説明

ジアリールカーボネートを製造するためのプロセス

一連の固定層反応器の中でフェノールをジエチルカーボネートと反応させてジフェニルカーボネートを製造するが、それら反応器のそれぞれが、サイド抜き出しおよび戻しストリームを介して、蒸留塔の異なった位置に接続されている。蒸留塔の中で、塔の長さ方向で物質の組成が変化していくが、これは温度と圧力の条件の組合せが判れば予測することが可能であるので、塔内の異なった段でストリームを抜き出すことによって、所定の段からのフィードを受け取る反応器を、所望の反応を最大化させる条件下で運転することが可能となり、その一方で、未反応物または副生物を蒸留に戻し、それらが反応器の中で(蒸留の平衡によって)好適に処理される段に送ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリールカーボネート、たとえばジフェニルカーボネートを製造するためのプロセスに関する。さらに詳しくは、本発明は、一連の固定層反応器が単一の蒸留塔の異なった分離段からフィードを抜き出し、その反応生成物を塔に送り返す、ジアリールカーボネートを製造するためのプロセスに関する。それらの反応器は、ジアリールカーボネートの製造を最適化できるように、蒸留塔の条件とは異なった条件で運転してよい。
【背景技術】
【0002】
ジフェニルカーボネートは、ポリカーボネートを製造するための重要な中間体である。現在の商業的な実施においては、ジフェニルカーボネートをアルコールとのエステル交換反応によって製造し、次いでジメチルカーボネート(DMC)およびフェノールを使用して不均化反応を行わせている。そのようなプロセスは、米国特許第5,210,268号明細書、米国特許第6,197,918号明細書、および米国特許第6,262,210号明細書に開示されている。その典型的な反応は次式で表される。
【0003】
【化1】

【0004】
未転化のジメチルカーボネートは、共生成物のメタノールとの混合物として回収される。ジメチルカーボネートをその混合物から分離し、リサイクルさせる。しかしながら、ジメチルカーボネートとメタノールでは共沸混合物を形成する。したがって、その混合物中のジメチルカーボネートを回収するには、共沸関係を破ることが含まれ、それにはエネルギーもコストもかかる。
【0005】
従来は、アルキルフェニルカーボネートへ、およびそれに続くジフェニルカーボネートへの高い転化率を達成するには、反応を2工程で実施することにより達成されていたが、その工程のそれぞれにおいて、その反応混合物から低沸成分を連続的に除去することが含まれている。第一工程においては、アルキルアルコールが低沸成分であり、第二工程ではジアルキルカーボネートが低沸成分である。このことは通常、ある種のタイプの反応蒸留によって達成されてきたが、その場合、触媒の存在下の反応を実施すると同時に、成分蒸留によって成分の分離を行っている。そのようなプロセスは、蒸留系の気液平衡によって決まってくる温度範囲における反応速度が充分である場合には、効率的となる可能性はある。圧力と環流比を調節して、反応ゾーンの温度プロファイルを整えたりおよび/または反応体積を増やしたりすることができるが、そのような変更をしようとするとプロセスのコストが上昇する可能性がある。
【0006】
米国特許第6,093,842号明細書では、反応蒸留と、ジアルキルカーボネートまたはアルキルアルコールとは共沸混合物を形成しないような共留剤とを使用することによって、この問題に対処している。その特許所有権者は次のように述べている。「本発明の方法において出発物質として使用されるジアルキルカーボネートは、理論上、いかなるジアルキルカーボネートであってもよいが、実際面では、小さなアルキル基を有するジアルキルカーボネート、たとえばジメチルカーボネートを使用するのが好ましいと考えられる」。しかしながら、メタノールは共沸混合物の難問の原因物質であり、その解決法は、単に共沸関係を破る方法を変化させているに過ぎない。さらに、第一の場所においてジメチルカーボネートを製造するということには、同一の問題、すなわち、製品ストリームから製品のジメチルカーボネートを分離するために共沸関係を破ることが含まれている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,210,268号明細書
【特許文献2】米国特許第6,197,918号明細書
【特許文献3】米国特許第6,262,210号明細書
【特許文献4】米国特許第6,093,842号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、エステル交換反応プロセスにおける共沸混合物の形成を回避する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
簡潔に述べれば、本発明は、一連の固定層反応器の中で芳香族ヒドロキシ化合物をジアルキルカーボネートと反応させることによって、ジアリールカーボネートを調製するためのプロセスであって、それらの反応器のそれぞれが、蒸留塔の異なった位置にサイド抜き出し(side−draw)および戻りストリームによって接続されており、それには以下の工程が含まれる。芳香族ヒドロキシおよびジアルキルカーボネートを、複数の段を有する蒸留ゾーンにフィードする工程、芳香族ヒドロキシおよびジアルキルカーボネートを含む液体を、第一の段から第一の反応ゾーンへと抜き出し、その液体をエステル交換反応に都合のよい条件下でエステル交換反応触媒と接触させる工程、反応生成物をその第一の反応ゾーンから蒸留ゾーンへ戻す工程、アリールアルキルカーボネートを含む液体を、第二の段から第二の反応ゾーンへと抜き出し、その液体を不均化反応に都合のよい条件下で不均化反応触媒と接触させる工程、反応生成物をその第二の反応ゾーンから蒸留ゾーンへ戻す工程、および塔底物としてジアリールカーボネートを、塔頂物としてアルキルアルコールを分離する工程である。それらの反応器は一般に、蒸留塔の中に存在している温度および圧力とは異なった条件で運転するので、反応器から蒸留への循環ループの中にはポンプおよび熱交換器を存在させてもよい。その蒸留塔は、一連の反応器の最後のものよりも上に、そして一連の反応器の最初のものよりも下に、分離段を有している。化学量論的に過剰なフェノールとジアルキルカーボネートとを、最も上の蒸留塔サイド抜き出しストリームに配管された反応器の入口サイドにフィードする。充分な反応段と分離段とを備えておいて、ジアルキルカーボネートの実質的に100%の転化率が得られて、実質的には生成したアルコールが留出生成物として、そして実質的にはジフェニルカーボネートが過剰のフェノールと共に塔底生成物として得られるようにする。サイド抜き出し反応器の中で使用される触媒は、エステル交換反応と不均化反応との両方に適したものであるのが好ましい。したがって、抜き出しストリームは蒸留塔に沿って取り出されるので、塔の低い部分で抜き出されるストリームには不均化反応にとって都合のよい組成物が変化しながら含まれ、それに対して、蒸留塔の上側部分におけるサイド抜き出しストリームの組成物は、エステル交換反応にとって都合のよいものである。それに対応して、塔に沿って反応ゾーンが、塔の下へ行く程ジフェニルカーボネートの割合が増えていくので、徐々にエステル交換反応から不均化反応へと変化していく。
【0010】
蒸留塔の中で、塔の長さ方向で物質の組成が変化していき、これは、温度と圧力の条件の組合せが判れば、予測することが可能であるので、塔内の異なった段でストリームを抜き出すことによって、所定の段からのフィードを受け取る反応器を、所望の反応を最大化させる条件下で運転することが可能となり、その一方で、未反応フィード、中間生成物または副生物を蒸留に戻し、それらが反応器の中で(蒸留の平衡によって)好適に処理される段に送ることが可能となる。
【0011】
好適な固相触媒は、表面ヒドロキシル基を有する多孔質物質たとえば、シリカの上に担持された、周期律表の第IV族、第V族、および第VI族からの、2〜4種の異なった元素、好ましくはTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、V、Bi、およびSiからなる混合酸化物触媒である。第IV族および第V族の金属アルコキシド、たとえばチタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、バナジウムアルコキシド、ニオブアルコキシド、VO(OR)もしくはオキソアルコキシドのオリゴマーなどの、担持された金属アルコキシドもしくは混合金属アルコキシド触媒が、好適な触媒群を構成する。本発明のプロセスにおいて使用されるエステル交換反応触媒および不均化反応触媒は、同一であっても、異なっていてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ジフェニルカーボネートは、2段の工程反応で製造されるが、そこでは最初に、エステル交換反応触媒の存在下にフェノールをジエチルカーボネートと反応させて、エチルフェニルカーボネートとエタノールとを製造する(1)。これに続けて、第二の工程である不均化反応をさせるが、そこでは、エチルフェニルカーボネートを転化させて、ジフェニルカーボネートとジエチルカーボネートにする(2)。正味の反応生成物は、ジフェニルカーボネートとエタノールである。
【0013】
【化2】

【0014】
典型的には、第一の反応についての平衡定数が実質的に1より小さいのに対して、第二の反応についてのそれは1よりはいくぶんか大きい。第一の工程は、フェノールとジエチルカーボネートと当モル量で実施するか、またはいずれかを過剰にして実施することができる。いずれの場合においても、エチルフェニルカーボネートとジフェニルカーボネートの転化率は、平衡状態では、製品回収の観点からは実用にならないくらい低い。
【0015】
本発明によって製造される有機カーボネートの例としては、DPC(ジフェニルカーボネート)、EPC(エチルフェニルカーボネート)、MPC(メチルフェニルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート)、ビス(2−エチルヘキシル)カーボネート、および脂肪酸モノ−グリセリドカーボネートなどがある。本発明は、DECおよびフェノールからジフェニルカーボネート(DPC)を製造する場合に特に有用である。DECは、DPCを製造するためには好ましいジアルキルカーボネートではあるが、このプロセスは、DMCまたは各種その他のアルキルカーボネートもしくはアルキルアリールカーボネートを使用することによりDPCを製造するのにも有用であることは、理解されたい。
【0016】
好ましい実施態様においては、このジアリールカーボネートを製造するためのプロセスには、(a)上端、下端および前記蒸留ゾーンに沿って配列された複数の蒸留段を有する蒸留ゾーン;(b)前記蒸留ゾーンに沿って配列され、異なった蒸留段と関連を有する複数の反応ゾーン;(c)前記蒸留ゾーンに、ジアルキルカーボネートおよび芳香族ヒドロキシ化合物を供給する工程;(d)第一の蒸留段からのジアルキルカーボネートおよび芳香族ヒドロキシ化合物を含むストリームを、第一の反応ゾーンへ抜き出す工程;(e)前記第一の反応ゾーンを、ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物とのエステル交換反応をさせるのに都合のよい反応条件下に維持して、アルキルアリールカーボネートを製造する工程;(f)触媒の存在下にジアルキルカーボネートを芳香族ヒドロキシ化合物とエスエル交換反応させて、アルキルアリールカーボネートを形成させる工程;(g)前記第一の反応ゾーンからの反応生成物ストリームを、前記蒸留ゾーンへ戻す工程;(h)第二の蒸留段からのアルキルアリールカーボネートおよび芳香族ヒドロキシ化合物を含むストリームを、第二の反応ゾーンへ抜き出す工程;(i)アルキルアリールカーボネートからジアルキルカーボネートへの不均化反応をさせるのに都合のよい反応条件下に第二の反応ゾーンを維持する工程;(j)触媒の存在下にアルキルアリールカーボネートを不均化させて、ジアリールカーボネートを製造する工程;(k)前記第二の反応ゾーンからの反応生成物ストリームを、前記蒸留ゾーンへ戻す工程;(l)その蒸留ゾーンから蒸気のアルキルアルコールと液体のジアリールカーボネートを除去する工程が含まれる。
【0017】
反応器の中の触媒は均一系であっても不均一系であってもよいが、均一系触媒は、反応生成物から分離をするのが困難であり、また回収、リサイクル、および添加補充が必要であって、そのためにプロセスに分離サイクル系を追加することになる。不均一系触媒が好ましい。エステル交換反応および不均化反応の触媒作用をすることが可能な、適切な固相のそれらの反応触媒は公知であって、たとえば、シリカのような多孔質担体上に担持された金属アルコキシド触媒が挙げられる。
【0018】
好適な不均一系触媒は、多孔質担体の上に析出させた、第IV族、第V族、および第VI族の元素の担持された混合酸化物、ヒドロキシド、オキシヒドロキシド、およびアルコキシドである。混合酸化物触媒は、Mo、Nb、Ti、V、Zr、Bi、およびSiから選択される2種、3種または4種の元素の組合せであってよい。それらの元素は、多孔質担体たとえばシリカ、ジルコニア、およびチタニアの上に、酸化物またはヒドロキシドまたはオキシヒドロキシドの形態で析出させる。担体は、約1〜約5mmのサイズの、ペレット、粒状物、押出し物、球状物などとすることができる。析出は、一段工程または多段工程で実施することができる。混合酸化物触媒の例としては、Nb−TiO、V−TiO、MoO−TiO、TiO−ZrO、Nb−V、MoO−V、MoO−ZrO、TiO−ZrO−SiO、TiO−Nb−SiO、MoO−Nb−TiO、V−Nb−TiO、MoO−Nb−SiO、TiO−Bi−SiO、MoO−NbO−ZrO、TiO−Nb−Bi、MoO−VOs−TiO、TiO−Bi−SiO、MoO−Bi−SiO、TiO−ZrO−Bi−SiO、およびTiO−ZrO−Nb−Bi−SiOが挙げられる。
【0019】
それらの混合酸化物触媒を調製するための一般的手順は、含浸法および共沈殿法、またはそれら2種の方法の組合せであり、それを一段工程または多段工程で実施する。一つの多孔質担体の上、あるいは共沈殿法による混合酸化物担体の上に、1種、2種または3種の金属成分の含浸を実施してもよい。含浸法は、一段工程または多段工程で実施することができる。
【0020】
粉体の形態で得られた共沈殿法生成物および含浸法生成物は、約150℃〜約600℃の温度での適切な加熱処理にかける。その粉体状物質を、固定層反応器のための約1〜5mmの適切なサイズに成形する。その成形した物質を、空気中で200℃〜約750℃、好ましくは約250℃〜約600℃の温度で焼成する。場合によっては1種または2種の金属成分を、共沈殿法または含浸法により粉体の形状または成形された形状で調製された成形物質の上に析出させることも可能であり、次いでそれを空気中200℃〜約750℃、好ましくは約250℃〜約600℃で焼成させる。共沈殿法および含浸法は、水相中または有機相たとえば、炭化水素、エーテル、ケトン、アルコールおよびそれらの混合物の中で実施することができる。
【0021】
沈殿法を有機相中で実施する場合には、有機金属化合物を使用するのが好ましい。たとえば、異なった有機金属化合物の2種の異なった溶液を適切な有機溶媒に、適切な温度で、沈殿条件下で激しく撹拌しながら同時に添加する。場合によっては、その添加中またはその後に、第三の溶液を添加してゲル化または沈殿を起こさせることが必要となる。第三の溶液の例としては、水、適切な有機溶媒たとえば、アルコール、エーテル、ケトン、有機エステル、またはそれらの混合物中の塩基性または酸性水溶液が挙げられる。また別な任意の方法は、第一の有機金属溶液と第三の溶液を同時に、激しく撹拌しながら第二の有機金属溶液に添加する。必要であれば、その沈殿物を、適切な媒体中、適切な温度約25℃〜約200℃で30分間〜約30時間エージングさせる。場合によっては、水性媒体中での共沈殿生成物を、中性、弱酸性もしくは塩基性有機媒体の中でエージングさせる。
【0022】
そのエージング媒体は、エージングさせる物質の性質に依存して、微量の水を含んでいてもよいし、あるいは含んでいなくてもよい。エージング媒体は、弱酸性、弱塩基性、中性のいずれであってもよい。エージングさせた生成物を、約100℃〜約400℃の温度で乾燥させ、次いで約250℃〜約750℃の温度で焼成させる。必要があれば、適切な担体の上への1種または2種の元素の含浸を、1種もしくは2種の有機金属化合物を含む有機溶液または1種もしくは2種の化合物を含む水性溶液を使用することにより実施する。場合によっては、異なった溶液を用いた多段含浸法を実施することもできる。
【0023】
しかしながら、先行技術において開示されている各種の不均一系触媒を使用することを選択してもよいが、ただし、その触媒は大型のコマーシャルベースの反応器を運転するための固定層反応器に適したものでなければならない。先行技術において開示されている不均一系触媒の例は、本明細書に記載されているような、適切かつ好適に担持されている、酸化チタン、TS−1、Ti−MCM−41、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化鉛、およびMgLa混合酸化物である。
【0024】
担体が表面ヒドロキシル基を有しているべきであるということは重要である。シリカが好適な担体である。「処理担体」または「処理シリカ」という用語は、本明細書に記載された触媒を調製するために、所定の表面積あたりに、最適な表面ヒドロキシル基密度を有している担体を意味していると理解されたい。シリカの調製方法に依存して、シリカが、所定の表面積あたりに充分な量の表面ヒドロキシル基を有していない可能性もある。そのようなシリカの場合、そのシリカを処理して、塩基性水溶液を用いて余分の表面ヒドロキシル基を導入し、次いで水を用いて完全に洗浄し、それに続けて、280℃〜650℃の温度で焼成してから使用する。場合によっては、市販されているシリカ担体を再水和させることを試みてもよい。その再水和したシリカを280℃〜650℃の温度で焼成して、表面ヒドロキシル基の集団密度を最適化してから使用する。したがって、固相触媒の調製に使用するのに好適なシリカ担体が「処理シリカ」である。好適なタイプの担体、特にシリカ担体とは、担体の物理的な完全性および強度を損なうことなく、最大限度の数のヒドロキシル基を得るために、上述のようにして塩基性溶液を用いた処理により増加させた表面ヒドロキシル基を有しているものである。シリカ担体上のナトリウム含量を調節することは、EPCおよびDPCのような芳香族カーボネートを調製するには極めて重要なことであるが、その理由は、シリカの上にアルカリ金属酸化物のような塩基性不純物が存在すると、望ましくない副反応を起こし、さらに触媒を不安定化させる傾向があるからである。シリカ担体の上のアルカリ金属は、触媒性能の不安定化、ならびにアルキルアリールカーボネートおよびジアリールカーボネートを製造するエステル交換反応および不均化反応に望ましくない副反応をもたらす原因となる。好適な「処理シリカ」担体は、約0.05重量%未満のNa、好ましくは約0.03重量%未満のNaを有するものであろう。アルカリ金属水溶液を用いてシリカを処理することは、細孔を広げるというさらなる利点を有している。しかしながら、アルカリ金属溶液を用いた処理の際に、シリカ担体からあまりにも多くのシリカを浸出させると、物理的な完全性および強度の維持の面で問題を生じる可能性がある。
【0025】
その他の適切な触媒は、担持された金属アルコキシドまたは混合金属アルコキシド触媒であるが、これらは、酸素橋かけ結合を介して多孔質担持物質に対して金属アルコキシドを結合させることによって調製される。それらの多孔質担持物質は、表面ヒドロキシル基を有していなければならず、それがアルコキシ基と反応して、酸素橋かけ結合を形成させる。好適な担体は処理シリカであって、それらは、約0.05重量%未満のNa、好ましくは約0.03重量%未満のNaを有する。シリカ担体上での表面ヒドロキシル基の密度を最適化することが、安定で、強力に固着された金属アルコキシド活性サイトを作らせるためには極めて重要であるが、その理由は、活性な金属原子をシリカの表面にM−O−Si橋かけ結合を介して結合させる高温焼成が含まれていないからである。M−O−Si橋かけ結合の数を最大化させることが極めて望ましい。
【0026】
したがって、所定の面積あたりのヒドロキシル基の最適化密度には、上述のように、アルカリ金属含量と担体強度の制約の範囲内で、所定の面積あたりに得ることが可能なヒドロキシ基の最大数が含まれる。
【0027】
好適な金属アルコキシドは、第IV族および第V族の金属アルコキシド、たとえばチタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、バナジウムアルコキシド、ニオブアルコキシドなどである。第V族の金属アルコキシドには、低原子価アルコキシドたとえばテトラ−アルコキシド、およびオキシトリアルコキシドたとえばVO(OR)、またはオキソアルコキシドのオリゴマーが含まれる。好適な担体の例は、シリカ、ジルコニア、チタニア、チタニア−シリカ、シリカ−アルミナ、およびシリカ−ジルコニアである。担持された金属アルコキシド触媒を調製する場合、処理シリカを使用することが特に重要である。担体上のアルコキシド触媒は、1種または2種の他の金属アルコキシドを含むこともできる。
【0028】
不均一系金属アルコキシド触媒は、金属アルコキシド溶液または2種の異なった金属アルコキシドの混合溶液を、担体たとえばシリカと、約20゜F〜約400゜F、好ましくは約40゜F〜約300゜Fの温度で接触させることにより調製される。アルコキシド溶液は、1種または2種の異なった金属アルコキシドを溶媒の中に溶解させることによって、調製する。その溶媒は、いかなる点においても、酸素橋かけ形成反応を妨害するようなことがあってはならない。そのような溶媒の例としては、炭化水素、エーテル、ケトン、アルコール、およびそれらの混合物などが挙げられる。2種の異なった金属アルコキシドを担体の上に担持させる場合、場合によっては、2種の別々の金属アルコキシド溶液を調製して、それを担体と順に反応させる。
【0029】
M(OR)+xOH(担体表面上)=>(RO)n−x(O−)(触媒上)+xROH
ここで、n=4または5、x=1、2、3または4、そしてR=アルキルまたはアリール基である。
【0030】
担持されたチタンアルコキシドは酸性触媒である。均一系触媒におけるチタンアルコキシドに比較して、シリカ上に担持されたチタンアルコキシド触媒の方が活性が高いのは、担持されたTi+4の酸性がより高いためである。触媒の酸性は、芳香族カーボネートを製造する場合の酸触媒によるエステル交換反応および不均化反応では重要な役割を果たしている。
【0031】
任意の方法として、担持された金属アルコキシド触媒をインサイチューで調製することも可能である。反応器に処理担体を仕込む。室温〜約400゜Fの温度で、反応器を通して金属アルコキシド溶液を循環させる。担持された金属アルコキシド触媒が形成されたら、残っている溶媒をすべて反応器から抜き出す。適切な溶媒たとえばエタノール、ペンタン、またはトルエンを用いて反応器を洗浄し、場合によっては不活性ガスたとえば窒素の流れの中で、約80゜F〜約400゜F、好ましくは約100゜F〜約350゜Fの温度で触媒を加熱処理すれば、それらの触媒はそのままエステル交換反応および不均化反応に使用できる。担持された金属または混合金属アルコキシド触媒を調製するためには、「処理担体」を使用することがとりわけ重要である。処理担体の一例が、上述の処理シリカである。「処理担体」または「処理シリカ」という用語は、本明細書に記載された触媒を調製するために、所定の表面積あたりに、最適な表面ヒドロキシル基密度を有している担体を意味していると理解されたい。
【0032】
本明細書記載の本発明は、反応での要件を蒸留での要件から分離させることによって、先にのべた問題点を克服し、しかも反応−蒸留システムで達成することが可能である高い転化率という有利な態様は維持している。本発明の実施態様を添付の図面に示すが、これはこのプロセスの流れ図を単純化したものである。反応は、ポンプ、熱交換器、ならびに入口および出口配管を介して多段蒸留塔の各種の段に接続された一連の固定層反応器の中で実施される。図示した実施態様においては、6基の反応器20、30、40、50、60および70が、リボイラー80(段28)およびパーシャルコンデンサー90(段1)を含めて、28分離段を有する蒸留塔10に接続されている。反応器はすべて、前述の触媒の層を含んでいて、配管105〜116を介して段11〜16に接続されているが、それらの配管によって、それぞれの段の上の液体をそれぞれの反応器の中へ循環させることが可能となっている。反応動力学的な要件(温度、圧力、および重量時間空間速度)によって決められる反応器の運転条件は、熱交換器およびポンプ(図示せず)によって独立して調節される。それらを調節することによって、蒸留塔の中での温度および圧力とはまったく異なった温度および圧力条件が可能となる。抜き出しストリーム速度はどのような値にすることも可能ではあるが、蒸留塔の内部流速に見合うようにするのが好ましい。
【0033】
蒸留塔10の設計条件および運転条件(抜き出し段の上下のステージング、環流比、圧力)は、その反応系の分離要件によって決まってくる。この実施態様態様においては、抜き出し段の上下に10段が設けられており、コンデンサー系(コンデンサー90およびレシーバー100)は部分気液(partial vapor−liquid)であって、コンデンサー圧力は大気圧未満(約8psia)であり、そしてフローライン134を通しての環流比は約7(全液量はフローライン132から抜き出される)である。エタノールは、フローライン133を介して抜き出されるが、蒸気出口135を介して真空を維持している。
【0034】
フローライン101中のフィードフェノール、フローライン102中のリサイクルフェノール、およびフローライン103中のフィードジエチルカーボネートを合わせてフローライン104として、塔10の第一の抜き出し段にフィードする。下記の表1に示した物質収支から判るように、フェノール/ジエチルカーボネートのフレッシュのフィード比は、反応化学量論から必要とされる、約2:1であるが、それに対して、リサイクル+フレッシュフィードストリームは、約4:1のフェノール/ジエチルカーボネート比を有している。反応器へのフィードストリームの中に過剰のフェノールが存在していることが、触媒性能と反応の選択性の両方に影響する重要なパラメーターである。
【0035】
ストリーム105、111、107、113、109、および115は、それぞれ段11、12、13、14、および15からの塔抜き出しストリームであり、それに対して106、112、108、114、110、および116はそれぞれ、戻りストリームである。表の中でストリームのそれぞれについて列記した条件は、それぞれの反応器の入口(対応する熱交換器およびポンプの後)および出口におけるものであるが、それらの段の温度は、239゜F、255゜F、283゜F、309゜F、322゜F、および327゜Fである。すべての反応器の出口温度は、フィードを熱交換器(図示せず)を介して165psiスチームを適当量用いて加熱することにより330゜Fに保持する。ポンプ(これもまた図示せず)の吐出圧力は、触媒層を通過するときの圧力低下および流体のヘッドに打ち勝つのに充分なものである。
【0036】
反応器および塔が上記の運転条件であった場合、フローライン133中の塔頂液体生成物は、約98モル%エタノールおよび2モル%ジエチルカーボネート(DEC)であるが、それに対して、フローライン119中の塔底生成物には、約35モル%ジフェニルカーボネート(DPC)、63モル%フェノール、および2モル%エチルフェニルカーボネート(EPC)が含まれている。小量のジエチルエーテル、CO、フェネトールおよびジフェニルエーテル(DPE)もまた生成する。塔底物の一部を、フローライン118および120を介してリボイラー(80)を通過させて循環させる。
【0037】
ジフェニルカーボネートは、別途の回収、精製系列で回収されるが、このことは当業者の知識の範囲内である。一般的には、上述のように、製品から分離されたフェノールを蒸留塔にリサイクルして戻す。
【0038】
それぞれの反応器へのフィードは、その反応器への抜き出しが行われる蒸留塔の中の段における物質の構成によって決まるが、抜き出す位置によって、その反応器がエステル交換反応のためなのかあるいは不均化反応のためなのかが決まってくる。蒸留塔の上側部分に関連する反応器はエステル交換反応に適したフィードを有しており、塔の下側部分に関連するものは、不均化反応に適したものである。条件を選択して、いくつかの、一般的には蒸留ゾーンの上端に近い反応ゾーンにおいてはエステル交換反応が、そして他の、一般的には蒸留ゾーンの下端に近い反応ゾーンにおいては不均化反応が最大限に起きるようにする。エステル交換反応は120℃〜250℃で、不均化反応は120℃〜250℃で、反応混合物を液相に保つのに充分な圧力で、そして本明細書に記載された触媒を使用したエステル交換反応では少なくとも50psiの圧力で実施するのがよい。蒸留塔は、製品のジアリールカーボネートを反応混合物から分離できるような温度および圧力条件下に運転する。実際の温度は、反応剤に依存する。たとえば、ジメチルカーボネート/フェノール系における蒸留プロファイルは、ジエチルカーボネート/フェノール系の場合のそれとは同じにはならない。
【0039】
本発明の場合の、反応器において使用するのに適した触媒は、処理シリカ上に担持された混合ニオブ/酸化チタン触媒である。226gの水中に8.059のNaOHを溶解させて調製した水酸化ナトリウム溶液を用いて、粒状のシリカ(40.56g)を撹拌しながら室温で7分間処理する。その処理をされたシリカを、冷水および次いで熱水(約65℃)を用いて数回、完全に洗浄して、シリカ上の痕跡量のナトリウムを除去する。その処理シリカを、150℃で2時間かけて乾燥し、次いで325℃で2時間かけて焼成する。この焼成シリカには重量で300ppmのNaが含まれている。80mLのトルエン中に0.844gのNb(OC9−nを溶解させて、ニオブアルコキシド溶液を調製した。水冷コンデンサーを取り付けたフラスコの中、上述のニオブブトキシドの溶液中で8.46gの処理シリカを3時間、環流加熱する。冷却してから、フラスコ内の過剰の溶液をフラスコ外へ抜き出す。0.645gの水を90mLのメタノールと混合することにより、水−メタノール混合物を調製する。この水−メタノール混合物をフラスコの中に注ぎ込み、そのフラスコの内容物を再度環流加熱する。1時間環流させてから、フラスコ内の過剰の溶液を抜き出す。3.67gのチタンブトキシドを80mLのトルエン中に溶解させて調製したチタンテトラブトキシド溶液をそのフラスコの中に注ぎ込み、次いで、そのフラスコの内容物を1時間45分環流加熱する。フラスコ内の過剰のトルエンを、蒸留によりフラスコから除去する。フラスコ内の物質をフラスコから回収し、真空中120℃で1時間かけて乾燥させる。その乾燥シリカを、500℃で2時間かけて焼成する。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の好ましい実施態様を単純化した流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリールカーボネートを製造するためのプロセスであって、
芳香族ヒドロキシおよびジアルキルカーボネートを、複数の段を有する蒸留ゾーンにフィードする工程、
芳香族ヒドロキシおよびジアルキルカーボネートを含む液体を、第一の蒸留段から第一の反応ゾーンへと抜き出し、前記液体をエステル交換反応に都合のよい条件下でエステル交換反応触媒と接触させる工程、
反応生成物を前記その第一の反応ゾーンから蒸留ゾーンへ戻す工程、
前記第一の蒸留段より下に位置する第二の蒸留段から第二の反応ゾーンへアリールアルキルカーボネートを含む液体を抜き出し、前記液体を不均化反応に都合のよい条件下で不均化反応触媒と接触させる工程、
反応生成物を前記第二の反応ゾーンから蒸留ゾーンへ戻す工程、および
塔底物としてジアリールカーボネートを、塔頂物としてアルキルアルコールを分離する工程、を含むプロセス。
【請求項2】
前記それぞれの反応ゾーンが、前記蒸留ゾーンとは独立した条件で運転される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記蒸留ゾーンが、そこから前記液体を抜き出した蒸留段の上および下に位置する分離ゾーンを含み、前記芳香族ヒドロキシおよびジアルキルカーボネートが、そこから液体を抜き出す、最上の蒸留段へフィードされる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記芳香族ヒドロキシが、フェノールおよび前記ジアルキルカーボネートがジエチルカーボネートである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記フィード中のフェノール対ジエチルカーボネートの比が、約2:1であり、全体のフェノール対ジエチルカーボネートの比が約4:1である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
ジアリールカーボネートを製造するためのプロセスであって、
(a)上端、下端および前記蒸留ゾーンに沿って配列された複数の蒸留段を有する蒸留ゾーン;
(b)前記蒸留ゾーンに沿って配列され、異なった蒸留段と関連を有する複数の反応ゾーン;
(c)前記蒸留ゾーンに、ジアルキルカーボネートおよび芳香族ヒドロキシ化合物を供給する工程;
(d)第一の蒸留段からのジアルキルカーボネートおよび芳香族ヒドロキシ化合物を含むストリームを、第一の反応ゾーンへ抜き出す工程;
(e)前記第一の反応ゾーンを、ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物とのエステル交換反応をさせるのに都合のよい反応条件下に維持して、アルキルアリールカーボネートを製造する工程;
(f)触媒の存在下にジアルキルカーボネートを芳香族ヒドロキシ化合物とエスエル交換反応させて、アルキルアリールカーボネートを形成させる工程;
(g)前記第一の反応ゾーンからの反応生成物ストリームを、前記蒸留ゾーンへ戻す工程;
(h)第二の蒸留段からのアルキルアリールカーボネートおよび芳香族ヒドロキシ化合物を含むストリームを、第二の反応ゾーンへ抜き出す工程;
(i)アルキルアリールカーボネートからジアルキルカーボネートへの不均化反応をさせるのに都合のよい反応条件下に第二の反応ゾーンを維持する工程;
(j)触媒の存在下に前記アルキルアリールカーボネートを不均化させて、ジアリールカーボネートを製造する工程;
(k)前記第二の反応ゾーンからの反応生成物ストリームを、前記蒸留ゾーンへ戻す工程;
(l)前記蒸留ゾーンから蒸気のアルキルアルコールと液体のジアリールカーボネートを除去する工程、を含むプロセス。
【請求項7】
前記蒸留ゾーンの上端と下端との間に、連続的な蒸留段、および前記蒸留段に関連する連続の反応ゾーンが含まれる、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
複数の第一の反応ゾーンおよび複数の第二の反応ゾーンを含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ジアルキルカーボネートがジエチルカーボネートを含み、芳香族ヒドロキシ化合物がフェノールを含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項10】
前記エステル交換反応触媒が、表面ヒドロキシル基を有する多孔質物質の上に担持された、周期律表の第IV族、第V族、および第VI族からの2種〜4種の元素の酸化物、ヒドロキシド、オキシヒドロキシドまたはアルコキシドからなる群より選択される固相触媒組成物である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項11】
前記不均化反応触媒が、表面ヒドロキシル基を有する多孔質物質の上に担持された、周期律表の第IV族、第V族、および第VI族からの2種〜4種の元素の酸化物、ヒドロキシド、オキシヒドロキシドまたはアルコキシドからなる群より選択される固相触媒組成物である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項12】
前記第一の反応ゾーンが、前記反応ゾーンの上端近くにある、請求項6に記載のプロセス。
【請求項13】
前記第二の反応ゾーンが、前記反応ゾーンの下端近くにある、請求項6に記載のプロセス。

【図1】
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【公表番号】特表2009−516682(P2009−516682A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541158(P2008−541158)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/033882
【国際公開番号】WO2007/061480
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(599003073)キャタリティック・ディスティレイション・テクノロジーズ (28)
【Fターム(参考)】