説明

シール製造用合金鋳鉄、シール、及びシールの製造方法

本発明は、シール(Seal)製造用合金鋳鉄、シール、及びシール製造方法に関するものである。本発明に係るシール(Seal)製造用合金鋳鉄は、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含む。本発明によれば、遠心鋳造法によりシール(Seal)を生産できるようになって、シール(Seal)の生産性を向上させ、耐摩耗性に優れるシール(Seal)を生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール(Seal)製造用合金鋳鉄、シール、及びシールの製造方法に関し、より詳しくは、生産性に優れる遠心鋳造法が適用可能なシール(Seal)製造用合金鋳鉄とシール、及びシールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無限軌道はフォークレーン(ショベルカー)やブルドーザのような農業用、土木用車両などに使われ、軍事的には戦車、装甲車などに使われている。
【0003】
無限軌道車両には車輪の役割をするチェーンベルトが回転するように支持するトラックローラを備えている。このトラックローラには、回転摩擦を減少させて摩耗を減らすことができるように内部に潤滑油が充填されているが、この潤滑油が外部に漏出したり外部から異質物が流入することを防止するようにフローティングシール(floating seal)が取り付けられる。
【0004】
このようなシール(Seal)は、ローラの内部の潤滑油の漏出を防止するシーリング(Sealing)機能と回転をさせるベアリング(Bearing)機能を同時に有する特殊合金鋳鉄で作られる。
【0005】
従来、シール(Seal)はシェルモールド(shell mold)鋳造法を用いて製作していた。しかしながら、シェルモールド(shell mold)鋳造法は、造形段階、注入段階、ショット段階、仕上段階、熱処理段階、研削段階、ラッピング段階、洗浄段階、バッフィング(バフ研磨)段階、及び検査段階を経てシールを製作するので、製造工程が複雑であるという短所があった。
【0006】
したがって、製造工程が簡単で、かつ環境に優しい遠心鋳造法を使用してシール(Seal)を製作することが好ましいが、遠心鋳造法はシェルモールド(shell mold)鋳造法と異なり、同一な合金鋳鉄を使用しても形成されたシールは従来とは異なる組織が形成される。したがって、従来の合金鋳鉄を使用して遠心鋳造法を適用してシール(Seal)を製作した場合は、シールの脆性が高まり、気密性及び耐摩耗性が落ちる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、遠心鋳造法が適用可能なシール(Seal)製造用合金鋳鉄を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明に係るシールは、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含む。
【0009】
また、前述した目的を達成するための本発明に係るシール製造方法は、シール製造用合金鋳鉄を溶解する溶解段階、溶解された合金鋳鉄を回転鋳型に注入する注入段階、回転鋳型の回転によりシールを形成する段階、及び鋳造されたシールを回転鋳型から分離し、シールを熱処理する熱処理段階を含み、合金鋳鉄は、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含む。
【0010】
また、前述した目的を達成するための本発明に係るシール製造用合金鋳鉄は、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シール(Seal)を遠心鋳造法により生産できるようになって、生産性が向上し、生産されたシール(Seal)は優れた耐摩耗性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】トラックローラとこれに取り付けられるシールを示す部分切欠斜視図である。
【図2】炭素含有量に依存する共晶反応及び過共晶反応を示す相平衡図である。
【図3】本発明に係るシール製造用合金鋳鉄で製作されたシールの組織を示す写真である。
【図4】従来のシールの組織を示す写真である。
【図5】従来のシールの組織を示す写真である。
【図6】図3に図示されたシールのX線回折結果を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るシール製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。
【0014】
図1は、トラックローラとこれに取り付けられるシールを示す部分切欠斜視図である。
【0015】
シール100は、トラックローラ120の内部で潤滑油の漏油を防止するシーリング(Sealing)機能と回転をさせるベアリング(Bearing)機能を同時に有する特殊合金鋳鉄で作られる。
【0016】
トラックローラ120には、回転摩擦を減少させて摩耗を減らすことができるように、内部に潤滑油が充填されているが、この潤滑油が外部に漏出したり、外部から異質物が流入することを防止するようにシール100が取り付けられている。
【0017】
本発明によれば、このようなシール100を遠心鋳造法により製作することができる。
【0018】
遠心鋳造法とは、鋳型を回転させながら溶融金属を流して、遠心力を用いて鋳物を作る鋳造法である。
【0019】
形態が複雑な鋳物や微細な鋳物の場合に、円周に沿って放射状に鋳型を配置して半径方 向に溶融金属の流路を作って置いて、円板の中心に流し込むようにし、円板を回転させて遠心力により押圧しながら鋳造する。
【0020】
このような遠心鋳造法は、図5で後述するが、注入段階、仕上段階、研削段階、ラッピング段階を経てシールが製作できるので、シェルモールド(shell mold)鋳造法に比べて工程が単純であるため、生産性を向上させることができる。
【0021】
シールは特殊合金鋳鉄で作られる。シールの主成分が鉄(Fe)であることは当然であり、以下では本発明の主要な合金成分のみを説明する。
【0022】
本発明の一実施形態に係るシール製造用合金鋳鉄は、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%を含むことができる。
【0023】
シールはローラの内部でシーリング(Sealing)機能とベアリング(Bearing)機能を同時に遂行するので、耐摩耗性がシールの最も重要な特徴のうちの1つである。ここに、炭素はシールの充分な硬度及び残留オーステナイトを提供するために提供され、3.8〜4.2質量%で含まれることが好ましい。
【0024】
図2は、炭素含有量に依存する共晶反応及び過共晶反応を示す相平衡図である。
【0025】
図2を参照すると、従来のシール製造用合金鋳鉄は、図2のAのように、炭素(C)の含有量が約3.0〜3.7質量%であり、共晶反応または亜共晶反応をして、炭化物生成よりはオーステナイト生成を誘導する。
【0026】
一方、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄により製造されるシールは、図2のBのように、炭素(C)の含有量が3.8〜4.2質量%であり、これにより脆性のない区間での過共晶反応を誘導して炭化物の量が多くなる。
【0027】
即ち、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄により製作されたシールは、過共晶反応をするので炭化物の量が多い。これは、従来に比べて耐摩耗性が格段に上昇することを意味する。したがって、炭素は3.8〜4.2質量%で含まれることが好ましい。
但し、このような場合、耐摩耗性の増加と共に脆性及び硬度が増加する結果をもたらすが、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄はオーステナイト安定化のためのニッケル(Ni)と、マルテンサイトおよび炭化物の過剰形成を抑制するためのモリブデン(Mo)とを追加装入することにより、硬度の過剰な増加が抑制して、割れを防止することができる。
【0028】
ニッケルは3.3〜4.7質量%で含まれることが最も好ましく、モリブデンは2〜5質量%で含まれることが好ましい。
【0029】
また、ケイ素を1.2質量%以上含むため、オーステナイトの安定性を向上させることができる。但し、2.0質量%を超過して含まれる場合はシールの割れが発生し得るので、ケイ素は1.2〜2.0質量%で含まれることが好ましい。
【0030】
一方、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄は16〜18質量%のクロムを含むことによって、生成されるシールの組織はカーバイドの分布が均一になり、0.8〜1.5質量%のマンガンを含むことによって鋳造性が優れる。
【0031】
以下、実施形態を通じて本発明について具体的に説明するが、本発明が下記の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
表1は種々のシール製造用合金鋳鉄の組成を示し、表2は、表1の成分を有するシール組成物によりシールを遠心鋳造法により製作し、製作されたシールを図1に示すように、ローラに取り付けてスピニングテスト(Spinning test)を行った結果を示す。
【0033】
ここで、スピニングテストは100rpmから900rpmまで100rpm単位に一定に上昇させ、rpm上昇に伴うウィーピング(Weeping)及び漏油の程度をチェックした。
【0034】
テスト完了後、シールの接触面が剥がれるか否かを肉眼チェックし、肉眼チェックできない時には顕微鏡で観察した。
【0035】
以下、特別な言及がない限り単位は質量%である。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表2を参照すると、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄は、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%を含む場合、900rpmまでウィーピング(Weeping)及び漏油が発生しなかったし、シールの接触が剥がれの発生は認められなかった。
【0039】
したがって、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄は、製造工程が簡単な遠心鋳造法を適用できるので、シールの生産効率を向上させることができ、製造されたシールは耐久性に優れることが分かる。
【0040】
また、形成されたシールを高さ5mから落下試験した結果、割れが発生しなかった。これは、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄がニッケル(Ni)及びモリブデン(Mo)を含んでいるので、硬度の過度の増加が抑制された結果である。
【0041】
図3は本発明に係るシール製造用合金鋳鉄で製作されたシールの組織を示す写真であり、図4及び図5は従来のシールの組織を示す写真である。図6は、図3に示されたシールのX線回折結果を示す図である。
【0042】
前述したシール製造用合金鋳鉄で遠心鋳造法を使用して製作したシールは、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含む。また、その他の工程上の不回避な不純物を含むことができるが、不純物としては、コバルト(Co)、タングステン(W)、燐(P)、バナジウム(V)などが含まれる。
【0043】
図3〜図5を参照して説明すれば、図3は本発明に係るシール製造用合金鋳鉄を遠心鋳造法により製作したシールの組織写真であり、図4及び図5は従来の合金鋳鉄をシェルモールド鋳造法により製作したシールの組織写真であり、図3は図4及び図5と比較して、六角形状の初晶炭化物(A)の量がより多く、オーステナイト及びマルテンサイト(B)が少ないことが分かる。
【0044】
遠心鋳造法は、鋳造時に冷却速度が速くてカーバイドの生成が充分でないことがあるが、鋳造後、熱処理段階を経て2次炭化物(C)を生成するようになり、大部分はマルテンサイトと炭化物に変態する。
【0045】
即ち、遠心鋳造法により本発明のシール製造用合金鋳鉄で製作されたシールのミクロ組織は、オーステナイト10〜20%、マルテンサイト25〜35%、及び炭化物50〜60%を含む。これは、図6のX線回折結果からも分かる。
【0046】
これは図2で前述した通り、本発明によって製作されるシールは脆性のない区間での過共晶反応をするので、炭化物の量が多くなるためである。
【0047】
したがって、シールの組成が前述した範囲内である場合、シールを遠心鋳造法により生産できるので、生産性が向上し、生産されたシールは優れた耐摩耗性を有する。
【0048】
図7は、本発明の一実施形態に係るシール製造方法を示す図である。
【0049】
前述した通り、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄は遠心鋳造法を適用することができ、本発明に係るシール製造方法は、シール製造用合金鋳鉄を溶解させる溶解段階、溶解された合金鋳鉄を回転鋳型に注入する注入段階、製作されたシールを熱処理する熱処理段階、シールの表面を研磨する仕上段階、研削段階、及びラッピング段階を含む。
【0050】
図7を参照すると、まず、本発明に係るシール製造用合金鋳鉄を溶解させた溶湯510を回転鋳型520に注入する。回転鋳型520は銅で製作することができ、2つの鋳型枠を左右に結合できるように製作される。
【0051】
合金鋳鉄は、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含むことができる。
【0052】
回転鋳型520の下部にはスピンドル550が取り付けられており、スピンドル550はギア540などにより連結されたモーター530の駆動により300〜2000rpmで回転する。これによって、回転鋳型520に注入された溶湯510は、遠心力により回転鋳型520の内部に形成された、鋳造対象シールの形状に対応した内部の彫り込み鋳型560に圧搾凝固するようになり、緻密なシールを製作することができる。
【0053】
次に、製作されたシールを回転鋳型520から分離して熱処理を行う。回転鋳型520は銅などで製作されて熱伝導度が高いので、シールの冷却速度が速くなる。したがって、製作されたシールは充分な量の炭化物が生成しないが、熱処理段階を経て2次炭化物を生成するようになる。
【0054】
形成されたシールは、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含み、シールの微細組織はオーステナイト10〜20%、マルテンサイト25〜35%、及び炭化物50〜60%を含む。
【0055】
回転鋳型520から分離されたシールは表面が均一でなく、回転鋳型520の結合部位に凹凸が形成し得るので、表面粗度を均一にするためにシールの表面を研磨する研削段階及びラッピング段階を経てシールを製作できる。
【0056】
遠心鋳造法は、遠心力により偏肉のないシールを製作することができ、凝固収縮を妨害しないので、製造されるシールは鋳造応力が少なく、製造工程が簡単であるので、生産効率を上げることができる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について図示及び説明したが、本発明は前述した特定の実施形態に限定されず、特許請求の範囲で請求する本発明の要旨を逸脱することがなく、当該発明が属する技術分野で通常の知識を有する者により多様な変形実施が可能であることは勿論であり、このような変形実施は本発明の技術的事象や展望から個別的に理解されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含むことを特徴とするシール。
【請求項2】
前記シールのミクロ組織は、オーステナイト10〜20%、マルテンサイト25〜35%、及び炭化物50〜60%を含むことを特徴とする請求項1に記載のシール。
【請求項3】
シール製造用合金鋳鉄を溶解する溶解段階と、
前記溶解された合金鋳鉄を回転鋳型に注入する注入段階と、
前記回転鋳型の回転によりシールを形成する段階と、
前記シールを前記回転鋳型から分離し、前記シールを熱処理する熱処理段階と、
を含み、
前記合金鋳鉄が、炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄と溶解時に発生する不回避な不純物を含むことを特徴とするシール製造方法。
【請求項4】
熱処理された前記シールの表面粗度を均一にする研削段階及びラッピング段階を更に含むことを特徴とする請求項3に記載のシール製造方法。
【請求項5】
炭素3.8〜4.2質量%、ニッケル3.3〜4.7質量%、モリブデン2〜5質量%、ケイ素1.2〜2.0質量%、クロム16〜18質量%、マンガン0.8〜1.5質量%、及び残部の鉄を含むことを特徴とするシール製造用合金鋳鉄。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−520395(P2012−520395A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553948(P2011−553948)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国際出願番号】PCT/KR2010/001481
【国際公開番号】WO2010/104322
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511220773)
【Fターム(参考)】