説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】高弾性化と発熱性、加工性とを両立させたビードフィラー用ジエン系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラック50〜90重量部および下記式で定義される扁平係数A
A=(レーザー回折法での平均粒子径−遠心沈降法での平均粒子径)
/(遠心沈降法での平均粒子径)
の値が3〜7である扁平状タルク10〜30重量部、フェノール系樹脂5〜40重量部およびフェノール系樹脂用硬化剤0.5〜5重量部を配合してなるビードフィラー用ジエン系ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、ビードフィラー用ジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの軽量化要求に伴うビードフィラーの薄肉化に際しては、ビードフィラーの高弾性化を図る必要がある。通常用いられる高弾性化の手法の一つとして、カーボンブラックの配合量を増加させる方法が挙げられるが、その場合には発熱の上昇や押出加工性の悪化がみられるようになり、高弾性化と発熱性、加工性の両立は十分ではなかった。
【0003】
特許文献1には、ゴム100重量部に対して、Mnが300〜10000であり、C5系石油炭化水素を重合して得られたC5系石油樹脂1〜20重量部および薄板状天然鉱石5〜120重量部を含有するゴム組成物からなるサイド補強層またはビードエイペックス(ビードフィラー)を有するランフラットタイヤが記載されており、サイド補強層またはビードエイペックスの低発熱性および高硬度を両立させ、耐久性を改善せしめると述べられている。
【0004】
薄板状天然鉱石としては、雲母類、クレー、タルク等が挙げられ、そのアスペクト比(厚さに対する最大径の比)は、3以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上とされており、またその実施例では雲母であるセリサイトのみが用いられている。
【0005】
特許文献2には、天然ゴムを30重量%以上含有するゴム成分100重量部に対して、シリカ20〜120重量部および黒鉛5〜80重量部を含有するビードエイペックス用ゴム組成物が記載されており、これを用いることにより、タイヤの転がり抵抗を低減させ、操縦安定性を向上させることができると述べられている。
【0006】
このビードエイペックス用ゴム組成物中には、タルク等の各種補強用充填剤、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂、その硬化剤等を任意成分として含有し得るとされ、その実施例では熱硬化性樹脂としてのフェノール系硬化レジンが用いられている。
【0007】
特許文献3には、ジエン系ゴム100〜40重量%とブチル系ゴム0〜60重量%とからなり、層状珪酸塩を微分散してなるカーカスコード用ゴム組成物が記載されており、このカーカスコード用ゴム組成物は、低空気透過性およびゴム層との接着性にすぐれ、それをカーカスコードの被覆ゴムとして用いた場合には、空気入りタイヤの空気保持性を損なうことなく、軽量化が図られると述べられている。
【0008】
層状珪酸塩としては、タルク等が挙げられ、その平均アスペクト比は50〜5000であることが好ましいとされている。
【0009】
また、特許文献4には、一対のビードコア間でラジカル方向に延びるゴム被覆コードのプライによるカーカス本体と、該プライを各ビードコアのまわりにそれぞれタイヤの内側から外側へ巻き返してタイヤ径方向外側に延ばした折り返し部とからなるカーカスを骨格とする空気入りラジカルタイヤにおいて、折り返し部の少なくとも末端を覆う被覆ゴムを有し、該被覆ゴムはゴム100重量部に対して1〜30重量部の無機添加材を配合したゴム組成物で構成した空気入りラジカルタイヤが記載されている。
【0010】
このゴム組成物に配合される無機添加材は、その最大径aに対する厚みbの比a/bが2〜30程度の扁平形状のものであり、タルク等が用いられると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−282913号公報
【特許文献2】特開2007−332354号公報
【特許文献3】特開2004−137431号公報
【特許文献4】特開2001−277822号公報
【特許文献5】USP 6,348,536 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高弾性化と発熱性、加工性とを両立させたビードフィラー用ジエン系ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる本発明の目的は、ジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラック50〜90重量部および下記式で定義される扁平係数A
A=(レーザー回折法での平均粒子径−遠心沈降法での平均粒子径)
/(遠心沈降法での平均粒子径)
の値が3〜7である扁平状タルク10〜30重量部、フェノール系樹脂5〜40重量部およびフェノール系樹脂用硬化剤0.5〜5重量部を配合してなるビードフィラー用ジエン系ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るビードフィラー用ジエン系ゴム組成物においては、ジエン系ゴム組成物中に特定の扁平係数Aを有する扁平タイプのタルクを配合することにより、ビードフィラー部の高弾性化と発熱性、加工性の両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ジエン系ゴムとしては、従来からビードフィラー用として用いられている任意のゴム、例えば天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム等を単独でまたはブレンドして用いることができる。ブレンドゴムとしては、例えば天然ゴム/スチレンブタジエンゴムが用いられ、そのブレンド割合は天然ゴム50〜90重量%、好ましくは60〜80重量%およびスチレンブタジエンゴム50〜10重量%、好ましくは40〜20重量%のブレンドが望ましい。
【0016】
カーボンブラックとしては、任意の粒径、ヨウ素吸着量のものなどが、ジエン系ゴム100重量部当り50〜90重量部、好ましくは60〜80重量部の割合で用いられる。カーボンブラックの配合割合がこれよりも多くなると、耐疲労性が悪化するようになり、一方これよりも少ない割合でカーボンブラックが用いられると、硬さが大きく低下するようになる。
【0017】
扁平状タルクとしては、下記式で定義される扁平係数Aの値が3〜7、好ましくは3.5〜5.5であるものが用いられる。
A=(レーザー回折法での平均粒子径−遠心沈降法での平均粒子径)
/(遠心沈降法での平均粒子径)
【0018】
ここで、レーザー回折法での平均粒子径は、コヒーレント光のレーザー回折によって測定される平均粒子径(D50;粒子径分布で50%のものの粒子径)であり、沈降法での平均粒子径は例えば独マイクロメリテックス計器社製セディグラフ5100粒子径測定装置で測定される。かかる扁平係数Aを有するタルクの調製は、例えば特許文献5に記載されている。
【0019】
扁平係数Aが3〜7の範囲外のタルクを使用すると、操縦安定性および転がり抵抗の改善がみられなくなる。また、ジエン系ゴム100重量部当り10〜30重量部、好ましくは15〜20重量部の割合で用いられる扁平状タルクの配合割合がこれよりも少ないと、操縦安定性の改善がみられず、一方これよりも多い配合割合で扁平状タルクが用いられると、発熱が大きくなり、転がり抵抗が悪化するようになる。
【0020】
ビードフィラー用ジエン系ゴム組成物中には、さらにジエン系ゴム100重量部に対して5〜40重量部、好ましくは15〜25重量部のフェノール系樹脂および0.5〜5重量部、好ましくは1〜2重量部のフェノール樹脂用硬化剤が配合されて用いられる。
【0021】
フェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、レゾルシノール等をフェノール類とするノボラック型またはレゾール型フェノール樹脂、レゾルシン変性、カシュー変性、芳香族炭化水素樹脂変性、メラミン変性等の各種変性フェノール樹脂、フェノール系硬化レジン等が用いられる。フェノール樹脂の配合割合がこれよりも少ないと、硬さが小さくなり、操縦安定性が低下するようになる。一方、これ以上の配合割合で用いられると、加工性が損なわれ、生産性が低下するようになる。また、フェノール樹脂用硬化剤としては、一般にヘキサメチレンテトラミンが用いられる。
【0022】
以上の各成分を必須成分とするジエン系ゴム組成物中には、ゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えば硫黄等の加硫剤、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系等の加硫促進剤、シリカ、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等のカーボンブラック、タルク以外の補強剤または充填剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、老化防止剤、可塑剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0023】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、空気入りタイヤの各ビードフィラー部を形成するように成形された後、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫される。
【実施例】
【0024】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0025】
標準例
天然ゴム(SIR20) 75重量部
スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン製品SBR1502) 25 〃
カーボンブラック(新日化カーボン製品ニテロン#10) 72 〃
亜鉛華(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 6 〃
ステアリン酸(千葉脂肪酸製品工業用ステアリン酸) 2 〃
フェノール系樹脂(住友ベークライト製品 20 〃
スミライトレジンPR-YR-150)
ヘキサメチレンテトラミン(大内新興化学工業製品ノクセラーH) 2 〃
アロマオイル(昭和シェル石油製品エクストラクト4号S) 10 〃
硫黄(鶴見化学工業製品金華印油入微粉硫黄、硫黄分95%) 4 〃
加硫促進剤CBS(大内新興化学工業製品ノクセラーCZ-G) 2.5 〃
以上の各成分の内、ヘキサメチレンテトラミン、硫黄および加硫促進剤を除く各成分を1.7LのB型バンバリーミキサで混合し、冷却したマスターバッチを再度同ミキサに投入し、これにヘキサメチレンテトラミン、硫黄および加硫促進剤を加え、混練した。混練物について、160℃、20分間加硫が行われた。
【0026】
混練物および加硫物について、次の各項目の測定が行われた。
硬さ:JIS K6253に準拠し、20℃での硬さを測定し、標準例を100とする指数で示した
(指数値が大きい程操縦安定性が良好である)
損失正接Tanδ(60℃):東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期
歪5%、振幅±1%、周波数20Hzの条件下で測定し、標準例を
100とする指数で示した
(指数値が小さい程発熱性が低く、良好である)
押出加工性:押出機で押出された押出物サンプルの表面およびエッヂを観察し、評価
V〜Iの5段階で評価した
(評価が大きい程押出加工性が良好である)
【0027】
比較例1
標準例において、フェノール系樹脂およびその硬化剤が用いられなかった。
【0028】
比較例2
標準例において、カーボンブラック量が70重量部に変更され、タルクI(Rio Tinto Minerals社製品Mistronn HAR;扁平指数A:4.7)が5重量部用いられた。
【0029】
比較例3
比較例2において、カーボンブラック量が32重量部に、またタルクI量が40重量部にそれぞれ変更された。
【0030】
比較例4
比較例2において、カーボンブラック量が62重量部に、またタルクI量が15重量部にそれぞれ変更され、フェノール系樹脂およびその硬化剤が用いられなかった。
【0031】
比較例5
標準例において、カーボンブラック量が62重量部に変更され、またタルクII(同社製品Mistronn Vapor R;扁平指数A:0.65)が15重量部用いられた。
【0032】
比較例6
標準例において、天然ゴム量が40重量部に、またスチレンブタジエンゴム量が60重量部にそれぞれ変更され、タルクIが15重量部用いられた。
【0033】
実施例1
比較例2において、カーボンブラック量が62重量部に、またタルクI量が15重量部に、それぞれ変更して用いられた。
【0034】
実施例2
比較例2において、天然ゴム量が80重量部に、スチレンブタジエンゴム量が20重量部に、カーボンブラック量が58重量部に、またタルクI量が20重量部に、それぞれ変更して用いられた。
【0035】
以上の標準例、各比較例および実施例で得られた結果は、亜鉛華、ステアリン酸、アロマオイル、硫黄、加硫促進剤以外の各組成物成分の配合量(重量部)と共に、次の表に示される。

比較例 実施例
標準例 1 2 3 4 5 6 1 2
〔組成物成分〕
天然ゴム 75 75 75 75 75 75 40 75 80
スチレンブタジエンゴム 25 25 25 25 25 25 60 25 20
カーボンブラック 72 72 70 32 62 62 72 62 58
タルクI − − 5 40 15 − 15 15 20
タルクII − − − − − 15 − − −
フェノール系樹脂 20 − 20 20 − 20 20 20 20
樹脂用硬化剤 2 − 2 2 − 2 2 2 2
〔測定項目〕
硬さ 100 82 98 102 83 99 125 115 116
低発熱性 100 93 98 104 79 102 125 83 85
押出加工性 III III III IV V III IV V V


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラック50〜90重量部および下記式で定義される扁平係数A
A=(レーザー回折法での平均粒子径−遠心沈降法での平均粒子径)
/(遠心沈降法での平均粒子径)
の値が3〜7である扁平状タルク10〜30重量部、フェノール系樹脂5〜40重量部およびフェノール系樹脂用硬化剤0.5〜5重量部を配合してなるビードフィラー用ジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
ジエン系ゴムが天然ゴム50〜90重量%およびスチレンブタジエンゴム50〜10重量%のブレンドゴムである請求項1記載のビードフィラー用ジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
フェノール系樹脂がノボラック型またはレゾール型フェノール樹脂である請求項1または2記載のビードフィラー用ジエン系ゴム組成物。
【請求項4】
フェノール系樹脂用硬化剤がヘキサメチレンテトラミンである請求項1、2または3記載のビードフィラー用ジエン系ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載のビードフィラー用ジエン系ゴム組成物から成形および加硫されたビードフィラー部を有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−12515(P2012−12515A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150862(P2010−150862)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】