な円筒部22と、この円筒部22の外端縁から直径方向内方に折れ曲がった支持板部23とを備える。そして、この円筒部22は、外輪2の軸方向外端開口部に、締まり嵌めで内嵌固定されている。
前記芯金20と共にシールリング13を構成する弾性材21は、ゴム等のエラストマーにより造り、芯金20に対し、モールド成形、加硫接着等により接合固定している。この様な弾性材21は、支持板部23の軸方向外側面を、全周に亙り完全に覆っており、その外側面及び内周縁に、それぞれサイドリップ24、メインリップ25、グリースリップ26を形成している。そして、サイドリップ24及びメインリップ25を前記ハブ本体5の回転フランジ8の基端部内側面に、グリースリップ26をこのハブ本体5の中間部外周面に、それぞれ全周に亙り摺動させている。
【0008】
上述の様に、車輪支持用軸受ユニット1の内部空間の両端開口部(或は一方の開口部)を、シール装置により塞いで、この内部空間内に封入したグリースの漏洩を防止すると共に、外部からの塵挨、水、泥水等の軸受内部への浸入を防止している。
しかしながら、こうした従来のシール装置では、サイドリップ24と回転フランジ8の基端部内側面との摺動部には径方向外側に遮蔽物がなく、外輪2の外端面と回転フランジ8との間に流れ込んだ泥水は容易に摺動部に到達するため、長期の使用において、その摺動部に泥水が付着して泥水中の砂を噛み込み、リップ摩耗が促進される虞がある。これにより、長期間に亘って安定したシール性能を維持できないといった問題があった。
【0009】
この部分の改善の先行技術として、特許文献1に記載されたシールリングを図8に示す。これによれば、外輪2とハブ4との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールリング13が、外輪2の端部内周に圧入された円筒部22、およびこの円筒部22から径方向内方に延びる支持板部23からなる芯金20と、この芯金20に加硫接着され、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ24を有する合成ゴム製の弾性材21とを備え、サイドリップ24が摺動する相手部材に段付き部18が形成され、この段付き部18がサイドリップ24の先端部を覆うように径方向外方に配置されているので、泥水等が流れ込んでもサイドリップの摺動部に滞留することなく下方に流出して排出され、この摺動部に泥水が付着してリップ摩耗が促進されることはなく、シールの耐泥水性を高め、長期間に亘ってシール性能を維持できるシール付車輪支持用軸受ユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−089558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の様な車輪支持用軸受ユニット1のハブ本体5は、中高炭素鋼のビレットを熱間鍛造により成形後、旋削加工する事で所望の形状としている。さらに、ハブ本体5の外周面(回転フランジ8の基端部内側面から、内輪軌道10を含み、小径段部16に亙る部分)は、高周波焼き入れ等の熱処理により硬化させた後、研削加工する事で、所望の性状(寸法及び表面粗さ)に仕上げている。図9は、この様な、軸受の軌道面等を研削加工により仕上げる方法に関する従来例である。ハブ本体5の外周面で、シール摺動面である回転フランジ8の基端部分から軸方向外側の内輪軌道10を含む中間部分に掛けての部分は、ダイヤモンドホイールで成形された回転砥石19により同時研削加工される。
上記回転砥石19は直径455〜610mm程度の円板形状であり、研削加工時に於いて、軸方向に凹む段付き部18の縁部と回転砥石19の軸方向外側の縁部とが干渉し、内輪軌道面10及び小径段部16を同時研削可能な加工条件(例えば、回転砥石19の接触角度30〜40°等)では、回転フランジ8の軸方向に加工可能な深さ、言い換えれば、回転フランジ8の内側面から軸方向外側への砥石の挿入可能な深さは僅か(0.5mm以下)である。このため、段付き部18はもちろん、段付き部18の内径側であり、回転フランジ8の内側面から軸方向外側に位置するシール摺動面となる部分を研削加工することは出来ない。
【0012】
図8に示すような、各シールリップ(サイドリップ24、メインリップ25、グリースリップ26)の摺動面を内輪軌道10の溝肩から段付き部18の近傍まで滑らかに連続した円弧形状に加工する場合、この部分は旋削加工等の機械加工により仕上げ加工を施す必要がある。しかし、シール摺動面を旋削加工等の送り目を有する加工面とすることは、シール性能の低下(送り目の谷部分からの漏洩、シール摩耗)となり好ましくない。また、シール摺動面となる回転フランジ8の基端部は、回転フランジ8に加わる回転モーメント等の外部荷重に耐える為に熱処理硬化されており、ハードターニングによる切削加工となるので、切削工具の寿命が短く粗さの管理もしにくい。また、総型バイトを用いた送り目のない機械加工は、ハードターニングの上、シール摺動面の加工範囲も広いので、実施困難である。
【0013】
本発明は、上述の様な問題に鑑み、シール装置のリップ摩耗を防止することにより、耐泥水性を高めて安定したシール性能を維持すると共に、容易に製造できるシール付車輪支持用軸受ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記問題を解決するために、本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットは、内周に複列の外輪軌道面が一体に形成された外輪と、一端部に車輪を取り付けるための回転フランジを備え、外周に複列の内輪軌道面が形成されたハブ輪と、このハブ輪と前記外輪の両軌道面に保持器を介して転動自在に収容された複数の転動体と、前記外輪とハブ輪との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシール装置とを備え、前記回転フランジ側のシール装置が、前記外輪の端部内周に圧入された円筒部、およびこの円筒部から径方向内方に延びる支持板部からなる芯金と、この芯金に加硫接着され、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ及メインリップを有する合成ゴム製のシール部材とを備える。
【0015】
特に、請求項1に記載したシール付車輪支持用軸受ユニットに於いては、前記回転フランジに凹部が形成され、前記サイドリップがこの凹部の内側面と非接触のラビリンスシールを形成し、前記回転フランジの前記凹部よりも内径側に前記メインリップが摺動する摺動面を形成し、前記凹部と前記摺動面との境界部が前記回転フランジの軸方向内側面より内側に配置されている。
更に、請求項2に記載したシール付車輪支持用軸受ユニットは、前記凹部が旋削加工により形成され、前記摺動面が研削加工されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、凹部がサイドリップの先端部を覆うように配置されており、泥水等が流れ込んでもサイドリップの先端部に滞留することがないので、この先端部に泥水が付着してリップ摩耗が促進されることはなく、シールの耐泥水性を高め、長期間に亘って安定したシール性能を維持できると共に、上記凹部が旋削加工により形成されており、加工が容易なシール付車輪支持用軸受ユニットを提供することができるという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分断面図。
【図2】本発明の実施の形態の第2例を示す部分断面図。
【図3】本発明の実施の形態の第3例を示す部分断面図。
【図4】本発明の実施の形態の第4例を示す部分断面図。
【図5】本発明の実施の形態の第5例を示す部分断面図。
【図6】車輪支持用軸受ユニットの従来構造の例を示す断面図。
【図7】従来構造のシール装置の例を示す部分断面図。
【図8】従来構造のシール装置の別の例を示す部分断面図。
【図9】従来構造のハブ本体の製造工程を示す研削加工の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本発明の特徴は、車輪支持用軸受ユニットを構成する外輪の端部を密封するシール装置において、シールリングのサイドリップと回転フランジに設けた凹部とによりラビリンスシールを形成する部分の構造にある。外輪に対して内輪(ハブ)を回転自在に支持して成る、車輪支持用軸受ユニットの構造及び作用は、基本的には前述の図6〜9に示した従来構造と同様であるので、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分並びに前述した従来構造と異なる部分を中心に説明する。
【0019】
本発明の、シール付車輪支持用軸受ユニットは、外輪2とハブ4、および転動体11とを備え、外輪2の内径側に設けられたハブ4は、転動体11を介して外輪2と同心に回転自在に支持されている。そして、外輪2の両端部にはシールリング13a及びパックシール14が装着され、外輪2とハブ4との間に形成される環状空間の開口部を密封している。これにより、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。このうちの、外輪2の軸方向内端側を密封するパックシール14は、互いに対向配置されたスリンガと環状のシール板とで構成されている。
【0020】
一方、外輪2の軸方向外端側を密封するシールリング13aは、図1に示すように、静止輪である外輪2の軸方向外端部内周面に所定のシメシロを介して内嵌された芯金20と、この芯金20に接合された弾性部材21とからなる一体型のシールで構成されている。
芯金20は、外輪2に圧入される円筒部22と、この円筒部22から径方向内方に折曲して形成される支持板部23とからなり、全体として円環状に形成され、軟鋼板等の金属板からプレス加工にて成形されている。
【0021】
弾性部材21はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴム材からなり、加硫接着によって芯金20に一体に接合されている。この弾性部材21は、芯金20の円筒部22から支持板部23に亙って軸受外方側(軸方向外側)の表面を覆うように接合され、支持板部23から径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ24aと、このサイドリップ24aの内径側に径方向外方に傾斜して延びるメインリップ25と、軸受内方側に傾斜して延びるグリースリップ26と、を一体に有している
【0022】
回転フランジ8の軸方向内側の基端部は研削加工により断面が円弧状の曲面に形成され、この基端部にメインリップ25が所定の軸方向シメシロをもって全周に亙り摺動すると共に、ハブ本体5の中間部外周面(研削加工面)にグリースリップ26が所定の径方向シメシロをもって全周に亙り摺動している。また、メインリップが摺動する摺動面32の径方向外側で、サイドリップ24aが対向する回転フランジ8の基端部には、旋削加工により断面がコの字形状の凹部30が形成されている。そして、この凹部30の軸方向内側面とサイドリップ24aの軸方向外側面とは所定の軸方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールを形成していると共に、この凹部30の径方向内周面とサイドリップ24aの径方向外周面とは所定の径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシールを形成している。さらに、この凹部30のラビリンスシールを形成している軸方向内側面は、軸受中心軸と垂直となる円環状の平面であり、その軸方向の深さは、サイドリップ24aの先端部の軸方向寸法よりも大きく設定されている。
【0023】
前記凹部30は、ハブ本体5を熱間鍛造で成形後で熱処理前の状態において、旋削によりこのハブ本体5の形状を加工する時に成形される。従って、凹部30を成形するための製造工程を新たに追加する必要はなく、熱処理硬化していない状態で旋削加工するので、凹部30は容易に加工できる。
また、研削加工によりハブ本体5の外周面の仕上げ加工を行う場合、回転砥石19の端部は砥粒の脱落を起しやすい(所謂小端高の発生)ので、凹部30の旋削面とメインリップ25が摺動する研削面(摺動面32)との境界部31は、回転フランジ8の軸方向内側面より内側に配置している。これにより、回転砥石19の端部が境界部31から離れるので、砥粒の脱落を防止すると共に、たとえ砥粒が脱落しても摺動面32に影響することを回避することができる。なお、上記境界部31の配置に伴い、メインリップ25の摺動位置も回転フランジ8の軸方向内側面よりも内側としている。
なお、シールリング13aを外輪2に嵌合する場合、芯金20の円筒部22の軸方向外端部を圧入冶具で押すことにより、円筒部22が外輪2の内周面に圧入固定されるので、サイドリップ24の外径寸法は、円筒部22の外径寸法より小径としている。
【0024】
図1に示すように、回転フランジ8の軸方向内側面と外輪2の軸方向外端面とが僅かな軸方向すきまを介してラビリンスシールを形成すと共に、サイドリップ24aと凹部30とが所定のすきまを介してラビリンスシールを形成している。さらに、凹部30により、サイドリップ24aの先端部(ラビリンスシール形成部)に直接泥水等がかからないように保護しているので、泥水等がサイドリップ24aの先端部に滞留することなく下方に流出して排出される。したがって、シールリング13aの耐泥水性を高め、長期間に亘って安定したシール性能を維持できるシール付車輪支持用軸受ユニットを提供することができる。
又、凹部30とサイドリップ24aとは非接触のラビリンスシールを形成しているので、凹部30を旋削加工により成形した旋削面としても、対向するサイドリップ24aが摩耗してシール性能が低下することはない。
【0025】
ところで、車輪支持用軸受ユニットは、モーメント荷重を負荷する軸受であり、荷重負荷時の外内輪の相対傾きは、軸受中心近傍を中心とする回転運動となることが知られている。本例の場合、凹部30とサイドリップ24aとの間で軸方向及び径方向のラビリンスシールを構成しているので、例えば、径方向のラビリンスすきまが増加するような変位が起きた時には、軸方向のラビリンスすきまは減少するような関係となるので、外内輪の相対傾きが発生してもラビリンスシールの性能を保つことができる。
なお、凹部30の内径面にサイドリップ24aが接触するとリップが変形してシール性能が低下するので、ラビリンスシールのすきまは、「径方向すきま>軸方向すきま」としておくことが望ましい。また、凹部30の表面粗さを良好にしておけばサイドリップ24aが凹部30の内面と一時的に接触しても問題はないので、軸方向のラビリンスすきまはゼロとしてもよい。
【0026】
[実施の形態の第2例]
図2は、本発明の実施の形態の第2例を示している。なお、この実施形態は、前述した実施の形態の第1例(図1)と基本的には同様であり、サイドリップの構造が異なるだけで、その他前述した実施形態と重複する図示には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施例では、サイドリップ24bの先端部に、軸受中心軸に対して略垂直となる円環状の面を有する円環板部27を設け、この円環板部27の軸方向外面と凹部30の軸方向内側面との間に所定の軸方向すきまを介してラビリンスシールを形成している。円環板部27により、ラビリンスシールの径方向の距離を長くしているので、シール性能を向上することができる。
【0027】
[実施の形態の第3例]
図3は、本発明の実施の形態の第3例を示している。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的には同様であり、サイドリップの構造及び凹部の形状が異なるだけで、その他前述した実施形態と重複する図示には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施例では、旋削面である凹部30cの断面を円弧形状とし、研削面である摺動面32の円弧曲面を外径方向に延長した線よりも、軸方向外側に凹部30cを形成している。
前述した様に、車輪支持用軸受ユニットは、モーメント荷重を負荷する軸受であり、回転フランジ8の基端部は、このモーメント荷重による曲げ応力が集中する位置でもある。本実施例の構成により、凹部30cの形成に伴う回転フランジ8の基端部における肉厚の減少を最小限に留め、凹部30cと摺動面32とが境界部31で滑らかに交わるようにしている。これにより、凹部31cへの応力の集中を防ぐことができると伴に、高周波熱処理時に境界部31のオーバーヒート及びそれに伴う、組織の粗粒化を防ぐことが出来るので、回転フランジ8の強度の低下を抑制する事ができる。
なお、サイドリップ24cの円環板部27cは、凹部30cの旋削円弧面と対向する様に円弧形状として、ラビリンスシール性能を高めている。
【0028】
[実施の形態の第4例]
図4は、本発明の実施の形態の第4例を示している。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的には同様であり、サイドリップの構造及び凹部の形状が異なるだけで、その他前述した実施形態と重複する図示には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施例では、旋削面である凹部30dを円錐面形状とし、その円錐面の断面形状は、研削面である摺動面32の円弧曲面の境界部31における接線と同一、或いはこの接線よりも僅かに軸方向外側に傾斜した角度を成す面としている。
これにより、凹部30dの旋削加工を容易としている。他の作用効果は上記実施の形態の第3例と同様である。なお、サイドリップ24dの円環板部27dは、凹部30dの旋削円錐面と対向する様に円錐形状としている。
【0029】
[実施の形態の第5例]
図5は、本発明の実施の形態の第5例を示している。なお、この実施形態は、前述した実施の形態の第3例と基本的には同様であり、凹部の形状が一部異なるだけで、その他前述した実施形態と重複する図示には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施例では、凹部30eの内径面の断面形状を、軸受中心を中心とする円弧状(軸受中心を中心とする球面)としている。
これにより、外部からのモーメント荷重により軸受中心近傍を中心とした外内輪の相対回転運動が発生しても、径方向のラビリンスすきまの変化を抑制することができる。従って、サイドリップ24eと凹部30eとが径方向に接触する虞が無いので、径方向のラビリンスすきまを小さくして、シール性能を向上する事ができる。また、凹部30eの外径寄り部分(稜部)が回転フランジ8の軸方向内側面と滑らかに交わる事により、高周波熱処理時のオーバーヒート及びそれに伴う組織の粗粒化を防ぐことが出来るので、回転フランジ8の強度の低下を招くことがない。
なお、凹部30eの内径面の断面形状を、軸受中心を中心とする円弧の接線(軸受中心とを結ぶ直線が直交する円錐面)としてもよい。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明は各実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、また、前記した各実施の形態を適宜組み合わせることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るシール付車輪支持用軸受ユニットは、静止輪(外輪)と回転輪(ハブ)との間に形成された環状空間の開口部にシールが装着された車輪支持用軸受ユニットに適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 車輪支持用軸受ユニット
2 外輪
3 取付部
4 ハブ
5 ハブ本体
6 内輪
7 スプライン孔
8 回転フランジ
9 外輪軌道
10 内輪軌道
11 転動体
12 保持器
13、13a、13b、13c、13d、13e シールリング
14 パックシール
15 エンコーダ
16 小径段部
17 かしめ部
18 段付き部
19 回転砥石
20 芯金
21 弾性体
22 円筒部
23 支持板部
24、24a、24b、24c、24d、24e サイドリップ
25 メインリップ
26 グリースリップ
27、27c、27d、27e 円環板部
30、30c、30d、30e 凹部
31 境界部
32 摺動面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外輪軌道面が一体に形成された外輪と、一端部に車輪を取り付けるための回転フランジを備え、外周に複列の内輪軌道面が形成されたハブ輪と、このハブ輪と前記外輪の両軌道面に保持器を介して転動自在に収容された複数の転動体と、前記外輪とハブ輪との間に形成される環状空間の両端開口部に装着されたシール装置とを備え、前記回転フランジ側のシール装置が、前記外輪の端部内周に圧入された円筒部、およびこの円筒部から径方向内方に延びる支持板部からなる芯金と、この芯金に加硫接着され、径方向外方に傾斜して延びるサイドリップ及メインリップを有する合成ゴム製のシール部材とを備えたシール付車輪支持用軸受ユニットにおいて、
前記回転フランジに凹部が形成され、前記サイドリップがこの凹部の内側面と非接触のラビリンスシールを形成し、前記回転フランジの前記凹部よりも内径側に前記メインリップが摺動する摺動面を形成し、前記凹部と前記摺動面との境界部が前記回転フランジの軸方向内側面より内側に配置されている事を特徴とするシール付車輪支持用軸受ユニット。
【請求項2】
前記凹部が旋削加工により形成され、前記摺動面が研削加工されている事を特徴とする請求項1に記載のシール付車輪支持用軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−61048(P2013−61048A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201381(P2011−201381)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】