説明

シール材および弁装置

【課題】 密封が必要な運動部に対する摩擦抵抗を比較的長期にわたって軽減できるシール材およびこれを用いた弁装置を実現する。
【解決手段】 本シール材(Oリング1)は、密封が必要な運動部に装着されるゴム製のシール材であって、リング状のゴム本体10と、上記ゴム本体10の表面にブラスト処理によって形成された多数の微細な凹部11と、上記凹部11を含んでゴム本体10表面に被覆形成されたシリコン(低摩擦層)2とを有する。
本シール材によると、運動部が頻繁に動作されることでゴム本体10表面のシリコン2が摩耗して削り取られても、ゴム本体10表面の多数の微細な凹部11内にはシリコン2が残存することとなる。これにより、表面のシリコン2が削り取られても、上記凹部11内に残存するシリコン2によって、運動部に対する摩擦抵抗を軽減し続けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封が必要な運動部に装着されるゴム製のシール材及び密封が必要な運動部を有する弁装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、例えば、給湯器の通水配管5には水量を調節するための水バルブ6が接続されている(特許文献1の図1等)。この水バルブ6は、モータ等の駆動源によって軸部を進退駆動させることでこの軸部に接続する弁を進退させて本体の通水口の開度を調節し、これによって、通水配管5における水量を適宜に調節できるようにしている。
【0003】
このような水バルブ6内の水密性を確保するため、例えば、本体と軸部との間の摺動部(運動部)には、シール材としてのOリングが装着される。このOリングは、摩擦係数が比較的大きいゴム製であって断面円形のリング状に形成されており、凹溝の中に圧接状態で装着されてその弾力によって密封を行うようにしている。従って、このOリングによって水バルブ6の水密性を確保できるものの、上記摺動部に圧接状態で装着されるため、軸部の進退駆動に摩擦抵抗を生じさせて弁の操作性を鈍らせ、しかも、軸部を進退駆動させる駆動源のモータにも余分な負荷をかけることとなる。
【0004】
そこで、Oリングにグリスを塗布して軸部の摺動部での摩擦抵抗を軽減することも可能であるが、給湯器の水バルブ6のように水や湯が流れる部位に装着されるOリングの場合は水や湯によってグリスが直ぐに洗い流されてしまい、長期にわたってOリングによる摩擦抵抗を軽減することが困難である。
【0005】
一方、管継手において、配管分岐方向を選択できるように回動自在にした受口管の回動部をシールするOリングとして、その表面にふっ素樹脂コーティングしたものを用いて、受口管の回動性を悪化させないようにしたものがある(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−332974号公報
【特許文献2】特開平5−149437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、上記ふっ素樹脂コーティングしたOリングを上記水バルブ6の摺動部に用いることも考えられる。しかしながら、配管接続後は受口管がほとんど回動されない管継手の受口管回動部とは異なり、頻繁に駆動される水バルブ6の軸部における摺動部では、Oリング表面のふっ素樹脂コーティングが比較的早期に削り取られてゴム面が露出してしまう。そのため、このような単にふっ素樹脂コーティングしたOリングでも、水バルブ6の摺動部においては、長期にわたってOリングによる摩擦抵抗を軽減することが困難である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、密封が必要な運動部に対する摩擦抵抗を比較的長期にわたって軽減できるシール材及びこれを用いた弁装置を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るシール材は、密封が必要な運動部に装着されるゴム製のシール材であって、リング状のゴム本体と、上記ゴム本体の表面に形成された多数の微細な凹部と、上記凹部を含んでゴム本体表面に被覆形成された低摩擦層とを有するものである。
これにより、本シール材を運動部に装着した場合、当初はゴム本体表面に被覆形成された低摩擦層によって運動部に対する摩擦抵抗を軽減することができる。
そして、運動部が頻繁に動作されることでゴム本体表面の低摩擦層が摩耗して削り取られても、ゴム本体表面の多数の微細な凹部内には低摩擦層が残存することとなる。これにより、表面の低摩擦層が削り取られても、上記凹部内に残存する低摩擦層によって、運動部に対する摩擦抵抗を軽減し続けることができる。
従って、運動部での密封性を確保しつつ、比較的長期にわたって運動部に対する摩擦抵抗を軽減し、この運動部での動作を円滑に行わせることができる。
【0009】
(2)上記シール材において、上記凹部は、ブラスト処理によって形成されたものであり、上記低摩擦層は、シリコンからなるものでもよい。
これにより、ブラスト処理によってゴム本体の表面に多数の微細な凹部を容易に形成することができる。また、シリコンはふっ素樹脂に比べて静摩擦係数が小さいので、上記低摩擦層をシリコンによって形成することで、運動部での動き始めの抵抗を一層低減することができる。
【0010】
(3)また、本発明に係る弁装置は、密封が必要な運動部を有する弁装置において、上記運動部には、リング状のゴム本体と、上記ゴム本体の表面に形成された多数の微細な凹部と、上記凹部を含んでゴム本体表面に被覆形成された低摩擦層とを有するシール材が装着されるものである。
これにより、上記シール材によって、上記同様に、運動部での密封性を確保しつつ、比較的長期にわたって運動部に対する摩擦抵抗を軽減し、この運動部での動作を円滑にさせることができる。従って、運動部にシール材を圧接状態に装着することで、軸部の進退駆動に摩擦抵抗を生じさせて弁の操作性を鈍らせたり、軸部を進退駆動させる駆動源のモータに余分な負荷をかけることもない。
【0011】
(4)上記弁装置において、水密性の確保が必要な運動部を有する水バルブとして構成され、上記運動部は、通水配管に接続される通水口を設けた本体と、この本体内に配設されて通水口の開度を調節する弁と、この弁を進退させる軸部とを含むものでもよい。
この場合、通水抵抗が加わる水バルブであっても、運動部での水密性を確保しつつ、比較的長期にわたって運動部に対する摩擦抵抗を軽減し、この運動部での動作を円滑にさせることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明に係るシール材によれば、これを運動部に装着した場合、運動部での密封性を確保しつつ、比較的長期にわたって運動部に対する摩擦抵抗を軽減し、この運動部での動作を円滑に行わせることができる。
【0013】
また、本発明に係る弁装置によれば、運動部にシール材を圧接状態に装着しても、弁の操作性を鈍らせたり、駆動源のモータに余分な負荷をかけるといったこともない。また、低摩擦層によってシール材表面の摩擦抵抗が小さくなっているため、このシール材に接触する軸部等の運動部での部品の組付けを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1には、本実施の形態におけるシール材としてのOリングを示し、図2には、図1のII−II断面図であり、その一部を拡大した拡大図とともに示す。
図1、図2に示すように、Oリング1は、リング状のゴム本体10と、このゴム本体10の表面に形成された多数の微細な凹部11と、この凹部11を含んでゴム本体10表面に被覆形成されたシリコン(低摩擦層)2とを有するものである。
【0015】
このOリング1は、水バルブ等の摺動部や回動部等の運動部に圧接状態に装着されてその弾力によって運動部の密封を行う。例えば、このOリング1の内側に配設される軸部等の円柱状部材に圧接されて水密性を確保したり、また、その外側に配設される筒状部材の内面に圧接されて水密性を確保するように用いられる。
上記ゴム本体10は、例えば、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)やSBR(スチレンブタジエンゴム)等の合成ゴム、天然ゴム、合成樹脂等から形成される。
【0016】
上記ゴム本体10の表面全体に形成された多数の微細な凹部11は、ブラスト処理によって形成される。例えば、エアーショットブラスト装置やホーニング装置によって内面に均一なブラスト処理を施した成形金型を用いて、リング状のゴム本体10を成形すると同時にゴム本体10の表面に上記ブラスト処理による多数の微細な凹部11が容易に形成される。
【0017】
上記シリコン2は、上記凹部11内にも埋め込まれるようにゴム本体10表面にほぼ一定の厚みとなってコーティングされている。このシリコン2はふっ素樹脂に比べて静摩擦係数が小さいので、このOリング1を水バルブ等の運動部に圧接状態に装着されても、運動部での動き始めの抵抗を一層低減することができる。また、このシリコン2のコーティングによってOリング1の摩耗が低減されるから、シリコン2をコーティングしないものと比べて、Oリング1の寿命を引き延ばすことができる。このシリコン2のコーティング方法としては、ブラスト処理等で凹部11を形成したゴム本体10に対し、例えば、シリコンのバージンパウダーをゴム本体10表面にまぶしてオーブンで焼き付ける焼付け法、シリコン溶液をゴム本体表面10に吹き付ける溶射法、あるいはシリコン溶液中にゴム本体10を浸してゴム本体表面にシリコンを付着させるディッピング法等、その他の種々の方法によって形成することができる。
【0018】
次に、上記Oリング1が弁装置としての水量サーボに装着される例を説明する。
図3には、水量サーボの内部構成を示す。
この水量サーボ3は、例えば、給湯器の通水配管に接続されるものであり(図4参照)、その構成は、図3に示すように、給湯器等の通水配管に接続される通水口31(流入口31a、流出口31b)を設けた本体30と、この本体30内に配設されて流出口31bの開度を調節する弁32と、この弁32を進退させる軸部33とを備える。軸部33は、その先端部に弁32が連結され、基端部に駆動源のモータ(図示せず)に接続されるハンドル34が連結されている。弁32は、軸部33の先端部に連結されて軸部33の進退動によって流出口31b付近の弁座35に接離され、且つ弁座35との間の開度が調節される。これにより、通水配管内を流れる水や湯の流量が調節される。また、本体30内には、弁30の移動方向を案内する弁ガイド36が設けられており、この弁ガイド36内に弁32の基端部及び軸部33が摺動可能に収容されている。
【0019】
そして、弁ガイド36と摺動接触する弁基端部32aの外周と、軸部33と摺動接触する弁ガイド36の内周とにそれぞれシール材としての上記Oリング1A,1Bが装着されている。これらOリング1A,1Bは、それぞれ凹溝320,360内に圧接状態で装着されてその弾力によって水密性を確保させている。
なお、この水量サーボ3における流入口31a付近の本体30内には羽根車37が配設され、また、流入口31a付近の本体30の構成壁外面には流入口31aからの水流によって羽根車37が回転すると、これを検知する水流検知部38が設けられている。すなわち、これら羽根車37と水流検知部38が水量センサとなっている。
【0020】
上記Oリング1A,1Bによれば、ゴム本体10表面に低摩擦層となるシリコン2がコーティングされているので、軸部33及び弁32が弁ガイド36との間(運動部)での摺動による摩擦抵抗を軽減することができる。そして、この水量サーボ3において軸部33及び弁32が頻繁に動作されることでゴム本体10表面のシリコン2が摩耗して削り取られても、ゴム本体10表面の多数の微細な凹部11内にはシリコン2が残存することとなる。これにより、Oリング1A,1B表面のシリコン2が削り取られても、上記ゴム本体10表面の凹部11内に残存するシリコン2によって、軸部33及び弁32と弁ガイド36との間の摺動部(運動部)に対する摩擦抵抗を軽減し続けることができる。従って、軸部33及び弁32と弁ガイド36との間の摺動部での密封性を確保しつつ、比較的長期にわたって上記摺動部に対する摩擦抵抗を軽減することができる。
【0021】
このように、上記水量サーボ3によれば、水密性確保のためのOリング1A,1Bによって加わる軸部33や弁32への負荷が長期にわたって大幅に軽減され、軸部33の動作や弁32の動作を長期にわたって円滑に行わせることができる。また、Oリング1A,1B表面のシリコン2はふっ素樹脂に比べて静摩擦係数が小さいので、このOリング1を上記摺動部に圧接状態に装着されても、弁32の動き始めの抵抗を一層低減することができる。さらに、このことから、軸部33を駆動する駆動源のモータへの余分な負荷も軽減されるから、ひいてはモータの延命を図ることができる。
【0022】
また、上記Oリング1A,1Bの装着によって軸部33や弁32の摺動が円滑になることから、この水量サーボ3の組付けにおいて軸部33や弁32を円滑に移動させることができるので、水量サーボ3の組付け作業も容易となる。
【0023】
なお、上記実施の形態では、シール部材として、円形断面を有したOリング1を示したが、これに限らずX状の断面形状を有したものや、偏平状の断面形状を有したもの等、種々の断面形状に形成したものでもよい。
【0024】
また、上記実施の形態では、弁装置として、水量サーボ3を示したが、これに限らず止水機能付き制御弁等の種々の水バルブや、さらにはガス用の電磁弁等の弁装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態におけるシール材としてのOリングを示す平面図である。
【図2】Oリングの断面構造を一部拡大図とともに示す断面図である。
【図3】水量サーボにOリングが装着された構成を示す断面図である。
【図4】水量サーボが接続されている給湯器の通水配管の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1,1A,1B Oリング(シール材)
2 シリコン(低摩擦層)
3 水量サーボ(弁装置)
10 ゴム本体
11 凹部
30 本体
31a 流入口(通水口)
31b 流出口(通水口)
32 弁
33 軸部
36 弁ガイド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封が必要な運動部に装着されるゴム製のシール材であって、
リング状のゴム本体と、
上記ゴム本体の表面に形成された多数の微細な凹部と、
上記凹部を含んでゴム本体表面に被覆形成された低摩擦層とを有するシール材。
【請求項2】
請求項1に記載のシール材において、
上記凹部は、ブラスト処理によって形成されたものであり、
上記低摩擦層は、シリコンからなるシール材。
【請求項3】
密封が必要な運動部を有する弁装置において、
上記運動部には、リング状のゴム本体と、上記ゴム本体の表面に形成された多数の微細な凹部と、上記凹部を含んでゴム本体表面に被覆形成された低摩擦層とを有するシール材が装着される弁装置。
【請求項4】
請求項3に記載の弁装置において、
水密性の確保が必要な運動部を有する水バルブとして構成され、
上記運動部は、通水配管に接続される通水口を設けた本体と、この本体内に配設されて通水口の開度を調節する弁と、この弁を進退させる軸部とを含む弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−24126(P2007−24126A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204879(P2005−204879)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000115854)リンナイ株式会社 (1,534)
【Fターム(参考)】