説明

シール接続構造、構造体および被覆方法

【課題】食性および耐熱性を有し長期間利用することができ、かつ、内部流路Rから高温の腐食性流体が漏れることを効率よく防止することができる。
【解決手段】シール接続構造40は、高温の腐食性流体の流れる内部流路Rを形成する、一方の接続対象部材1と他方の接続対象部材2との間に設置されている。シール接続構造40は、この一方の接続対象部材1と他方の接続対象部材2とを密封して接続している。シール接続構造40は、一方の接続対象部材1と他方の接続対象部材2との間に配置されたシール部材本体11と、当該シール部材本体11を被覆し高温の腐食性流体に接触する耐食性金属層12とを有する金属製シール部材10と、一方の接続対象部材1と他方の接続対象部材2とを締結する締結部20と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温、高圧の液体や気体を保持する容器や、移送する配管などを密封して接続するシール接続構造に係り、特に強酸やその蒸気、または、腐食性ガスなどに対して優れた耐食性および耐熱性を有するシール接続構造に関する。また、本発明は、このようなシール接続構造を備えた構造体、および、このような構造体を被覆する被覆方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、発電プラント、化学プラントなどは、液体や気体を保持する容器と、これらの液体や気体を移送する配管とから構成されている。これらの容器や配管は、フランジなどの接続部位を、金属製ガスケット、ゴム製または樹脂製のOリングなどのシ−ル部材を介して、ボルト21などで締結することによって接続されている。
【0003】
一般に耐熱性が要求される場合には、シ−ル部材として、銅やステンレスからなる金属製ガスケットが用いられるが、このような金属製ガスケットからなるシール部材は高温の強酸や腐食性ガスに対する耐食性に関しては必ずしも十分ではない。他方、耐食性が要求される場合には、ゴム製のシール部材や、テフロン(登録商標)などの樹脂材料からなる樹脂製のシール部材が用いられるが、耐熱性に関してはせいぜい300℃が限度である。
【0004】
例えば、約950℃の核熱を利用して水原料から大量の水素と酸素を製造する熱化学ISプロセス法水素製造システムは、基本的に下記の3つのサブシステムからなっている。
I+SO+2HO=2HI+HSO :ブンゼン反応(発熱)〜 100℃
2HI=H+I :ヨウ化水素分解反応(吸熱) 400℃
HSO=HO+SO+1/2O :硫酸分解反応 (吸熱) 800℃
【0005】
この3つのサブシステムの内、ヨウ化水素分解反応と硫酸分解反応では、熱交換器を介して、高温ガス炉などから供給される高温ヘリウムガスなどと熱交換して、腐食性の高い硫酸やヨウ化水素を分解する。
【0006】
これらの反応温度は、400℃〜800℃以上と高い温度で行われるので、前述のような金属製ガスケットでは、高温の硫酸やヨウ化水素により短時間で腐食され、ゴム製のシール部材や樹脂製のシール部材は高温すぎて適用することができない。
【0007】
このような高温の腐食性流体のシ−ル方法としては、特許文献1で提案されている方法がある。特許文献1に記載された発明は、図3に示すように、一方の接合体(接続対象部材)1と他方の接合体(接続対象部材)2との接合面に、所定の直径差で相噛み合う段付き部1t,2tを設け、この直径差で相噛み合う段付き部1t,2t間に形成された空間部31に、軸方向に開口部35aを有するシールリング35を装着した構成になっている。
【0008】
このような構造によれば、一方の接合体1と他方の接合体2との間に大きな熱膨張差が発生しても、シールリング35の弾性変形で吸収することができる。すなわち、シールリング35の先端35bが、一方の接合体1および他方の接合体2の段付き部1t,2tに当接して流体を密封することができる。
【0009】
また、半径熱膨張差を、シールリング35自体の弾性変形によって吸収できるので、シール接触面の滑りによるシール面圧の低下や接触状態の変化に起因する漏洩を抑止することができる。
【特許文献1】特開2006−317106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
確かに、特許文献1に記載された発明によれば、一方の接合体1と他方の接合体2の熱膨張係数差が大きい異種材料の組合せにおいて、両者の熱膨張差を緩和するシール接続構造としては有効である。しかしながら、シール接続構造の材料として、耐食性に優れ、かつ、高温でも塑性変形しない材料を用いることが不可欠となり、このような要求に適した材料を見出すことは難しい。
【0011】
また、一方の接合体1と他方の接合体2の内面は、ガラスやセラックスなどの耐食性材料によって被覆されている場合が多く、このような耐食性材料は、脆く靭性が低いので、段付き部1t,2tのような不連続部があると、そのコ−ナ部に応力集中が起こり、耐食性材料からなる被覆層に亀裂が発生する可能性が高い。
【0012】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、耐食性および耐熱性を有し長期間利用することができ、かつ、内部流路から高温の腐食性流体が漏れることを効率よく防止することができるシール接続構造、当該シール接続構造を備えた構造体、および当該構造体を被覆する被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
後述するように、本発明者らは、沸騰濃硫酸中で、種々の金属材料、セラミックス材料、および、ガラス材料の腐食挙動を評価した。
【0014】
その結果、金属材料では金、白金、銀以外は全て短時間で完全に溶解し、このうち白金、銀も腐食する傾向を示し、唯一、金だけが優れた耐食性を示すことが分かった。
【0015】
また、セラミックス材料では、緻密に焼結した炭化ケイ素は優れた耐食性を示したが、このようなセラミックス材料も、CVD法によって形成される薄膜コ−ティングとして用いると、ピンホ−ル状の欠陥により薄膜コ−ティングが貫通してしまい、信頼性に劣ることも明らかになった。
【0016】
さらに、ガラス材料については、石英が優れた耐食性を示し、ソーダガラスなどのSiO含有量が比較的多いガラス材料も優れた耐食性を示すことが明らかとなった。しかし、このようなガラス材料も、PVD法やCVD法のようなコ−ティング法で製造した薄膜コ−ティングとして用いられると、やはり、ピンホ−ル状の欠陥により貫通してしまい、信頼性に劣ることも明らかになった。
【0017】
ところで、シ−ル部材はボルトなどの締付け圧力に対して適度な弾性変形が必要である。上記の選定した材料において、金は高温での強度が低く、かつ、弾性限界応力が極めて低く、また、炭化ケイ素やガラスは、高温強度は高いがほとんど弾性変形を生じないで脆性的に破壊することからシ−ル部材の材料としては適していない。
【0018】
一方、ステンレスなどの鉄基合金やインコネルなどのNi基合金は、上記選定された材料に比べて耐食性は著しく劣るが、500℃を超える高温でも良好な弾性変形を示すことが確認されている。
【0019】
従って、弾性変形能に優れた金属材料をシ−ル部材の材料とし、腐食性流体と接触する部分に耐食性金属層を設けることにより、高温における耐熱性と耐食性を兼ね備えたシ−ル部材を製造することができる。
【0020】
以上のようなことから、本発明者らは、以下に示すようなシール接続構造、構造体および被覆方法を見いだした。
【0021】
本発明は、高温の腐食性流体の流れる内部流路を形成する、一方の接続対象部材と他方の接続対象部材との間に設置され、この一方の接続対象部材と他方の接続対象部材とを密封して接続するシール接続構造において、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材との間に配置されるとともに、シール部材本体と、当該シール部材本体を被覆し高温の腐食性流体に接触する耐食性金属層とを有する金属製シール部材と、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材とを締結する締結部と、
を備えたことを特徴とするシール接続構造である。
【0022】
このような構成によって、耐食性および耐熱性を有し長期間利用することができ、かつ、内部流路から高温の腐食性流体が漏れることを効率よく防止することができるシール接続構造を得ることができる。
【0023】
本発明は、金属製シール部材の耐食性金属層が、金からなることを特徴とするシール接続構造である。
【0024】
このように、金属製シール部材の耐食性金属層の材料として、金を使用することによって、長期間に渡り腐食性流体による金属製シ−ル部材の腐食を抑制できる。
【0025】
また、一般的に、金はシ−ル部材本体に用いられる金属材料に比べて硬さが低いので、接続対象部材と金属製シ−ル部材との隙間を効率よく埋めることができ、接続対象部材と金属製シール部材との間から、内部流路を流れる高温の腐食性流体が漏れることを効率よく防止することができる。
【0026】
本発明は、金属製シール部材の耐食性金属層の厚さが、20μm以上からなることを特徴とするシール接続構造である。
【0027】
このように、耐食性金属層の厚さを20μm以上とすることによって、耐食性金属層中にピンホ−ルなどの欠陥や不純物などが混入・混在した場合でも、高温の腐食性流体が内部流路から耐食性金属層中の欠陥や不純物を介して金属製シール部材に達し、耐食性に劣る金属製シ−ル部材を腐食させることを防止することができる。
【0028】
また、耐食性金属層が接する接続対象部材の表面や金属製シール部材の表面に異物や加工傷などが存在した場合でも、耐食性金属層の表面から裏面まで貫通するような致命的な損傷が発生することを防止することができる。
【0029】
本発明は、金属製シール部材のシール部材本体が、鉄系、ニッケル系、またはコバルト系合金からなることを特徴とするシール接続構造である。
【0030】
金属製シ−ル部材のシール部材本体は、長時間に渡り材料的に劣化や脆化を起こさず、かつ、締付け圧力により適度に弾性変形する材料が好ましい。このような条件に適した金属材料として、ステンレス鋼、鉄−クロム合金などの鉄系合金や、インコネル、ハステロイなどのニッケル系合金、コバルト系合金が適している。
【0031】
また、金属製シ−ル部材のシール部材本体として、このような金属材料を用いることにより、シ−ル部材の高温圧縮クリ−プ変形による締付け応力の低下を抑制することができ、長時間に渡って優れたシ−ル性能を維持することができる。
【0032】
本発明は、金属製シ−ル部材が、一方の接続対象部材および他方の接続対象部材の内部流路を囲むリング形状からなり、
金属製シ−ル部材の一方の接続対象部材と接触する表面および他方の接続対象部材と接触する表面の各々が、平板形状からなることを特徴とするシール接続構造である。
【0033】
このような形状の金属製シ−ル部材を用いることにより、シ−ル部材や接続対象部材の表面に、締付け応力や熱応力の集中による損傷を防止することができる。
【0034】
さらに、金属製シ−ル部材のリング形状の内径と外径を変えることによって、金属製シ−ル部材と接続対象部材との接触面の接触面積を調整することができるので、金属製シ−ル部材の材料や使用条件に合わせて締付け圧力を最適化することもできる。
【0035】
本発明は、金属製シール部材の縦断面形状が、腐食性流体と接触する内部表面が円弧形状または面取りされた形状からなることを特徴とするシール接続構造である。
【0036】
このような形状からなるシール接続構造を用いることにより、起動・停止に伴う温度サイクルを受けた場合でも、耐食性金属層に熱応力集中が生ぜず、シール接続構造との熱膨張差による耐食性金属層の変形や破断を回避することができる。
【0037】
本発明は、前記締結部が、一方の接続対象部材および他方の接続対象部材を貫通するボルトと、当該ボルトと嵌合するナットとからなり、
ボルトと一方の接続対象部材との間、およびナットと他方の接続対象部材との間に、緩み止め部材が設けられたことを特徴とするシール接続構造である。
【0038】
このような構成によって、シール接続構造および耐食被覆層が圧縮変形した場合でも、所定の締め付け応力を維持することができるので、内部流路を流れる高温の腐食性流体が漏れることを防止することができる構造体を得ることができる。
【0039】
本発明は、高温の腐食性流体が流れる内部流路を形成する一方の接続態様部材と、
一方の接続対象部材に接続されるとともに、高温の腐食性流体が流れる内部流路を形成する他方の接続連結部材と、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材との間に設置され、この一方の接続対象部材と他方の接続対象部材とを密封して接続するシール接続構造と、を備え、
シール接続構造が、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材との間に配置されるとともに、シール部材本体と、当該シール部材本体を被覆し高温の腐食性流体に接触する耐食性金属層とを有する金属製シール部材と、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材とを締結する締結部と、
を有することを特徴とする構造体である。
【0040】
このような構成によって、耐食性および耐熱性を有し長期間利用することができ、かつ、内部流路から高温の腐食性流体が漏れることを効率よく防止することができる。
【0041】
本発明は、一方の接続対象部材および他方の接続対象部材が、少なくとも金属製シ−ル部材と接触する部分において、耐食性材料からなる耐食被覆層を有することを特徴とする構造体である。
【0042】
金属製シ−ル部材の表面を構成する耐食性金属層は、金、銀、白金などの材料から形成されるが、これらの金属は電気化学的に極めて貴な材料であり、他の金属と接触した場合には接触した金属がアノ−ドとなる。従って、接続対象部材と耐食性金属層との間で、電位差の大きい局部電池が形成され、接続対象部材が非常に早い速度で腐食が進行する。このため、接続対象部材の表面のうち、少なくとも金属製シ−ル部材と接触する部分を耐食性材料によって被覆することにより、前述のような電位差の大きい局部電池が形成されることを防止することができ、接続対象部材を長期間に渡り安定して使用することができる。
【0043】
本発明は、一方の接続対象部材および他方の接続対象部材が、内部流路を形成する部分において、ガラスからなる耐食被覆層を有することを特徴とする構造体である。
【0044】
接続対象部材を金属からなる耐食性材料によって被覆して耐食被覆金属層を形成する場合には、接続対象部材に用いられる材料と同じ材料を用いて接続対象部材を被覆しない限り、接続対象部材と耐食被覆金属層との間で電位差が発生して局部電池が形成され、接続対象部材の腐食を加速させる可能性が高い。
【0045】
そこで、接続対象部材を被覆する材料として耐食性に優れ、かつ、絶縁材料であるガラスを用いることにより、前述のような局部電池が形成されることを完全に防止することができ、接続対象部材を長期間に渡り安定して使用することができる。
【0046】
本発明は、耐食被覆層の材料として用いられるガラスが、ソーダ系ガラスからなることを特徴とする構造体である。
【0047】
耐食被覆層の材料として用いられるガラスとしては、耐食性の観点からは石英ガラスが好ましいが、石英ガラスの軟化および焼成温度は1000℃以上と高く、金属製の接続対象部材を被覆することは困難である。一方、ソーダ系ガラスは高温の強酸中でも良好な耐食性を有し、軟化・焼成温度も500〜800℃であることから金属製の接続対象部材であっても、被覆することには適している。
【0048】
従って、上述のように、接続対象部材を被覆する材料としてソーダ系ガラスを用いることによって、接続対象部材を被覆する時に発生する熱応力を低減することができ、かつ、接続対象部材が変形したり、変質したりすることも防止することができる。
【0049】
本発明は、一方の接続対象部材および他方の接続対象部材の少なくとも一方が、金属製シ−ル部材に対して内部流路側と反対の外方側に、金属製シール部材を外方から支持する凸部または段付き部を有することを特徴とする構造体である。
【0050】
金属製シ−ル部材は、常に締付け圧力を受けるので圧縮変形が生じ、径方向に変形・膨張する傾向がある。このため、金属製シ−ル部材に対して内部流路側と反対の外方側に、金属製シール部材を外方から支持する凸部または段付き部を設けることによって、金属製シ−ル部材が外側へ膨張変形することを抑制できるとともに、シ−ル部材を位置決めすることができる。
【0051】
本発明は、上述の構造体の一方の接続対象部材および他方の接続対象部材の表面を被覆する被覆方法であって、
一方の接続対象部材および他方の接続対象部材の表面のうち、腐食性流体と接触する部分にソーダガラス系の粉末を塗布する塗布工程と、
塗布したソーダガラス系の粉末を焼成する焼成工程と、を備え、
塗布工程および焼成工程を複数回繰り返すことによって、一方の接続対象部材および他方の接続対象部材の表面のうち腐食性流体と接触する部分を、所望の厚さを有するガラス層で被覆することを特徴とする構造体の被覆方法である。
【0052】
このような被覆方法を用いてガラス層を形成し多層構造にすることにより、接続対象部材の表面を被覆するガラス層内部にピンホ−ルなどの欠陥が発生した場合でも、発生した欠陥がガラス層の表面から接続対象部材まで貫通することがなく、接続対象部材が腐食することを防止することができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、密封機能を果たすシール部材本体と、耐食機能および耐熱機能を果たす耐食性金属層とを有する金属製シール部材を用いることによって、耐食性および耐熱性を有し長期間利用することができ、かつ、内部流路から高温の腐食性流体が漏れることを効率よく防止することができるシール接続構造、および当該シール接続構造を備えた構造体を得ることができる。また、接続対象部材の表面を多層構造のガラス層で被覆する被覆方法を用いることによって、接続対象部材が腐食することを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
実施の形態
以下、本発明に係る構造体およびシール接続構造の実施の形態について、図面を参照して説明する。ここで、図1および図2は本発明の実施の形態を示す図である。ここで、図1は、本実施の形態によるシール接続構造を備えた構造体を示す概略縦断面図である。
【0055】
図1に示すように、構造体50は、高温の腐食性流体が流れる内部流路Rを形成する一方の接合体(一方の接続対象部材)1と、この一方の接合体1と接続されるとともに、高温の腐食性流体が流れる内部流路Rを形成する他方の接合体(他方の接続対象部材)2と、一方の接合体1と他方の接合体2との間に設置され、この一方の接合体1と他方の接合体2とを密封して接続するシール接続構造40と、を備えている。
【0056】
このうち、シール接続構造40は、図1に示すように、一方の接合体1と他方の接合体2との間に配置され、一方の接合体1と他方の接合体2とを密封する金属製シール部材10と、一方の接合体1と他方の接合体2とを連結する締結部20とからなっている。
【0057】
また、図1に示すように、金属製シール部材10は、一方の接合体1と他方の接合体2との間に配置されたシール部材本体11と、当該シール部材本体11を被覆し高温の腐食性流体に接触する耐食性金属層12とを有している。
【0058】
また、図1に示すように、一方の接合体1と他方の接合体2とは、一方の接合体1のフランジ部1aおよび他方の接合体2のフランジ部2aを貫通するボルト21と、当該ボルト21と嵌合するナット22によって、連結されている。なお、図1に示すように、ボルト21と一方の接合体1との間、およびナット22と他方の接合体2との間には、皿バネやスプリングワッシャなどの緩み止め部材24が設けられている。
【0059】
また、図1において、金属製シール部材10のシール部材本体11は、耐熱性と弾性変形能に優れた、鉄系、ニッケル系、またはコバルト系合金からなっている。
【0060】
また、図1に示すように、一方の接合体1および他方の接合体2は、金属製シール部材10と接触する部分と内部流路Rを形成する部分において、ガラスからなる耐食被覆層5,6を有している。なお、ソーダ系ガラスは高温の強酸中でも良好な耐食性を有し、軟化・焼成温度も500〜800℃であることから、この耐食被覆層5,6の材料として用いられるガラスはソーダ系ガラスからなることが好ましい。
【0061】
また、図1に示すように、シール部材本体11を被覆した耐食性金属層12は、内部流路Rを形成する部分から金属製シール部材10の接合体1,2と接触する部分まで延びている。なお、この耐食性金属層12は、後述する理由より、金箔や金メッキなどの金から構成されることが好ましい。
【0062】
また、図1に示すように、金属製シール部材10は、一方の接合体1および他方の接合体2の内部流路Rを囲むリング形状からなっている。また、図1に示すように、金属製シール部材10の一方の接合体1と接触する表面および他方の接合体2と接触する表面の各々は、平板形状からなっている。
【0063】
また、図1に示すように、耐食性金属層12の縦断面形状(内部流路Rに沿って切断して見た形状)は、腐食性流体と接触する内部表面が円弧形状からなっている。なお、耐食性金属層12の縦断面形状は、このような円弧形状に限らず、コーナー部が面取りされて角の無い形状からなっていればどのような形状であってもよい。
【0064】
また、図1に示すように、一方の接合体1および他方の接合体2の各々は、金属製シール部材10に対して内部流路R側と反対の外方側に配置され、金属製シール部材10を外方から支持する突起部7,8を有している。この突起部7,8は、内部流路Rを囲むように円形状に配置されている。
【0065】
なお、上記では、一方の接合体1および他方の接合体2の各々が突起部7,8を有している態様を用いているが、これに限らず、一方の接合体1または他方の接合体2のどちらか一方のみが、突起部7,8を有していてもよい。
【0066】
また、一方の接合体1および他方の接合体2は、図1に示すような突起部7,8の代わりに、金属製シール部材10を外方から支持する段付き部を有してもよい。
【0067】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用効果について述べる。
【0068】
最初に、図1に示す本実施の形態による構造体50およびシール接続構造40の一般的な作用効果について説明する。
【0069】
図1において、接合体1,2によって形成された内部流路Rには、高温の腐食性流体が流れている。
【0070】
ここで、図1に示すように、一方の接合体1と他方の接合体2との間には、シール部材本体11と、当該シール部材本体11を被覆し高温の腐食性流体に接触する耐食性金属層12とを有する金属製シール部材10が配置され、一方の接合体1と他方の接合体2との間の間隙を密封している。
【0071】
このため、接合体1,2によって形成された内部流路Rから、腐食性流体が外部に漏れることを防止することができる。
【0072】
また、図1において、弾性変形能に優れた金属材料をシール部材本体11の材料とし、高温の腐食性流体に接する部分の表面を耐食性に優れた金属材料を耐食性金属層12の材料としている。
【0073】
この点、図1において、接合体1,2のフランジ部1a,2aをボルト21とナット22によって締付けているので、金属製シ−ル部材10のシール部材本体11を適度に圧縮変形させることができ、密封機能を果たすことができる。また、図1において、金属製シ−ル部材10は、その表面に設けられた耐食性金属層12によってシ−ル部材本体11が腐食を抑制することができる。
【0074】
すなわち、密封機能を果たすシール部材本体11と耐食機能および耐熱機能を果たす耐食性金属層12とを別々の構造とし、シ−ル機能および耐食機能および耐熱機能の各々の機能に適した材料を用いることによって、耐食性および耐熱性を有し長期間利用することができ、かつ、内部流路から高温の腐食性流体が漏れることを効率よく防止することができる。
【0075】
なお、金属製シ−ル部材10は、高温の腐食性流体に長時間曝されても浸食されないため、長期間に渡り、高温の腐食性流体が内部流路Rから漏れることを防止し、密封機能を維持することができる。
【0076】
また、図1に示すように、金属製シール部材10の一方の接合体1と接触する表面および他方の接合体2と接触する表面の各々が平板形状からなっているので、接合体1,2を被覆しているガラス系の耐食被覆層5,6に応力集中が生じない構造になっている。
【0077】
また、図1に示すように、耐食性金属層12の縦断面形状(内部流路Rに沿って切断して見た形状)は、腐食性流体と接触する内部表面が円弧形状からなっているので、起動・停止に伴う熱応力により、シール部材本体11の表面を被覆した耐食性金属層12が損傷してしまうことを防止することができる。
【0078】
さらに、図1に示すように、一方の接合体1および他方の接合体2の各々が、金属製シール部材10に対して内部流路R側と反対の外方側に配置され、金属製シール部材10を外方から支持する突起部7,8を有しているので、締付け圧縮応力によって金属製シール部材10が外側へ変形することを防止することができる。
【0079】
また、図1に示すように、ボルト21と一方の接合体1との間、およびナット22と他方の接合体2との間に緩み止め部材24が設けられているので、締付け圧縮応力で金属製シール部材10がクリ−プ変形することによって、腐食性流体が内部流路Rから漏れることを防止することができる。
【0080】
高温腐食試験
次に、耐食性金属層12に用いられる材料として適切なものを選択するために行った高温腐食特性に関する試験(高温腐食試験)の結果を、図2を用いて説明する。
【0081】
〈耐食性金属層12の材料〉
この高温腐食試験では、3×20×0.5〜2.0mmの角棒形状の試験片を、約310℃の沸騰硫酸中に一定時間浸漬した後、重量を測定し、その腐食減量から年間腐食深さを算出した。
【0082】
試験片の材料としては、ジルコニウム(図2のA)、ハステロイ(図2のB)、タンタル(図2のC)、ステンレス鋼(図2のD)、ソーダガラス(図2のE)、石英ガラス(図2のF)、炭化ケイ素(図2のG)、金(図2のH)を用いた。
【0083】
図2に示した高温腐食試験の結果から、通常、耐食性金属材料として用いられるジルコニウム(図2のA)、ハステロイ(図2のB)、タンタル(図2のC)、およびステンレス鋼(図2のD)はいずれも非常に大きな腐食量を示し、単体では金属製シール部材10の耐食性金属層12として適用できないことがわかる。
【0084】
しかしながら、ジルコニウム(図2のA)、ハステロイ(図2のB)、タンタル(図2のC)、およびステンレス鋼(図2のD)は、500℃の温度で200MPa以上の応力まで弾性変形をするため、耐食性以外の面では優れたシ−ル材料といえる。
【0085】
他方、ソーダガラス(図2のE)、石英ガラス(図2のF)、炭化ケイ素(図2のG)、および金(図2のH)の腐食量は極めて小さく、高温の強酸に対して優れた耐食性を示すことがわかる。
【0086】
しかしながら、ソーダガラス(図2のE)、石英ガラス(図2のF)、および炭化ケイ素(図2のG)は材料的に脆く、弾性変形量も小さいため、シ−ル材料としては適していない。
【0087】
これに対して、金(図2のH)は、低温では大きな弾性変形を示すが高温での降伏応力が低いため、シ−ル材料としては適していないが、シ−ル部材を保護する耐食性金属層12の材料としては好適であると言える。
【0088】
次に、上述した実施の形態で耐食性金属層12の材料として用いられる金の特性を調べるため、金メッキ材および金の薄板材(無垢材)について、同じく沸騰硫酸中で100時間の腐食試験を行った。
【0089】
試験片は、直径20mm、厚さ3mmの素材の周囲に金をメッキしたものを用いた。その際、金メッキ厚さを10μm,20μm、30μm、50μmと変えたものを5個ずつ準備し、各々について100時間の腐食試験を行い、腐食の有無を評価した。なお、金の無垢材については直径20mm、厚さ0.2mmの試験片を用いた。
【0090】
金の腐食試験の結果を以下の表1に示す。表中では全く腐食が認められなかったものを「○」で示し、腐食が認められたものを「×」で示している。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示すように、金メッキ厚さが薄い程、腐食が発生する確率が高くなることがわかる。これは、金メッキ厚さが薄い程、金メッキ層中に形成されるピンホ−ルや不純物が、金メッキの厚みを貫通して存在する確率が高くなるためであり、表1の結果から金メッキ厚さは20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがさらに好ましいことがわかる。なお、表1に示すように、無垢材の金箔を使用することも非常に有益であることがわかる。
【0093】
〈耐食被覆層5,6の材料〉
次に、接合体1,2を被覆する耐食被覆層5,6に用いられる材料を検討した結果について説明する。
【0094】
接合体1,2の表面は耐食性を有する材料で被覆されることが好ましいが、とりわけ、接合体1,2の表面のうち金属製シール部材10と接触する部分は、金属製シール部材10によって高い面圧で締付けられるため、耐食性はもとより、高温でもクリ−プ変形を起こさない強度を有している材料で被覆されることが好ましい。
【0095】
この点、上述のようにソーダガラス(図2のE)、石英ガラス(図2のF)および炭化ケイ素(図2のG)は弾性変形量も小さく、また、図2に示すように耐食性も有していることから、耐食被覆層5,6の材料としては、これらソーダガラス(図2のE)、石英ガラス(図2のF)、および炭化ケイ素(図2のG)が適していると言える。
【0096】
被覆方法試験
次に、図1において、一方の接合体1および他方の接合体2の表面のうち、腐食性流体と接触する部分を被覆する方法についての被覆方法試験の結果について説明する。
【0097】
この被覆方法試験では、ソーダガラス(図2のE)および石英ガラス(図2のF)を、ガラスライニング法、CVD法、およびPVD法を用いてコ−ティングし、また、炭化ケイ素(図2のG)を、CVD法を用いてコ−ティングした試験片を5個ずつ製作し、沸騰硫酸中での腐食試験を実施した。
【0098】
ガラスライニング法では、ガラス転位温度を500℃程度に調整したソーダガラスの粉末をスラリ−状にし、スプレ−噴霧により金属基材の表面に塗布した(塗布工程)後、約800℃で焼成して製作した(焼成工程)。このような塗布工程と焼成工程で生成される皮膜の厚さは100〜200μm程度なので、上述の塗布工程および焼成工程を繰返して行い、厚さ約1mmの皮膜によって被覆された試験片を製作した。一方、PVD法やCVD法では厚い皮膜を作ることが困難なため、皮膜の厚さは2〜3μm程度となった。
【0099】
腐食試験としては、上述した方法と同様の方法を用い、各試験片を、沸騰硫酸中で100時間の腐食試験を行った。以下の表2において、全く腐食が認められなかったものを「○」として示し、腐食が認められたものを「×」と示した。
【0100】
【表2】

【0101】
表2に示した試験結果から、ガラスライング法によって被覆された試験片については、全て全く腐食の兆候は認められなかったが、他方、CVD法およびPVD法によって被覆された試験片、および炭化ケイ素をCVD法によって被覆した試験片は全て腐食した。
【0102】
この原因は、いずれのコ−ティング方法を用いて被覆しても、皮膜内にピンホ−ル状の欠陥を内在しているが、ガラスライニング法では厚い皮膜を形成することができるため、ピンホ−ル状の欠陥によって表面が基材界面に繋がらない。これに対して、CVD法やPVD法を用いた場合には表面に形成される皮膜の厚さが薄いため、ピンホ−ル状の欠陥によって表面が基材界面に繋がり、当該欠陥を介して金属基材が腐食したためと考えられる。
【0103】
また、ガラスライニング法は組成の選択範囲も広く、ガラス転位温度の調整も比較的容易であり、かつ、ガラス転位温度以下ではほとんどクリ−プ変形を生じないことから、接合体1,2の表面を被覆する方法としては最適であると言える。
【0104】
なお、上述のように、このガラスライニング法は、図1において、一方の接合体1および他方の接合体2の表面のうち、腐食性流体と接触する部分を形成する際に用いられる。
【0105】
すなわち、まず、一方の接合体および他方の接合体の表面のうち、腐食性流体が流れる内部流路Rを形成する部分にソーダガラス系の粉末を塗布し(塗布工程)、次に、塗布したソーダガラス系の粉末を焼成する(焼成工程)。
【0106】
そして、上述の塗布工程および焼成工程を複数回繰り返すことによって、一方の接続対象部材1および他方の接続対象部材2の表面のうち腐食性流体と接触する部分を、所望の厚さを有するガラス層で被覆させればよい。
【0107】
リ−ク試験
次に、図1に示した接合体に対して行ったリ−ク試験について説明する。なお、本リーク試験では、箱型形状からなる接合体を用いて説明する。
【0108】
図1において、比較例では、フランジ部1aとボルト21との間およびフランジ部2aとナット22との間には何も設けなかった。他方、実施例1では、フランジ部1aとボルト21との間にハステロイ製の皿バネ1枚を設け、実施例2では、フランジ部1aとボルト21との間およびフランジ部2aとナット22との間に、ハステロイ製の皿バネ1枚ずつ設けた。
【0109】
図1に示すように、ボルト21とナット22によって連結されて形成された接合体1,2に、Heガスを20気圧の圧力で充填した後、当該箱を電気炉内に設置して500℃、100時間の保持を行った後、室温まで冷却した。
【0110】
このような熱サイクルを複数回繰返し行い、Heガスの漏れの有無を調査した。表3にリ−ク試験の結果を示す。表3中で「○」はHeガスが容器内から漏れていなかったことを示し、「×」はHeガスが容器内から漏れたことを示している。なお、各容器を2つずつ用意して、上述のリーク試験を行った。
【0111】
【表3】

【0112】
表3の結果から、フランジ部1aとボルト21との間およびフランジ部2aとナット22との間に皿バネ(緩み止め機構)が設けられていない比較例では、ボルト21の締付け応力によって、金属製シール部材10が圧縮クリ−プ変形し、締め付け力が低下することによって、比較的少ない熱サイクル数でHeガスが漏れてしまっていることがわかる。
【0113】
他方、フランジ部1aとボルト21との間にハステロイ製の皿バネ1枚を設けた実施例1と、フランジ部1aとボルト21との間およびフランジ部2aとナット22との間にハステロイ製の皿バネ1枚ずつ設けた実施例2では、50サイクル後であっても、ほとんどHeガスが容器内から漏れていないことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態によるシール接続構造を備えた構造体を示す概略縦断面図。
【図2】本発明の実施の形態による耐食性金属層および耐食被覆層に用いられる材料として適切なものを選択するため行った高温腐食特性に関する試験(高温腐食試験)の結果を示すグラフ図。
【図3】従来のシール接続構造を備えた構造体を示す概略縦断面図。
【符号の説明】
【0115】
1 一方の接合体(一方の接続対象部材)
2 他方の接合体(他方の接続対象部材)
5,6 耐食被覆層
7,8 突起部
10 金属製シール部材
11 シール部材本体
12 耐食性金属層
20 締結部
21 ボルト
22 ナット
24 緩み止め部材
40 シール接続構造
50 構造体
R 内部流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の腐食性流体の流れる内部流路を形成する、一方の接続対象部材と他方の接続対象部材との間に設置され、この一方の接続対象部材と他方の接続対象部材とを密封して接続するシール接続構造において、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材との間に配置されるとともに、シール部材本体と、当該シール部材本体を被覆し高温の腐食性流体に接触する耐食性金属層とを有する金属製シール部材と、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材とを締結する締結部と、
を備えたことを特徴とするシール接続構造。
【請求項2】
金属製シール部材の耐食性金属層は、金からなることを特徴とする請求項1に記載のシール接続構造。
【請求項3】
金属製シール部材の耐食性金属層の厚さは、20μm以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のシール接続構造。
【請求項4】
高温の腐食性流体が流れる内部流路を形成する一方の接続態様部材と、
一方の接続対象部材に接続されるとともに、高温の腐食性流体が流れる内部流路を形成する他方の接続連結部材と、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材との間に設置され、この一方の接続対象部材と他方の接続対象部材とを密封して接続するシール接続構造と、を備え、
シール接続構造は、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材との間に配置されたシール部材本体と、当該シール部材本体を被覆し高温の腐食性流体に接触する耐食性金属層とを有する金属製シール部材と、
一方の接続対象部材と他方の接続対象部材とを締結する締結部と、
を有することを特徴とする構造体。
【請求項5】
一方の接続対象部材および他方の接続対象部材は、少なくとも金属製シ−ル部材と接触する部分において、耐食性材料からなる耐食被覆層を有することを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
請求項4に記載の構造体の一方の接続対象部材および他方の接続対象部材の表面を被覆する被覆方法であって、
一方の接続対象部材および他方の接続対象部材の表面のうち、腐食性流体と接触する部分にソーダガラス系の粉末を塗布する塗布工程と、
塗布したソーダガラス系の粉末を焼成する焼成工程と、を備え、
塗布工程および焼成工程を複数回繰り返すことによって、一方の接続対象部材および他方の接続対象部材の表面のうち腐食性流体と接触する部分を、所望の厚さを有するガラス層で被覆することを特徴とする構造体の被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−30644(P2009−30644A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192455(P2007−192455)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】