説明

ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物、並びにこれから得られるポリアミック酸及びポリイミド樹脂

【課題】粘度が高く成型体の製造が容易であり、更に透明性やフィルム強度の高いポリイミド樹脂、及びその原料として有用なテトラカルボン酸無水物を提供する。
【解決手段】ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物を99.0重量%以上含むジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物、並びにこれから得られるポリアミック酸及びポリイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂を製造する場合、一般的には、有機溶剤中でテトラカルボン酸無水物とジアミンとの反応(アミド化反応)からアミド基を有する中間生成物のポリアミック酸溶液を得た後に、これを加熱又は無水酢酸処理、及び脱溶剤することで、脱水閉環させてイミド化反応を行い、ポリイミド樹脂を得る。
特許文献1には3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を高純度99.5%以上にすることによって、高純度ポリイミドの原料として有用であることが記載されている。
【0003】
特許文献2には3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)を含まない高純度の2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)を原料とすることで、分子量が高いポリアミック酸、さらには、耐熱性、機械的特性に優れたポリイミドが得られることが記載されている。
一方で、特許文献3に記載されるような定着装置の感光体部分に使用されるベルト等の透明用途に使用可能なポリイミド樹脂の原料となるテトラカルボン酸二無水物としては、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の脂環族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献4,5にはそれぞれ脂環族ポリアミド、脂環族ポリアミドイミドからなる透明性が改善された耐熱ベルトが提案されている。また、特許文献6にはジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物の製造方法及び、そのジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応物である、ポリアミド酸溶液ならびにイミド化したフィルムの特性が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−123756号公報
【特許文献2】特開2006−328040号公報
【特許文献3】特開2008−3240号公報
【特許文献4】特開2003−261766号公報
【特許文献5】特開2003−261767号公報
【特許文献6】特開平1−96147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
成型体の製造が容易で、透明性やフィルム強度の高いポリイミドフィルムを得るためには、特許文献1や2のような芳香族系テトラカルボン酸二無水物では着色などの面で不適であり、このため、特許文献4〜6に記載されている脂環族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましいと考えられる。
しかしながら、特許文献4、5に記載されている脂環族ポリアミド、脂環族ポリアミドイミドは、耐溶剤性が不足しているのでN−メチルピロリドンなどの極性溶媒に溶解してしまい、また、吸湿による寸法変化が大きく、材料としての信頼性にかけるという問題点
がある。
【0007】
また、特許文献6で得られているジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物を原料とするポリアミド酸溶液は、比較応用例に記載されている他のテトラカルボン酸二無水物を原料とするポリアミド酸溶液と比較すると粘度が低く、フィルム化やベルト化などの成型の際には高温の際に流動性が良くなりすぎるために、取り扱い上問題があると考えられる。また、可視光透過率で表される透明性も十分ではなく、特に特許文献4に記載されているような定着装置の感光体部分に使用されるベルト等に使用する際には、透明性やその他のフィルム物性が不足しており使用上問題がある。
【0008】
そこで本発明は、成型体の製造に適した粘度を確保することができ、更に透明性や着色性が改善され、フィルム強度の高いポリイミド樹脂、及びその原料として有用なテトラカルボン酸無水物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到った。即ち、本発明の要旨はジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物を99.0重量%以上含むジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物に存する。
また本発明の別の要旨は、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸及び/又はジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物を脱水閉環して得られるジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物であって、閉環率が99.0%以上であるジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物に関する。
【0010】
また本発明は、前記ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物とジアミンとを重合して得られるポリアミック酸に関する。
また本発明は、前記ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物とジアミンとから得られ、下記(1)、(2)を満足するポリイミド樹脂に関する。
(1)ガラス転移温度が200〜400℃
(2)ポリイミド樹脂を厚さ25μmのフィルムにした際の、波長550nmの光線透過率が80%以上
【0011】
また本発明の別の要旨は、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物とジアミンとから得られるポリイミド樹脂であって、下記(1)、(2)の特性を有するポリイミド樹脂に関する。
(1)ガラス転移温度が200〜400℃
(2)ポリイミド樹脂を厚さ25μmのフィルムにした際の、波長550nmの光線透過率が80%以上
また本発明の要旨は、前記ポリイミド樹脂からなる成型体又はシームレスベルトに関する。
【0012】
また本発明の別の要旨は、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸四ナトリウム塩を触媒を用いて水素化反応させ、次いで酸性条件下でジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸とした後に、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸を脱水閉環するジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物の製造方法であって、閉環率が99.0%以上であることを特徴とするジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物は、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物の含有率が高いので、これから得られるポリアミック酸を溶液にした場合は成型体の製造に適した液ダレを生じない高い粘度を確保することができ、また高温で長時間加熱することなくポリイミド樹脂を得ることができるため、透明性や着色性、引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸度などのフィルム物性に優れるポリイミド樹脂の原料として有用である。
【0014】
また、本発明のポリイミド樹脂は、透明性や着色性、引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸度などのフィルム物性に優れるので、トナー像を記録媒体上に定着する定着装置の感光体部分に使用されるベルト等に用いる成型体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物はジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物を99.0重量%以上含んでおり、好ましくは99.3重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上である。なお、本願発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物とは、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物が100重量%の場合も含むものとする。
【0016】
または本発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物は、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸及び/又はジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物を脱水閉環して得られ、その閉環率が99.0%以上であるジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物である。
【0017】
ここでいう閉環率とは、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物(下記式にて、「2無水物」と称する)、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物(下記式にて「1無水物」と称する)及び、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(下記式にて、「テトラカルボン酸」と称する)の含量ベースの含有量から下記式に従って計算される。
閉環率(%)=(2無水物含有量)/
(2無水物含有量+1無水物含有量+テトラカルボン酸含有量)×100
【0018】
本発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物は、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物を含む上記のような組成物であれば特に限定されない。
例えば、組成物に含まれてもよいジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物以外の化合物としては、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物、ジシクロへキシルフェニル−3,3‘,4,4’−テトラカルボン酸、ジシクロヘキシル−3,3’,4−トリカルボン酸、ジシクロヘキシル−3,4,4’−トリカルボン酸、及びその一無水物などを含んでいてもよい。これらのジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物以外の化合物は、含有量が少ない方が好ましく、もっとも好ましくはこれらを全く含まないことである。
【0019】
本発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物は、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸及び/又はジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物の閉環率が高く、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有率が高いことから、得られる
ポリアミック酸からは適度な粘度を有するポリアミック酸溶液を製造することが可能であり、よって透明性や着色性、その他のフィルム物性に優れるポリイミド樹脂及びそれからなる成形体を与えることができる。
【0020】
ポリイミド樹脂を製造する場合、一般的には、有機溶剤中でジもしくはテトラカルボン酸無水物とジアミンとの反応(アミド化反応)からアミド基を有する中間生成物のポリアミック酸を溶液として得た後に、これを加熱又は無水酢酸処理、及び脱溶剤することで、脱水閉環させてイミド化反応を行い、ポリイミド樹脂を得る。
ここで、ポリイミド樹脂の原料モノマーとして用いられるテトラカルボン酸無水物等の酸無水物は、加水分解によりテトラカルボン酸及びテトラカルボン酸一無水物を生成し易いため、アミド化反応の原料モノマーとしてカルボン酸類を含む場合がある。カルボン酸類とカルボン酸無水物とのアミド化反応速度は、一般的にはカルボン酸類の方が遅いものの、従来は上記のイミド化反応を高温長時間で行うため、これらのポリイミド樹脂をポリイミド組成物として用いたり、フィルムやベルトとした場合であっても、特に性能上問題とはなっていなかった。
【0021】
しかしながら、ポリイミド樹脂として特に透明性が必要な用途では一般に無色透明なものが求められるので、高温長時間加熱すると黄色く着色するため好ましくないという問題がある。これは、原料モノマーとしてのジアミンや反応の際の有機溶剤としてジアミン類やN−メチルピロリドン等の窒素含有溶剤を用いるため、これらに由来する窒素原子が酸化されることによって生じる問題であると推察される。
【0022】
一方で、着色を抑えるために加熱条件を緩やかにすると、アミド化反応やイミド化反応が十分に行われないためか、実際の使用に耐えうる物性が得られない。
また、通常、中間生成物のポリアミック酸は溶液の状態でフィルム化やベルト化などの成型を行うため、原料モノマーやポリアミック酸溶液にテトラカルボン酸又はテトラカルボン酸一無水物が含まれていると、その含有量によりアミド化反応量が異なるので分子量のバラツキが大きく、ひいてはポリアミック酸溶液の粘度変化が大きくなるので使用上問題がある。
【0023】
さらに、テトラカルボン酸又はテトラカルボン酸一無水物の含有量が多くなると全体としてアミド化反応の反応速度が低下するのでポリアミック酸の分子量が十分大きくならず、ポリアミック酸溶液の粘度が低くなるため、希釈有機溶剤量を少なくする必要がある。しかし、原料モノマーであるテトラカルボン酸二無水物は溶解性が低く、反応時の希釈溶剤量を減らすことが困難であるため、所定量のポリアミック酸を含む高粘度のポリアミック酸溶液を得ることが困難である。
【0024】
これらのことから、ポリイミド樹脂の原料モノマー中のテトラカルボン酸又はテトラカルボン酸一無水物及びその他不純物の含有量を低減した本発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物は、透明性や着色性その他のフィルム物性に優れたポリイミド樹脂の原料として好適に用いることができるのである。
本発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物の製造方法は特に限定されないが、例えばジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸を無水酢酸溶媒中で加熱して二無水物とする方法や、減圧下、或いは窒素などの不活性ガス気流下で加熱し二無水物とするといった方法が挙げられる。その際、原料、装置、包材、取扱い雰囲気などからの水分の混入を防止することが重要である。
【0025】
ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物を水素化反応(水添反応)を用いて得る場合、その原料としては、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(以下BTCと略記することがある)、BTC脂肪族エステル、
BTCアルカリ塩、BTC一無水物、BTC二無水物、及びBTC骨格上カルボン酸部位が上記各物質のいずれかの残基で組合された物質等が挙げられ、これらは1種で用いても
混合物として用いてもよい。これらの中ではBTC、BTC脂肪族エステル、BTCアルカリ塩、BTC二無水物が好ましく、BTC脂肪族エステルとしては、メチルエステル体及びエチルエステル体が好ましく、BTCアルカリ塩としてはNa塩、及びK塩が好ましい。
【0026】
溶媒を用いる場合は、上記原料をほぼ溶解し均一化し得る極性溶媒で、かつ水素化条件下で安定で触媒を失活させない等の悪影響を及ぼさない溶媒であれば、特に制限無く使用することができる。代表例としては、エーテル類(特にジエチルエーテル)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン類、アルカリ水溶液(好ましくはNaOH水溶液、KOH水溶液)、N−メチルピロリドン(NMP)、及び水等が挙げられ、これらは1種で用いても混合物として用いてもよい。
【0027】
反応に用いる触媒としてはラネーニッケル及び貴金属触媒等が挙げられ、ラネーニッケル、Pd、Ru、及びRh等の金属触媒が好ましい。特にRhやRuをカーボン、グラファイト、アルミナ、及びシリカ等の担体に担持した触媒が好ましい。
【0028】
反応に使用する触媒の量は、使用する原料や触媒の種類によって最適な量は異なるが、通常は原料10gに対して0.001g以上5g以下、好ましくは原料10gに対して0.01g以上2g以下、さらに好ましくは原料10gに対して0.1g以上1g以下である。触媒の使用量が少なすぎれば反応が十分に進行せず、多すぎると触媒残渣や副反応によって透明性や着色性が低下する場合がある。
【0029】
反応温度は使用する原料や触媒の種類、反応圧力によって最適な温度は異なるが、通常は10℃以上200℃以下、好ましくは30℃以上150℃以下、さらに好ましくは50℃以上120℃以下である。反応温度が低すぎれば反応速度が低くなるので反応が十分に進行しなかったり反応時間が長くなる傾向になり、高すぎれば好ましくない副反応が進行するため透明性や着色性の悪化に繋がる場合がある。
【0030】
反応圧力は使用する原料や触媒の種類、反応温度によって最適な圧力は異なるが、大気に対する相対圧力で通常は0.5MPaG以上15MPaG以下、好ましくは1MPaG以上12MPaG以下、さらに好ましくは2MPaG以上11MPaG以下である。反応圧力が低ければ反応速度が低くなるので反応が十分に進行しなかったり反応時間が長くなる傾向になり、高すぎれば、水素化分解等の好ましくない副反応が進行するため、透明性や着色性の悪化に繋がる場合がある。
【0031】
上記の反応に使用する触媒の量、反応温度、及び反応圧力は、ルテニウムカーボンを触媒として使用する場合に、特に好ましく選択される。また、反応は回分式でも連続式でもよく、取り扱う量等に応じて任意に選択することができる。
【0032】
本発明のポリイミド樹脂は、化学構造中にイミド結合を有する高分子(分子量10000以上、好ましくは15000〜60000)であることが好ましく、示差走査熱量計(DSC)にて測定したガラス転移温度は200〜400℃であることが好ましい。これは、ガラス転移温度が200℃より低いと、電子写真複写機やレーザープリンターの定着ベルトやトナー、紙の搬送ベルトとしての長期使用に耐え難い(例えば、ベルトの寸法が変化したり、ベルト破断に至る場合がある)ためである。上記ガラス転移温度は230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。ガラス転移温度の上限は現実的には400℃以下であり、溶剤溶解性等の点から、好ましくは360℃以下である。
【0033】
本発明のポリイミド樹脂からなる厚さ25μmのフィルムの、波長400nm又は550nmの光線の透過率は、当該フィルムに対してUV−可視光スペクトロフォトメーターで、波長400nm又は550nmの光線を照射し、フィルム透過前後の光線の強度を測定して比較することで定量化する。
本発明のポリイミド樹脂においては、波長550nmの光線透過率は80%以上であることが好ましい。これは、当該光線透過率が80%より低いポリイミド樹脂からなるシームレスベルトでは、転写された画像の位置あわせのための可視光線または赤外線センサーを十分に透過しないために、当該位置合わせの精度が低下するからである。当該光線透過率は高いほど好ましく、位置合わせ精度の向上の点から、85%以上であることがより好ましい。
【0034】
また、波長400nmの光線透過率は光定着を効率的に行う為には高いほど好ましく、より効率よく光定着を行うためには50%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上である。
本発明のポリイミド樹脂の製造方法は特に限定されないが、一般的には、テトラカルボン酸無水物とジアミンとの反応(アミド化反応)からアミド基を有する中間生成物のポリアミック酸溶液を得た後に、これを加熱又は無水酢酸処理、及び脱溶剤することで、脱水閉環させてイミド化反応を行い、ポリイミド樹脂を得る。
【0035】
上記ポリアミック酸を得るために使用される、テトラカルボン酸二無水物としては、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物を用いる。
原料モノマーとして用いるジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物中のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物の純度を高める、すなわち、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、または、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物を脱水閉環させ二無水物とするには、常法に従って減圧下加熱する方法あるいは無水酢酸に加熱溶解させ再結晶させる方法などがある。
【0036】
テトラカルボン酸二無水物としては、透明性やその他の物性に影響を与えない限り1種又は2種類以上を混合して使用することもできる。
その他のテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸−1,2,3,4−二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、ビシクロ[3.3.
0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物などの脂環族テトラカルボン
酸二無水物が挙げられる。
【0037】
更には、3,3’,4,4’−シクロヘキシルフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、2,3,4,5−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ピリジン二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0038】
上記ポリアミック酸を得るために用いられるジアミンは特に限定されない。一例を挙げれば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂環族ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、1,3−ビス(4,4’−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノ−1,5−フェノキシペンタン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(3,5−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノナフタレン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−トリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等の芳香族ジアミン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。これらの中では耐熱性、機械的特性、溶解性、光線透過性などから4,4’−ジアミノジフェニルメタン(ジイソシアネート)、イソホロンジアミン(ジイソシアネート)、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(ジイソシアネート)等が好ましい。また、これらのジアミンの1種類又は2種類以上を混合して使用することもできる。
【0039】
これらのジアミンのうち、脂環族ジアミン又は脂肪族ジアミンを使用すると、本発明のポリアミック酸及びそこから得られるポリイミド樹脂の透明性及び着色性がより向上するので好ましい。
上記ポリアミック酸を得るために、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させる方法は特に限定されないが、有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを混合し、反応させる方法が簡便である。この際有機溶媒として使用される有機化合物の具体例としては、m−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルカプトラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド、およびブチルラクトンなどを挙げることができる。これらの溶媒は、単独でも、また混合して使用してもよい。さらに、ポリアミック酸を溶解しないその他の溶媒であっても、均一な溶液が得られる範囲内で上記溶媒に加えて使用してもよい。
【0040】
溶液重合の反応温度は、−20℃から150℃、好ましくは−5℃から100℃の任意の温度を選択することができる。また、ポリアミック酸の分子量は、反応に使用するテトラカルボン酸二無水物とジアミンのモル比を変えることによって制御することができ、通常の重縮合反応と同様に、このモル比が1に近いほど生成するポリアミック酸の分子量は大きくなる。
【0041】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒中で混合させる方法としては、ジアミンを有機溶媒に分散又は溶解させた溶液を攪拌させ、テトラカルボン酸二無水物をそのまま、又は有機溶媒に分散又は溶解させて添加する方法、逆にテトラカルボン酸二無水物を有機溶媒に分散又は溶解させた溶液にジアミンを添加する方法、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを交互に添加する方法などが挙げられ、本発明においてはこれらのいずれの方法であってもよい。また、テトラカルボン酸二無水物又はジアミンが複数種の化合物からなる場合は、これら複数種の化合物をあらかじめ混合した状態で反応させてもよく、個別に順次反応させてもよい。
【0042】
本発明のポリイミド樹脂は、前記したポリアミック酸を脱水閉環させて得られるポリイミドである。ここで、ポリアミック酸からポリイミド樹脂への変化率(脱水閉環率)をイミド化率と定義するが、本発明のポリイミド樹脂のイミド化率は100%に限定されるものではない。本発明のポリイミドにおいて、このイミド化率は、必要に応じて1〜100%の任意の値を選択することができる。
【0043】
本発明のポリイミド樹脂を得るために、ポリアミック酸を脱水閉環させる方法は特に限定されない。本発明で用いられるポリアミック酸は、通常のポリアミック酸と同様に、加熱による閉環や公知の脱水閉環触媒を使用して化学的に閉環させる方法を採用することができる。
加熱による方法では、100℃から400℃、好ましくは150℃から300℃の任意の温度を選択できる。
【0044】
化学的に閉環させる方法では、たとえばピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基を、無水酢酸などの存在下で使用することができ、このときの温度は、−20℃から200℃の任意の温度を選択することができる。この反応はポリアミック酸の重合溶液をそのまま、又は希釈して用いることができる。また、後述する方法により、ポリアミック酸の重合溶液からポリアミック酸を回収し、これを適当な有機溶媒に溶解させた状態で行ってもよい。このときの有機溶媒としては、前記したポリアミック酸の重合溶媒が挙げられる。
【0045】
本発明のポリイミド樹脂は、上記の酸成分とジアミン(ジイソシアネート)成分以外の成分(他の成分)が共重合していてもよい。当該他の成分としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、シリコーン化合物等が例示される。ポリイミド樹脂が当該他の成分との共重合体となる場合の、当該他の成分の当該共重合体全体に対する量は、モノマー単位で1〜20mol%が好ましく、3〜10mol%がより好ましい。
【0046】
本発明のポリアミック酸の5g/lのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液の対数粘度は、下記式により算出する。
対数粘度(dl/g)=[ln(V1/V2)]/V3
ここで、(V1)は溶液粘度(mPa・s)、(V2)は溶媒粘度(mPa・s)、(V3)は試料濃度(g/dl)を表す。なお、(V1)は試料0.5gを100mlのNMPに十分に溶解した後、該溶液を25℃にて、ウベローデ粘度管を用いて測定する。(V2)も同様にして測定する。
【0047】
本発明においては、上記対数粘度は0.4〜3.0dl/gである。これは、当該対数粘度が0.4dl/gより低いと樹脂が脆くなり、長期使用中にシームレスベルトの寸法が変化したり、破断する場合があるからである。上記対数粘度は0.45dl/g以上が好ましく、0.5dl/g以上がより好ましい。一方、上記対数粘度の上限は現実的には3.0dl/g以下であり、溶剤溶解性やベルト作製時の作業性の点から、好ましくは2.5dl/g以下、より好ましくは2.0dl/g以下である。
【0048】
上記対数粘度は、前述した製造方法において酸成分とジアミン成分の選択、仕込みモル比の調節や、重合反応の温度、時間を変えること等によって、制御することができる。したがって、原料の選択、仕込みモル比、重合反応の温度、時間を適宜最適化することで、当業者であれば容易に上述の範囲の対数粘度にすることができる。
また、本発明のポリアミック酸の18重量%のNMP溶液の粘度はウベローデ型の粘度管を用いて30℃で測定することができる。該粘度は、好ましくは1Pa・s以上、より好ましくは5Pa・s以上、更に好ましくは50Pa・s以上であって、好ましくは300Pa・s以下、より好ましくは200Pa・s以下、更に好ましくは150Pa・s以下である。
【0049】
本発明のポリイミド樹脂からなる成型体は、ポリイミド前駆体溶液であるポリアミック酸溶液を成型するとともに溶媒を除去し、化学的又は熱的に閉環させて得られる。成型体としては、一次元成型体である糸等、二次元成型体であるフィルム、シート、紙状物等、三次元成型体である円柱体、直方体、立法体、その他複雑な形状体等あらゆる種類の成型体を意味する。ポリアミック酸の成型体を閉環してイミド化するには、化学的にイミド化する場合は、ピリジン及び無水酢酸、ピコリン及び無水酢酸、2,6−ルチジン及び無水酢酸のような公知のイミド化触媒中にポリアミック酸の成型体を室温で、1〜20時間浸漬すればよく、また、熱的にイミド化するには、ポリアミック酸の成型体を150〜300℃で0.5〜5時間加熱すればよい。
【0050】
成型体として糸を製造する場合は、ポリアミック酸溶液を湿式紡糸又は乾式紡糸するとともに溶媒を除去してポリアミック酸の糸を得、延伸した後、これを化学的又は熱的にイミド化すればよい。湿式紡糸の際の凝固浴としては、ポリアミック酸の貧溶媒であれば、いかなる溶媒を用いてもよいが、通常は典型的なポリアミック酸の貧溶媒である水、もしくは、水を70重量%以上含有する混合溶媒が利用される。この水を含有する混合溶媒に用いる溶媒は、水溶性のものなら、どのような溶媒を用いてもよく、水溶性エーテル、水溶性アルコール、水溶性ケトンが好ましく用いられる。
【0051】
また、ポリアミック酸溶液からフィルムを成型するには、スリット状ノズルから押出したり、バーコーターなどにより基材上に塗布するとともに溶媒を除去して生成した被膜を剥離してポリアミック酸のフィルムを得、前記の方法と同様にしてイミド化する。
ポリイミド樹脂被覆物を得るには、ポリアミック酸の溶液を、従来公知のスピンコート法、スプレーコート法、浸漬法などの方法により基材上に塗布し、乾燥して溶媒を除去した後、成型体をイミド化すると同様にしてイミド化する。
【0052】
また、ポリアミック酸溶液からポリイミド樹脂のシームレスベルトを得るには、回転ドラム上にキャスト成型して加熱脱水する方法や、円筒状金型内で遠心流延して加熱脱水する方法がある。
本発明のポリイミド樹脂からなる成型体およびシームレスベルトは、本発明のポリイミド樹脂を含む組成物からなっていてもよい。該組成物には、本発明の内容を損なわない範囲で帯電防止剤、着色剤、分散剤、無機フィラー、レベリング剤、消泡剤、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン等の他の樹脂、シリコーン系離型剤、架橋剤(2官能以上のエポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物等)等をさらに含んでいてもよい。
【0053】
ここで、帯電防止剤とは、イオン電導や電子電導の機構によって、ポリイミド樹脂の電荷を除去あるいは減少させる物質である。
帯電防止剤としては特に制限されず、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、グラファイト等のカーボン類、アニオン系、カチオン系、非イオン性または両性の界面活性剤等を用いてもよい。しかし、導電性が周囲の湿度に対して変化しにくく、かつ、光線透過
率を大きく低減させないという観点から、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が好ましく用いられ、ポリアミドイミド樹脂との相溶性に優れる点から、ポリアニリンがより好ましく用いられる。
【0054】
ポリイミド樹脂に配合する帯電防止剤の量は帯電防止剤の種類によって異なるが、シームレスベルトに成型したときの表面抵抗値が10〜1014(Ω/□)となるように調整される。ポリアニリンの場合の配合量は、組成物全体の3〜40重量%の間で選択される。
ポリイミド樹脂に帯電防止剤を配合する方法としては、デイゾルバー、3本ロールミル、サンドミル、ボールミル、プラネタリウムミキサー、アトライター等、通常の分散機を用いる方法が例示される。
【0055】
これらを含む場合の含有量は特に限定はないが、各々、組成物全体に対して、0.01〜30重量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましい。
本発明で用いられるポリアミック酸の溶液、及びそれから得られるポリイミド樹脂からなる成型体および被覆物は、例えば、耐熱絶縁テープ、耐熱粘着テープ、高密度磁気記録ベース、コンデンサー、FPC用のフィルム等の製造に用いられる。また、例えば、フッ素樹脂やグラフアイト等を充填したしゅう動部材、ガラス繊維や炭素繊維で強化した構造部材、小型コイルのボビン、スリーブ、端末絶縁用チユーブ等の成型材や成型品の製造に用いられる。また、パワートランジスターの絶縁スペーサ、磁気ヘッドスペーサ、パワーリレーのスペーサ、トランスのスペーサ等の積層材の製造に用いられる。また、電線・ケーブル絶縁被覆用、太陽電池、低温貯蔵タンク、宇宙断熱材、集積回路、スロットライナー等のエナメルコーテイング材の製造に用いられる。また、限外ろ過膜、逆浸透膜、ガス分離膜の製造に用いられる。さらに、耐熱性を有する糸、織物、不織布などの製造にも用いられる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
なお、特に記載の無い限り実施例中の「部」、「%」は、それぞれ「重量部」、「重量%」を意味する。
<物性測定方法及び評価方法>
(1)粘度
18重量%に調整したポリアミック酸溶液(溶媒:N−メチル−2−ピロリドン)について、ウベローデ型の粘度管を用いて30℃で測定した。
【0057】
(2)フィルム厚さ
厚みゲージ(TECLOCK社製 SM114)を用いて測定した。
(3)ガラス転移温度
セイコーインスツルメンツ社製 DSC6200を用い、10mgのフィルムをJIS
K7121に従って、加熱速度を10℃/分で昇温した時のサーモグラムからガラス転移温度を求めた。
【0058】
(4)光線透過率
日立製作所社製 分光光度計UV−2400PCを用いて、フィルムを装着しないセルを対照として波長400nm及び550nmにおけるフィルムの光線透過率を測定した。透過率が高い程、フィルムの透明性が良好であることを意味する。
(5) カットオフ波長
日立製作所社製 分光光度計UV−2400PCを用いて、フィルムを装着しないセルを対照として波長200nmから700nmにおけるフィルムの可視・紫外線透過率を測
定した。透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)を透明性の指標とした。カットオフ波長が短波長である程、フィルムの透明性が良好であることを意味する。
【0059】
(6)引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度
乾燥後のフィルムを長手方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)にそれぞれ長さ80mm、幅10mmの短冊状に切り出して試験片とし、引張試験機(オリエンテック社製 テンシロン万能試験機RTC−1210A)を用い、引張速度10mm/分、チャック間距離50mmで測定した。応力−歪曲線の初期の勾配から引張弾性率を、試験片が破断したときの応力及び伸び率から、引張破断強度及び引張破断伸度(%)を、それぞれ求めた。引張破断伸度が高いほど、フィルムの靭性が高いことを意味する。
【0060】
(7)純度の分析
ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(H−BTC) 22mg(0.064mmol)、トルエン1.8ml、メタノール 0.5mlを加え、トリメチルシリルジアゾメタン(0.6mol/L ヘキサン溶液)を0.56ml(0.334mmol)滴下し、室温で30分攪拌し、GCサンプルとして以下の条件でガスクロマトグラフ分析を行い得られたクロマトグラムより求めた。
<<GC条件>>
カラム:NEUTRA BOND−1 df 0.4μm, 0.25mm×30m
温度:150℃→280℃ 3℃/min
検出器:FID
キャリアーガス:He
【0061】
<合成例1>ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物の合成
1,1‘−ビフェニル−3,3‘,4,4’−テトラカルボン酸二無水物150gを水酸化ナトリウム水溶液(水593gと水酸化ナトリウム83.3g)に溶解して得られる1,1‘−ビフェニル−3,3‘,4,4’−テトラカルボン酸四ナトリウム塩の水溶液をルテニウムカーボン(Ru/C)触媒を用いて10MPaG(大気に対する相対圧力)、120℃で核水素化反応を行い、次いで49%硫酸水溶液383gを滴下して析出、濾過してジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸140g(収率81%)を得た。
【0062】
温度計、攪拌機、ジムロート冷却管を備えた300mlの3つ口フラスコに、窒素下にて上記で得られたジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(H−BTC)33.7g(0.98mol)、無水酢酸90gを添加した。これを攪拌下、昇温して還流温度(130℃〜140℃)で3時間反応させた。反応後、10℃まで冷却し、濾過を行い、白色の結晶を得た。得られた結晶をトルエンにて洗浄し、減圧乾燥機にて乾燥を実施して、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物23.5g(収率78%)を得た。
【0063】
得られたジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物中のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物の含有量(純度)を上記(7)の方法により測定したところ、99.9重量%であった。また、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物及び、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸は未検出であり、閉環率は100%であった。
【0064】
なお、得られたジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物は脱水メタノールにて誘導化処理を実施し、ガスクロマトグラフィーにて、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物(下記式にて、「2無水
物」と称する)、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物(下記式にて、「1無水物」と称する)及び、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸(下記式にて、「テトラカルボン酸」と称する)の含有量を測定した。また、閉環率は下記の式にて算出した。
閉環率(%)=(2無水物含有量)/
(2無水物含有量+1無水物含有量+テトラカルボン酸含有量)×100
【0065】
<製造例1>ポリアミック酸溶液A
冷却管と窒素ガス導入口のついた3ツ口フラスコに、前記合成例1で得られたジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物をジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物が1モルとなる量と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル1モルとを固形分濃度が18重量%となるようにN−メチル−2−ピロリドンと共に仕込み、室温で3時間撹拌を続けた。その後、攪拌下50℃に昇温してさらに2時間反応させて、ポリアミック酸溶液Aを得た。この溶液の粘度は51.4
Pa・sであった。
【0066】
<製造例2>ポリアミック酸溶液B
合成例1で得られたジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物の代わりに、これを放置して空気と接触させることにより閉環率98.2%(純度98.2%)としたジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物を使用した以外はポリイミドAと同様の重合条件によりポリアミック酸溶液Bを得た。この溶液の粘度は5.2Pa・sであり、充分な粘度に至らなかった。
【0067】
<製造例3>ポリアミック酸溶液C
ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物の代わりにビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物(三菱化学社製)を使用した以外は製造例1と同様にしてポリアミック酸溶液Cを得た。この溶液の粘度は138Pa・sであった。
【0068】
<実施例1、比較例1,2>
(フィルムの製造、評価)
製造例1及び3で得られたポリアミック酸溶液A及びCをガラス平板上に18重量%の
ポリアミック酸溶液(溶媒:NMP)をアプリケーターを用いて流延し、80℃で1.5時間、次いで230℃で1時間、窒素雰囲気下でキュアリングしてポリイミド樹脂のフィルムを得た。
【0069】
得られたフィルムについて、前述の方法によりフィルムの厚さ、ガラス転移温度、光線透過率、カットオフ波長、及びその他フィルム物性(引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸度)を評価した。結果を表1に示す。
(シームレスベルトの製造、評価)
製造例1〜3で得られたポリアミック酸溶液A〜Cを各々直径150mmの円筒状金型
に流して200回転/分で回転させながら100℃で30分保持し、次いで150℃で1時間乾燥させ、その後、250℃で1時間キュアリングを行う。その後、金型から脱着して厚みが50μmのシームレスベルトA〜Cを得る。
【0070】
これらのポリイミド樹脂からなるシームレスベルトは、いずれもN−メチル−2−ピロリドンに溶解せず、優れた耐溶剤性を有している。
得られたシームレスベルトの外観及び定着装置に適用した際のトナー発色固定性を目視にて評価する。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物は、高温で長時間加熱することなくポリイミド樹脂を得ることができるため、透明性や、引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸度などのフィルム物性に優れるポリイミド樹脂の原料として有用である。
また、本発明のポリイミド樹脂は、透明性や、引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸度などのフィルム物性に優れるので、トナー像を記録媒体上に定着する定着装置の感光体部分に使用されるベルト等に用いる成型体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物を99.0重量%以上含むことを特徴とするジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物。
【請求項2】
ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸及び/又はジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸一無水物を脱水閉環して得られるジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物であって、閉環率が99.0%以上であることを特徴とするジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物とジアミンとを重合して得られるポリアミック酸。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物とジアミンとから得られ、下記(1)、(2)を満足するポリイミド樹脂。
(1)ガラス転移温度が200〜400℃
(2)ポリイミド樹脂を厚さ25μmのフィルムにした際の、波長550nmの光線透過率が80%以上
【請求項5】
ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物含有組成物とジアミンとから得られるポリイミド樹脂であって、下記(1)、(2)の特性を有するポリイミド樹脂。
(1)ガラス転移温度が200〜400℃
(2)ポリイミド樹脂を厚さ25μmのフィルムにした際の、波長550nmの光線透過率が80%以上
【請求項6】
請求項4又は5に記載のポリイミド樹脂からなる成型体。
【請求項7】
請求項4又は5に記載のポリイミド樹脂からなるシームレスベルト。
【請求項8】
ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸四ナトリウム塩を触媒を用いて水素化反応させ、次いで酸性条件下でジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸とした後に、該ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸を閉環するジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物の製造方法であって、閉環率が99.0%以上であることを特徴とするジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物の製造方法。

【公開番号】特開2011−46877(P2011−46877A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198632(P2009−198632)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】