説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】発熱量の増加を抑えつつ、高弾性率、耐熱老化性、耐チップ・カット性にすぐれた成形品を与えうるジエン系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】(a)ジエン系ゴム100重量部に対して、(b)モノメタクリル酸亜鉛3〜8重量部、(c)カーボンブラック30重量部以上、(d)シリカ2〜30重量部および(e)変性ガムロジン、パラオクチルフェノール樹脂、1,3-ペンタジエン樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂の少なくとも一種0.5〜5重量部を配合してなり、カーボンブラックとシリカの合計配合量が40〜60重量部であるジエン系ゴム組成物。かかるジエン系ゴム組成物は、タイヤのキャップトレッドおよびベーストレッドの少なくとも一方の形成材料として有効に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、耐チップ・カット性にすぐれた空気入りタイヤトレッド部を形成し得るジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非舗装道路、例えば岩石が露出するような悪路走行向けトラックバスラジアルタイヤ(TBR)については、トレッド部やサイドウォール部にカットを受けることが多く、車両の駆動および制動によりゴムの細片が多数欠け落ちるといったチッピングといった現象が発生しやすい。従って、TBRのトレッド部については、耐チップ・カット性にすぐれた成形物を与えるゴム組成物が必要とされる。
【0003】
一般に、トレッド部の強度および伸びを改善することによりゴム組成物の耐カット性向上を図ることを可能とするため、カーボンブラックを高充填する方法が考えられるが、これにより耐カット性は向上するものの、悪路走行時に耐カット性とともに必要とされる耐チッピング性および発熱性が著しく劣るといった問題がある。
【0004】
かかる要求に対して、ゴム組成物中に特定の炭化水素樹脂を配合することにより、成形品の耐カット性および耐チップ性を改善せしめることを可能とするゴム組成物が提案されている。しかるに、発熱量の増加を抑えつつ耐チップカット性を十分に改善させるものではない。
【特許文献1】特開昭62−184039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、発熱量の増加を抑えつつ、高弾性率、耐熱老化性、耐チップ・カット性にすぐれた成形品を与えうるジエン系ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、(a)ジエン系ゴム100重量部に対して、(b)モノメタクリル酸亜鉛3〜8重量部、(c)カーボンブラック30重量部以上、(d)シリカ2〜30重量部および(e)変性ガムロジン、パラオクチルフェノール樹脂、1,3-ペンタジエン樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂の少なくとも一種0.5〜5重量部を配合してなり、カーボンブラックとシリカの合計配合量が40〜60重量部であるジエン系ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るジエン系ゴム組成物より得られる成形品は、発熱量の増加が抑えられ、かつ高弾性率、耐熱老化性、耐チップ・カット性にすぐれるといったすぐれた効果を奏する。
【0008】
かかる特性を有する本発明のジエン系ゴム組成物は、空気入りタイヤ、特にトラックバスラジアルタイヤのキャップトレッドおよびベーストレッドの少なくとも一方の形成に有効に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(a)成分のジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が単独であるいはブレンドゴムとして用いられ、好ましくはNR、IRまたはそれらのブレンドゴムが用いられる。SBRとしては、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)のいずれをも用いることができる。
【0010】
(b)成分のモノメタクリル酸亜鉛は、メタクリル酸が亜鉛に対して配位結合しているものと考えられ、〔CH(CH3)=CHCOO〕2Znで表わされるジメタクリル酸亜鉛とは区別される。実際には、モノメタクリル酸亜鉛として市販されているサートマー社製品SR709等をそのまま用いることができる。また、モノメタクリル酸亜鉛の合成例としては、塩基過剰でメタクリル酸と酸化亜鉛とを反応させて得られた、例えば60重量%のモノメタクリル酸亜鉛と30重量%のジメタクリル酸亜鉛、10重量%の酸化亜鉛とからなる混合塩が挙げられる。
【特許文献2】特表平11−512776号公報
【0011】
モノメタクリル酸亜鉛は、ジエン系ゴム100重量部当り3〜8重量部の割合で用いられる。モノメタクリル酸亜鉛の配合割合がこれよりも少ないと、弾性率が低下し、また発熱量も増加するようになり、一方これ以上の割合で用いられると、破断伸びが悪化するようになるので好ましくない。ここでモノメタクリル酸亜鉛は、酸化亜鉛と併用することなく亜鉛化合物として単独で用いることもできるし、亜鉛化合物の合計量が8重量部以内であれば、酸化亜鉛等との併用も可能である。
【0012】
ここで、耐チップ・カット性を改善させることを目的とするものではないが、タイヤの耐摩耗性を大幅に低下させることなく、転がり抵抗を低減させる方法として、(A)ゴム成分100重量部に対し、(B)メタクリル酸のMg塩、Zn塩またはAl塩を1〜3重量部または0.5〜4重量部、(C)N,N′-ビス(2-メチル-2-ニトロプロピル)-1,6-ヘキサンジアミン1〜3重量部、0.1〜1.4重量部または0.3〜0.7重量部および(D)シリカおよび/またはカーボンブラックを配合したゴム組成物が提案されている。
【特許文献3】特開2003−213045号公報
【特許文献4】特開2003−292683号公報
【特許文献5】特開2003−286367号公報
【0013】
タイヤのトレッド形成に好適に用いられるというこれら特許文献3〜5の発明では、(C)成分ジアミン化合物を必須成分とするばかりではなく、(B)成分として用いられているMg塩やZn塩としては、市販品である三新化学工業製品サンエステル SK-13またはSK-30が用いられており、これらはサンエステルのHPの記載からジメタクリル酸Mg塩またはZn塩である。
【0014】
さらに、メタクリル酸Zn塩については、(A)天然ゴム100重量部に対し、(B)カーボンブラック35〜50重量部、(C)シリカ3〜15重量部、(D)グリコール0.1〜3.0重量部および(E)モノメタクリル酸亜鉛またはジメタクリル酸亜鉛0.05〜0.8重量部を配合したゴム組成物についての提案もみられ、このゴム組成物はタイヤのスチールゴムの被覆ゴムとしてすぐれていると述べられているが、(E)成分のモノメタクリル酸亜鉛またはジメタクリル酸亜鉛についての説明は全くなく、その商品名も記載されていない。
【特許文献6】特開平5−51491号公報
【0015】
(c)成分のカーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積N2SA(JIS K6217-2準拠)90m2/g以上、好ましくは100〜160m2/gのものが、ジエン系ゴム100重量部当り30重量部以上、好ましくは35〜55重量部であって、かつ後述するシリカとの合計配合量が40〜60重量部、好ましくは45〜55重量部となるような割合で用いられる。
【0016】
かかる窒素吸着比表面積N2SAを有するカーボンブラックとしては、ISAF、SAFなどのグレードのカーボンブラックが用いられ、これ以下の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラック、例えばFEF、GPF、HAFカーボンブラックを用いた場合には、耐摩耗性が不十分となる。また、配合割合についても、シリカとの合計配合量とも関係するが、ジエン系ゴム100重量部当り30重量部未満ではカーボンブラックの補強作用が発揮されず、高剛性を満足させることができない。また、シリカとの合計配合量が、これよりも多い場合には、発熱性が悪化するようになり、一方これよりも少ない場合には、タイヤに必要とされる剛性を満足させることができない。
【0017】
(d)成分のシリカとしては、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)比表面積(JIS K6217-3に準拠して測定)が95〜175m2/g、好ましくは110〜160m2/gものが用いられる。これらは、ハロゲン化けい酸または有機けい素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式法シリカやけい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法シリカなどであり、コストおよび性能の面からは、湿式法シリカが好んで用いられる。実際には、ゴム工業用として上市されている市販品をそのまま用いることができる。その配合割合は、ジエン系ゴム100重量部当り2〜30重量部、好ましくは4〜20重量部であり、カーボンブラックとの合計配合量が上記割合となるように用いられる。シリカの配合により転がり抵抗が改善されるようになるが、これ以上多い配合割合で用いられると、加工性が悪化するようになる。
【0018】
このようにシリカに求められる特性およびジエン系ゴムとの分散性(シリカはゴムポリマーとの親和性に乏しく、またゴム中でシリカ同士がシラノール基を通して水素結合を生成し、シリカのゴム中への分散性を低下させる性質を有する)をさらに高めるために、シランカップリング剤がシリカ重量に対して2〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の割合で用いることができる。シランカップリング剤としては、シリカ表面のシラノール基と反応するアルコキシシリル基とポリマーと反応する硫黄連鎖を有するポリスルフィド系シランカップリング剤、例えばビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が好んで用いられる。シランカップリング剤の使用割合がこれよりも少ないと、シリカに求められる特性やジエン系ゴムとの分散性が十分に発揮されず、一方これよりも多い配合割合で用いられると、加工性が悪化するようになる。
【0019】
(e)成分の樹脂としては、変性ガムロジン、パラオクチルフェノール樹脂、1,3-ペンタジエン樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂の少なくとも一種の樹脂が、ジエン系ゴム100重量部当り0.5〜5重量部、好ましくは0.8〜4.5重量部の割合で用いられる。これらの樹脂を配合することにより、弾性率の改善および発熱量の増加を抑えることができる。樹脂が、これ以外の割合で用いられると、弾性率の改善を図ることができない。
【0020】
ガムロジンは松の幹に切り傷をつけ、そこから滲み出てくる生松油をろ過精製し、ついで水蒸気蒸留によりテレピン油を除くことで得られる、いくつかの樹脂酸の混合物であり、分子内にカルボキシル基と二重結合を有している。本発明では、ガムロジン変性マレイン酸樹脂などの変性ガムロジン、例えば市販品であるハリマ化成工業製品ハリタックAQ-90Aなどが用いられる。
【0021】
パラオクチルフェノール樹脂は、イソブチレンを原料とした樹脂であり、例えば市販品である日立化成工業製品ヒタノール1502Zなどが用いられる。
【0022】
1,3-ペンタジエン樹脂としては、例えばC5留分から抽出された高純度の1,3-ブタジエンを主原料に製造された石油樹脂、例えば市販品である日本ゼオン製品クイントンA100などが、またジシクロペンタジエン樹脂としては、例えばC5留分から抽出された高純度のジシクロペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂、例えば市販品である日本ゼオン製品クイントン1100などが用いられる。
【0023】
以上の各成分を必須成分とするジエン系ゴム組成物中には、ゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えばジエン系ゴムの種類に応じて硫黄等の加硫剤、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系等の加硫促進剤、タルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、老化防止剤、可塑剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0024】
ここで加硫剤として、好ましくは硫黄の代りにあるいは硫黄と共に、下記一般式

で表わされる環状ポリスルフィド化合物(ここで、Rは置換もしくは非置換のC2〜C10のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C18のオキシアルキレン基を含むアルキレン基であり、xは2〜6の整数であり、nは1〜15の整数である)が、ジエン系ゴム組成物100重量部当り0.5〜8重量部、好ましくは0.7〜7重量部の割合で用いられる。このような環状ポリスルフィド化合物は、一般式X-R-X′(ここで、XおよびX′はハロゲン原子であり、Rは置換もしくは非置換のC2〜C10のアルキレン基又は置換もしくは非置換のC2〜C18のオキシアルキレン基を含むアルキレン基を示す)で表わされるジハロゲン化合物と、一般式M2Sx(ここで、Mはアルカリ金属であり、xは2〜6の整数である)で表わされるアルカリ金属の多硫化物とを、親水性及び親油性溶媒の非相溶混合溶媒中で2相系で反応させることにより製造することができる。この環状ポリスルフィド化合物を用いると、耐熱性および加硫後にゴムが軟化する加硫戻りをさらに改善することができるため、使用末期まで高い耐チップ・カット性を維持することができる。
【特許文献7】特開2002−293783号公報
【0025】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、用いられたジエン系ゴム、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫され、例えば図1に示されるトラックバスラジアルタイヤのキャップトレッド4およびベーストレッド5の少なくとも一方を形成する。
【実施例】
【0026】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0027】
実施例1
天然ゴム(STR20) 100重量部
カーボンブラック(キャボットジャパン製品ショウブラックN110; 40 〃
窒素吸着比表面積N2SA 144m2/g)
シリカ(日本シリカ工業製品ニップシールAQ;CTAB比表面積157m2/g) 10 〃
モノメタクリル酸亜鉛(サートマー社製品SR709) 5 〃
ステアリン酸(千葉脂肪酸製品工業用ステアリン酸) 1 〃
変性ガムロジン(ハリマ化成工業製品ハリタックAQ-90A) 2 〃
老化防止剤(住友化学製品アンチゲンRD-G) 2 〃
硫黄(鶴見化学工業製品金華印油入微粉硫黄) 2 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーNS-F) 1.5 〃
以上の各成分の内、加硫促進剤と硫黄を除く各成分を1.5L密閉型ミキサで5分間混練し、160℃に達したとき放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を加え、オープンロールで混練し、ジエン系ゴム組成物を得た。
【0028】
実施例2
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が8重量部に変更されて用いられた。
【0029】
実施例3
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が3重量部に変更され、さらに酸化亜鉛(正同化学工業製品酸化亜鉛3種)1重量部が用いられた。
【0030】
実施例4
実施例1において、硫黄の代わりに前記式〔I〕で表わされる環状ポリスルフィド化合物(R:(CH2)6、x:平均5、n:1〜4の混合物)が4重量部用いられた。この環状ポリスルフィド化合物は、30%多硫化ソーダ(Na2S4)水溶液89.76g(0.15mol)に水80g、硫黄48g(0.15mol)および触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド1.16g(0.0045mol)を入れて80℃2時間反応させた後、トルエン100gを加えて90℃で1,6-ジクロロヘキサン23.3g(0.15mol)を1時間滴下し、さらに4時間反応させ、反応終了後、有機層を分解した減圧下90℃で濃縮することにより、35.2g(収率95%)が合成された。
【0031】
実施例5
実施例4において、変性ガムロジンの代わりにパラオクチルフェノール樹脂(日立化成工業製品ヒタノール1502Z)が同量用いられた。
【0032】
実施例6
実施例4において、変性ガムロジンの代わりに1,3-ペンタジエン樹脂(日本ゼオン製品クイントンA100)が同量用いられた。
【0033】
実施例7
実施例4において、変性ガムロジンの代わりにジシクロペンタジエン樹脂(日本ゼオン製品クイントン1100)が同量用いられた。
【0034】
実施例8
実施例1において、硫黄量が1重量部に変更され、さらに前記式〔I〕で表わされる環状ポリスルフィド化合物(R:(CH2)6、x:平均5、n:1〜4の混合物)が2重量部が用いられた。
【0035】
実施例9
実施例8において、モノメタクリル酸亜鉛量が3重量部に変更され、さらに酸化亜鉛1重量部が用いられた。
【0036】
実施例10
実施例1において、天然ゴム量が50重量部に変更され、さらに合成ポリイソプレンゴム(日本ゼオン製品Nipol IR2200)50重量部が用いられた。
【0037】
比較例1
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛3重量部が用いられた。
【0038】
比較例2
実施例1において、カーボンブラック量が45重量部に変更され、またモノメタクリル酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛3重量部が用いられた。
【0039】
比較例3
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛3重量部が用いられ、また変性ガムロジン量が0.1重量部に変更されて用いられた。
【0040】
比較例4
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛3重量部が用いられ、また変性ガムロジン量が10重量部に変更されて用いられた。
【0041】
比較例5
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が1重量部に変更されて用いられた。
【0042】
比較例6
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛3重量部が用いられ、さらに前記式〔I〕で表わされる環状ポリスルフィド化合物(R:(CH2)6、x:平均5、n:1〜4の混合物)が0.1重量部が用いられた。
【0043】
比較例7
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛の代わりに酸化亜鉛3重量部が、また硫黄の代わりに前記式〔I〕で表わされる環状ポリスルフィド化合物(R:(CH2)6、x:平均5、n:1〜4の混合物)が10重量部がそれぞれ用いられた。
【0044】
比較例8
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が15重量部に変更され、また硫黄の代わりに前記式〔I〕で表わされる環状ポリスルフィド化合物(R:(CH2)6、x:平均5、n:1〜4の混合物)が4重量部が用いられた。
【0045】
以上の各実施例および比較例で得られたジエン系ゴム組成物を150℃で30分間加硫して加硫ゴムシート(15×15×0.2cm)を得、得られた加硫ゴムシートについて、動的粘弾性および破断伸びの測定を行った。また、各実施例および比較例で得られたジエン系ゴム組成物をキャップトレッドに使用したサイズ11R22.5のタイヤを作成し、得られたタイヤを用いてチッピング/カット(チップ/カット)性についての評価を行った。
動的粘弾性:JIS K6394準拠;東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメータを用い、初
期歪10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、20℃における貯蔵弾性
率(E’)および損失正接(tanδ)を測定し、標準例で得られた値を100と
する指数で示した
(E’が大きいほど弾性が大きく、またtanδが大きい程発熱量が抑えら
れていることを示している)
破断伸び:JIS K6251準拠;3号ダンベルにて2mmシートを打ち抜き、室温下または100
℃の密閉容器中に2日間保存した後、500mm/分の引張り速度にて切断時伸
びを測定し、標準例で得られた値を100とする指数で示した
(この値が大きい程破断伸びがすぐれていることを示している)
チップ/カット評価:上記タイヤを積載重量50トンの車に装着して約6月間の間に、
舗装路および非舗装路を、合計で約60,000km走行した後、摩耗
末期となったキャップトレッドの外観を、下記基準により5段
階にて評価した。
5:チップ/カット傷が多数発生し、その傷がベルトにまで
達している
4:チップ/カット傷が多数発生しているが、その傷がベル
トにまで達していない
3:チップ/カット傷が発生している
2:チップ/カット傷が多少発生している
1:チップ/カット傷がほぼみられない
【0046】
得られた結果は、次の表に示される。

動 的 粘 弾 性 破 断 伸 び チップ/
E’ tanδ 熱老化前 熱老化後 カット評価
実施例1 108 102 102 103 2
〃 2 115 104 100 102 2
〃 3 109 101 103 105 2
〃 4 109 100 104 112 1
〃 5 106 102 103 110 1
〃 6 110 103 100 108 1
〃 7 108 105 106 114 1
〃 8 108 100 103 110 1
〃 9 106 101 101 114 1
〃 10 108 102 105 104 2
比較例1 100 100 100 100 5
〃 2 105 90 95 94 5
〃 3 99 111 106 106 5
〃 4 97 76 108 109 5
〃 5 96 98 106 104 4
〃 6 101 102 100 100 5
〃 7 106 94 86 94 4
〃 8 120 107 81 88 5
【0047】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 各実施例では、いずれも発熱量の増加を抑えつつ、高弾性、破断伸び、耐熱老化性および耐チップ・カット性がバランス良く改善されている。
(2) 標準例である比較例1と比較して、そのカーボンブラックを増量すると、貯蔵弾性率は高くなるものの、発熱量が増加するとともに、熱老化後を含めて破断伸びが悪化する(比較例2)。
(3) 標準例と比較して、その樹脂量を減量すると発熱量は抑えられるものの、貯蔵弾性率に改善がみられない(比較例3)。
(4) 標準例と比較して、その樹脂量を増量すると、熱老化後を含めて破断伸びは改善するものの、貯蔵弾性率が低下するとともに、発熱量が増加する(比較例4)。
(5) 標準例と比較して、酸化亜鉛の代りにモノメタクリル酸亜鉛1重量部を用いると、熱老化後を含めて破断伸びは改善されるものの、貯蔵弾性率に改善がみられず、また発熱量が増加する(比較例5)。
(6) 標準例と比較して、前記環状ポリスルフィド化合物0.1重量部をさらに用いると、貯蔵弾性率が若干改善されるが、耐チップ・カット性は変わらない(比較例6)。
(7) 標準例と比較して、硫黄の代わりに前記環状ポリスルフィド化合物10重量部を用いると、貯蔵弾性率は改善されるものの、発熱量が増加し、熱老化後を含めて破断伸びが悪化する(比較例7)。
(8) 標準例と比較して、硫黄の代わりに前記環状ポリスルフィド化合物いたうえで、酸化亜鉛の代りにモノメタクリル酸亜鉛を規定量以上用いると、貯蔵弾性率および低発熱性は改善されるものの、熱老化後を含めて破断伸びが悪化する(比較例8)。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】トラックバスラジアルタイヤの要部断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 キャップトレッド
5 ベーストレッド
6 ベルト
7 カーカス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ジエン系ゴム100重量部に対して、(b)モノメタクリル酸亜鉛3〜8重量部、(c)カーボンブラック30重量部以上、(d)シリカ2〜30重量部および(e)変性ガムロジン、パラオクチルフェノール樹脂、1,3-ペンタジエン樹脂およびジシクロペンタジエン樹脂の少なくとも一種0.5〜5重量部を配合してなり、カーボンブラックとシリカの合計配合量が40〜60重量部であるジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
(a)成分のジエン系ゴムが、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムである請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
(b)成分のモノメタクリル酸亜鉛と共に酸化亜鉛ZnOが、モノメタクリル酸亜鉛との合計量が8重量部以下となるように併用された請求項1または2記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項4】
加硫剤として、一般式

で表わされる環状ポリスルフィド化合物(ここで、Rは置換もしくは非置換のC2〜C10のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C18のオキシアルキレン基を含むアルキレン基であり、xは2〜6の整数であり、nは1〜15の整数である)が0.5〜8重量部配合された請求項1、2または3記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項5】
タイヤのキャップトレッドおよびベーストレッドの少なくとも一方の形成材料として用いられる請求項1、2、3または4記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5記載のジエン系ゴム組成物からタイヤのキャップトレッドおよびベーストレッドの少なくとも一方が形成された空気入りタイヤ。
【請求項7】
トラックバスラジアルタイヤとして用いられる請求項6記載の空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−242576(P2009−242576A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90597(P2008−90597)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】