説明

ジブクレーンの制御システム

【課題】現場状況や時間などの変化に応じて臨機応変に稼動範囲の切り替えをおこなうことで作業性と安全性の両方を確保することができるとともに、フックの高さの規制を切り替えることで立体的な制御が可能なジブクレーンの制御システムを提供する。
【解決手段】このタワークレーン5の稼動範囲を規制する制御システム1は、タワークレーン5のブーム位置及びフック高さを算出するための計測手段21a,21b,21cと、その計測手段からの出力を演算するクレーン側制御部23と、ブーム位置の平面視の稼動範囲及びフック高さを規制する複数の規制パターンを記憶する記憶部24,33と、前記規制パターンを切り替える規制切替スイッチ32と、ブーム位置を平面図上に表示するモニタ34と、規制パターンとブーム位置及びフック高さとを比較した結果を報知するモニタ34及びスピーカ35とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の場所に定置される長大なブームを備えたジブクレーンの制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のジブクレーンをブームの稼動範囲が重複するように隣接して定置した場合に、互いのブーム同士が接触しないように稼動範囲を規制するジブクレーンの制御装置が知られている(特許文献1,2など参照)。
【0003】
これらの制御装置は、ブームの稼動範囲を平面図上に投影し、同時期に平面図上でブーム同士が重なることがないように制御している。
【0004】
他方、鉄道や道路に近接する場所にジブクレーンを定置した場合に、吊り荷を非常に高く持ち上げると、鉄道等の走行に支障のない区域内であっても、運転者に与える圧迫感が大きくなり、無意識ののうちに走行車両を減速させる要因にもなる。
【0005】
また、中高層ビルの屋上などにジブクレーンを定置した場合に、日中の人や車の通行の多い時間帯に、吊り荷を地上の道路に降ろしたりすると、道路を通行している人や隣接するビルを利用している人の視界に入り、安全な区域内の作業であっても圧迫感を与えるおそれがある。
【特許文献1】特開平7−300295号公報
【特許文献2】特開昭60−48894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ジブクレーンの平面上の稼動範囲やフックの吊り上げ高さを常に規制してしまうと、作業効率が低下して工期が延びる原因にもなる。
【0007】
特に、鉄道においては、終電から始発までの間は列車が走行することがないが、特許文献1,2などに開示された制御装置では、隣接するジブクレーンとの位置関係だけで制御をおこなっているので、現場状況や時間が変わっても制御を変えることができない。
【0008】
また、中高層ビルの屋上のジブクレーンのフックを、常に道路まで下げることができないように規制すると、資材の搬入などができなくなるので現実的ではなく、例外的な作業とすると、作業効率が低下するおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、現場状況、日付、曜日、時間、気象条件などの変化に応じて臨機応変に稼動範囲の切り替えをおこなうことで作業性と安全性の両方を確保することができるとともに、フック高さの規制を切り替えることで立体的な制御が可能なジブクレーンの制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のジブクレーンの制御システムは、定置されたジブクレーンの稼動範囲を規制するジブクレーンの制御システムであって、前記ジブクレーンのブーム位置及びフック高さを算出するための計測手段と、その計測手段からの出力を演算する演算手段と、前記ブーム位置の平面視の稼動範囲及び前記フック高さを規制する複数の規制パターンを記憶する記憶手段と、前記規制パターンを切り替える切替手段と、前記演算手段による演算結果として少なくとも前記ブーム位置を平面図上に表示する表示手段と、前記切替手段によって設定された前記規制パターンと前記ブーム位置及び前記フック高さとを比較した結果を報知する報知手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記ジブクレーンは間隔をおいて複数配置され、各ジブクレーンに設置された前記計測手段からの出力から各演算手段が前記ブーム位置及び前記フック高さを演算し、それらの演算結果を通信手段によって送信して監視室に設置された前記表示手段に表示させるとともに、前記報知手段による報知をおこなう構成とすることができる。
【0012】
また、前記通信手段の通信状態を前記表示手段に表示することもできる。
【0013】
さらに、前記ジブクレーンのオペレータと前記表示手段の監視者との間の通話をおこなうための通話手段を設けることもできる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明のジブクレーンの制御システムは、記憶手段にブーム位置の平面視の稼動範囲及びフック高さを規制する複数の規制パターンが記憶されており、切替手段によってその規制パターンを切り替えることができる。
【0015】
このため、列車が運行しているか否かなどの現場状況や日中か深夜かなどの時間や気象条件などを基準にして、ジブクレーンの稼動範囲を規制する規制パターンを臨機応変に切り替えて作業性と安全性の両方を確保することができる。
【0016】
また、ブームの平面上の位置だけでなく、フックの高さという鉛直方向の動きも把握することで、立体的な制御が可能になる。この結果、線路や道路の近傍でジブクレーンを稼動させる場合であっても、走行車両の運転者を威圧することのない制御をおこなうことができる。
【0017】
さらに、複数のジブクレーンを使用する場合は、各ジブクレーンと通信手段によって接続された監視室の表示手段と報知手段で全体のジブクレーンの動作を監視することができる。
【0018】
このため、ジブクレーンのオペレータに加えて監視者によってもクレーン動作が見守られることになるので、安全性がさらに向上する。
【0019】
また、この監視室に置かれた表示手段に通信手段の通信状態が表示されるようにすることで、外部ノイズや断線などの影響で通信状態が悪化したときには、直ちに監視者が認識することができ、システムのリセットをおこなうなど早急な対処が可能になる。
【0020】
さらに、ジブクレーンのオペレータと監視者との間の通話をおこなうための通話手段を設けることで、お互いに現状に対する認識を確認し合うことが容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態のジブクレーンの制御システム1を適用して、線路6脇で3台のジブクレーンとしてのタワークレーン5A〜5Cを制御する状態を平面的に示した説明図である。
【0023】
まず、図3を参照しながら、タワークレーン5の概略構成について説明する。
【0024】
このタワークレーン5は、地中に打ち込まれた杭56上に立設されたマスト55に定置されるクライミング式ジブクレーンであって、継ぎ足して所望の高さにしたマスト55上端に旋回架構58が取り付けられる。
【0025】
この旋回架構58は、マスト55を軸心にして回転する架台で、オペレータ室57が設けられるとともに、ブーム51の根元が起伏方向に回動自在に取り付けられる。
【0026】
すなわちこのブーム51は、先端が上下に移動するように旋回架構58に取り付けられており、その先端からは吊り荷を吊るワイヤロープ53が垂れ下がり、そのワイヤロープ53の先端にはフック52が取り付けられている。
【0027】
また、このブーム51の先端には、過巻上防止装置54が取り付けられており、フック52が巻き上げられて上限に達すると、リミットスイッチが作動して巻上げ動作が停止される。
【0028】
さらに、タワークレーン5には、図示しないが、過巻下防止装置、早巻・遅巻検出装置、起伏制限装置、過負荷防止装置、油圧昇降安全装置などの各種安全装置が装備されている。
【0029】
本実施の形態の制御システム1は、このようなタワークレーン5の動作を作業事務所などの監視室71で監視することが可能なシステムであり、その概略ブロック図を図2に示した。
【0030】
この制御システム1は、タワークレーン5A〜5Cにそれぞれ設けられるクレーン側システム2,・・・と、監視室71に設けられる監視システム3と、それらを繋ぐ通信手段としての通信制御部27,36及び通信ケーブル36aとから主に構成される。
【0031】
このクレーン側システム2には、計測手段としての旋回角検出器21a、起伏角検出器21b、巻上検出器21cが備えられている。
【0032】
この旋回角検出器21aは、アブソリュート型ロータリーエンコーダ、インクリメンタルエンコーダ、光ファイバジャイロなどから構成されており、図3に示すように旋回架構58に取り付けられる。
【0033】
また、起伏角検出器21bは、振り子型ポテンションメータ、モーメントリミッターモニタ出力端子などから構成されており、図3に示すようにブーム51の根元に取り付けられる。
【0034】
さらに、巻上検出器21cは、多回転ポテンションメータなどから構成されており、図3に示すようにワイヤロープ53の巻上装置59に取り付けられる。
【0035】
そして、これらの計測手段によって検出された出力は、クレーン側の演算手段としてのクレーン側制御部23に送信される。
【0036】
このクレーン側制御部23には、記憶手段としての記憶部24と、オペレータに対する表示手段及び報知手段としてのモニタ25と、オペレータに対する報知手段としてのスピーカ26とが接続されている。
【0037】
このクレーン側制御部23では、計測手段の各出力に基づいて、ブーム位置としてブーム51の先端位置と、フック高さとしてフック52の位置とを算出する。
【0038】
すなわち、ブーム51の先端位置は、旋回角検出器21aから出力される旋回架構58の回転角度と、起伏角検出器21bから出力されるブーム51の傾き角度と、ブーム51長さとから演算することができる。
【0039】
また、フック52の位置は、巻上検出器21cから出力されるワイヤロープ53の巻取り長さと、起伏角検出器21bの出力と、タワークレーン5の高さと、ブーム51長さとから演算することができる。
【0040】
さらに、この記憶部24には、後述する複数の規制パターンが記憶されており、設定されたその時点での規制パターンとブーム位置及びフック位置とを比較し、緊急停止が必要な場合には停止リレーボックス22に信号が送信されてタワークレーン5の停止すべき動作が自動的に停止する。
【0041】
また、このクレーン側制御部23の演算結果であるブーム位置及びフック高さは、通信モデムなどの通信制御部27から通信ケーブル36aを通って監視システム3側の通信制御部36に送られる。この通信は、他の2台のタワークレーン5B,5Cに設けられたクレーン側システム2,2からもおこなわれる。
【0042】
この監視側システム3は、演算手段としての監視側制御部31と、複数の規制パターンを切り替える切替手段として規制切替スイッチ32と、規制パターンなどを記憶させる記憶手段としての記憶部33と、表示手段及び報知手段としてのモニタ34と、報知手段としてのスピーカ35とから主に構成されている。
【0043】
この記憶部33は、ハードディスク、CD−ROM、DVD−ROM、フラッシュメモリなどの記憶媒体によって構成されており、そこには複数の種類の規制パターンのデータが予め書き込まれている。
【0044】
例えば、線路6脇の作業現場7でタワークレーン5を使用して作業をおこなう場合、線路6に列車が走行する時間帯である「列車運行時A」と、終電後から始発の間の列車が走行することのない「線路閉鎖時B」とでは、タワークレーン5のフック52を侵入させてはいけない規制範囲が異なってくる。
【0045】
すなわち、「列車運行時A」は、線路6上空にブーム51の先端、換言するとフック52が侵入しないようにしなければならないので、図4(a)に示すように、建物などの障害物に加えて線路6上空も規制範囲とする規制パターンがデータとして作成される。
【0046】
また、「線路閉鎖時B」は、線路6上空にフック52を侵入させても支障がないので、作業効率を向上させたり、「列車運行時A」には作業できない場所での作業をおこなったりするために、「列車運行時A」よりも規制範囲を狭くした規制パターンをデータとして作成する。
【0047】
このような規制パターンのデータは、キーボードやマウスなどの入力手段で平面図上の座標値を入力することによって作成する。
【0048】
さらに、フック高さについても、線路6上空から平面視では離れていても、あまりに高くまでフック52を巻き上げて吊り荷が高い位置にあると、遠くから近づいてきた列車の運転者に圧迫感を与えるおそれがあるため、図5に示すように、「列車運行時A」は所定の高さ(フック規制高さ)以上にフック52が巻き上げられることがないように規制する。
【0049】
すなわち、ワイヤロープ53の巻上長さが上限に達するまで、換言すると過巻上防止装置54が作動するまでには余裕がある巻上高さであっても、設定したフック規制高さを超えることがないように鉛直方向の稼動範囲を制御することができる。
【0050】
このように本実施の形態では、「列車運行時A」と「線路閉鎖時B」との2種類の規制パターンを作成して記憶部33及び記憶部24に記憶させる。
【0051】
この規制パターンの切り替えをおこなう規制切替スイッチ32は、図1に示すように、「列車運行時A」と「線路閉鎖時B」を確実に切り替えることが可能なボタン式となっている。ここで、規制切替スイッチ32の1〜3の数字は1号機〜3号機を示し、「A」「B」は「列車運行時A」と「線路閉鎖時B」を示す。
【0052】
このように規制切替スイッチ32の切替ボタンは、各タワークレーン5A〜5Cに対して別々に設けられているので、一度に切り替えをおこなうことも、タイミングをずらして切り替えをおこなうことも自由にできる。
【0053】
また、切替スイッチ32は、監視室71側にだけ設けておくことで、タワークレーン5A〜5C側で誤操作などによって規制パターンが切り替わってしまうことがないようにすることができる。
【0054】
例えば、「列車運行時A」から「線路閉鎖時B」に規制パターンを切り替える場合は、列車の運行が終了したことが確実に確認できたという連絡を監視者が受けた後に、監視者が監視室71の規制切替スイッチ32を操作して切り替えをおこない、規制パターンを切り替えたことを各タワークレーン5A〜5Cのオペレータに通話装置41,42によって連絡する。
【0055】
また、監視室71のモニタ34には、図6に示すように、タワークレーン5A〜5Cを平面視で見た状態を表示する現況表示部34aと、その時点で設定されている規制パターンを表示する規制パターン表示部34bと、通信制御部27,36間の通信状態を表示する通信状態表示部34cと、凡例表示部34dとが主に画面出力されている。
【0056】
この現況表示部34aは、線路6や作業現場7や監視室71としての事務所などの平面図が示されるとともに、稼動中のタワークレーン5A〜5Cのブーム51の位置がそれぞれ表示される表示手段である。
【0057】
また、現況表示部34aは、タワークレーン5A〜5Cのブーム位置及びフック高さの状況を示す報知手段でもある。すなわち、ブーム位置が稼動範囲に入っている場合は、「安全区域」としてクレーン及びそのブームを半径とする円が実線(カラー表示する際には緑色)で表示される。
【0058】
また、ブーム位置と規制範囲の境界との距離、又はフック高さとフック規制高さの境界との距離が所定値以下になった場合は、「警戒区域」としてクレーン及びそのブームを半径とする円が一点鎖線(カラー表示する際には黄色)で表示される。
【0059】
さらに、ブーム位置又はフック高さが平面視の規制範囲又はフック規制高さを超えた場合は、「停止区域」としてクレーン及びそのブームを半径とする円が二点鎖線(カラー表示する際には赤色)で表示される。
【0060】
ここで、「警戒区域」及び「停止区域」となった場合は、モニタ34の画面出力で報知するだけでなく、スピーカ35からも「構造物に接近」、「停止区域です」、「高さ注意」などの音声出力の報知をおこなう。なお、フック高さの報知手段は、スピーカ35の音声出力だけであってもよい。
【0061】
また、通信状態表示部34cの1〜3の数字は、タワークレーン5A〜5Cの番号を表し、その数字の色によって通信状態が判別できるようにする。例えば、通信状態が良いときは数字を緑色で表示させ、外部ノイズや通信ケーブル36aの断線などによって通信状態が悪化したときは数字を赤色で表示させて監視者に注意を促す。また、スピーカ35から「通信状態悪化」という音声を出力させてもよい。
【0062】
このように通信状態が悪化した場合は、リセット装置37によって監視システム3をリセットするとともに、無線などの通信ケーブル36aとは別経路でクレーン側システム2のリセット装置28を作動させてクレーン側システム2もリセットする。このリセットは、タイマーによって定期的におこなわれるようにすることもできる。
【0063】
なお、このような表示手段や報知手段による報知は、クレーン側システム2のモニタ25やスピーカ26においてもおこなう。
【0064】
また、監視システム3のモニタ34を見ている監視者と、タワークレーン5のオペレータとの間で通話がおこなえるように、通話手段として無線通話装置の送受信機などの通話装置41,42を、それぞれのシステム2,3側に設置しておく。
【0065】
この通話装置41,42を利用することによって、規制切替スイッチ32の切り替えやシステムのリセットをする前に、監視者からオペレータに連絡したり、監視者とオペレータとの間でタワークレーン5A〜5Cの稼動状況に関して認識を確認し合ったりすることが容易にできる。
【0066】
また、本実施形態の制御システム1では、上記した規制パターンによる制御だけでなく、隣接するタワークレーン5A〜5C同士の接触を避けるために、平面投影距離、すなわち平面図上で互いのブーム51,51の先端が所定の距離以下に近づいたときには「警戒区域」、さらに近づいたときには「停止区域」として、モニタ25,34及びスピーカ26,35によってオペレータ及び監視者に報知をおこなう。
【0067】
さらに、タワークレーン5に取り付けた風速計によって風速を常時観測し、観測された風速が所定の値を超える場合や吊り荷が安定しない場合は、タワークレーン5による作業を直ちに中止するよう報知をおこなう。また、豪雨、地震、濃霧などによっても、タワークレーン5による作業を中止するように構成することができる。
【0068】
次に、本実施の形態の制御システム1の作用について説明する。
【0069】
このように構成された本実施の形態のタワークレーン5の制御システム1は、記憶部24,33にブーム位置の平面視の稼動範囲及びフック高さを規制する複数の規制パターンが記憶されており、規制切替スイッチ32によってその規制パターンを切り替えることができる。
【0070】
このため、列車が運行しているか否かなどの現場状況や日中か深夜かなどの時間などを基準にして、タワークレーン5の稼動範囲を規制する規制パターンを臨機応変に切り替えて作業性と安全性の両方を確保することができる。
【0071】
また、ブーム51の平面上の位置だけでなく、フック52の高さという鉛直方向の動きも把握することで、立体的な制御が可能になる。この結果、線路6や道路の近傍でタワークレーン5を稼動させる場合であっても、走行車両の運転者を威圧することのない制御をおこなうことができる。
【0072】
さらに、複数のタワークレーン5A〜5Cを使用する場合は、各タワークレーン5A〜5Cと通信制御部27,36や通信ケーブル36aによって接続された監視室のモニタ34とスピーカ35とで、全体のタワークレーン5A〜5Cの動作を監視することができる。
【0073】
このため、タワークレーン5A〜5Cの各オペレータに加えて監視者によってもクレーン動作が見守られることになるので、安全性がさらに向上する。
【0074】
また、この監視室に置かれたモニタ34に通信手段の通信状態が表示されるようにすることで、外部ノイズや断線などの影響で通信状態が悪化したときには、直ちに監視者が認識することができ、システムのリセットをおこなうなど早急に対処することができる。
【0075】
さらに、タワークレーン5のオペレータと監視者との間の通話をおこなうための通話装置41,42を設けることで、お互いに現在の作業状態や現場状況に対する認識を確認し合うことが容易にできる。
【実施例1】
【0076】
以下、前記した実施の形態の実施例1について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0077】
この実施例1では、複数の規制パターンを切り替える切替手段として、時間と曜日によって自動的に切り替えをおこなう切替制御部を使用する。
【0078】
この切替制御部では、記憶部33に記憶された、図7(a)に示すような複数のダイヤとそのダイヤに基づいた規制パターン(Aパターン、Bパターン、Cパターン)を利用する。
【0079】
すなわち、Aパターンは、Aダイヤの上り線の終電時間と下り線の始発時間に基づいて「線路閉鎖時」の規制をおこなう時間帯を決める。また、Bパターンは、Bダイヤの下り線の終電時間と下り線の始発時間に基づいて「線路閉鎖時」の規制をおこなう時間帯を決める。そして、Cパターンでは、下り線が終日運転しているため、「線路閉鎖時」の規制をおこなわない。
【0080】
一方、記憶部33には、図7(b)に示すように、曜日と上記した3つのパターンとを関係付けるテーブルを記憶しておく。
【0081】
そして、切替制御部で、リアルタイムに曜日と時間を検知し、それに一致するデータを記憶部33から読み出して規制パターンを選定する。
【0082】
例えば月曜日の2:00であればAパターンの「線路閉鎖時」規制を選定し、水曜日の1:00であればBパターンの「列車運行時」規制を選定し、日曜日の3:00であれば「列車運行時」規制を選定するというように、曜日と時間によって規制パターンの切り替えをおこなう。
【0083】
このように規制パターンの切り替えを切替制御部で自動的におこなうようにすれば、省力化できるとともに、切り替え忘れなどを無くして確実に切り替えをおこなうことができる。
【0084】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0085】
以下、前記した実施の形態の実施例2について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0086】
この実施例2では、図8に示すように、ビル91の屋上に定置された低床ジブクレーン8について説明する。
【0087】
この低床ジブクレーン8は、ビル91の建築作業などに使用されるジブクレーンである。
【0088】
そして、この実施例2では、図8に示すように、ビル91の前には道路92があり、その道路92を挟んだ反対側にもビル93が建っている。
【0089】
このような状況で低床ジブクレーン8を使用して作業をおこなう場合、図8に示した「日中」の稼動範囲よりも下方にフック81を下げると、道路92を走行する自動車の運転者や、ビル93で働く人の視界に吊り荷が入り、圧迫感を与えるおそれがある。
【0090】
他方、夜間であれば、自動車の通行量が減少し、ビル93で働く人たちも帰宅するので、資材を搬入又は搬出するために低床ジブクレーン8のフック81を道路92の位置まで下げたとしても、それ程、影響はない。
【0091】
そこで、「日中」はビル91の屋上より下にフック81が下がらないように稼動範囲を決めて規制パターンとして設定し、「夜間」の規制パターンでは道路92までフック81を下げることができるように稼動範囲を設定する。
【0092】
すなわち、前記実施の形態では、「列車運行時」にフック高さが所定値以上にならないように規制したが、この実施例2では「日中」にフック高さが所定値以下にならないように規制をおこなう。
【0093】
このように「日中」と「夜間」で規制パターンを切り替えることによって、安全性と作業性の両方を確保することができる。
【0094】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0095】
以下、前記した実施の形態の実施例3について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0096】
この実施例3では、図9に示すように、ビル91と高架道路94との間の道路92に定置されたタワークレーン5について説明する。すなわち、このタワークレーン5は、道路92のフェンス95,95で囲まれた作業帯の中に設置される。
【0097】
そして、この実施例3では、図9に示すように、道路92に並行して高架道路94が延設されており、道路92の一部と、高架道路94は、工事中も車両が通行できるようになっている。
【0098】
このような状況でタワークレーン5を使用して作業をおこなう場合、図9に示した「日中(例えば、6:00〜22:00)」の稼動範囲よりも上方にフック52を上げると、高架道路94を走行する自動車の運転者や、ビル91で働く人の視界に吊り荷が入り、圧迫感を与えるおそれがある。
【0099】
他方、「夜間(例えば、22:00〜6:00)」であれば、高架道路94及び道路92の自動車の通行量が減少し、ビル91で働く人たちも帰宅するので、資材を搬入又は搬出するためにタワークレーン5のフック52を高架道路94の位置まで上げたとしても、それ程、影響はない。
【0100】
そこで、「日中」は高架道路94の手摺より上にフック52が上がらないように稼動範囲を決めて規制パターンとして設定し、「夜間」の規制パターンでは高架道路94の上方までフック52を上げることができるように稼動範囲を設定する。
【0101】
このように「日中」と「夜間」で規制パターンを切り替えることによって、稼動範囲が広くなった「夜間」においては、高架道路94からの資材の搬入又は搬出も可能になり、安全性と作業性の両方を確保することができる。
【0102】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0103】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0104】
例えば、前記実施の形態では複数のタワークレーン5A〜5Cを使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、1台のタワークレーン5の制御に本発明を適用することもできる。この場合は、図2に示したクレーン側制御部23が演算手段となり、モニタ25が表示手段となり、スピーカ26が報知手段になるというようにタワークレーン5内でシステムを完結させることも可能であるし、別途、監視システム3を設けることもできる。
【0105】
また、前記実施の形態では、監視者が規制切替スイッチ32を押すことで手動によって規制パターンの切り替えをおこなったが、これに限定されるものではなく、実施例1のように時間やタイマーによって切り替わるようにしてもよい。また、平日と休日とで切り替わるようにしてもよい。さらに、光センサで検知された明るさや、風速計の値によって規制パターンが切り替わるようにしてもよい。
【0106】
また、前記実施の形態では、線路6脇で工事をおこなう場合について説明したが、これに限定されるものではなく、実施例2又は3のようにビルの屋上や車道脇で工事をおこなう場合にも本発明を適用することで、昼間の交通量の多い時間帯と夜間の交通量の少ない時間帯とで規制パターンを切り替えることができるうえに、自動車の運転者に対しても吊り上げた吊り荷によって不安感を与えない制御をおこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の最良の実施の形態のタワークレーンの制御システムの概略構成を示した説明図である。
【図2】本発明の最良の実施の形態の制御システムの構成を示したブロック図である。
【図3】タワークレーンの構成を説明する側面図である。
【図4】(a)は列車運行時の規制パターンとして入力する規制範囲を示した平面図、(b)は線路閉鎖時の規制パターンとして入力する規制範囲を示した平面図である。
【図5】列車運行時のタワークレーンのフック規制高さを示した側面図である。
【図6】監視室のモニタの表示画面を説明する図であって、(a)は列車運行時の表示画面、(b)は線路閉鎖時の表示画面である。
【図7】実施例1の規制パターンを示す図であって、(a)は複数のダイヤと各パターンの切替時間を示した図、(b)は曜日と規制パターンとの関係を示した図である。
【図8】実施例2の低床ジブクレーンのフックの稼動範囲を示した側面図である。
【図9】実施例3のタワークレーンのフックの稼動範囲を示した側面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 制御システム
2 クレーン側システム
21a 旋回角検出器(計測手段)
21b 起伏角検出器(計測手段)
21c 巻上検出器(計測手段)
23 クレーン側制御部(演算手段)
24 記憶部(記憶手段)
27 通信制御部(通信手段)
28 リセット装置
3 監視システム
31 監視側制御部(演算手段)
32 規制切替スイッチ(切替手段)
33 記憶部(記憶手段)
34 モニタ(表示手段、報知手段)
35 スピーカ(報知手段)
36 通信制御部(通信手段)
36a 通信ケーブル(通信手段)
37 リセット装置
41,42 通話装置(通話手段)
5,5A〜5C タワークレーン(ジブクレーン)
51 ブーム
52 フック
8 低床ジブクレーン(ジブクレーン)
81 フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定置されたジブクレーンの稼動範囲を規制するジブクレーンの制御システムであって、
前記ジブクレーンのブーム位置及びフック高さを算出するための計測手段と、その計測手段からの出力を演算する演算手段と、前記ブーム位置の平面視の稼動範囲及び前記フック高さを規制する複数の規制パターンを記憶する記憶手段と、前記規制パターンを切り替える切替手段と、前記演算手段による演算結果として少なくとも前記ブーム位置を平面図上に表示する表示手段と、前記切替手段によって設定された前記規制パターンと前記ブーム位置及び前記フック高さとを比較した結果を報知する報知手段とを備えたことを特徴とするジブクレーンの制御システム。
【請求項2】
前記ジブクレーンは間隔をおいて複数配置され、各ジブクレーンに設置された前記計測手段からの出力から各演算手段が前記ブーム位置及び前記フック高さを演算し、それらの演算結果を通信手段によって送信して監視室に設置された前記表示手段に表示させるとともに、前記報知手段による報知をおこなうことを特徴とする請求項1に記載のジブクレーンの制御システム。
【請求項3】
前記通信手段の通信状態を前記表示手段に表示することを特徴とする請求項2に記載のジブクレーンの制御システム。
【請求項4】
前記ジブクレーンのオペレータと前記表示手段の監視者との間の通話をおこなうための通話手段が備えられたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジブクレーンの制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−189446(P2008−189446A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26351(P2007−26351)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(507039604)株式会社サンリー (1)
【Fターム(参考)】