説明

シール方法および医療用容器の製造方法

【課題】薬液室兼用ポートの硬質樹脂製の開口を樹脂フィルムで熱融着する際に肉薄化、膨張、変形、またはピンホール等が発生することなく熱融着する方法の提供。
【解決手段】内部に薬液が充填された硬質樹脂製筒状部材の開口端を閉塞するように樹脂フィルムを前記開口端に熱シール金型でシールする方法において、前記熱シール金型として、熱シール時に前記筒状部材の側壁上端面にフィルムを介して接触する環状シール部と、前記環状シール部の中央に位置し、熱シール金型下面から熱シール金型内部へ嵌入するように設けられた円柱状の凹部と、融着されるフィルムには接触しないような下部空隙を設けて前記凹部に埋設された耐熱性樹脂とを有する熱シール金型を用い、熱シール時に前記熱シール金型から前記筒状部材内へ伝わる輻射熱を遮断しながら、硬質樹脂製筒状部材の開口端に樹脂フィルムをシールする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシール方法およびこれを用いる医療用容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸液製剤を収容する医療用容器には、合成樹脂製の軟質シートを袋状に形成した軟質バッグが一般的に用いられている。このような医療用容器は、薬液の投与時に薬液を排出するためのポート(排出ポート)や、他の薬液を医療用容器内に混注するためのポート(混注ポート)を備えている。当該排出ポートや混注ポートは、硬質樹脂製の筒状部材の一端に瓶針や混注用針を刺通するための弾性封止部材が取り付けられたものが多く用いられている。このような弾性封止部材としては、ゴムやエラストマーが使用されている。
しかし、輸液製剤の薬液がゴムやエラストマーと長時間にわたり接触すると、薬剤の吸着や、ゴム・エラストマー成分と薬剤との化学反応、あるいはゴム・エラストマー成分からの化学成分の溶出のような問題を生じることがある。そのため上記のようなポートにおいては、薬液と弾性封止部材との接触を避けるため、筒状部材の開口端に液体不透過性の薄い樹脂製フィルム(以下、単にフィルムと言う。)をシールする場合がある。
【0003】
ところで、輸液製剤を収容する医療用容器には、予め混合しておくことのできない薬液(用時混合用薬液)を別の薬液室に分離して収容し、使用時に混合して投与するように構成されているものがある。中でも、ビタミン剤など比較的少量の薬液を、用時混合用薬液として収容する場合には、使用時に人為的操作によって医療用容器本体(軟質バッグ)内と連通可能に形成された、硬質樹脂製の筒状の薬液室(用時混合用薬液室)内に収容されることがある。このような用時混合用薬液室は、軟質バッグとは別部材として製造され、後に軟質バッグに融着等の方法により取り付けられる(特許文献1)。
一方、本願出願人は、排出ポートあるいは混注ポートに上記のような用時混合用薬液室の役割を兼用させた部材(以下、本明細書において「薬液室兼用ポート」と言う。)を備える医療用容器を提案している(特許文献2)。しかしながら、このような薬液室兼用ポートの製造において上記のように薬液室兼用ポートを構成する筒状部材にフィルムを熱シールする場合には、筒状部材内に用時混合用薬液を充填してからシールを行うことになるため、前記フィルムをシールするときには、閉塞された小容量の硬質筒状部材内に液体(用時混合用薬液)が存在することとなり、この点で薬液室を兼ねない軟質バッグ内と連通した通常のポートの製造とは状況が異なっている。このようにフィルムのシール時にポート内に液体が存在する場合、熱シール時に熱シール金型の輻射熱により熱せられたポート内部の液体の気化や空気層の体積膨張によって、フィルムに変形を生じることがある。
【0004】
以下、この現象を詳細に述べる。医療用容器用の軟質バッグ部に連通したポートに上記のようなフィルムを熱シールする場合に用いられている通常の熱シール金型の断面図を図4に示す。図4に示す熱シール金型120は、被融着部であるポートの側壁上端面115にフィルム8を熱融着するシール部122を有し、シール部の中央部は空間である凹部126を有する。熱シール金型のシール部122,凹部126の上部の金型は熱シール金型上部125によって連続している。この場合凹部126の径は被融着部である排出口の内径Dより若干d分小さくして確実にフィルムが排出口端に熱融着されるように構成される。シール部122の内側角部は面取りされて(Rが付いて)いて熱シール金型が取り扱いやすいようになっているが、Rはせいぜい0.5mm未満であり、0.3mm位であることが多い。薬液室を兼ねない通常のポートの開口端にフィルムを融着する場合には、ポート内部には空気のみが存在している状態であり、薬液は、連通する軟質バッグに存在している。すなわち、フィルムを融着する側と反対側のポート端部も通常のポートとしての機能を果たすべく開口端となっている。従って、熱シール時に熱シール金型の輻射熱で空気が膨張したとしてもその影響は分散され、一方、薬液は軟質バッグ内に存在しているので輻射熱の影響を受けず、液体の気化は起こらないため、フィルムへの影響は小さく、問題は生じない。
【0005】
しかし、図5に示すように、上述した通常の熱シール金型120を用いて薬液が充填された小容量の硬質筒状部材にフィルムをシールして薬液室兼用ポートを製造する場合は以下の問題がある。
図5(A)に示すように、薬液室兼用ポート4の薬液収容部は硬質樹脂製で、ポート内に薬液5と空気層6とを有する。フィルムの熱シール時には、図5(B)に示すように、熱シール金型120からの輻射熱により、熱シール金型内の凹部126内の空気と薬液室兼用ポート4内の空気層6とが加熱される。この段階では、熱シール金型内の凹部126内の空気と薬液室兼用ポート4内の空気層6とはいずれも膨張し、加圧しあっているためフィルム8に変形は生じない。次に、図5(C)に示すように熱融着後熱シール金型が離れると、未だ十分に冷却されず変形しやすい状態でありながら、フィルムの外側は常圧に戻る。すると熱シール金型120のシール部の内側の角が当たって薄肉化しているフィルムの薄肉化部分81に薬液収容部内の加熱された空気層6から圧力がかかり、フィルム8が外側に膨らむように変形したり、薄肉化部分81にピンホールが発生したりするなどの不具合が生じることがある。
【0006】
特許文献3には、容器の蓋のシール方法において、加熱ブロックの下端面には容器の開口端内にわずかに進入し得る環状の突起が形成されている熱シール金型を用いて、容器の開口端に蓋をかぶせ容器の開口端および蓋の当該部分を加熱してシールする方法が記載されている。特許文献3に記載の方法は、環状の加熱ブロックの内側の熱で蓋の上面が加熱され、容器内に残っている空気が熱せられて体積膨張が起こり、蓋が上方に押し上げられるとともに加熱により蓋材が伸びて蓋が変形するという問題を解決するために、環状の加熱ブロック(熱シール金型)の中心部に断熱材を設け、蓋と断熱材との間に空気室を形成し、空気室内に冷却空気を導入して蓋の外面を冷却するものである。
しかし、薬液室兼用ポートに薄いフィルムを熱シールする上記のような場合に特許文献3の方法を適用しようとすると、冷却空気でフィルムが陥没したり、熱シール金型に接する加熱部分の近くのフィルムが押し込まれ、シール際が肉薄になったりする。また、冷却空気によりフィルムが波打ったりして外観不良になる場合があった。また、冷却空気により金型表面の温度が低下し、シール品質が一定に保てないため該方法は薄いフィルムの熱融着には適さなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−159309号公報
【特許文献2】特開2005−95604号公報
【特許文献3】特開昭59−142906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、薬液室兼用ポートの製造において、薬液が充填された筒状部材にフィルムを熱シールする場合に、上記のような空気の熱膨張によるフィルムの変形が生じず、かつフィルムの波打ち、外観不良等も発生しないシール方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は以下を提供する。
(1)内部に薬液が充填された硬質樹脂製筒状部材の開口端を閉塞するように、樹脂フィルムを前記開口端に熱シール金型でシールする方法において、
前記熱シール金型として、
熱シール時に前記筒状部材の側壁上端面にフィルムを介して接触する環状シール部と、
前記環状シール部の中央に位置し、熱シール金型下面から熱シール金型内部へ嵌入するように設けられた円柱状の凹部と、
融着されるフィルムには接触しないような下部空隙を設けて前記凹部に埋設された耐熱性樹脂とを有する熱シール金型を用い、
熱シール時に前記熱シール金型から前記筒状部材内へ伝わる輻射熱を遮断しながら、硬質樹脂製筒状部材の開口端に樹脂フィルムをシールする方法。
(2)前記樹脂フィルムの厚さが500μm以下である(1)に記載のシールする方法。
(3)前記熱シール金型の凹部の下部空隙が0.5〜2mmである(1)または(2)に記載のシールする方法。
(4)前記硬質樹脂製筒状部材は、輸液製剤排出ポートまたは混注ポートに用時混合用薬液室の役割を兼用させた薬液室兼用ポートを構成するものである(1)〜(3)のいずれかに記載のシールする方法。
(5)上記(4)に記載のシールする方法を使用する工程を有することを特徴とする、薬液室兼用ポートまたは前記薬液室兼用ポートを備えた医療用容器の製造方法。
(6)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のシールする方法に用いる熱シール金型であって、
熱シール時に前記筒状部材の側壁上端面にフィルムを介して接触する環状シール部と、
前記環状シール部の中央に位置し、熱シール金型下面から熱シール金型内部へ嵌入するように設けられた円柱状の凹部と、
融着されるフィルムには接触しないような下部空隙を設けて前記凹部に埋設された耐熱性樹脂とを有する熱シール金型。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法は、樹脂フィルムのシール部分である側壁上端面以外の筒状部材内への熱の影響を遮断し、融着フィルムの熱膨張による薄肉化、ピンホールの発生等の不具合を生じることなくフィルムを側壁上端面に熱融着できるシール方法である。
本発明の方法は、薬液室兼用ポートの製造に際し、ポート内部の空気の熱膨張によるフィルムの変形を防ぐことができる。さらに熱シール金型のフィルムに接しているシール部からフィルムへの熱の伝わり方が良くなり、フィルムを均一に融着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明方法に用いる熱シール金型および本発明方法で製造される薬液室兼用ポートの薬液収容部上部の断面図である。
【図2】薬液室兼用ポートの一例を示す断面図である。
【図3】本発明方法で製造した薬液室兼用ポートを備える医療用容器の模式図である。
【図4】従来の熱シール金型を説明する断面図である。
【図5】従来の熱シール金型でフィルムを融着する際の問題点を説明する模式図である。
【図6】熱シール金型の形状寸法を説明する断面図である。図6(A)は実施例の熱シール金型、図6(B)は比較例の熱シール金型である。
【図7】実施例、比較例のシール方法を用いて、薬液室兼用ポート開口端をフィルムで熱シールした場合の評価結果を示す図である。図7(A)、図7(B)は比較例、図7(C)は実施例の結果を示す。
【図8】本発明方法を用いる薬液室兼用ポートの製造方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の方法を図1に示す好適実施態様を用いて説明する。本発明は図面に記載された態様に限定されない。
本発明のシール方法は、内部に薬液5とその上層部に空気層6とを有する硬質樹脂製の薬液室兼用ポート4の、薬液収容部(筒状部材)7の開口端に樹脂製の薄いフィルムを位置させ、フィルムを加熱して開口端をシールする方法である。
【0013】
<本発明に用いる熱シール金型>
本発明の方法で用いる熱シール金型20は、全体として有底筒型のブロックである。熱シール金型20の下面の中央には円柱状の凹部26が設けられ、凹部26の周囲が、熱シール時に薬液収容部7の側壁上端面15にフィルムを介して接触する環状シール部22を構成する。言い換えれば、凹部26は、環状シール部22の中央に位置し、熱シール金型下面から熱シール金型内部へ嵌入するように設けられている。シール部22と凹部26の上部は熱シール金型上部25によって連続している。シール部22の内部には例えば環状の伝熱ヒータ等の加熱手段が設けられている。熱シール金型20のシール部22が薬液収容部7の側壁上端面15に接して配置されたフィルム8を加熱して薬液収容部7の開口端10にフィルム8を融着(シール)する。
【0014】
熱シール金型とフィルムとが接するシール部22の内側の角は曲面R1を有して(面取りされて)いるのが好ましく、熱シール金型が熱を薬液室兼用ポート内部の空気層に無用に伝えないようにするためにはR1が0.5〜2.0mmであるのが好ましい。また凹部26の直径(耐熱性樹脂27の直径)は、薬液収容部7の内径D1よりも若干d1小さく構成されているが、d1は2〜7mmであるのが好ましく、3.5〜5mmであるのがさらに好ましい。d1が2mmより小さいとフィルムのシールが不完全となり、7mmより大きいと耐熱性樹脂27による輻射熱の遮断効果が減少する。
本発明の熱シール金型は、凹部26内に耐熱性樹脂27が埋設されており、かつ薬液室兼用ポートの開口端10をシールするフィルム8には耐熱性樹脂27が接触しないように構成されている。すなわち、耐熱性樹脂27は融着されるフィルムには接触しないような下部空隙を設けて前記凹部に埋設されている。具体的には、熱シール金型20がシール部22がフィルムに接する位置にあるときに、フィルム8の上面から0.5mm〜2mmの位置まで耐熱性樹脂27が配置される。0.5mm未満では耐熱性樹脂27がフィルムに接触するおそれがあり、耐熱性樹脂からフィルムへと熱が直接伝わるため好ましくない。2mmより離れると、金型の凹部内面の露出が大きくなりすぎ、金型から耐熱性樹脂を経ることなくフィルムに熱が伝わってしまうため好ましくない。この範囲内であれば、耐熱性樹脂によって熱シール金型から空気層6および薬液5に伝わる輻射熱が遮断されるとともに、側壁上端面15に確実に熱を伝えることができる。
【0015】
耐熱性樹脂27は、図1に示すように、円柱状に成形して熱シール金型20本体(熱シール金型20の耐熱性樹脂27以外の金属部分)の円柱状凹部26に埋設することにより熱シール金型本体と固定されており、直径は上記のように金型20の凹部26の直径と等しいものとなっている。また、耐熱性樹脂27は、さらに固定を強固にするための固定手段を有していてもよい。図6に例示する熱シール金型20では、熱シール金型上部25に設けられた嵌合用凹部23と耐熱性樹脂27に設けられた嵌合用凸部30が嵌合する構造となっており、これにより熱シール金型20本体と耐熱性樹脂との固定手段が形成されている。このような構成によれば、耐熱性樹脂27と熱シール金型20本体との間の固定を確実にすることができ、熱シール金型の耐久性を向上させることができる。また、嵌合用凸部30により耐熱性樹脂の体積が大きくなるためさらに薬液室兼用ポート内に伝わる輻射熱を効率的に遮断することができる。このような嵌合用凹部および嵌合用凸部は、図6に示すように中央に一対設けてもよいし、複数の小さな嵌合用凹部および嵌合用凸部を設けてもよい。
固定手段としては嵌合用凹部および凸部に限られず、例えば耐熱性を有する接着剤を用いて固定してもよく、複数の固定手段を併用してもよい。
【0016】
<耐熱性樹脂>
耐熱性樹脂27はシール温度より高い融点を有するものである必要がある。本発明のシール温度は通常200〜220度程度であるため、これより高い融点を有する樹脂であれば特に限定されないが、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、を例示することができる。
【0017】
<薬液室兼用ポート>
図2に熱融着された薬液室兼用ポートの1例の断面図を示す。図2に示すように、本発明方法で製造される薬液室兼用ポート4は、略円筒状の筒状部材で、開口端10を上にしたとき薬液5とその上層部に空気層6とを有し、空気層6の上部が開口端10である構造を有するものである。開口端10は、側壁上端面15にフィルム8を融着することにより封止されている。
図2の薬液室兼用ポート4は、薬液5が収容された薬液収容部7と、薬液収容部7の一端側(軟質バッグ内部に位置する側、すなわち図2の下側)を閉塞し、かつ、破断により前記容器本体内との連通を可能とする破断可能部11および破断可能部11の破断操作を行うための操作部12を備える。また、前記薬液収容部の他端側(軟質バッグの外部に位置する側、すなわち図2の上側)を閉塞する、弾性封止部材28を備えた蓋部29を有する。
破断可能部11は、用時に破断して混合用薬液5を薬液室兼用ポートから軟質バッグ内部に開放するための脆弱部で、薬液収容部7の外周に設けられた薄肉部(溝部)である。
【0018】
薬液収容部7の構成材料としては、後述する樹脂フィルムと相溶性を有することにより熱融着可能な樹脂が使用される。具体的には、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、環状ポリオレフィン[具体的には、環状ポリオレフィン(COP)であるZEONEX、ZEONOR(ともに日本ゼオン株式会社製)、環状オレフィンコポリマー(COP)であるAPEL ( 三井化学株式会社製) ] 、ポリプロピレンホモポリマー、高密度ポリエチレンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−( 4 − メチルペンテン− 1) 、ポリカーボネート、AB S 樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート( P M M A ) 、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン− スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET ) 、ポリブチレンテレフタレート( P B T ) のようなポリエステル、ブタジエン− スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド等の各種樹脂、あるいはこれらを任意に組み合わせたものが挙げられる。これらの中でも、安全性が高く、軟質バッグ2とのシール性に優れるという点で、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステルが好ましい。また、蓋部29および操作部12の材質としても上述した硬質もしくは半硬質樹脂が好ましい。
【0019】
薬液収容部7の開口端10は、蓋部29を有し針管を挿通可能な弾性封止部材28で閉塞されている。このような構成により、薬液収容部7は、薬液の排出口または混注口を兼ねるものとなる。
また、弾性封止部材28は、自己閉塞性を有し、針管を弾性体から抜き取った後は、その穿刺孔が閉塞し、薬液の漏れを防止するものである。弾性封止部材28の構成材料としては、例えば、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー) 、天然ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムのような各種ゴム材料等の弾性材料、あるいはこれらのうちの任意の2以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0020】
操作部12は、図2および図3に示すように、破断可能部11を基端として延出するものである。作業者は、輸液の使用時(投与時)に薬液室兼用ポート4が設けられている軟質バッグ(医療用容器本体)の軟質シートを介して操作部12をつまみ、破断可能部11に対して曲げ応力を加えることにより破断可能部11を破断する。この破断操作により薬液室兼用ポート内部と軟質バッグ内部が連通し、薬液室兼用ポートに収容されていた薬液5が軟質バッグ内に収容されている薬液と混合される。
【0021】
薬液収容部7内に収容される薬液は、使用時に輸液剤に混合・溶解させる必要のある薬液、言い換えれば最初から混合しておくことのできない薬液であり、例えば脂溶性ビタミン含有ビタミン剤等のビタミン剤、抗生物質、各種アミノ酸、ヘパリン等の抗血栓剤、インシュリン、抗腫瘍剤、鎮痛剤、強心剤、静注麻酔剤、抗パーキンソン剤、潰瘍治療剤、副腎皮質ホルモン剤、不整脈用剤、補正電解質、抗ウィルス薬、免疫賦活剤等が挙げられる。
【0022】
さらに薬液室兼用ポートは前記薬液収容部内に設けられ前記破断可能部の未破断時における前記薬液収容部内への前記薬液出入用針管の侵入を阻害する針管侵入阻害部を備えるものであってもよい。針管侵入阻害部を有する薬液室兼用ポートの詳細は、本出願人による特許出願公開公報、特開2007−50085号公報等に記載されている。
【0023】
フィルムが熱融着される薬液収容部7の開口端の大きさは限定されないが、好ましくは、内径D1は、5〜30mm、側壁の厚さtは、0.25〜5mm、外径D2は、5.5〜40mmである。より好ましくは、内径D1は、10〜20mm、側壁の厚さtは、0.5〜1.5mm、外径D2は、11〜23mmである。
【0024】
<フィルム>
融着されるフィルムは、樹脂製であり、厚さ50μm〜500μm、より好ましくは100μm〜300μmである。フィルムが厚すぎると瓶針等の針管を刺入してフィルムを挿通する際の抵抗が上がり、また製造時の熱シールが困難になるため好ましくない。一方、フィルムが薄すぎると、薬液と弾性封止部材との接触を遮断するという機能が十分に発揮できなくなるおそれがあるばかりでなく、製造時に非常に扱いにくくなる。
【0025】
フィルム8の材質はある程度の耐熱性および液体不透過性のある樹脂で、薬液収容部7を形成する樹脂と相溶性を有することにより薬液収容部7に融着可能なものである必要がある。また、薬液兼用ポート内に収容される薬液に含まれる薬剤を吸着したり、薬剤と化学反応を生じたり、薬液中に可塑剤等の樹脂成分が溶出したりすることのないものが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン− プロピレンコポリマー、ポリプロピレンとポリエチレンもしくはポリブテンの混合物等、ポリオレフィンを含む混合物)、さらにはこれらの部分架橋物、エチレン−酢酸ビニル共重合体( EVA )、ポリエステル( ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、軟質塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合のようなスチレン系エラストマー等の各種熱可塑性エラストマーあるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が好ましく、特に環状ポリオレフィンが好ましい。しかしこれらの例示に限定されない。
【0026】
<薬液室兼用ポートの製造およびそれを備える医療用容器の製造方法>
以下に図8を用いて、本発明のシール方法を用いる薬液室兼用ポート4の製造方法を説明する。まず、図8(A)で、所定量の薬液5をノズル36より薬液室兼用ポート4の薬液収容部7へ充填する。次に図8(C)で示すように、上記で説明した本発明のシール方法で薬液収容部7の側壁上端面15にフィルム8を熱融着し、開口端を閉塞する。次に図8(D)で示すように、別工程により蓋部29に弾性封止部材28を押し込みにより嵌合し、蓋部29を超音波を用いてフィルムを熱融着された開口端に融着する。図示しないが、薬液室兼用ポートのリーク検査や異物検査工程を行う。その後薬液室兼用ポートは搬送され、別工程にて医療用容器に超音波融着される。
【0027】
<医療用容器>
薬液室兼用ポートを有する医療用容器としては、輸液バッグが例示できる。
図3に示す医療用容器1は、排出口を兼ねるタイプの薬液室兼用排出ポート4を有する輸液バッグである。医療用容器1の本体である軟質バッグ2の材質としては、薬液室兼用ポート4が軟質バッグに融着固定される部分である薬液室兼用混注ポート4薬液収容部7の材質と相溶性を有し、また、軟質バッグ内に収容される薬液に含まれる薬剤を吸着したり、薬剤と化学反応を生じたり、薬液中に可塑剤等の樹脂成分が溶出したりすることのないものが好ましい。このような材質としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン− プロピレンコポリマー、ポリプロピレンとポリエチレンもしくはポリブテンの混合物等、ポリオレフィンを含む混合物) 、さらにはこれらの部分架橋物、エチレン− 酢酸ビニル共重合体( EVA ) 、ポリエステル( ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、軟質塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合のようなスチレン系エラストマー等の各種熱可塑性エラストマーあるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)を使用することができる。さらに、多層構造シートを使用することもでき、この場合、最内層を薬液収容部と相溶性を有するものとし、他の層を目的に応じて適宜選択することができる。
軟質バッグ2は、上記樹脂を用いてブロー成形することにより作製したもの、上記樹脂により形成された2枚のシートの周縁部を融着して形成したもの、上記樹脂により形成された1 枚のシートを折り返すとともに周縁部を融着して形成したもの、上記樹脂を用いて押し出し成形により筒状に形成したものの開口周縁を融着することにより作製したものなどのいずれでもよい。
【0028】
(実施例)
図6(A)に示す本発明の熱シール金型(R1=1.0mm)を用いて、外径(D2)、15.6mm、内径(D1)、13.8mmの開口端を有し、総合ビタミン剤溶液が充填されているポリプロピレン製の薬液収容部(筒状部材)に200μm厚さのポリプロピレン製フィルムを熱融着した。金型温度は、205℃で、熱融着時間は、1.5秒であった。得られたシール部の写真を図7(C)に示す。左の図は製品外観であり、右の図は製品断面を示す。
(比較例)
図6(B)に示す耐熱性樹脂が埋設されていない従来の熱シール金型(R=0.3mm)を用いて、実施例と同様の開口端を有する同様の薬液収容部(筒状部材)に同様のフィルムを熱融着した。金型温度は、205℃で、熱融着時間は、1.5秒であった。得られたシール部の写真を図7(A)および(B)に示す。左の図は製品外観であり、右の図は製品断面を示す。
【0029】
比較例で得られたシールを示す図7(A)および(B)では、熱融着されたフィルムには、肉薄化、膨張、変形、ピンホールの発生がみられた。図7(A)および(B)では、熱シール金型のシール部の内側の角が当たって薄肉化しているフィルムの薄肉化部分を矢印で示している。
実施例で得られたシールを図7(C)に示す。熱融着されたフィルムは、開口全体で平坦であり、薄肉化された部分も見られなかった。
【符号の説明】
【0030】
1 医療用容器
2 軟質バッグ(医療用容器本体)
4 薬液室兼用ポート
5 薬液
6 空気層
7 薬液収容部(筒状部材)
8 フィルム
10 開口端
11 破断可能部
12 操作部
15、115 開口端側壁
20,120 熱シール金型
22,122、シール部
23 嵌合用凹部
25,125 熱シール金型上部
28 弾性封止部材
29 蓋部
30 嵌合用凸部
36 ノズル
81 フィルムの薄肉化部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に薬液が充填された硬質樹脂製筒状部材の開口端を閉塞するように樹脂フィルムを前記開口端に熱シール金型でシールする方法において、
前記熱シール金型として、
熱シール時に前記筒状部材の側壁上端面にフィルムを介して接触する環状シール部と、
前記環状シール部の中央に位置し、熱シール金型下面から熱シール金型内部へ嵌入するように設けられた円柱状の凹部と、
融着されるフィルムには接触しないような下部空隙を設けて前記凹部に埋設された耐熱性樹脂とを有する熱シール金型を用い、
熱シール時に前記熱シール金型から前記筒状部材内へ伝わる輻射熱を遮断しながら、硬質樹脂製筒状部材の開口端に樹脂フィルムをシールする方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルムの厚さが500μm以下である請求項1に記載のシールする方法。
【請求項3】
前記熱シール金型の凹部の下部空隙が0.5〜2mmである請求項1または2に記載のシールする方法。
【請求項4】
前記硬質樹脂製筒状部材は、輸液製剤排出ポートまたは混注ポートに用時混合用薬液室の役割を兼用させた薬液室兼用ポートを構成するものである請求項1〜3のいずれかに記載のシールする方法。
【請求項5】
請求項4に記載のシールする方法を使用する工程を有することを特徴とする、前記薬液室兼用ポートまたは前記薬液室兼用ポートを備えた医療用容器の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のシールする方法に用いる熱シール金型であって、
熱シール時に前記筒状部材の側壁上端面にフィルムを介して接触する環状シール部と、
前記環状シール部の中央に位置し、熱シール金型下面から熱シール金型内部へ嵌入するように設けられた円柱状の凹部と、
融着されるフィルムには接触しないような下部空隙を設けて前記凹部に埋設された耐熱性樹脂とを有する熱シール金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197091(P2012−197091A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61421(P2011−61421)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】